野心のすすめ :林真理子

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この本は、いまから10年前の2013年に刊行されたものだ。
この本の著者は、いまでは日本大学の理事長まで昇りつめた女性だが、大学を卒業してか
らの一時期は、定職なし、お金なし、男なし、というかなり厳しい状況に追い込まれてい
たという。それがいまや直木賞の受賞作家であり、日本大学の理事長まで昇りつめたのだ。
私はこの本を読んで、「ハングリーであれ。愚か者であれ」というあのスティーブ・ジョ
ブズ氏の言葉を思い出した。この著者は、まさにこの言葉を実践した人であるような気が
した。
この本の内容は、読書層として若い女性を対象に、いわゆる「叱咤激励」したものだと言
える。読み始めると、これは著者本人も認めているのだが、全体的に「上から目線で、自
慢話ばかり」という印象を受けるのだが、最後の方になると、傲慢さやわらぎ、弱気な部
分ややさしさも見せている。
私がこの本を読んで、一番なるほどと思ったのは、「走っている不幸」と「止まっている
不幸」という表現の仕方だった。
本当に恐ろしいのは「止まっている不幸」だという。努力も何もせず、他者や社会を恨む
ことしかしないということが一番の不幸なのだという。
それに比べると、同じ不幸でも「走っている不幸」、つまり何かを目指して努力している
がそれが報われていない状態の不幸のほうが、ずっとマシだというのだ。なるほどと思っ
た。
努力すれば必ず報われるというような甘い社会ではないのは確かなのだが、だからといっ
て努力することをあきらめてしまうことが、いちばん不幸なのだ。とにかくあきらめない
で努力をし続ける人間でありたいと、この本を読んで思った。


はじめに
・世間で「野心」といえば、腹黒かったり身の程知らずであつかましいイメージが先行し
 ています。「野心家」となると、もうほとんど悪人扱いです。
・私が提唱したい「野心」は、「もっと価値ある人間になりたい」と願う、とても健全で
 真っ当な心のことです。
・人は自覚的に「上」を目指していないと、「たまたま」とか「のんびり」では、より充
 足感のある人生を生きていくことはできないのです。
・自分の身の程を知ることも大切ですが、ちょっとでいいから、身の程よりも上を目指し
 てみる。そうして初めて選択肢が増え、人生が上に広がっていくんです。
・野心は、恋愛欲、結婚欲、性欲とも結びついている。野心が希薄になっているから、少
 子化が進んでいるということもあるのではないかと私は考えています。
・男性の職業や年収などにはさしてこだわらず、「私を好きになってくれる、優しい人な
 ら」という女性たちがなかなか結婚でいないのはなぜでしょうか。
 私の考える答えはいたってシンブルです。女性が「ハードルが低い」と思うような男性
 には、心をすっかり奪い取られるほどの魅力がないからだと思います。
・安らげる人、一緒にいて楽しい人であればいい、などと言って最初からハードルを低く
 しているから、いつでも跳べると思って、なかなか跳ぼうとしない。その結果、結婚で
 きない女性が増えているのではないでしょうか。
・お金持ちじゃなくてもいいけど、知的で話が面白いとか、仕事ができて尊敬できる人で
 あるとか、理想の最低ラインは、いくら”最低”でも高めに持つべきなんです。
・いま、「低めの安定」の人々がいくらなんでも多すぎるのではないでしょうか。
 なぜ野心が希薄な時代になってしまったのかというと、景気がずっと悪かったんだから
 仕方がない、という考え方もあるかもしれませんが、私は「とりあえず食べていくこと
 はできる、まだまだ簡単に飢え死にはしない世の中」が、その大前提にあると考えてい
 ます。
・「まあ、なんとかなるさ」と、自分の将来さえ真剣に考えようとしない人々ばかりが暮
 らす国の未来はいったいどうなるのか・・・。
 
野心が足りない
・健全な野心を持つための第一歩は「現状認識」だと思います。
 いまの自分は果たして楽しい人生を送っているか、楽しくないのか。自分に満足してい
 るか、満足していないのか。それを自覚することはとても重要なことです。
・屈辱感こそ野心の入口なのです。
 努力をした人には努力をしたなりの見返りがあるという事実を認識できるか。その時点
 での自分の敗北を認めることができるかどうか。
・若いうちに悔しい思いを経験することは、きっと一生の財産になるはずです。
・「毎日がつまらない」「彼(彼女)ができない」「バイト先でバカにされた」と思うな
 ら、なぜだろうかとじっくり考えてみる。自分が少しでも不幸だと思うなら、その不幸
 が何なのかを突き詰めて考えると必ず答えが出てくるはずです。
・私は三十を過ぎて「無知の知」ということにようやく目覚めたのです。
 自分が何も知らない、ということを知っている人間は、自分が無知であることを自覚し
 ていない人間よりも、もっといろいろなことを知りたい、学ばなければならない、と思
 える点で勝ってるのです。 
・やってみる価値がある、面白そうだと思ったことは、恥をかいてでも、とりあえずやっ
 てみる。正確にいうと、恥うんぬんを考える前に行動してしまっているわけですが。
 取り返しがつかない、という意味では、やったこともやらなかったことも同じです。
 やってしまった過去を悔やむ心からはちゃんと血が出て、かさぶたができて治っていく
 けれど、やらなかった取り返しのつかなさを悔やむ心には、切り傷とはまた違う、内出
 血のような痛みが続きます。内側に留まったままの後悔は、いかんともしがたいもので
 す。まあ、だからといって、恥ずかしいことを恥ずかしいと思う自覚を持つことも、も
 ちろん大切です。そのさじ加減が難しいんですけど。
・自分ではたいした努力もせずに「うまくやろう」っていう人は、誰かに取り入ろうとす
 ることばかり考えている。健全な野心とは程遠い、ダメな野心とはそういうことです。
・自分が何も努力せずに、誰かが引き上げてくれるなんていうことはありえないのです。
 一流の、業界で力を持つ人に食い込んでいくことも実力のうちですが、まずは食い込ん
 でいくための実力を自分がどんな形であれ発揮しなければなりません。
・「今のままじゃだめだ。もっと成功したい」と願う野心は、自分が成長していくための
 原動力となりますが、一方で、その野心に見合った努力が必要になります。
・野心が車の「前輪」だとすると、努力は「後輪です」
 前輪と後輪のどちらかだけでは車は進んで行けません。野心と努力、両方のバランスが
 うまく取れて進んでいるときこそ、健全な野心といえるのです。
・十代や二十代前半の若い子が、ユニクロを上手に組み合わせているのを見ると、ああ、
 日本にも、チープシックのおしゃれができる子たちが増えたんだな、と誇らしくさえ思
 います。
 しかし、肌もたるみ、髪も痩せ、全身がいよいよ重心に逆らえなくなってくる四十代、
 五十代になって、毎日が前身ユニクロでは、惨めこの上ないわけです。年齢を重ねると、
 素材の高級感があるものをたとえ一点でもいいから身につけていないと、単なる哀愁の
 中高年になってしまう。
 年を取ってから安物ばかり着ている人は、その佇まいだけで哀しい負のオーラを発して
 しまうのです。
・自分がみずぼらしい中高年になるとは想像もできない若い人たちが多すぎるのではない
 でしょうか。いまは親と同居して面倒を見てもらっているからいいけど、親が年金暮ら
 しになり、いつか頼みの親は死んでいなくなってしまうこともロクに考えていない。
 五十代になっても居酒屋チェーンのアルバイトで運よくまだ雇ってもらっているのはい
 いが、二十代の社員店長からこき使われている自分を想像できるのでしょうか。
・母は大正四年生まれですが、当時の女性、それも山梨の田舎ではとてもめずらしい女子
 専門学校(いまの女子大)まで進んだ人です。
 戦前は福島の相馬で女学校の教師をした後、東京の出版社、旺文社に勤めていました。
 そのときに、旺文社の創設者・赤尾好夫さんの紹介で、当時、銀行員だった父と結婚し
 たのです。
 結婚後まもなく、満州の国策会社に転職した父と共に中国に渡り、商社に勤めていまし
 たが、父が現地召集となった後で妊娠していることがわかり、昭和十九年に単身帰国し
 て、故郷の山梨で男の子を生みました。
 翌年、終戦になっても、父は帰ってきません。戦後の混乱の中で、母は、生きていたら
 私の兄となるはずだった初めての子どもを病気でなくします。
 その後、二年たっても三年たっても、父は帰ってきませんでした。生活のために、母は、
 実家で古本を売り始めました。それが、私の実家が営んでいた林書店の始まりです。
 終戦から八年後、女手ひとつで店を切り盛りしていた母のもとへ、ひょっこり父が帰っ
 てきて、翌年に私がうまれました。
・生死不明だった期間に父がなにをしていたかというと、なんと中国共産党の傘下に入り、
 有名な日本人医師の下でプラセンタの研究をしていたというのです。
・私が生まれた翌々年には弟も生まれましたが、教養が深く働き者の母と、享楽的で、毎
 朝、中国共産党の革命歌をうたう変わったおじさんの父が、うまく行くはずありません。
・子どもの頃、母に若い頃の写真を見せてもらったときには衝撃を受けました。
 写真の中に、毛皮のコートを着て帽子をかぶった、とてもおしゃれな女性がいました。
 父と結婚する前、旺文社に勤めていた頃の母の姿です。
 戦前は、東京でこんなに知的で颯爽としていた素敵な女性が、いまや田舎の汚い本屋の
 おばちゃんになって、旦那と毎日やりあっているのか・・・。
・これぞ無常というか、人生とは流転していくものなのだな、という思いが子ども心にも
 強く刻まれました。世の中とは理不尽なものだな、と。
・私が、長いスパンで人生を考える人間になったのは、こうした母の人生を見てきたこと
 も大きいと思います。

野心のモチベーション
・なかなか飢え死にはしない世の中ですが、社会の格差が拡大していることはご存知のと
 おりです。いまや世の中は歴然たるヒエラルキーが存在しています。
 たとえば、貧乏なウエイトレスの女の子が大金持ちの男性から結婚を申し込まれるなん
 ていうことは、もはやありえません。
 社会的に地位のある男性が、自分の奥さんになってほしい女性に貧乏で教養もない女の
 子を選ぶことなど、いまの時代にあるはずないでしょう。
・人は年を取るのに比例して、残酷なまでに格差という現実を突き付けられるようになり
 ます。それは、ときに友情さえ引き裂くことがある。
・人生の選択肢は、多ければ多いほどいいと私は思います。
 母はよく、「貧乏って、消極的になるから悲しい」と言っていましたが、その通りでは
 ないでしょうか。お金がないと、どうしても行動範囲が限られてくる。
・やはり、お金は大事です。バブルのときに「お金に左右される生き方はヘン」とか、
 「お金なんて実はなんの価値もない」という反動がありましたが、その後の不景気な時
 代を経ても、本当の意味でお金に取って代わるほどの価値は、誰も見つけることができ
 ていません。好奇心の赴くままに行動したり、ここぞというときに前へ進んで行くため
 にも、人生を豊かにしてくれるお金は不可欠なんです。
・運と努力の関係とは面白いものです。自分でちゃんと努力をして、野心と努力が上手く
 いってくると、運という大きな輪がガラガラと回り始めるのです。
 一度、野心と努力のコツをつかむと、生き方も人生もガラッと変わってくる。
・運というのは一度回り出してくると、まるで、わらしべ長者のように、次はこれ、その
 次はこの人、と、より大きな幸運を呼ぶ出会いを用意してくれるのです。
 しかし、ここで忘れてはなりません。空の上から自分を見ている強運の神様の存在を。
 強運の合格点を貰うには、ここぞというときに、ちゃんと努力を重ねていなければなら
 ないことを。

野心の履歴書
・まさか、親の世代よりも子どもの世代のほうが貧しい時代がやってくるとは、自分が若
 かった頃には想像もつかなかったことです。
 私が駆け上がってきたのは、日本という国が右肩上がりで、もっともっと自分たちは幸
 せになれるんだ、と信じていることができた時代。いくら政治が変わったって、まだま
 だ「閉塞感」という言葉がいちばんしっくりくる現在とは大違いです。
・野心を持つことを私がすすめ続けるのは、自分が本当に何も持っていないところからの
 スタートだったということには自信があるからです。 
・「フリーター」という言葉もまだ無かった時代、就職活動の時を迎え、出版社や銀行な
 ど四十社以上の就職試験を受けまくった私は、のんべんだらりと大学時代を送ったツケ
 で、見事に全社から不採用通知を貰いました。
・いまの時代、志望する仕事に就くことが難しい若い人たちは本当にたいへんだと思いま
 すが、当時は、たとえオイルショックの後だったとはいえ、就職できないのが世間的に
 当たり前という時代ではなかったので、なおさら肩身の狭い思いをしました。
・当時の私は、上池袋の家賃八千六百円、風呂なしの四畳半のアパートに住んでいました。
 四枚入り四十円の食パンで食いつないでいたこともあります。
・「努力」「努力」と偉そうに繰り返していますが、父親のだらしない享楽的な性格をそ
 のまま受け継いだ私は、母からずっと「あんたみたいな人は死んでいるのと同じ」と言
 われ続けていたほどの怠け者でした。
・定職もない、お金もない、男もいませんでした。何も持っていなかったから逆に不安材
 料がはっきりしていて、自分で一つ一つ手に入れなければ仕方がないという気になれた
 のかもしれません。もしも東京に実家のある家付きの子だったら、いまごろ私はどうな
 っていたのかなぁと思います。自分でどうにかしなければ、と思えたのは、やはりそれ
 なりに追い詰められていたのでしょう。
・人生のリセットは何度でもできるんです。でも、自分でないとできない。新規まき直し
 に一度成功していたから、自分を信じて馬力を出せたということもあると思います。
 新規まき直しを繰り返すと、さらに自信がついてくるんです。
・毎朝、一番早く出社して、灰皿を換え、掃除をして、一生懸命やっているのに、誰も認
 めてくれない。
 仕事も、いまなら三十秒で書けそうなコピーが、当時は全然書けなかった。
 冬は特に辛かったです。風呂なしのアパートは石油ストーブ禁止で、電気コタツしかあ
 りませんでした。
・仕事はうまくいかない。お金はない。男にはふられる。寒い。真冬なのに、お金がない
 からコートが買えなかったんです。
・母親から「大丈夫?」って電話がかかってきた時には、「うん、何も問題ない」と言っ
 たあとに、泣いちゃった。中学時代にいじめられても泣かなかったのに、初めて泣きま
 した。仕事だけでなく、人間性まで否定されたことは、本当に辛かった。
・辛い時代に、会社のアルバイトの人が、「ハヤシさんって、いまにきっと有名人になる
 と思うわ!」と何気なく言ってきれた言葉は、私には大事な宝物でした。何年かにたっ
 た一度なんですけど、「あなたは、きっとすごい人になる」と誰かが言ってくれた。
 
・1980年代というのは、とても面白い時代でした。近年、私は非常に保守的で真面目
 な人になりましたから、いかにも、「過去に無茶やってた時代なんでありませんよ」っ
 ていう顔をしていますが、当時はいろいろ「やっちゃった」ものです。
 みんなが過激でしたし、周りの人がどんどん有名になっていきました。 
・初めて小説を執筆する過程で、私は学んでいったのです。書くからには内臓までお見せ
 する気で、目を背けたくなるような自分をも切り刻んでいかなければならないことを。
 たとえ小説という虚構の世界において自分とはまったく違う人間を描く時であっても、
 それこそが自分にとっての「書く」という行為なのだ、ということを。
・1986年、ついに直木賞を受賞することができました。
 私にとって、本当に長かったのは直木賞を取ってからの十年。それは、直木賞を取るま
 でのゴール目前、とにかくもう少しだからラストスパート!という高揚感とは違って、
 霧の中を進むような年月でした。
・新聞や雑誌の連載を同時に何本も引き受けた時には、「時間的に無理でしょう。やめな
 さい」と忠告されたこともありました。
 けれど、背伸びしないと成長できないときもあると思うんです。無理だと思ってもやる。
 「自分の実力だとこれくらいの仕事量で、これくらいのスケジュールだ」と枠を決めて
 やると、絶対に、いまの自分以上には成長できない。
   
野心と女の一生
・2012年に行われた内閣府の「男女共同参画社会に関する世論調査」の結果は、近年
 言われていた通り、女性の専業主婦願望が高まっていることが数字でも再び裏付けられ
 る結果となりました。
・なぜ、こうした逆行現象が起きているのか。いろいろな理由が言われていますが、若い
 女性が専業主婦志望とならざるを得なかった原因を考えた時に、私の脳内には一つのイ
 メージ映像が浮かんでくるのです。
 保育園の送り迎えでママチャリを必死に漕いでいる、働くお母さんたちの鬼気迫る姿を
 見て、若い子たちが、「ああああ無理!」と思ってしまった結果ではないだろうか、と。
 たとえどんな美人ママであっても、ママチャリに乗って髪を振り乱している姿は、お世
 辞にも美しい姿とは言えません。少なくとも、他人から見て羨ましいとはなかなか思え
 ないでしょう。
・それに「イクメン」なんて言葉が生まれましたが、口で言うほど男性が家事や子育てを
 手伝ってくれたり、実際に役に立っている家庭はまだまだレアケースでしょう。小さい
 子どもがいて散らかり放題の家に、仕事で疲れ果てた身体で帰っていく辛さ・・・・。
 夫婦喧嘩も増えて、安らげるはずの家庭まで殺伐としてくる。
・結局は、働くママたちにばかり負担が掛かっているのが現実。その姿を見て、無理をし
 てでも続けるほどの仕事にはどうせ就けないし、かといって専業主婦の自分と子供を、
 易々と養ってくれる男性も今や一握り・・・八方塞がりの女性たちが、現実はさておき
 願いを込め「女は家庭」という選択肢を取ったのは仕方なかったことのように思えるの
 です。 
・日本の女性たちの意識はもっと劇的に変わっていくかと十年くらい前までは思っていた
 けれど、不況のせいか変わりませんでしたね。後退したのかもしれない。
・では、もし悠々自適な専業主婦を目指すとしたら、やっぱり稼ぎの良い男の人を捕まえ
 なくちゃいけない。それはもう、万に一つのチャンスです。
・名門私立幼稚園に送り迎えに来るママたちは、ママチャリとは別世界に生きています。
 みんな美容院に行って来たばかりのようなクルンとして巻き髪で、バーキンを小脇に抱
 え、子どもの手を引いて、”歩いて”いる。ママチャリで”走って”いる人などいません。
・よく「専業主婦なんて、よくもまぁそんなリスクの高い選択ができるわね」とか、「専
 業主婦ほど人生の大博打はない」ということを言う人がいますし、私もずっと同じよう
 に思っていました。しかし、それは中流以下の育って来た人間の発想なのです。
・お金にいっさい不自由せず、今まで良い思いばかりしてきた人々には、「自分の身に不
 幸が降り掛かるなんていうことはありえない」という”絶対安全専業主婦”の揺るぎない
 自信があるわけです。 
 そして実際、彼女たちには、たとえば旦那さんの会社が倒産したりリストラに遭ったり、
 とか、旦那さんが他の女の元へ逃げるといった不幸は起こらず、裕福で幸せな専業主婦
 としてずっと生きていく。生まれながらに上流の層にいる人たちに対して”専業主婦のリ
 スク”なんていうことを持ち出しても、何の意味もありません。
・旦那さんには十円ハゲを作ってでも稼いでもらって、自分はそのお金で、ママ友たちと
 ランチを楽しんだり、お稽古ごとを嗜みながら生きていく。そうした一部のお金持ちの
 専業主婦ほど、女性にとって”おいしい”職業はないと思います。
・不況で派遣社員にならざるを得なかった女性がいるとします。しかし、彼女は、もっと
 やりがいのある仕事に就きたいと真剣に考えることもなく、ただ「最低でも年収八百万
 クラス」の相手と結婚することだけを夢見続けている。運良く一流の会社に派遣された
 のはいいですが、「誰かをつかまえよう」という一縷の望みに懸けた、獲物を狙う鷹の
 ような女性に引っかかる男性が果たして現れるかどうか。稼ぎの良い会社に内定した時
 点で、男性はどんどん鷹に狙われる世の中ですから。
・結局、自分自身の仕事についてはぼんやりとしか考えてこなかった人が、理想の収入を
 稼ぐ相手と巡り会うことは叶わず、三十前後になって妥協して、年収三百万〜四百万円
 の男性と結婚して子どもを産む。だから「節約術」が流行するわけですよね。
・いまの五十代以上の専業主婦の時代には、普通のサラリーマンであっても、子どもをち
 ゃんとした学校に入れ、郊外に一戸建てを買う甲斐性のある夫を持つことができました。
 でもいまは違う。給料は上がらないし、夫が名の知れた企業に勤めていたって、必ずし
 も安泰なサラリーマン生活をずっと送れるとは限らない。
・男だって、とても不安定な時代に生きている。いまの時代こそ、不安だからと現実逃避
 に走るのではなく、女性も自立して生きて行くことについて、一層しっかりと考えるべ
 きだと私は強く思います。 
・私はやはり、どうしたって女性は仕事を持って、働くべきだと思っているんです。専業
 主婦のリスクということではなく、人生の充実感や幸福のために、自分の仕事が積み重
 なって、ある日、何かの結果が出るという楽しさは、恋とか愛ともまた違う、もっと人
 間的な深いところに根ざしている。それに、働いていると良いことは、自分の名前で勝
 負できること。自分の力なら、たとえ低い評価でも自分の努力不足だと納得できるけれ
 ど、夫の地位や肩書で評価される人生は辛い。
・子育てが一段落してから始めたパートだって、どんな仕事だっていい。家計の足しのた
 めにでも何でも、自分で稼いでいるということは大事だと思います。
・最近は、不況が続いたせいで、頼みの夫の給料はなかなか上がらない。子育ては一段落
 したけれど、これからもっと教育費がかかる。主婦として派遣社員になることを希望す
 る四十代の女性も増えているそうですね。
 でも、有名大学を出た若い人たちでさえ派遣社員にならざるを得ない世の中で、そう簡
 単に社会復帰できるとは思えないのも事実。ましてや、働き続けてきた派遣社員や契約
 社員の人は”人に必要とされる訓練”を重ねてきた人たちです。家庭だけに意識を集中さ
 せてきた人間が、職場で必要とされる人間になれるかどうか。
・ようやく少子化に危機感を持ってきた日本でも、子どもを持った母親がストレスなく働
 けたり、あるいは子育てが一段落した後に誰でも再就職できる世の中になるには、最低
 でもあと二十年はかかりそうな気配です。
・四十路も後半に入った頃にあわてて仕事を見つけようとしても、何十年も家庭だけに集
 中している人からは、知らず知らずのうちに社会性も奪われていたりする。いざ再就職
 しようと思っても、面接のときに自分の都合の良い条件ばかり提示したり、自分と社会
 とのギャップに気づくことさえできなくなっているから恐ろしいですね。
・子どもを持った女性が働き続けることはとても大変です。しかし、仕事を続けていれば、
 「生活力」という体力がつくから、たいていのことには堪えられるようにもなってくる。
・人間が成長するのは、なんといっても仕事だと思うんです。仕事とは、イヤなことも我
 慢して、他人と折り合いをつけながら自己主張していくことでもある。ずっとその試練
 に立ち向かい続けている人は、人間としての強さも確実に身につけていきます。
・家庭生活や子育てで人間が成長するということ自体は否定しません。しかし、それは仕
 事での成長の比ではない。子どもを生んだ人が「子育てで人間的に成長しました」と言
 うのは単なる自画自賛だと思いますし、私は信用しません。仕事でイヤなことにも堪え
 ていく胆力を鍛えていれば、子どもが泣いたぐらいでうろたえない人間力は自然に身に
 ついているのです。 
・世の中は理不尽なことで溢れていて、自分の思い通りになることなどほとんどありませ
 ん。だけど人間は努力をしなければならない。それを社会で働くことで学んでいる。
 仕事から逃げ出して主婦になった人が、子育てで成長しようなんて目論んでいるとした
 ら、あまりにも自分に甘いんじゃないかしらと思います。
・少なくとも私のとっては、人が稼いできたお金に頼って生きていく人生は考えにくい。
 自分の欲しい物を、自分の稼いだお金で買えるということは、当たり前に必要なことな
 んです。 
・自分の食い扶持は自分で稼ぎ、もしも、夫といるのがイヤになったらすぐに離婚できる
 経済状況の中で結婚生活を続けているからこそ確認できる、夫婦の愛情ってあると思う
 んです。
・とはいえ、世の中に、面白くて華やかな仕事なんてほんのわずかしか存在しません。
 地道で、つまらない仕事がほとんどです。派遣社員としてずっと働いているということ
 もあるでしょう。
 しかし、どんな仕事であれ立場であれ、何よりもの充足感を得られるのは、「自分の代
 わりがいない」という確信を、社会の中で得られる時ではないでしょうか。自分が複数
 の他人から必要とされている場所が家庭の他にもあること。そこから得られる自信は、
 他の何物にも代え難いものです。
・さらに言えば、フリーで働いていける能力のある人、お金を稼ぐことのできる”手に職”
 を持っている人は、やはり強い。出産と育児という女性が仕事を続けていく上での難関
 を乗り越えやすいという点で、企業に頼って働かなくてはならない人よりも優位に立て
 るでしょう。 
・ですからやはり、早いうちから”何者”かになろうという野心を持ち、努力を重ねている
 に越したことはないわけです。若い頃を、流されるままに坦々と生きてきた人が急に目
 覚めて、中年になってから急にお金を稼ぐような仕事を得られる可能性は、ゼロとは言
 わないけれどかなり低い。
 二十代で頑張った結果は三十代の人生に反映されるし、三十代に努力したことは四十代
 の充実感にそのまま比例します。
・なにはともあれ、女性の美しさが玉の輿に乗るための一つの武器となるのは、どなたに
 も異論はないでしょう。 
 現代は、昔だったら絶対に美人とは認識されなかったような人でも、美人の範疇に入れ
 てもらえる時代になりました。スタイルが良くて、お化粧が上手くて、お洒落だったら
 美人と言ってもらえる世の中です。ここで、自分を磨く努力をしない手はない。
・しかし一方で、世の中にはせっかく盛京の必要もない美人に生まれついたのに、有効利
 用しないままで人生を送ってしまうケースもけっこう多いんですよね。
 ”武人の持ち腐れ”です。
・もったいない美人がいる一方で、美人であることを十分に自覚して、それを最大限に
 有効利用している人たちが女子アナではないでしょうか。
 いまや女子アナは、日本で女性がちやほやされる職業ナンバーワンです。
・ちやほやされるといえば、昔ほどではないとも言われますが、CAだっていまだに人気
 職業です。しかし実情は、傍目に思うほど羨ましい仕事ではまったくありません。
 エコノミークラスの乗客の無理難題に四苦八苦するストレスは計り知れません。
 なおかつJALの経営破綻もあったのに、相変わらず志望者が跡を絶たないのは、まだ
 まだCAという看板で得することを皆が知っているからでしょう。
・海外へ行くと、どうして日本には女性議員と女性経営者の数が少ないのかと訊ねられる
 ことがしばしばあります。 
 この二つの職業の女性たちは燃えるような野心を持っているとは思いますが、まったく
 私とは異なるメンタリティ。あの種の野心を私は持ち合わせていないので、自分の理解
 を超えた部分もあります。
・私には何人かの女性経営者の友人がいますが、彼女たちのパワフルさ、強烈な個性とい
 ったら、かつてあれこれ書かれた私でさえも舌を巻くほどです。
 女性が財界を渡り歩いていくためにはやっぱり権力と仲良くならないといけない。財界
 のおじさまたちが揃うパーティーに、派手めな洋服でやって来て可愛がられる素質が必
 要なんですね。権力を持つオヤジたちに可愛がられる才能って、これは男も女も関係な
 いでしょうが、経営者には必要な能力だと思います。
 成功していく経営者たちって、みんなちょっと「やんちゃ」でジジ殺し。相手がどんな
 大物であっても、「人を転がす」才能が抜群に秀でているのです。 
・私が自分は偉かったよなぁと自画自賛してしまうのは、独身の頃は世間から「結婚した
 いとか言っているけど、どうせ結婚しないんでしょ」と思われていた中で、実際に結婚
 したことです。私よりずっと美人で結婚できなかった人がいっぱいいるのに。
 なぜ、自分が結婚できたのかというと、”気迫”の一言に尽きます。結婚までは行ったり
 来たり、もう涙なしくしては語れないほど悲しい歴史でした。付き合い始めるとすぐに
 結婚を持ちかけるから、ドン引きされちゃって嫌われる。いま振り返って、あの時、結
 婚を迫るのがあと半年でも遅かったらどうなっていただろうと、つい独りごちてしまう
 ような男性もいます。
・「ひとりで生きて行く!」とよっぽど強く心に決めている人でなければ、やっぱり結婚
 はしたほうが人生は幸せなんじゃないかなぁと思います。 
・結婚すると何が良いかと言うと、もちろん安らぎはあるし、自分を守ってくれる。そし
 て何よりも、お互いの全人格を引き受けて責任を持つ「チーム」を一緒に組む相手がで
 きるということ。たいして面白くもないことを言い合う、日常会話をできる相手がいる
 のは幸福なことです。
・それに、男の人ならではの物の見方や思考が、自分の不足を補ってくれるということも
 ある。女性はどうしても情緒的に物事を考えてしまいがちですが、自分が何かを悩んで
 いたりする時に、ボロッと正解を出してくれるのが男性のごくごく常識的で社会的な考
 え方だったりします。 
・日本の男性は、女性が若ければ若いほど尊ぶのはなぜだと思いますか。
 伊勢神宮は二十年に一度の「式年遷宮」で社殿を建て替えますが、私は、そこに日本人
 の精神世界が凝縮されていると考えています。
 二十年経ったら、すべて取り替える。あのしきたりが残っている以上、白木の清々しさ
 を最上としたり、「女房と畳は新しいほうが良い」というメンタリティは変わらないで
 しょう。我が国の男性たちは、古くて良い建物ほど大切にされる西洋とは真逆の価値観
 を持っているのです。
・不倫については、作家の立場からは否定できるはずはありません。でも、未婚女性の不
 倫に関して言えば、やっぱり、奥さんは強い。夫婦の間で肉体関係がないからといった
 って、妻の立場というのは絶対的です。それに、日本の社会、特に財界では、奥さんを
 捨てて若い人と結婚する人は排除される風潮が依然としてある。糟糠の妻を捨てた人は
 軽蔑される社会なので、賢い男性ほど絶対に離婚はしません。楽しく愛人関係を続けて
 いるうちはいいですが、あわよくば略奪婚などと思って不倫を続けている人がいるとす
 れば、考え直したほうがいいのではないかとも思います。
・一方で、少しでもご縁のある独身の相手がいるなら、早く一緒に住んでしまったほうが
 いい。私が若かった頃と違って、わざわざ正式に結婚しなくても、事実婚や同棲だって
 まったく問題ない時代ですから。それに、バリバリ働いている女性が結婚したって、相
 手の親戚付き合いまではとても面倒見切れないっていうこともあるでしょう。
・私と同年代の独身の女性編集者たちがいま、定年退職の年齢に差し掛かっています。
 ずっと仕事もお金も不自由しなかった彼女たちが、五十代後半に入り「あー、しまった」
 と思うのは、結婚できなかったことではありません。
 なんといっても、子どもがいるかいないかなんですね。かつて「大変よねー」と遠巻き
 に見ていた同業の女性の子どもが就職したり結婚したりするのを見て、自分の人生を後
 悔する人が多かったりします。
・なぜ私が、どうしても結婚して子どもが欲しかったかというと、幼い頃からずっと、家
 庭を築くのは人間にとって当たり前のミッションだと思っていたという他ありません。
・私は親が年を取ってからできた子どもだったので、いつかは訪れる両親の死を、常に意
 識しながら生きてきました。ですから、親が死ぬという、人生最大級の悲しみを、ひと
 りぼっちで耐えるということだけは避けたかった。
・自分が死ぬ時には、子どもがいようがいまいが、もはやあんまり関係ないことではない
 かと思うんです。自分が生きて来た結果ですし、あとは死んで、この世からいなくなる
 だけですから。 
 でも、まだ自分が元気で、今後も生き続けていかなければならないのに、親が死んでし
 まう時、もしひとりだったらどんなに寂しい思いをするのだろうということは、ずっと
 心の底からの恐怖でした。独身のひとりっ子の人が、親をひとりで看取る時の辛さなん
 て、想像するだけでも奈美だが出てきます。
 たとえ独身でも、兄弟姉妹に子どもがいるのは有り難いことだと感謝したほうがいいで
 すよ。

野心の幸福論
・田舎で生まれ育った器量の悪い女の子が、どうしてこんなに並はずれて欲張りで野心を
 持つ人間になったのかといえば、それは「妄想力」の為せる業なのではないかと思いま
 す。
 妄想力とは、想像力よりもさらに自分勝手で、自由な力、現実からは途轍もなく飛躍し
 た夢物語を、脳内で展開させてみるのです。秘密の花園でこっそり花を育てるように。
 妄想は自分を引き上げてくれる力になります。
・妄想力を鍛えるためには、なんといっても本を読むことです。辛い時には、空想の中で
 遊んだり、物語の世界に逃げ込むことだってできる。
 それに、読書って、ひとりでやっていて惨めに見えない、数少ない趣味でもあります。
 本を読む楽しみを知っているのと知らないのとでは、ひとりで過ごす時間の充実度が違
 ってくる。人が電車の中で携帯メールを打っている姿と、文庫本を読んでいる姿では、
 圧倒的に後者のほうが素敵ではありませんか。
・「業が深い人は幸せになれない」というのは、一部当たっているようにも思えます。業
 と欲が深いと、仕事に恋に、しょっちゅう悩んでは泣いたり、悶え苦しんだり、歯ぎし
 りしたりしなければならない。
・成功したい、モテたいと、欲望を叶えるために必死にもがき続けていることを不幸と呼
 べば、たしかに不幸かもしれません。仕事でも挑戦すればするほど、あれこれ苦労した
 り落胆したりすることも増えますし、高望みの相手と付き合うほど、傷つく可能性だっ
 て高い。
 そんな「走っている不幸」は、本人には辛くても、端から見ていて明るい爽快感があり
 ます。きっと、どうにかなるよ、と肩を叩き、励ましたくなってくる。
・本当に恐ろしいのは「止まっている不幸」だと思います。出口が無くて、暗く沈んでい
 くだけのモヤモヤとした不幸。
 望んでいた仕事に就けず、無力感のまま働く若い人が、資格を取るとか転職しようとい
 う努力も何もせず、「こんなはずじゃなかった」と社会を恨むことしかしない。
・子どもを育て上げた専業主婦が生き甲斐を失い、「夫と子どもに捧げただけの不幸な人
 生だった」と口にする。それも世の中のせい、男性社会のせいで不幸になったと、なぜ
 か自分の不幸を社会制度と結びつけて愚痴を言ったりする。
・自分が何を欲しているかわからないまま、「こんなはずじゃなかった」と世の中を呪う
 寂しさほど惨めなことはありません。自分の欲望さえ把握できない人たちは、何を目指
 して努力したらいいのかさえ見当がつかない。すると、いっそうの無力感に襲われ、ま
 すます不幸の濃度が高まっていくのです。
・それに比べると、何が欲しいかハッキリとわかっている「走っている不幸」にはいつか
 出口が見えてくる。
 走ることを知っている人たちは、諦めるということも知っています。
 実際に、運が悪い人とは、見切りが悪い人でもある。
 いまが楽しくないなら、何かを切り捨てることだって必要です。
・年齢を重ねていくと、野心の飼いならし方もだんだんわかってきます。他人のことは気
 にならなくなってくる。ひたすら自分の中に向かってくるのです。もっと良い仕事をし
 たいということだけになり、野心が研ぎ澄まされていくわけですが、自分との戦いほど
 辛いことはない。しかし、若いうちから野心を持って訓練していれば、その辛さに立ち
 向かえる強さも鍛えられているはずです。
・挑戦してたとえ失敗したとしても、世の中はほとほどの不幸と、ほどほどの幸福で成り
 立っていると達観する知恵者の域にまで達することができれば、もはやそれは「不幸」
 ではない。野心の達人が至る境地といっていいでしょう。

・野心を持つ人間のためにすぐに役立つテクニック三カ条
 @時間は二倍に使う
  私は、隙間の時間に、何かひとつのことだけに時間を使うということはしないように
  心がけています。ふだんの時間を何か単独に使うことはほとんどありません。
  こま切れの隙間時間をどう過ごすかで、生き方さえも決まってくると思います。
  同じ時間を生きているのに、私たち人間には知識や器の差がある。この差はどこから
  生じるかというと、隙間の時間にもどれだけ積極的に自分の人生とかかわっているか
  の違いに拠るところが大きい。
 Aまずはぐっすり眠ってから考える
  一晩ぐっすり眠ったら、少々の嫌なことを忘れ去る能力は大事です。
  落ち込むようなことがあったら、とにかく寝てしまいましょう。くよくよしないでベ
  ッドに直行。そして、朝日を浴びた新しい頭で考えてみる。
  嫌のことを引きずらない能力は、絶対に運も強くすると思います。
  今日は今日の楽しみを見つけるのが得意な人が、運の強い人。
  道端でかわいい花を見つけたら、何かいいことありそう!と思える感性こそが強運へ
  の近道なんです。 
 B運の強い、楽しい友人たちと付き合う
 
・野心を持って努力をし続けるのは、本を読むことにも似ています。本を読み始めると、
 自分はどれほど無知なんだろうとか、この分野を知らないのはまずいなぁとか、このさ
 きまた別の本を読んでみたいなと思う。
 努力をする人にはいろいろはページが開いてくるんです。反対に、本をまったく読まな
 い人は、何を読めばいいかわからないし、そもそも本の存在すら意識下に入ってこない。
・自分はこういう人生を送りたいという目標を決めたら、歯を食いしばってでも頑張って
 みることです。
 野心が山登りだとすると、少し登り始めると、頂上がどんなに遠いかがわかってくる。
 少しクラッとするような場所まで来て、下を覗いてみると、登山口の駐車場ではみんな
 が無邪気にキャッキャッ楽しそうに群れている。でも、自分は絶対その場所にはもう下
 りたくないと思う。
・なぜ、わざわざ辛い思いをしてまで山登りを続けられるのでしょうか。
 それは、必死で登ってきた場所から見る景色があまりに美しく、素晴らしい眺めを自分
 の力で手に入れて味わう満足感と幸福をすでに一度知ってしまったからです。そうなっ
 たら最後、もっと美しい景色が見たい、もっと満足したい、もっと幸福を味わいたい、
 と、さらに上へ上へと登りたくなる。
 平地で遊んでいる人間には一生見えない景色、野心を持って努力をした人間だけが知る
 幸福がそこにはあります。