安倍官邸の正体  :田崎史郎

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この本によると、安倍政権は、消費税再増税の先送りをするためには、衆議院を解散する
しかなかったというような理由づけがされているが、はたして、そうなのだろうか。なん
だか、後で取って付けたような理由のような気がする。与党内に反対者がいたから、それ
を押さえるために衆議院を解散し、莫大な税金を使って総選挙を行ったとするなら、それ
は主権者である国民をバカにした行いではないのか。
この本の内容は、全般的に安倍政権を「よいしょ」している。民主党の鳩山政権や菅政権
はボロクソ非難だ。間違ってはいないと思うが、あまりにも偏りすぎていて、なんだかち
ょっと違和感を感じた。
また、この本では、首相官邸内の意思決定の仕組みなどはある程度わかるが、閣僚会議と
首相官邸との関係はよくわからなかった。
いずれにしろ、戦後70年間日本が培ってきた「平和国家」が、この安倍政権によって破
壊されたということは間違いない。


「政局を読む力」を養うために
・消費再増税先送りの決断と解散決断が表裏一体となっていた。というのは、自民党内で
 谷垣幹事長、高村副総裁、二階堂総務会長、野田党税調会長ら、公明党でも山口だけで
 なく、井上幹事長が消費税再増税を予定通り実施するよう求めた。この「再増税包囲網」
 を突破するには衆議院解散を打って出るほかないと、安倍や菅は次第に考えざるを得な
 くなっていった。「再増税」を先延ばしすると「政局」になってしまうと思った。でも、
 解散すれば、選挙になりますから、みんな地元に帰ります。
・「政局」なるという表現は、永田町では意味合いが変わって、首相の進退をめぐって対
 立が深まり重大局面を迎えることを意味している。 
・安倍や菅は真夏から衆院解散の事例研究を始めている。参考にしたのは中曽根政権の
 「死んだふり閑散」です。
・総選挙は国民の声を聞く機会であると同時に、国家権力をめぐる戦いである。勝者は国
 家権力を縦横無尽に行使し、衆院解散という次の戦いの場を設定する権利も握る。敗者
 は野党となって政権を追求し、次の総選挙での勝利を目指す。それが、憲法に基づく日
 本の政治システムであり、総選挙の本質なのである。
・2014年11月の解散が「なぜ、今なのか」という疑問が持たれたのは、消費増税先
 送りの決断が衆院解散に直結する理由を、安倍や菅が十分説明できず。メディアにも国
 民にもわかりにくかったことに原因がある。しかし、財務省が総力を挙げて議員やメデ
 ィアに働きかけていた実態を考えると、安倍や菅にとって衆院解散以外に政権を維持す
 る方法はなかった。
・財務省の根回しのすごさは、首相官邸という政権の中枢部にいた国会議員にしかわか
 らない。財務省は消費再増税を是が非でも実現するため、自民党議員はもちろんのこと、
 公明党や民主党議員、テレビ局の解説委員、テレビ番組に出演しているコメンテーター、
 新聞・通信社の論説・解説委員に「ご説明」に回った。
・財務官僚は極めて優秀であり、議員会館を回って議員とよく話している。その優秀さと
 熱心さにおいて、他の官庁の官僚を圧倒している。しかし、政権中枢部が恐怖感を抱く
 ほどに、強烈な根回しをすることは是認できない。官僚は時の首相や大臣の意向に沿っ
 て動くものだ。それを覆して動くのは、官僚の分を超えている。

安倍官邸の「構造」と「正体」
・この国は侃位の無数の決断によって動いている。その判断を最終的に下すのは首相だが、
 重要な判断の大半を正副長官会議の合議体で行なっていることが政権運営の奥義である。
・官邸は機能的に動いていると思われる方が多いだろう。しかし、首相以下、官邸の要人
 は正副長官会議がなければ、一堂に会する機会はめったにないのが現実だ。意思疎通が
 欠けていると、それを見透かしたかのように、官房長官のところに「所掌の了解を得ま
 した」と言っていろいろな案件が持ち込まれる。しかし、首相が了解していなかったり
 することは日常茶飯事と言えるぐらい、日々、起こる。  
・政治は言葉によって動く。よほどのことがないかぎり、文書が作成されることはなく、
 口頭了解が政治の日常風景である。しかし、言葉で動いているがゆえに、政治に誤解は
 付きものだ。
・正副長官会議は安倍官邸における「最高意思決定機関」と言える。公表されたことはな
 いが、首相、官房長官、副長官、主席秘書官が集まって協議し方針をきめたならば、そ
 の決定は政府全体を動かすことになる。
・小泉政権は端的に言って、小泉純一郎の強烈な発言力によって成り立っていた政権であ
 る。小泉の発言は「ワンフレーズ・ポリティックス」と揶揄された。だが、人々の脳裏
 にあっという間に焼き付けられるその言葉の強さはれ着たい首相随一だ。
・小泉の意思決定のしかたを象徴するのは次の言葉だ。「ある時は反対論を押し切ってこ
 れだと言うと「独裁者」、あるときは任せると言うと「丸投げ」と言われる」
・小泉は自分で決め実行する政策と、各閣僚らに委ねる政策を区分けしていた。
・小泉政権とその後の政権で、首相と、秘書官や政治家との関係に劇的な変化が起こった。
 携帯電話の使用だ。小泉は携帯電話を渡されていたのに、まったく使わなかった。小
 泉と電話で話には首相秘書官につないでもらうほかなく、小泉も秘書官に頼んで電話し
 た。電話の取り次ぎを秘書官が行うことによって、秘書官は首相が誰と連絡を取り合っ
 ているかを把握できた。それわかると、用件もおおよその察しがつく。安倍以降の首相
 だからこ
 そ、官邸の首脳陣が面と向かって話し合う正副長官会議の重要性はより増したと言える。
・官邸の運営はその時々の首相の手法、正副長官との人間関係など「人」によってずいぶ
 んと変わる。これがベストというシステムはない。しかし、小泉のようなパワフルな演
 出力を持った首相は別として、第二次安倍内閣における官邸の正副長官会議は、政権運
 営の手法として極めて有意義なシステムだ。 
・国会議員は選挙で選ばれる一国一城の主である。それぞれ、強烈な権力への欲望と自負
 心を持っている。人間には誰しも権力欲、自負心はあるが、国会議員のそれは並外れて
 いる。これに加え、議員の任期は衆院なら4年、参院なら6年だ。そのたびに選挙があ
 る。とくに衆院は解散がありので実質的な任期は3年程度だ。つねに選挙区の有権者を
 意識しながら、政府や国会の仕事に取り組まざるを得ないのが国会議員の宿命と言える。
 このために、首相、官房長官、副長官が心をひとつにして濃密な関係を結ぶことはめっ
 たにない。
菅直人は首相就任から9日後の2010年6月、突然、当時5%の消費税率を倍に引き
 上げることに言及した。この発言の相談を受けていたのは首相補佐官の阿久津と寺田の
 2人だけだった。時の官房長官・仙谷も、副長官・古川、福山も、財務省出身の秘書官
 も寝耳に水だった。そら恐ろしいことだが、国民の負担を倍にするような話が首相のひ
 と言で動き出してしまう。本人もそれが政治主導だと思い込んでいるのが菅政権の内実
 だった。
・鳩山政権当時、正副長官会議のようなシステムがあったからといって、消費税や普天間
 移設問題を解決できたとは思わない。何の展望もなく、いきなり言い出す鳩山や菅の資
 質に根本的な問題があった。しかし、官邸に詰めている国会議員がもっと話し合ってい
 れば、鳩山、菅政権があれほどの惨状を呈することはなかったのではないか。民主党政
 権崩壊の原因は、権力の中枢部にいた人たちが互いに信頼し合えず、連帯もせずに、そ
 れぞれ買ったに動いていたことが大きな原因ではなかったか。ごく初歩的なことだ。
・国会議員は「自分はこの点ですぐれている」と思っても、「ほかの議員より劣っている」
 と心底から省みる人はまずいないと、つくづく感じる。人一倍強い自負心と自己顕示欲。
 それで挫けそうになる自分を支え、ひたすら有権者の手を握り、頭を下げてカネを集め
 る。そうして国会議員バッジを手にして、永田町に出てくると、同じように一筋縄では
 行かない個性豊かな人たちが集っていて、その人たちの思惑や感情が渦巻く、裏を読む、
 否、裏の裏を読む。「彼は人柄が良いね」と言われたら、政治家失格を意味する。そん
 な国会議員の中でも選りすぐりの人たちが、国家権力の最高の館である首相官邸に入っ
 てくる。時の首相は官邸に集った人たちが自分に忠誠を尽くし、かつそれぞれが信頼し
 合って一丸となって自分を支えるように心を砕かなければならないのだが、鳩山由起夫
 も菅直人もそうした官邸運営のイロハができなかった。
・日本の行政システムは各省のタテ割りになっている。政治決断が求められることや各省
 が激しく対立している案件は首相官邸に持ち込まれ、主に官房長官や副長官のところで
 調整が行われる。それでも決着しない場合には首相の裁断を仰ぐこともある。一方、首
 相の意向は各省大臣に直接、あるいは官房長官を通じて伝えられる。これが政府の意思
 決定のラインだ。
・官僚にとって官邸はかなり異質な職場だ。官僚は政策の企画立案を本旨とし、法案の作
 成、予算の確保、地方自治体や民間企業に対する指導・監督などを行う。そこで求めら
 れるのは過去との整合性と厳密さ、公平性だ。官邸にいる官僚にはそれらに加えて「政
 治的」、つまり首相の考え方、国会や与党お状況、諸外国の出方などを見て、実現可能
 かどうかの判断力が問われる。最終判断は首相、あるいは官房長官が行うが、秘書官レ
 ベルである程度絞り込まなければ、首相らはパンクしてしまう。
・それが実現できるかどうか、簡単に言えば「有りか、無しか」という判断力が秘書官に
 は求められる。ゆえに、政治的センスと経験がなければ、秘書官は務まらない。秘書官
 は、各章を動かす術を知っていなくてはならない。どのボタンを押せば、その省は動く
 か。
 どういう論理を組み立てれば、その省は納得せざるを得なくなるか。政治家ではわから
 ない霞ヶ関の掟。それを知らなければ、首相や官房長官が怒鳴ろうとも、官邸の力を盾
 に秘書官が押し切ろうとしても、霞ヶ関はびくともしない。
・指導者に忠誠心を抱く官僚は寥々たるもの。自分の信じる正義のために献身する者がほ
 んの少しいるだけで、大部分の官僚は自己の利益だけを考えている。官僚というのは古
 今東西、そういう人たちなのかもしれない。それを知ってか知らずか、首相や大臣が決
 めれば、官僚はそのとおりに動くと無邪気に信じていたところに、「政治主導」を掲げ
 た民主党政権の過誤があった。
・官僚と敵対するのではなく、また、官僚に操られるのでもなく、官僚を使いこなすこと
 を、安倍は官邸で学んだ。「人事は官邸が決める」。このメッセージを内閣発足から1
 ヵ月もたたないうちに霞ヶ関に発信した。過去の自民党政権でほとんど、民主党政権下
 ではまったく、時の首相や官房長官は霞ヶ関の人事に手を付けなかった。「官僚を利用
 するが、官僚に利用されない」。これを鉄則にして、人事をテコに霞ヶ関官僚を動かし
 ていく。これが、第二次安倍政権の官僚支配の手法だ。各省幹部の人事権を掌握するこ
 とによって、予算編成や主要な政策決定においても主導権を握ることができるようにな
 った。まさに「人事は万事」である。
・情報番組は報道番組よりも世論形成に大きな影響を与える。客観性が重視され、型通り
 になりがちな報道番組に比べ、情報番組ではコメンテーターがある程度自由に印象や意
 見を述べることができ、視聴者はそれに敏感に反応する。テレビ局の各番組は激しい視
 聴率競争の中で生きている。このため、各番組はどの題材を、どのような内容で伝える
 のかをめぐり、しのぎを削る。視聴者はつまらなければ、すぐにチャンネルを変えるか
 らだ。その様子はビデオリサーチが調査した視聴率データ、とりわけ1分ごとの「毎分
 視聴率」にくっきりと表れる。
麻生副総裁は、都内で開かれた講演会で憲法改正について、ドイツで最も民主的と言わ
 れたワイマール憲法下でヒトラー政権が誕生したことを挙げ、こう言った。「ワイマー
 ル憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていった。あの手口を学んだらどうか。国民
 が騒がないで、納得して変わっている」
・問題を起こした閣僚を、辞めさせるマイナスと、辞めさせないマイナス。どちらのマイ
 ナスが大きいと判断するか。それが政権の重要なリスクマネジメントである。辞めさせ
 ることによって生じるマイナスがかなり大きいことを安倍一次政権で学んだ。 
・会社などでも年一回、定期の人事異動を行い、社員らの待遇を変えている。人事異動を
 行うことによって、社員らは自分も昇進か、降格かという緊張感を持って働くようにな
 る。だから、人事は組織の摂理である。向こう3年間、今のままと分かったら、最後の
 1年しか働かなくなるだろう。
・一般社会よりも永田町は、人事を欲する度合いが大きい強者の集まりだ。国会議員は激
 しい選挙戦を戦い抜いてバッジを着けている。地元向けに、こんな活躍をしていると示
 し続けなければ、当選を重ねることは難しい。そもそも、「自分が一番」という強い自
 負心がなければ、国会議員という職業を続けることができない。自分は劣っているから
 ほかの人に譲る、などと考えたらどんどん隅に追いやられていく。それゆえにどんなに
 良い内閣であっても、入閣適齢期の人たちは「自分が閣僚になればもっとうまくやれる」
 と思い込んでいる。
・過去を振り返って、今ほど新聞、テレビ局の政権へのスタンスの異なったことはない。
 安倍政権に対し、読売、産経新聞が好意的なのに対し、朝日、毎日、東京新聞はつねに
 厳しく指弾している。日経新聞は問題によって変え、集団的自衛権に関する憲法解釈の
 変更では、読売、産経と同じ容認派で、歴史認識では朝日などの主張に近い。靖国神社
 参拝では、読売も批判し、参拝支持は産経一社だ。

一次政権とは何が「違う」のか
・安倍は人間の言動の端々に表れる心の動きを繊細に読み取るが、己の行動を決める時は
 案外、大胆だ。反発が起きるのを恐れ、縮こまっているのではなく、思い切って踏み出
 せば抵抗は案外少ないと、安倍は思っている。
・指導者が最も陥りやすい弊害は働きすぎだろう。いくら働いても平気な人もいるが、大
 事なときに存分に働くためには休暇をとり、気分とペースを変える必要がある。指導者
 にとって大切なのは、何時間デスクの前で過ごすか、そのデスクがどこにあるかではな
 く、重要な決断を正しく下すかどうかである。
・報道機関が誤報してしまう根源は、他紙に抜かれるという恐怖感と、少しでも早く伝え
 たいという功名心だ。それを防ぐためには、決定権がある本人か、複数の取材源が認め
 たことしか書かない、話さないという、あえて言うなら「伝えない勇気」も必要だ。
・政治とは妥協の産物であり、民主主義とは政治の産物にほかならない。
・人事権は最終的に組織の長に属する。それを否定するかのような発言は厳として慎まな
 ければならない。私は人生経験を経て「人事は求めず、拒まず」という人事の原則を学
 んだ。会社が決めたならよほどの事情がない限り、頑として押し通すのが組織の原則だ。
・安倍首相が本当にやりたいことは安全保障とか、憲法改正だ。しかし、それをやり遂げ
 るのには経済がうまくいって、支持率を維持していることが前提だ。
・安倍はまた、憲法解釈の変更をどうしてもやり遂げなければならないと執念を燃やして
 いた。 
・安倍の政治戦略は政治家としてどうしてもやり遂げたいこと、かつ最もリスクが高い憲
 法改正を再選挙後に先送りすることだ。憲法改正の情熱を内に秘め、今は「デフレから
 の脱却」に的を絞り、国のあり方にかかわる政治課題は集団的自衛権行使に関する憲法
 解釈の変更などにとどめておく腹だ。
・安倍は強硬保守とは一線を画している。もちろん、排外主義者でもない。だが、強硬保
 守の人たちが民主党国会議員の中で安倍に最も親近感を持っており、安倍にすればそれ
 はありがたいことだ。同時に、安倍は強硬保守の人たちにとって、安倍以外に支持でき
 る有力議員がいないことも知っている。

安倍官邸の実力と問われる真価
は秋田県の農家の長男だ。大学を卒業するころまで、政治を志すつもりはなかった。
 菅は秋田杉の名産地として知られる秋田県雄勝町でイチゴ農家の長男として生まれた。
 菅は地元の湯沢高校を卒業後上京し、東京・板橋の小さな段ボール工場に勤めた。しか
 し、何もいいことはなかった。そこで法政大学に入り学費はアルバイトをして稼いだ。
 ちなみに、菅は法政大学夜間部卒という噂があるが、これは間違いだ。
・安倍政権が終わった時、その最大の特徴はアベノミクスではなく、安全保障分野におけ
 る歴史的大転換とされるかもしれない。アベノミクスは「経済は生きもの」と言われる
 ように先行き不透明であるのに対し、安全保障分野では「実績」を着実に積んでいるか
 らだ。
・「防衛装備移転三原則」は、従来の武器輸出三原則を根本的に変えるもので、集団的自
 衛権行使容認への憲法解釈変更と並ぶ、戦後の安全保障政策の大転換だった。しかも、
 集団的自衛権の行使容認が大きな論議を呼んだのに対し、それほど注目を集めないうち
 に閣議決定された。閣議決定の後、関係者は「超画期的」と語り、小躍りした。
・武器輸出でも防衛装備移転でも「三原則」という表現が用いられたのは、公明党から
 「あくまで「三原則」にしてほしい。その方が組織の理解を得られやすい」と要請され
 たからだ。同じ三原則という言葉によって、原則が維持されているかのような印象を与
 えた。しかし、その内容は「禁止」から「解禁」に百八十度転換した。
・集団的自衛権の見直しは憲法に絡むことなので大問題となった。ただ、実際に集団的自
 衛権を行使する事態が起こるかと言えば、その可能性は極めて低い。これに対し、防衛
 装備移転三原則はすぐに「効果」を表した。部品が輸出されれば、どこに転売されるか
 分からない。中東など紛争地域で使われた武器を調べたら、部品が日本製だったという
 ことが起こりうるのだ。日本から輸出された部品でつくられた兵器が海外の戦争で使わ
 れ、人間を殺戮する可能性があることに、恐れを抱かざるを得ない。戦後日本が誇る
 「平和国家」とは何だったのだろう。
・自民党、そして民主党が政権を失った要因の一つは党内対立が激しくなったことだ。そ
 のことに有権者が嫌気がさし、両党とも選挙で敗北を喫した。ならば、党内対立の激化
 を極力避けて、国民の信頼を失わないようにしようという自制心が今の自民党議員には
 働いている。その自制心は、政権維持への執念と表裏一体だ。これは、自民党と連立を
 組む公明党とて同じだ。
・民主党政権の混乱を思い出すと、現在の政権の方が明らかに真っ当に見える。民主党に
 取って代わる野党勢力もなく、野党再編もなかなか進まない。自民党に代わる勢力が存
 在しないことが、結果として安倍政権を支えている。
・安倍は今後、石破以外の「ポスト安倍候補」を育てようとするだろう。後継者が競い合
 った方がトップにとって有利で、後継者が一人に絞られている状況は決して好ましくな
 い。石破のライバルとなってくるのは谷垣幹事長、岸田外相あたりか?