「東京タワー」 :江國香織

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 私はこの本を読むきっかけとなったのは、テレビで映画化された「東京タワー」を見たことである。
黒木瞳が主人公というので、けっこう期待して観たのであるが、正直言ってあまり面白いとは思わな
かった。なんだか淡々と物語が進行し、驚きも感動もあまりないままに終ってしまったという感じで
あった。
 この小説は、発売された当時は、けっこう話題作だったので、実際の小説の内容はもっと奥深いも
のがあるのではないかと思い、丁度本屋さんで文庫本化された本を見つけたこともあり、読んで見た
くなった。
 小説を読み始めてわかったのだが、この小説の主人公は、黒木瞳演じる浮気主婦が主人公ではなく、
「年上の人妻との深い関係」を重ねる二人の大学生だった。この物語のあらすじとしては、高校時代
の仲のいい同級生だった二人の大学生が人妻との恋にのめり込んで行くというものである。二人の大
学生は、レベルの高い都内の高校をトップクラスの成績で卒業し、それぞれトップクラスの大学に入
っているというレベルの高い大学生という設定になっている。対する主婦も、黒木瞳が演じる主婦は
女性が憧れそうな「代官山にお店」を持つ主婦であり、もう一人の主婦も茶道、華道、ダンス、英会
話などのお習い事に勤しむ「経済的に恵まれた主婦」である。
 二人の主婦に共通するのは、二人とも子どもがいないこと。二人の主婦を一言で言うと、「まるで
生活感のない主婦」ということに尽きる。主婦らしい面と言えば、二人とも旦那がいる身なので、夜
の外出が制限されているという程度である。したがって、大学生と逢うのは、常に昼間ということに
なる。ここに「真昼の情事」とか「人妻の浮気」という怪しげさを漂わせることになる。
 人妻の年齢はそれぞれ40歳頃といった設定である。この二人の人妻が大学生に魅かれる共通点は、
やはり大学生の持つ若さである。若さに魅かれるというのは、なにも男の専売特許ではなく、女性で
も自分より20歳も若い男の子の持つ若さは魅力的なようである。「若い男の子と人妻」の二組のカ
ップルは、それぞれ特徴があり、一方はかなり純愛的な関係(もちろん時々肉体関係を持つが)であ
り、もう片方は逢えば必ず激しくお互いの体をむさぼりあうという肉体派である。ご多分に漏れず、
楽しいことばかりではなく、それぞれのカップルに障害が生じてくるのであるが、なんだかあまり切
羽詰ったという印象は受けない。薄っぺらと言うかサッパリというか、ジメジメドロドロとした感じ
ではなく、とても乾いた感じの実生活とはかけ離れた、まるでファッション雑誌の中の物語と言った
感じの物語である。
 この「東京タワー」は、主婦層にもかなり関心が持たれているみたいであるが、やはり普通の主婦
からしても、この物語は「生活感のない主婦」の「たわごと物語」という感じではないだろうか。も
っとも、東京の青山や白金などの高級住宅街を探索して見ると、我々庶民とはかけ離れた生活を送っ
ている富裕層が現実に存在してのが実感でき、あるいはあういう所に住んでいる主婦ならは、こんな
物語も現実にもあり得るのかなとも思ってしまう。
 私はもう少し、若い男の子と浮気する主婦」の深層心理などが描かれているのではないかと期待し
て読んだのであるが、期待はずれであった。