MMTが日本を救う  :森永康平

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最近、このMMTという言葉を時々目にするのであるが、これがいったいどういうもので
あるのか、私にはさっぱりわからない。そこでということで、この本を手にしたのである
が、読んでみた結果、結局、何がなんだかさっぱりわからないというのが実感であった。
MMTとは、日本語では「現代貨幣理論」というそうだが、その主張するところは、日本
などのように自国通貨を有している国は、政府が通貨を発行することにより支出ができる
ため、税収が自国通貨建ての政府債務をもとに国の財政規律を議論するのではなく、イン
フレ率にもとづいた財政規律を議論すべきであるということらしい。
そう言われても、私には何のことやらさっぱりわからないのであるが、これからすると、
要は、いま一般に言われているような、「国の借金〇〇〇兆円」などというようなことは
気にする必要はない。問題はインフレ率がどうなのか、ということを気にすればいいとい
うことらしい。
そう考えると、いまの日本は、まさにこのMMTを実践していることになるのではなかろ
うか。天文学的な数字の国の借金はまったく気にすることなく、とにかく「インフレ率が
2%」になるまでということで、日銀は転々機を大車輪で回して”円”を刷りまくり、市中
にばらまいている。これはMMTの実践そのものだと言えるのではないか。もっとも、当
初、2年で目標を達成する予定が、8年以上経過した現在も、またその目標は達成されて
いないが。
国がどんどん貨幣を発行すれば、当然ながら、いずれはハイパーインフレが生じることに
なる。そこでこのMMTでは、国家が通貨を発行し過ぎてインフレ率が高まってきたら、
税率を上げて通貨を回収してハイパーインフレにならないように抑えればよいとのことの
ようである。しかし、高いインフレ状態においては、貨幣価値が下がるのであるから、一
般の庶民にとって、暮らしは苦しいはずである。そんな状態において、国が「税率を上げ
ます」といったら、はたして一般庶民はそれを素直に受け入れるであろうか。北朝鮮や中
国のような国では、国民の意志がどうかにかかわらず強制的に実施可能かもしれないが、
この日本において、そんなことがはたしてできるのであろうか。
また、現在においては、政府と中央銀行とはそれぞれ独立した機関ということになってい
るが、このMMTの考え方からすると、政府と中央銀行は一体だとの考えに立っているよ
うで、統合政府という考え方をしている。これは、独立した中央銀行の役割は不要だとい
うことなのだろうか。もっとも、今の日本においても、安倍政権下においては、政権の意
向に適った人物が日銀総裁に選ばれており、日銀の政策も時の政権の意向を強く反映した
政策がとられてきた。このことからしても、ある意味では、現在の日本は政府と中央銀行
は一体だという見方もでき、これまたMMTの考え方を実践しているとも言えるのではな
いのか。
ところで、この本の著者は、個性豊かな経済アナリストとしてテレビにも時々顔を出し、
著書もたくさん出している、あの森永卓郎氏の息子さんのようだ。親子で仲よく経済アナ
リストとは、なかなか微笑ましいとも言えるが、実際の親子関係はどうなのであろうか。
ちょいと興味があるところだ。


はじめに
・2020年、世界は新型コロナウイルスの脅威にさらされている。当然ながら、感染拡
 大に伴い、経済や企業業績には悪影響が生じており、既にこれまでに見たことのないほ
 ど悪い経済指標や企業決算が確認されている。コロナ禍による経済環境の悪化はこれか
 ら更に深刻化していくだろう。
・今回の経済危機は、これまでに起こった経済危機とは質が違う。感染拡大防止のために
 意図的に経済活動を縮小させつつも、経済を殺してしまわないように、各国が金融・財
 政の両面から必死に対策を打っている。ブレーキを踏みながら、アクセルも踏むような、
 非常に難しい舵取りを迫られているのだ。
・日本は新型コロナウイルスへの対応は比較的うまくいっていると評価されているが、経
 済面においては、非常に厳しい環境での対策を求められている。2019年10月、日
 本は消費税の引き揚げを実施した。日本はこれまで過去にも2回消費増税をしている。
 過去の経験則でいえば、消費税が消費を冷え込ませることはわかっていたが、こともあ
 ろうに、経済後退局面と考えられる状態で3度目の消費増税をし、その結果、予想通り
 日本経済にとてつもないダメージを与えた。実質GDPは年率7.1%減という大きな
 落ち込みを記録した。そんな状況下、年明けにこの新型コロナウイルスの問題が起き、
 日本経済は「泣きっ面に蜂」状態にある。
・4月に入り日本も他の先進国に続く形で事業規模108兆円の緊急経済対策を発表した。
 しかし、この経済対策の内容を詳しく見ていくと、実際には国が直接お金を出す、いわ
 ゆる「真水」部分は27.5兆円にとどまった。
・日本の財政赤字は世界でも最悪レベルで、国民1人当たりの借金は880万円というも
 のだ。そんなに借金があるのなら、有事に行うはずの財政出動(財政政策)ができない。
 ならば金利を低くするなどの「金融政策」を行うしかない、という話になる。しかし、
 いまや日本に限らず、世界的に超低金利時代に突入している。
・このような「打つ手なし」と思われた状況で登場したのがMM(現代貨幣理論)である。
「すごい理論だ!」と持ち上げられて世界に知れわたったというよりも、国内外の著名な
 経済学者や中央銀行、政府関係者から軒並み総叩きにあったことで逆に関心を持たれた
 理論ではないだろうか。

数字が示すコロナ前からの「景気後退」
・前回の消費税前(14年1〜3月期)は年率換算で4%増と、駆け込み需要によって高
 成長したが、今回の消費税前(19年7〜9月期)はわずか年率換算で0.1%増にと
 どまった。
・多くの専門家が消費増税には反対意見を唱えていたが、なぜ消費増税は実施されたのだ
 ろうか。内閣府が公表した財政報告では、「消費増税の10%への引き上げは、財政健
 全化のみならず、社会保障の充実・安定化、教育無償化をはじめとする「人づくり革命」
 の実現に不可欠のもの」としている。だが、これだけ経済を減速させてまで増税すべき
 だったのだろうか。
・日本経済がバブルの熱狂に包まれていた90年は完全失業率が2%程度だった。バブル
 崩壊以降、日本の完全失業率は3〜5%の範囲の中を推移していたが、第二次安倍政権
 が発足して5年が経った17年からは2%台を維持している。つまり、アベノミクスで
 日本の雇用環境は改善され続け、ついにバブル期と同等の水準に達したのだ。
・完全失業率は計算上、労働人口が減少すれば完全失業率も低下する。そのため、単純に
 完全失業率の低下だけで雇用環境が改善したとするのは早計という意見もあるが、労働
 力人口と就業者数の推移を見れば、アベノミクスがしっかりと雇用環境を改善させてい
 ったことは明かだ。
・しかし、19年に入ったあたりから好調だった雇用環境にも陰りが出てきた。19年平
 均で算出した有効求人倍率は1.6倍だった。20年に入ると有効求人倍率は更に下落
 する。20年1月の有効求人倍率は1.49倍となった。
・景気拡大局面が18年10月に終わっていた可能性が高いと指摘したが、労働人口と就
 業者数の推移を見ると20年まで右肩上りを続けている。ただし雇用関連の経済指標は
 景気の遅行指数と一般的にいわれており、それを考えれば、19年に入って雇用環境の
 悪化が起こったという見方は不自然ではなく、数字の整合性はとれているといえる。
・生産、消費、雇用など様々な経済指標を確認して言えることは、既に日本経済が景気後
 退局面に入って1年以上が経過している可能性が高いということ、しかも、その最中に
 消費税を10%に引き上げてしまったことだ。
・それにもかかわらず、依然として政府が景気後退入りを判断しない理由は何か。理由の
 1つとしては、どうしても政府が大企業の景気判断の影響を色濃く受けてしまうからで
 はないか。それが多くの国民の実感と政府の景気判断の間に大きな乖離を生む理由なの
 だ。なんと99.7%は中小企業なのだ。大企業の状況だけを反映していては多くの国
 民の生活実感からかけ離れるのも無理はない。
・景気後退局面に突入した直後に消費増税を決定し、景気後退の最中に消費増税を実施し
 てしまった可能性が高い。 
・消費増税は日本単独の話なので、世界経済が悪化したわけではない。しかし、国内の家
 計の最終消費支出を見ると、リーマン・ショックの起きた08年度が前年度比2.7%
 減なのに対し、14年恕は3.3%減と大きく減少している。これだけ見ると、消費増
 税はリーマン・ショック以上に本の家計に悪影響を与えたという印象をもってもおかし
 くはない。しかし、消費増税の場合は実施タイミングがあらかじめわかっているから、
 駆け込み需要とその反動減が発生する。それ故に、14年度の落ち込みが08年度より
 大きいということだけを取り出して、消費増税はリーマン・ショックよりも影響が大き
 いというのは印象操作になりかねない。
・これまでも消費増税によって家計の最終支出が減少したり、企業の景況感が悪化してい
 るという事実があった。こうなると何が起きるか。「デフレスパイラル」である。一度
 デフレスパイラルに陥ると、将来的には「もっとモノの値段が下がるかも」という期待
 心理が形成されるため、収入減による抑制以外にも、安くなってから買おうという買い
 控えも発生する。結果、より物価下落圧力が高まる効果もある。
・日本は長期にわたってデフレと低インフレを継続していた。20年以上も物価がほとん
 ど上昇しないという環境の中で、「物価が上昇していく」という感覚を多くの日本人が
 忘れてしまったいま、企業が売価を引き上げるのは相当難しくなっている。
・日本のように経済成長が緩やかで、物価も家計の所得も上昇しない国だと、多少の値上
 げすら死活問題であり、消費者は鮮明に拒否反応を起こして物が売れなくなる。

ウイルスよりも脅威!日本を襲う悲劇の正体
・景気後退の最中に消費増税を実施したわけだから、2019年10月〜12月期の実質
 GDPが年率換算で7.1%減になっても驚くことはない。だが、日本経済に更なる不
 幸が訪れる。年が明けた20年早々に、新型コロナウイルス問題という2つ目の悲劇が
 起こったのだ。
・一度の2つの悲劇に襲われているのは、世界でも日本と香港ぐらいだろう。香港は19
 年3月から逃亡犯条例の改正案に反対するデモが起きた。100万人以が参加するデモ
 が2度もあり、香港経済は壊滅的なダメージを受けた。
・日本では、消費増税による大幅なマイナス成長が20年1〜3月期から回復するという
 解説をよく目にしたが、その淡い期待はコロナ禍によって消え去ってしまった。
・そもそも新型コロナの問題はいつから始まっただろうか。20年2月頃からという印象
 は強いが、事の発端は19年末だった。19年の大晦日、中国の武漢市内で原因不明の
 肺炎が広がっていると、WHOが中国当局から報告を受けたところから始まる。
・1月16日には日本国内で武漢市から帰国した中国人男性からウイルスが検出され、国
 内で初めて感染が確認された。
・ここから中国政府は素早い対応に出る。1月23日には武漢を封鎖し、27日には国外
 旅行を含む全ての団体ツアー旅行を禁止した。
・1月28日に、日本国内で日本人の感染者が初めて確認され、29日には武漢からチャ
 ーター機が羽田空港に到着する。そして、1月31日にWHOが「緊急事態宣言」を出
 した。
・2月5日に横浜港に停泊していた「ダイヤモンド・プリンセス」の乗員乗客から感染が
 確認され、船内待機が始まった。
・ついに4月7日、安倍総理大臣が東京など7都府県を対象に、特殊法に基づく「非常事
 態宣言」を出したのだ。 
・今回、大打撃を受けた産業として真っ先に思い浮かぶのは観光産業や宿泊業である。
 20年3月の訪日外客数の推移を見ると19万3700人で、前年同月比93%減とい
 う大幅減である。
・19年3月の訪日外客数全体の25%を中国からの外客数が占めていた。それが中国か
 らの外客数は前年比で98.5%減となった。
・このコロナ禍が恐いのは、現時点でいつ問題が収束するのかわからないことだ。 
・一般的な景気後退の場合は、金融政策と財政政策で景気を刺激して企業の投資や家計の
 消費などの経済活動を促していく。しかし、今回は景気を回復させると同時に感染拡大
 を抑える必要がある。そのため、ロックダウンと呼ばれる年封鎖や、日本の「不要不急
 な外出の自粛要請」など、意図的に経済活動を縮小、または一部で停止させている。
・通常の景気後退がアクセルを噴かせばいいだけの状態だとすると、今回はアクセルを踏
 みながら、ブレーキも踏んでいるような状態といえる。
・各国が3月中に大型財政出動の概要を発表したが、日本で発表されたのは4月に入って
 からだった。この経済対策は事業規模で108.2兆円とされ、GDPの約2割に該当
 する莫大な規模だと報じられた。安倍晋三首相も「諸外国と比べても相当思い切ったも
 のだ」と述べている。
・しかし、実態はそれほど大規模ではない。なぜなら、中身が「事業規模」だからだ。事
 業規模というのは政府が支出する金額以外にも、民間の金融機関が融資する額や、民間
 が負担する事業の額も含まれる。政府が負担するのは「財政支出」であり、この額を見
 ると39.5兆円である。この額の中には財政投融資という政府の財政資金が10兆円
 ほど含まれている。この10兆円のうち、日本政策金融公庫による融資が相当含まれて
 いる。要は「あげますよ」ではなく「貸してあげる」お金なのである。また、昨年12
 月の経済対策の未執行分9.8兆円も繰り込まれていることなどを考えれば、新しく投
 入される財政資金は20兆円弱と想定できる。こう考えると、「GDPの約2割に該当
 する過去最大の108.2兆円」というインパクトの強い報道とは実態がかけ離れてい
 るのではないか。
・単体ではリーマン・ショック時の財政出動よりも規模は大きいが、合計で見れば足りて
 おらず、今後、追加の財政出動が起きなければおかしい数字といえる。
・政府は今回の緊急経済対策を「緊急支援フェーズ」とそのあとの「V字回復フェーズ」
 の2段階で実施するとしており、「次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復」と
 いう項目では、次のような記載がある。
 「今回の新型コロナウイルス感染症の影響により、売上等に甚大な打撃を被った観光・
  運輸業・飲食業、イベント・エンターテインメント事業を対象に、GoToキャンペ
  ーンとしいて、新型コロナウイルス感染症の拡大が収束した後の一定期間に限定して、
  官民一体型の消費喚起キャンペーンを実施する」
・たしかに、新型コロナウイルスの問題が収束した後に疲弊した経済を持ちなおさせるた
 めの財政出動は重要だ。しかし、今回の新型コロナウイルスによる景気悪化はこれまで
 のものとは違い、ブレーキとアクセルを同時に踏むような、非常に特殊で対応が難しい
 ものである。だからこそ、「将来」ではなく、スピード感をもって、全額を目先の対応
 に充てていくべきだ。
・新型コロナウイルスの影響で生じた経済苦を理由に経営者が命を落としたり、企業が倒
 産したりしてしまう事例が現在進行形で増えている。しかし、一度死んでしまった人が
 生き返ることはないし、倒産してしまった企業が元通りになる可能性は著しく低い。
・そもそも「V字回復」というのは問題収束後に、問題発生前にいたプレーヤーがそのま
 まの状態で経済活動に参加する時に初めて起こる。収束後に多くのプレーヤーがいなく
 なったり、体力を失っていたら当然、起こりえない。
・今回の新型コロナウイルスへの対策では、その経済への悪影響というリスクをとってま
 で、経済活動を意図的に縮小させている。なぜなら、現時点ではインフルエンザとは違
 い、予防接種やリレンザ、タミフルなどの特効薬がないからだ。この判断は正しいと考
 えるが、インフルエンザなど他の感染症が流行している時にはしないような経済活動の
 縮小を行っているわけだから、それなりに特別な経済対策をとらなければ、それがもた
 らす経済苦を理由とする死者が発生するということになる。
・コロナによる経済の悪化に対して適切な対応がとれなければ、結果として新型コロナウ
 イルスによる死亡者数よりも、本件による経済苦を理由とする死亡者数の方が多くなっ
 てしまうかもしれない
・非農業部門雇用者数は、リーマン・ショック以来の大幅減となったが、職種。業種別の
 内訳を見ると、情報通信や金融、会計、経営コンサルティングなどの専門性の高い職種
 はわずかながら増加している。これらの職種はリモートワークでもサービスの提供が可
 能だ。一方、大幅に減少した職種は娯楽、宿泊、飲食といった体面でのサービス提供を
 メインとするものだ。
・これから類推できるのは、今後はリモートでできる仕事はますますリモート化が推進さ
 れるということだ。どうしても対面にならざるをえないサービスに関しては、ドローン
 などを含むロボットや、AIを活用することで、極力自動化して人を使わないようにな
 っていく。なぜなら、新型コロナウイルスの問題が収束したとしても、また新たな感染
 症によって、今回のような事態が引き起こされるかもしれないし、そもそも人を雇うよ
 りはロボットやAIに任せてしまった方がコストパフォーマンスがいいからだ。そうな
 ると、新型コロナウイルスの問題が収束した後も、単純労働や付加価値を生み出しにく
 い職務に従事していた人たちは働く口を失いかもしれない。
・新型コロナウイルスによる感染状況は深刻になる一方だが、株式市場という観点からす
 れば3月が最悪期だったのかもしれない。月間騰落率を見てみると、日本では20年3
 月がマイナス10.5%、米国では20年3月がマイナス13.7%となっている。今
 回のコロナショックによる株式市場の急落がいかにすごかったかがわかるだろう。
・株式市場が短期間でこれだけ下落したのは、投資家が新型コロナウイルスが経済や企業
 業績に与える悪影響を正確に判断して、株式市場がそれを織り込んだというわけではな
 いだろう。なぜなら、新型コロナウイルスの問題がいつどのようなタイミングで収束す
 るかは誰にも予測できていないからだ。
・では、なぜこれほどまでに株式市場は暴落したのか。それはテクニカルな理由がある。
 昨今運用業界を席巻しているインデックス運用やリスク・パリティ運用の存在に加え、
 アルゴリズム取引、AI取引が普及した。そのため株式市場が一度大きく下落すると、
 運用の仕組み上、多くの銘柄が業績に関係なく一斉に売られやすくなる。
・コロナ禍は世界各国が同じ問題に直面している稀なケースである。その中で、程度の差
 はあるものの、各国が抱えていた共通問題に光りが当たるようになってきた。それは
 「貧富の差」だ。
・コロナショックは非常に厄介だ。最初に外出の自粛要請、都市封鎖、入出国制限などに
 より、「ヒト」「モノ」に影響が出て、その後に「カネ」に影響が出ているわけだが、
 問題の根本にある「ヒト」「モノ」に対する対応が非常に難しい。ウイルスによる感染
 拡大を抑えるためには経済活動を自粛させなければいけないが、その自粛の度合いが強
 すぎると経済が死んでしまう。一方で、経済を重視して外出規制を弱くしすぎると、そ
 れこそウイルスで大量のヒトが死んでしまうかもしれない。ある意味では「経済苦によ
 る死者」と「ウイルスによる死者」という2つのトレード・オフの関係にあるものの間
 で、最適な方法を求められている。
・ただアクセルを踏めばいい通常の危機に比べて、今回はブレーキを踏みながらアクセル
 も踏まなければいけないため、舵取りが非常に難しい。しかも、今回の問題の根源はウ
 イルスであり、現時点では特効薬もワクチンもなく、薬の開発や、ほとんどの国民が自
 然と免疫を持つようになるまでには早くても1年はかかるといわれている。この難しい
 舵取りを長期間にわたってしていかなければならない確率が高いのだ。
・だが暗い話ばかりではない。今回は各自が自粛して消費をしていないだけで、震災や戦
 争によって供給能力が破壊されたわけではない。そして、少なくとも現時点では金融危
 機は起きていない。企業側も先行きが不透明だから投資を手控えているだけだ。本件が
 収束した後の回復局面では過去の経済危機とはまったく違う景色が見えるだろう。それ
 だけに、危機の最中では極力財政出動をして、問題発生前の状態をとにかく維持するこ
 とが重要なのだ。

日本はMMT(現代貨幣理論)を実証していた?
・筆者はMMTが主張する全ての理論に対して同意はしないが、少なくともいまの状況に
 おいてはMMTが主張する理論の一部を実践すべきだと考えている。
・そもそも景気後退をしているのに消費増税をした理由は第一に国家財政健全化のためだ。
 また、新型コロナウイルス禍のいま、実態としては他国に見劣りする財政出動しかしな
 いのも財政健全化を優先したからだろう。要は財政健全化のためには現在ある財政赤字
 を減らして、黒字に持っていきたい。そうしないと国家が破綻するという考え方だが、
 MMTは「財政黒字こそ、経済にブレーキをかける元凶だ」と考える。
・MMTの特長の1つに「自国通貨を発行できる政府は、自国通貨建てで支出する能力に
 制約はなく、デフォルト(債務不履行)に陥るリスクもない」という主張がある。つま
 りMMTという考え方が正しいとすれば、日本は財政出動しても破綻しないのである。
・このMMTという考えに光を当てたのは2人の米国人女性だった。1人はアレクサンド
 リア・オカシオ=コルテス
。2018年の米国中間選挙にて、29歳で米国史上最年少
 の女性下院議員についた。彼女は、ヒスパニック系であり、元バーテンダー。
・なぜ若いオカシオ=コルテスがこれほどまでに大胆な考えを持っているのか。そこには
 1人の支援者がいた。それがもう1人の女性、経済学者のステファニー・ケルトン(ニ
 ューヨーク州立大学子教授)だ。
・国内外で注目を浴びるMMTに対して、見解の多くは否定的である。
・FRBの歴代議長の多くはMMTに対して否定的だ。前議長のジャネット・イエレンは、
 「MMTを支持しない。この提唱者は、何がインフレを引き起こすのか混乱している。
 MMTはハイパーインフレを招くものであり、非常に誤った理論だ」と語り、同じく元
 FRB議長のアラン・グリーンスパンも「MMTが実戦されれば、外国為替市場を閉鎖
 しなければいけない。どうやって為替交換すればいいのか」と答えている。
・日本でも、麻生財務大臣が、「これは財政規律を緩めるということで、これは極めて危
 険なことをなり得ると、そういった実験にもっとも適しているからといって、この日本
 という国をその実験場にするという考え方は私どもは持っているわけではありません」
 答えている。同じく黒田日銀総裁も「このように財政赤字や債務残高を考慮しないとい
 う考え方は極端な主張であり、なかなか受け入れられないのではないかというふうに考
 えております」という否定的な反応だった。
・MMTが正しいのならば、自国通貨を発行できる日本は財政赤字や国債債務残高を気に
 する必要はないわけで、そもそも消費増税をしなくてもよいのだが、なぜ増税を実施し
 たのか。 
・基本的には社会保障費は保険料で賄うものだが、それだけだと現役世代に負担が集中し
 てしまう。そこで、国債の発行や税金でも賄っているが、国債は子どもや孫の世代に負
 担を先送りにしていることと等しいとして、消費増税によって財政の健全化を図ろうと
 した。
・消費税を増税する国側の理由としては3つ挙げることができる。
 @消費税は所得税や法人税に比べて、景気の動向に左右されにくく、安定的に徴収でき
  る。
 A消費税はモノを買ったり、サービスを受ける際に支払うため、現役世代だけではなく、
  国民全体が支払う対象となり、公平だ。
 B消費税が収入や貯蓄、投資には課税されないため、消費以外の経済活動には影響を与
  えない。
・今回の消費増税による増収分に何に使うかだが、当初、消費税が8→10%に増税され
 ると、国の税収は5.6兆円増えると試算されており、そのうちの4分の3を借金の返
 済、4分の1を社会保障の充実に使うとされていた。しかし、自民党は選挙の公約の中
 で増収分の使途を変更した。借金の返済は増収分の4分の3ではなく、2分の1に減ら
 し、残りの税収については1.7兆円を少子化対策(幼児・高等教育の無償化)に、残
 りの1.1兆円を社会保障費に充てるとした。
・なぜ増収分の使途を変更したのか。それは、消費税を5→8%へ増税した14年度の実
 質GDP成長率がマイナスに転落したからだ。
・日本の財政状態は消費増税してもなお厳しい状態にある。それでは、他国と比較すると
 日本の財政状況はどれほど厳しいのか。GDPに対する債務残高の比率を比較してみる
 と、日本の債務残高の対GDP比は235%で、全188カ国中188位と最下位であ
 る。主要7カ国(G7)の中でも財政不安の印象があるイタリアの131.3%より、
 遥かに高い比率だ。
OECD(経済開発機構)は19年4月に公表した報告書の中で次のように評している。
 「日本は主として消費税に依拠して歳入増加は図るべきである。そのためには、税率を
  20%から26%の間の水準へと引き上げることが必要である」
IMF(国債通貨基金)は18年に公表した報告書の中で次のように評している。
 「財政健全化は消費税を少なくとも15%まで段階的に引き上げることを中心に進める
  べき」 
・国際機関から見れば、日本の財政状態はそれほどの対応をしないといけないという危機
 的状況にあるという認識なのだ。 
・財政健全化を優先して消費税率を引き上げると、消費は落ち込み、ひいては経済成長が
 鈍化し税収も増えない。しかし、消費税を上げずに現状を維持すれば、日本の財政は悪
 化していく。
・財政赤字が多いため財政出動はできない。減税もできない。金融政策はこれ以上金利を
 下げられず、打てる手が限られている。このような手詰まり感がある中で、MMTに注
 目が集まったのだろう。日本は円という自国通貨を発行できるわけだから、債務残高を
 気にすることはないというMMTの主張に基づけば、財政政策には十分の余地があるこ
 とになる。
・MMT提唱者の経済学者・ケルトン教授は、「債務残高の対GDP比は、長いこと90
 %という水準が皇帝債務の持続不可能になるポイントと言われていたが、その数字が
 100%、200%と変わっていき、日本既に200%を超えているが何も起きていな
 い」と指摘している。
・たしかに、世界的に見て日本の債務残高の対GDP比は非常に高いが、一方で金利も物
 価も低いままである。従来の定説からすれば、現在の日本の状況は説明がつかない。
・ケルトン教授に言わせれば、日本の現状はあくまでMMTを実証したというだけであり、
 実際にMMTを基に政策をとっていれば、より高い成長率を実現していたと言っている。
・しかし、世界的に見ても、MMTには否定的な見方をする経済学者の方が多い。ノーベ
 ル経済学賞を受賞した米国の経済学者ポール・クルーグマンも「金利の水準が成長率を
 上回ると債務は雪だるま式に膨れ上がる。債務が増えれば増えるほど、人々はそれを保
 有する見返りを求める」としている。ここで言う「見返り」は金利を指す。やはり債務
 が膨らむと金利が上昇していくというこれまで通りの意見を支持していることになる。

MMTとは何か
・あたかもMMTが経済政策であるかのように捉えられているが、それは誤解だ。
・MMTでは貨幣はどのようなものか。MMTでは貨幣を借用書として捉えている。つま
 り、MMTにおいては、貨幣の裏付けとしての商品(金や貴金属)の価値が貨幣を貨幣
 として流通させるという「商品貨幣論」ではなく、全ての人々が信用する負債が貨幣と
 して流通するという「信用貨幣論」を適用しているのだ。
・国民が国に税金を納めるにしても、納める貨幣がなければ納税できない。つまり、まず
 国が支出をして貨幣を供給しなければ、その後に税金として回収する貨幣を国民は持た
 ないのである。国が支出して国民に供給した貨幣がすべて税金として徴収されてしまう
 と、その時点ではまた国民は貨幣を持たないことになり、貨幣経済が止ってしまう。そ
 う考えると、常に国が支出している貨幣の量が、税金として回収した貨幣の量を上回っ
 ていないと、経済は回らない。少なくとも成長していかないということは理解できるだ
 ろう。
・MMTにおいて、国債発行は何のためなのか。それはあくまで「金利を操作する」ため
 である。金利の操作は銀行間で準備預金の貸し借りをする短期金融市場と呼ばれるマー
 ケットで行われている。普段、この銀行間における市場金利が高ければ、中央銀行は買
 いオペ(国債を買って資金を供給する)を行って金利を下げるように調整し、逆に銀行
 間における金利が低ければ売りオペ(国債を売って資金を吸収する)を行い、金利を上
 げるようにする。
・財政ファイナンスというのは、政府が発行した国債を中央銀行が通貨を発行して直接引
 き受けることを言う。しかし日本では、それを行うと財政規律が失われ、悪性のインフ
 レが起きる可能性があるとして、特別な事由がない場合は基本、禁止している。
・しかし、明示的ではないとしても、実際には財政を陰ながら支援する形で中央銀行によ
 る国債購入は行われているわけだから、政府支出の財源として国債があるという体裁は
 捨てて、財政ファイナンスをして、国債を廃ししてしまえばいい、という意見もある。
・一般的には「政府」と「中央銀行」に分けて考える。しかし、これはMMTを理解する
 うえではよろしくない。なぜならMMTでは政府と中央銀行をあわせて「統合政府」と
 して考えるからだ。
・中央銀行が発行する通貨が民間に流通し、決済機能を持つためには、政府への納税手段
 として使用できるという大前提がある。また政府が政府支出を行う場合、中央銀行が民
 間銀行と調整をする必要がある。この2つの観点から、政府と中央銀行を完全に分離し
 て独立した主体として考えるのは難しいというのがMMTの主張だ。
・一国の経済を「統合政府」と「民間」という2つの主体で考えると、「国財政赤字は国
 民1人当たりの借金〇〇〇万円」表現はおかしい。民間が通貨を保有している場合、そ
 れは資産である。そして、2主体しかない世界であれば、通貨を発行した政府から見る
 と負債となる。通貨は政府への納税手段であり、統合政府は徴税として通貨を回収する
 こともできる。統合政府発行分と民間保有分の通貨は相殺できる関係にある。だから、
 国の借金を人口で割り、1人当たりの借金(負債)という表現は、少なくともMMTの
 考え方からすれば「おかしい」のである。
・また、この統合政府と民間という2つの主体で考えると、財政赤字が悪という考え方も
 変わるだろう。統合政府が通貨を民間に発行し、その一部を税金として回収する仕組み
 でないと、民間に通貨は残らない。つまり、貯蓄されていかないわけだ。民間が経済を
 回していくためには、徴税によって回収する通貨量は、統合政府が民間に発行した通貨
 量を下回っていないといけない。よって、ある程度の財政赤字というのは必要であって、
 財政赤字が発生するということは民間の赤字が膨らんでいると考えられる。
・世の中には様々な税金が存在するが、MMTでは悪い税が存在するとしている。
 @社会保障税:
  社会保険料は労使折半なので、半分を会社側が支払う必要がある。同じ作業をする人
  間とロボットが同じ費用だとすれば、経営者は人間ではなく社会保険料を支払う必要
  がないロボットを選ぶだろう。しかも、社会補償税は世界共通のものではない。だか
  ら社会保障税を導入している国は、貿易において不利となる。
 A消費税:
  国民はモノやサービスを購入することで生活の質を向上させているのであり、国消費
  税を課して国民の購買力を奪うのはおかしい。また、消費税には「逆進性」があるた
  め、所得が低ければ低いほど消費税のダメージは大きい。
 B法人税:
  法人税も低賃金化と商品への価格転嫁というかたちで、結果的に労働者と消費者が負
  担する形になる可能性が高い。また、法人税は企業の意思決定を歪める可能性もある。
  つまり、企業にもっとも合理的な意思決定をするのではなく、法人税の課税対象にな
  る利益ができるだけ少なくなるような意思決定を促してしまう。
・従来の考え方では、外部から銀行に現金が持ち込まれると、銀行はその金額の一部を行
 内に残し、それ以外は貸し出しに回すとされ、それが新たな預金を生み出す。つまり、
 従来の考え方では、外部から持ち込まれた現金が貸し出しに回ると、預金が発生するわ
 けだ。これを「外生的貨幣供給理論」と呼ぶ。これに対してMMTでは銀行が貸し出し
 をすることで預金が発生するという考え方をとる。これを「内生的貨幣供給理論」と呼
 ぶ。
・企業が銀行から借り入れをした場合、銀行の貸借対照表には貸付金という勘定科目が資
 産側に計上される。同時に銀行では預金が負債側に計上される。一方で、企業では預金
 が資産に、借入金が負債に計上される。
・誰かの赤字は他の誰かの黒字であるから、企業や家計を黒字にしようとすれば、政府部
 門などその他で 赤字が生じなければいけない。現在の日本は少子高齢化と人口減少が
 進み、消費増税やコロナ禍の影響もあり、家計も企業もお金を使いにくい状況かだ。
 (民間の)黒字が縮小していく中で、経済を成長させようとすれば、その他の部門、つ
 まり政府部門が赤字を出す必要がある。MMT支持派が「お金をばらまけ」と主張する
 のはこういう理由からなのだ。
・消費増税や新型コロナウイルスで景気が悪化すれば、国は何かしらの対応をしなければ
 ならない。その際、何かしらの対応としては金融政策と財政政策が挙げられる。MMT
 によれば、金融政策の効果に対しては懐疑的だとしており、財政政策が重要であるとし
 ている。
・日本は、異次元とまで言われる金融緩和をしているにもかかわらず、完全雇用が達成さ
 れているわけでもない。デフレではないものの低インフレ状態が長期にわたって続いて
 いる。MMTの支持者からすれば、金融緩和が有効なのであれば、日本は既にデフレや
 低インフレ状態を脱却しているはずだし、もっと高い成長率を実現しているのではない
 か、ということになる。
・現在の金融政策の考え方をごくシンプルに言ってしまえば、「物価上昇率を見ながら、
 景気が良くなりインフレがすすめば金利を上げて引き締めを行う。不況になり、物価が
 下がってきたら金利を下げて緩和する」ということだ。
・これに対して、MMTでは、政府債務がどれほど累積しているかや、財政赤字額がどれ
 ぐらいかということとは無関係に、インフレが亢進すれば緊縮財政、不況になれば財政
 拡張をするという発想なのだ。語弊を恐れずに言えば、MMTは従来金融政策がやろう
 としたことを財政政策で代替しようということである。
・金融政策の効果の1つとして、金利を引き下げることで企業が積極的に借り入れをして
 投資をすると考えるが、企業が投資をする理由はそれによって見込まれる売上の増加が
 あるからだ。だから企業業績だけを考えると金利の影響はそこまで大きくないともして
 いる。
・中央銀行が銀行に対する資金供給を増やせば、企業への融資が増えるという考え方もあ
 るが、 MMTが支持する内生的貨幣理論に基づけば、貸し出しが出発点になるため、
 いくら中央銀行が銀行に資金供給をしたところで、資金需要がなければ貸し出しは増え
 ないわけだ。実際、日本でも日銀が量的緩和や異次元緩和をした際に、資金需要がなく、
 当座預金に資金が「ダブ積み」されているだけという批判があったのを覚えている方も
 多いだろう。
・MMTは従来の金融政策や財政政策に対して新しい観点を提供しているが、輸出や輸入
 についても従来とは違う考え方を持つ。通常は輸出をすると儲かり、輸入をすると自国
 からお金が出て行ってしまうと発想するだろう。しかし、実物的な観点で見ると、輸出
 をすれば実物が国外に出ていき、輸入をすれば実物が自国に入ってくることになる。だ
 から輸出は費用であり、輸入は便益と捉えることができる。
・MMTの考え方では、輸出政策は「自国窮乏化政策」と捉える。輸出は「国内資源が海
 外の人向けの生産に割かれ、生産された実物が輸出によって国外に流出し、国民は実物
 の便益を受けられない」からだ。
・MMTの中核にくる政策として、「ジョブ・ギャランティー・プログラム(JGP)」
 というものがある。MMTは完全雇用を目指す立場をとるが、JGPはかなり直接的な
 政策である。「完全雇用」とは働く意図のある人が全て雇われている状態を指している。
 つまり「非自発的失業」状態の人がいない状態を指すものの、失業率がゼロということ
 ではない。
・JGPは「独自の通貨を発行できる政府の支出能力は無制限であるため、一定賃金での
 雇用を無制限に供給する」というものである。JGPが優れているのは、ただ完全雇用
 を達成するだめだけの政策ではなく、労働力の「バッファー・ストック(緩衝在庫)」
 としても作用する点である。一般的に景気が悪くなると失業者が増えるが、その場合は
 JGPに参加すればよい。逆に景気が良くなれば、民間企業はJGPに提示去れている
 同一賃金よりも良い条件を出して、JGPが抱えるバッファー・ストックから労働力を
 引き抜けばよい。
・こう見るとJGPは非常に素晴らしい政策に見えるが、問題もある。まずはJGPにお
 いて、何の仕事をさせるのかということだ。基本的には民間企業と競争するような仕事
 は避けなければならないため、民間企業が適正な対価を受け取れないが、社会的には必
 要とされる業務が挙げられるだろう。高い専門性が求められたり、資格や経験がないと
 とでもできない仕事はJGPには向いていないため、現在シルバー人材センターで提供
 されている職務、たとえば通学路での交通管理や公園内の清掃業務、駐輪場の受付業務
 などはよいのではないだろうか。
・民間部門で貯蓄を発生させるためには、政府部門が赤字であることが基本的な状態であ
 ると考えられるため、財政黒字を積極的に目指すことはおかしいのである。巨額の財政
 赤字、世界最悪レベルの政府債務残高と言えば、私たちが住む日本がいの一番に挙げら
 れる。ただ、MMTの考え方に基づけば、日本は自国通貨を発行している国なので、税
 収による財政的な制約を課されることもない。だから財政赤字を気にせずにもっと積極
 的に財政出動をして、成長を促した方がいい、となる。
・MMTでは税収ではなく、物価上昇率が制約になるが、日本はデフレ状態にはない。む
 しろ低インフレ状態が長期にわたっているため、MMTの観点からは十分に財政出動を
 する余地があるということになる。
・MMTに対する否定的な意見の代表格ともいえるのが、「無制限にお金を刷るとハイパ
 ーインフレが起こる」というものだろう。GDPに対する政府債務の比率が高くなりす
 ぎると、国債価格が暴落(金利が高騰)し、貨幣価値が下落して輸入価格も急騰し、ハ
 イパーインフレが起きるので、政府の債務残高を増やすのではなく減らしていかないと
 いけないという考え方である。
・一方で、MMTでは自国通貨建てで国債を発行できる主権国家は、政府債務の残高を問
 題にする必要はないとしている。
・多いMMT批判は、「MMT論者はお金をいくら刷ってもハイパーインフレは起こらな
 いと言っている」というものだ。これはMMTを理解しないまま、誤解に基づいて批判
 してしまっていると思われる。
・総需要が経済の生産キャパシティを超えてしまえば、当然インフレは生じる。仮にイン
 フレが行きすぎた場合には増税や歳出削減などで対応すればいいというのがMMTの考
 え方である。つまり、MMTの枠組みであってもハイパーインフレが起こる可能性はあ
 るのだ。
・MMTを否定するのであれば、「自国通貨建ての借金ができる国が財政破綻することは
 ない」という点と、「インフレを抑制するためには増税や歳出削減をすればいい」とい
 う、どちらか、または両方を否定しなければならない。
・MMTでは、所得税(累進課税)は好景気になると負担が増え、民間の消費や投資を抑
 制する。そのため、増税や歳出削減をしなくとも財政赤字が削減され、インフレを抑制
 する効果があることも主張している。
・日本ではこの20年間で2回消費増税をし、公共投資を大幅に削減したにもかかわらず、
 世界的に見ても高い政府の債務残高がある。しかし、低インフレを継続し、更にこれか
 ら再度デフレに突入する可能性すら見えている。
 残念ながらこの現状は、またしてもMMTの主張を実証してしまうことになる。
・「日本の財政は10年後には破綻する」という話は過去20年以上続けられているが、
 いまだにその兆しは見られない。財政破綻論者は時として「オオカミ少年」と揶揄され
 ており、具体的にGDPに対する政府の債務残高が何%になれば国債価格が暴落するの
 か、という話になっても、その際に示される数字は常に引き上げられ続けてきた。
・過去の歴史を遡っても、ハイパーインフレが起きた理由の多くは、戦争で供給力が破壊
 された場合や、経済制裁によって国内の物資が不足した場合などであり、日本のような
 先進国において財政赤字だけが理由でハイパーインフレが起きたことは一度もない。
・統合政府は国民に対して納税させる際に、物納を求めることも可能だが、あえて貨幣で
 納税させている。そうすることで、貨幣が負債ピラミッドの頂点として君臨し、下層の
 負債に対する共通単位として機能するのである。仮に統合政府が発行する貨幣が納税手
 段として使えないのなら、貨幣の価値は不安定になり、結果的に他の安定した貨幣にと
 って代わられるリスクも発生するだろう。

MMTをめぐる議論と誤解
・経済政策の目的は、不況になることを防ぎ、雇用と物価を安定させることにある。一般
 的に経済政策は「金融政策」と「財政政策」の2つに分かれる。MMTは完全雇用と物
 価の安定を実現するために財政政策を重視しているが、金融政策の効果については懐疑
 的な立場をとっている。
・金融政策に関する言葉で「流動性の罠」というものがある。流動性の罠は、金融政策を
 している局面で発生する現象である。流動性とはお金を意味しており、つまりお金が罠
 にかかってしまったように動けなくなるということだ。
・そもそも景気が悪化して金融緩和を始めると、基本的には景気が上向く、または上向く
 兆しが見えるまでは続けることになる。しかし、金融緩和をすれば必ず景気が上向くほ
 ど、そこまで世の中は単純ではない。
・金利が高い間は、現金を預金として持つよりも、銀行預金より金利が高く、かつ元本が
 保証されている債券を購入していた方がいい。しかし、金利がある一定水準を下回ると、
 預金と債券の価値がそこまで差がなくなるので、債券を購入せず「いつでも現金を引き
 出せるように預金にしておこう」というインセンティブが発生する。そうすると銀行は
 資金が大量に停滞する。貸し出そうとしても景気が悪いため、借り入れをして設備投資
 するといった借り手も激減する。これを貨幣需要がなくなる、という。こうなると貸出
 を通して企業や民間にお金が流れ込まず、金融緩和によって期待される効果が発揮され
 なくなる。
・現在は世界的に超低金利状態が続き、マイナス金利の導入という異常事態まで生じてい
 るが、それでも景気が上向いたり、物価が上昇するという兆しが見えない。日本人はま
 さにこの現象に直面している。
・それでは、更にマイナス金利を深掘りしればいいか。これも、銀行の経営悪化やバブル
 を生じさせる可能性などのリスクをはらんでいるため、ここから更なる深掘りは現実的
 ではないだろう。つまり「金融政策はある一定以上の段階では機能不全になる」という
 ことだ。
・財政支出の代表格といえば「公共投資」だが、このような政府支出をする際に、国が国
 債を発行して資金調達をするとしよう。国債が大量に発行されると、金利が低い場合、
 買い手がつかないため、金利を上げて買ってもらうわけだが、そうすると市中金利が上
 昇する。するとどうなるだろうか。金利が上昇した結果、民間企業が思うように資金調
 達ができなくなる。そうすると従来であれば行われいたはずの民間投資が弱まってしま
 う。
・このように、政府支出の増大が結果として民間部門の投資を阻害してしまうことを「ク
 ラウディング・アウト
」と呼ぶ。このクラウディング・アウトという考え方は主流派経
 済学の考え方であり、MMTは否定している。
・東京五輪は延期になってしまったが、観光の世界では五輪はクラウディング・アウトを
 起こすと言われている。たとえば、五輪開催国は五輪目的の観光客が殺到するため、開
 催国の都市の航空券やホテルの料金は暴騰する。五輪には興味がない観光客からすると、
 本当はその国に観光しに行ってみたいと思っていたが、コストパフォーマンスが悪くな
 るので、結果、他の国に観光しに言ってしまう。あるいはそもそも旅行を止めてしまう。
・変動相場制の国が財政出動を行うと、大量の国債発行と、その後の景気回復局面によっ
 て金利が上昇する。景気が回復して株価が上昇すると、投機的な資金はより高いリター
 ンを求めて債券から株式に資金が移る。そのため債券価格は下落して、金利は更に上昇
 する。
・金利が上昇すると債券の魅力が高まり、海外から資金が流入して自国通貨は上昇する。
 自国通貨が上昇すると、輸出競争力が減退し、一方で輸入価格が下がることで輸入が増
 加する。その結果、輸出額から輸入額を差し引いた純輸出が減少し、結果的にGDPが
 減少する。
・このように変動相場制の下では、財政政策よりも金融政策の方が効果的だという理論の
 もとに、MMTを否定する意見もある。つまり、財政出動は効果がないから、財政政策
 で物価の安定と完全雇用を目指すMMTは現実的ではないとするものだ。
・しかし、ここもMMTの前提に立てば、財政支出事態が金利を上昇させるとはしておら
 ず、むしろ中央銀行が財政支出に伴い金融調整をするとしているため、そもそもの前提
 が実務から乖離してしまっているということになる。
・今回の消費増税では過去の消費増税とは違い、軽減税率という制度も同時に導入された。
 なぜ、軽減税率が導入されたかということを理解するにも、そして、消費増税が庶民の
 生活になぜ悪影響があるのかを理解するためにも、「逆進性」という考えを理解すべき
 だろう。
・たとえば、所得税は累進課税なので、所得が多ければ多いほど、徴税額が増えていく。
 この仕組みは富の再配分や所得格差の是正が期待される。しかし、消費税は一律で全て
 の人にかかってくる税金であり、各人の所得額や資産総額は関係がない。
・例えば、17年度は年収が400万円未満の世帯の実収入が約303万円で、支払った
 消費税から算出される消費税負担率は5.7%とある。これに対して、年収1000万
 円以上の世帯の消費税負担率は2.8%となり、負担率の差は倍になっている。
・このように、所得額や資産総額に関係なく同じ税率が一律にかかってくる消費税、実は
 低所得者ほど税負担が高くなることを「逆進性」という。これを少しでも和らげるため
 に、今回導入されたのが軽減税率である。しかし、軽減税率も完璧な税負担の緩和策で
 はない。たとえば、軽減税率は高所得者にも適用されるため、低所得者から徴税する額
 を減らすというわけでもない。
・「自国通貨建ての国債を発行してもデフォルト(債務不履行)には陥らない」という言
 葉がMMTを象徴していると考える方は多いだろう。そして、「このままの財政状態を
 続ける、または悪化させれば日本はデフォルトする」という反対意見もよく目にする。
・デフォルトという言葉に大げさな印象、たとえば国家がなくなってしまうかのような印
 象を持つ方もいるかもしれないが、デフォルトは日本語でいえば債務不履行であり、国
 に限らず企業がデフォルトすることもある。国や企業が債券を発行して資金を調達した
 際に、利払い日に利息の支払いや、満期償還時に償還金の支払いができなくなることが
 デフォルトなのである。
・MMTにおいては、インフレの兆しが見えたら財政支出を止めたり、増税することでコ
 ントロールすればいいとしているが、現実世界では増税や財政支出を迅速かつ容易に行
 うのは極めて厳しい。

アフターコロナを考える
・新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために、意図的に経済活動を縮小させている。
 そのため業績が京劇に悪化する企業や、所得が減る個人が大量に発生している。今回の
 経済危機が過去の起こったものと違うのは、ブレーキを踏みながらアクセルも踏み、経
 済を殺さないように運営していく難しさを国民全員が現在進行形で体感していることだ
 ろう。
・各国政府は「ウイルスによる死」と「経済の悪化による死」のバランスを迫られている。
 「感染の拡大防止」と「経済成長」というトレードオフの関係にある2つの中で、最適
 と考えられるバランスを求められている。
・一番重要なのはスピードだ。いまの日本では貯金がなく、事実上の自転車操業で家計を
 やりくりしている人は多い。議論が長引き、給付手続きが複雑になることで、失われる
 命が増えていくということを知るべきだ。
・一律給付をすると余裕がある人にもお金がわたるという反対意見もあるが、そのことで、
 給付されたお金は消費に回り、それによって経済が活性化される。仮に貯金に回ったと
 しても、それは将来の消費に使われる可能性はある。
・今回の新型コロナウイルスが炙り出したものは多い。経済政策は国民を救うこともでき
 るが、同時に国民を殺すこともできる。その経済政策を決めるメンバーにどれほど専門
 性があり、国民を第一に考えて動いているか、このような危機時だからこそ、日本国民
 もしっかりと監視し、記憶しなければならない。そして、選挙によって国民の評価を反
 映させなければいけない。
・今回一律10万円の給付については、「ベーシックインカムもどき」と呼ぶ人もいる。
 そもそもベーシックインカムとは何か。簡単に言えば、無条件に国民全員にお金を一律
 給付する制度と考えればいいだろう。
・ベーシックインカムのメリットはいくつか挙げられており、無条件で全員に自動的に給
 付するということから、給付漏れが生じにくいことと、各個人や各世帯の資力調査をし
 なくてもいい、つまり行政コストがかからないということが挙げられる。また、全員が
 給付対象となるため、生活保護を受け取る際に一部の人が持つかもしれない感情、恥ず
 かしさや、惨めさ、申し訳なさ、も発生しない。
・実はMMTはベーシックインカムについては否定的である。その理由はいくつかある。
 基本的にベーシックインカムで給付されたお金は課税されないとされることが一般的で
 あるため、このベーシックインカムの仕組みは貨幣の価値を著しく毀損させると考えら
 れる。また、ベーシックインカムの場合は、最低限の生活水準を達成する金額を与えて
 しまうため、現時点でベーシックインカムで給付される額と同額を、労働で得ている労
 働者がやる気をなくしてしまう。最悪のケースでは働くことを止めてしまう。その結果、
 総生産力が落ちるので、インフレ圧力が高まることもある。
・今後AIやロボットが人間の仕事を代替するとなると、いまの労働者階級は職を奪われ
 るが、富裕層は最新技術に投資をすればもっと儲かることになる。また、このような富
 は相続によって、更に一部の人間だけに独占されることとなる。
・19年時点で世界の富裕層の上位約2100人の合計資産額が、世界の総人口の約6割
 にあたる46億人の合計資産額を上回るという。それは海外の話であって、日本は格差
 がない一億総中流社会だという人がいまだにいる。しかし日本も既に立派な格差社会に
 なっている。そして、その格差は毎年大きくなっている。
・それにもかかわらず、SNS上では今回の現金給付や休業補償について、不公平さを理
 由に 、所得が減った個人や業績が悪化した企業の経営者に対して自己責任を理由に否
 定的な意見が見られた。
・実は今回の新型コロナウイルス問題への対応は、時限的であるとはいえ、格差を縮小さ
 せるという選択肢をとった場合に講じるべき策に示唆を与えている。しかし、ベーシッ
 クインカムを導入しようとすると、それこそ財源問題に行き当たる。そこでMMTを持
 ち出す人もいるが、ベーシックインカム自体を推す人からすると、ベーシックインカム
 の導入に伴い、助成金や社会福祉制度を大幅に簡素化、または廃止することで、財源は
 十分とすることもある。
・MMTはインフレが加速した際に増税や政府支出の削減をしればいいと主張するが、実
 際にそうなった時には選挙のことが頭に浮かび、速やかに適切な緊縮財政はできなくな
 る。
・18年にフランスでは、増税しようとした結果、民衆の声に負けて増税をやめるどころ
 か、従来の意図とは真逆の減税をするという事態が現実に起きてしまった。独裁国家で
 はなく民主主義をとっていると、どうしても民衆の意見を無視することはできない。
・低成長を続ける一方で格差が広がり続けると、民衆の不満が高まり、どうすればそれが
 解消されるかわからないという閉塞感が生まれてくる。そんな状況で、反エスタブリッ
 シュメントなポピュリストが過激でわかりやすいことを言うと、一大勢力になりうる。
 しかし、それはエリートから見れば「反知性主義」に映り、日本では「衆愚政治」や
 「大衆迎合」などという言葉を使って揶揄されることすらある。
・低成長で格差が広がる先進国ということで、日本はその土壌が整っている。そこにおい
 て、景気後退局面で消費増税をし、新型コロナウイルスで経済がガタガタになっても思
 い切った財政出動をしない政府がいる。ここで反緊縮を掲げて大衆の支持を得ようとす
 る政治家も出てくるだろう。
・最近は金融やITが発達したことで、誰でも気軽にビジネスを開始できるようになった。
 昔に比べれば、現在は非常に恵まれた環境が整っており、学歴や職歴がなくても、アイ
 デアと行動力さえあれば、スマートフォン1台でいくらでも稼げてしまう時代だ。故に、
 いま低所得層・貧困層にいる人たちは自分の怠慢で現状にある、と自己責任論の立場の
 人は言う。しかし、一方で興味深いのは、ある程度の成功を収めたビジネスマンではな
 く、本当にビジネスで巨万の富を得た人たちだ。彼らはかえってデモをしている側の人
 たちを救おうとしている。
・あまりにも格差が広がりすぎると、抑えきれない量の怒りの矛先が向いてしまう。そこ
 で、本当の富裕層は寄付や投資を通じて、自分の資産の一部は再配分に回しているので
 はないか。
・異常な低金利で過剰な資金供給が行われていればどうなるか。もちろんバブルが生じや
 すくなるし、バブルを巨大化させることになる。
・運用のプロがバブルだからといって、そのバブルのまっただ中にある商品に投資しない
 かというと、そんなことはない。バブルだと気づいていないから乗っかるのではなく、
 わかっていても乗っかるしかない仕組みなのだ。このように乗っかる人が増えれば増え
 るほど、バブルは勢いを増して拡大し、そしていずれ弾けてしまうのである。
・バブルがどこで起こるかはわからない。株なのか不動産なのか。はたまた金や原油など
 の商品かもしれない。しかし、これらはお金に余裕がある人が余剰資金で投資をするも
 のであって、生活必需品ではないので、投資に回すお金がない人からすれば、関係のな
 い世界だ。
・バブルが起きて、投資したお金が何倍にも増え、運よくバブルが弾ける前に現金化でき
 たという人は、過去のバブルにおいて国内だけでも何百人、何千人といるだろう。しか
 し、バブルの恩恵を受けられるのは、投資に回すお金がある人だけだ。余剰資金がない
 庶民には関係ない。
・問題はバブルとは無関係に生きていた庶民だ。バブルが弾けて不況が来れば、賃金を下
 げられたり、解雇されたりするのは従業員だ。しかも、真っ先にあおりを受けるのはバ
 ブルの恩恵とは最も縁遠い非正規雇用やフリーランスだろう。
・これからの時代は格差拡大にどう向き合うかを決めなければいけない。この20年間を
 見ても、何度もバブルが発生し、それを抑えにいってはバブルが弾け、不況が訪れ、景
 気を刺激するために対策が打たれた。その結果、新たなバブルが発生し、再びバブルは
 弾けて不況が生じている。この繰り返しが格差を拡大させてきた要因の1つなので、バ
 ブルとの付き合いもいい加減、考えていかなければならない。
・バブルの原因を作る犯人捜しを始めると、どうしても金融政策に焦点が当たりがちだ。
 金利を引き下げ、大量の資金を供給すれば、バブルが起こりやすくなる。しかし、一方
 で金利を引き上げることでバブルをつぶしてきた事実もある。ただ、金利を下げても物
 価が上がらず、その中で金利だけを引き上げることもできないため、これまでのような
 バブル対応がとれなくなり始めている。
・将来を織り込むはずの株価は、一時期の暴落から既に回復しつつある。実態からかけ離
 れている印象を受けるが、これはバブルなのだろうか。仮にそうだとすると、「アクセ
 ルとブレーキを同時に踏まなくてはならない」現状ではこれまでの仕組みが使えないこ
 とは確かだ。
・この20年ほどでマグマのように溜まってきた怒りや不満、既存の仕組みに生じてきた
 歪みなどが表面化している。そんな中でMMTという新しい理論に、一種の希望を見出
 す人が増えてきている。特に日本の場合はMMTの理論を実証しているように思えるた
 め、日本人には比較的受け入れやすい理論でもある。
・正確にはMMT自体は新しい理論ではないが、一般的とされてきた考え方が現実には沿
 わなくなっているという違和感が、これまでの考え方と違う観点から政策を提案する
 MMTに脚光が当たる理由なのだろう。
・景気が良くなれば物価が上昇し、金利を引き上げて景気を冷やす。景気が悪くなったら
 金利を下げて景気を刺激する。景気が悪くなれば財政出動をするが、財政赤字が拡大す
 ると国債価格は暴落(金利が急騰)し、通貨安が進み、ハイパーインフレになる。
・ところが、日本の現状は全く違うわけだから、個人的には実態に沿った新しい経済学が
 生まれてもいいと考えている。新しい経済学と言うと大げさかもしれないが、少なくと
 も変化していく部分があって然るべきだろう。
・経済政策の恐ろしいところは、一度に何千人、何万人という命を奪えてしまうことであ
 る。しかも、不況にすることで人の命を奪うだけでなく、かろうじて命を落とさなかっ
 た多くの人たちにも大きなダメージを与える。景気が回復していく局面でもダメージを
 負った人たちは恩恵を受けられず、格差は拡大していく。そのうちバブルは生じるが、
 いずれ弾けて不況が起きる。多くの庶民はバブルによって資産を増やすこともなく、再
 び訪れる不況の度に被害だけを受けている。このサイクルを何度も繰り返してきて今日
 に至っているが、このサイクルの間隔は短くなってきている。