胆石症の話  :磯谷正敏

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私がこの本を読むきっかけとなったのは、病院で定期的に膵臓に対して受けている検査を
最近受けたときの医師の言葉がきっかけであった。
実は、私は胆石持ちで、胆石があると言われてから、もう20年くらいにもなる。その間、
特にお腹が痛くなったということもなく、いわゆる無症状胆石で、人間ドック受診などの
際も医師から「胆石がありますね。でも、痛くならなかったら、このまま経過観察でいい
ですよ」と言われ続けて今日まで至っていた。
ところが、先般、膵臓に対する内視鏡による胃からの超音波検査を受けた際に、医師が
「膵臓は今のところ特に問題はないが、この胆石がなにか悪さをするかもしれなせん」と
呟いたのである。膵臓の検査だったのに、どうして胆石のことを言うのかと、その時私は
その言葉に驚いたのであった。
私は「すぐ手術する必要がありますか?」とその医師に問うと、その医師は「いや、いま
すぐというわけではないですが。いますぐには決められないでしょうから、手術に興味が
あったら、後日、再度来てください」と言うのであった。
胆石については、いままでずっといろいろな医師から「経過観察ですね」とばかり言われ
てきたのが、このように胆石に関して何か言われたのは、今回が初めてであった。そのた
め「手術に興味あったら」と言われて、「興味ありません」とは当然言えない。これは、
今回の検査で、胆石でなにか悪い兆候が見つかったのではないかとしか私には思えなかっ
た。
そこで、次回の医師との面談日までに、少し胆石についでの知識を得ておいた方がよいだ
ろうと思い、胆石に関する本を探したのだが、胆石について一般人向けに書かれた本は案
外少なく、やっと見つかったのがこの本であった。
この本を読むことによって、胆嚢とはどういう働きをしている臓器なのかを理解すること
ができた。また、胆石がどうしてできるのかも、おおよそ理解することができた。さらに
は、胆石が原因で起こる強烈な痛みである胆石発作が、どういう場合に起こるかなども、
おおよそ理解できた。
この本によると、日本人の中で胆石を持っている人(無症状胆石の人)は、おおよそ1千
万人ぐらいいると言われているようだ。私は無症状胆石の有症状化率について知りたかっ
たのだが、残念ながらその件に関してはこの本には書かれていなかった。
そこで、ネットで調べてみると、「日本胆道学会学術集会記録」の記事において、次のよ
うなことが報告されていた。
 ・無症状胆石の自然史(転帰)において、重症状合併症の発生頻度は数%である。
 ・重症状合併症の中で最も頻度の高いのは急性胆嚢炎である。
 ・無症状胆石の有症状化率は診断されてから1〜3年が最も高く、経過観察期間が長期
  にわたるほど合併症の発生頻度は低下してくる。
 ・無症状胆石において、10年間での累積有症状化率は10〜20%程度であると推測
  される。
 ・症状の発生は、男性よりも女性に、やせた患者よりも肥満患者に多い。
 ・経過期間中に胆嚢癌の発生を認めた症例はなかったと報告されている。
 ・無症状胆石の対応手順は、原則的に経過観察とすることが奨励されている。
また、「日本消化器病学会ガイドライン」においても、無症状胆石の治療について、次の
ように記載されていた。
 ・無症状胆嚢結石に対する手術は、議論が多く、手術により生命を脅かすあるいは生活
  を変化させる合併症がおこりうることから、無症状胆石に対する胆嚢摘出術は慎重に
  選択すべきである。
 ・無症状の胆嚢結石症例を経過観察した場合、胆嚢頸部や胆嚢管への嵌頓で年に2〜3
  %の胆石患者が疼痛発作をきたし、繰り返す。
 ・経過観察例での胆嚢癌発生頻度は年0.01〜0.02%と低く、5年以上の経過観
  察で0.3%程度であることから、胆嚢癌の予防を目的に手術を勧めることはない。
 ・以上のことから、胆嚢壁が腹部超音波検査で十分に評価できる症例では手術を行う必
  要はないが、年に1回の経過観察が推奨される。
 ・しかし、充満結石例、胆嚢造影陰性例、癌の疑いのある壁肥厚例などは、無症状であ
  っても患者と相談したうえで手術適応を決定することが好ましい。
つまり、一般的には、無症状胆石に対して、一部の例外を除き、手術をするということは
ないということであった。
このような知識を得てから、医師からもう少し詳しいことが聞けるのではと思い、後日医
師との面談に臨んだのであるが、結果は私の期待したものとはかなり違ったものとなった。
というのも、病院で診察室に呼ばれて私が椅子に座った途端、医師から出た言葉が、いき
なり「どうしますか?手術しますか?しませんか?」ということであった。これには面を
食らってしまった。普通なら、これこれの兆候があるので、手術したほうがいいですよ、
と言われるのだと思うのだが、どういう理由で手術をするのかの説明がまったくないので
ある。
私は慌てて「今回の検査で何か手術をしたほうがいいという理由が見つかったのですか?」
と聞き返した。すると医師は「予防のための手術です」と言うのである。これに対して、
私はさらに「無症状の胆石の人が胆石発作を起こす確率はどの程度なんですか?」と訊ね
たところ、その医師は「それはわかりません。胆石で病院に来る人は、すべて手術が必要
な人ですから」との話であった。ということは、無症状の胆石持ちの人が、予防にために
手術をするというケースはほとんどないということではないのかと私には思えた。
私がしかたなく「なるほど」と言うと、医師はさらに「この胆石は絶対に何か悪さを起こ
します。いや、百パーセントとは言いませんが」とたたみかけてきた。
医師の前にあるPC画面に目をやると、私の胆嚢とその中に丸い胆石が一つ、みごとなま
でに鮮明に映し出されていた。そこで私は「胆石の大きさはどのぐらいですか?」とさら
に訊ねた。すると医師は「2センチぐらいです」との答えであった。私は「それじゃ5年
くらい前とほとんど大きさは変わっていませんね」言うと、医師はすかさず「大きさは関
係ありません」と冷たく言った。そしてさらに医師は「手術しますか?しませんか?」と
私に決断を迫ってきた。
その時、私の頭の中に、以前、何かで目にしたことがある「病人は病院に行って初めて病
人にされるのである」という言葉が浮かんだ。そうなんだ。こうして私は病人にされるの
だ、と思ったのである。そして、もし手術するにしても、この医師にはお願いしたくない
なという気持ちになった。
そして私は、「もう20年間も無症状のままで来ているので、このまま様子見でお願いし
ます。もし、痛くなったら、その時は覚悟を決めて手術します」と言って、もう居たたま
れなくなって椅子から立ち上がった。すると医師は「それじゃ痛くなってから来てくださ
い」と言った。その言葉は、私の心にとても冷たく響いた。正直言って、なんでこんな面
談に来てしまったのかと、そのとき私はとても後悔した。
その病院で定期的に受けている検査では、その都度、担当する医師は変わり、その医師も
今回が初めての医師であり、まだ若い医師であった。この医師は、どういう思惑があった
のか知らないが、とにかく手術に誘導したかったようである。しかし、この医師の主張は、
極端な例えをすれば、「胃がんの恐れがあるから、予防のために胃を取ってしまいましょ
う」と言っているようなものである。胆嚢は、取ってしまっても、日常生活をする上で大
きな障害はない、という主張もあるようだが、実際には、胆嚢を取ってしまって、その後
遺症に悩まされて後悔しているというネットの投稿も見かけた。胆嚢だって、役割があっ
て存在するわけだから、むやみにそれを取ってしまっては、やはり何らかの支障が出るの
は当然ではなかろうかと、私には思えた。
この病院は、「患者さんの人権と人格を尊重した医療に徹します」「高度先進医療の修得
と実践に務めます」という理念を掲げていて、手術件数などを積極的にHPで公表して、
手術件数は東北でもトップクラスに入ることを誇っている病院である。そして高度で先進
的な医療を提供する専門病院であるとして地域の人びとからの評価も高いようだ。
しかし、手術件数を競って、ろくに手術の必要性も説明しないままに、ただ手術に誘導し、
手術の決断を患者の迫るというこの対応は、患者に寄り添った医療というものからは、か
け離れたものではなかろうかと私には思えた。そしてそこには、無知な患者に説明したっ
てしかたがない、だまって我々のいうとおりにすればいいんだ、という傲慢さも感じられ
た。
この出来事は、いままで高い医療技術を提供する信頼できる病院だと思ってきただけに、
私にとって精神的なショックは大きかった。「病人は病院によって作られる」というフレ
ーズがあるように、まさにそうだな、と私には思えた。もし私がまったく知識のないまま
に面談に臨んでいたら、この医師から言われるままに、胆嚢を取る手術を受けることにな
っていただろう。
この出来事は、無知のままで医者にかかってはならない。医者に任せっきりにしてはなら
ない。何もわからぬままに自分の臓器を切り取らせてはならない。自分の臓器は自分で守
らなければならない。手術はとことん自分で納得してから受けろ。つくづくそう実感させ
られた出来事ととなった。


はじめに
・肥満人口やアルコール消費量の増加などによる胆石形成のリスク因子の動向から、5パ
 ーセント程度と言われていた本邦における胆石保有者は、年々増加していると推測され
 ています。2017年9月に放送されたNHKの人気番組「ためしてガッテン」では、
 胆石保有者は最大で1000万人以上と紹介していました。
・このように多くの方が持っている胆石ですが、胆石と言うと、一般の方はまず腹痛を伴
 う胆石発作や急性胆嚢炎を思い浮かべるでしょう。しかし、激痛を引き起こし、一晩で
 急変することのある恐ろしい重症胆管炎や治療が困難な重症膵炎という病気も、胆石が
 原因となることをご存じの方は少ないと思います。
・ましてや、同じ胆道感染症に分類される急性胆嚢炎と肝臓の病気とも言える急性胆管炎
 の病態に一線を画す違いがあることは、専門分野の医療関係者でなければ理解できない
 と思われます。 
・胆石の多くは、コレステロールが結晶化したものです。胆石の成因を考えることは、食
 生活や生活習慣を見直すうえで重要なことでしょう。
 
胆石ができるまで
・胆石というのは、肝臓で作られた胆汁の成分が固まってできる固形物です。この胆石が
 腹痛などの原因となっている場合を、胆石症と言います。そして、胆石症は、結石ので
 きる部位(胆嚢、肝外胆管、肝内胆管)によって、胆嚢結石症、胆管結石症、肝内結石
 症などと飛ばれます。
・胆汁の通り道を胆管と言います。この胆管のうち、肝臓の中にある胆管の肝内を肝内胆
 管と言い、この胆内胆管の中に結石がある場合を胆内結石症と言います。しかし、胆内
 結石症は胆石症全体の1パーセント程度で、非常に稀です。
・胆石は、通常は胆嚢の中にできるので、胆石症と言えば、一般的には胆嚢結石症のこと
 を指します。 
・肝臓には心臓が全身に送る血液の25パーセント以上にも相当する多くの血液が流れて
 いて、赤褐色をしています。肝臓の機能には次のようなものがあります。
 ・栄養を合成・分解・貯留する(糖質代謝)
 ・アミノ酸や血液の凝固因子、各種の酵素、免疫グロブリンなどの蛋白質合成やコレス
  テロール、中性脂肪の合成(脂質代謝)
・アルコールは、腸で吸収された後に肝臓に運ばれて、無害の酢酸に分解されます。肝臓
 でアルコールを分解する能力が弱ければ、お酒に酔いやすい、つまりお酒に弱いという
 ことになります。
・肝臓は、アルコール代謝のほかにも、薬を代謝する薬物代謝、蛋白質の分解によって体
 内で発生したアンモニアを人体に無害な尿素に分解する解毒作用の機能も持っています。
・消化管の中にいる細菌は、腸粘膜から門脈という血管の中に入り、肝臓に運ばれます。
 しかし、大部分の細菌は、肝臓の類洞という血管の中にいるクッパー細胞という特殊な
 細胞に貪食されます。つまり肝臓は、細菌が全身に広がらないようにするためのフィル
 ターとしての役目も果たしているのです。
・肝臓には、二重の血管系があります。二重の血管系とは、心臓から大動脈を経て肝臓に
 入る肝動脈と、胃や膵臓、小腸などの消化器官を経て肝臓に入る門脈です。
・肝動脈と門脈は肝臓に、全肝血流量のそれぞれ30パーセント、70パーセントを供給
 しています。
・肝動脈には酸素を多く含んだ血液が流れていて、栄養血管としての機能があります。
・門脈を流れている血液は、腸で吸収された栄養分を含んでいます。
・消化器官で消化されたブドウ糖やアミノ酸などの栄養分は、まず小腸の毛細血管に吸収
 されて上腸間膜静脈と呼ばれる静脈に集まります。
・上腸間膜静脈は、脾臓から流れ出た碑静脈と合流した後、門脈と名前を変えて肝臓に入
 ります。 
・肝臓の静脈である肝静脈は、肝臓を出てから下大静脈という太い静脈に合流して心臓に
 戻ります。 
・消化管から吸収された脂肪は、腸上皮細胞の吸収面と反対側にある毛細リンパ管に入り
 ます。そして、胸管という胸の脊髄の傍を通っている管の中を流れて、頸部で静脈の中
 に入り、全身の血液循環に運ばれています。
・胆汁の通り道を胆管と言いましたが、この胆管の始まりが毛細胆管です。この毛細胆管
 は、少しずつ合流して、細胆管、さらに太くなって肝内胆管となり、肝臓の外に出ます。
 肝臓の外に出た胆管を、胆外胆管と言います。
・肝細胞で作られた胆汁は、毛細胆管を通って、グリソン鞘のほうに流れて、この中の細
 胆管に流れます。細胆管、肝内胆管を経て肝臓の外に出た後、そこに繋がっている十二
 指腸へと流れます。
・この胆管が十二指腸に開口する部位を、十二指腸乳頭部と呼んでいます。
・肝臓は大きな一つの臓器ですが、解剖学的には大きく左右に分かれていて、右側の肝臓
 を右葉、左側を左葉と呼んでいます。そして肝内胆管も左と右とに分かれています。左
 右の肝内胆管は、肝臓の外に出ると合流して一本の胆外胆管となります。
・この胆外胆管から1本の枝のように横に伸びた細い管が胆嚢管です。この胆嚢管の先は、
 広がって袋のようになっています。これが胆嚢です。
・胆嚢は、肝臓の下にへばりついていて、ねじれないようになっています。  
・胆外胆管は、一般的に胆管と呼ばれますが、胆嚢管が出る肝臓側の胆管を総肝管、出た
 後の 十二指腸側の胆管を総胆管と呼んで区別しています。
・食事をすると、胆嚢が収縮するとともに十二指腸のオッディ筋が緩んで、胆嚢内に蓄え
 られていた濃縮された胆汁が十二指腸に排出されます。この時、同時に膵液も十二指腸
 に流れます。このようにして、十二指腸内で食物と胆汁、膵液が混ざり、食物の消化が
 行われるのです。
・胆汁は、肝細胞で作られ、毛細胆管に分泌、排出されます。その主な成分は、ビリルビ
 ンという胆汁色素と胆汁酸と呼ばれる物質です。このビリルビンによって、胆汁は黄色
 です。また、胆汁は脂質成分が多い消化液で、コレステロール、リン脂質なども含んで
 います。
・ビリルビンは、ヘモグロビンと関連しています。ヘモグロビンは、鉄原子と結合したヘ
 ムとグロビンという蛋白質が結合したもので、赤血球という袋の中にあります。
・ヘムは、酸素分子と結合する性質があり、肺から全身へ酸素を運搬する役割を担ってい
 います。また、ヘムは赤色素と呼ばれていて、赤色を帯びています。血液が赤いのは、
 このためです。
・ヘモグロビンは私たちが生きていくために必要な酸素を全身の細胞に運んでいます。 
・古くなった赤血球は、脾臓の中にある、毛細血管や、肝臓の類洞の血管壁にあるクッパ
 ー細胞に捕らえられて破壊されます。赤血球の中に含まれるヘモグロビンは、ヘムとグ
 ロビンとに分解され、さらにグロビンはアミノ酸に、ヘムはビリルビンに分解されるの
 です。
・こうしてできたビリルビンは、アルブミンと結合して間接ビリルビンあるいは非抱合型
 ビリルビンとなって肝臓に送られます。
・肝臓で作られた抱合型ビリルビンは、胆汁の主成分の一つの胆汁色素として毛細胆管に
 排泄、分泌されます。
・赤血球の寿命がなんらかの理由で短く、その破壊が早く進んで肝臓での処理能力を超え
 る場合や、赤血球の異常によってその破壊が早く進んだ場合などには、血中の間接ビリ
 ルビン値が高くなって、黄疸が出ます。これを溶血性黄疸と呼んでいます。
・黄疸の多くは、直接型優位の高ビリルビン血症によるものです。高ビリルビン血症は、
 肝細胞障害や胆汁うっ滞によって起こります。肝細胞障害による黄疸は、間接ビリルビ
 ンが肝臓に取り込まれる時から毛細胆管へ胆汁が排泄されるまでの、さまざまな過程の
 さまざまな原因で起きます。
 ・肝炎
 ・胆管結石症、胆管がん・膵がん、ミリッチ症候群
・胆汁うっ滞による黄疸は、毛細胆管から十二指腸までの胆汁が流れる胆汁排泄部位の障
 害によって直接ビリルビンが多くなることで出る黄疸です。そのほとんどが、胆汁の通
 り道である胆管が詰まって起きるもので、これを閉塞性黄疸と呼んでいます。
・閉塞性黄疸の原因は、胆管結石症であることがよくあります。
・それ以外に気をつけなければならないのは、胆管や胆嚢、十二指腸乳頭部などの胆道や、
 膵臓にできたがんです。これらのがんによって胆管が閉塞されると黄疸が出ます。
・稀ですが、胆嚢頸部や胆嚢管という胆嚢の部分に嵌り込んだ結石の機械的圧迫や炎症の
 波及などによって、胆管が狭くなって黄疸が出る場合があります。これをミリッチ症候
 群と言います。ミリッチ症候群では胆嚢や胆管にできたがんとの区別が困難な場合があ
 ります。
・一般に、胆石症による胆管閉塞急に起こることが多いのに対し、がんの場合は徐々に胆
 管が閉塞されることがほとんどです。このため、胆石症による黄疸は軽度のことが多い
 のに対し、がんの場合にははっきりと肉眼的に黄疸がみられることが多く、血液検査で
 はビリルビン以外にALPやγGDPなどの胆道系酵素と呼ばれる値が高くなります。
・急性胆管閉塞では、ASTやALTなどの肝逸脱酵素の値が高いことが特徴です。
・胆汁には、ビリルビン以外に、胆汁酸やコレステロール、リン脂質(レシチン)、カル
 シウムなどの無機質が含まれています。そして胆汁酸は、肝臓の中のコレステロールか
 ら合成されます。
・コレステロールは、膜蛋白質の機能維持のための重要な働きを担っています。コレステ
 ロールが少なくなると、蛋白質の機能が低下して、さまざまな障害がでてきます。
・人体でコレステロールが最も多い場所は、脳徒神経です。コレステロールが少ないと、
 神経細胞の働きがうまくいかず、特に高齢者では脂質代謝の力が落ちてコレステロール
 が低下し、うつ症状を起しやすくなると言われています。
・私たちは、必要なコレステロールの20〜30パーセントを食事から摂取しています。
 不足分の70〜80パーセントは、肝臓で合成されます。肝臓にはコレステロールを一
 定に保つ機能が備わっているのです。
・血清総コレステロールの約2/3はLDLコレステロールで、細胞膜や各種のホルモン
 の材料となるコレステロールを細胞内に供給しています。
・必要とされる細胞内のコレステロールの調節は、細胞の表面にあるLDLコレステロー
 ルの血中濃度のセンサーとも言うべきLDL受容体という蛋白質を通じて行われていま
 す。細胞内のコレステロールが不足すると、LDL受容体が増えて血液中からコレステ
 ロールが細胞内に取り込まれます。反対にコレステロールが十分にあると、受容体を作
 らなくなり、コレステロールの調整が行われています。
・血中で増えたLDLコレステロールは、動脈の壁に入り込んで動脈硬化を引き起こしま
 す。そのことから、LDLコレステロールが運び込むコレステロールは、悪玉コレステ
 ロールとも呼ばれています。 
・HDLコレステロールは、古くなった細胞の細胞膜の中のコレステロールや、細胞内の
 血管壁に溜まった余分なコレステロールを回収して肝臓に戻す働きをしているので、善
 玉コレステロールと呼ばれています。
・コレステロールは体に必要なものですが、必要以上のコレステロールは、肝臓に戻され
 て胆汁酸となり、胆汁中に排泄されると言われています。
・胆嚢は、青白い色をした薄い袋で、長さ約10センチ、幅3〜4センチ、容量は約50
 ミリリットルほどです。食前や絶食時には、胆嚢は胆汁で満たされてナスのような形に
 なります。
・胆嚢管には、らせん状の壁があります。一般に、体の中にある管は一方向性の路ですが、
 胆嚢管は二方向性になっていて、肝臓から排泄された胆汁が胆嚢管を通って胆嚢の中に
 入る流れと、胆嚢で濃色された胆汁が胆嚢管から胆管へ押し出される流れとがあります。
・胆嚢管のラセン構造は、胆汁の両方向性の流れの交通整理に役立っているようです。
・胆嚢には、肝臓で作られた胆汁を蓄え、胆汁中の水分を吸収して、胆汁を濃縮する働き
 があります。
・胆汁は、主成分の胆汁酸、ビリルビン以外にいくつかの成分でなっていますが、肝臓か
 ら胆管内に分泌されたばかりの胆汁の大部分は水分でできています。
・胆嚢に入った胆汁は、胆嚢の中で5〜10倍にまで濃縮されます。胆嚢は、十二指腸に
 食物が流れてきた時に強く収縮し、濃縮された胆汁を押し出します。その胆汁は胆嚢管
 から胆管内、さらに十二指腸乳頭部から十二指腸内に流れ込みます。
・胆汁の主成分である胆汁酸には、食物の中の脂肪分を消化させやすくする働きがありま
 すから、タイミングよく十二指腸に流れる仕組みになっているのです。
・食物の中の脂肪(中性脂肪)は、膵臓から分泌されるリパーゼという、細胞の中で行わ
 れる化学反応を早める酵素によって、十二指腸内でグリセリンと脂肪酸とに分解された
 後、小腸の粘膜から吸収されます。
・胆汁酸は、疎水性の脂肪を水になじませる働きがあるのです。この働きを、乳化作用と
 呼んでいます。 
・コレステロール、リパーゼによる脂肪分解で生じた脂肪酸とグリセリン、リン脂質は、
 胆汁酸と一緒にミセルという分子塊を形成して小腸粘膜表面に運ばれて吸収されます。
・脂肪が小腸で吸収されると、胆汁酸はミセルから遊離して回腸から再吸収されます。
 胆汁酸は、肝臓に戻って再び利用され、小腸と肝臓との間を循環しています。
・結石の多くは、疎水性のコレステロールとビリルビンを基本成分としています。結石の
 大部分は、コレステロール成分を70パーセント以上含むコレステロール胆石です。
・結石の大きさは、胆嚢内腔を占拠するほどの大きさのものから、砂のような胆砂、泥の
 ような胆泥と呼ばれるものまで多彩です。形や色も胆石の種類によって特徴があり、胆
 嚢の中の結石の数も、たった1個の場合から数えきれないほど多い場合まであります。
・現在、全国で1000万人もの人が胆石を持つと言われています。そのうち70〜80 
 パーセントの結石は胆嚢結石で、コレステロール胆石がほとんどです。
・胆管結石と、胆嚢の中の結石との外観が同じ場合には、胆嚢の中でできた結石が胆嚢管
 を通って胆管の中に落ちたと考えられます。このことが、胆石によってお腹が痛くなっ
 たり、肝臓や膵臓が悪くなったりすることと関係しています。
・胆嚢の中に結石がなく、胆管の中だけに結石があって胆管の中で結石ができたと考えら
 れるものを、原発性胆管結石と呼んでいます。
・胆汁中のコレステロールが胆嚢の中で結晶化して結石になるのです。
・胆汁の中にコレステロールを溶け込ませるためには、十分な胆汁酸が必要です。もし胆
 汁中の胆汁酸濃度が低下したり、コレステロール濃度が高かったりすると、コレステロ
 ールが胆汁の中で結晶化して、析出、沈殿します。このようなコレステロールが析出し
 やすい胆汁は、過飽和胆汁と呼ばれています。
・健康人の胆汁中には、おおよそコレステロールが5パーセント、リン脂質が15パーセ
 ント、胆汁酸が80パーセントの割合で溶けており、コレステロールの割合が10パー
 セントを超えたり、胆汁酸の割合が50パーセント以下になったりすると結石ができや
 すくなります。
・胆汁内の排泄コレステロールは、食物摂取量の増加、高カロリー、高脂質食の摂取によ
 って増加します。この病態として、肥満や糖尿病が挙げられます。糖尿病の患者さんの、
 5〜17パーセントが胆石症を合併していると言われています。
・また、(レシチン+胆汁酸)は胆嚢の機能不全があると減少しますので、胆石形成の因
 子となります。  
・肝臓から排泄されたばかりの胆汁は、水分が98パーセントで胆汁酸は0.7パーセン
 トですが、胆嚢に貯蔵されているうちに濃色されて胆汁の成分が変化し、水分が89パ
 ーセント、胆汁酸6パーセントと胆汁酸の割合が増えます。このことから胆嚢は胆石形
 成指数を低下させる能力を持っていると言えます。しかし、胆汁濃縮の機能が悪い胆嚢
 の場合は、胆汁酸の濃度が高くならないために過飽和胆汁を生み出し、胆石形成の因子
 となるわけです。
・一方で、胆石を持たない多くの健康人が過飽和胆汁を持っていることもわかっているの
 で、過飽和胆汁は胆石形成の必要十分条件ではなく、単に必要条件と考えられます。
・このほかにも、コレステロール胆石ができやすい要因として、胆嚢の運動機能の低下が
 あります。胆嚢は、胆汁酸の腸肝循環が効率的に働くためのポンプの働きをしています。
 胆嚢の収縮機能が傷害されると、胆嚢内で濃縮された胆汁は十二指腸に流れにくくなり、
 腸から胆汁酸の再吸収が減少して、腸からの胆汁酸の再吸収が減少して、肝細胞から毛
 細胆管に分布つされる胆汁中の胆需酸濃度が低下します。その結果、胆嚢の中で胆嚢酸
 によるミセル形成が少なくなって、コレステロールが析出し、胆石ができやすくなりま
 す。
・胆嚢の運動機能の低下と収縮力の低下は、胆石が成長するための時間的・場所的因子を
 提供することにもなります。
・糖尿病や高脂血症では、この胆嚢機能障害も一因とされています。
・コレステロール胆石のリスクファクターを表すものとして「5F]が知られています。
 5Fとは、40歳代、女性、肥満、白人、多産婦の頭文字をとたったものです。
・年齢、肥満、家族歴の3者は、胆石症の重要なリスクファクターです。年齢では50〜
 60代の人のリスクが高いのですが、ある特徴のある胆嚢を持っている場合は、30歳
 未満の若年者でもコレステロール胆石の発生が高いと言われています。
・胆嚢の壁が部分的に厚く、胆嚢がくびれてひょうたんのような形になっていることがあ
 ります。これを胆嚢腺筋症と言い、その形にはいろいろなものがあります。このような
 胆嚢は、くびれの部分が狭くなっているために胆嚢内の底部側に胆汁が溜まり、その
 くびれにより底部側の胆嚢内にコレステロール胆石ができやすくなります。若い人の胆
 石症は、この胆嚢腺筋症が原因のことがよくあります。
・胆嚢がんに胆石症が合併する頻度は40〜75パーセントと高いのですが、結石を有す
 る人が実際に胆嚢がんになりやすかったというエビデンスはないとされています。
 しかし、
 ・腹痛などの症状がある
 ・無症状でも胆石があるとわかってからの期間が長い
 ・結石が大きい
 ・結石の数が多い
 ・胆嚢の中に結石が充満している
 ・胆嚢の壁が厚い
 などの場合には、慎重に経過をみていく必要があります。このような場合には、年に1
 〜2回の超音波検査を行い、経過観察をすることが勧められています。
・一方、肝内胆管から発生する胆内胆管がんは、胆内結石症の患者さんに多いことがわか
 っています。 
・胆石症の保存的治療法としては胆石溶解約の投与と体外衝撃波結石破砕療法(ESWL)
 が代表的なものです。
・胆汁酸が不足するとコレステロールが結晶となって析出、沈殿して結石となるので、胆
 汁酸を補えばコレステロール胆石を溶解することができます。胆石溶解薬には、胆汁酸
 の一種のウルソデオキシコール酸が使われます。胆石溶解薬の適応となる結石には、
 ・径が15ミリ未満、できれば10ミリ未満の小さいコレステロール胆石であること
 ・胆嚢の機能が正常であること
・胆石溶解薬が適応とならない15ミリ以上の結石で、20ミリ以下の場合には、結石を  
 細かく砕いてから胆石溶解薬を投与し、その効果を高めるESWLという方法がありま
 す。しかし、ESWLには
 ・治療に長期間を費やすこと
 ・内服中止による結石の再発があること
 ・結石を砕くことによって結石の破片や小結石が胆嚢内から胆管内へ落下する危険があ
  ることなどの問題があります。私自身は、侵襲の少ない腹腔鏡下胆嚢摘出手術を積極
  的に行っています。
・極めて稀ですが、胆嚢摘出術から長期間を経て胆管内にビリルビンカルシウム石ができ
 る場合があります。その原因は、乳頭機能の異常と胆汁うっ滞であると言われています。
・胆石症を予防するには、1日当たりの総カロリー摂取量が、コレステロール胆石ができ
 る頻度と相関していると言われていますから、飲み過ぎ、食べ過ぎには注意しましょう。
・LDLコレステロール値が高い人には、水溶性の食物繊維がいいと言われています。コ
 ンニャクやりんごなどの果物、わかめやひじきなどの海藻類には、水溶性食物繊維が多
 く含まれています。
・水溶性食物繊維には、腸内でねばりけのあるゼリー状になって、腸に分泌された胆汁酸
 を取り込み、便と一緒に体外へ排出する効果や、腸内で糖や脂肪の吸収を遅らせたり防
 げたりする働きがあります。
・ヨーグルトの中の乳酸菌も、腸内で胆汁酸の排泄を促す働きがあると言われています。
・そのほかに、規則正しい食生活を送ることが大切です。適度な運動は、胆石の生成のリ
 スクを低下させると言われています。
・全胆石の70パーセント以上がコレステロール胆石なのは、戦後日本の食生活の向上と
 欧米化によるところが多いと言われています。

胆石によるお腹の痛み
・胆石が胆嚢の中にあるだけでは、腹痛は起こりません。このような症状のない胆石のこ
 とを、無症状胆石と言います。約半数の胆石は、無症状胆石と言われています。
・結石が動くだけでは腹痛は起こりません。
・食事をした後に、胆嚢が収縮するのですが、この胆嚢の収縮による胆汁の流れに乗って、
 結石が細い胆嚢管に移動してそこに詰まると腹痛が起こるのです。この腹痛が起こる状
 態を胆石発作と言います。
・結石が詰まると、胆嚢頸部や胆嚢管が攣縮して、内臓神経という自律神経が刺激されて
 痛みが起こると言われています。
・内臓通は、通常、食後の1〜2時間に、不快な感覚を伴って、胃の辺り、みぞおち全体
 といった、部位のはっきりしない持続性の強い痛みが起こります。これは、内臓の感覚
 や不随意運動、分泌に関わる内臓神経の交感神経の刺激によると言われています。そし
 て、副交感神経の刺激によって気持ち悪くなって吐くこともあります。また、背中や右
 肩に痛みがある場合もあります。
・関連通とは、体のある部位が原因で起こる痛みを、原因とは異なる部位で感じられるも
 のです。この関連通は内臓などに障害があった場合に、そこから疼痛刺激が末梢神経を
 介して脊髄に入ってきた際に、同じレベルの脊髄に入力する皮膚由来の痛覚神経のほう
 が多いため、脊髄に入力してきた内臓からの痛みである内臓通の情報が混線して、内臓
 ではなく皮膚由来の痛覚として脳が誤認識して引き起こされると言われています。背中
 や肩の痛みは心筋梗塞や肺炎などと間違えられる場合もあります。
・胆石発作は、脂肪分の多い食事を食べた後に多いようです。就寝中に、仰向けの姿勢か
 ら寝返りをうった時に起きることが多いとも言われています。この理由は、立位の時に
 は胆嚢底部は下方にあり胆嚢管は上方を向いていますが、床に就くと胆嚢は水平になっ
 て結石が胆嚢管の開口部に近づくためと推測されています。
・痛みが一時的で収まってしまうのが胆石発作です。この場合には、胆嚢管に入り込んだ
 結石が胆嚢内に戻ったり、胆嚢管を通り過ぎて胆管内に落ちたりして、腹痛は嘘のよう
 になくなってしまいます。痛みの強さは、我慢できないほどの強いものから、ドーンと
 重たい感じがするだけの軽いものまでありますが、通常、2〜3時間で収まってしまう
 のが胆石発作の特徴です。
・一方、胆石が胆嚢管や胆嚢頸部に入り込んだまま嵌頓状態が続くと、結石はそのまま動
 かなくなります。すると、胆嚢の中の胆汁は胆嚢の中で堰き止められてしまうので、飲
 食によって胆嚢が収縮しても胆汁は胆管の中に流れることができません。この状態が続
 きと、胆嚢に炎症が起こります。その結果、胆嚢は緊満してきます。そして、胆嚢内に
 は細菌が増殖しはじめます。
・胆嚢の壁に炎症が起きると、胆石発作時の内臓通に代わって、それとは異なる、部位感
・がはっきりした鋭い痛みが起きるようになります。胆嚢の炎症が持続すると、胆嚢の壁
 が壊死したり破れたりして、胆汁がお腹の中に漏れ、腹膜炎を起こすこともあります。
・急性胆嚢炎の診断は、腹痛の状態といった臨床症状や腹部所見、腹部超音波検査・腹部
 CT検査などの画像検査、血液生化学検査などで総合的に診断します。
・胆嚢炎の痛みは持続性で、痛みの場所がみぞおちから胆嚢のある右季肋部に移ります。
・胆嚢は右の肋骨弓という骨格に囲まれていますから、普段は胆嚢に触れるのは難しいこ
 とが多いのですが、胆嚢が大きく腫大した場合には胆嚢を体の外から触れる場合もあり
 ます。
・急性胆嚢炎の診断では、触診所見のマーフィーサインが特徴的です。マーフィーサイン
 とは、腹部の触診時に右季肋部に手指をあてて、大きく息を吸い込ませた時に、痛みの
 ために呼吸が止まることです。
・超音波検査やCT検査をすることで、急性胆嚢炎は客観的に診断できます。急性胆嚢炎
 の超音波およびCTの所見では、
 ・胆嚢の腫大、胆泥の貯留
 ・胆嚢壁の肥厚
 ・胆嚢頸部に嵌頓した結石の存在
 などが特徴的です。
・急性胆嚢炎の治療では、まず絶食として、輸液、抗菌薬を投与します。その後、検査を
 し、 
 ・全身麻酔がかけられない病気がある
 ・全身状態が極めて不良である
 ・心筋梗塞や脳梗塞の治療のために血液をサラサラにする抗血小板薬を内服している
 ・超音波検査で胆のうがんが疑われるような所見がある
 などの手術リスクとなる要因がない場合には、緊急に手術を行って胆嚢摘出します。
・手術は腹腔鏡下胆嚢摘出術が推奨されています。最近は、急性胆嚢炎の場合でも、お腹
 に数か所小さい孔を開けてそこから腹腔鏡や専用の手術器具を入れ、テレビモニターを
 見ながら手術を行う腹腔鏡下胆嚢摘出術を行うことが一般的になりました。
・開腹でも腹腔鏡下でも、胆嚢摘出手術では、
 ・胆嚢を穿刺し、胆嚢内容を吸引・排除して、術野を展開しやすくすること
 ・胆嚢管と、胆嚢に栄養を供給する胆嚢動脈とを確実に同定し、胆管を損傷しないよう
  に細心の注意を払うこと 
 ・胆嚢管に嵌頓した結石を胆管内に落下させないように気をつけること
 が必要です。
・急性胆嚢炎は、ひどい炎症がなければ、抗菌薬でおさまる場合も多いようです。しかし、
 手術のリスクとなる要因がない患者さんには。
 ・胆嚢が肋骨の下に隠れている場合には腹部所見がとりにくい
 ・腹部所見が軽くても胆嚢の炎症が高度な場合がある
 ・特に高齢者では腹部所見から胆嚢の炎症の程度を判断することが難しい
 ・超音波検査で描出することが困難な5ミリ以下の小結石やCT検査では見つけられな
  い純コレステロール胆石が原因となった急性胆嚢炎と、動脈硬化などの基礎疾患や術
  後早期に発生して壊死や穿孔を起こしやすい、胆石が原因でない急性無胆石胆嚢炎と
  の区別が難しい
 ・緊急手術をすることで患者さんの苦痛を早く取り除くことができ、入院期間も短くな
  る
 ・時間が経過して炎症が慢性化した慢性胆嚢炎の状態では、周囲臓器との癒着などで手
  術が難しくなる
 などの理由から緊急手術を行っています。
・しかし、肺や心臓などの臓器が傷害されて、呼吸や循環などの管理のために集中治療が
 必要な重症の急性胆嚢炎では、緊急に胆嚢摘出手術を行うことが危険な場合があります。
 このような時には、胆嚢の中に溜まった胆汁を排除するだけの侵襲の少ないドレナージ
 という治療を行います。
 
胆石によって肝臓も悪くなる
・胆石が原因で高度な肝機能障害が起きることがあります。しかし血液検査結果だけに目
 を向けると、急性肝炎と胆石によって起こる肝炎とを間違える場合があります。
・結石によって肝臓が悪くなるは、結石が胆管に嵌頓することが原因なのです。胆管結石
 が嵌頓して胆管が急に詰まると、絶えず肝臓から分泌されている胆汁は、十二指腸に流
 れることができなくなります。胆汁は逃げ場がなく胆管の中に溜まり、胆管の中の圧が
 上がります。胆管と胆嚢とは胆嚢管で繋がっていますから、胆嚢の中にも胆汁が充満し
 て胆嚢が腫大し、胆管も拡張します。そして、胆汁の中には細菌が増えていきます。
・胆石が原因の肝炎を胆石肝炎と命名しました。胆石肝炎の原因は、ひとことで言えば胆
 管結石の嵌頓です。つまり、胆石肝炎は、肝炎と言っても、外科的な疾患です。胆石肝
 炎と、いわゆる急性肝炎とは区別する必要があります。
・胆石肝炎は、非常に激しいお腹の痛み、つまり、胆石発作が起きます。痛むのは上腹部
 で、特にみぞおちから右の肋骨の下、肋骨弓下と呼ばれる場所です。これに対して、ウ
 イルス、アルコール、薬剤などが原因のいわゆる肝炎では、食欲がないとか、体がだる
 いといった病状がほとんどです。
・注意を要するのは、アルコール性肝障害です。アルコール性肝障害では、腹痛、発熱、
 黄疸、高度の肝機能異常、白血球増多などが出現して、急性胆管炎と間違える場合があ
 ります。アルコール性肝障害は、もともとお酒飲みの人が、アルコールを急に多く飲ん
 で起きるので、腹痛が起きる前の飲酒歴を聞くことが大切です。
・胆石肝炎は、非常に痛い病気です。しかし、すべての患者さんに緊急処置が必要という
 わけではなく、胆石肝炎の患者さんの約30〜40パーセントは内科的治療によってお
 腹の痛みがおさまります。これは、胆管に嵌頓した結石が、胆管内圧の上昇などによっ
 て、乳頭部から十二指腸内に押し流されてしまうためと思われます。十二指腸に排出さ
 れた結石のことを、落下結石と呼んでいます。
・内科的治療によっても病状がよくならない患者さんには、緊急に十二指腸まで届く長い
 内視鏡を飲んでもらいます。そして、十二指腸乳頭部から、細い処置具を胆管の中に入
 れ、乳頭開口部を少し切開、あるいは拡張して嵌頓結石を掴んで取り出します。
・急性胆管炎の治療の3原則は、
 ・緊急胆管減圧
 ・臓器不全に陥った臓器の積極的・集中的治療
 ・適切な抗菌薬の使用
 です。
・重症胆管炎では、緊急に胆管内圧を下げるドレナージを行う必要があります。胆管ドレ
 ナージ法には、経皮肝管ドレナージ(PTBD)と内視鏡的経乳頭敵胆管ドレナージが
 あります。PTBDは、超音波検査をしながら局所麻酔下に皮膚から肝内胆管にチュー
 ブを入れて、胆汁を体外に誘導する方法です。一方、内視鏡的経乳頭敵胆管ドレナージ
 は、内視鏡を使って十二指腸乳頭部の開口部から胆管の中にチューブを挿入して胆汁を
 排除するドレナージ法です。PTBDには、稀ですが腹腔内出血や胆汁性腹膜炎などの
 合併症があることから、内視鏡敵経乳頭的胆管ドレナージが推奨されています。
 
胆石によって膵臓も悪くなる
・膵臓は、胃の裏あたりにある臓器で、色はやや黄色みをおびた灰白色で、幅3〜5セン
 チ、長さ約15センチ、厚さ約2センチで扁平な形をしています。
・膵臓は、膵頭部、膵体部、そして膵尾部の3部に分けられています。 
・膵臓は、体の代謝回転を駆動するために、食べた食品蛋白質とほぼ同量か、それ以上の
 量の消化酵素蛋白を合成しています。その消化酵素蛋白の生産量は、授乳期の乳腺が産
 生する乳汁量より多く、膵臓は体の中で最も蛋白産生に特化した臓器と言われています。
・胆石によって、肝臓ばかりでなく、膵臓も悪くなって急性膵炎を起こすことがあります。
 この急性膵炎を、胆石が原因の膵炎という意味で、胆石膵炎と言います。
・一般に、血液検査でアミラーゼやリパーゼの値が上昇していると、膵炎と言われます。
 胆石のある患者さんが、激しい腹痛を訴え、血液検査でアミラーゼやリパーゼなどの膵
 臓が分泌する消化酵素の値が上がっていたら、胆石膵炎と診断されます。
・アミラーゼは、澱粉やグリコーゲンを分解し、リパーゼは中性脂肪を脂肪酸とモノグリ
 セライドに分解する消化酵素です。
・十二指腸乳頭部は、オッデイ筋に取り囲まれていて、その内腔は狭く、生理的狭窄部と
 呼ばれています。また、十二指腸乳頭部の開口部は拡張も悪いため、胆嚢管を通過して
 胆管に落下した小結石は、十二指腸乳頭部に嵌頓しやすいという特殊な環境となってい
 ます。そして、小結石が嵌頓すると、膵臓が傷ついてアミラーゼの値が上がるのです。
・十二指腸乳頭部は、胆管と膵管とが合流する”扇の要”ともいうべき重要な場所です。
 ここに結石が嵌頓すると胆管とともに膵管が閉塞します。
・米国の研究によると、胆石症の患者さんの経過中に3.4パーセントが胆石膵炎を発症
 したという報告がされています。  

おわりに
・胆石の多くは無症状で、健康な生活を送ることができます。しかし、一部は突然の腹痛
 の原因となり、重症急性胆管炎や重症膵炎という生命に危険な肝臓や膵臓の病気を引き
 起こすことがあります。早期診断・早期治療が重要です。
・お腹が痛い時に、血液検査やAST値やALT値が上がっていると言われたら、胆石が
 ないか、特に胆管の中に結石がないかを調べてもらいましょう。