「超・居酒屋入門」 :太田和彦

居酒屋百名山 (新潮文庫) [ 太田和彦 ]
価格:680円(税込、送料無料) (2019/8/26時点)

居酒屋吟月の物語 (日経文芸文庫) [ 太田和彦 ]
価格:777円(税込、送料無料) (2019/8/26時点)

居酒屋小話 [ 斎藤武彦 ]
価格:864円(税込、送料無料) (2019/8/26時点)

サラリーマン居酒屋放浪記 (朝日新書) [ 藤枝暁生 ]
価格:820円(税込、送料無料) (2019/8/26時点)

居酒屋を極める (新潮新書) [ 太田和彦 ]
価格:756円(税込、送料無料) (2019/8/26時点)

居酒屋ほろ酔い考現学 (祥伝社黄金文庫) [ 橋本健二 ]
価格:691円(税込、送料無料) (2019/8/26時点)

今夜もひとり居酒屋 (中公新書) [ 池内紀 ]
価格:799円(税込、送料無料) (2019/8/26時点)

居酒屋の戦後史 (祥伝社新書) [ 橋本健二 ]
価格:885円(税込、送料無料) (2019/8/26時点)

太田和彦の東京散歩、そして居酒屋 [ 太田和彦 ]
価格:1620円(税込、送料無料) (2019/8/26時点)

超・居酒屋入門 (新潮文庫) [ 太田和彦 ]
価格:594円(税込、送料無料) (2019/8/26時点)

日本の居酒屋 その県民性 (朝日新書) [ 太田和彦 ]
価格:820円(税込、送料無料) (2019/8/26時点)

 私はアルコールは弱いがお酒は嫌いではない。若い頃は小洒落たバーやスナックで洋酒やカクテル
を飲むのを好んだが(もちろん隣にきれいなお姉さんが座ればなおよかった)、最近はそれよりも静
かな落ち着いた居酒屋で旨い肴で日本酒を飲む方が好きだ。
 筆者はグラフィックデザイナーで東北芸術工科大学教授をしているとのことであるが、それよりも
日本各地の古い居酒屋の研究調査の方がたいぶ熱が入っているようである。私もこの本を読んで、
ひとりでぶらり居酒屋に入ってみたくなった。

はじめに
 ・男は、いやもちろん女もそうだけれど時々一人になる時を持つことは大切だと思う。会社も友人
  も家族もすべてのしがらみから離れて、一人でぼんやりする。何か考えても良いが、考えなくて
  も良い。
 ・男が一人になって何をするかといえば、それは酒を飲むのが一番ふさわしい。居酒屋の片隅で、
  何も考えずに一人、盃を傾けぼんやりする。人嫌いで山に登るのとは違い、あくまで市井の、他
  人の渦巻く町の中にあって孤独を愉しむのである。男が会社の帰りに一杯やるのは、会社の集団
  的時間の熱気をそのまま家庭へ持ち帰らないためのクールダウンであり、また次に家庭という集
  団へ入るための、束の間の自己解放なのだ。
 ・男たるもの、一人で居酒屋へ入れるようにならなければならない。家から平然と「ちょっと酒飲
  んでくる」と出て行けなければいけない。そして居酒屋といえども身ぎれいに、紳士の矜持を持
  って振る舞えなければならない。

基礎編
 ・居心地の良い居酒屋は古い店が多い。古くから続いているのは、地元の客を相手に、正直な商売
  を誠実に続けてきたからだ。そこには、親父の代から通ってきている客もいて店に自然にひとつ
  の雰囲気をつくっている。
 ・酒が断然他の飲み物と異なるのは、酔えることだ。酒の最大の美点は心を解放させることだろう。
  酒は飲み物の一種というよりは、心のタガをはずさせるものだ。
 ・冷や酒は飲み口がよく、その時はあまりアルコール度を感じないのでグイグイ飲めるが、1〜2
  合くらいで突然ズドンと酔いが回ってくる。
 ・燗酒はスローペースで飲んで早く酔い、一番好ましい状態である「ほろ酔い」が長く続き、突然
  崩れたりせず、ゆるやかに酔いが回り、また案外大酒にならないものだ。
 ・ある年齢になり、恋愛や美食も体験し終え、また酒そのものも、若さにまかせた無茶飲みも経験
  し、また年代物ウイスキーや大吟醸の華麗な酒の味も知り、今はむしろ平凡な一杯をしみじみ味
  わう心境。つまり人生経験を積み、ある種の「達観」に至ると焼酎党になるのである。年齢およ
  そ五十代か。それはまた一つの人生観の到達とも言える。焼酎の飾りのない味や香りは、出世や
  栄達には無縁でも、どこか一本自分の筋を通してきた市井の男の枯れた風格といったものがある。
 ・男の五十代といえばおよそ自分の一生が見えてくる頃だ。地位を得た男も、また不本意をかみし
  める男も、どちらも残りの人生に思いをめぐらせれば虚飾や名声よりも自分なりの本質を大切に
  生き終えたいと願うのではないだろうか。その時、手にする酒が焼酎なのだ。

実践編
 ・居酒屋は本来、往来を歩いていて、店構えなり風情なりに心ひかれ、ぶらりと入るものだ。気に
  入れば長居し、気に入らねば酒一本で出て行く。出てまた次の店を探す。ビルの中ではその気軽
  さがない。そのため居酒屋はなんとはなしに半アウトドア感を出す。
 ・どういう居酒屋へ入ればいいか。私は中高年のいい大人が一人で酒や肴を愉しむには「古くて小
  さな店」をすすめる。
 ・居酒屋は、たまに食べに行く特別な店と違い、気に入れば毎日でも通うものだから値段が高くて
  はいけない。といって安かろう悪かろうでは困る。あくまで毎日通える値段の範囲で、誠実丁寧
  な仕事が望まれる。
 ・狙い目は小さな一軒家だ。二階に店の人が住んでいればいっそう良い。商業ビルに入るテナント
  店は家賃を払っており、これが値段に反映する。
 ・居酒屋に限ることではないが、居酒屋の場合特に古い店がよいのは、長年かけて主人と客のつく
  りあげてきた独特の雰囲気、居心地があることだ。
 ・古い店の雰囲気だけはそれこそ一朝一夕にはできない。すすけた天井、柱の傷、使い古した徳利
  や皿の味わいは時間をかけることでしか生み出せない。
 ・居酒屋は日本庭園と同じでできた時が一番つまらない。時代がついてしだいに良くなってゆく。
 ・隅々まできちんと整頓されているよりも、多少乱雑な方が落ち着くのは誰しも覚えがあると思う。
  不潔でだらしなく乱雑は困るけれど、神経質にきちんとした店は疲れさせる。むしろ野暮ったい
  もらいもののカレンダーが意味なくベッタリと貼ってあったりするのはご愛敬だ。
 ・一杯やりながら、古きよき時代を懐かしむ。居酒屋の妙味はここにあると思う。ある年齢になり、
  将来のできることの範囲もおぼろげに見えてくると、自分の過去を愉しんでもよいのではないか。
 ・一人で居酒屋へ入るのは開店早々の時間がいい。五時だ。店の空気はきれいだし、好きな席は選
  べるし、魚も全部そろっている。
 ・どこへ座るか。はじめの店はカウンターは避けてテーブル席につこう。もしあれば対面二人掛け
  のあまり上等でない所がよい。」「ビールひとつ」と注文し、おしぼりで手を拭い、メガネを出
  して新聞をひろげる。
 ・居酒屋の効用のひとつは、ぼんやりしていられることだ。貧乏症で何かしていないと落ち着かな
  い人も、「ぼんやりする」をしてみたらどうだろうか。
 ・居酒屋の特徴は、半分パブリックな場であることと思う。会社や仕事の場は完全にパブリックで
  公人としての自分がいる。家は完全にプライベート。横になろうが裸で酒飲もうが自由だ。居酒
  屋はその中間だ。ぼんやりしているとはいっても公共の場。常識ある振る舞いが求められ、最後
  は勘定して出てゆかなければならない。その程度の緊張感がまだ残っているバランスがいい。
 ・都会の良さは他人に無関心なことだ。アパートの隣人も知らない都会の暮らしと否定的に言われ
  るけれど、だから良いのである。正確には、何かの時には助け合うにやぶさかではないが、ふだ
  んは知らない顔をしているのがマナーだ。
 ・何の目的もなく雑路の中を歩く、歩き疲れたら喫茶店に、居酒屋に入る。これは都会の愉しみで
  ある。大切なのは周囲の誰ひとり、自分を知らないことだ。知り合いに会ってしまえば、多かれ
  少なかれパブリックな自分を出さなければならない。路上でバッタリ知人に会うのは嬉しくもあ
  るけれど、わずらわしさもある。人に会いたくなくて人の中に出て行く。群衆の中の一粒になり
  にゆくことが都会ではできる。誰も自分を知らないというのは、別の人間になれることでもある。
 ・都会の居酒屋に入るのも小さな旅だ。男も中年をすぎたら人品が問われる。誰も見ていないから
  こそ、照れずに堂々と、自分のかく在りたい姿、かく在りたかった姿で酒を飲もうではないか。
 ・人間関係と同じで、長く大切に付き合うためには、あまり深入りしないように心掛けるのが本物
  の常連なのだろう。
 ・主人と客、の良さは、肩ひじ張ることなく、お互いに自分の良い面だけをみせられて、役にも立
  たない話を交わせる良さだ。

研究編
 ・新しいものはどうなるかわからない期待とスリルがあり、古いものはもう変わらないという安心
  感がある。未来のある若い人は、いずれ自分たちの環境となる新しいものに興味を持ち、未来は
  およそみえた中高年は過去によりどころを求める。若い人は自分を重ねる過去をまだ持たない。

実践編
 ・会社を定年退職し自分の時間を持てるようになったがいく所がなく、妻の出かける先にどこにで
  もベタベタついてゆく男たちを「濡れ落ち葉」と言うそうだ。
 ・会社だけが社会との接点だったため、そこから出ると行く場所も知り合いも、何ひとつない自分
  に気がつく。近所付き合いはおろか、家の近くを歩いたこともなく、会社のまわりの方がはるか
  によく知っている。もちろん近所に誰が住んでいるかも知らず、はじめて人に会っても「どちら
  の会社ですか」以外に質問がみつからない。
 ・趣味も遊びも知らず、今さら自分を裸にして他人のグループへ入ってゆく度胸もなく、家にじっ
  としている。
 ・お互いが互いに干渉せず、どこへ行くか尋ねない。自分は自分の好きにするから君も勝手にやっ
  てくれ。いやでも一緒に住まねばならぬなら、できるだけ顔を合わせないでいるのが長持ちの秘
  訣だということになる。
 ・人間も五十を過ぎれば、時折、自分は昔自分が思い描いていたような人間になったのだろうかと
  考える時があると思う。出世とか野心の達成はともかくとして、他人に寛大であるかとか、義侠
  心があるかとか、人間的に生きたかとか、そういうことだ。
 ・出世も地位もどうやら先が見えたのなら、せめてこれからの人生を、昔思った自分、こういう人
  間になりたいと考えていた姿に近づけてみようと願う気持ちが起きてこないだろうか。
 ・ミニ家出をすすめる。家出とはもちろん自立の第一歩だ。会社と家庭があって今までの人生があ
  った。しかしもうひとつの人生があってもよいではないか。
 ・中高年となり夫婦二人の暮らしにもどれば、お互い家以外に居る場所をつくるのは大切だ。図書
  館、サークルもよいけれど、酒飲んで世間話できる所はもっと良い。女房公認酒場を近所に、ま
  ず持とう。
 ・私はどこかの土地へ行くと、必ずそこの一番古い居酒屋に入ってみたくなる。古い建物のまま昔
  の風情を残している店がよく、創業は古くても改装して新しくなったところはあまり興味がわか
  ない。居酒屋は酒肴もさることながら居心地を愉しむところだからだ。

<本に出てくる日本酒>
 ・新潟 :越乃寒梅
 ・新潟 :月不見の池
 ・宮城 :錦屋
 ・宮城 :伏見男山
 ・秋田 :天の戸
 ・秋田 :由利正宗
 ・秋田 :美酒の設計
 ・岩手 :月の輪
 ・茨城 :武勇
 ・埼玉 :神亀
 ・山形 :住吉
 ・福岡 :都の月
 ・佐賀 :窓の月
 ・広島 :雨後の月
 ・宮崎 :月の中

<本に出てくる居酒屋>
 ・東京森下   :山利喜
 ・東京新宿   :鼎(かなえ)
 ・東京新宿   :吉本
 ・東京新宿   :浪漫房
 ・東京根岸   :鍵屋
 ・東京根岸   :はるか
 ・東京神田   :みますや
 ・東京神田   :鶴八
 ・東京神田   :新八
 ・東京秋葉原  :赤津加
 ・東京湯島   :シンスケ
 ・東京門前中町 :浅七
 ・東京門前中町 :魚三酒場
 ・東京大塚   :こなから
 ・東京代々木上原:笹吟
 ・東京三軒茶屋 :赤鬼
 ・東京下北沢  :楽味
 ・東京下北沢  :とぶ魚
 ・東京築地   :魚竹
 ・東京幡ヶ谷  :たまはぎ
 ・東京恵比寿  :和(なごみ)
 ・東京月島   :岸田屋
 ・東京月島   :味泉
 ・東京自由が丘 :金田
 ・東京十条   :斎藤酒場
 ・横浜野毛   :武蔵屋
 ・仙台定弾寺通り:一心
 ・仙台文化横丁 :源氏
 ・秋田     :酒盃(しゅはい)
 ・青森八戸   :ばんや
 ・静岡県清水市 :かね田食堂