この国の息苦しさの正体 :和田秀樹

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日本人社会は、「空気」に支配されている社会だとか、タテ社会」だとかいわれることが
多いが、この本の著者は「感情に支配される社会」であると説いている。
そして、この感情とは不安感情であるという。多くの日本人は、幸せを追い求めるという
より、「損をしたくない」「不幸になりたくない」という消極的な感情に支配されること
が多く、変化を忌避する傾向がとても強いという。これが現状維持バイアスとなって、理
性的な判断を抑え込んでしまう。つまり、感情に支配されてしまうのだ。
感情に支配された人間は、一つの解答に飛びついてしまう。ものごとを白か黒かはっきり
させたい、「正義」か「悪」か、「敵」か「味方」か、「危険」か「安全」かをはっきり
させたいという心理が強く働く。そしてこれが、人々を一斉に一つの方向に走らせてしま
う。

この本の中で、東日本大震災後に東北の太平洋沿岸に、津波対策として延々と建設された
超長大な防潮堤にについて取り上げられているが、私も著者の意見にまったく同感である。
この防潮堤こそ、不安感情の結果として行われた天下の大愚策ではないかと思っている。
またすぐ大津波が来るのではないかという不安感情が高止まりしたままの状態で、急き立
てられるようにこの防潮堤建設計画が決められてしまった。ほんとは、不安感情が静まる
まで、津波対策計画の策定を待つべきではなかったのと思う。
国は、さっさと関係地域に計画を決めさせて、「津波対策計画の策定が決まりました」と
国としての成果を出したかったのだろうが、この防潮堤建設は、まさに自然の大破壊その
ものだし、地域にとっては将来、この防潮堤のメンテナンスのための大きな費用を抱え込
むことになる。これは元々経済的に苦しい地域にとって、さらなる経済的重荷となる。そ
れに、地球温暖化が進んで海面上昇が続いていけば、この防潮堤を越えてまた津波が押し
寄せてくることも考えられる。そうなると、この防潮堤はまったくの無用の長物となる。
将来世代の人たちがこの防潮堤を見て、「当時の人たちは、何でこんなものを作ったんだ」
と批判することになるだろう。

自分の感情をコントロールすることは、実際問題として難しい。ただ、感情的になったと
き、それに対処する方法はある。起きてしまった感情については、気にしないで、放って
おくことだ。そして、「歩く」「声を出す」「食べる」といったような何か行動を起こし、
そちらに注意を集中するようにして、感情から焦点を外すようにすることだ。
また、感情に支配されないためには、普段から物事に対して白黒をはっきりつけないこと、
決めつけないように注意することも必要だ。そして、不安に思うことに対して「逃げ道」
をつくっておくことが大事だ。逃げ道を持っていることで、気持ちに余裕が持て、冷静に
なれるという。

はじめに
・日本人は、ひたすら場の空気を読み、タテ関係の序列を乱すことをおそれ、逸脱した者
 を叩きます。その傾向はひどくなる一方のように見えます。なにかと持ち出される「和」
 の精神すら、ややもすると「普通であることの強要」とされかねない。そんな同調圧力
 がこの国を覆っています。
・政治の場も同様です。「共謀罪」法のような、使い方しだいでかなり多くの人を捕まえ
 ることができる法律を、委員会での審議を経ないで強行採決で決めてしまったり、「加
 計・森友問題」をはじめ次々と疑惑が出てくるのに国会で十分な説明をせず、会期を終
 えてしまいました。 
・私がもっとも嫌だと思うのは、これだけ不祥事が続き、国民を蔑ろにする独断的な政局
 運営を重ねながら、安倍内閣や自民党の支持率があまり落ちないことです
・それは、日本人がきわめて感情的になっていることが原因というのが、精神科医である
 私の仮説です。
・人間の言動にもっとも大きな影響を与えるのは、おそらくは不安感情です。相手に嫌わ
 れたくないという不安感情から、私たちは、自分の意見や考えと違っていても周りに合
 わせてしまいます。また、幸せを追い求めるより損をしたくない、不幸になりたくない
 という理由から、変化を忌避する心理を現状維持バイアスというのですが、これによっ
 て、逆に損になる選択をしてしまうことも珍しくありません。
・おそらく、自民党政権への支持というのも、今のところどうにか食べていけるし、景気
 は回復していると伝えられているのだから、もし下手に政権が代わって悪くなっては嫌
 だという感情が大きく寄与しているのでしょう。
・しかし、そのようにおとなしくしているというのは、じつは「不安」がほかのあらゆる
 感情や、理性的は判断を抑え込んでいる状態です。冷静沈着とは正反対の、きわめて感
 情に支配された状態なのです。
・感情に支配されているとき、感情的なときに、人間は、一つの解答に飛びついてしまう
 ということがわかってきました。正義か悪かはっきりさせたい、敵か味方かはっきりさ
 せたい、危険か安全かをはっきりさせたい。そして、はっきりした答えが決まるとほか
 の可能性を考えられなくなってしまうのです。
・このような感情を人々が共有するようになると、人々の意見が斉一化していきます。凶
 悪犯であれ、政治家であれ、悪事をあげつらうだけでなく私たち自身の問題として考え
 なければいけない面もあるはずなのに、そう発言すれば、肩を持つのかと袋叩きのよう
 になってしまいます。    
・高齢者ドライバーの事故や北朝鮮問題も、みんなが不安に思うようになると、確率的に
 はむしろほかの脅威のほうがはるかに重大だという可能性を論じただけで、受け入れら
 れないということが起こるのです。
・感情に支配されて、他の可能性が考えられなくなっている人には、他の可能性に言及す
 るだけで、その人が自分に逆らっていると思えてしまうのです。息苦しい社会です。
・日本人が、このようにいろいろな形で感情に支配され、ほかの可能性が考えられない傾
 向が、最近強まっているような気がしてなりません。
   
「今だけ、カネだけ、自分だけ」の世の中
・誰かの「気に入らない」という感情に引っかからないように、ひたすら無難に生きなけ
 ればならない。実際にはそんなはずはないのですが、多くの人がそのような「無言のプ
 レッシャーを感じる」社会になってしまったことに、うなずく人は多いのではないでし
 ょうか。
・感情的になり、気にくわない対象を叩きまくり、別の場面では、自分が叩かれないよう
 に怯えて暮らす。いまの日本では、ある意味で自己矛盾の国になっているのです。
・自らの感情に押しつぶされそうになったり、不安や怒りの渦に巻き込まれそうになった
 りした経験は、誰もが持っていると思います。ただ、「感情」に対してどう反応してい
 るかは人によって異なるのではないでしょうか。 
・精神科医のあいだでは、こんな定説があります。
 「アメリカは経営者の自殺が多く、日本は中間管理職の自殺が多い」
 確かに、アメリカの場合は、一般社員と比べ桁違いの報酬を得ている経営者が多い代わ
 りに、失敗したときには、訴訟も含めて非常にリスクが大きい。会社は株主という考え
 が徹底しているので、利益が上げられなかった経営者は、すぐに退場させられます。
・たとえ頭の良い人であってもカッとなったがために判断を間違えることがあります。気
 分が落ち込んでいるときには、決断すべきところで決断できなかったり、誤った決断を
 してしまったりする。そもそも感情が不安定な人は、経営者や政治家のようなリーダー
 に据えるべきではないとアメリカでは見なされています。
・一方、日本人の見方は違います。「地頭がいい」という言葉が一時期はやりましたが、
 頭の良さは「生まれつき、あるいは人生のある時点で固定されたもの」として受け取っ
 てしまう。  
・運動しない人の筋肉が衰える一方なのと同じで、いくら人生のある時点で頭が良くても、
 いっこうに勉強していない人が世の中に役立つ貢献をすることはまずありません。
・「振り込め詐欺」なるものがこれだけ注意喚起され、被害にあわないよう警告されてい
 るのに撲滅できないのも、人間の「感情」を上手に利用しているためだと思います。
・振り込め詐欺は、基本的に3つのテクニックで構成されます。
 1つ目:「相手を不意打ちにする」
     最初に相手をパニックや不安に追い込みます。ここで感情的になってしまった
     ら、それこそ犯人の思うツボです。冷静な判断ができなくなり、誰かに相談し
     たり、息子に直接電話して確認したりといった、普段ならすぐに思いつくよう
     な簡単なことさえできなくなってしまいます。
 2つ目:「即断即決を迫る」
     振り込め詐欺の犯人が電話をかけるのは、午後2時頃が多いそうです。午後2
     時という時刻は、銀行の窓口がもうすぐ閉まる時刻。多額の現金が引き出せる
     ギリギリの時間です。判断を急がざるを得ない状況を作り出しています。
 3つ目:「情報遮断」
     振り込め詐欺の犯人は必ず電話の最後にこう付け加えます「誰かほかに知れた
     らエライことになる。私は絶対に秘密は守りますから、あなたも絶対に言わな
     いでください」これで誰にも相談できなくなります。
・イギリスの国会議員の選挙期間は約1カ月、フランス大統領選も何カ月も前から立候補
 の意思を表明でき、実際の選挙期間も約1カ月あります。
・日本の選挙では”風”が最重視されます。支持政党のない無党派層が、ある特定の政党や
 候補者に雪崩を打ったように投票し、勝負が決まるケースが連続しています。
 この”風」というのは、まさに感情以外のなにものでもありません。これほど感情的な
 選挙を行っている国は、おそらく世界中どこを探しても日本以外にないでしょう。
・問題にしたいのは、日本の借金が現在、1062兆円(2016年時点)を超えるまで
 膨れ上がっているということです。借金大国としか言いようがないのですが、中には
 「借金が多少あってもいい」とこれを問題視しない人たちもいます。彼らの言い分の一
 つとして必ず挙げられるのが「日本にはそれを補えるだけの資産があるから」というも
 のです。 
・ところが、森友学園事件は、彼らの言うところの「資産」が、政治家なり役人の意向で、
 不適当な価格で売られてしまっている可能性を示しているわけです。それは、やはり大
 問題です。さらに「第二の森友」が浮上しています。これほど短期間に大きな問題が2
 つも明るみになったことから、これらは氷山の一角できっと他にもボロボロ出てくると
 思います。 
・国民に信頼を根本から失いかねない疑惑に対して、誠意ある説明がなされていない。有
 権者である国民に判断の材料を与えず、問題を告発した民間人や元官僚に対して、権力
 をちらつかせて恫喝まがいのことをする。”安倍降ろし”の声が国民から上がってもおか
 しくはなかったはずです。しかし、内閣支持率は多少下がりましたが、高い水準を維持
 しています。
・安倍さんを降ろしてしまったら、政情が不安定になるという不安感から”現状維持バイ
 アス”が大きくかかっているためでしょう。
・現状維持バイアスとは、心理学で解明された心の動きの一つで、今の状況を保持しよう
 とする心理のこと。その背景には、変化を起こすことにとって、現在より悪い状態に陥
 りたくないという損失回避の心理があります。
・森友学園問題、加計学園問題など、安倍政権に度重なる疑惑が沸き起こっているにもか
 かわらず、内閣支持率が高い理由は「これ以上落ちたくない」という国民の不安感情の
 表れだと考えられます。
・つまり、たとえ首相がいい加減なお金の使い方をしようが、不透明なことをしようが、
 今のところ株価も上がって経済的には安定しているようだから、良しとしようというこ
 となのでしょう。   
・ほかの選択肢をまともに考えられない。それこそ、日本は完全に不安感情に振り回され
 ている状態だといえます。
・よく「民主党政権時代は暗黒だった」といわれますが、これもまた感情的な判断ではな
 いでしょうか。確かに、株価は安かったかもしれません。デフレが続いていたかもしれ
 ません。しかし、生活実感としては、あのころのほうがまだ余裕があった、と思い返す
 人も多いのではないでしょうか。
・GDPを見る限り、安倍政権に代わってからもほとんど横ばいです。むしろ、ドルベー
 スで言えば、民主党政権時代は6兆ドル以上あったにもかかわらず、2015年には約
 4兆4千万ドルしかありませんから、2兆ドル近くも減っているのです。
・失業率が下がったと、自民党は鬼の首でも取ったように言います。たしかに完全失業率
 は2013年度の4.0%から3.1%に下がりましたが、それに先立つ民主党政権も
 5.1%から4,0%とそれ以上に減らしているのです。
・金正男氏暗殺は、日本外交の大きな失敗の結果だという観点でみるべきだと私は思うの
 です。「北朝鮮が決定的な核ミサイル技術を確立する前に徹底的に叩くべきだ」と思っ
 ている人もいるかもしれません。しかし、いうまでもなく北朝鮮の核ミサイルによる捨
 て身の報復によって、東京が灰燼に帰すおそれもありますし、北朝鮮の体制崩壊に伴っ
 て膨大な数の難民が、日本に流入してくるかもしれません。
・北朝鮮をソフトランディングさせるにはどうしたらいいか。最も良い機会だったのが、
 金正日政権からの世代交代のときです。北朝鮮の情報がきちんと取れたうえで順当に考
 えたら、おそらくソフトランディング路線に一番適任なのが、開放派として知られてい
 た正男氏でしょう。 同じくソフトランディングを目指す中国も支持していました。
・2001年に事件が起こりました。日本への不法入国の疑いにより正男氏は成田空港で
 身柄を拘束。のちに強制送還されています。私は、現在の金正恩政権は傀儡にすぎない
 と考えています。おそらく、軍部の人間か、あるいは北朝鮮の「反開放派」が一貫して
 実験を握り続けているのではないでしょうか。そして、かつての金正男氏不法入国の情
 報も彼らから日本に流された可能性もあると思います。この一件により正男氏は後継者
 争いから脱落しました。日本は北朝鮮の「反開放派」にすっかり乗せられたと言えるで
 しょう。
・強調したのは、「よりマシな」選択をするという発想が大事であるということ。今の日
 本、特に報道機関は、その考えが足りません。そうでなければ、正男氏の日本不法入国
 に際して、マスコミの晒し者にするなどということはしなかったでしょう。日本人拉致
 問題があったとはいえ、正男氏がいちばんマシな選択肢だから、彼の政治生命を絶って
 はいけないというのがおそらく合理的な判断だったでしょうし、騒ぎも最小限に抑えら
 れたはずです。    
・正男氏が指導者になったところで、おそらく独裁体制には変わりはないでしょうが、
 ここまで危険な国にはならなかったはずです。
・電車内のトラブルから国政のことまで、ここ最近、日本人はますます「感情的」になっ
 ていると感じます。人間を感情的にする要素がこの国では徐々に揃いつつあるのです。
・人間が感情的になる要素として、まず考えられるのは自己愛が満たされていない場合で
 す。 
・人は自己愛が満たされていないときには、自分より裕福であったり、恵まれた人を批判
 するのではなく、弱者に冷たくなる傾向にあります。それは、日本国内での貧困叩き、
 生活保護受給者叩きを見ても明らかです。
・「衣食足りて礼節を知る」とはよく言ったもので、やはり、ある程度満たされた暮らし
 をしていると、多少なりとも弱者に優しくなれるようです
・自己愛が満たされているときは、何かしらの成功によって、さらに自己愛を満たそうと
 しますが、自己愛が満たされていないときは、自分より弱い相手をばかにし、相手より
 優位に立っていると思うことで、自己愛を満たすという方法を取ってしまいがちなので
 す。  
・いまこの国でやたら流布されている「日本スゴイ」という言説は、もともとの自己評価
 が低いことの「裏返し」ではないかと私は見ています。自己肯定感が持てないと、過去
 に対して正しい評価ができなくなります。
・「保守」といわれる政治家たちは、なぜか明治から戦前を礼賛するケースが非常に多い。
 彼らの中には、世界一の文化国で、殺人も少なく、衛生面でも同時代の他国に比して群
 を抜いていたという江戸時代を誇る人はほとんどいません。
・一時期、体罰は日本の文化や伝統であり、戦前は当たり前のように行われていた、など
 といわれていました。しかし、戦前はしっかり、法令で禁止されていた上に、実際には
 当時の学校教師は師範学校を出ている村一番のエリートですから、「殴ることで子ども
 が賢くなることはありませんよ」と、むしろ体罰を行う親を注意する側だったともいわ
 れています。  
・それが昭和10年代に軍事教練が入ったこと、終戦を経て復員してきた教師の中に生徒
 を殴るようになった人たちがいたことで、体罰の伝統がつくられていったと見られてい
 て、伝統的な「日本人の魂」などではないのです。
・少なくとも、日本人が勉学を愛する国民であることや、誇るべき文化を持っていること
 など、素直に認めるべき美点はあるはずです。ところが、根底では自己肯定感の低いこ
 の国では、過去における達成を客観的に肯定することができません。
・バブルがはじけて景気が悪くなった途端に、それまでの終身雇用制を捨て、アメリカ型
 の成果主義へと人事システムを一転する企業が相次ぎました。そこから見て取れるのは、
 日本人は過去の良い点を分析しないまま、新しいものに飛びつくという傾向です。
・人間は不安になると、感情的判断を起こしやすくなります。しかし、尖閣諸島問題があ
 るからといって、中国が日本に侵攻してくる確率は極めて低いでしょうし、北朝鮮が暴
 発して、1発や2発ミサイルを撃ってくる可能性はゼロではないにしても、それ以上は
 おそらく無理でしょう。冷静に考えると、日本より先に北朝鮮の標的となって、被害を
 受ける確率が高いのは圧倒的に韓国だと思います。
・しかし、この国は次なる大震災に備える津波対策として、巨大防潮堤建設に莫大なお金
 を費やしたり、中国や北朝鮮の脅威を過大視して防衛費を増やしたりしているわけです。
 その予算を削って福祉に回せば、自殺や十分に医療を受けられないことによう死亡者数
 の見込みは確実に下げられるのです。
・結局のところ、その根本にあるのは不安です。「将来不安」「貧困不安」も含め、現代
 の日本は、不安心理に振り回されやすくなっていると思います。
・日本人が感情的になっている最後の要素には、高齢化が挙げられるのではないかと考え
 ます。若者のほうが高齢者より感情的だと日本人は思いがちです。しかし、ワイドショ
 ーのコメンテーターの見解に引きずられたり、ヘイト的なネット世論をうのみにしたり
 する人は老人に多いというのが私の印象です。
・人間の脳は40代後半頃から、思考や意欲、感情、性格、理性を司っている前頭葉が委
 縮してくるのです。ここが老化すると、思考が頑なになり、次第にものごとの多様性を
 柔軟に考えられなくなってくるのです。ある一つの感情がしつこく続くという傾向も見
 られるようになります。恨んでいる人はずっと恨みを持ち続けるし、落ち込みが長いこ
 と続いたり、怒りが出たら止まらなかったりもします。多肢選択的な考えができず、一
 方向的に「こうでなければならない」と思いやすくなってくるのです。
・物事を感情で判断する人に特徴的な思考パターンが、「レッテル貼り」と「属人的思考」
 です。レッテル貼りというのは、権威のある言葉を無批判に信じ、ある属性に分類した
 上で対象をステレオタイプに決めつけることです。例えば、「民営化」や「グローバル・
 スタンダード」といった単語です。しかし、実際には、言葉が立派でも中身がともなっ
 ていないことは多々あるのです。
・民営化でいえば、もともと民間企業には「商道徳」なるものが残っている一方で、国営
 企業が民営化すると、利潤を過剰に追求することが少なくありません。民営化自体が金
 儲けのために行われたことですから、儲からない事業は簡単にカットしていくでしょう。
・グローバル・スタンダードでいえば、「消費税を上げて、法人税を下げるのがグローバ
 ル・スタンダードだ」といわれれば、「それもそうか」と納得する。でも、アメリカで
 消費税が10%を超えている州はありません。現段階で法人税は40.75%(カルフ
 ォルニア州)で、約30%の日本よりむしろ高いのです。不思議なことに、税制に限っ
 ていえば、日本はなぜか消費税の高いヨーロッパをグローバル・スタンダードに据えて
 います。
・現在の日本を評して「今だけ、カネだけ、自分だけ」ということが言われています。あ
 の原発事故は、たとえ原因が大地震であったにせよ、原子炉がアメリカに押し付けられ
 た旧型だったからにせよ、もし日本が島国でなかったら国際的な賠償問題になっていた
 でしょう。漏れ出た放射能の大半が太平洋に流れたから、破滅的な国土の汚染をなんと
 か免れ、外国から賠償を問われることもなく、私たちはいまも普通に暮らせています。
 あるいは「加害者」になっていたかもしれないという視点が一切なく、東電が悪い、当
 時の菅首相が悪い、と責任を押し付ける日本人に、私はほとんど絶望しかけています。
・世界に類を見ない高齢化が進み、天文学的な累積債務を子や孫の代に背負わせようとし
 ていることの責任を問う声もありません。そして、アベノミクスという自国通貨切り下
 げと、それに伴う株高による見せかけの景気回復にすがるばかりです。
・私たちは後代の人から、こう言われるかもしれません。「なぜ、前々から予想できてい
 た問題を放置し続け、なぜ、避けられたはずの災厄を自ら招いたのか」
  
感情にとらわれると「勘定」ができない
・「風が吹けば桶屋が儲かる」とは、何か事が起きるとめぐりめぐって意外なところに影
 響が及ぶことのたとえですが、感情的な人は自分がとった行動のせいでどんなことが起
 こるかという計算が甘いと言えます。これをしたら、こんなことが起こり得るのではな
 いか、もしくは、こんな可能性もある、あんな可能性もある、と、考えられる可能性を
 検討した上での判断ができていないのです。
・感情的判断をする人は、その場その場で直感的に良いと思ったものにすぐに飛びついて
 しまう。あるいは、もう駄目だと先々のことを悲観し、極端に言えば、自殺に走ってし
 まう危険性もあるのです。 
・「〜すべき」「〜しなければならない」といった「べき思考」。理想を持つのは立派な
 ことですが、これも、感情に支配された状態につながります。
・「べき思考」というのは、一見、正論に見えるかもしれませんが、実のところ感情的な
 思考パターンの一種にすぎません。つまり、「かくあるべし」という思考は、他の可能
 性を排除することにつながり、自分とは異なる意見への攻撃が始まったりするのです。
・うつや睡眠障害といった心の具合が悪くなる人は、この種の強迫性を伴っている場合が
 多いことがよくわかります。「こうでなければいけない」という気持ちがあまりにも強
 すぎて、結果的に幸せから遠のいてしまうのです。
・道徳とは本来的には、「ああしろ、こうしろ」と人を縛るものではなく、「こんなふう
 になりたい」と思わせるほうが効率的だと思います。つまりは「こうしなさい」という
 「道の教育」を押し付けるより、「こうなりたい」という「徳の教育」を示したほうが
 いい。しかし、不幸なことは、いまの日本にはお手本にしたい人物がいないということ
 なのでしょう。     
・人間は結論を急げば急ぐほど、感情に振り回されてしまいます。しかし、人生において、
 今やらなければならないことというのは案外少ないものです。「いつやるのか?今でし
 ょ!」という言葉がありますが、実のところ、人生においてはすぐに答えを出そうとし
 て、失敗することのほうが多いのではないでしょうか。
・福島原発事故は、アメリカのGEから欠陥品の原子炉を押し付けられたとはいえ、道義
 上、東電の責任は大きい。でも、そのことと、原子力発電所そのものが危ないかどうか、
 どれだけの放射線が人体にとって危険かどうかは別問題です。
・福島第一原発事故の原因究明に際して、他の原発との比較や、本当に機能する安全機構
 はありうるのかといった検証が全くないままに、すべてを「一緒くた」にして、「原発
 は怖い」「放射能はおそろしい」という反応を示している人が少なくありません。
・脱原発派は、代替エネルギーに移行すればいいと言いますが、その安全性については、
 さほど突き詰めていないようです。
・要は、「××が恐いから禁止しよう」といった単純な話では済まないということです。
 安全のために何かを禁止するには、他のコストがつきものだということを忘れてはいけ
 ません。飲酒運転を禁止する以上は、その法を破った人の免許を取り上げれば済む問題
 ではなく、地域でマイクロバスを出すといった代替の移動手段を用意する必要がありま
 す。何かを禁止しただけでめでたく収まることのほうが少ないわけです。
・アメリカでは、シェリフ(保安官)は住民の選挙で選ばれますが、日本では、全国の都
 道府県警察本部長はすべて東京の警察庁の指揮下にあり、国家公安委員会から任命され
 ます。本来これはおかしな話です。戦前の中央集権警察から、社会主義者や反戦思想を
 弾圧する特高警察が生まれたことへの反省から、終戦後にGHQ主導のもと、市民の手
 による民主的な警察として各都道府県に自治体警察ができました。しかし、やがて各自
 治体の財政難や、警察と暴力団との癒着などが取りざたされるようになり、「県警のト
 ップには東京の警視庁の官僚がならなければ中立性が保たれない」などとして1954
 年に警察法が全面改正され、現在のような中央支配の警察組織に逆戻りしてしまったの
 です。
・これまで何度も繰り返されてきたのが、AIが賢くなったら人間を支配するのではない
 かという議論です。しかし、考えてみればすぐに分かることですが、そもそもAIには
 感情がありません。ということは、すなわち「優越感情」も持ち合わせていませんから、
 人間を支配したいと思うこともないし、わざわざそんなことをする必要などないのです。
 AIに対する恐怖もまた、「AIが賢くなったら、きっと自分たち人間を支配しにかか
 るに違いない」という人間の不安感情からくるものだと思います。
・万が一、私たちが危惧している事態が起こるとしたら、それは人間がうかつにもAIに
 感情を持たせてしまったときかもしれません。感情を持たせてしまえば、AIは優越感
 情だって持つでしょうし、人間のようにAI自身が感情に振り回されるようになること
 だってあると思います。
・2013年以降、安倍首相が円安政策を取っているのは「国際競争力=価格競争力」だ
 と思っているためでしょうが、価格競争力だけで勝負しようとするのは、いわゆる加工
 貿易国の発想です。加工貿易国の通貨が高くなれば、企業は通貨が安い他の国へ移転を
 考えます。つまり、現政権の政治家たちは、先進国の発想ではなく、日本を加工貿易国
 に戻して喜んでいると言えるでしょう。しかし、円高に対して不安を抱いているなら、
 円が高くても売れる商品を開発しようとするのが正常な発想ではないでしょうか。
・世の中のほとんどの事象にはいろいろな考え方や意見があって、絶対に一つの答えを導
 き出せると考えるのは間違いです。科学的な事実と推論とは全く別物であるにもかかわ
 らず、少数派が言う正論より、マジョリティが言う意見を、日本人は正しいと思う傾向
 があります。感情的な判断をしやすい日本人は、科学や統計数学よりも多数決で正しさ
 を決める傾向があるようです。  
・空気に流される人の多い日本人は、感情を表に出さない分、一見、穏やかに見えますが、
 自分の言いたいことを言えないということは、「他の人と違うことを言ったら嫌われる
 かもしれない」「場の空気を壊してしまったらどうしよう」という不安感情によるもの
 です。  
・自分の仕事が終わって、帰ろうとしたものの、上司や同僚がまだ残って仕事をしている
 ために「お先に失礼します」の一言が言い出せない。あるいは、職場で誰かの悪口をみ
 な口々に言い始めたときに、そこまで嫌っていなくても「そうそう、あの人には困った
 もんだ」などと同調してしまったというような経験なら多くの人が持っているのではな
 いでしょうか。 
・どちらかと言えば、日本人は自分の気持ちを抑えることを冷静さや、辛抱強さ、大人の
 態度だと見る傾向にあります。しかし、少なくとも、自分の権利を行使するなり、不安
 に振り回されずに正当な意見を言うなり、周りを恐れずに意見を言うことは、世界的に
 見れば決して感情的とは言えません。正当な主張をする人が感情的だと言われることの
 ほうが異様であって、むしろ不安のために主張できなくなっていることこそが感情的な
 のです。 
・自分の感情を圧殺し続けると、心を病む原因になります。それは当然です。怒りや嫉妬
 が抑えられないほど、本来は感情的であるにもかかわらず、それを上回る同調感情や不
 安感情によって、自分の持っている自然な感情を押し殺していることになるわけですか
 ら。 
 
「ミスを許さない、成功を認めない」嫉妬の構造
・ボーダーライン(境界性パーソナリティ障害)の人たちは、自分が好む相手のことを高
 く理想化しますが、ひとたびマイナスの感情を持つと増悪をむき出しにし、徹底的に嫌
 うという傾向にあります。良い感情を持っているときには、過度に親密な人間関係を築
 こうとし、嫌いになった途端、ストーカーに豹変したり、暴力を振るうようになったり
 する。そんな不安定で特徴的な対人関係を見せます。
・いまの日本に広がっている格差社会は、子どもたちに自己肯定感を育てる上では悪条件
 です。なぜなら、貧富の差が、学習の習熟度に直結するからです。裕福な家の子が通う
 塾では、できる子の成績を伸ばし、勉強が不得意な子を引き上げるノウハウを持ってい
 ます。結果として、自己肯定感を持ちやすいのです。それに比べて、貧しい家の子ども
 は学校成績で上昇する機会が少なく、自己肯定感を持ちづらくなります。
・大衆に迎合して人気取りをする政治スタイル「ポピュリズム」は、仮想敵をよく利用し
 ます。「ある人たちのせいで、自分たちの暮らしが良くならない」と、一部の人たちを
 攻撃する。それによって、大衆を自分の味方にするのです。でも、いくら移民や生活保
 護者を排斥したところで、自分の暮らしが上向くとは限りません。雇用が多少上向いた
 にせよ経営者が株主への配当や、内部留保の拡大につとめる限り、従業員の給料には還
 元されません。そうすると、人々の不満は解消されず、次なるはけ口を求めて新たなス
 ケープゴートを作ります。問題はいっこうに解決しないままです。この状況は、日本の
 みならず、多かれ少なかれどの国でも同じです。
・人が行動を起こせない最大の理由は、失敗したときの事態を勝手に予想してしまうこと
 です。何か起こる前から悪い結果を想像し、自縄自縛に陥ることを予期不安といいます。
 「心配事の9割は起こらない」という格言がありますが、往々にして、実際に何か悪い
 ことが起きたときよりも、この予期不安のほうが大きかったりするものです。人は、予
 期不安に苛まれているときが、いちばん心が苦しいのです。
・人間は富の「絶対量」(自分が今いくら持っているか)よりも、「変化」(いくら減っ
 たか、いくら増えたか)に強く反応すると言われます。アメリカでの調査では、年収7
 万5千ドルまでは収入と幸福度が比例するが、それ以上は相関関係がないことが報告さ
 れています。人間は「変化」を恐れますから、どれほどお金を持っていても幸福は安定
 しません。逆に高年収の富裕層こそ、そこからの「転落」を恐れているのかもしれませ
 ん。
・多くの日本人は、矛盾した考えを持っています。一方では、将来的に生活レベルが落ち
 てしまうのではないかと転落の不安を非常に強く持ちながらも、一方では生活保護をも
 らうほどには落ちないだろうという根拠のない自信のようなものにとらわえている。健
 康についても同じで、健康情報にアンテナを張って病気への不安には敏感ですが、働け
 なくなるような重度のうつ病にはならないだろうと本気で信じている。そうした「能天
 気さ」も同時に持ち合わせているように思えてなりません。
・原発の放射能漏れでがんに罹ったり、北朝鮮がミサイルを撃ってきたりいった、実現確
 率が低いといえることにより、自分が生活保護受給者になったり、うつ病に罹患したり
 といった確率が高いことを心配すべきなのです。
・旧来から日本がムラ社会であることも少なからず影響していると思います。ムラ社会で
 は、自分たちと異質なものを排除することで、平穏が保たれました。日本が大きく躍進
 するのはそんな平穏が崩れた、時代の変わり目です。時代の境目に限って傑物と言われ
 る人物や、変わり者が表舞台で活躍してきました。戦国時代しかり、明治維新しかり、
 第二次世界大戦の敗戦後しかり、です。
・たとえ変化がないとしても、高度経済成長期のように、みんなが幸せなときにはたいし
 た問題はありません。しかし、現代のように、多くの人々が、不幸や不満を感じている
 ときには、少数の幸せな人を容赦なく叩く社会へと移行してしまいます。そうならない
 ために、「みんな、それぞれでいいじゃないか」というスタンスを持ったほうがいいと
 思います。 
・なぜ日本が「ムラ社会型」なのでしょうか。私は、日本が農耕文明であることと無関係
 ではないと思います。狩猟文明と農耕文明の人々の性質の違いは無視できないほど大き
 いのです。    
・狩猟文明の民族は、個人主義です。社会の構成員がそれぞれ好き勝手なことをしていて
 も、それを認める文化が醸成されています。農耕文明では、農業で暮らしを成り立たせ
 るためには、みんなが助け合い、リーダーの言うことに従って、灌漑しなければなりま
 せん。裏を返せば、他人と足並みを揃えないと危険分子と見なされるため、同調せざる
 を得なかったのだと思います。
・日本は、農耕文明に根ざして発展した、ムラ社会です。しかし、日本全体が例外なくム
 ラ社会なのかというと、そうではありません。日本のなかでも「海沿い」には、ムラ社
 会の一員であることを逸脱した、良い意味で「わがまま」な人が多い傾向があるように
 思います。  
・いま、日本では、妙な無謬性、あるいは完全主義のようなところがあって、言わば「減
 点法」の思考になっています。ただでさえ、日本はムラ社会なのに、マスメディアまで
 が闊達さを失うと、不安感情であれ、嫉妬であれ、怒りの感情であれ、人々はマスメデ
 ィアが発信する感情の通りに動かされやすくなってしまいます。
・テレビの報道のなかに、ひとりぐらいは「高齢者の交通事故が増えているといっても、
 そもそも高齢者のドライバーの数自体が増えているので、当然、件数は増える。割合的
 に見ると16歳から24歳までの若者のほうが事故の確率は高い」と言うコメンテータ
 ーがいてもいいと思います。

感情支配社会に殺されないために
・一度、感情にとらわれて、妄想まで始まってしまうと、雪だるま式に感情は膨らんでい
 ってしまう。だから、怒りであれ、不安であれ、嫉妬であれ、嫌な感情が出てきたら、
 こだわらずに放っておくこと。一言で言ってしまえば、「気にしない」こと。これが大
 事なポイントです。
・起きてしまった感情は仕方がありません。ですから、感情の特徴を活かして、そこに注
 意を払わないように、行動に焦点を向けて見るのもおすすめです。実際に感情をコント
 ロールするのは難しい。悲しんでいる人に悲しむな、というのは無理な話です。
・しかし、「歩く」「声を出す」「食べる」というような行動ならば、私たちは自分の意
 志で行うことができます。そこで、行動をコントロールし、そちらに注意を払うことで、
 感情から焦点を外すということを試してみましょう。
・「白黒はっきりつけたがる」という思考の癖にも注意が必要です。要は、敵か味方か、
 成功か失敗か、好きか嫌いか、悪人か善人か、という二元論に陥っているため、中間ゾ
 ーンがありません。一度、敵か味方かを決めてしまうと、敵にしろ、味方にしろ、感情
 的な反応が起こってしまいがち。それが大きな問題です。自分の言っていることに賛成
 してくれるから味方、少しでも反対すれば敵などと判断していたら、良い対人関係どこ
 ろか、人間関係はどんどん狭まってしまいます。
・大事なのは、不安に思うことに対して、自分で「逃げ道」をつくることです。「自分に
 は逃げ道がある」「リストラされても何とか食える」と思うことで、逃げ道がなかった
 頃のように怯えることもなく、ずいぶんと気持ちに余裕が持てると思います。 
・開き直って、「なるようになる」という気持ちを持つことができれば、不安感情に振り
 回される回数も減っていくのではないでしょうか。
・私たちが普段何気なく行ってしまう「深読み」もまた禁物です。ああだこうだと考えて
 「深読み」をしたところで、それが当たっている保証はありません。にもかかわらず、
 なぜか人間は深読みをすることをやめられない。
・そもそも人間は喜怒哀楽を生まれ持った生き物です。それを抑え込もうとすれば、どこ
 かに無理が生じてしまう。もう大人なんだから、あまり感情的になりたくない、感情的
 なところを人に見せるのは恰好悪いなどと、自分で自分を縛らず、ときに思いっきり感
 情を発散させてみてください。     
・適度のアルコールなら、リラックス効果も見込めるので問題ありませんが、度を超すと
 感情のコントロールが訊かなくなるのがお酒の厄介なところ。いわゆる俗にいう「飲む
 と人が変わる」というやつです。うつ状態のときにアルコールを飲むとセロトニンを枯
 渇させ、自殺のリスクが非常に高まるとされています。
・とにかく日本人や日本の社会は、「試しにやってみよう!」という発想が薄いと感じま
 す。試すと言っても、何もこれまでしたことのないような大きな挑戦をしてください、
 というわけではありません。まずは、「千里の道も一歩から」
・大事なことはまずできそうなところから始めるということです。 
・宮城県の気仙沼のあの美しい海岸線に堤防をたてまくっている。気仙沼の産業は漁業、
 特に有名なのは牡蠣の養殖ですから、土地の唯一といってもいいほどの大事な資源を、
 堤防を建てることで潰していることになります。生きるために「働いて食べていくこと」
 より「恐怖感」が勝ってしまっているようなのです。
・現在、建てている防潮堤が完成したところで、それを超える津波が来たら無用の長物に
 なってしまいます。先の震災の教訓を活かすなら、防潮堤に巨額を費やすのではなく沿
 岸道路からの逃げ道をたくさんつくったほうが、よほど建設的ではないでしょうか。も
 っと密に300メートルに1本、500メートルに1本の間隔で山側への道路をつくる
 と同時に、避難タワーを建てれば済む話だと思うのですが、不安感情があるときはまと
 もなソリューションが考えられなくなってしまうのです。
・私たちが「感情的になる」という落とし穴にはまりやすいのは、「こうあるべき」「こ
 うでなければならない」といった、自分独自のルールでものごとや世界を見ているとき
 です。しかも、それにどっぷり嵌っているときには、「自分ルール」にかんじがらめに
 縛られていることさえ、気付けなくなってしまいます。
・「今、決めなければいけない」状態に置かれると、人は判断を誤りかねません。しかし、
 人生において、かなりの時間が用意されていることを考えると、そんなに焦って答えを
 出さなくてもいいのではないでしょうか。
・人は「左遷されたら終わり」、「希望の会社に就職できなかったら終わり」「この人と
 結婚できなかったら終わり」などと、とりわけ人生の大事な場面において考えてしまい
 がちです。しかし視野を広げるてみると、世の中の多くの場合はそうじゃないことに気
 付きます。   
・私が理想とするのは、人生において輝いている時期がなるべき遅い時期にあること。若
 いうちに成功したいと思うと、前のめりになって焦ってしまいます。仮に成功したとこ
 ろで、その後、転落が待っている可能性もある。一度成功したら、それがゴールではな
 いのです。    
・いくら人生の終わりに近づいていたとしても可能性はあるし、年を取ってからの起業も
 あり、だと思います。少なくとも若くして成功したのちに尻すぼみになるより、遅い成
 功の方が人生後半の楽しみは段違いに多いはずです。
・世間で起きている事件を見るにつけ、「出世したい」、「人から評価されたい」と思う
 あまりに、自分の信じる知性に背くようなことをしたり、悪事に手を染めるのだと分か
 ります。    
・「人間、死んでからだよ」です。「いま評価されている」「いま偉い」なんていうのは、
 たいしたことないんだ。死んでなお、みんなに慕われるなり、褒められるなり、評価が
 あるなりしなければ意味がありません。
  
おわりに
・自分の人生を振り返ると、完全主義でなかった、雑な合格点主義だった時のほうがうま
 くいったことが多いのは確かです。東大受験のときも、トップクラスで合格するという
 発想を捨てました。満点は目指さず、合格者の最低点が取れればいいという計算で、苦
 手科目はほったらかしにして受験で無事合格しました。 
・精神科医の仕事をしていると、天才と狂人は紙一重というようなことがどうも嘘だとわ
 かります。うつ病に限らず、総合失調症のような病気やアルコール依存症でも、真面目
 な人のほうがかかりやすいのです。逆に変わり者といわれるような人は、周りから変わ
 っているといわれ続けますが、意外と病気になりません。周囲を気にしないから病気に
 なりにくいのでしょう。