「10年後の日本」  :日本の論点編集部編

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 日本は自由競争社会へ大きく舵を切った。もう後戻りはできないであろう。この本は、そんな日本
の10年後の姿を、予想したものである。そして、やはりというか10年後の日本の姿は、明るいも
のではない。自由競争での少数の勝者が富のほとんどを独占し、大勢を占める敗者が辛うじて残った
おこぼれを頂戴するという、非情ともいえる格差社会が果てしなく拡大していく。問題はそれだけで
ない。そんな状態の中において、世界でも類を見ない急速な少子化・高齢化が同時進行していく。
それに伴いこれからは、大都市圏での高齢化が急速に進み、各地のかつてのニュータウンが、ゴース
トタウン化していく。急速に進む高齢化によって、年金・介護・医療などの社会福祉費用が急激に増
大し、それを賄うために、消費税率を20パーセント以上に上げざるを得なくなっていく。
 そこまでいく前にも、大きな危機が存在する。2007年から団塊世代が大量に退職していくこと
によって、各企業は多額の退職金が必要となる。中には、その退職金の負担に耐え切れずに、倒産す
る企業も出てくると言われている。団塊世代の大量の退職によって、企業倒産が続出する恐れがある
のだ。
 問題はまだまだある。一人前になれない若者のフリーターやニートの増大である。彼らは経済的に
ひとり立ち出来ずに、いつまでも高齢化した親たちに寄生し続ける。当然ことながら、結婚もできず
子どもも作ることができない。ますます少子化に拍車がかかる。高齢化した親たちの負担も増大する。
 高齢化と少子化、さらにはフリーター、ニートの増大によって、年金制度が破綻する確率は、きわ
めて高い。年金は当てにできないと、覚悟しておいたほうがよいかもしれない。
 国の財政問題も、深刻度を深めている。国の財政が破綻するのも、時間の問題と思われる状態にま
でになってきている。このまま行けば、日本の国の財政は、破綻する可能性が高い。そうなれば、ハ
イパーインフレが起こり、今の貨幣価値が紙くず同然になる。せっかくコツコツ蓄えてきた貯蓄も、
水の泡と消える。さらには、エネルギー資源枯渇、食糧不足、環境破壊も深刻だ。
 考えれば考えるほど、暗くなってしまう社会である。そんな社会を、老骨にムチ打って生き抜かな
ければならない、我が身が悲しい。「あなたは生き抜けますか?」

変わる日本社会のかたち
 ・厚生労働省が発表した調査によると、世帯ごとの所得格差の大きさを示すジニ係数は0.493と過
  去最高を更新した。1984年から7回連続で拡大を続け、0.5に限りなく近づいている。ジニ
  係数が0.5というのは、全人口の25パーセントの高所得者層が、国民の総所得の75パーセン
  トを占めている状態のことだ。ちなみに世界全体では、先進国に住む上位2割の高所得者層が、
  世界の富の、じつに9割近くを寡占しているといわれる。
 ・経営改革やサービス経済の進行によって、2010年には全就業人口に占める正社員の割合が
  50パーセントを切るという予測がある。企業内で非正規雇用が拡大するほど、事業や組織を統
  括する中核社員には高いレベルの仕事が要求される。今後10年間で生産年齢人口が900万人
  近く減少することを考えれば、そうした能力やキャリアを持つ人は、代替の利かない貴重な人材
  として、会社からいま以上に厚遇されるにちがいない。
 ・「自由な競争」は、勝者にすべてをもたらす。その反面、当然のことながら、無残な敗者に転落
  するリスクもつねに伴う。オンライン取引でも、専門家によれば、ほんとうに市場で「勝ってい
  る」ディトレーダーは1割にも満たないという。競争が激化するほど、市場から遠くはじき飛ば
  されるリスクは増大するのだ。
 ・こうした不確実性の渦は経済活動から日常生活の隅々まで広がり、いまや個人の通常の努力で
  は乗り越えられないほどの格差を生み出しつつある。
 ・80年代までなら、一流大学を卒業した男性はたいてい上場企業に就職できた。終身雇用で定年
  まで勤め上げれば、厚生年金が支給され、それなりのゆとりある老後が保証された。「勝ち組」
  も「負け組」もない、”中流”が社会の最大公約数だったのだ。
 ・それが現在では、一流大学を出ても定職に就けない若者は少なくない。大企業に入ったからとい
  って、倒産しない、リストラされないという保証はない。自由な競争社会とは、自己責任の名の
  もとに「リスクをとることを強制される社会」と表裏一体なのである。
 ・かつての日本社会は、リスクはあっても、そのリスクから弱い立場の個人を守り、支援する”セ
  ーフティネット”が整っていた。それは第一に苦楽をともにする家族の絆であり、地域コミュニ
  ティであり、雇用確保の場としての企業であった。さまざまなリスクに対応する社会保障システ
  ムが一定の生活レベルを保証し、所得の再配分機能を果たしていた。1990年代半ばまでの日
  本の犯罪率がきわめて低かったという事実は、こうしたセーフティネットが人々に精神的な安定
  をもたらしていたことを裏付けている。
 ・しかし、今は逆だ。一家の主人が職を失うと、見捨てられかねない。生活の安定を保証していた
  日本的な会社組織も、安全だった地域社会も壊れ、年金、医療、介護保険、といった国の社会保
  障制度まで危くなってきた。10年も経てば、個人の能力だけで激しい生存競争を生きぬかなけ
  ればならない逆肉強食の世界に、放り出されているかもしれないのだ。
 ・親の職業や経済力が子どもの職業を決定しているとも言われ、日本の階級社会化が指摘されるよ
  うになった。強者の子どもは強者として育てられ、弱者を親に持つ子どもは、結果的に弱者にな
  らざるをえない。とすると、いまのままでいけば、10年後、20年後の子どもたちの未来は、
  すでに勝負がついているということになる。
 ・このまま非正規雇用の拡大が続けば、「親子二代のフリーター」世帯が日本経済の底辺を占める
  ようになるのは時間の問題となる。
 ・ここ10年で日本の治安が悪くなったと思う人は全体のおよそ9割、自分や身近な人が犯罪に遭
  うかもしれないという不安を感じている人の8割を超えた。多くの人々が、どこで犯罪者と出会
  うかわからない、とおびえているのだ。事実、1970年代には年間150万件前後で推移して
  いた刑法犯の認知件数が、今や倍の300万件に達しようとしている。
 ・さらに問題なのは、警察の検挙率が低下していることだ。80年代まで60パーセント前後の検
  挙率を誇っていたのだが、2000年以降は20パーセント前後まで落ち込んでしまった。先進
  国の中でも最も検挙率の低い米国やスウェーデンと同じレベルになった。
 ・今後は経験豊富なベテランが大量に退職し、2013年までに全国の警察官の4割が入れ替わる。
  「量」は補うことができても、「質」を維持できるかどうかは大いに疑問だ。
 ・一方、社会はますます犯罪に弱い環境になっていくと予測される。その要因の一つが、大都市圏
  における急激な高齢化だ。これまでは若者が大都市へ出て行ってしまい、地方都市の高齢化が深
  刻だったが、今後は、戦後半世紀にわたって大都市に流入してきた人々が続々と老年に達する。
  10年後には東京、大阪、名古屋を中心とする三大都市圏に全国の老年人口(65歳以上)の半
  数が集中することになる。
 ・高度成長とともに巨大化した全国各地のニュータウンでは、第一次入居者の高齢化や代替わりに
  よって空室が目立ち、すでに虫食い状態になりつつある。人口減少が進む10年後には、完全に
  ゴーストタウン化してしまい、拉致監禁や麻薬密売など犯罪行為の温床となる可能性も高い。サ
  ラリーマンの減少によって空室の増加が心配される都心のオフィス街も、同じ道をたどる恐れが
  ある。
 ・わが国の少子高齢化は世界に類もみないスピードで進み、2015年には日本人の4人に1人が
  65歳以上の高齢者になっていると予想される。年金、介護、医療などの社会保障関係費が、
  2004年度の85兆円から、2025年には168兆円にまで倍増すると推測されている。こ
  うなると、生半可な増税や社会保険料の負担拡大でまかなえる額ではない。単純に換算しても、
  消費税率を23.6パーセントに上げなければならないことになる。これは、世界でもっとも標
  準税率の高いデンマークやスウェーデン、ノルウェー、ハンガリーなどに並ぶ税率だ。健全な財
  政と国家運営を行うには、最低15パーセントの消費税率が必要とされている。
 ・いずれにせよ、国と地方をあわせて借金が1000兆円にものぼる日本の財政赤字は、先進国中
  最悪であり、現状の税収構造のままで社会保障費の国保負担を増やすことはできないだろう。と
  なれば、今後、消費税の引き上げが国会で議論の中心になるのは必至だ。段階的な引き上げによ
  って、10年後には欧州並みの水準に近づくにちがいない。
 ・鉄筋コンクリート建築の耐用年数は約50年といわれるが、高度経済成長期に造られた建物や橋、
  道路などは、これから続々とその期限を迎える。もっとも身近な問題として、少子化で廃校とな
  った全国の小中高校の建物がある。その数は、過去10年間で約2000棟。13パーセント以
  上は使い道が未定で、高齢者向け施設などに転用された建物もあるが、維持更新の費用が重くの
  しかかっている。

鍵をにぎる団塊世代
 ・10年後の日本は、国民の4人に1人が65歳以上という超高齢社会になる。これは予測ではな
  く、ほぼ確実な未来だ。2007年から3年間で、団塊世代はいっせいに現役を退く。この大量
  リタイヤにより、労働力人口はピークの2005年から一気に120万人以上も減少、深刻な人
  手不足や個人消費の低下が日本経済を痛撃する。団塊世代の定年退職によって、日本経済は
  2010年度に約16兆円のGDP(実質国内総生産)を失う、という厳しい結果が出ている。
 ・年金など社会保障制度の信頼性がゆらぐなか、長い老後を生き抜くために定年後も働き続けたい、
  働かざるを得ない、という団塊世代は少なくない。なかでも、リストラされてローン返済の見通
  しが狂った人や、親離れしない子どもを抱えた人たちは切実だ。しかし、いまのままでは彼ら自
  身の大量リタイアが経済の縮小を招き、結果的に定年後の再就職を厳しくしてしまうおそれがあ
  る。回復に転じた景気がふたたび失速すれば、企業はさらに人件費の圧縮を迫られるのだ。
 ・10年後の団塊世代は、悠々自適を謳歌するひとにぎりの富裕層と、働きたくても職に恵まれず、
  不安な老後を過ごす「負け組」老人に二極化される可能性が大きい。高齢者間の格差拡大は、現
  役世代に比べ挽回する機会が少ない分、深刻だ。
 ・団塊世代の大半は、若い頃から高度経済成長の恩恵を受けて、それなりの財産を築いてきた。老
  後の暮らしを支える退職金や年金も、いかの現役世代より確実に多く受け取れ、生きていくには
  困らない。経済の縮小や社会保障制度の破綻など急激な少子高齢化の影響が懸念されるなか、彼
  らが”逃げ切り世代”といわれるゆえんである。しかし、人によっては、逃げ切るつもりが、思
  わぬ貧困の落とし穴にはまり込んでしまうリスクも少なくない。一般に団塊世代は、その上の世
  代に比べて多額の負債を抱えているといわれるからだ。
 ・団塊世代が借金のしがらみから解放されるのは早くて2010年以降、長引けば2015年頃に
  なるという。ところが、ここに大きな問題が隠されている。彼らが返済の原資と頼む退職金や企
  業年金が、じつは宛てにならないかもしれないのだ。
 ・各企業の年金財政の逼迫は、かねてより指摘されていた。退職給付金(退職金と企業年金)の積
  立不足は深刻で、バブル崩壊後の長期不況のなか、企業年金の破綻が相次いだことは記憶に新し
  い。そこへ、団塊世代に支払われるべき退職金、総額約80兆円がのしかかるからだ。日本の国
  家予算に匹敵するこのけた外れの負担に、はたして企業は耐えられるのか。このままでは団塊へ
  の退職金満額は支払えない、支払えたとしても、その後の年金はわからない、そういう企業が続
  出しても不思議はない。
 ・一流企業の3割が、退職金や企業年金の一時的な増大によって経営危機に陥るおそれがあるとい
  うことだ。団塊世代という膨大な数のリスクは「退職金倒産」や「企業年金倒産」さえ引き起こ
  しかねない。
 ・東京に住む団塊世代を対象に実施した意識調査によれば、定年を前に「これから一番力を入れた
  いことは」との問いに対して、もっとも多かった回答は「趣味」であった。趣味の中身について
  は、男女とも「パソコン」と「読書」が上位にあがった。ほかには男性が「インターネット」
  「ゴルフ」「旅行」、女性は「ガーデニング」「書道」「テニス」などをあげているが、現時点
  では、趣味と呼べるものを持っていない人もいる。約2割の人たちが「探している」段階にある
  と答えた。 
 ・引退して、悠々自適の生活を過ごしたいと考える人が大企業の社員に多いのとは対照的に、生涯
  現役であり続けたいという願望は中小企業経営者に強い。自営業やベンチャー企業を起こすなど
  起業への願望も強い団塊世代には、独立開業なども視野に入れた幅広い就業支援が求められてい
  る。
 ・世界に冠たる貯蓄大国といわれた日本の地位は、転落の一途をたどっている。年収から税金や社
  会保険料を差し引いた可処分所得のうち貯蓄に回される割合を「貯蓄率」というが、この値が年
  を追うごとに低下しているのだ。
 ・原因は大きく二つ考えられる。第一は、景気の低迷により可処分所得そのものが減ったこと。限
  られた家計の中では生活費や教育費といった支出が優先されるために、貯蓄に回す余裕がなくな
  ってしまった。もう一つは、何と言っても急速に進行する高齢化の影響が大きい。退職後、年金
  だけでは家計が苦しく、預貯金を取り崩して生活する高齢者世帯が増えたためだ。高齢者の数的
  な増加に加え、彼らの消費意欲そのものも旺盛になっているため、引退してもすぐには切り詰
  められず、収入の枠を超えたいわゆる「背伸び消費」で貯蓄を取り崩しに拍車がかかっていると
  いう。団塊世代の大量退職をうけて、2010年には、貯蓄率が3パーセント程度まで低下する
  と予測している。
 ・だが、けっして悲観的な見通しばかりではない。一般的な団塊世代の場合、住宅ローンの完済や
  子どもの大学卒業、親の死にともない介護負担からの解放などによって支出が大幅に減少するこ
  とに注目し、それが収入の目減りを補って余りあるという予測もある。
 ・流行を牽引した団塊世代は、熟練した消費者でもある。健康関連であれ、旅行やグルメなどの趣
  味の分野であれ、徹底的にこだわった、本物志向の商品やサービスしか彼らには受け入れられな
  い。逆にいえば、そうして嗜好を的確にとらえれば、団塊世代の財布のヒモはゆるめやすいので
  はないか。

ビジネスマンの新しい現実
 ・国が新たな対策を講じないかぎり、2015年までの10年間で、わが国の労働力人口は約410
  万人も減少するという。高齢者や女性の再雇用などの対策が提言されているが、それだけでは、
  将来の労働力不測は補えない。労働過重や年金の負担増など、高齢化のしわ寄せを受けた若い世
  代が、日本社会に見切りをつけて海外に飛び出していく可能性もある。
 ・淘汰されたマンションやホテル、空室となったオフィスビルは、建て替えやリフォームなど適切
  な処置がなされないままスラム化するおそれがあり、長い目でみると都市環境や治安の悪化につ
  ながりかねない。新たなリスクを見据えた都市政策の転換が求められる。

漂流する若者たち
 ・70年代から80年代にかけて誕生したY世代は、両親とも戦後生まれで、経済成長をまったく
  知らずに育った。前のバブル世代と違って、物質欲はさほど強くない。ブランド品や高級外車、
  海外リゾートなどへの憧れよりも、地元のコンビニエンスストアや古着店などになじんでいる。
  生活の中心といえばコンビニと携帯電話で、購買意欲は概して希薄。消費者としては販売戦略が
  立てにくい、手ごわい世代といわれてきた。
 ・Y世代にとって、学歴信仰は崩壊したといっていい。たとえ名門大学を卒業して大手企業に入社
  することができても、父親たちの世代が次々とリストラの対象にされてきたからである。Y世代
  が大学を卒業した頃、就職の内定をとれるのは、10人のうち8人にすぎなかった。入社しても
  年功序列で昇進するわけではない。たとえ大企業でも、倒産の憂き目にあったケースをいくつも
  見てきた。成長を信じないY世代は、給与水準よりも自分のやりたい仕事を求める傾向がある。
 ・より困難なのは、ニート対策である。起業の求人にも応募しようとしないニートたちをそこに参
  加させるのは容易でないだろう。彼らのなかには、刹那的な生き方しかできないタイプ、対人能
  力が低いためにひきこもるタイプ、過剰な自己実現を求めるあまり「自分らしい仕事が見つから
  ない」と行き詰まっているタイプなども多い。
 ・さらに近年は、パートや派遣とは違う「個人請負」という働き方も増えてきた。個人事業主とし
  て企業から仕事を請け負うスタイルで、こちらは労災や雇用保険の対象にならず、労働基準法も
  適用されない。パートや派遣社員よりもコストが抑えられるため、外注を個人請負にシフトさせ
  る企業は今後も増えるだろう。この「個人」を労働者としていかに保護するかということも、今
  後の課題だ。実際、本来は個人と企業が対等な業務委託契約を結んでいるにもかかわらず、雇用
  契約を結んでいる社員と同様の従属関係を強いられるケースもあり、すでに多くのトラブルが起
  きている。
 ・非正社員が増加したのは、コストダウンを図る企業側の都合だけによるものではない。組織の束
  縛を受けずに、能力や個性を生かしながら、自分のペースで働きたいと考える人が増えているの
  だ。
 ・正社員として就職する人たちも、いまは「寄らば大樹の陰」の発想はほとんどない。かつてのよ
  うな大企業志向は、大きく揺らいでいるのだ。リストラが横行し、成果主義が導入されたことに
  よって、「安定」の象徴だった正社員の立場がきわめて不安定なものになっていることも、その
  要因だろう。
 ・ひきこもりを抱えた家庭は、100万世帯超え、なんと40世帯に1世帯がこの問題で苦しめら
  れているという。とりわけ最近は、30歳代、40歳代になっても社会に出られないケースが大
  きな社会問題になっている。
 ・ひきこもりを招く不登校は、かつて情緒面などに問題がある子どもとみられていた。が、いまで
  は育った家庭環境を問わず、どのような性格の子どもにも起こりうると考えられるようになった。
  最近では、リストラで失職したことが原因でひきこもりはじめた40〜50代の男性が増えてい
  る。それまで社会の一線で活躍していた人たちでさえ、自信喪失が契機となって社会との関わり
  を持つことができなくなるのだ。まして30〜40歳代まで一度も社会に出て働いた経験がない
  者が、この不況の時代に職を得ることは困難をきわめる。
 ・多くのひきこもりは親の庇護のもとで生活しているが、その親たちも老齢期を迎えはじめた。社
  会保障費が削られるなど、ただでさえ老後の生活が不安なのに、ひきこもりを抱えていれば、さ
  らに経済的な負担が大きくなる。
 ・ひきこもりの年齢は、20歳代後半から30歳代が全体の6割を占めている。じつに全体の9割
  以上は成人なのだ。最高年齢の47歳を頂点に、30歳以上の者は全体の3割近くに達した。こ
  のように、ひきこもりの大半は、すでに青年期から中年期に差しかかっている。
 ・ひきこもりの長期化によって起こる対人恐怖、被害妄想、家庭内暴力などのために病院や保健所、
  精神保健福祉センターに相談することも多い。しかし有効な解決策はなく、ひきこもりを扶養す
  る家族もやがていなくなる。親の負担から社会の負担へ、現実は深刻さを増すばかりだ。

世代が対立する高齢社会
 ・70年代以降、高度成長が終わり、出生率も低下の一途をたどったため、このままでは公的年金
  は破綻するという危機感が高まってきた。それがピークに達したのが2004年の年金改革のと
  きである。改革の柱の一つは、厚生年金の保険料を毎年自動的に引き上げ、2017年で固定す
  ること、そして、現役世代の平均収入の50パーセントを確保することであった。しかし、その
  自動的な引き上げが完了していない2014年の見直しで、再度引き上げが行われる可能性があ
  る。04年改革の前提となった出生率予測は1.31だが、04年の実際の出生率は1.29に
  とどまっており、この年の改革で示された引き上げでは、現役世代の収入の50パーセントをま
  かなうことなど、とうてき無理であることが明らかだからだ。
 ・わが国の公的年金は、賦課方式なら発生しないはずの積立金をもっているため、完全は賦課方式
  とはいえない。現在、積立金残高(国民年金+厚生年金)は150兆円である。この積立金を取
  り崩して給付に充てれば、保険料の上昇は抑制できるはずである。しかし、厚生労働省はかたく
  なに取り崩しを拒み続けてきた。
 ・現在はそのうち58兆5820億円が、厚生労働省主管の特殊法人・年金資金運用基金によって
  運用され、国内債券、国内株式、外国株式などが購入されている。つまり市場で運用されている
  わけであり、その動向いかんで利益も損益も出ることになる。
 ・しかし、そもそも国民が保険料として拠出した資金を、リスクの大きい市場で運用していいもの
  か、との批判は根強くある。問題はまだある。いまの年資基金が運用しているのは積立金の一部
  だが、2008年以降は全額を運用することになっている。年資基金の前身は、ずさんな経営が
  批判を浴びて廃止されることになったグリーンピア事業を手がけてきた旧年金福祉事業団だ。グ
  リーンピア事業全体では、3800億円の保険料が露と消えた。150兆円を任せることに不安
  を抱く人が多いのが当然であろう。
 ・近い将来、高齢者が都市に集中する。なかでも東京における人口増加がめざましい。日本の総人
  口は2006年に、約1億2800万人となって頂点に達し、以後は減少していくが、東京の人
  口はその後も増え続け、2015年にようやくピークの約1260万人になる。東京では、すで
  に2000年の時点で65歳以上が総人口の15.9パーセントを占めた。団塊世代の全員が定
  年を過ぎた2010には5人に1人、2015年には4人に1人が65歳以上となる。
 ・都心から離れた郊外の住宅地では、すでに居住者の高齢化が進んでいる。分譲後、数十年が経過
  した団地などでは地域全体が衰退し、首都圏内における”過疎化”が目立つようになってきた。
  子供たちの世代は都心のマンションなどに移り住み、衰退した地域はさらに地価が下落して新規
  参入者が減っていく。このような地域の周辺では、生活物資を売る店舗の閉店も相次ぎ、車に乗
  れない高齢者にとっては生活が不便になり、防犯面でも問題が多くなる。そのため、さらに高齢
  者が都心のマンションなどに移り住む傾向が強くなるだろう。

男と女の選択
 ・出生率の低下は日本と欧州に共通する悩みといわれていたが、最近では経済協力開発機構加盟国
  の多くが抱える悩みに拡大している。出生率低下は、近代化すれば避けられない現象なのかもし
  れない。そして、フランスやスウェーデンのように出生率回復に成功している国はごく一部に限
  られるし、回復したとしても、人口維持に必要とされる2.1に達しているわけでもない。
 ・女性は結婚したら職業を持つべきでないという価値観が現れている。「30代、未婚、子なし」
  のいわゆる「負け組」の対極にある専業主婦願望が、若い女性の間で高まっていることはこれま
  でも指摘されてきた。
 ・わが国の少子化の最大原因は晩婚化と未婚化であるとされているため、この傾向が続けば少子化
  に歯止めがかかる可能性はある。とはいえ、結婚も子づくりも女性だけの問題ではない。所得格
  差が拡大している昨今、女性の専業主婦願望を満たせる男性は、多いとはいえなくなっている。
  このことを裏付けるように、若い男性の結婚率は、年収が多いほど、また派遣やパートなどより
  正社員か自営業者の方が高い。今後、婚姻のミスマッチは拡大し、女性の専業主婦願望を満たせ
  る男性はますます希少になるだろう。出生率低下はやはり食い止められそうもない。
 ・少子化が進むなかで、不妊治療が注目を浴びている。晩婚化にともなって子どもができない夫婦
  は10組に1組に達した。すでにおよそ90人に1人の新生児は、体外受精によって生まれてい
  る。
 ・生殖医療の進歩にともなって、親子の概念がより複雑になってきた。人工授精や体外受精の場合
  には、誰の精子や卵子を使おうと、産むのは妻なので、「出産した女性が実母」と定める現行法
  に反することはない。しかし、代理母から子どもが生まれると、出生届は受理されず、日本国籍
  さえ取得できないという現実がある。
 ・代理出産が法律で認められると、他人の子どもを産んでひと儲けしようと考える人が増える恐れ
  がある。州によって代理母の斡旋がビジネスとして成立している米国では、裕福な者が依頼し、
  貧しい者が代理母をつとめる傾向がある。そのため、人身売買と変わらないといった批判も根強
  い。ドイツ、フランス、中国では法律で禁止されている。日本でも反対する声が多い。たとえば
  望みどおり子が生まれなくて、代理出産を依頼した夫婦がその子の引取りを拒んだり、虐待した
  りする恐れがないとはいえないからだ。どうしても子どもがほしい夫婦は、海外をめざす以外に
  ない。日本には、海外で代理母を頼み、子どもを得た夫婦がすでに100組以上いるとみられて
  いる。
 ・2003年度に、国民年金の「第三被保険者」となっている男性が8万人を突破した。その届け
  をする人が1997年から連続して増加しており、2003年には7年前の2倍になった。この
  ペースで増え続けていけば、10年後には、妻の扶養家族として「専業主夫」的な生き方をする
  男性が20万人を超える可能性もあるだろう。
 ・その背景にあるのは、ジェンダーフリーな男女共同参画社会を求める思想的な変化だけでない。
  むしろ、もっと現実的な、家計上の都合のほうが大きいようにみえる。不況によるリストラなど
  で男性の経済力が低下した結果、好むと好まざるとにかかわらず、夫が家事を担当せざるを得な
  くなることが多いのだ。

地球環境の危機
 ・30年以内に南関東でマグネチュード7程度の地震が起きる確率は70パーセント、10年以内
  の発生確率は30パーセントと予測されている。マグネチュード7クラスの首都直下地震が発生
  した場合、死者は最大で約1万3000人、阪神淡路大震災の約2倍である。そのほか、約700
  万人の避難者、約650万人の帰宅困難者が出るという。
 ・「世界の石油はあと30年でなくなる」と広く宣伝されたのは、1970年代のオイルショック
  の頃だった。ところが2003年末の時点でも、石油可採数は約41年もある。しかも、生産量
  が年々増加しているにもかかわらず、確認可採埋蔵量は過去20年以上にわたってほぼ増加の一
  途をたどっているのだ。
 ・だが一方で、今後の生産量は減少に向かわざるを得ないという見方もある。いわゆる「石油ピー
  ク説」と呼ばれるものだ。2010年までには世界中の油田が軒並みピークを迎えるという。ピ
  ークを超えても石油自体が消滅するわけではない。だが、コストの増大によって石油の価格は高
  騰し、資源として採算が合わなくなるのだ。一説には、既存の油田から現在の技術力のまま採掘
  し続けた場合、2015年の世界の石油生産量は、世界のエネルギー需要の半分程度にしかな
  らないといわれている。これが正しいとすれば、世界はあと10年ほどの間に、石油に匹敵する
  エネルギーを石油同量分用意しなければならないという絶望的な状況に直面することになる。
 ・ところが最近、このピーク説を根底から覆すような説も注目されつつある。「無機起源説」が
   それだ。石油は従来、太古の動植物の化石が堆積盆地に堆積して生成されたと説明されてきた
  (有機起源説)。それに対して無機起源説は、地球深部に大量に存在する炭化水素が地表に向け
  て上昇し、油田を形成したという。この説自体は19世紀末から存在していたが、有機起源説の
  ほうが有力とされてきた。だが、実際に堆積盆地の下にある基盤岩の層で油田が数多く発見され
  るなど、有機起源説では説明のつかない事例も多い。まだ世界で信頼されているとはいえないが、
  もし無機起源説が正しいとすれば、石油はピークどころか地球内に無尽蔵に存在し、なお生成さ
  れ続けていることになる。
 ・2004年夏、日本は異常気象に見舞われた。最高気温が30度を超す「真夏日」が東京では過
  去最高の70日間に達した。一方、上陸した台風も過去最高の10個を記録し、集中豪雨による
  被害もあいついだ。異常だったのは日本だけでない。インド、バングラデッシュでは大雨による
  被害が深刻化し、逆に、中国の華南、華中地域は大干ばつに見舞われた。また、ヨーロッパでは
  熱波が発生し、アメリカ大陸ではハリケーンが多発した。
 ・南極大陸では、南極半島の東に位置するラルセン棚氷が過去10年で2度の大崩落を起こし、以
  前の40パーセント程度にまで縮小した。北極の海氷の厚さも、ここ数十年で約40パーセント
  減少しているという。
 ・こうした異常気象の原因の一つとされているのが、CO2の増加による地球温暖化だ。今後、何
  らかの対策をとらずに現在のペースでCO2を排出続けると、2025年の時点で平均気温上昇
  が1.1度、海面上昇は14センチに達し、2100年にはそれぞれ5.8度、88センチにも
  なる。この急上昇カーブが気象、生態系、人体、産業に与える影響ははかりしれない。
 ・世界の飢餓人口は1990年代の後半以降、毎年400万人のペースで増え続けている。ただし
  この飢餓は、食糧そのものの不足ではない。今日まで、世界の穀物の生産量と消費量はともに増
  加しながらほぼ均衡をしている。今日の飢餓人口の増加は、食糧の枯渇ではなく、経済格差によ
  るものなのだ。
 ・ところが、今後は食糧自体が足りなくなる恐れがある。2015年の世界人口の予測は72億人
  で、その増加に伴って、当然、食糧消費量も伸びるからだ。だが、生産はその需要増に追いつけそ
  うにない。世界の耕地面積が1970年代半ばから減少に転じ、また農地自体も年々500万ヘ
  クタールずつ砂漠化している。
 ・さらに深刻なのが水産資源である。90年以降、世界の漁獲量は9000万トン前後で横ばい、
  あるいは若干減少傾向が見られる。ということは、水産資源はすでに頭打ちになっている可能性
  があるということになる。
 ・1998年以降、食糧自給率が40パーセントのままの日本にとって、こうした状況は看過でき
  ない。世界の需給バランスが大きく崩れれば、たちまち食卓を直撃することになるからである。
 ・厚生労働省は、近い将来の出現が予想されている新型インフルエンザが国内で流行した場合、4
  人に1人が感染すると予測。そのうち最大で200万人が入院、64万人が死に至ると試算して
  いる。

グローバル経済の奔流
 ・日本の財政赤字が深刻の度を深めている。2005年3月末の国債や借入金など国の債務残高
  (国の借金)は、1年前から約80兆円増え、781兆円に達した。2004年度のGDPが
  505兆円だから、公債残高のGDP比率は154パーセント。これは先進国で類を見ない突出
  した数字だ。EU加盟各国の平均が70パーセント前後、双子の赤字が議論されている米国でも
  65パーセントである。
 ・国債は60年かけて償還するのが原則だが、60年満期の国債は市中では消化しきれないため、
  実際には5年や10年満期の国債で資金調達が行われている。その償還期限が2010年に訪れ
  るのだ。
 ・財政赤字と公債の累増を放置していれば、やがて日本政府が国民の信用を失う日が来ることはま
  ちがいない。巨額の財政赤字はさまざまな点で経済の活性化を阻害する。第一に借金が積み重な
  り、利払いが大きくなると政策に使える予算の割合が減少し、政策を縮小せざるおえなくなる。
  次に、国債はおもに市中の資金によって消化されるため、国内資金が不足し、民間投資が抑制さ
  てる。また国民は将来不安から消費を抑えるようになり、個人消費の減少、経済の低迷につなが
  る。
 ・さらに懸念されるのは、国債の信認の低下である。日本国債が投資不適格の烙印をおされる事態
  になれば、長期金利は急騰し、国債の金利負担が急増、日本は財政の維持が不可能となり破綻の
  時を迎える。日本はすでに危険水域の奥深くまで入り込んでいるのだ。
 ・景気回復によって企業の資金需要が高まると、銀行は企業向け融資が増えた分だけ国債に投資す
  る資金を減らすか、あるいは融資資金を捻出するために保有する国債を売る。そうなると市中に
  溢れる国債価格は下落し、高い金利をつけないと売れなくなるため、長期金利は急騰する。
 ・日銀が長期金利の急騰を忌避するのは、政府の国債の利払い額を抑制するためだ。金利が1パー
  セント上昇するだけで年間の利払い費用が6兆円以上も増加する。利払いが増えれば財政赤字は
  いっそう深刻になり、また赤字国債の発行額が増加をたどれば、やがて国債市場での売買バラン
  スが崩れて国債は暴落する。
 ・いずれにせよ、現在の金融政策は、ふくれあがった財政赤字の歪を受けて異常な形で進められて
  いる。世界にも例を見ない低金利、違法すれすれの買い切りオペや量的金融緩和。こうした状態
  がいつまでも持つと考えるのは、楽観的に過ぎるのではないか。いつの日かほころびが出るにち
  がいない。そしてそのときは、長期金利の上昇圧力は抑え切れなくなるのだ。仮に長期金利が6
  パーセントまで上がったとしよう。その時点で国債残高が800兆円に達しているとすると、
  48兆円の利払いが必要になる。すなわち国家の税収入は、すべて国債の利払いで消えてなくな
  るわけだ。そして、財政はいっきに破綻へと転がり落ちていく。市場は暴走し、インフレはとど
  まるところなく進行する。ハイパーインフレお到来である。
 ・日本では、戦前の1932年に物価が350倍まで暴騰し、猛烈なインフレに襲われている。最
  近ではロシアが1998年に債務不履行となった直後から1年で物価が70倍まではねあがるハ
  イパーインフレに見舞われた。今世紀に入ってからは、2001年にアルゼンチンでハイパーイ
  ンフレが起こった。これらの国では、経済は完全に機能不全に陥り、企業倒産や失業が急増した。
  紙くず同然となった自国通貨を嫌い、国内の金融資産は海外へいっきに流出した。ハイパーイン
  フレは、国民の生きる希望と誇りまで奪ってしまう。

不安定化するアジア
 ・北朝鮮は一貫して否定しているが、もう一つの脅威である「ウラン型」の核開発の事実がもし明
  るみに出れば、六カ国協議の枠組みそのものが崩壊し、「米朝の平和共存」の合意も無に帰す。
  核の拡散を恐れる米国は、イラク戦争と同じく、北朝鮮へ先制攻撃を踏み切るだろう。そうなれ
  ば、自衛隊はその後方支援に動くことになる。そのとき、北朝鮮は”報復”として日本を標的に
  する可能性がある。日本のほぼ全域を射程に入れた中距離弾道ミサイル「ノドン」は、すでに約
  200基が配備されている。そこに核弾頭が搭載され、日本に向けて発射されるかもしれない。
  発射から到達までは10分弱、避難はほぼ無意味だ。
 ・生物、化学兵器は比較的安価に製造、入手できるうえ、銃や弾薬などとちがい、所持や運搬が容
  易だ。また、発見しにくいこともあって、これらの使用を未然に防ぐことはきわめてむずかしい。
  とりわけ天然痘ウイルスやペスト菌が兵器として使われたら、人から人へと感染するので、テロ
  リストが自ら感染し、電車内や繁華街などを歩き回れば、それだけで、”自爆テロ”になりうる。
 ・最大の問題はソフト面、つまり住民のパニックをいかに抑え、効率的に避難誘導するかというと
  ころにある。場合によっては、住民を他地域、他県へ避難させる必要があるだろう。しかし、そ
  の住民の中に感染者がいれば、被害は拡大するばかりだ。それを恐れて、周辺の地域や自治体が
  受け入れを拒否することも考えられる。
 ・北朝鮮からの脱出を図る住民、いわゆる脱北者の増加に歯止めがかからない。累計では2004
  年末までに6000人を超え、近い将来1万人を突破するのは確実とみられる。背景には、絶望
  的な食糧難と身分格差社会があるのはいうまでもない。北朝鮮国民の3人に1人は栄養失調状態
  にあるといわれる。
 ・10年後の現実として38度線の休戦協定ラインが消える可能性は、金体制崩壊のそれよりもじ
  つは高いのではないか。しかしその平和の達成は、同時に「南北朝鮮」対「日本」という新たな
  対立の幕開けを意味している。
 ・中国の反日愛国教育は、1989年から13年間続いた江沢民前政権によって強化された。冷戦
  終結と市場経済のもとで、共産主義を事実上放棄せざるをえなくなったため、それにかわる一党
  独裁体制の新たな正当性を青少年に刷り込む必要に迫られていたからだ。そして10年後、反日
  愛国教育の優等生たちが、中国社会の中核を担うのはまちがいない。
 ・中国にとって、今後日本叩きの材料にはこと欠かないが、過熱するデモや暴動についてよくいわ
  れるが、中国の内なる問題、貧富の差の拡大、役人や軍の汚職、若者の失業といった内政問題に
  対する民衆の不満が背景にあるという点だ。現に、沿岸都市部の十数分の一の所得水準しかない
  といわれる内陸部では、ここ数年、食糧難や就職難への不満から農民、民工(出稼ぎ)、失業者
  らによる暴動があとをたたない。
 ・むしろ共産党現政権としては、こうした反日行動が常態化して、日中関係が「政冷経冷」になる
  ことは避けないにちがいない。たしかに江沢民前総書記が権力の座を去ってからは、行過ぎた反
  日愛国教育を是正し、民族主義的な言論に対して締め付けを強めてきた理由がここにある。しか
  し、抑えたくでもうまく抑えられなかったというのが、2005年の反日デモであった。自らが
  培養した反日パワーの奔流と権力闘争に揺らぐ中国共産党。いまやその存在自体が、躍進する中
  国にとっては最大の不安定要因といえるかもしれない。