安倍政権への遺言  :田原総一朗

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これまでの安倍政権のやり方をひと言でいい表すなばらは、それは「独裁者」に尽きるの
ではないか。国民の声を聞くなどということはおろか、憲法や国の立法機関である国会す
らも、足蹴にするような振る舞いである。先般の国会での発言で、「自分は立法府の長で
ある」とまで言い切っている。首相とは「立法府の長」ではなく、「行政府の長」なのに
である。
これはまさに、安倍首相の心の中では、国会を政府の下部組織と考えているからにほかな
らないからであろう。とどのつまりは「国民は政府のしもべ」ということか。
先の日本で行われた伊勢志摩サミットにおいて突然、「世界経済はあのリーマンショック
に近いリスクに直面している」と発言し、各国首脳を驚かせた。恐らく各国首脳は、「鳩
に豆鉄砲」状態だったのだろう。本来ならば、根回しすべき麻生財務大臣を初め、他の閣
僚たちにも相談せずに、安倍首相の側近の一部の人たちだけで、秘密裡にことが進められ
たようである。これによって、世界経済の危機を理由に、消費税10%への増税を再度先
送りすることにした。あれほど、再度先送りすることは絶対にないと言っていたのにであ
る。安倍首相いわく、「これは約束違反などではなく、新たな判断」とのことだ。これは、
先の戦争で旧日本軍が、「撤退」を「転進」と言い換ええたやり方と同じではないか。
今回再び消費税増税を先送りした背景には、まもなく行われる参議院選挙があると言われ
る。集団的自衛権行使の容認の閣議決定や安保関連法案を強行採決したことによって、国
民の支持率が低下していることを恐れて、国民から受けの良い消費税引き上げ先送りを行
い、参議院選挙で有利に立とうという狙いがあると言われている。そして、その先にある
のが、憲法改正だ。そこには、安倍首相の、どんな手段を使ってでも、憲法改正を成し遂
げたいという、まさに暴走とも言える執念が見えてくる。そして、そんな安倍首相の目に
は、国民のことなどまったく眼中にはないのであろう。国民の安全と安心を守ると言いな
がら、本当にこの国の未来を考えているのか甚だ疑問である。「安倍首相の信念かなって
国滅ぶ」ということになりはしないか。この先のこの国の行く末がとても心配だ。

安倍政権への遺言
・1941年に太平洋戦争が始まる直前、アメリカと戦争して勝てると考えた日本人はほ
 特に、政府の幹部、軍の幹部でそう考えた者は皆無に近かったはずだ。本当に国益を考
 えるならば、あの時に「戦争反対」と主張すべきだった。
 しかし、それを言えば、当然、監獄にブチ込まれた。
・国民の誰もがアメリカと戦争して勝てるとは思わなかった。にもかかわらず、ある時期
 を過ぎると、誰もそれを言うことができなくなってしまう。天皇や総理大臣を含めてで
 ある。戦争を体験した世代はそのことがよくわかっていた。そこで私たち日本人は、戦
 後ある時期までは、戦争に対する強い拒否反応があった。保守とリベラルを問わずだ。
 だから戦後70年間、日本国憲法が一度も改正されなかったのである。
佐藤栄作政権のとき、ベトナム戦争を戦っていたアメリカは、自衛隊をベトナムに送っ
 て一緒に戦おうと求めてきた。佐藤首相は「心から協力したいと強く思う。しかし、あ
 なたの国が変な憲法を押し付けたから、行くに行けないではないか」と、むしろアメリ
 カに文句を言った。小泉純一郎首相のとき、ブッシュ大統領イラク戦争を始めた。小
 泉首相は理解ではなく賛成と強い意志を表した。ところが小泉首相は、「共に戦いたい
 のは山々だが、あなたの国が押し付けた憲法によって残念ながら戦えない」と断り、自
 衛隊は戦わず、イラクに水汲み(吸水などの人道復興支援活動)だけをしにいった。つ
 まり、アメリカから押し付けられた憲法を、うまく利用したのである。アメリカを中心
 にする西側・自由主義諸国と、ソ連を中心にする東側・共産主義諸国が激しく対立して
 いた冷戦時代から、日本はアメリカの押し付けた憲法を実に上手に使って、戦争に巻き
 込まれることを回避してきた歴史があるわけだ。
GHQが憲法作成を急ぎ、強引極まるやり方をしたのは、一つには天皇を極東軍事裁判
 の対象からはずすためだった。GHQ憲法の目的は二つで、一つは日本を再び戦争がで
 きない弱体国にすること、そして二つ目が理想的な民主国家にすることであった。主権
 在民、国民の基本的人権、そして、言論・表現の自由、結社の自由、宗教の自由、男女
 同権。憲法は国民の国家権力から守るためのものであるという明快な発想に基づいた民
 主的な憲法は、当時の日本人自身の手では、とても作れなかったはずである。
・私は決して、頑なな護憲主義者ではない。日本国憲法第9条第2項にある「陸海空軍そ
 の他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」という規定につい
 ては、憲法を改正してきちんと自衛隊の存在を認めるべきだと考える。ただし、9条第
 1項の「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動た
 る戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永
 久にこれを放棄する」という部分は絶対に守るべきだと考えている。
・安倍首相が憲法改正に執念を燃やすのは、あるいは自身の祖父であり、自主憲法制定を
 掲げながら実現できなかったまま辞職に追い込まれた岸信介元首相の遺志を実現したい
 のかもしれない。もっと言えば、安倍首相の目的は、憲法制定から70年間で初めて憲
 法改正を成し遂げた政治家として歴史に名を残すことではないか。安倍首相は、とにか
 く憲法を変えたという事実が欲しいのである。もちろん、一度変えた実績をつくってし
 まえば、その後も変えやすくなるという思惑もあるだろう。
・安倍首相に現実主義者の側面もあるのは確かだ。しかし、実は、安倍首相はアメリカか
 ら歴史修正主義者ではないかと疑われている。集団的自衛権の行使容認などで「日米同
 盟の強化」を目指す安倍政権にとっては、皮肉な現実である。歴史修正主義者とは、第
 2次世界大戦後に開かれた極東軍事裁判、いわゆる東京裁判を否定するということだ。
 現に、安倍首相の周囲にいる「安倍応援団」の中には、このような歴史修正主義的な考
 え方を持った人々が少なからずいる。彼らは、靖国神は当然ながらA級戦犯を合祀すべ
 きであり、国会議員も政府首脳も靖国神社を参拝すべきだという考え方の持ち主だ。
・安倍首相が「右傾化」して見えるのは、政策を進める手法に原因があると私は考える。
 安倍政権は特定秘密保護法の制定や集団的自衛権の行使容認などの慎重に国民の理解を
 得るべき問題を、時間をかけて討論をしないまま、粗雑と思えるほど早急に実施してい
 るのである。  
・現在、自民党には反主流派がいなくなり、主流派しかいなくなってしまった。その原因
 は、選挙制度改革によって中選挙区制が廃止され、小選挙区が導入されたことだろう。
 一つの選挙区から一人しか立候補できないので、反主流派や非主流派が存在できなくな
 ってしまったのだ。そして反主流派の消滅とともに、政策決定の過程で、自民党の中で
 十分な討論が行われなくなってしまった。自民党が多様性のある開かれた政党でなくな
 ってしまったのだ。
・私が今の状況を危惧するのは、憲法改正や集団的自衛権などの国の行方を左右する根本
 的な問題に、国民の関心があまりないということだ。国民の関心のほとんどは、経済に
 向いている。  

右傾化が止まらない
極東軍事裁判では、太平洋戦争は日本の侵略戦争だと断定したのだが、これは戦勝国に
 よる決めつけである。本来ならば、日本は独立後、日本人によって戦争の総括をしなけ
 ればならなかったが、なぜか、われら日本人は現在に至るも総括をしていないのである。
 私は、満州事変日中戦争は日本の侵略戦争だが、太平洋戦争は、侵略国と侵略国の戦
 争であったと捉えている。世界最大の侵略国はイギリスであり、アメリカ、オランダ、
 ロシアなどいずれも侵略国である。もちろん、朝鮮半島や台湾、南樺太などを日本の領
 土としていた日本も侵略国である。つまり侵略国と侵略国のいずれが世界を支配するか
 という戦争だったのである。
・現行憲法を作成した民政局のメンバーたちは、本当に理想的な民主主義国を作ろうとい
 う意欲に燃えていたことは事実のようだ。もし、日本人の多くが現在の憲法を「けしか
 らん押し付け憲法」だと捉えていたら、独立後、とっくに改憲していたはずである。そ
 れを70年も改憲しなかったのは、決して96条のせいではない。少なくとも数年前ま
 では、日本人の多くが改憲を望まなかったのである。
マッカーサー連合国最高司令長官は、結局、昭和天皇を極東軍事裁判にかけず、天皇制
 の維持を決断した。終戦直前、アメリカで行われた世論調査では、天皇を「死刑にする」
 が33%、「裁判で決定」が17%、「終身刑」が11%などと、ともかく裁判にかけ
 るべしが70%を占めていたにもかかわらずである。 
・マッカーサーの部下であるフェラーズ准将は、「もし天皇が戦争犯罪のかどにより裁判
 に付されるならば、統治機構は崩壊し、全国的反乱が避けられない」と強調した。つま
 り占領政策をスムーズに行なうには、天皇制を維持すべきだと語っていたのである。天
 皇に戦争責任がないことにする方法は、日本側がそれを立証すること、つまり東条英機
 が裁判で全責任を引き受けてくれることだと言った。そして、占領軍はそのとおりにし
 た。つまり、それはあくまでも、日本における占領政策をやりやすくするための方策だ
 ったのである。ところが日本政府は、これで戦争の処理が終わったつもりになってしま
 った。本来ならば日本が独立後、日本政府として、日本人の手で戦争の総括を行なうべ
 きであった。
・私は、もちろん民主主義は大事だと考えているが、あくまで国家あっての民主主義と捉
 えている。国家のない人間というのは存在し得ない、と私は考えている。だからこそ、
 例えば日本という国家について、ここが問題だ、この点では国民を抑圧している、この
 点は干渉しすぎだと、容赦なく異議申し立てをする。それは国家あっての国民だと捉え
 ているからだ。もっとも、この表現は間違いで、国民あっての国家と言うべきだろう。
・大変危ない代物である特定秘密保護法案が成立した。この法案が成立すると、メディア
 の人間たちは取材しにくくなりかもしれないが、それはあくまでメディアの問題であり、
 一般国民には関係がないと少なからぬ人々が捉えていたのではないか。正直に言うと、
 これは私も含めたジャーナリズムの責任で、私自身、この法案の本当の怖さに気がつく
 のが遅れたのである。 特定秘密保護法の対象は防衛、外交、スパイ活動、テロ防止な
 どの4分野で、防衛は防衛省、外交は主として外務省が担当するのだが、スパイ活動と
 テロ防止を担当するのは警察なのである。もっと言えば、防衛、外交にスパイ活動とテ
 ロ防止が加わっていることがこの法案の最大の問題点であり、新聞、テレビ、雑誌の報
 道でも、このことの指摘が欠落していたのだ。警察といっても、この場合は公安警察だ。
 スパイ活動やテロ防止のための任務とは、つまり国民を監視するということなのである。
・要するに、公安警察が狙っているのは治安維持、いや治安強化であり、その対象はほか
 ならぬ、日本国民全般なのである。現在でも、多くの市民運動に警察は少なからぬ関心、
 というより警戒心を持ち、治安維持の観点からできる限り詳細にとらえようとしている
 はずである。主たるメンバーのリストは当然作られ、その行動が記録されているに違い
 ない。そこにスパイ活動、テロ防止という大義名分が加われば、その範囲がさらに大き
 く広げられることになる。繰り返し記す。特定秘密保護法の最大の狙いは治安強化で
 あり、対象はわれわれ国民全般なのである。 
・この特定秘密保護法の最大の問題は、具体的に特定秘密を監視し、チェックする機関が
 ないことだ。アメリカでは、国立文書館の情報保全監察局に強大な監査権限が与えらて
 いる。行政機関内部者による異議申し立てや省庁間上訴委員会の仕組みも整っているし、
 言論、報道の自由の精神が根付いている。二重にも三重にも独立した監視機関がつくら
 れているのである。
・どうも日本は、独立した第三者機関というものをつくるのが下手というか、そういう発
 想に欠けているのではないか。例えば原発の世界で、原発を規制する組織として「原子
 力安全・保安院」があった。原発が安全に運転されているかどうかを監視する機関だ。
 ところが「安全・保安院」は、なんと経済産業省の内部にあったのである。経産省は、
 原発を推進する省庁だ。その内部に、「安全・保安院」があった。つまり原発のアクセ
 ル役とブレーキ役が同居していたわけだ。
・安倍首相が憲法改正を考えていることは確かである。現憲法は占領下で、マッカーサー
 元帥主導で作られ、しかも非武装を前提としていて、自衛隊の存在もあいまいである。
・安倍首相に近い人々は、安倍首相の靖国参拝を強く望んでいる。ということは、東条英
 機元首相などをA級戦犯とした東京裁判そのものを認めないということになるのか。も
 ちろん、東京裁判が大いに問題ありということは、多くの日本人がわかっている。だが、
 サンフランシスコ講和条約で、日本は、東京裁判の判決を認めることを前提で独立した。
 もっと言えば、日本が東京裁判の判決を認めることで、独立できたのであった。
・私を含め年寄りの少なからぬリベラリストたちは若い世代の右傾化を嘆いているが、右
 傾化とは、いわば変革である。右傾化を嘆くリベラリストたちは、言葉はおびただしく
 並べても変革の手がかりを示せず、所詮は現状維持に終始している。中には現在の競争
 社会に背を向けて、貨幣経済自体を否定するという変革を主張する人々もいるが、私に
 はそれに与するほどの冒険心はない。右傾化とはまぎれもなく変革なのである。そして
 右傾化に対応するには右傾化でない変革の具体案を提示する必要がある。
・高度成長の時代ならば、国民の多くは「批判」に耳を傾ける余裕があったが、失われた
 20年を経て、国民の多くは批判に関心を持つ余裕がなくなり、具体的な対案を強く求
 めるようになっているのである。私のような年寄りは、右傾化を断固阻止する。たとえ、
 自民党の憲法改正草案にあるように「公益及び公の秩序に反し」て新しい憲法の下で罰
 せられようと、言論・表現の自由を行使する。ジャーナリズムは「中立・公平」などで
 はなく、インディペンデントであらねばならないのだ。
・現在のこの国の保守派には、現憲法は占領下に米軍によって押し付けられたもので無効
 だとする人物が多いが、天皇も皇太子も、そうした保守派とは明らかに対照的な認識に
 立っている。日本は民主主義の国で言論の自由が保障されているので、天皇や皇太子が
 「間違っている」と言っても問題はないが、そうした人間たちは保守とは言えないので
 はないか。
・日本は言論、表現の自由が保障されているので、誰をどう批判するも自由だが、「現憲
 法は占領軍から押し付けられたもので無効だ」というのは、乱暴というより無知だ。当
 時、日本人の手だけでは「主権在民」という現憲法の制定は不可能だったのだから。皮
 肉な言い方をすれば、当時、世界の理想となる平和で民主的な国とつくろうという「知
 日派の米国人の協力」があったからこそ、このような素晴らしい憲法ができたのである。
・自民党の歴代首相は集団的自衛権の行使を認めてこなかった。日本は自国の平和と安全
 を日米安保条約にゆだねており、なぜここにきて集団的自衛権行使に吹き切らざるを得
 ないのか理解できないのである。     
・政府が、集団的自衛権が必要なケースとして具体的な事例をあげればあげるほど、矛盾
 に満ちてしまう。そして、ほとんどのケースは周辺事態法で対応できるはずなのだ。
 官邸や自民党の要人たちを取材しても、集団的自衛権行使になぜ今、これほど熱をあげ
 なくてはならないのか理解できない。行使が必要な緊急事態だとは思えないのである。
・現在の日米安保条約は、日本が危機に襲われたときには、米国の集団的自衛権を行使す
 ることになっている。ただし、米国が危機に襲われても、日本の自衛隊は動かない。片
 務条約である。いつまでも片務条約のままでは独立国として誇りが持てないから、双務
 条約にすべきだ、あるいは、世界の警察をやめたと公言している米国に参戦の念押しを
 するため、というのが安倍首相の本意ではないだろうか。
・はっきり言って、安倍首相はタカ派の政治家である。だが、タカ派といえば中曽根康弘
 元首相、小泉純一郎元首相もタカ派であった。だが、当時は自民党内にはっきりと「否」
 を言いたて、論争を巻き起こすハト派の勢力があった。その意味で自民党はバランスが
 取れていた。ところが、現在の自民党には党内論争というものが見当たらない。公明党
 に頼らなければバランスが取れないというのが何とも危なっかしい。    
・終戦後、学校が始まると理不尽極まりない出来事が起こった。私たちは5年生の1学期
 までに、この戦争はアジアの国々を独立させるための聖戦で、侵略国の米英を打ち破る
 ために君らも早く大きくなって出征し、天皇陛下のために名誉の戦死をせよ、と繰り返
 し教えられてきた。ところが、2学期になると、同じ教師、校長が、実はあの戦争はや
 ってはならない戦争だったと決めつけるように言い、1学期までは英雄だった東条英機
 など軍の幹部たちが犯罪者呼ばわりをされた。天皇は「どこかにいってしまった」とい
 う。教師や校長たちが、やむなくそう言わざるを得ないのだとは、小学校5年生の私に
 もわかった。「この戦争が聖戦だ」と言っていたのも、そう言わざるを得なかったので
 はないか。教師たちだけではなくほとんどの新聞記事も、同じ価値転換をあっさりやっ
 てのけた。偉そうな顔をしている大人たちがもっともらしく言うことは基本的に信用で
 きないという思いになった。おそらく私の後輩の戦争を知らない世代は、これほどの理
 不尽な価値転換に遭遇したことはないだろう。 
・なぜか大急ぎで成立させた特定秘密保護法には、実は危ない部分が多く、国民の知る権
 利を恣意的に侵される危険性が強い。私たちの取材の自由も狭まり、うっかりすると厳
 罰を食う危険性が高いのだ。秘密法は行政機関のトップの判断で、防衛や外交、テロ防
 止、スパイ活動防止について国が所有している情報を特定秘密に指定できる。というこ
 とは、行政にとって不都合な情報を官僚たちが恣意的に「特定秘密」として国民に知ら
 せなくできるわけだ。国民に知られると都合が悪い情報は意のままに隠すことができる。
 それをさせないためには、運用を厳しくチェックする仕組みが必要だ。
・政府は、恣意的な秘密指定ができないようにするため、運用を監視する仕組みを設置し
 たと発表した。それが内閣府に新設される独立公文書管理監と、そのスタッフにあたる
 情報保全観察室なのだという。しかし、名称こそ独立公文書管理監とはいえ、内閣府の
 中に設けられていて、しかも管理監は局長より下の審議官クラスであり、それで省庁の
 お目付け役が担えるのか、はなはだ疑問である。また、観察室の職員は省庁から出向す
 るわけだが、その後の人事で出身省庁に戻らないという、いわゆる「ノーリターンルー
 ル」がなく、いよいよ独立性は怪しくなる。さらに、省庁が秘密指定を解除した文書の
 うち、指定から30年以下の文書は、首相の同意で廃棄が可能であり、後に検証が必要
 となっても不可能になりかねない。民主主義の国では、国の情報は国民に公開するとい
 うのが原則だが、特定秘密保護法は、現在の状態ではそれが侵される危険性がある。
・道徳の授業が「教科外の活動」から「特定の教科」に格上げされる見通しとなった。戦
 前、戦中は修身という授業があり、私も小学校で授業を受けた。教科書を開くときには
 両手に持って、押い頂いたものだ。そして教師は、まず天皇陛下に忠義を尽くすこと、
 そして国家のために一身をささげて戦うこと、親に孝行することなどを教えた。ところ
 が戦争に負けると、修身の教科書は焼かれることになり、私が小中学校の間は、道徳ら
 しいものは学校では教えられなかった。それが、安倍首相の肝いりでつくられた政府の
 「教育再生実行会議」が2013年に教科化を提言すると、18年度にも小中学校で
 「特別の教科」として授業が行われることになったのだ。
・道徳という言葉には、私は強い抵抗感がある。教師に対する頭の下げ方が足りないとか、
 返事の声が小さいということで、竹のむちで頭を打たれたり、教室の後ろに立たされた
 りしたものである。とにかく修身というのは押し付けで、反論はおろか、疑問をはさむ
 のも許されなかった。教師の言うことは絶対で、いや応なかった。そういう記憶がある
 ので、道徳という言葉がすっきりと受け入れられないのである。
・社会的なモラルやルール、マナーを守るおとは大事であり、校内暴力やいじめなどには
 厳しく対応すべきである。ただし、一方的な押しつけによって抑え込むのではなく、ど
 うあるべきか話し合い、多様な意見をぶつけ合うことで、あるべきかたちを見つけ出す。
 これが戦前、戦中とは違った民主主義時代のやり方だと私は考えている。公共と個人の
 関係について言えば、特定の枠には縛られず、誰もがあるべき姿を懸命にに考える。私
 は道徳とは、あるべきかたちそのものよりも、あるべきかたちを議論して考える、その
 プロセスこそが重要なのではないかと思う。 
・天皇はこれまで沖縄やサイパンなど、日本人の犠牲者が多く出た「戦場」に足を運び、
 慰霊を重ねられてきた。日本がふたたび戦争を起こすようなことがあっては絶対になら
 ない、と固く決意し、平和を願っておられるだろう。そして、天皇は機会のあるごとに、
 現在の憲法を守ること、つまり護憲の意思を強く示すような発言をされてきた。それは
 父親である昭和天皇も同様であった。ところが、現在の政権政党である自民党は、はっ
 きりと憲法改正、つまり改憲の姿勢を打ち出している。安倍首相も慎重な言い回しでは
 あるが、憲法改正の方針を示している。   
・自民党を支持する保守層は、日本という国は、天皇を頂点とした伝統的秩序を堅持して
 いくべきだと強く考えているはずである。そして、その保守層は、当然ながら憲法を改
 正すべきだと考えているはずである。ところが、天皇は護憲の意思を示されている。さ
 らに、自民党の少なからぬ国会議員が、九段の靖国神社に参拝しているのだが、いわゆ
 るA級戦犯が合祀されて以後は、昭和天皇は靖国参拝は取りやめ、現在の天皇も靖国神
 社に参拝されていない。  
・現憲法がつくられたのは敗戦の翌年、1946年2月であり、日本は占領下にあった。
 連合国総司令部(GHQ)が10日足らずで書き上げた憲法案に日本政府が少々書き足
 しただけで、その意味ではGHQから押しつけられた憲法である。自由民主党づくりの
 中核となった鳩山一郎三木武吉岸信介らは、これではとても独立国とは言えないと
 考え、憲法を改正してイギリスやフランスのような、いわば普通の国になることを目指
 した。ところがそれから60年間、憲法は改正されないままできた。この間、ほとんど
 自民党が政権の座を占めていて、しかも自民党の中には主権のない占領下のGHQによ
 って押し付けられた憲法を「無効」とする考え方の人物が少なかったにもかかわらずで
 ある。自民党の歴代の幹部たちの問うと、衆参両院とも、一度として3分の2議席を占
 めたことがないからだと説明する。
・改憲が現実味を帯びてきたのは、国際情勢が変わったためなどではない。戦争を体験し
 た議員が自民党にほとんどいなくなったからなのだ。現に野中事務氏、青木幹雄氏、古
 賀誠氏など戦争を知るOB議員たちはいずれも改憲に強く反対している。安倍首相は、
 祖父の岸信介が改憲できず辞任せざるを得なかった悔しさがトラウマになっているのか
 もしれない。
・国民のほとんどは、なぜ今、日本が集団的自衛権の行使を容認しなければならないのか
 理解できていない。もちろん集団的自衛権の行使とはどういうものなのかもわかってい
 ない。政府は、中国が異常なまでに軍備を増強し、東シナ海で強引に領域拡大を推し進
 めていること、そして北朝鮮が核開発を進めていてアジアの現状が緊張度を高めている
 ことが集団的自衛権の行使容認の要因としているが、防衛力の強化を飛び越えて、なぜ
 一挙に集団的自衛権の行使となるのか。さっぱり理解できない。
  
アベノミクスの行方
・皮肉だが、民主党政権で原発事故が起きたことはよかったと思っている。これがもし自
 民党政権で起きていれば、自民党は全力で事故の内容を隠蔽しただろう。民主党は隠し
 方を知らなかったから、原発事故はほぼすべて露呈した。民主党政権でなければ、いま
 も事故の詳細は闇の中だったかもしれない。
・私は、新自由主義を批判する学者や文化人たちは、本音は自由競争を原則にする自由主
 義経済=資本主義が嫌いなのではないかと捉えている。かつて、超党派の国会議員たち
 のシンポジウムで、私が「自由民主主義社会は、機会の平等、競争の自由が原則だ」と
 述べたら、個々の能力の格差を考慮して、結果が平等になる社会を構築すべきだと多く
 の議員から反論された。そこで改めて、この国の政治家たちの多くが「自由競争は嫌い
 なのだ」と強く感じた。私は資本主義社会では、均等な機会の下での自由競争は当然で
 あり、こうした考えを基軸にしているのが、いわゆる保守党であって、日本では自由民
 主党だと捉えている。もっとも、自民党とは対照的に、福祉、環境、弱者の立場などを
 重視する政党も必要である。自民党が小さな政府を目指すのに対して、対立党は国民の
 面倒見のよい大きな政府を目指すことになる。ところが、なぜか日本には、政権を獲得
 できる社会党が登場していない。民主党、日本維新の会、みんなの党、公明党など、い
 ずれも自党を保守党と位置づけてしている。民主党の場合など、自らを保守党と位置づ
 けているために自民党との差異が鮮明にならないのである。それどことか、民主党をは
 じめ、いずれの党も自民党との差異が生じるのを怖がっているようにさえ思える。
・私は国民はアベノミクス批判に飽きていると思う。国民が各野党に求めているのは、ア
 ベノミクスに変わる対案であり、わが党はこういう政策で日本の経済を成長させる、と
 いう具体案なのである。野党各党の最大の問題点は、民主党をはじめ、どの野党もアベ
 ノミクスを批判しながら、対案らしいものを全く示せなかったことにある。アベノミク
 スは公共事業による財政赤字の増大、円安による輸入品の値上がりなど、少なからぬ問
 題点がある。農業分野、医療分野など、成長政策の背骨というべき部分も先送りになっ
 てしまった。ところが野党の批判は見当はずれで、こうした問題点をつこうとしなかっ
 た。
・どの野党も口をそろえて「原発に反対」と言うものの、実はいずれも原発から逃げ腰だ
 った。たとえ原発をゼロにするにしても、30〜40年は原発を維持せざるを得ないわ
 けで、この点では自民党も含めてだが、いずれの党も具体案がなく、その無責任さに私
 は怒りさえ覚えた。
・アメリカは特にオバマ政権になってから、国際戦略を変えた。イラク戦争の失敗やリー
 マン・ショックなどによる経済悪化によって、従来の「世界の警察」としての役割を、
 変更せざるを得なくなったのだ。日本政府はアメリカがアジアに軍医的ウェートを転換
 しているととらえているようだが、それは間違いだ。アメリカはアジアと、ことを構え
 たくないのである。だから日本が中韓と対立するのを嫌い、「いい加減うまくやってく
 れ」と求めているのだ。日本政府は中国の孤立化を図る外交方針のようだが、こうして
 見ると、孤立しているのは明らかに日本である。
・私は、今の日本に足りないのはかつての「社会党」的な、あるいはイギリスの「労働党」
 やフランスの「社会党」、ドイツの「社会党」のような、平等を重んじ、福祉や弱者へ
 の配慮を重んじる政党だと思う。不完全ながらも「新自由主義」的な政策を掲げる安倍
 政権との対立軸をはっきりさせるためには、この方向でまとまるしかないはずだ。共産
 党が躍進を続けていることも、そうした有権者の声の一つの表れだろう。 
・そもそも、日本の経済学者やエコノミストたちの多くは、経済成長の時代は終わって、
 もはや成長はしない、というのが常識のようになってきた。経済学者の水野和夫氏など
 は「資本主義は終わりだ」とまで言っている。阿部首相のアベノミクスは、いわばそう
 した常識に対する朝鮮だったのである。
・消費税を5%から8%に増税しても、一時の冷え込みが夏以降は回復すると思われてい
 たが、そうはならなかった。追加緩和に踏み切らざるを得なくなったのは、要するに
 「異次元緩和」が成功していないということではないか。同じことを繰り返して、はた
 して展望は開けるのか。しかも、円安が行き過ぎると、輸入する商品や部品の価格を押
 し上げるという副作用もある。さらに、問題は日本が世界でも飛びぬけた借金大国であ
 ることだ。国家の借金が1千兆円を超え、GDPの230%にも達している。アメリカ
 は106%、EUで有数の借金大国であるイタリアでも147%である。
・民主党を中心とする野党が主張するのは成長論ではなく、「株価が上がっても庶民には
 恩恵が回ってこない」「非正規雇用を減らして正社員を増やすべきだ」というような分
 配論ばかりだ。だが、成長がなくては、富の分配もない。野党の主張には、成長のエネ
 ルギーが感じられないという問題点がある。最近、テレビの党首討論などを見ていると、
 安倍首相の人相が悪くなったという印象を受ける。これは、安倍首相が成長したという
 証拠だと思う。これまでは、どこか「おぼっちゃん」という雰囲気だったのだが、首相
 を続けたことで政治家として鍛えられたのではないか。
・安倍首相の目的は、「戦後レジームからの脱却」を実現するためことだった。「戦後レ
 ジーム」とは、まず、東京裁判史観、つまり日本の昭和の戦争は侵略戦争だったという
 決めつけであり、2番目が占領下にGHQから押し付けられたとする現憲法である。3
 番目が対米従属、つまり安全保障や外交に関して米国の言うがままで主体性がないこと、
 4番目が、これもGHQに押しつけられたとする教育基本法である。だが、東京裁判史
 観からの脱却や憲法改正、日本独自の安全保障の強化などに対しては、国民は少なから
 ぬ抵抗感を持っている。特に戦争を知る世代ほど、危険性があり強く感じている。
・安倍自民党の「戦後レジームからの脱却」という大目標に対しては、民主党はアベノミ
 クスに対応するよりも困難がつきまとうはずである。たとえば憲法問題にしても、改憲
 に賛成から護憲まで、民主党議員たちは、いわばばらばらである。集団的自衛権につい
 ても、党としての姿勢は固まっていない。東京裁判史観については議論さえ行われてい
 ない。野党がしっかりしていないと、自民党は暴走しかねない。その意味で民主党の責
 任は重大だ。 
・実は、自民党という党は鳩山一郎の時代から、岸信介、田中角栄、中曽根康弘と、いつ
 も必ず反主流派、非主流派が存在していて、いつの時代も多様性があり、大きな問題だ
 と必ず党内で論争が起こる。つまり党内で、主流派に対する厳しい批判の目があるから
 こそ暴走することがなかったのである。たとえば首相が代わるのも、メディアや野党の
 攻撃によるのではなく、反主流派・非主流派との戦いに敗れるというのが要因だった。
 繰り返し記すが、だからこそ暴走することがなかったのである。ところが、現在の自民
 党は反主流派・非主流派というものが存在していない。アベノミクスに対しても、集団
 的自衛権の行使に対しても、党内に厳しい批判のめというものがなく、党内で侃々諤々
 の論争が生じていない。もっと言えば、党内に反安倍派、安倍批判勢力が存在していな
 いのである。だから、まとまりが良いとも言えるが、必ず反主流派がいて、そのために
 バランスが取れていた自民党を長く見てきた私には、そのことで不安を感じていた。
・かつて、竹下登という政治家が、次のようなことを言った。「国民に歓迎され、好かれ
 たいと思う人間は野党の政治家になれ。そして国民から嫌われる覚悟を持てる人間が政
 権与党の政治家になるべきである」竹下登という政治家は、いわゆる「エエカッコ」を
 しない。その意味では国民ウケのしない人物であったが、彼の言葉は至言だと、私は強
 く感じている。  

日米同盟とアジア
・北朝鮮の金正恩は、父親の金正日が死亡したので若くしてトップになった。しかし、何
 の実績もなく、また父親と違って、トップとして鍛えられていない。だから、当然なが
 ら軍からも国民からも信用されていない。金正恩自身、まったく自信がない。不安でい
 っぱいだ。そこで彼がやることは、ひたすら強気に出ることであった。外部に敵をつく
 り、挑発しまくることで、内部の緊張感を高めることであった。つまり、「北朝鮮の脅
 威」は金正恩の弱み隠しのための芝居であり、馬鹿げた内部事情でしかなかったのだ。
 そして、日・韓・米のいずれかでも本気に怒らせたら北朝鮮が壊滅的ダメージを受ける
 ことは、誰よりも金正恩自身がよく知っている。そして、金正恩の馬鹿騒ぎを、「しめ
 しめ」と歓迎している政府が三つある。日・韓・米の政府だ。北朝鮮のために、さもな
 くば国内で極めて半たんの強い安全保障の強化、つまり軍事力の強化をすることができ
 るからだ。
・どうも、私たち日本人は、お隣の中国や韓国とつき合うのが苦手中の苦手である。歴史
 的に苦手なのだ。例えば、昭和の時代に日本が最も長く戦争をした相手国は中国だが、
 8年間という長い期間、なぜ中国と戦争しなければならなかったのか、さっぱりわから
 ない。さらに、日本は1910年に韓国を併合した。つまり植民地にしたわけだ。韓国
 に対しては、どんな理屈があったにせよ申し訳ないとしか言いようがない。だが、率直
 に言って、韓国を併合して、いったい、日本にとってどのようなメリットがあったのだ
 ろうか。
・中国国民の多くが信頼し、尊敬している人物はケ小平だ。ケ小平は、中国の最大のカリ
 スマである毛沢東とは考え方を異にしていて、文化大革命の時代には徹底的に弾圧され
 た。復活後の1978年から経済の自由化という大改革を敢行し、これが中国の大発展
 のスタートとなった。その後、中国のトップとなった江沢民胡錦涛まではケ小平の息
 のかかった人物で、そのために主席になる順番が順当にいっていた。ところが習近平は、
 ケ小平の息がかかっていない。時代が変わったのである。そのために、権力闘争が起き
 ざるを得なかったのだと指摘する声が少なくない。
・朴大統領の尋常でない日本批判、そしてマスメディアの増悪むき出しの日本攻撃は、ど
 う受け取ればよいか。メディアの人間は自分を知識人だと思っていて、知識人として朝
 鮮を植民地にした日本を批判すべきだ、それも忘れてはならないと思いが強い。しかし、
 いくら日本をたたいても一般の国民は反応しないので、いら立って日本をより強烈に批
 判する。しかし、反応しない。そこでますます怒る・・・という現象になっているとい
 う。
・アメリカが03年にイラクに侵攻したのは大きな間違いだった。そして11年に米軍が
 イラクから撤退したこともまた、大きな間違いだった。イラクに侵攻したときの大統領
 はブッシュ、撤退したときはオバマ大統領だが、両者とも大きな間違いを犯したという
 のである。確かにブッシュ大統領イラク侵攻は、フセイン大統領がアルカイダと深く
 かかわりがあり、しかも大量破壊兵器を隠し持っているというのが理由だったが、その
 事実はなく、いわばイラクを制圧するための言いがかりだった。要するにアメリカの言
 うことを聞く「親米政権」をつくりたかったのだ。
・イラクはシーア派が多数でスンニ派が少数派である。ところがフセイン大統領はあえて
 少数派のスンニ派による多数のシーア派の支配という形を取り、独裁ではあるがイラ
 クを安定させた。それに対してアメリカは、シーア派のマリキ首相に当然のようにシー
 ア派政権をつくらせて、それでイラクが安定すると考えて撤退したのであった。それに
 しても、アメリカではブッシュ、オバマ両大統領ともに厳しく批判され、混乱ながらも、
 アメリカが犯した深い誤りを総括しょうとしている。それに対して日本の小泉純一郎首
 相は、当時、アメリカのイラク侵攻をはっきり支持し、自衛隊をイラクのサマワに派遣
 したはずである。ところが、そのことを総括するなどという気持ちはまったくなく、イ
 ラク戦争にかかわったことさえ、半ば忘れてしまっている。
・安倍首相はイスラエルのネタニヤフ首相と会談し、イスラエルの旗をバックに固く握手
 して、「テロ対策に連携する」と述べた映像がYouTubeで全世界にばらまかれた。この
 映像は当然ながらイスラム各国の反発を呼ぶはずである。もちろん、IS(イスラム国)
 を強く刺激したに違いない。もっと言えば、ISにとって、安倍首相の今回の中東歴訪
 が、日本に脅しをかける絶好のカードとなってしまったのではないか。湯川、後藤両氏
 がISが嫌っている中東の国々を訪ね、イスラムの首相と会談したのは、あまりにも配
 慮が足りなかったのではないか。  
・ISは、日本人を容赦なく殺すと、いわば戦闘宣言をした。こうなると、言論の自由が
 狭められる危険性がある。たとえばISがらみで安倍首相など政府幹部の言動を批判す
 ると、「利敵行為」、つまりISの味方をしていると非難される恐れがあるのだ。
・確かに、ISに対する首相や政府幹部の言動と国民の思いに食い違いがあることは、
 ISにとっては歓迎すべきことになるかもしれない。だが、野党というものがなく、国
 民の批判を受けつけなかった政府が取り返しのつかない誤った戦争をやってしまったこ
 とを、私の世代までの人間は嫌と言うほど知っている。そして、日本は制限のない言論
 の自由があるからこそ、欧米だけでなく、言論の自由が制限されているイスラム教の国
 々からも信頼が得られているのである。 
・絶対的弱者が絶対的強者に立ち向かう手段は、テロしか残されていないという見方もで
 きる。いったいなぜ、ISが惨虐なテロを繰り返すことになったのか。そもそも、なぜ
 ISなどという存在が出現したのか。その原因は、イラク戦争にあるのではないだろう
 か。強引きわまるイラク戦争で、アメリカはフセイン大統領をつぶすだけでなく、イラ
 クの行政、つまり官僚組織や軍人たちを放逐し、しかも、国民を納得させられる体制が
 できないままで引き上げてしまった。そこで放逐された官僚や軍人たちが、政府に対抗
 するかたちでつくり上げたのがISなのだ。

出口のない原発
・2012年の師走の選挙は、自民党が294議席と大勝した。しかし、自民党の比例区
 の得票数は、前回の2009年より200万票以上減らして終わり、自民党が勝ったと
 いうよりもその他の党が票を食い合い、勝手に敗れた選挙だった。国民の多くは積極的
 に投票したい政党が見つからず、困惑したはずである。だからこそ、投票率も前回より
 も約10%も低下し、戦後最低の数字となってしまったのだ。
・原発ゼロを打ち出しているどの政党も、実は実現性に根拠がないということが鮮明にな
 ったのである。そして、皮肉なことに原発についてもっともあいまいな姿勢でいた自民
 党が勝ってしまったのだ。本当は福島第一原発の深刻な事故で、国民の多くが原発の危
 険性について強い不安を抱いているはずである。だが、原発ゼロを主張する政党のあま
 りのリアリティーのなさ、無責任さに国民の多くはあきれ果ててしまったのだろう。自
 民党が大勝した要因は、国民がリアリティーのない理想論にあきれて、もっとも現実主
 義的な自民党を選んだということだろう。 
・民主党政権時代には、原発に代わる再生可能エネルギーの利用を拡大する方針が強く打
 ち出された。確かにその可能性は十分にあるし、私も将来的には再生可能エネルギー中
 心の社会に転換していくべきだと思う。だが、これはあと数十年はかかる話だろう。
 気になるのは、原発推進派の考え方だ。いったい、原発をどうしていくつもりなのか。
 日本の原発は、使用済み核燃料の再処理技術もまだ完成しておらず、放射性廃棄物の最
 終処分方法に至っては、まったく決まっていない。原発はまるで「トイレのないマンシ
 ョン」なのだ。
・再処理については、日本ではまだ技術が完成していないが、イギリスやフランスでは完
 成している。もし本気で再処理したいのなら、なぜ海外から技術を導入しないのか。相
 変わらず運転再開のめどが立たない高速増殖炉「もんじゅ」にしても、1960年代の
 古い技術でつくられたものだ。早く実用化したいなら、なぜ最新の技術に切り替えない
 のか。 
・小泉元首相の脱原発発言は、フィンランドを訪問して「オンカロ」を視察し、「原発は
 ダメだ」と直感したからである。「オンカロ」はフィンランドがつくった世界初の使用
 済み核燃料の最終処分場である。そこで使用済み核燃料の無害化に10万年以上かかる
 と聞いて、脱原発宣言の発言となったのだ。実は、このとき日本の原発メーカーの幹部
 が同行していて、「高速炉で処理すれば300年で無害化できる」と説明したのだが、
 小泉氏は理解してくれなかったとのことだ。
・現在、自民党政権は原発推進の姿勢を強めているが、日本の原発には様々な問題がある。
 最大の問題は原子力を含めたエネルギーの総合戦略ができていないことだ。さらに汚染
 水問題、廃炉問題、再稼働問題、除染問題、そして最終処分場の問題など、難問が山積
 みだ。決着に向かっているのか、悪化しているのかさえよくわからない。何より原発問
 題の責任者がどこにいるのかもよくわからない。 
・現在、日本には1万7千トンの使用済み核燃料がたまっている。しかしながら、放射性
 廃棄物の最終処分制度を創設して以降、10年以上経た現在も、処分地選定調査に着手
 できていない。どこで、どのように最終処分するのか、まったく見当もついていないの
 である。廃棄物を発生させた世代の責任として将来世代に負担を先送りしないよう、高
 レベル放射性廃棄物の問題の解決に向け、国が前面に立って、取り組む必要がある。