知らないと怖い閉塞性動脈硬化症 :宮下裕介

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実は、この本を読むきっかけとなったのは、私自身が4か月ぐらい前から両足に異常な冷
えとしびれを感じ続けたからであった。当初は、冬の寒さの中で加齢から来ているのかな
と思っていたが、症状がだんだんひどくなってくるので、これは何かの病気なではと思い、
ネットでいろいろ検索してみると、この閉塞性動脈硬化症では同じような症状になること
がわかった。
そこで、この閉塞性動脈硬化症とは、どういう病気なのかと思い、本書を読んで見た。
すると、私の症状が、この本に書かれている糖尿病性神経障害の症状と非常によく似てい
るのだ。それは「足の冷えとしびれ、足の裏が砂利の上を歩いているように痛い」という
ものだった。
私自身、もう10年以上前から血糖値が糖尿病と診断される基準ぎりぎりの当たりをウロ
ウロしている状態が続いているのだった。そのため、以前は定期的に血糖値検査を受けて
経過観察をしていたのだが、新型コロナ禍などもあり、ここ2年ぐらい血糖値検査をサボ
っていたのだ。
これはマズイことになった。もはや、コロナ感染が怖いからと病院を敬遠しているわけに
はいかない。コロナ感染者数が再急増の中、焦りに焦って近くの循環器・糖尿病を掲げた
内科クリニックに駆け込んだ。ところが、血糖値の検査結果では特に異常は見られず、ま
た、閉塞性動脈硬化症の検査として行われる足首と上腕の血圧比(ABI)にも、特に異
常は見られなかった。つまり、糖尿病性神経障害や閉塞性動脈硬化症ではないということ
で、まずはひと安心したのであるが、しかしそれでは、私の足の冷え・しびれの原因が何
なのか。その後に出た種々の血液検査結果もこれといった異常はなく、内科的には異常な
しの診断が下った。そして、一度整形外科を受診してみるよう勧められた。
しかし、当地は現在、人口10万人当たりの新型コロナ感染者数が、東京の2倍以上で、
いまやダントツの日本一になってしまっている。そんな中で病院に行くのも命がけだ。さ
て、どうしたものか。
いずれにせよ、今まではまったく無頓着であったのだが、この本を読んで、手足の冷えや
しびれには、極めて怖い病気が潜んでいるということを、改めて認識させられたのだった。


はじめに
・社会の高齢化、生活様式の欧米化に伴って動脈硬化による血管病が増加し、関心が高ま
 る一方で、心筋梗塞、脳卒中とともに三大動脈硬化性血管病といわれる閉塞性動脈硬化
 症に対する国民の認知度が低いことが以前から気になっていました。
・動脈硬化が起きる場所として知っているものを聞いた最近の調査では、心臓が86%、
 頭が77%に対して、脚は32%と、半数以下の認知度でした。
・閉塞性動脈硬化症は、動脈硬化により脚の血管が狭くなる病気です。米国では心筋梗塞
 や脳卒中の患者数よりも多く、わが国でも60歳以上の人の2割が閉塞性動脈硬化症と
 いう調査結果もあります。中高年者がかかる率の高い血管の病気です。
・わが国でこの病気の認知度が低い原因のひとつとして、閉塞性動脈硬化症の症状である
 脚の冷え、しびれ、痛みなどが、命の直結する重病感に乏しいこともあげられます。
・閉塞性動脈硬化症の重要な点は、たんに脚の血管の病気というだけでなく、命にかかわ
 る心筋梗塞や脳卒中との関連性が非常に高いということです。閉塞性動脈硬化症の患者
 さんは、脚だけでなく全身の動脈に動脈硬化症が起きている確率が高く、20〜30%
 の患者さんが心筋梗塞や脳卒中を合併するという事実です。そのため閉塞性動脈硬化症
 の患者さんの生命予後はとても不良です。
・もしあなたに脚のしびれや冷え、痛みがあれば、年齢のせいだと考えて放置したりせず、
 閉塞性動脈硬化症を疑い、専門の医師の診断を受けるべきです。
・閉塞性動脈硬化症の診断は、心筋梗塞や脳卒中とは異なり、外来で診察と血圧測定を行
 うだけで簡単にできるという特徴があります。上腕と足首の血圧を測定すると、普通は
 足首の血圧の方が高いのですが、脚の血管が狭くなる閉塞性動脈硬化症では、足首の血
 圧が上腕の血圧より低くなります。
・閉塞性動脈硬化症の診断がつけば、心筋梗塞や脳卒中など全身の動脈硬化の予防や早期
 対応が可能となります。 

命のSOS信号を見落とすな
・閉塞性動脈硬化症とは、心筋梗塞や脳卒中と同じく、動脈硬化によって生じる血管の病
 気です。発症すると脚のしびれや冷え、痛みを感じるようになり、進行すると脚の潰瘍
 や壊疽を起こし、最終的には脚の切断に至る病気です。
・脚のしびれは自分だけが感じる症状ですから、客観的に評価することは難しいものです。
 一口に「しびれ」といっても、「じんじんする」「びりびりする」というように人によ
 って表現は異なりますし、症状も感覚麻痺、筋力低下、運動麻痺など、かなり個人差が
 あります。
・脚のしびれはさまざまな原因で生じますが、主な原因は神経と血管の病気です。「しび
 れがある」ということであれば、まずその原因が神経性なのか、血管性なのかを調べな
 くてはなりません。
・神経性しびれを引き起こす病気の代表は「腰部脊柱管狭窄症」というもので、腰椎が変
 形することで脊髄が圧迫され、脚のしびれが生じてきます。高齢者に非常に多い病気で
 す。
・糖尿病の患者さんは末梢神経障害を合併する場合があって、それによる神経性しびれも
 よくみられます。末梢神経障害は、両方の脚に症状があらわれることが多く、片方の脚
 に症状が出ることが多い腰部脊柱管狭窄症や閉塞性動脈硬化症とは異なります。
・脚が冷たく感じる(冷感)場合、脚の皮膚温が低下して冷たくなっているケースと、皮
 膚温が低下していないのに冷たく感じるケースがあります。皮膚温の低下を伴うのが血
 管性、すなわち閉塞性動脈硬化症による冷感です。血液循環が悪くなり、皮膚温が低下
 するために「冷たい」と感じるわけです。ただし、同じ血管性の冷感でも、感じ方は一
 人一人異なりますし、季節によっても変わってきます。寒い冬にはますます悪くなりま
 す。客観的な評価法としては、サーモグラフィを使います。これは、人体から放射され
 る赤外線を感知して、皮膚温の分布を評価し、画像化する検査です。
・最も大切なものは、閉塞性動脈硬化症がたんに脚の血のめぐりが悪いというだけではな
 いことです。脚に症状が出ているということは、同時に全身の血管、とくに生命にかか
 わる脳や心臓、腎臓にも動脈硬化が存在し、血のめぐりが悪くなっている可能性が高い。
 すなわち、知らないと生命にかかわる病気だということです。
・歩行時の脚の痛みは「間欠性跛行」といって、閉塞性動脈硬化症の最も一般的な症状で
 す。痛みは、脚の動脈が狭くなるために起こります。歩行中に脚が痛んで歩けなくなり
 ますが、しばらく休むとまた歩行可能になります。ふくらはぎや太ももが張る感じ、う
 ずくような痛み、けいれん、筋肉の疲労感などと、表現の仕方はさまざまです。これら
 の症状は、歩行時に脚の筋肉が必要とする血液が不足することにより、筋肉内に生じた
 乳酸が蓄積され、これが知覚神経を刺激するために生じます。
・間欠性跛行は運動中に必ず起きることが予測できます。休めばすぐに痛みが軽減し、ま
 た歩き続けることができます。しかし、それまでに歩いた距離と同じ距離を歩くと再び
 痛みが出ます。通常、よく痛むのはふくらはぎや太ももですが、骨盤内に血液を供給す
 る内腸骨動脈が閉塞すると、おしりなどが痛むこともあります。
・脚が痛むために十分な歩行をしなくなると、筋力が低下し、さらなる運動能力の低下を
 招いてしまいます。また、糖尿病の患者さんは、運動量が低下すると糖尿病のコントロ
 ールができなくなり、糖尿病が悪化してしまうこともあります。跛行は病気をどんどん
 進行させてしまう症状なのです。
・閉塞性動脈硬化症は、脚に症状が出てくることが圧倒的に多いのですが、まれに腕のし
 びれや脱力感を訴える場合もあります。鎖骨動脈に狭窄病変がある場合は、腕を垂らし
 ているときには症状の出現はありませんが、髪をとかしたり、洗ったり、洗濯物を干す
 際など腕を上げる動作により症状が出現します。
・腰部脊柱管狭窄症では、加齢で脊柱管が狭窄し脊髄を圧迫して、坐骨神経痛の症状とし
 て脚の痛みやしびれ、脱力感、運動障害を出現します。腰部脊柱管狭窄症による間欠性
 跛行は「神経性間欠性跛行」ともいわれ、自転車に乗ったり、前かがみの姿勢になった
 りすると、症状は軽減しますが、身体を後ろに反らすと症状が出やすくなります。
・閉塞性動脈硬化症は動脈硬化による脚の障害ですが、多くの場合、動脈硬化は脚にとど
 まりません。全身の動脈はすべてつながっていますので、脚の血管に動脈硬化が生じて
 いる場合、どこの血管に動脈硬化が生じてもおかしくありません。閉塞性動脈硬化症は
 心筋梗塞や脳卒中など命を奪う動脈硬化性疾患を合併することが多く、全身の動脈硬化
 症として内科医が包括的に管理を行う必要があるのです。
・脚の動脈硬化である閉塞性動脈硬化症は、診察と血圧測定のみで9割以上の診断が可能
 です。脚の血管に動脈硬化のある患者さんは、心臓や脳の血管にも動脈硬化が起きてい
 る可能性が非常に高く、このような人はCTやMRI検査による心臓や脳の血管のスク
 リーニングが必要となります。

心筋梗塞や脳卒中と同じく怖い閉塞性動脈硬化症
・動脈硬化は動脈の壁が硬くなり、内腔が狭くなる病気です。動脈硬化が引き起こす代表
 的な病気には、心筋梗塞、脳卒中、閉塞性動脈硬化症があります。
・閉塞性動脈硬化症ASOまたはPAD(抹消動脈疾患)と呼ばれ、両者はほぼ同じ意味
 で使われています。わが国ではASOが使われてきましたが、海外では一般にPADと
 言っています。最近は、わが国でもPADが使われることが多くなっています。ただし、
 ASOは動脈が狭くなる原因が動脈硬化に限定されるのに対し、PADはより広義に、
 血管炎やパージャー病といった動脈硬化以外の原因も含む場合があります。
・閉塞性動脈硬化症の症状は主に脚にあらわれ、4段階に分けれてます。
 ・1度:脚の動脈が少し狭くなっていますが、歩いても、走っても、症状がない状態で
     す。脚が冷たくなったり、しびれたりする症状も含まれます。
 ・2度:少し歩くと、ふくらはぎなどが痛くなって歩けなくなり、休むと治る症状「間
     欠性跛行」が出ている場合
 ・3度:安静にしているときにも十分な血液が供給できず、いつも足先が痛くなる「安
     静時疼痛」が起きている場合
 ・4度:組織維持に必要な最低限の血流が供給できず、皮膚に深い傷(潰瘍)ができた
     り、足先が紫に変色し、腐ってくるようになる(壊疽)
・3度と4度は「重症虚血肢」と呼ばれ、適切な治療が行われずに放置すれば脚の切断に
 至ります。閉塞性動脈硬化症の患者さんが非常に多い欧米では、閉塞性動脈硬化症によ
 る脚の痛みや切断は、高齢者が寝たきりとなる主要な原因となっていきます。わが国で
 も、近年のライフスタイルの欧米化により、動脈硬化を基盤とする閉塞性動脈硬化症の
 患者さんが急速に増加しつつあり、毎年3千人近い方が脚の切断を余儀なくされていま
 す。
・閉塞性動脈硬化症の患者さんは、動脈硬化が脚にとどまらず全身的に進展します。20
 〜30%の患者さんが狭心症や心筋梗塞、脳卒中を合併するといわれています。そのた
 め閉塞性動脈硬化症の患者さんは、閉塞性動脈硬化症自体よりも、狭心症、心筋梗塞、
 脳卒中などの病気で亡くなることが多いのです。
・閉塞性動脈硬化症のある中高年者の5年生存率は約50%という報告があります。生命
 予後が悪いことを考えると、ある意味ではがんよりも怖い病気であるといえます。
・心筋梗塞や脳卒中をきたす危険因子といわれるものには、喫煙、糖尿病、脂質異常症、
 高血圧、男性、遺伝的要因などがあります。閉塞性動脈硬化症の発症の危険因子も同じ
 ですが、とくに強く関与するのは喫煙と糖尿病です。
・腎臓が悪い人(腎不全)、とくに透析治療を受けている人も、閉塞性動脈硬化症を発症
 する危険性が非常に高く、また重症化します。
・適量のアルコール摂取と定期的な運動習慣はよい影響を及ぼすとされています。
・閉塞性動脈硬化症は、高カロリー、高脂肪の食事が影響するため、わが国よりも欧米の
 方が発症頻度の高い病気です。65歳以上の米国人の約15%が閉塞性動脈硬化症を合
 併していると推察されています。
・わが国でも閉塞性動脈硬化症の患者さんが急増していることが予想されていますが、患
 者数の全国的調査の報告はありません。地域の基本健診や老健施設での比較的少人数で
 の調査ではありますが、60歳以上を対象とした調査では閉塞性動脈硬化症の患者さ
 んは21〜24%でした。人口構成比からすると、わが国でも600万〜700万人の
 閉塞性動脈硬化症の患者さんがいることになります。
・ところが、医療機関で閉塞性動脈硬化症という病名で治療を受けている患者さんは8万
 人程度にすぎません。すなわち、きわけて多くの閉塞性動脈硬化症の患者さんが無治療
 のまま潜在していることになります。
・普通は動脈の内腔の70%以上がふさがれなければ痛みの症状は起こりません。たとえ
 最終的には動脈が完全に閉塞する場合でも、突然閉塞するよりは徐々に狭くなっていく
 方が症状は軽くなります。
・徐々に閉塞していく場合は、血液が供給され続けていく間に近くにある動脈が拡張した
 り、側副血行路(バイパス)が発達したりしていきます。しかし、血管が突然に閉塞す
 ると、側副血行路が発達する時間がないために症状は重くなります。
・動脈が狭くなると潰瘍ができやすくなります。とくにつま先やかかとにケガをした場合
 が典型的ですが、ときにはすねにも起こり、なかなか治りません。また、細菌感染を起
 こしやすく、すぐに悪化します。重症の閉塞性動脈硬化症では、皮膚の傷が治るのに数
 週間から数か月かかり、治らないことさえあります。
・閉塞性動脈硬化症の患者さんの多くは、将来脚を切断する危険性を心配されますが、多
 くの場合は生活習慣お改善や適切な治療により症状は安定し、悪化するのは25%前後、
 実際に切断となるのは2%前後です。
・一方、脚の予後に比べて生命予後は必ずしも良好とはいえず、脚の症状(間欠性跛行)
 がある患者さんの10年生存率は50%以下です。
・冠動脈が狭くなる狭心症では、運動する、階段や坂道を上がる、重いものを持つなどの
 心臓に負担がかかった場合に、胸に圧迫されるような、しめつけられるような痛みを感
 じます。痛みは胸だけでなく、左肩や腕、あごなどにも広がることもあります。しかし、
 安静にしていると数分で治るのが特徴です。冠動脈を拡張させる薬であるニトログリセ
 リンをなめたり口腔内にスプレーすると、胸痛はすぐに消失します。
・心筋梗塞は、冠動脈の内腔にできた粥腫が破れて、血のかたまりである血栓が形成され、
 この血栓によって冠動脈が完全に詰まってしまった状態です。胸痛の程度は狭心症より
 も激しく、冷や汗が出て、嘔吐することもあります。「このまま死んでしまうのではな
 いか」という不安を感じることも少なくありません。狭心症の胸痛は数分程度で治りま
 すが、心筋梗塞では30分以上続きます。また、狭心症の特効薬であるニトログリセリ
 ンを使っても胸痛は消失しません。血液が完全にストップすると心臓の筋肉は壊死する
 ため、場合によっては突然死を招きます。
・脳卒中は、脳に酸素や栄養を送っている脳の血管が詰まったり、破れたりして、血液が
 脳の先まで行かなくなり、急に手足の麻痺やしびれ、あるいは意識障害などの症状が出
 る病気です。脳卒中にはいくつかの種類がありますが、大きくは動脈硬化により脳の血
 管が詰まる「脳梗塞」と、脳の血管が破れて出血する「脳出血」や「くも膜下出血」に
 分けられます。脳卒中のうち4分の3を「脳梗塞」が占めます。
・わが国の脳卒中の現状は、がん、心臓病についで死因の第3位となっています。そして、
 「寝たりきりになる原因」の3割近くを占めます。
・最近、心臓や脳のみならず、動脈硬化により腎臓の動脈(腎像脈)が狭窄する「腎動脈
 狭窄」の患者が増えてきています。閉塞性動脈硬化症の患者の20〜40%に腎動脈狭
 窄症の合併がみられます。
・閉塞性動脈硬化症の患者さんに高率に合併する心筋梗塞や脳卒中は、午前中の早い時間
 帯(6時〜10時)に起きやすいことが知られています。朝は身体を活発にする交感神
 経が緊張するため、脈拍数が増え、血圧が上がります。一方、夜間寝ている間には血液
 が濃縮されるため、血液がかたまりやすくなることも、朝方に心筋梗塞や脳卒中が起き
 やすい原因のひとつです。この点に関しては、就寝前に飲水がよい方に作用すると思わ
 れますが、寝る前に飲んだ水分が起床時まで効果を保てるのかは疑問もありますし、夜
 間にトイレに起きる原因にもなります。しかし、汗をかいた日や暑い夜には、就寝前や
 入浴前、または起床時にコップ1杯の水を飲むことが勧められています。
・閉塞性動脈硬化症に特徴的な脚の冷えやしびれ、または「歩くと痛み、休むと治る」と
 いう症状の有無を調べたところ、動脈硬化の危険因子をもつ人の42%がそれを感じて
 いることがわかりました。しかし、その中の47%が「病院にいくような症状ではない
 と思うから」「年齢のせいだと思うから」などの理由から病院に行っておらず、また、
 病院に行っている人でも、循環器内科・血管外科を選んでいる人は11%でした。
・医療に関する情報があふれ、中高年者を中心に健康への関心が非常に高まっているにも
 かかわらず、大半の人が「5年後の生存率ががんより低い脚の動脈硬化の怖さ」ついて
 知らないということです。

誰にでも手軽にできる診断
・閉塞性動脈硬化症が心配な場合は、まずは近くの診療所か病院で正確な診断をつけても
 らうことが重要です。歩くと脚が痛くなったり、じっとしていても痛みを感じる場合に
 は、循環器内科や血管外科を受診するのがよいでしょう。また、治りづらい傷ができて
 しまった場合には、形成外科の受診をお勧めします。
・糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙といった動脈硬化の危険因子のある人で、中高年者
 であれば、常に閉塞性動脈硬化症の存在を疑ってみる必要があります。閉塞性動脈硬化
 症は外来診察だけでも十分に診断できる病気です。
・脚の症状を訴える患者さんが外来診察室を訪れたときには、まずズボンや靴下を脱いで
 もらいます。最初に、視診といって、脚をよく見ます。閉塞性動脈硬化症の患者さんの
 脚は、血液のめぐりが悪いため、皮膚がテカテカしていたり、毛が少なかったり、爪の
 発育不良や筋肉のやせなどを認めることがあります。潰瘍がないか見ることも大切です。 
 潰瘍は通常、痛みが強いのですが、糖尿病がある場合は痛みが比較的弱く、患者さん自
 身も気づかない場合があります。
・次の、触診といって、脚をさわってみます。血液の流れが悪い脚は冷たく感じます。触
 診で最も大切なのは、脚の動脈の拍動をみることです。脈の動脈に狭窄や閉塞があると、
 拍動が弱くなります。足首の動脈の拍動に異常があれば、さらに上流の膝の裏側を走る
 膝窩動脈や、ももの付け根を走る大腿動脈を触れてみます。閉塞性動脈硬化症について
 は、この方法で7割程度診断が可能です。
・最後に、聴診といって、脚に聴診器を当てて音を調べます。動脈が狭い箇所では、血流
 が流れる際の雑音が聞こえます。触診ではわからなかった血管の音を聴くことで、その
 血管が完全に閉塞しているのか、狭窄しているのかを判断することができます。
・閉塞性動脈硬化症の診断において最も簡便で正確なスクリーニング検査は、足首の血圧
 を測定することです。通常、血圧は上腕にマンシェットを巻いて測りますが、閉塞性動
 脈硬化症の検査においては足首にもマンシェットを巻いて脚の血圧を測定します。
・健常者の場合、足首の収縮期血圧(最大血圧)は上腕の収縮血圧より高くなります。
 そこで両者の血圧の比、足間接/上腕血圧比(ABI)を求めると、健常者ではABI
 が1.0以上になります。閉塞性動脈硬化症によって脚の血管に狭窄があると、足首の
 収縮期血圧が低下し、ABIも低下します。ABIが0.9未満になった場合は、閉塞
 性動脈硬化症があると判断します。この方法で9割以上の診断が可能です。
・通常行われる画像検査は、MRIやCTによる血管造影検査です。MR血管造影は放射
 線被曝もなく、安全な検査です。解像度の面ではCT血管造影よりは劣り、細い動脈は
 わかりにくいという短所があります。MR血管造影には、造影剤(ガドリニウム)を用
 いた造影MR検査と、造影剤を用いない非造影MR検査とがあり、造影剤を用いると、
 より鮮明な画像が得られます。ガドリニウムは比較的安全な造影剤ですが、腎臓の悪い
 人ではまれに腎性全身性繊維症という病気を引き起こすことがあり、注意が必要です。
・外来で行う検査で脚の動脈を最も鮮明に映し出すことができる検査が、CT血管造影で
 す。CT血管造影検査ではヨード造影剤を使用しますが、この造影剤を使用すると腎臓
 の悪い人ではさらに腎臓の機能が悪化することがあり、細心の注意が必要です。また、
 ヨードにアレルギーがある患者さんでは、かゆみ、発疹、血圧低下などの副作用が出現
 することがありますので、十分説明を聞いて検査を受けてください。
・治療の基本は禁煙です。この病気の発症や増悪と禁煙は密接に関係しており、喫煙を継
 続していてはどんな治療も無効です。さらに手足の清潔を保ち、保護を行い、寒いとこ
 ろでは保温に気をつける、靴ずれを予防したり傷をつけないように注意することが大切
 です。病状によっては、抗血小板薬や血管拡張薬などの薬剤を投与します。
・糖尿病で血糖値が高い状態が続いていると、手や足先の神経障害が起こります。症状と
 しては、手足のしびれや痛み、ピリピリ感、足先の異常な冷え、足底部が皮をかぶった
 感じ、砂利の上を歩いているような感じ、といったものがあります。これらの症状は比
 較的軽いため、放置してり、市販薬で治療しようとする患者さんもいますが、この段階
 で適切な治療を受けないと症状がどんどん悪化して、全身の筋肉が萎縮したり、顔面神
 経麻痺、便秘や排尿障害、立ちくらみ、インポテンツといった症状が起こってきます。
・糖尿病による神経障害を調べる最も簡単な方法は、診察の際にアキレス腱反射を見るこ
 とです。神経障害が起こると、アキレス腱反射がなくなります。神経障害の詳しい検査
 としては、抹消神経伝導速度検査があります。末梢神経で刺激の伝わる速度を測定する
 検査で、糖尿病神経障害があると刺激の伝わり方が遅くなります。
・糖尿病性神経障害の治療の基本は、血糖コントロールを良好に保つことです。症状が軽
 い初期のころは、血糖コントロールを正常化するだけで、神経障害の諸症状が改善され
 ることもあります。
・レイノー現象とは、寒冷刺激や精神的緊張などによって誘発される症状で、指が冷たく、
 蒼白になります。普通は手の指に左右対称に起こりますが、片側だけに起こることもあ
 り、まれに足の指にも出現します。膠原病が原因になっていることもありますが、原因
 疾患がまったくない場合も多く、とくに若い女性に多くみられます。原因となる疾患の
 ないものを「レイノー病」、膠原病などの原因疾患があるものを「レイノー症候群」と
 呼びます。
・レイノー症候群では、血流障害が持続すると、指が細く、先細りになり、皮膚が滑らか
 で光沢を帯びてきます。さらに進行すると、皮膚潰瘍や壊疽が生じることもあります。
 レイノー現象の治療は、寒冷刺激を避けたり、感情が不安定になるのを避けるなど、日
 常生活に留意することで、発作の誘発、増悪を防ぎます。発作が起こったときは、手指
 を温水に浸すなどして温めます。

閉塞性動脈硬化症と言われたら
・1度の場合、
 @糖尿病のある患者さんはへモグロビンHbAlcを7.0%未満を目標に、可能な限
  り6.0%に近づけます。
 A高血圧のある患者さんは、血圧は140/90mmHgまたは130/80mmHg未満
  となるようにします。
 B脂質異常症のある患者さんは、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)の値を
  100mg/dl未満となるようにします。
 C完全禁煙を守ることが必要です。
・2度の場合
  @運動療法
   監督下での運動療法が推奨されています。
   家庭で、非監督下で運動療法を行う場合は、1回30分以上、頻度は週3回以上、
   脚の痛みが出現するまで歩行を繰り返す方法が勧められます。2〜3か月で効果が
   認められます。
  A薬物療法
   血管拡張作用と抗血小板作用をあわせて持つ薬剤を投与します。
  B血行再建術
   運動療法や薬物療法の効果が不十分で、跛行が日常生活に支障をきたす場合に考慮
   します。バルーンやステントを用いた血管内治療と外科的バイパス術があります。
・3度および4度
 安静時疼痛、潰瘍、壊疽を呈する病態で重症虚血肢といわれます。ほとんどが糖尿病ま
 たは透析の患者さんです。
 治療のゴールは、痛みを除去し、潰瘍を治癒させ、切断を防ぎ、脚の機能を改善し、そ
 して生存率を向上させることです。薬物治療より血管内治療またはバイパス術による血
 行再建が優先され、血行再建までの間、痛みに対して種々の治療を必要とします。
 血行再建が不可能な場合は、脚の切断を考慮します。
 わが国では、重症虚血肢の原因となりやすい膝より下の動脈狭窄に対する血管内治療や
 バイパス術ができる医師は非常に限られています。
・動脈硬化を予防するための歩行は、息がはずむ程度のスピードで、1日30分、週3回
 以上がよい、と考えられています。しかし、そうした型にはまることなく、日常生活の
 中で、積極的に「歩く」という移動手段を選択することが勧められます。
・運動療法の効果は2〜3か月であらわれ、跛行出現距離が伸びていきます。その後も効
 果を維持するためには、継続した歩行運動が必要です。
・脚の症状が軽度の場合は、薬による治療が行われます。閉塞性動脈硬化症の患者さんに
 使われる薬は、主に二つの作用のどちらか、または両者を有しています。一つは抗血小
 板作用で、血小板の機能を抑制して血のかたまり(血栓)ができるのを防ぐ作用です。
 もう一つは血管拡張作用です。脚の動脈を拡張することにより脚の冷たさや痛みが改善
 します。
・最も代表的な抗血小板薬はアスピリンです。この薬は動脈硬化性血管症の治療の基本と
 なる薬です。細くなっている動脈に血小板が付着し、血栓ができると血流が途絶し、そ
 こから先に血液が流れなくなります。それを防ぐために、抗血小板薬が使用されます。
 アスピリンは安価で有効な薬ですが、出血をしやすいという副作用があります。たいし
 てぶつけた覚えがないのに、腕や脚の皮膚に内出血による青あざができやすくなります。
 歯肉出血や鼻出血が起きやすくなる人もいます。しかし、最も問題となる副作用は消化
 管出血です。100人中3人程度にみられ、抗血小板薬を2種類以上飲んでいる人、胃
 潰瘍の既往歴がある人、高齢者などで注意が必要です。
・シロスタゾールは血管拡張作用とともに抗血小板作用を有しています。歩行時の脚の痛
 みに有効で、跛行出現距離が延長します。多くのガイドラインでその使用が勧められて
 いる薬です。血管拡張により頭が痛くなったり、脈が速くなる副作用があります。
・服薬しているアスピリンなどの抗血小板薬を突然中止すると、心筋梗塞や脳卒中、足壊
 疽の危険性が高くなります。毎日規則正しく服用する必要性があります。ただし、大き
 な手術を受ける際や消化管内視鏡検査で生検を受ける場合は、出血を防ぐために数日間
 服用を中止する必要性があります。出血しても容易に止めることができる抜歯や白内障
 手術などの際には、抗血小板役を休薬する必要はありません。実際の休薬については主
 治医に相談が必要です。
・フットケアの目的は、脚の病変の予防、治療、再発の防止であり、最終目標は脚の切断
 を防ぐことです。まず、手足の皮膚、爪を清潔に保ちます。深爪や外傷は治りにくく注
 意が必要です。靴に小石などの異物が入っていないか確認する習慣をつけます。たこや
 うおのめは自分で削らず、医師や看護師に処置してもらいます。足の冷えに対しては靴
 下などによる保温が必要ですが、保温により白癬(水虫)が起こりやすくなります。足
 趾の間をよく見ることが大切です。毎日足をせっけんをつけてぬるま湯で洗い、洗った
 あとは足趾間をきれいに拭きます。湯たんぽ、カイロ、こたつなどの暖房器具と脚が直
 接接すると、低温やけどから難治性の潰瘍をきたしやすいので注意が必要です。靴のサ
 イズの合った、むれないものを履き、靴ずれが起きないように心がけます。靴ずれが潰
 瘍、壊疽のきっかけになることが少なくありません。
・進んだ糖尿病の患者さんが運動する際には、マメができない靴を選ぶこと、これが大切
 です。また、糖尿病の患者さんは感覚障害をきてしていることが多く、自分が今、やけ
 どをしていると自覚できない場合があります。糖尿病の患者さんが冬季に足を温める方
 法としては、温度調節が確実にできる電気毛布などがよく、温度調節ができない湯たん
 ぽやカイロは適していません。

高度な治療
・閉塞性動脈硬化症の血行再建術には、カテーテルによる「血管内治療」と「外科的バイ
 パス術」があります。
・カテーテルを用いた血管内治療は、動脈硬化で狭窄または閉塞した病変を広げる治療で、
 治療器具として、バルーンと金属ステントが使われます。こうした治療器具が使用可能
 であれば、間欠性跛行症状がある大腿動脈病変の患者さんの治療も血管内治療が第一選
 択となっていく可能性が高いといえます。
・膝窩動脈以下の抹消の動脈は細いため血管内治療でのステント留置は困難であり、バル
 ーンで広げるだけの治療となります。そのため長期の開存率は低くなることから、通常
 は自分の静脈を用いたバイパス術が選択されます。

閉塞性動脈硬化症の予防
・動脈硬化は子どものことから始まり、中高年になると動脈が狭くなったり、詰まったり
 してきます。閉塞性動脈硬化症や脳卒中予防のためには、青少年時代から動脈硬化の危
 険因子に注意することが大切です。
・閉塞性動脈硬化症の危険因子の中で、最も重要で、かつ是正可能なものが喫煙です。喫
 煙により、閉塞性動脈硬化症の発症が3〜4倍増加します。一方、禁煙に伴って閉塞性
 動脈硬化症の患者さんの脚の切断率が低下します。他人が吸っているたばこの煙を吸い
 込む受動喫煙も、リスクを上昇させます。禁煙は、閉塞性動脈硬化症、心筋梗塞、脳卒
 中すべてに対して効果がありますが、特に閉塞性動脈硬化症では顕著です。
・糖尿病は喫煙とならび、閉塞性動脈硬化症の危険因子として重要です。糖尿病によって
 閉塞性動脈硬化症の発症は3〜4倍増加し、さらに脚切断の最大危険因子となります。
 糖尿病では高血糖により県管内皮細胞が傷害を受け、血管拡張に作用する一酸化窒素や
 プロスタグランジンの産生が低下し、血管が収縮しやすくなり、動脈硬化が進みます。
 また、高血糖のいり血液中の血小板が活性化されるため血のかたまり(血栓)ができ、
 血管が詰まりやすくなります。
・糖尿病はインスリンの異常により生じます。インスリンはすい臓で作られるホルモンで
 すが、血液中の余分な糖分を細胞の中へ取り込む役目をしています。すい臓からのイン
 スリンの分泌が低下したり、インスリンは分泌されるのが十分作用しない場合には血糖
 値が高くなる、すなわち糖尿病になります。
・糖尿病になると全身の動脈硬化が進みやすく、そうでない人に比べ3倍以上も閉塞性動
 脈硬化症になりやすく、心筋梗塞や脳卒中の危険性も高まります。
・糖尿病と診断されたら、まず食事をコントロールして、摂取するエネルギー量をできる
 だけ減らすことが先決です。余分なエネルギーを消費するための運動療法も欠かせませ
 ん。食事・運動療法でも効果が十分得られないときは、薬を使います。
・高血圧の人は、そうでない人と比べると約2倍閉塞性動脈硬化症になりやすいことがわ
 かっています。高血圧は特に脳の血管に動脈硬化をもたらし、その結果、脳卒中が起き
 やすくなりますが、脚の動脈硬化によって閉塞性動脈硬化症も促進します。高血圧は遺
 伝的体質も関係しますが、大きな危険因子は塩分のとりすぎです。日本人の食生活は食
 塩が多いことが問題で、高血圧になる人の数も世界トップクラスです。食事などの生活
 習慣を是正しても血圧が十分下がらない場合には、降圧薬を服用します。
・脂質異常症(高脂血症)は特に心臓(冠動脈)の動脈硬化を引き起こしますが、閉塞性
 動脈硬化症も 1.5〜2倍ほど高くなります。主な脂質は、コレステロールと中性脂
 肪です。コレステロールは食事によって体内に取り入れられますが、肝臓でも合成され
 ます。コレステロールにはLDLコレステロールとHDLコレステロールがあります。
 LDLコレステロールは「悪玉コレステロール」とも呼ばれ、血液中の過剰なLDLコ
 レステロールは動脈壁に沈着し、動脈硬化の原因となります。一方、HDLコレステロ
 ールは「善玉コレステロール」と呼ばれ、動脈壁に沈着した余分なコレステロールを回
 収し、肝臓に戻します。
・中性脂肪もLDLコレステロールほどではないものの、動脈硬化を促進します。中性脂
 肪も食事によって 体内に取り入れられるものと、肝臓で合成されるものがあります。
 特に食事のカロリーが多いと、中性脂肪が高くなります。お酒の飲み過ぎにも注意が必
 要です。
・脂質異常症でコレステロールが高いと診断されたら、まず食事によって身体に入ってく
 るコレステロールを減らすのが基本となります。コレステロールの多い食品は、卵黄、
 レバー、牛乳、乳製品などです。
・食物繊維は食事からコレステロールの吸収を抑制し、動脈硬化だけでなく、がんや肥満
 などの予防にも効用があります。
・食事に注意してもコレステロールが低下しない場合は薬を使用します。

おわりに
・わが国では中高年者の2割が閉塞性動脈硬化症という調査結果もあります。少しでも多
 くの人に 閉塞性動脈硬化症が理解され、脚の切断を防ぐだけでなく、高率に合併する脳
 卒中や心筋梗塞の早期発見や予防につながれば、これ以上の喜びはありません。