しがみつかない死に方  :香山リカ

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いつかは死ぬということはわかってはいても、若い頃は自分の死というものをほとんど意
識しなかった。しかし、年を重ねて50代にもなってくると、否応もなく死を意識するよ
うになってきた。
死というものが避けられないのは仕方がないとしても、できるならみっともない死に方だ
けはしたくない。これは多くの人の願いだと思う。あんな死に方をしたいとか、こんな死
に方をしたい、といろいろ考えるわけだが、死に方は自分では決められないというのも事
実である。そうであるならば、自分の死に方について、あれこれ考え悩むよりも、残され
た時間をできるだけ充実させることのほうが、賢明だという気がする。

孤独死恐怖症候群
・「悩みの主」は、たいてい30代か40代のひとり暮らしの女性である。
・現代における新たな恐怖の原因、それは孤独死なのである。
・ほとんどの人が半ば強制的に結婚していた「皆婚時代」には、30代半ばをすぎてもシ
 ングルという女性は少なかったであろうし、たとえいたとしても実家暮らしや兄弟と住
 んでいる人がほとんどだったはずである。女性が仕事をして、自分の力でマンションを
 借りたり買ったりして、30代をすぎてもひとりで生活し続ける、というのはここ20
 年ほどの間に確立したライフスタイルと言ってもよいだろう。
・孤独死は、ひとりで頑張って生きている女性たちの心に、いつも暗い影を落としている。
・もちろん、孤独死の恐怖にさらされているのは、シングルの女性たちだけではない。高
 齢の単身生活者もそうだし、シングル男性だって条件は同じだ。
・高齢でひとり暮らしをしている人たちのほうが、孤独死に対する恐怖は大きそうなもの
 である。しかしこの人たちは、長くそこで暮らしてきて地域のつながりがあったり、介
 護保険サービスでヘルパーや看護師が訪問したり、いっしょに生活していなくても子ど
 もがどこかにいてときどき連絡してきたり、と完全なこりつ状況ではない場合も少なく
 ないようだ。
・むしろそれよりも、にぎやかな都会でひとり暮らしをする30代、40代の比較的、若
 い単身者が、エアポケットに落ち込んだかのように孤立し、孤独死を迎えるケースが目
 につく。
・なぜ孤独死は、それを恐れるあまりうつ状態に追い込まれ、仕事や生活の楽しみまで奪
 われる人が続出するなど、現代のひとり暮らしの人たちの上に暗い影を落とすのだろう
 か。
・男性で孤独死の恐怖からうつ状態にまで陥る事例は少ないが、これは彼らが孤独死を怖
 れていないからではない。逆に彼らは恐怖のあまり、そのことを考えないようにしてい
 るだけなのだ。
・孤独死そのものは望ましい死に方とは言えないし、考えようによっては悲惨ですらある。
 また、シングルのまま亡くなると、当然、子どもや夫を遺すことはできず、せいぜい仕
 事の業績が「生きた証」となって並べられるだけである。ただ、だからといってその人
 生が空しいとか意味がない、ということではないのだ。

「ひとりで死ぬ」という現実
・病院以外の場所で死亡した場合、刑事訴訟法第229条に基づいて、検死が実施される。
 つまり、孤独死はそれだけで必ず検死の対象となるのだ。この時点では解剖は行われず、
 司法警察員と呼ばれる特殊な警察官などが、着衣や所持品を調査し判断して、事件性の
 あるなしを捜査する。
・検死を避けるために、病院以外で亡くなったことを隠蔽したりすると、それだけで隠し
 た人が死体遺棄の罪に問われる場合もあるという。だから、友人に「もし私が孤独死し
 ているのを見つけたら、警察が家に来るのはいやだから、救急隊にも連絡しないで」と
 頼むのは、原則的にやめたほうがよいだろう。
・さらに、犯罪性があると認められた場合は「司法解剖」で、それ以外の場合は「行政解
 剖」で死因の特定がされる。司法解剖には遺族の同意や許可は不要だが、行政解剖の場
 合は、遺族の所在が不明といった場合以外は、原則として遺族の同意が必要である。
・ひとり暮らしの場合、在宅時はたとえ就寝しるときでも必ず明かりをつけておいたほう
 がいいかもしれないが、現実的にそんなことを心がける人はいないと思われる。照明を
 暗くしての就寝中に体調が急変して世を去ってしまった場合は、その分、発見が遅れる
 こともありそうだが、それはそれで仕方ないだろう。
・「連絡が取れなくておかしい」と誰かが気づいて家まで来てくれても、そこから中に踏
 み込んでもらうためには、いくつものハードルが待ち構えている。そえでも「これは絶
 対、入ったほうがいい」と来訪者が強い意志でとにかく踏み込む、というのは、現在に
 おいてはかなり困難なことなのだ。
・体調が急変しても適切な医療を受ければ回復も可能な段階で気づいてもらえるのがいち
 ばん幸運なのだが、たとえ事切れてからであっても、比較的、早期に誰かが気づき、実
 際に上に入って見つけてくれたとしたら、それだけでも幸運なことと言えるのではない
 だろうか。
・では、「比較的、早期」とはどのくらいの時間をさすだろう。一般的には、遺体の傷み
 もすれほどではなく、倒れたままの姿で発見されるのはせいぜい「死後、3日以内」。
・おそらく2,3日で発見というのはごく短いほうで、一般的には「死後1週間くらいが
 経過」というケースも少なくないだろう。そうなると、残念ながら遺体の損傷はかなり
 進んでいる、ということになる。
・遺体の傷みの程度により、発見してくれた人のショックの大きさが違ってくるのではな
 いか。発見した遺体が損壊が進んで、外見も異常、臭いも強烈となっていたり、部屋に
 ムシが大量に発生していたりすると、悲しみや後悔以上の強い衝撃に見舞われ、PTSD
 などの心の後遺症が発生してしまうこともある。自分のためにではなく、見つけたくれ
 た人のためにも、遺体はなるべくきれいな状態であったほうがよいのだ。
 
遺品の行方
・興味深いのは、「生前見積もり」を依頼する女性がいる、ということだった。とくに目
 立つのは、それほど高齢ではない人も含めたひとり暮らしの女性からの依頼だ。彼女た
 ちはいま、命の危険があるような病気になっているわけでもないのに、「ぜひ生前見積
 もりい来てほしい」と電話をしてくるそうなのだ。
・年齢は健康状態をきいて、「まだ必要ないのでは」と説得しても、たいていの人は「ぜ
 ひ」と食い下がる。「わかりました」と出かけて、簡単に見積もりをすませて仮契約を
 結ぶと、依頼主は心からほっとしたような表情を見せるという。
・遺品整理サービスというキーパーズの存在じたいが、現代人たちにとっては「いざとい
 うときはあそこに頼めば何とかなるわけだし」と不安を軽減する精神安定剤になってい
 るのではないか。「あるだけで安心」なサービス、それが遺品整理業というわけだ。
 
「別れ方」にしばられない
・葬儀は次のふたつの方向に向かった。つまり、「慣例を破って個性的にやるか」、ある
 いは「まったくやらないか」である。「個性派葬」のほうは、主に故人の遺志に従って
 そうされることが多い。
・「個性派葬」にも限界が見えてくる中で、大きく伸びているのは「いっそのこと、まっ
 たくやらない」という「無葬式派」だ。
・「葬式も戒名もいらない。死を知らせる親族は最小限。親しい知人には納骨後に知らせ
 て。家は取り壊して更地にしてほしい」
・「葬式をすることで、親族や他人の時間を拘束したくない。誰にも迷惑をかけないで、
 消えるように死にたいの」
・「死後に若い人たちに迷惑や負担をかけるのは耐えられない。自分は十分幸せに生きて
 きた。最期は高温で火葬してもらい、灰になって消えてしまいたい」
・最近は、そういった「死後の事務処理、引き受けます」というNPOやサービスも登場
 している。
・「しるシステム」の代表が語る話の中でとくに注目すべきなのは、「契約者の8割が
 「葬式はいらない」という人と言っていることだ。実際に、大げさな葬儀を略して、病
 院や自宅から直接、火葬場に遺体を移してまったくセレモニーをしないか、するとして
 も最低銀のものだけにして荼毘に付す「直葬」と呼ばれる葬送スタイルが急増しており、
 東京の都心部では2〜3割にもなるという説もある。
・国民の意識調査では、「宗教はもたないが宗教的なものにひかれる人が増えている」と
 いう最近の傾向が明らかになっている。
・宗教への信仰については、「宗教を信仰している」人が39%に対して、「宗教を信仰
 していない」人は49%で、宗教を信仰していない人のほうが多くなっている。「宗教
 を信仰している」人は、男性よりも女性、若い人よりも高齢者で割合が高くなっている。
・宗教的な行動では、「墓参り」や「初もうで」を「よくする」という人が半数を超え、
 「したことがある」を加えると9割程度の人が行っていることがわかった。
・もっともシンプルな別れといえる直葬は、どうやればできるのだろう。考えられる限り
 もっともシンプルなやり方は、病院で亡くなったとしても自宅で倒れて孤独死したとし
 ても、とにかく死亡が確定したら、そのまますぎに火葬場の火葬炉に搬送してもらうと
 いうドア。トウ・ドア方式だろう。私も個人的にはそうしてもらいたいと思う。
・火葬料の相場は、民営だと5万、公営だと3万以内と言われている。
・ところが、日本の法律では、伝染病で亡くなった場合を除き、死亡後24時間以内に火
 葬をとり行うことは禁止されている。いわゆる「息を吹き返す」といったケースがあっ
 ては困るからだ。
・では、どこでその「24時間」をすごすのか。そこまで「延長滞在」を認めてくれる病
 院はまれだそうだ。自宅に戻るのもむずかしい、というケースはどうすればよいのだろ
 う。そういうときには、火葬場の霊安室に安置というのが一般的なようだが、それも受
 け入れ時間の制限などがあってむずかしい場合もある。そうなるとどうしても、葬儀社
 に取り仕切ってもらわなければならなくなってくる。
・葬儀社が関係するとなると、さすがに「すべて込みで5万円」とはいかない。ある葬儀
 社が提案する9万5千円の「ミニマスプラン」が一番安価だった。このミニマムプラン
 は本来は18万数千円かかるところを、特別価格で9万円台で「提供」しているのだそ
 うである。
・葬儀から収骨までのすべての料金と手間をなしにする方法が、ひとつだけある。それは、
 医学部の解剖実習用に献体することだ。各大学にある「白菊会」という組織に登録して
 おいて、死亡したときにそこに連絡が行くようにしておけば、24時間いつでも遺体の
 引き取りに来てもらえる。そして、実習が終わったあとは希望すれば家族のもとに返骨
 もしてもらえるし、また大学の納骨堂や合同墓への埋葬もしてもらえる。もちろん、き
 ちんと毎年、供養も行われ、学内に供養塔がある場合は、学生が実習のたびに手を合わ
 せてくれる。
・日本人は生命保険料を掛けすぎというか、高い保険に入らされすぎ」。しかも、実は死
 亡した際にも、結構保険組合からもお金が支給される。国民健康保険であれば「葬祭費」、
 社会保険や共済組合なら「埋葬費」が5万から10万は出る。ただ、それだけでは直葬
 にしてもその費用全般はまかなえない。
・医療費で150万くらい、葬儀費用で30万くらい、余裕を見てトータルで200万
 持っていれば、生命保険は不要、と言ってもいいかなと思います。
・もっともシンプルな葬送である直葬と並んで最近、人気なのが、身内だけの「家族葬」、
 そして儀礼にとらわれない「お別れの会」形式の見送りである。ひとりで世を去る孤独
 死の場合、なくなってから離れて住む家族が「家族葬」を執り行ってくれたとしたら、
 それはそれでラッキーと考えたほうがよいだろう。
・一方「お別れの会」は、今後、ひとり暮らしで亡くなった人の場合のひとつの定番スタ
 イルになっていきそうだ。それは本人自身の希望で行われる場合と、友人や知人たちの
 発案で行われる場合とがあるはずだが、たとえば最初から会費制などにしておけば、そ
 れほどの費用をかけずに行うこともできる。葬儀社から言われるがままに何十万何百万
 と費用を支払う葬儀とは違い、普通のパーティ感覚で誰でも取り仕切ることができるの
 も魅力だ。
・最低限の費用を用意して、後はなるべく「こうしてほしい」と葬儀やお別れの会につい
 て遺言という形でなくても日ごろか、口にしておく。そうすれば、けっこう何とかなり
 そうな気もする。

「死に方」にしがみつかない
・万が一、そんな日がやって来たとしても、「死どき」を自分で決めることはできない。
 日本には古来突然死、いわゆる「ポックリ死」こそ最良の死に方、と考える価値観があ
 る。日本各地には「ポックリ地蔵」と呼ばれる場所があって、有名な寺になると「ぽっ
 くり寺と大和ぼけ封じ靈場巡拝」といった参拝ツアーまで組まれている。
・達者でポックリのための十二か条
 ・できるだけ歩く
 ・気功を身につける
 ・旬のもの、地場のものを食べる
 ・好きなものを少し食べる
 ・酒をたしなむ
 ・早寝早起き
 ・いつも希望とトキメキを
 ・生きる悲しみを噛みしめる
 ・この世は品性を磨くための道場と心得る
 ・折にふれ死を想う
 ・わが弱点をサプリメントで補う
 ・いい場に身を置く
・血圧が少しばかり高いからといってやたらと降圧剤を飲むと、そのまま死ぬ確率の高い
 脳出血ではなく、助かって後遺症に苦しむ脳梗塞になる確率が上がるからやめたほうが
 よい。
・死ぬのに適しているのはだいたい80歳くらい。
・2009年の天皇即位20周年に際した記者会見で皇后閣下が次のように述べられた。
 「高齢化・少子化・医師不足も近年大きな問題として取り上げられており、いずれも深
 く案じられますが、高齢化が常に「問題」としてのみ取り扱われることは少し残念に思
 います。本来日本では還暦、古希など、その年ごとにこれを祝い、また、近年では減塩
 運動や健診が奨励され、長寿社会の実現を目指していたはずでした。高齢化社会への対
 応は様々に検討され、きめ細かになされていくことを願いますが、同時に90歳、100
 歳と生きていらした方々を皆して寿ぐ気持ちも失いたくないと思います」
・自分らしい終わりの迎え方を、自分自身で選択したい。もしかすると、これはかなり傲
 慢な欲望なのかもしれない。「すべては天や神が決めること」と考えて、あとはなるべ
 く生きられるところまで生きてみる、というのが妥当な線という気もするが、どうだろ
 うか。
 
「伝え方」に悩まない
・金は天下のまわりもの、という言葉があるように、自分が持っていたものは一時的には
 誰かに相続されたとしても、いずれはこの世界のどこかをゆるやかにめぐっていく、と
 思っておくくらいのほうが明るくおおらかに生きられるのではないだろうか。
 
「死後の準備」にとらわれない
・いずれにしても、「いざというときのために、このくらい準備しておこう」などと思って
 何かをやってみたとしても、それは「死後のため」というよりは、結局は「まだ生きて
 いる今のため」ということになるのではないだろうか。それに、どんなに完璧に準備し、
 計画を立てていても、いざというときや自分の亡き後、それが確実に実行されるかどう
 かはまったくわからない、と言ってもよい。
・葬儀はどうだろう。個人的には「いっさいごめん」と思うのだが、葬儀は故人のためで
 はなく、遺された人たちの「喪失の儀式」という役割もあるのではないだろうか。
・私の両親もよく「葬儀はいらない」などと言っているのだが、申し訳ないけれど、死ん
 だ時には一応、小ぢんまりとでも葬儀を行わせてもらおうと思っている。そうでなけれ
 ば、いつまでも「ああ、親はもう亡くなったんだ」という実感が持てず、そのことで受
 容から回復までの時間がよけいにかかりそうだからである。
 
あとがき
・あまりよけいな心配をせず、元気なうちは目一杯、ひとりでいるからこそ自由やきまま
 さをエンジョイしよう。そして、いよいよというときには多少の不安や寂しさ、不便や
 苦痛を感じるかもしれないが、そのときはうろたえず腹をくくる。それは、悲惨なこと
 でも情けないことでもなく、堂々としたその人の生き方なのだ。
・どうにもならない恐怖を見つめる時間を、身の回りの小さな幸福、小さな喜びを探し拾
 い集めて生きる時間に充てる方が、結構楽しいかもしれない。どうせ生きている時間は
 限ら得ているのだから。