べったら漬 :曽野綾子

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この作品がいつ頃発表されたものなのかは、ネットで調べてみたが、どうもはっきりしな
い。どうにもこの作品に関する記事そのものがあまり見当たらないのである。非常にマイ
ナーな作品なのであろう。
しかし、この作品の内容は、私にはなかなか興味深いものであった。いまの世の中、昔を
懐かしんで中学校時代などの同級会がよく行われているようだが、この作品はその同級会
というものの真実の姿を彷彿させているような気がした。
中学生だった頃は、みんな同じスタートラインに立っていても、その後の何十年もの人生
を歩んだ後は、もはやみんな同じようにとは行かなくなってしまっている。幸運に恵まれ
た人生を歩んできた人がいる一方で、不運の連続の人生を歩んできた人も相当数いるだろ
う。そういう人達が、一堂に会して、ワイワイガヤガヤと楽しい時間を持てるかと言った
ら、かなり無理があるのではないかと私は思ってしまう。
人は人自分は自分と、割り切れればいいが、人の心はそう簡単には割り切れるものではな
い。どうしても他人の幸運を羨み、自分の不運を嘆きたくなる。自分は絶対にそんなこと
にはならないという自信のある人は別だが、そうでない人は、なるべくそういう場に近づ
かないほうが、さらに不運を重ねることを避けるひとつの方法かもしれない。
ところで、作者はなぜこの作品のタイトルを「べったら漬」にしたのだろうか。私にはい
まひとつ理解できなかった。


・その夕方、銀座のレストランで開かれた旧市立五中のクラス会には、七人の男達が集ま
 っていた。会の中心になっているのは、O陶器の社長の息子の横塚健作であった。彼は
 成績はよくなかったが、昔から、ひょうきんで面倒がよいところをかわれて、この会の
 時には、いつも世話役を仰せつかるのであった。
・死んだものも何人かあった。もっとも華々しい死に方をしたのは、東大の理学部を出て、
 将来を嘱望されていたのに、恩師の教授婦人と心中した男であった。
・哀れな死の方をした方は限りなかった。戦争がその原因の殆んどであった。
・とにかくそこに集まった七人は、何らかの意味で生き残って来た連中であった。数え年
 四十二歳という年は、戦争を境にして被害も大きく、生き残って来たという言葉も決し
 て只口先だけのものではない世代だった。
・そのクラス会における横塚健作の助手的地位は、薬屋へ婿養子に行き、今は女房のおや
 じが死んだので、晴れて店主になったという男である。俺はもうインテリを廃業したん
 だ、というのが彼の口癖だった。
・三人目の男は検事であった。この男は昔から裁判癖というべきものがあった。彼が検事
 になった時、むしろ皆は呆気にとらわれた。これほど”らしい”職業についた人間はいな
 い。
・四人目は、陸士を出て生き残り、いちはやく防衛庁に入った男だった。私服を着ていた
 が、一佐だった。横塚健作は一佐が、昔の大佐にあたることを知らないので、検事にバ
 カにされた。
・五人目は某私立大学の教授であった。この男は昔から口が軽いということになっていた。
 よく考えてから物を言えばいいのに、あたりかまわず喋るものだから、かなり成績がよ
 かったにも拘わらず、あまり誰からも尊敬されなかった。
・六人目に坐っているのは、見るからに哀れっぽい男だった。銀座のレストランへ来るの
 にジャンパーをはおり、藁ごみのついたくちゃくちゃのズボンをはいていた。中学校時
 代には彼は成績が悪く、いつも出来る生徒の乾分のようになってそのお情けにすがって、
 教えてもらっていたし、その間にいつとはなく人に哀れまれる立場をむしろ楽しむ境地
 に達したようなところがあった。
・七人目にいるのは、痩せた目立たない男であった。彼は皆より大分おくれて入って来て
 自分を星野誠と紹介したが、皆はそれでようやっと、昔そういう男がいたと思い出した
 にすぎなかった。
・「ところで星野君は、今は何をしておられるのですか」と世話役の横塚が星野に尋ねた。
 「高校の教師をしています」「それじゃ、御同業ですな」と大学教授がすかさず言った。
 「全く、教師という商売は月給が安くてどうにもならんですよ」
・「君なんか、本を出したり、雑文を書いたりして、本職そこのけのアルバイトをしてい
 るくせに、文句を言えた義理ではなかろう」と検事がきめつけた。
・星野は黙っていた。既に大学教授に対して小さな敵意がもえ始めていた。
・星野はビールをせっせと飲んでいた。彼は自分が何故ここへ来る気になったかと後悔し
 始めていた。今になって、これは自分にとって非常に迂闊だったことに気がついたが後
 の祭りだった。
・星野は注意深く人の話をきいて、めいめいがそれぞれ誇るべき仕事を、少なくとも今よ
 りはましになるという意味において、人生に希望をもっていることを知った。
・薬屋は大学を出ながら、すっかり人生に背のびをするのをやめてしまっていた。それに
 はそれで、また和やかさと豊かさが感じられた。「つまり俺は、俗物の見本なんだ」と
 言った時、星野も皆につられて笑った。しかし彼の胸は羨望で重苦しかった。彼もまた
 俗物になり切りたかった。しかし高校教諭の俗物はみじなものだった。
・横塚には社長の父と重役の義父があった。彼のお人好しで大して切れない頭を、O陶器
 という資本金四億円の会社をバックにすれば、それは微々たる問題だった。
・自衛隊は星野のもっとも軽蔑するところだった。星野のこうした心情は、正確に言えば、
 彼が武道を主とした或る専門学校に於いて、肝心の体育方面でいい成績がとれなかった
 時に培われたものであった。彼は自分の体力にひどいひけ目を覚え、国語の教師になり、
 戦争中も戦後も、ずっと軍隊やそれに代わるものを憎んでいた。それは戦争とか軍隊と
 かに対する本質的な理由にもとづくものではなく、自分がたまたまその方の道では、人
 にぬきんでられなかったから、というだけのものだった。
・自衛隊の一佐は、単純で威勢のいい男だった。人間としては、誰も悪意のもちようがな
 かった。彼は自分が自衛隊にいることについて、言い訳がましいこと一つ言わなかった。
 彼もまた、彼独自の出世の道が前方にひらけているのを信じてるように見えた。
・特殊階級の中だけでの出世じゃないか、と星野は侮蔑したが、自分には教員としての出
 世の道が皆無に等しいことを思い出すと、顔に血がのぼった。彼の資格は旧制の専門学
 校のもので、彼はその後講習を受けて一級免許をとるだけのこともしていなかった。気
 がついた時は、何となく周囲の状勢が不利になっていて、免許をとりなおしたとしても、
 校長になれる望みはまずなさそうだったのだ。
・星野は検事に対しては、何の興味もなかった。しかし大学教授に対しては、彼は殆んど
 情熱に近い不快感を心の中に噛みしめていた。教授の一言一言は彼の心にさしこまれる
 針のようなものだった。「御同業ですな」という言葉に、却って冷酷な階級的意識の現
 われを見た。それは決して御同業ではなく、大学教授と高校教師とは全く違うんだぞ、
 という意味が含まれていた。
・何事によらず、自分が生活に疲れている、という思いは、次第に星野の心に深くなった。
 失業者は彼のすぎ隣でうなだれていた。一見それはあわれな感じだったが、彼がこの席
 にいる誰よりも、豪勢に、気持ちよく酔っているということだけは確かだった。
・星野には子供がいなかった。妻は星野より一つ上だった。二人は大した貯金もなく、月
 給を殆んど使って暮らしている。それでも生活は裕福どころではなく、たまに星野が外
 で飲むことまで計算に入れるとかつかつだった。年をとると、誰もかまってくれるもの
 もなく、のたれ死にするかな、という恐怖がおそうこともあった。
・「強姦罪をやったことはあるかね」と薬屋が検事に尋ねた。「あるな」「あれは面白い
 だろうな。実地検証なんかもやるんだろう?」「俺なんか、大陸にいた時、強姦罪ばか
 りだからな」と一佐も言った。
・皆は会費を払うことになった。失業者は何度も横塚に頭を下げていた。会費をおんぶし
 ているのだな、と察すると、星野の心には、揚げしい侮蔑の気持ちが湧き上がった。
・「僕、帰ります」星野は言った。二次会でまだこの上、不愉快な金を使うのはやり切れ
 なかった。  
・本当は星野はひきとめてほしかったのであった。皆が無理にひきとめなかったのは、自
 分に対して何の魅力も持たなかったからだ、と彼は思った。自分には、社会的な利用価
 値すらないのであった。就職や入学を頼む手づるにもならず、何か物を安く手に入れて
 やる、というような便法もなかった。自分は社会の屑であった。どうなってもいいので
 あった。
・星野は足をとられながら、郊外の方へ行く電車の乗り場へよろよろと歩き出した。埃く
 さい夜の雑音も、見上げれば満点の星であった。ネオンの光は邪魔だった。又、孤独感
 が、うすら寒い彼の背中から襲って来るようだった。
・電車に乗ってからも、彼は背中を真直ぐにたてていることが出来なかった。頭は異常に
 冴えているようでもあり、全くしぶれているようでもあった。星野の隣には中年の和服
 の婦人が坐っていたが、彼女は酒臭く酔って二つ折りになっている男から、少しでも離
 れようとしていた。
・星野は何もかも知っていた。その婦人が自分を避けていることも、反対側の真向いの席
 に、十六、七の一人の少女が、紺のスカートに真直ぐな脚をきちんと揃えて坐っている
 ことも見ていた。
・その少女は、只一度だけ彼が愛したことがある、彼の受け持ちのクラスにいた生徒と似
 ていた。彼はその少女に心を奪われ、丸一学期以上も、本気で苦しみながら過ごした。
  その生徒はとりわけ国語がよく出来るのであった。熱心に勉強してくることは、生徒
 の教師に対する唯一の愛情の表現であることはしばしばである。彼はそれに少年のよう
 な期待をかけていた。少女は星野にとって肉欲の対象してよりも、むしろ清純な尊いも
 のにうつった。彼は何度か少女の唇にふれることを想像しながら、その度に罪悪感にと
 らわれて手を出さずじまいだった。
・或る日のこと、彼は道の前方を、風呂帰りらしいその少女が、二人の同級生と連れ立っ
 て笑いさざめきながら歩いているのを見た。話のリーダーは彼の愛した少女であった。
 「私、なんだか学校の先生なんて商売いやだわ」「会社員の方がいいな、お嫁に行くな
 ら」「星野先生だって、今学期になってからずっと、同じよれよれのネクタイをしめて
 いるわ!」
・星野は、少女、いや女の中に、残念で救いようのないほどおろかしい悪魔の姿を見た。
 悪魔がこんな若いうちから、女の中に住んでいるとは知らなかった・・・。
・ふと見ると、そこは彼の降りるべき駅だったので、彼は何歩かよろけながらプラットフ
 ォームにころがり出た。改札口に向う客はまばらだった。彼はまた先刻からの思いにと
 らわれていた。その事件があってから、二度と自分は女にだまされなくなったのだ。女
 など平気だ。あいつらは獣だ。
・ふと星野は口が乾くのを覚えた。前方を一人の若い女が歩いて行くところだった。星野
 は理由もなく、その女に殺意に近いものを覚えた。あいつも獣だ。人間の評価も、人生
 も何もわからない獣だ。
・女は駅構内の会談を上がって行くところだった。タイト・スカートをはいたお尻のむっ
 ちりと丸い、生きのよさそうなオフィス・ガールだった。その恰好のいいお尻は総て男
 たちのためにほほえんでいるようだった。しかし決して俺のためではない。
・星野は音もなく女を追って行った。そして星野は女に抱きつくと、手をさしのべて、女
 の秘密な部分にふれようとした。 
・次の瞬間、星野は叫び声をきいた。星野の、女に対する復讐は無言と静寂のうちになさ
 れるべきものだったので、彼は当てがはずれた。その上、彼は女が手にもっていたハン
 ドバックで頬をぴしりとぴっぱたかれたのを感じた。はずみをくって、彼はよろけた。
 酔った体は言うことをきかなかった。階段を五、六段もころげ落ちて頭をぶったのと、
 人々の足音が入り乱れるのを聞いたところで、彼の記憶の糸はとぎれた。
・何分経ったのか、何時間もすぎたようだが、実は数分のことらしい。まだあの重苦しい
 現実は星野の周囲に立ちこめたままであった。彼は駅前の交番の椅子にいた。警官が三
 人おり、一人の女がいた。それが先程の女だとわかるまでに、彼は長い間かかった。
・星野は、姓名と住所を告げた。「年は?」「満で四十です」星野はふるえていた。
・「職業は?」星野は一瞬逡巡した。職業に恥じたのではなかった。彼は何をしても教師
 という職業に恥じたりはしなかった。恥じるとすれば、自分の心を救い切れなかった自
 分の弱さに対してであった。
・「教師です。高校の」「教師?」彼は勤め先の学校の名前を言った。それが彼の示し得
 る誠実さの精一杯のものであった。
・「恥ずかしいとは思わんかね。教師をしながらこういう破廉恥なことをして」 
・自分は学校の中でも、一番だめな人間であった。まかりまちがっても、校長にすらなれ
 ない屑の一人であった。その自分が何をしようが、さして学校に影響があろうとは思え
 なかった。
・「スカートをまくったかね」「あの人は何と言っています?僕は酒に酔っていましたか
 ら」「口ではいえないようなことをされたと言っている」
・「家族はいるかね」「妻が一人だけです」新たな不安が彼の心を襲った。今まで妻のこ
 とを彼は考えなかった。 
・「あんたは今晩、ここに拘留する。明日の朝、奥さんに身柄をひきとりに来てもらおう」
 「帰してください!おねがいです。もう決してこういうことをしません!」
・その科白は星野が何回か本で読んだことのある言葉だった。それはあまりにも無能で平
 凡で典型的な恭順の意の表し方だった。それなのに星野はそれ以外の言葉を思いつかな
 かった。それは警官の思う壺だった。
・「奥さんがこわいか。本当にこんなことをすると、奥さんに愛想をつかされるぞ」星野
 はすすり泣き始めた。彼は奈落の底に落ちて行く人間の実感を味わった。
・「おい!」「よく寝ていたな」と警官が、嫌味を言った。星野は黙っていた。明け方、
 彼はまどろんだのであった。 
・「奥さんが来たからな」星野は昨夜の調べを受けた部屋に入った。妻がいた。夢の中の
 妻よりも老けていた。
・「被害者が、あまり大げさなことにはしたくないと言うからな。今日はこれで帰してや
 るが、今度からはこんなことじゃすまないぞ」「奥さんも少し注意してください。酒癖
 が悪いんなら、あまり飲ませんように」
・お説教は三十分続いた。星野は自分の行為が、四十代の男に多い罪だと知らされた。警
 官はそれをさも不潔そうに言った。星野は皺だらけになった背広のボタンをはめようと
 したが、手がふるえて、なかなか思うようにならなかった。
・二人は無言だった。二人の足は自然に河原の方に向いた。土手伝いに行けば近道なので
 ある。その土地は、川よりも土地が低いくらいだった。少しひどい雨が降ると、そのへ
 んの一帯の家々はすぐ床下浸水になった。
・星野は、そこで生まれるか、或いは一旦そこに住みついた人々は、たいていその土地か
 らぬけ出せないままに死んで行くような気がした。彼も又、今、川向うの家に帰って行
 くところだった。
・「寒くないですか」「いいヤ」それが、夫婦が土手の上で交わした唯一の会話だった。
 妻も疲れているのかも知れない、と星野は思った。
・夫婦が橋のところまだ来た時、妻は言った。「べったら漬を買って行きましょう」
 星野は頼りなく頷いた。
・橋のたもとには大きな食料品屋があった。こちら側の土地は丘陵地帯になっていて高く、
 富裕なサラリーマン階級の住宅地があるのである。橋を渡って星野の家の近くへ来ると、
 店の商品も一変して、高価なべったら漬などは盛りの頃に僅かに見かけるだけであった。
・低い土地の人間には季節感も希薄だった。ひいては自分の一生に対する責任も希薄にな
 りがちだった。 
・ポリエチレンの袋に入ったほんのぽっちりのべったら漬は百円もした。
・「これでお茶づけをして、一休みして学校へ出かけたら?」「そうしよう」
・体が死んで、心だけが辛うじて生きているような自分を、星野は店先の戸によりかかっ
 てようやく支えていた。