2013年、世界複合恐慌  :相沢幸悦

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この本が出版されたのは、2012年8月のまだアベノミクスが始まる前である。当時は、
世界的に経済不況という状況にあり、このままでは世界恐慌に陥るのではとの、憶測もさ
れていた時期である。幸いにも、その憶測は外れた形となっている。しかし、果たしてそ
うなのか。単に、時期がずれただけではないのか。そんな心配をぬぐい去れない。
アベノミクス景気により、それまで低迷していた株価は上昇した。しかし、それも一時期
なことで、一年後の今の株価はそれまでの勢いを失っている。日銀は「異次元の金融緩和」
と称して、大量の国債を購入してジャブジャブのマネーを市場にバラまいているが、その
効果が出ているのか、いま一つ明確に現れていない気がする。インフレターゲット論支持
者の政治家や学者は、市場に大量にマネーを導入すれば、デフレは克服できると大合唱し
てきたが、はたして、ほんにデフレから脱却できるのだろうか。
ジャブジャブのマネーを市場にバラ撒くという量的金融緩和は、「麻薬」と同じある。一
時的に効果が出ても、長続きはしない。「麻薬」の効果が薄れれば、また「麻薬」を打ち
たくなる。
こうして「麻薬」の底なし沼に、落ち込んで行くことになる。日本は金融の「麻薬中毒者」
の道を選んでしまった。
現政府は、2%の物価上昇率を目標に、インフレターゲット政策を採った。しかし、考え
てみれば、強引にインフレを引き起こさせることは、我々庶民が爪に火をともすように蓄
えてきた過去の蓄積・預貯金を、政府が合法的に収奪することを意味する。現政権の採っ
ている政策は、そういう政策なのだということを、しっかりと理解しておく必要がある。

「日本化」を恐れる世界
・1990年代と2000年代の日本の「失われた20年」は、1980年代末の猛烈な
 不動産・株式バブルが崩壊して、長期不況に陥ったことにより始まった。さらにバブル
 崩壊による不況が日本の経済・産業構造を根本的に転換することを強制したにもかかわ
 らず、度重なる財政出動により、景気のてこ入れが行われ続けた。その結果、産業構造
 の転換はほとんど進まなかったのである。
・なぜ、1980年代の日本のバブルが、あのように膨らんでしまったのか。それは、中
 央銀行である日銀の低金利政策が長期化したからにほかならない。もしバブルが広がる
 過程で、適切な利上げなどの金融引き締め措置が講じられていれば、全然違った展開に
 なっていたはずだった。
・欧米の住宅・国債・金融資産バブルが崩壊すると、世界中の景気が低迷を始めた。こう
 したバブル後の経済では、経済・産業構造を根本的に転換しない限り、不況を克服する
 ことはできない。
・欧米諸国は財政出動と中央銀行による資金供給を大々的に行なっている。アメリカは景
 気低迷を阻止するために、財政出動によるてこ入れを行った。その結果、膨大な財政赤
 字を抱えて景気が低迷し、事実上のデフレに陥っている。ギリシャは、危機前までは低
 金利で大量の国債を発行して好景気を謳歌してきたが、国債バブルが崩壊して債務危機
 に陥ってしまった。すさまじい緊縮財政を実相し、さらなる緊縮を迫られている。住宅
 バブルに沸いたスペインでは、膨大な住宅融資を行った銀行にすさまじい不良債権が累
 積し、多くの銀行が危機に陥っている。
・マーケットでは政府の債務危機と経済悪化の負の連鎖に苦しむ「欧州化」が日本でも進
 みかねないとの警戒感が強まっている。しかし、視点を世界に転じると、まったく違う
 事実が見えてくる。世界がもっとも警戒し、なんとしても回避しなければと思っている
 のは、日本の「欧州化」ではなく、いわゆる「日本化」の世界化」だからだ。天文学的
 な財政赤字が累積し、深刻なデフレに見舞われ、景気が長期にわたって低迷する。これ
 が、欧米のエコノミストが指摘する「日本化」の姿だ。
・米国もドイツも、財政赤字の削減やユーロの危機への対応で、痛みを伴う決断を避け続
 けている。こうしたことは、何も初めてのことではない。日本で1990年代初頭にバ
 ブルが崩壊して以来、政治家は、問題を先送りし続けてきた。欧米諸国で同じようなこ
 とが行われれば、日本以上に深刻な事態となる。 
・日本の経験が物語っているのは、景気が悪くなると税収が減り、景気のてこ入れのため
 に財政出動を迫られるので、財政赤字がさらに膨れ上がり、ますます成長の足かせにな
 るという悪循環である。
・1929年の世界恐慌以来、デフレに見舞われたのは、いわゆる先進国では、いまのと
 ころ日本だけだ。
・債務が積み上がるとインフレが高進することが多い。
・日本の「失われた20年」、さらに続くかもしれない「30年」は、世界史のうえでき
 わめて特異なものと位置づけることができる。世界が「日本化」を恐れるのは、世界中
 がそのような特異な状態に陥ることへの恐怖心の表れである。
・恐慌が発生すると、税収減によるデフォルトを懸念して国債は売られる。企業もキャッ
 シュ欲しさのために、国債を売り浴びせるから、国債価格が暴落する。その結果、長期
 金利が跳ね上がる。したがって、古典的な恐慌では、日本のように長期金利が1%割れ
 することなどあり得ない。
・日本で1990年代初頭にバブル景気が崩壊したとき、何が起こったか。本来なら「恐
 慌」になって、バブルを醸成した建設・不動産、流通、銀行業などの衰退産業が強制的
 に整理・統合されなければならなかったのに、そうはならなかった。超低金利政策によ
 って、借金をしていても金利負担はほぼゼロとなり、資金の返済が迫られることもあま
 りなかったからだ。また、利益の出なくなった金融機関は、優良金融商品である国債に
 もっぱら投資するようになった。こうして、長期金利は下落し続け、しばしば1%を割
 るようになった。不況下では優良な貸出先が他になく、銀行は国際以外に投資先を見つ
 けることができなかったのである。
・一方、政府は景気のてこ入れのために膨大な財政出動をおこない続けた。公共投資によ
 って建設・不動産業に仕事を与えることで、銀行への返済資金を稼がせたのだ。公共投
 資の資金は、国債発行によって調達された。
・「失われた20年」の間、GDPは年500兆円弱の水準を維持し続けた。年平均23
 兆円あまりの財政出動で、なんとか景気の落ち込みを抑えてきたのである。膨大財政資
 金によって、空港、港湾、高速鉄道建設、新幹線延長などの公共投資が行われたことで、
 表面的には不況下でも生活が「豊か」になったように見えただけだったのである。
・こうしたすざまじい財政出動により、国債発行を含む国と地方の債務残高は、2012
 年度末には最終的に1086兆円と、ついに1000兆円の大台に乗る見通しとなった。
・日本がここまで債務を膨れ上がらせることができたのは、国債の95%を国内で売るこ
 とができたからである。平成の大不況下、有利な貸出先を見つけることができない銀行
 や、大量の貯金を集めるゆうちょ銀行、かんぽ生命保険などの金融機関は、せっせと日
 本国債を買ってきた。 
・日本が、もしもアメリカ並に外国人が国債の半分を保有していれば、政府債務残高50
 0兆円レベル、すなわちGDP比100%を超えたあたりで、国債の消化ができなくな
 っていたはずである。2000年あたりでギリシャ危機と同じことが起こり、新発行国
 債が売れなくなって、長期金利もヨーロッパの重債務国が金融支援を迫られた7%まで
 上昇したであろう。5%上昇で金利の支払いは25兆円あまりにもなる。税収の半分が
 利払い費に消えてしまう計算だ。
・日本が債務残高を増やすことができたのは、貯蓄率が高くて個人金融資産が1500兆
 円もあることと、平成大不況が長期化しているからである。有効は資産先のない金融機
 関が、際限なく国債を購入してきた帰結なのである。これは日本の特殊要因だ。したが
 って欧米諸国は、政府債務残高のGDP比220%に達するまで借金できない。
・「失われた20年」とはいうものの、日本はさほど深刻な景気後退に見舞われることは
 なかった。それは、1990年代半ばからアメリカで株式バブル景気が、さらに200
 年代に入ると、欧米で住宅・金融資産バブル景気がもたらされ、日本からこれらの地域
 への輸出が伸びたからである。だが、これら欧米のバブルがなければ、日本経済はかな
 り深刻な不況に見舞われていたはずである。
・欧米は「日本化」に陥りつつあるが、「日本化」が世界に広がることがきわめて深刻な
 のは、欧米の景気の落ち込みを軽減してくれるような好景気の国や地域が、もはや世界
 中のどこにも見当たらないためである。だから今後、FRBが大量の国債を購入するな
 ど、量的緩和という非伝統的金融政策手段をいくら行っても、景気低迷から本格的に脱
 却することは容易ではない。同様に、欧州中央銀行(FCB)や日銀がいくら金融緩和
 を行っても、すぐに景気が回復するとは考えにくい。しかし、日米欧とも、金融緩和を
 続ける以外に「破滅」を避ける手段はない。果てしなき金融緩和の先に何があるのか。
  
震源地、阿鼻叫喚のヨーロッパ
・すでにヨーロッパは完全に「日本化」に陥っている。デフレ状態にこそなっていないも
 のの、「経済バブルが崩壊して、経済が長期停滞する」ことを「日本化」の基本現象と
 捉えるならば、各国がそうなってしまっている。
・「日本化」から抜け出して経済を成長させるために、ヨーロッパは緊縮財政を強引に進
 めてきた。それはまた、重債務国の国債のデフォルトを回避し、ユーロを防衛しなけれ
 ばならないからでもあった。だが、「日本化」は、緊縮財政では決して克服できない。
 経済・産業構造の大改革をしない限り、緊縮財政を進めれば進めるほど景気が後退し、
 税収減で財政赤字が増えるという「緊縮財政のジレンマ」に陥るだけである。
・国債利回りが7%を超えると、安定的にマーケットから資金調達できなくなる「危険水
 域」に入ったと見なされる。
・ギリシャ、スペイン、イタリア・・・。ユーロ崩壊の火種は、いずこも爆発寸前だ。ち
 なみにスペインの失業率は25%弱、若者のそれにいたっては50%を超えており、す
 でに1929年の世界恐慌並の水準に到達している。
・ギリシャは深刻な景気後退に見舞われている。2011年はマイナス5.4%、
 2012年はマイナス5%あまりの予測と、5年連続のマイナス成長は確実である。
・2012年3月には、ギリシャ国債の元本73%カットがほとんどの投資家に押し付け
 られた。事実上のデフォルトだった。
・スペインの債務危機は、ギリシャの債務危機とは次元が異なっている。家計や事業法人
 の抱える住宅ローンや設備投資資金の借り入れなど民間債務は、GDPの実に2.2倍
 に達しているからだ。国債を売り込まれたイタリアのこの数字は1.3倍にすぎない。
・スペインは、民間企業のバランスシートに膨大な不良債権が累積して景気が低迷すると
 いう、いわゆるバランスシートシート不況に陥っている。スペイン経済を立て直すため
 には、この民間債務を公的部門が肩代わりする以外に道はない。民間債務の半分を公的
 部門が肩代わりしても、債務残高のGDP比は180%に達してしまう。経済破綻は、
 もうすぐそこまできている。
・ギリシャの歴史と文化、風土からして、構造改革は不可能に近い。だから、いずれ反緊
 縮のすさまじい嵐に見舞われることはまず間違いない。ストライキや暴動が頻発するだ
 ろう。緊縮をやめたとしても、EUなどからの金融支援がなければ、国家公務員の給料
 も支払えない。
・いずれにせよ、ギリシャのデフォルト、ユーロ離脱により、本格的なユーロ崩壊恐慌が
 勃発する可能性は、決して低くはない。
・深刻な債務危機に見舞われている南欧スペインの2012年3月の失業率は24.1%、
 25歳未満の失業率にいたっては50.5%、なんと若者の半分が失業者である。
 1929年の世界恐慌のときのアメリカの失業率は25%あまりなので、スペインはす
 でに大恐慌状態にあると言える。バブルの崩壊により、スペインの銀行は多額の不良債
 権を抱えている。そのため、国債を購入する銀行の体力も弱ってきている。
・欧州債務危機に対する対策は実は簡単だ。重債務国の国債をECBがどんどん買い取れ
 ばいいだけのことである。実際、ギリシャ危機に対処するために、ECBはギリシャ国
 債の購入を始めた。イタリア国債の利回りが上昇し、債務危機がいよいよユーロ圏の大
 国に波及すると、今度はイタリア国債の購入も行った。
・しかし、ECBがマーケットに 流動性をどんどん供給すると、ユーロ安とインフレが
 同時に進む。それでは、ECBの唯一の使命である物価の安定に違反することになる。
・イタリアで必要とされているのは、衰退産業を退出させ、成長産業の育成やイノベーシ
 ョンによる経済成長政策を遂行することである。とりわけ、労働改革などの経済構造改
 革が求められている。ところが、労働改革は議会を通過したものの、経済構造改革など
 がいまくいかなければ、緊縮財政を遂行しながら経済を成長させることなど不可能であ
 る。こうしてイタリアでも緊縮財政に黄信号が灯りつつある。
・緊縮財政は絶望的な矛盾を伴っている。財政赤字の削減を行えば、景気が低迷して税
 収が激減し、かえって財政赤字が増えるからである。ヨーロッパは、この「緊縮財政の
 ジレンマ」に陥っている。 
・財政赤字の削減は、労働改革などの構造改革を前提として、確固たる経済成長策を推進
 し、税収を増やすことでしか実現できない。債務削減のために国民に痛みを強いれば、
 反発をくらうのは当然のことである。欧州債務危機が勃発してから軒並み政権交代が行
 われているのは、そのためである。 
・欧州債務危機は、つまるところは重債務国の国債に大量に投資してきた銀行危機である。
 債務危機を爆発させないために、銀行に大規模な流動性を投入しつづけなければならな
 い。銀行を破綻させると、融資を受けた国から資金が引き揚げられ、危機が世界中に波
 及してしまう危険性がある。

アメリカ、超金融緩和の必然
・アメリカは、リーマン・ショックによる経済・金融危機への対策で膨大な財政出動を行
 った。その結果、政府の債務残高のGDP比も100%を超えるところまで跳ね上がっ
 ている。日本の場合は、国内で国債が95%も消化されていることもあって、政府財務
 残高のGDP比は220%まで跳ね上がっているが、アメリカでは、国債の半分あまり
 が外国で消化されているので、日本ほど債務を膨れ上がらせることはできない。
・政府債務残高のGDP比が90%を超えると経済成長が止まる。とすると早晩、アメリ
 カ経済も日本のように成長が止まるはずである。
・日本では、膨大な財政赤字で成長が止まったとき、中央銀行である日銀がほとんど資金
 供給を行わなかったためデフレになってしまったとする批判がある。この「日銀批判」
 をアメリカは反面教師にしており、当初から中央銀行FRBが躊躇することなく、全面
 的な資金供給を行ってきた。
・欧米の中央銀行は、景気低迷とデフレへの対策で事実上のゼロ金利政策を量的緩和政策
 を続けてきた。マーケットにジャブジャブと資金を投入してきたが、その資金は欧米市
 場に投入されることはなく、まさに投機資金として新興国の株式市場、資源や穀物など
 の商品市場に流れていった。
・2011年末までに、リーマン・ショック直前の株価からアルゼンチンで約2倍、中国
 とインドでほぼ50%、ブラジルでほぼ40%増などとなった。欧米諸国が危機対策と
 超金融緩和を続ければ続けるほど、新興国の株式市場、資源や穀物などの商品市場が興
 隆し、株式・商品バブルが激しくなっていった。
・2010年末ごろには、FRBなどの資金供給によって、世界で流通するドルの規模は
 4兆5000億ドルあまりにも達している。リーマン・ショック前の実の2倍で、経済、
 金融危機対策で当初、米政府・FRBが投入した金額とほぼ一致する。
・流入資金の多くは、短期で運用益を得たら引き揚げるという逃げ足の速い投機資金が中
 心であったと考えられる。この資金は、アメリカなど先進国が量的緩和をもとに戻す
 「出口戦略」に踏み切る気配を見せれば、あっという間に引き揚げられる可能性が高い。
 そのあとに訪れるのは新興国バブルの崩壊である。
・ヨーロッパ経済の失速により、ヨーロッパを主要な輸出先とする中国経済にも陰りが出
 てきている。2011年の実質GDP成長率は9.2%で、2010年の10.4%か
 らヒトケタ成長へ低下した。2012年3月に開催された全国人民体表大会で、中国政
 府は同年の経済成長率の目標を7.5%に引き下げることを明らかにした。IMFは、
 欧州債務危機が深刻化すれば、成長率は4%台まで落ち込む可能性があると予測してい
 る。
・世界経済・金融危機対策で欧米の政府と中央銀行が膨大な資金供給を行うと、資金のほ
 とんどが新興国と商品(資源・穀物)市場に流入し、新興国バブル・新興国通貨高、商
 品バブルがもたらされた。新興諸国は通貨高に対処すべく、積極的に新興国通過売り・
 ドル買い介入を行ったが、そうすると過剰流動性が発生し、インフレが高進した。そこ
 で新興国は、バブルとインフレに対処するために金融の引き締め政策に胆管した。
・新興国が金融緩和に転換してしばらくすると、日米欧の中央銀行が金融緩和や資金供給
 に踏み込んだ。そうすると、金融(流動性)相場となって、世界的に株価や商品価格が
 上昇した。ところが、実態をともなわない金融相場は、すぐに化けの皮が剥がれる。ア
 メリカの雇用増が低い伸びにとどまるとともに、欧州債務危機がますます深刻化し、い
 よいよ世界経済の失速が明確になってくると、新興国といえども抜本的な景気対策を取
 らざるを得なくなる。たとえ欧米諸国の景気が失速しても、新興国が世界経済を牽引す
 るという「デカップリング」など、まやかしにすぎないことが明白であるからだ。
・欧州債務危機などによる世界経済の鈍化もあって、アメリカの個人所得や個人消費が
 冷え込んできている。アメリカのGDPの7割も占める個人消費が増加しなければ景気
 が上向くことはない。この個人消費の拡大にとって不可欠なのは、何と言っても雇用の
 拡大である。
・おかしなことに、FRBは、「連銀法」で物価の安定だけでなく、雇用の確保も義務付
 られている。欧米諸国では、雇用の確保に責任を持たされている中央銀行など存在し
 ない。

日銀、大失敗!
・物価の安定のためには中央銀行の独立性確保が不可欠であるとして、独立性を強める方
 向での法改正を推進してきた。政府が中央銀行総裁の首を切れるとなると、ヒトラーが
 戦争遂行のために中央銀行を金庫代わりにした、そのときと同じになってしまう。
 デフレ解消のためにインフレターゲットを設定するとすれば、結局、日銀がマネーを投
 入する必要がある。そしてそのマネーの行き先は、あくまでも成長分野の産業でなけれ
 ばならない。そうでなければ、結局、日銀の資産が不良債権化し、その損失が政府、ひ
 いては国民に店化されるだけになるからである。
・日銀が自らデフレ政策をとった事実はない。むしろベースマネーを増やしているのに、
 実体経済に資金需要がないので、資金がマーケットに回らず、その結果、デフレになっ
 てしまっているだけである。したがって本来は、日銀にデフレ解消の金融政策を求める
 こと自体無理上がるのである。
・日銀は従来、インフレターゲットを採用しても物価上昇効果を期待できないという立場
 をとっており、白川日銀総裁も、物価上昇率を過度に重視した金融政策は逆に経済の安
 定を損なうと述べていた。天文学的な財政赤字を抱える日本で財政再建を行うには、消
 費税引き上げしかないという世論操作が行われてきた。だから、景気対策として財政出
 動を行うなど、とんでもないことであった。
・実は、日銀のバランスシートは国債の購入などで、すでにFRBより膨れ上がってしま
 っている。与野党議員は知らないのかワザとなのかは不明だが、FRB並にバランスシ
 ートを膨れ上がらせろとの大合唱を行った。
・戦時中に制定された旧「日銀法」に戻れば、政治の圧力で景気対策のために日銀が政府
 の「金庫」代わりになってしまい、かつてのように、すさまじいインフレが起こってし
 まう。
・中央銀行が政治的圧力に屈して本来行うべき政策を行わないと、最終的に通貨の信認が
 損なわれる。
・日銀に批判的な政治家や学者は、デフレは貨幣的現象であるとする。したがって、イ
 ンフレターゲットを設定して、大量のマネーを市場に導入すれば、デフレは克服できる
 し、「日本化」から脱却できる、と主張する。デフレが続くのは、日銀がアメリカのF
 RBのように、思い切った金融緩和をおこなってこなかったからだとし批判してきた。
・日銀のフル出動による「デフレ脱却」「日本化」からの脱却の布陣が整い、いよいよ日
 本は「麻薬中毒」経済に一直線に突き進むことになる。政治の圧力に屈した中央銀行の
 なれの果てである。
・ETFとJ・リートの買い取りを決定し、「銀行券」を事実上放棄したことは、これか
 らの日本経済にとってきわめて重要な意味を持っている。すなわち、世界経済の低迷が
 深刻化していけば、長期国債の買い取りを増やして長期金利の低下を誘導するとともに、
 どんどんETFとJ・リートの買い取りを行って、株価と地価の上昇をはからなければ
 ならないからである。
・日銀がニューマネーでETFとJ・リートを買い取るということは、株式と土地に架空
 の需要が発生するということなので、株価は上昇する。しかし、実体経済的な根拠がな
 ければ、それはあくまでバブル的な価格上昇にすぎない。
・抜本的な産業構造改革を断行せずに、日銀が大量の日銀券でETFとJ・リートを買い
 続ければ、株価と地価のバブルが発生するだけである。
・経済・産業構造の大改革が進められなければ、株価と地価が上昇する実体経済的前提は
 整わない。結局、日銀がデフレ脱却と景気の下支えのためにETFとJ・リートを買い
 続けざるを得ない。まさに「麻薬」のようなものである。
・「麻薬中毒」で「心身がボロボロ」になるように、株価と地価のバブルが崩壊する。何
 かのきっかけで、投資家がETFとJ・リートの大量の売りをしかけるからである。 
・今度、株価と地価の暴落で天文学的不良債権を抱えるのは、市中銀行ではなく中央銀行
 たる日銀である。もしも、日銀を「倒産」させてしまうと、経済の「血液」である日銀
 券の信認が地に落ちることになる。財・サービスの反対側を流通するのが日銀券なので、
 その日銀券を誰も受け取らなければ、日本経済は崩壊するから、結局は政府が日銀の損
 失を肩代わりせざるを得ない。すると財政危機はさらに深刻なものとなり、日本国家の
 「破綻」を迎えることになる。
・電力料金の値上げや資源価格の高騰などによって仮に消費者物価上昇率が2%を超えて
 も、日銀は金融緩和をやめて引き締め政策に転換することはできないであろう。日銀の
 物価の安定目標が、2%以下のプラスの領域であるにもかかわらず、その時必ずしも景
 気が上向いているとは限らないからである。 
・公共料金や資源価格が上昇しても、長期不況下にある日本で企業が価格転嫁することは
 難しい。結局、企業が価格上昇分を被るので収益が減少するとともに、人々は買い控え
 するので、景気が冷え込んでしまう可能性が高い。
・もしも、「オンフレターゲット」が採用されていれば、物価上昇率が2%を超えたら自
 動的に金融引き締め政策を行っても、政治家は一切口出しできない。それがインフレタ
 ーゲット政策なのである。ところが、いざ事態がそういうふうになると、くだんの日銀
 の説明が政治家に逆手にとられる可能性が高い。「金融政策を導入するとき、インフレ
 ターゲットではないと言ったのではないか」と。味をしめた政治家は、日銀総裁を国会
 に呼びつけ、さらなる金融緩和圧力をかけるだろう。
・景気が悪化するなかでは、物価が上昇しても金融の引き締めを行うことなど日銀にはで
 きない。逆に、景気の悪化を防ぐために、国際とETFとJ・リートの買い取りをさら
 に拡大させられるに違いない。
・世界的な景気の減速と株価の下落が進行すれば、日銀がマーケットから国債を買い入れ
 るだけでは、景気浮揚効果はない。もちろん、ETFの購入で株価はある程度は上が
 るだろうし、J・リートの購入で地価も上昇する。しかしながら、政府が大規模な財政
 出動をしない限り、本格的な景気の浮揚はおぼつかない。株価も地価も景気の高揚がな
 ければ、いくら日銀がETFやJ・リートを買い続けても、おのずと限界がある。
・1000兆円の政府債務を抱えるなかで、大規模な財政出動を行うと、日本国債の格付
 けがさらに引き下げられるばかりか、国内で国債消化ができなくなってしまう。国債価
 格が下落し、国債利回りが上昇する。そうすると、国債の利子払い費や企業の資金調達
 コスト、住宅ローン金利負担が激増し、景気が著しく後退する。金融機関は大量の国債
 を抱えているので、国債価格の暴落で、10兆円、20兆円規模の損失が発生する。そ
 れこそ銀行恐慌に陥ってしまう。
・インフレは庶民からの事実上の「徴税手段」なので、財政赤字を事実上、大規模に削減
 できる。インフレを起こしてデフレから脱却せよと主張する学者が日銀総裁になれば、
 そのように政策誘導する可能性が高まる。
・中央銀行の使命が物価の安定とされているのは、インフレが高進すると、庶民が爪に火
 をともすように貯めてきた過去の蓄積・預貯金が「合法的」に政府に「収奪」されてし
 まうからである。通貨の信認も消滅する。
・政治家・政府にとって、1000兆円の政府債務残高を「チャラ」にする、もっとも魅
 力的で「現実的」な方法こそ、ハイパー・インフレである。そうなると、消費者物価が
 数百倍から数万倍、ときには1兆倍にも跳ね上がることもある。
 
通過の信認が消滅する複合恐慌へ
・ギリシャ機器の深刻化でユーロ崩壊の危機が現実味を増すなかで、アメリカ経済の先行
 きに暗雲が垂れこめている。アメリカの財政不安とユーロの混乱が重なれば、最悪のケ
 ースでアメリカの株価は4割も下がるという。
・EUなどから金融支援を受けているにもかかわらず、ギリシャは、30兆円あまりの対
 外債務を抱えている。経済成長と雇用を確保する政策を遂行しながら、この対外債務を
 抜本的に削減することは、事実上不可能である。財政赤字削減が不十分で、EUなどか
 らの金融支援を受け入れられなければ、いよいよギリシャのデフォルト、ギリシャのユ
 ーロからの離脱、ユーロ崩壊というシナリオが現実化する。さらに、すさまじい失業率
 にあえぎ、銀行恐慌の状態に陥っているスペインが財政債権に失敗するとか、あるいは、
 フランスが財政赤字消滅に背を向けても、ユーロは崩壊するであろう。
・ECBが巨額の資金供給を続けてインフレが高進すれば、ユーロの完全崩壊に至る危険
 性がある。ヨーロッパは、「緊縮財政を行うのも地獄、インフレ政策を行うのも地獄」
 という状態に陥っている。ユーロ崩壊恐慌が勃発する可能性は決して低くない。
・1929年の世界恐慌において、景気の落ち込みを何としても防ぎ、失業者を減らすた
 めに、世界各国が必死になって為替切り下げ競争を行った。自分の国の通貨を切り下げ
 れば、輸出が有利になって景気の浮揚にきわめて有効だからである。相手国から見れば、
 為替切り下げは、犠牲の押し付けなのである。当然、相手国は対抗処置をとって、為替
 を切り下げる。結局、1929年の世界恐慌による為替切り下げ競争のなかで、友好国
 が共通関税などをかけて外国に需要が逃げないようにする「ブロック経済化」が進み、
 第二次世界大戦へと突入していったのである。
・世界複合恐慌の特徴は、それがユーロ崩壊の危機やドルの信認の欠如などをともなって
 いることである。このことが、いままでの世界恐慌と大きく違っている。だからこそ、
 ヨーロッパは、なんとしてもユーロ崩壊恐慌を回避しようとしているし、アメリカもド
 ルの信認を回避しようと必死なのだ。 
・ユーロを守るには、スペインやイタリアなどの重債務国の国債を銀行に買い支えさせる
 ために、ECBが資金供給をするしか策がない。
・なぜ、そこまでしてユーロを防御しなければならないのか。ユーロ崩壊による世界恐慌
 の勃発を防ぐためにはもちろんだが、それにもまして問題なのが、ユーロが消えるとド
 ルが唯一の国際基軸通貨に復帰してしまうからである。 そうなると世界は、ユーロ登
 場の前夜のときのように、膨大な財政赤字と経常収支赤字を抱えるアメリカ・ドルの暴
 落に怯え続けなければならない。
・欧米諸国の財政政策が機能不全に陥っている現状で、緊縮財政・銀行恐慌を回避するた
 めに残されている唯一の手段は、中央銀行による「インフレ・マネー」の供給しかない。
・納税者から直接税金を取り上げる方法のほかに、為政者がよく使ってきたもう一つの事
 実上の「徴税」手段がある。「金融抑圧」というのが、それである。
・厳重な金融抑圧の下では、銀行は、政府が国民から間接的に税を搾り取る道具化す。と
 いうのも、政府が通貨のみならず貯蓄や決済システムを独占することになるからである。
 政府は国民に銀行への預金を強要し、他の選択肢をほとんど、あるいはまったく与えな
 い。次に預金準備などの手段を使い、銀行に対する政府の債務を膨らませる。こうして、
 政府が債務の一部をきわめて低い金利で調達できる状況が作り出される。このように、
 金融抑圧は一種の徴税手段となっている。国民は、ほかに安全な貯蓄手段がほとんどな
 いため、やむなく銀行に貯金する。
・ECBがマーケットに膨大な資金供給を行うと、間違いなくインフレが高進する。また、
 アメリカのFRBが大規模な量的緩和の第三弾(QE3)を行うと、株価が上昇し、金利
 は低下、住宅市場が盛り上げって失業率は低下するだろう。結果的に景気は回復するが、
 ここでもインフレが高進する。
・欧米諸国が、「麻薬中毒」経済に転落した以上、日銀も包括緩和を続けざるを得ない。
 日銀が包括緩和を終結したら、景気後退に見舞われるだけでなく、超円高が再現するこ
 とになるからである。当然のことながら、新興国も抜本的な金融緩和やマーケットへの
 大量の資金供給を行わざるを得なくなる。そうしないと、新興国通貨が暴騰してしまう。
 新興国で大規模な金融緩和が行われたら、ここでもインフレが高進してしまう。
・もしも、インフレ率(消費者物価上昇率)が年率10%であれば、わずか7年あまりで
 消費者物価はほぼ2倍になる。しかし、インフレ政策推進の中心は中央銀行による国債
 の直接・間接の大量購入なので、長期金利はそれほど上がらない。本来は、消費者物価
 が数百倍から数万倍、ときには1兆倍にも跳ね上がるハイパー・インフレが発生しない
 限り、インフレによる債務の「チャラ」はできない。そこまでのインフレだと、長期金
 利の上昇が追いつけないからである。だから、なんとかしてインフレ率よりかなり低い
 水準に長期金利をとどめなければならない。
・物価が2倍になれば、ギリシャの債務残高はGDP比は実質的に80%にまで下がる。
 欧州債務危機も緊縮財政恐慌も、スペインの銀行恐慌も一気に収束する。アメリカとド
 イツの債務残高も50%以下の健全財政となる。世界ダントツの財政赤字国日本でも、
 政府財務残高のGDP比がなんと110%にまで急落する。ただ、インフレの更新は、
 庶民が爪に火をともすようにして蓄積してきた貯蓄の「合法的収奪」であり、庶民から
 借金漬けの国家と企業への「所得移転」である。結局、庶民の犠牲のもとに、長かった
 世界複合恐慌がようやく収束するのである。
 
そして世界はリセットされる
・日米欧の住宅・国際・金融資産バブルが崩壊したので、本来であれば、世界恐慌に見舞
 われるはずである。だが、1929年世界恐慌と違って、人類は大規模な財政出動が可
 能となったので、恐慌の勃発を阻止できるようになった。だが、それは、かつての大恐
 慌のように、経済・産業構造の大改革を伴うものであれがいいが、そうでなければ単な
 る「カンフル剤」にすぎず、財政赤字だけが累積する。実際に日米欧は天文学的な財政
 赤字に打ちひしがれて、「金縛り」にあっている。
・ニューマネーというのは、財政出動という「カンフル剤」ではなく、「麻薬」である。
 緊縮財政による景気の後退という痛みを抑えるだけである。しかも、痛み止めではない。
 財政出動には限界があるが、マネーはいくらでも印刷できるからである。
・本来は、銀行への「最後の貸し手」のはずの中央銀行は政府とマーケットに対して「最
 後の貸し手機能」を果たすことになる。ここで勃発するのが通貨の信認が消滅する通貨
 信認恐慌である。膨大なニューマネーの投入で、景気はとりあえず回復するが、すさま
 じいインフレの嵐が吹き荒れる。中央銀行のフル出動の冷酷なる帰結というのは、「麻
 薬中毒」経済なのである。ここで、財政赤字は「事実上大幅にカットされ、日米欧の財
 政危機はあっという間に収束する。企業の債務も事実上減るが、個人金融資産も激減す
 る。庶民に甚大な苦しみを押し付けるのがインフレの高進であり、「麻薬中毒」経済な
 のである。庶民に犠牲を強いることで、日米欧の財政危機の収束し、世界はリセットさ
 れるであろう。