亡国の安保政策   :柳澤協二
        (安倍政権と「積極的平和主義」の罠)

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安倍首相は、どんなことをしても、集団的自衛権の行使容認をしたいらしい。なぜ集団的
自衛権の行使が必要なのか。重箱の隅をつつくようにして、無理矢理出してきたような、
集団的自衛権が必要とする具体例を出しているが、どれも個別的自衛権で事足りると思う
ものばかりだ。このことを考えても、「国民の生命と安全を守るため」と言いながら、そ
の目的は、別のところにあるのだろう。
集団的自衛権の行使は、日本が攻撃を受けていないにもかかわらず、他国を攻撃すること
だ。つまり、他国に対して「宣戦布告」をすることだ。これはまさに、日本国憲法第9条
に明らかに違反する。集団的自衛権の行使を認めるということは、今までの国の形を大き
く転換するということだ。それを、一時の内閣である安倍政権が、閣議決定だけで行おう
としている。まさに独裁政治、独裁内閣だ。
安倍首相は、集団的自衛権を行使できるようになることにより、日本は「普通の国」にな
るのだと主張している。しかし、集団的自衛権を行使する国というのは、「普通の国」で
はない。自国が攻撃されていないにもかかわらず、他国のために軍隊を派遣できるのは、
事実上「大国」以外にない。つまり、安倍首相の主張の裏には、日本を戦前の「大日本帝
国」のような国にしようとする考えが透けて見える。そしてそれは、「力には力を」とい
う、かつての軍拡競争が支配する世界に入っていくこと意味する。それにより、軍事衝突
の可能性は増大し、安倍首相が主張するところの「日本国民を守るため」になるどころか、
「日本国民をますます戦争の危険にさらす」ことになる。
安倍政権は、まさに「亡国の政権」と言わなければならない。こんな暴走内閣を止められ
ない、この国の政治が悲しい。

安倍政権は、何をしたいのか
・日本版NSC(国家安全保障会議設置法)の真の狙いは、2013年1月にアルジェリ
 アで発生した邦人殺害事件のような緊急事態対応の強化ではなく、安保戦略において、
 鑑定の排他的主導権を確立することにある。
・日本版NSCをどうしても設置しなければならない客観的目的があるとしたら、それは、
 「平和主義憲法と日米同盟の調和」という政策の構図を変え、日本自身が対米関係を含
 む世界の状況設定を変えることであろう。
・少人数の閣僚による仁ぞくな意思決定は時に必要なことであり、従来から行われてきた。
 だが、少人数で迅速に決めることは、慎重さに欠けることもあり、間違える可能性もは
 らんでいる。政策は主観的であり、情報は客観的である。政策決定者は自分の意に沿う
 情報を求めるが、独立性の高い情報機関はさまざまな可能性を踏まえ、情報の評価に慎
 重になる。そこに、政策と情報の緊張関係が生まれ、政策決定者の主観性を修正する機
 会が与えられる。
・意思決定の迅速性と正確性を両立させることは、史上最大規模の情報機関を持ち、半世
 紀以上にわたりNSCを運用してきたアメリカでも容易ではなかった。それを、日本版
 NSCがいかに解決しようとしているのか。
・「特定秘密保護法」については、さまざまな構造的な門外があることが指摘されていた。
 例えば、秘密の範囲が曖昧で、政府による恣意的な秘密指定の可能性がある。一定期間
 経過後の秘密の開示に例外があり、政府に都合の悪い秘密が永久に公開されない恐れが
 ある、といったものである。それにもかかわらず、政府・与党は強行採決で成立させ、
 内容と立法プロセスの両面で欠陥を抱えた法律となった。
・政府は「日本に秘密保護法制がないために外国から情報がもらえない」ことを繰り返し
 主張してきた。しかし、私自身の経験から振り返ると、北朝鮮の核・ミサイル実験やイ
 ラクにおける武装勢力の活動状況など、国の危機管理に関する情報は入手できていた。
 防衛庁で情報本部副本部長を務めていた頃も、アメリカとの間では、日常的に大量の情
 報交換を行っていた。したがって、「秘密保護法がないから情報がもらえない」との認
 識は、私の実務感覚とは相いれない。外国は、同盟国といえども、自国の利益になるか
 ら情報を渡すのであって、相手の国内法を評価するから情報を渡すわけではない。
・そもそも国民の「知る権利」とは何のためにあるのか。主権者である国民が、政府の政
 策に間違いがないことを検証し、納得するためにある。安全のために国民個人の自由が
 制約される場面があることは認めるとしても、表現の自由やその前提となる知る権利は、
 国民をして主権者であらしめるための権利であり、民主主義にとって譲ることができな
 い前提だ。 
・安倍首相は、憲法解釈の見直しをする今日的意義、その理由をどう説明しているのだろ
 うか。それは端的に言って、「今やいずれの国も一国では防衛できない時代になった」
 ということだ。しかし、日本は戦後一貫して、日米安保体制に依存する防衛政策を採っ
 てきた。冷戦時代も国際テロの時代も、中国が軍事的に台頭する今日も、一国で防衛を
 完結しようと考えたことはなかった。日本が武力攻撃を受けた場合には、アメリカの支
 援を受ける。それは、アメリカの集団的自衛権、日本にとっての個別的自衛官の問題で
 ある。ゆえに、日本の防衛を目的とした日本の集団的自衛権行使という論理は成立しな
 い。
・「安倍首相は何をしたいのか」という質問に戻れば、「やり残したことがある」から、
 首相になった安倍氏が「そうしたいから、する」という以外に、論理的整合性がとれる
 答えはない。
・安倍首相は「自分の祖父・岸信介は、日米安保条約の双務性を高めるために60年安保
 改定
を行った。それは、祖父の時代のぎりぎりの努力の結果」であるとして上で、「我
 々の世代には新たな責任がある。それは、日米安保条約を堂々たる双務性にしていくこ
 とだ」「今の憲法解釈のもとでは、日本の自衛隊はアメリカが攻撃されたときに血を流
 すことはない。そういう事態の可能性は極めて小さいが、それでは完全なイコールパー
 トナーとは言えない」言い換えれば、アメリカと「血を流す」ことにおいて対等な「血
 の同盟」の構築であり、それによって、アメリカにも言いたいことが言える関係になる、
 ということである。
・血を流すということは、自衛隊員の命が失われることを意味している。私は、自ら生命
 の危険に身をさらすことのない立場の人間が、日本人である自衛隊員の命にかかわるこ
 とを軽々に口にすることに怒りを禁じえない。安倍首相が双務性を高めることによって
 「完全なイコールパートナー」になり、アメリカに何を言おうとしているのか。結論か
 ら言えばそれは、歴史認識の見直し、すなわち東京裁判という戦勝国により一方的な断
 罪を受け入れた「自虐史観」の否定であり、ひいては、日本を破滅に導いた第二次大戦
 における敗戦の歴史のリセットであろう。
 
安倍政権の特質
・今日の尖閣をめぐる日中対立の原因は、中国の強硬路線への転換に主因があり、日本外
 交の失敗がこれを顕在化させたと言わなければならない。ゆえに尖閣問題は、単に日本
 が弱腰だから発生したわけでも、日本が強腰なら解決するわけでもない。それは、双方
 のナショナリズムの発露であり、政治にとって国民に訴えやすいテーマであるからこそ、
 単純な煽動が両国の不毛な衝突を招きかねない危機なのである。
・安倍政権は、もともと小泉純一郎政権の「劇場型政治」の流れを引き継いだ政権である。
 ポピュリズムは、メディアやネットという空間を使った「劇場」で、分かりやすい「敵」
 を設定し、敵をやっつける「ヒーロー」を演じて大衆を陶酔させる。求められるのは論
 理ではなく、感情に訴えることである。安倍氏の場合、経済面では無尽蔵のマネー・サ
 プライに抵抗する「日銀」を、デフレ脱却の旗印のもとで標的にし、安全保障面では
 「中国」および日本の軍事的な自由を束縛する「憲法」に狙いを定めたのである。
・戦後日本は、独立を回復するためにあたって平和憲法を受け入れ、安全保障をアメリカ
 に依存しながら、経済復興を優先する方針をとった。そのため、米軍基地と住民の摩擦
 という火種を抱えることになり、また、「アメリカの戦争に巻き込まれる」という批判
 を惹起することになった。 
・冷戦下の歴代の自民党政権では、圧倒的なソ連の脅威の前に、アメリカに依存する以外
 の選択肢はなく、憲法改正・軍事的自立という路線をとることはなかった。岸信介政権
 は日米安保条約を改定し、基地の提供とアメリカによる日本防衛義務を両立させること
 で日米の不平等の解決を図った。佐藤栄作政権は、占領下に置かれていた沖縄を日本に
 復帰させることで、領土的自立を実現したが、それは、核の持ち込みを含む基地の自由
 使用という密約の上に成り立っていた。これは、沖縄における基地問題を放置するとと
 もに、戦略面での自立を放棄するという代償を伴うものであった。
・戦後自民党政権の安全保障政策は、アメリカとの対等性という国内からの要求を、経済
 復興、安保条約の改定、沖縄返還といった形で管理しつつ、戦略・作戦面では憲法の枠
 内でアメリカの要請に可能な限りこたえていく方針で、一貫していたということができ
 る。
・アメリカの世界的対テロ戦争を契機とする同盟のグローバル化は、当然ながら「同盟の
 コスト」を増大させた。日本は、従来の基地負担、経費負担に加え、兵力の負担まで要
 求されることとなり、対テロ戦争の出口戦略が見えない中で、どこまで負担すれば同盟
 の要求に応えられるか、「同盟疲れ」と言われる疲労感が生まれてきた。
・日米同盟を放棄する選択肢があり得ない以上、同盟疲れを癒す方策は二つしか考えられ
 ない。それは、同盟維持のコストを減らすこと、あるいは、増大するコストに見合う報
 酬を受け取ることだ。再び政権を握った安倍氏は、後者の道を選択した。すなわち、ア
 メリカとの軍事的双務性を進んで追求し、アメリカとの対等な関係を築くことによって
 大国としての日本を「取り戻す」という「報酬」を求めるパワーポリテックスへの転換
 である。このパワーポリテックスこそ、タカ派と言われた中曽根首相も含め、歴代自民
 党政権が露骨に追求することを避けてきた手段であった。この手段を採れば、憲法に正
 面から挑戦する必要性が出てくる。その点で安倍政権は、歴代自民党政権と明確に異な
 る指向性を持った、異質な政権である。しかし、日本にはその実力がなく、あったとし
 てもアメリカが同調することはなく、日本の国益にも反するという意味で、安倍政権は
 実現可能性のない国家目標を追求していることになる。
・アメリカからアジアを見るとき、許せないことが二つある。それは、ロシアであれ中国
 であれ日本であれ、この地域に強大な覇権国が出現すること、さらに、自分の意図しな
 い戦争が始まり、これに巻き込まれる形で介入を余儀なくされることだ。いずれも、ア
 メリカの最大の国益である自由な経済秩序を維持するために、アジアのバランスを維持
 する役割を自認する超大国として当然の要求である。
・東京裁判の否定を含む歴史認識の問題は、同盟国である日本と韓国の連携を妨げる要因
 であると同時に、アメリカをして自由世界のリーダーであらしめた先の大戦におけるア
 メリカの勝利と正統性の否定につながる問題でもある。
・安倍首相は、靖国参拝について自ら声明を出し、「恒久平和のために参拝した、中国・
 韓国の人々の気持ちを傷つけるつもりはなく、誤解されている」、また、「国のために
 命をかけた英霊に弔意を表すことは、どの国のリーダーも行なっている当然の行為であ
 る」という趣旨を述べた。安倍首相の答弁は一貫真摯のように見えるが、「相手が誤解
 している」ということは、「自分は正しい」ということだ。なぜ正しいかと言えば、
 「リーダーとして当然の行為」であるからだ。「自分が正しい」という認識に疑問を抱
 かないことは、相手の「誤解」がどこから生じているのかを理解しない傲慢さの表明で
 もある。
・集団的自衛権の行使容認が実現した暁には、安倍首相は、「恒久平和を誓うためにも」
 あらためて靖国に参拝しなければ筋が通らないはずだ。それは、日米の信頼関係が崩壊
 する瞬間となる。
 
憲法解釈と安保政策
・立憲主義とは、人権を担保し、政府の無制限の権力行使に歯止めをかけ、主権者の意思
 に基づく社会秩序を形成するための近代民主主義社会の根本原理である。一言で言えば、
 政府の権限の限界を、憲法によって規定することだ。したがって、政府の解釈によって
 憲法の内容を変えることは、基本的には許されない。
・国民の権利や国の将来像に関わる問題で政府の権限を拡大する場合には、政府自身の解
 釈によることは許されない。そう考えるのが、立憲主義の基本的要請だ。政府がこれま
 で自生的に定めてきた「集団的自衛権の不行使」のように、戦争と平和の選択に関わる
 判断基準を、政府の自由度を高める方向で自ら変更することは許されないのである。
・権利は、濫用されることの方が問題とされる。集団的自衛権も、現実の世界では、大国
 が小国に軍事介入することを正当化するための論理として使われてきた。集団的自衛権
 を行使する国というのは、「普通の国」ではない。それは、自国が攻撃されていないに
 もかかわわらず他国のために軍隊を派遣できるのは、事実上「大国」以外にないからだ。
 大国以外の国が集団的自衛権を行使するのは、その方が大国にとって介入の正当性が補
 強される、介入する大国を中小国が支援する場合だ。
・集団的自衛権を使えるようにするということは、政府がいかなる例をもって説明すると
 しても、客観的には、そのような大国になることを意味している。少なくとも世界の国
 々は、従来の経験からそのように理解する。
・いま考えるべき一番重要なことは、日本が真にやる必要があるのは、他国の軍隊を守る
 ことなのか、住民や文民を守ることなのか、ということだ。多国籍軍として戦闘に加わ
 るのではなく、PKOへの参加が目的であるならば、日本のやるばきことは安倍首相が
 強調するような「他国の軍隊を守る」ことではないと私は考える。
・朝鮮半島有事の際、周辺事態における米軍の行動は、韓国への集団自衛権の発動、また
 は国連軍としての行動となるため、違法な侵略行為とは言えない。だが、違法か合法か
 という評価とは別に、後方地域での後方支援や基地の提供を行なうことが広義の武力行
 使とみなされ得る行為であることは疑いがない。極東有事の際、米軍が戦闘作戦行動の
 ために我が国国内の基地を使用すれば、米軍の武力行使と一体化するので、安保条約そ
 のものが違憲であるという不合理な結果になりかねない。つまり、婦負郡の基地使用に
 よって日本が自動的に集団的自衛権の行使を行なう可能性があるということだ。
・戦後、長年の議論の蓄積を経て、「安保条約に基づく米軍の基地使用はやむを得ないと
 認めるとしても、それ以外に日本が他国の戦闘行為に直接加担することはしない」とい
 うことは、憲法規範内容となり、定着してきたのである。
・集団的自衛権を行使することになった場合、何らかの歯止めが必要になるのは当然のこ
 とだ。ここで重要なのは、何のための歯止めか、ということだ。個別的自衛権であれ集
 団的自衛権であれ、日本が違法な武力行使をしないこと、無用の戦争に巻き込まれない
 こと、および主権者である国民が納得することが不可欠の要請である。
・集団的自衛権は、時刻に対する攻撃がない場合であるから、攻撃を受けた国の外交努力
 や戦闘が始まった経緯、作戦が事態をむやみに拡大させないように配慮されているかな
 ど、自国の場合でも難しい批判を、他国の行為についてしなければならないことになる。
 他国の行為が違法であった場合に、日本の行為も違法性を帯びることになることを考え
 れば、「同盟国がやられたから一緒にやり返せばいい」といった単純な論理では済まさ
 れない難しい問題を含んでいる。
・「密接な関係にある」とは、通常「同盟国」を意味している。これはアメリカのことだ。
 「攻撃を受けた場合」とはどういうことか。アメリカ本土を直接攻撃する「国」がある
 とは思われないので、これは、公海上の米艦護衛の例のように、海外に展開する米軍に
 対する攻撃のことだと思われる。 
・もともと、個別的にせよ集団的にせよ、自衛権行使の地理的範囲に限定はない。「地球
 の裏側」は言うに及ばず、ミサイル防衛の場合には宇宙空間も含まれることになる。げ
 んに、政府が言う「具体例」の中にも、中東を想定したものが含まれている。
・問題は、日本がアメリカから要請を受けた場合断れるかどうかということだ。今日の世
 界で、中小国だけで大国と対峙しても軍事的な勝ち目はない。意味のある抑止力を得る
 ためには大国との同盟を選択せざるを得ない。だが、そうした大国との同盟で悩ましい
 ことは、戦争をするかしないかの決定権は、戦局を決定する力をもった大国にあるのだ
 ということだ。
・日本政府は、戦後一度も、アメリカの武力行使に反対したことはない。「動機は理解で
 きる」「事実関係を知る立場にないため、法的評価はできない」という形で支持・理解
 はするが、反対したことはないのである。日米安保条約には国連憲章尊守義務が明記さ
 れているので、アメリカが違法な戦争をするはずはないと信じている。この発想がある
 限り、結果は明白だ。アメリカの要請に応じた場合、その武力行使が違法であれば、日
 本も違法な武力行使を余儀なくされる。または、要請を断った場合、日米同盟は崩壊す
 る。
・もっとも大事な論点は、「総理大臣が総合的に判断」する際、何を基準とするか、とい
 うことだ。かつて日本政府がイラク戦争を支持した理由は、「大量破壊兵器の脅威は日
 本にとっても共通の脅威である」ことと同時に、実質的には「日本を守るアメリカを支
 持しないわけにはいかない」ことだった。今度は、政治的支持の妖精ではなく派兵の要
 請が来るわけだが、イラク戦争支持の論理で言えば、「日本の安全に影響しない」とは
 言えず、断る理由がない。
・国民が納得する最低限の歯止めは、憲法前文に言う「政府の行為によって再び戦争の惨
 禍が起こることのないようにする」ことだ。そのための歯止めを考えるのであれば、
 「日本に対する武力攻撃が発生し、武力によって排除する他に手段がない」という個別
 的自衛権の要件を満たす以上に確かなものはない。集団的自衛権行使容認は、その歯止
 めをはずすことを意味している。

七つの「具体例」
・アメリカの一見脆弱な情報活動に背景には、周到な脅威分析を踏まえた様々な狙いがあ
 る。それを無視して、相手の戦闘機が飛び上がっただけで自衛隊が反撃して未然に米艦
 を守るような行動に出れば、アメリカにとっては余計なお世話となりかねない。アメリ
 カは、戦時ならともかく、仮に一隻に船に被害が出たとしても、やみくもに助けを求め
 て事態を拡大・深刻化させたり、他人のタイミングで戦争をしたりしようとは思わない
 国である。そのことを知る必要がある。
・あり得ない話ではあるが、仮に北朝鮮がアメリカ本土に向けてミサイルを発射するとす
 れば、ハワイ、グアムに加え、在日、在韓英軍基地をほぼ同時に制圧しなければ勝ち目
 はない。それは、日本有事であり、韓国有事であり、北東アジアの全面戦争となる。こ
 のような場合、アメリカが日本に期待するのは、やはり米本土の防衛よりも在日米軍基
 地の防衛であり、あるいは日米共同開発中の新たな海上発射型迎撃ミサイルが完成した
 場合には、グアムに向かう中距離ミサイルの迎撃だろう。仮に日本への攻撃よりもグア
 ムへの攻撃が先行していたとしても、在日米軍基地が次の標的となっている以上、グア
 ムに向かうミサイルの迎撃は個別的自衛権で可能となる。
・米本土に向かうミサイルは北極圏を飛んで日本から離れていくので、日本周辺から速度
 の劣る迎撃ミサイルで攻撃ミサイルを捉えることは不可能である。
・アメリカは10年以上の歳月をかけてビン・ラディンを殺害したが、今日に至ってもア
 フガンの治安は一向に改善されず、かえって隣国パキスタンの政情不安定を招く結果と
 なった。アフガニスタン・イラク戦争を経て、イスラム過激派によるテロは拡散、土着
 化している。各国はそれぞれ国内のテロ対策を強化するとともに、情報面での国際協力
 を確立している。このような文脈で考えた場合、自衛権行使を議論することには意味は
 なく、国際社会のトレンドからも外れている。
・戦闘の手段としての機雷の除去は、米空母を護衛することが主目的であれば集団的自衛
 権となるが、日本に向かうタンカーの保護が目的ならば、結果的に他国の船舶の安全に
 つながったとしても、日本の個別的自衛権の発動として説明することが可能だろう。
・安倍首相の発言や、安保法制懇で検討されているとされる「具体例」四つについて、そ
 うした事態が生起する蓋然性、さらに、実際に生きた場合のアメリカのニーズ、日本の
 選択肢を検討してきた。結論を言えば、いずれも、現実の生起する可能性は乏しく、ま
 た、日本が集団的自衛権を行使して行動しなければ、必然的に「日米同盟が崩壊する」
 と言えるようなものではないことがわかる。そもそも、集団的自衛権とは、自国が攻撃
 されていない場合に他国を守るための根拠であるから、これを行使しかければ日本を守
 れないという「具体例」を考え出すこと自体に無理があるのだ。 
・南スーダンでも自衛隊の任務はインフラ整備で、施設部隊を中核とした編成になってい
 る。自ら防衛に必要な警備要員しか配置されていないが、内戦に近い状況になって以来、
 自衛隊は国連施設内に避難している現地住民を支援している。仮に地域の治安を担当す
 るのであれば、数百人から数千人規模の普通科(歩兵)を派遣する必要があるが、そう
 した任務は、アフリカ諸国が担当しており、日本には要請されていない。
・国連海洋法条約では、軍艦の場合、他国の領海で徘徊し情報収集するような場合を除い
 て無害通航権が与えられている。潜水艦であれば、浮上し、旗を掲げて通過することは
 無害通航とみなされるが、退去要請にもかかわらず領海内に潜没してとどまる行為は、
 目的の如何を問わず違法な行為だ。だが、海洋法違反であったとしても、武力攻撃がな
 い段階で、直ちに自衛権を行使して反撃できるわけではない。
・問題は、領海に留まる中国の「海監」など、軍艦ではない公船への対応だろう。これら
 も無害通航とは言えないが、相手が軍艦を出さない限りこちらも海上保安庁が対応すべ
 きであって、軍艦である潜水艦の例をむやみに拡大すべきでない。それは、明らかに挑
 発的行為ではあるが、相手の挑発に乗って先に自衛隊を出すことになれば、それこそ相
 手の思うツボにハマる恐れがある。領空侵犯についても、同様のことが言える。武器使
 用が可能になるのは正当防衛の場合であり、特に相手が軍用機ではなく非武装の航空機
 や無人機をだしている限りは、その要件を厳格に守る必要がある。
・仮に、尖閣諸島に「墓相した集団」の上陸があったとしたら、派遣させる糸と能力を持
 つことは中国・台湾以外にない。こうした動きは日常的に監視されており、いずれの関
 与か認定することはさおほど難しくはない。その場合、日本はこれを侵略と認定し、防
 衛出動で自衛隊が排除することができる。

「積極的平和主義」の罠
・安倍首相が言う積極的平和主義は、実は国民受けしやすい具体的事例を羅列するだけで、
 戦略的理念も、戦後史のどこを変えるのかといった歴史的視座もないことがわかる。ま
 た、集団的自衛権の行使容認がどのような含意を持つのかについて、責任ある説明もし
 ていないことが判然とするのである。結局のところ、安倍政権の積極的平和主義のスロ
 ーガンは、憲法軽尺変更への国民の抵抗を減らすためのレトリックにすぎないのである。
・アメリカの戦略が自国の国益を基準に優先順位を明確化する方向に変化している今日、
 「国際強調」と「同盟」が常に同一の方向に向いている保証はない。そのとき日本は、
 どのように両者を一致させるのだろうか。

米中のはざまで、どう生きるか
・戦争に至らずに国家間の対立を解決しようとするためには、三通りの方法が考えられる。
 その第一は「抑止」だ。ただ、抑止は、相手の力の行使を思いとどませることであって、
 国益の対立そのものを解消させるわけではない。また、これは相手が力を使えば、より
 強力な力によってその意図を挫くという脅しの作用であるから、相手より強くなければ
 意味がない。相手は抑止されまいと、より強くなろうとする。こうした抑止は、こちら
 が強化すればするほど相手も強化するという循環を生み出し、当初より安全保障上の脅
 威や緊張を高める「安全保障のジレンマ」という問題を抱えている。
・二つ目の方法は、力を行使しないことの見返りを明らかにし、相手に力を使う動機をな
 くさせることだ。それは、経済的に利益や政治的名誉を与え、あるいは相手が抱える弱
 みを救うといった様々な具体的な手段で構成される「利益による抑止」ともいうべき方
 法である。
・第三の方法は、「妥協」である。相手が力の行使によって達成しようとする目的を叶え
 てやることで、力を行使する必要性を失わせることだ。これは、相手が満足しながら実
 際にはこちらも一定程度の利益を得る必要があり、成り立つためには双方に譲歩できる
 余地があって、それが同質・同量である必要はないが、均衡しているという認識が必要
 となる。
・現在の米中関係は、民主主義や人権などの価値観は共有しないが、経済的利益は決定的
 に共有しているという歴史的にもユニークな関係であり、この状況こそ、冷戦期の米ソ
 関係とは異なる「新たな大国関係」の特色と言える。
・中国は高い経済成長を背景に、国防費の2桁の伸びを続け、今では自国の防衛や台湾へ
 の軍事介入に必要な限度以上の軍事力を備えつつある。そして、アメリカとの直接対決
 を避けながらではあるが、軍事力を背景とした強硬な外交姿勢をとるようになっている。
 尖閣をめぐる強硬姿勢も、その一環だ。
・中国は国内の矛盾をそらすため、軍事力による冒険的な行動に出るおそれはある。だが、
 それは中国にとって破滅の道であり、アメリカが最も望まない道でもある。アメリカの
 最大の国益は、中国の政治・経済両面における「軟着陸」であり、それを踏まえて、当
 面の機器を回避しようとするだろう。
・日本が「民主主義や人権といった価値を共有する国である」というだけの理由で、アメ
 リカとの同盟関係が維持される時代ではなくなっていると私は考える。まして、日米が
 「血の同盟」として世界中で軍事的リスクを共有する時代は終わった。大切なことは、
 日米が大きな戦略目標を共有し、形成途上の新たな大国関係の下で、中国の好ましい変
 化に向けた努力を行なうことだ。日本が、歴史認識や尖閣をめぐって強硬な姿勢を貫け
 ば、アメリカだけでなく、日本自身の国益を損なうことになる。
・今日の北東アジアでは、日本ばかりでなく、韓国、中国も、政権の正当性を守るため、
 国民感情をあおり、戦争を避ける方向とは逆の方向で行動している。危機の本質はそこ
 にある。 
・戦後の日本は、アジア諸国の経済成長に貢献し、国際平和強力でも「銃を使わない」、
 現地の要望に配慮した独自の活動をしてきた。武器輸出を行わない国として、軍縮に先
 導的な役割も果たしてきた。これは、日本が築いてきたブランドであり、中国には真似
 のできない優位性だ。 
・戦争は政治の延長である。より明確に言えば、政治の失敗が、本来防げるはずの「無駄
 な戦争」を引き起こす。その自覚を欠いているとすれば、そのような戦略は、「亡国の
 安保政策」と言わざるを得ない。