「木枯らしの庭」 :曽野綾子 |
||||
この物語は、母親と息子の物語である。やさしい親孝行の一人息子と、愛する息子との二人だけの 家庭に一番の安らぎを感じ、いつまでも息子との二人だけの家庭を守りたい母親。母親の自慢の息子 は優秀であり、母親の期待どおり、りっぱに育ち大学の教授となる。しかし、いつまでたっても独身 である。その息子に何か人間的な欠点があるというわけではない。むしろ問題があるのは母親のほう なのであろう。 その息子は一度は結婚したことがあった。アメリカ留学中に知り合った日本人女性と親しくなり、 アメリカで式を挙げた。その息子がアメリカで式を挙げたのは、それなりの理由があった。日本に帰 ってからでは、母親からの反対に合い、結婚するのが難しくなるのではとの恐れがあったからである。 事前に既成事実を作ってから日本に帰ったなら、母親も反対はできないだろうと考えたのである。し かし、母親のその結婚に対する反対は想像以上のものであった。アメリカからその結婚した女性と一 緒に帰国したとき、母親はその女性を一歩も我が家に入れなかったのである。その女性に何か問題が あるというわけではなかった。むしろすばらしい女性であった。しかし、母親は断じて自分の息子の 家に他人である嫁を入れようとはしなかった。 姑と嫁との確執は、昔からの永遠のテーマである。この物語の時代背景は、もうだいぶ昔になって いるから、今はこんな母親は少なくなったであろうと思われるが、現代においても、姑と嫁との関係 の難しさは、依然として続いてる。母親にとって、自分の息子は永遠の恋人とも言われるが、これは 昔も今も変わらないのかもしれない。そんな母親にとって、息子の嫁は、自分から愛する息子を奪っ た恋仇とも言える。 母親は、形の上では、息子に何ども縁談を進め、お見合いをさせるが、いざ縁談が進む気配になる と、縁談の相手の女性にいろいろ難癖を付け、息子が女性とデートする気配を感じると、仮病を使っ てデートを阻止する。結局、毎回縁談は破談となるのである。息子は息子で、そんな母親でも母親を 捨ててまで結婚をしようとは思わない。母親に逆らうことができないのである。 よく現代でも息子を溺愛する母親が問題になることがあるが、これも昔も今も変わらないようであ る。親離れで出来ない息子と子離れができない母親。二人で作る家庭は、傍から見るよりも、二人に とっては案外居心地がいいのかもしれない。しかし、息子は中年になっても結婚できない。そこはそ れ以上発展性のない木枯らしの吹く庭である。 この物語は、母親と息子の関係を考えラせられるもの である。 |
||||