人間の覚悟 :五木寛之

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いよいよ覚悟を決める時がきたようである。いまの世の中の状況を見ていると、そんな
気がする。社会があらゆる面で行き詰っている。将来に対して希望が持てなくなってい
る。そして、頼るものがなくなってしまっている。地域コミュニティーはもちろんのこ
と、会社も社会システムも政治もそして国も頼れなくなってしまっている。
覚悟を決めるとういうことは、それらのものに頼らないという覚悟のことである。
頼れないものに頼っても仕方がない。頼れるものは自分だけだという覚悟が必要である。
そして、世の中にはどうにもならないことがあるという諦めを覚悟することである。
生きることは辛いことの連続であるということを覚悟することである。


覚悟するということ
・「諦める」というのは、投げ出すことではないと私は考える。「諦める」は、「明ら
 かに究める」ことだ。はっきりと現実を見すえる。期待感や不安などに目をくもらせ
 ることではなく、事実を正面から受けとめることである。
・私はこの日本という国と、民族と、その文化を愛している。しかし、国が国民のため
 に存在しているとは思わない。国が私たちを最後まで守ってくれるとも思わない。国
 家は国民のために存在して欲しい。だが、国家は国家のために存在しているのである。
・国が最後まで私たちを守ってくれると思わないことだ。国を愛し、国に保護されては
 いるが、最後まで国が国民を守ってくれる、などと思ってはいけない。
・ありとあらゆる生活のさまざまな面で、私たちは多大な税金をはらって生活している。
 その対価として国家があたえてくれるサービスがどれだけあるか。
・国民の義務を果たしつつ、国によりかからない覚悟。最後のところで国は私たちを守
 ってくれない、と「諦める」ことこそ、私たちがいま覚悟しなければならないことの
 一つだと思うのだ。
・お金を銀行に預けて頼りにしている時代ではない。年金もおまかせでもらえるわけで
 はない。
・高齢者に優しい社会などない、と覚悟すべきだ。老人は若者に嫌われるものだ、と覚
 悟して、そこから共存の道をさぐるしかないのである。

時代を見すえる
・この国は平和で裕福で、この先もそうだろうという幻想はもはや捨てなければならな
 い時代がきた。
・これほど人間の命、生命というものに対する軽さがドラスティックに進んでいる時代
 はないのではないか。
・世の中のあらゆることは流転する。人間は老いて死んでいく。そのことを、逃げずに
 真正面から見つめることです。世間は「あきらめない」ことを賞賛しますが、「あき
 らめる」は決して弱々しい受身の姿勢ではなく、正しい覚悟を決める上では不可欠な
 のだと思います。
・まず「生きる」こと。どんなにみっともなくても、「生きつづけ」「存在する」こと。
 みずから命を捨てたり、他人の命をうばわないこと。それを覚悟のひとつとすれば、
 「人間はどう生きるべきか」が問題ではなく、「人間は、今こうしていきていること
 にこそ価値がある」と、そう思いつづけているのです。
・格差がいけないのではない。上流と下流の格差がどんどん拡大し、定着してしまうこ
 とが、格差の悪なのです。
・いったん組み込まされてしまったら最後、もう絶対に抜け出すことができない格差社
 会、完全な階級社会が作られつつあるのがいまだともいえます。
・これかの日本では、恋人を持つ、結婚する、家庭を持つという、いままではごく普通
 だった人生の階段を上がれない人たちがたくさん出てくるはずです。
・歴史を振り返ると、いまの時代は、十五世紀後半に応仁の乱が起きる前に似ています。
 政情が不安で、地震も疫病も流行し、寛政の大飢饉では、京都だけで餓死者が八万人
 を超え、鴨の河原にはゴミのように死体が積み上げられた。
・日本の社会というものにメリメリと大きな亀裂が走り、その奥はすでに見えてきてい
 ます。かつてのような緑に森や水をたたえた自然もなくなって、荒涼たる砂漠が広が
 るアブガニスタンの荒野のような世の中が、やがて目の前に出現してくるにちがいな
 いと予感する。しかし、怖くてそれを直視できずにいるのです。
・こういう世の中では、鬱にもならず明朗活発に生きられる方が人間としてどうかして
 いるのではないか、とさえ思われてくる。
・人は見えるものではなく、見たいものを見るのだ、といいます。人間に見えている世
 界には、いつも期待が作用しています。
・サブブライムローンは、天才的な詐欺です。それが悪質なのは、最終的な尻拭いを公
 的資金、つまり国民の税金でやらせることになる点です。
・日本でもこれまでは対前年比何パーセント成長などといっては、経済は将来にわたっ
 て成長すべきだという「いけいけドンドン」の考え方がまかり通ってきました。しか
 し、これから先は前年比下がり、売り上げも落ちることを覚悟した上で、なんとか良
 質の需要と利潤を確保していく形が自然だろうと思います。

下山の哲学を持つ
・男女の関係も同じです。出逢い、恋愛し、結婚し、しばらくすると子供が生まれ、養
 い育てながら家を作っていく、そこまでは登山の段階ですが、あるところでそれが終
 わると少しの空白の時間が訪れます。子供たちが自立して出て行ったその先、パート
 ナーとしてお互いをいたわりながら、いかにして夫婦生活を下山していくのか、家庭
 を持つということの意味も、半ばそこにあると私は考えています。
・下降していく社会と、個人的には上昇していこうとする人たちの摩擦、どこにも出口
 の見えない閉塞した社会、うだつのあがらない自分自身へのやり場のない怒り、なん
 とか自己を啓発してもっと幸せをつかむのだという姿勢は否定しませんし、抑圧され
 たまま発酵してガスが出ているような鬱の気分が、多くの人を心の病に向わせている
 のではないでしょうか。
・社会の体制という縦糸も、会社や家族という横糸も切れてしまえば、やはり人は孤独
 を感じざるを得ないでしょうし、自分の悲しみや孤独を訴える家族が解体し、親にも
 話せない、親友もいないとなればブログに書き込むぐらいしかないだろうと思います
 が、結局は満たされない気持ちが残されるはずです。
・あきらめる、というのはすごく大事なことです。人間は一人で生まれ、生きていく中
 ではどんな悲しみも苦しみも痛みも他のだれかに代わってもらうことはできず、やが
 ては老いて一人で死んでいくものなのだ、そのことを若いうちにできるだけ早く、明
 らかに究めておくべきだろうと思います。
・富裕でお金があるというだけで、一つの尊敬の価値になる。その後にくるのが知識と
 教養で、最後が人徳です。人徳が後回しにされてしまうのは愚かしいことのようです
 が、昔から今まで変わりません。
・競争や出世や富はあきらめ、紙くず一つ、タバコの吸殻一つ拾うだけでもいいから、
 人のために働くことが、良き林住期と遊行期をもたらすことになる。いま現在の生活
 に追われていると、暴論のように聞こえるかもしれませんが、やはりそれこそがいい
 下山の方法であり、老いるという作法ではないでしょうか。

日本人は洋魂は持てない
・私たちの暮らす日本という国は、所詮どうあがいたところで世界の辺境にあるアジア
 の小さな国で、大国の甚大な影響を受けて生きてきたし、これからもそうだという覚
 悟が必要です。

他力の風にまかせること
・何かを信じる、ということは何かを選択することに他なりません。そして選択したら
 異議ははさまず、証明がなくてもそのことを信じていくしかないわけです。
・自分が信じるものを選択したら、それを信じて生きていくしかないというのも「覚悟」
 なのだろうと思います。
・信じる、とは裏切られても後悔しないということです。何かを信じたら、裏切られる
 ことがあっても絶対に後悔せず、責めもしない、それも覚悟なのです。

老いとは熟成である
・人間は、老いとともに知識や情報は減っていくが、その分だけ知恵は深まるのだと思
 います。知恵というのは、何も処世術みたいな単眼的なものではなくて、大自然の中
 に自分がすっと溶け込んでいけるような、味わい深い複眼的な感性のことです。
・世に出て人間として生き、少しずつ観に受けた人間の世界の垢、いろいろなものを洗
 い流して身を軽くしていくことが老いの道のりであり、純粋な赤子のような存在とし
 て自然に帰るのが、死ぬということなのだと私は思うのです。
・老いというのは人間の関係が喪失していく過程、人との関わりが減っていって、やが
 て孤立してしまう過程なのだといいます。
・子ども叱るな、昨日の自分。年寄り笑うな、明日の自分

人間の覚悟
・良きことはむくわれない、愛もむくわれないのだと私は思っています。良いことをす
 れば相手が感謝してくれる、愛した分だけ愛されて当たり前、と見返りを求めるから
 ストーカーになるのであって、人の想いはつうじない、と覚悟しておくことです。
・人間関係というのは、相手につくすことしか考えてはいけないと思うことがあります。
 女の子と恋愛すれば、男はひたすらつくす。しかしそれで相手から何か得られるとは
 最初から期待しないことです。
・男性の仕事は女性に対しての奉仕に尽きる、と私は思っています。彼は肉親だから何
 かをくれるはずだとか、どれだけ周りが自分のことをよく思ってくれるかばかりを気
 にするのではなく、自分自身はどれほど家族や周りの人のために無償の行為をしてい
 るのか、そこを日々反省しながら生きるしかないでしょう。
・人間の縁というものを、あまり密着する非常に難しいことになるのです。
・どんなに大事な友だちがいたとしても、いつかはなくなります。永遠の友人というの
 は、思い出の中にしていません。人との交流というのは、流れのない池になると腐っ
 てしまいますが、流れている川はきれいでいられます。
・人との付き合い、友情はただ長ければいいというものではありません。世間は「人脈」
 という言葉が好きなようで、趣味の人脈、仕事に役に立つ人脈、人脈の場を作る、など
 とさまざまなことをいいます。しかし私は、人脈を人とのつながりと置き換えれば、
 しょせんは自分で作ろうと思って作れるものではなく、見えない力によってもたらさ
 れるとしか思えないのです。いつも気の合う者同士で群れることがいいとは思いませ
 んし、新鮮な出会いも必要です。
・固定しないというのが、人の付き合いの中で大事だと思います。ですから私は、ほん
 とうにこの人間は親しくなりたい、あるいはなりそうだと予感したときは、あまり近
 づかないことにしているのです。
・世の中というのはものすごく不合理で、人間は非条理なものなのだという感覚は常に
 持っておいたほうがいい。マイナス思考とは意味合いがちがいますが、まずすべてを
 最低の線から考えたほうがいいような気がするのです。
・近年は離婚がすごく伸びています。結婚というのは赤の他人同士が一緒に暮らすわけ
 ですから、それで離婚もせずに子どもにも恵まれたのなら、あとは何とか育ってくれ
 れば充分です。それこそが夢ではないでしょうか。
・一日生きるだけでものすごいことをしている。人は生きているだけで偉大なことなの
 だと思います。その人が貧しくて無名で、生き甲斐菜ないように思えても、一日、
 一ヶ月、一年、もし三十年も生きたとすれば、それだけでものすごい重みがあるので
 す。
・人は何のために生きるか、いかに生きるべきか、西洋でも東洋でも、多くの思想家や
 哲学者がそう問いつづけてきました。しかし私は、生き方に上下などない、と思うよ
 うになりました。
・悪人も善人もいるけれども、とりあえず生きているということで、人間は生まれてき
 た目的の大半は果たしている。存在する、生存していくこと自体に意味があるのだ。
・その中には世間的に成功する人もいれば、失敗する人もいるでしょう。しかし、いず
 れにしても生まれてきて自分の人生を生きたということ、ましてや十年、二十年を生
 きたなら、それだけですごいことなのです。
・豚のように生きぬけ、牛馬となっても生きぬけ。
・どんなに惨めであっても、生きていることは大した値打ちがある。何の命でも、だれの
 命でも存在するだけですごいことなのです。
・今までは、いかに生きたか、ただ生きているだけでは意味がないではないか、そう言
 われつづけてきたと思います。しかし、ただ生きているだけで意味がある。
・哲学者のようにものを考えなくても、みすぼらしくても生きて存在している。それだ
 けですごいことだと私は思います。
・普通は気がつかないだけで、生きるということの大変さに自分で気がつくと、それだ
 けで押しつぶされそうになります。生きているだけでどれほどの努力があり、他力が
 必要か、それを自分自身が納得しなくてはならないのです。
・戦後六十年を振り返ってみても最悪の時代が、これから「来るぞ、来るぞ」ではなく、
 今「来てしまった」のです。明けない白夜のような鬱の時代は十年や二十年で終わる
 ことはないでしょう。躁の時代と同じ五十年ぐらいはつづくかもしれません。
・全てが移り変わっていくなかで、人は「坂の下の雲」を眺め、谷底の地獄を見つめな
 ければならない時がある。だからこそ「覚悟」が要るのです。
・人生は孤独で、憂いに満ちています。あらかじめ失うとわかったものしか愛せません。
 しかも生まれたときから病気の巣で、十代から老化が始まり、二十歳になったら、人
 はだれしも死のキャリアなのだと覚悟するべきです。