性と欲望の中国 :安田峰俊

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社会主義国家である中国には、売春などの性風俗産業はまったくないのではと私は思って
いたのだが、どうもそうではなかったらしい。一時は、かなりの性風俗産業が繁栄した時
期があったようだ。もっとも、いくら社会主義思想を徹底し洗脳したとしても、人間の性
欲までは消せないだろうから、それは当然のことなのかもしれない。
しかしそれも、2014年に習近平政権がおこなった大規模な摘発により、ほとんどが姿
を消したとのことだ。それにしても、中国の監視体制というのはすごいようだ。あらゆる
ところに監視カメラが設置されていて、その情報はすべて当局に把握されている。悪いこ
とをすれば絶対に逃げられない体制になっているという。これは考えようによっては、な
んとも恐ろしい社会ということだ。
社会主義国家である中国では、長年、国民の生殖行為も権力の指導のもとでコントロール
されるべきだ、とする統治思想が貫かれてきたという。このため、「一人っ子政策」をは
じめ、子どもの出産に繋がらない同性愛などは、「生産性がない」性愛のあり方であると
みなされ、当局から好感を持たれないできたという。この「同性愛者は生産性がない」と
いう言葉は、日本においても、某女性国会議員から発せされたということで、数年前にマ
スコミを賑わせた。この女性国会議員は最近においても、選択的夫婦別姓に関して「だっ
たら結婚しなくていい」と国会でヤジを飛ばしたとして、またまたマスコミを賑わせるこ
ととなった。想像するに、この女性国会議員の頭の中は、この中国の社会主義の統治思想
にどっぷりと浸かっているのではないだろうか。しかし、この女性国会議員は自民党に所
属している。なんとも奇妙な存在ではなかろうか。もっとも、安倍首相はこの女性議員を
高く評価しているらしい。ということは、安倍政権は、この統治思想を持っているという
ことか。
日本のAV(アダルトビデオ)は世界的な基準でみても、クオリティが高いという。なん
とも不名誉なことだが、中華圏の男性には根強い人気があるという。日本国内では、その
方面の愛好家だけにしか知られていないようなAV女優が、中国では日本のタレントとし
て大ブレイクし、近年では中国国内の大規模なイベントにAV女優が呼ばれるケースが増
えているという。中国男性も日本男性に負けないくらい好色のようだ。中国では、「一人
っ子政策」の影響で女性の人数が少なく、一生結婚できない男性が3千万人もいるといわ
れているから、日中関係は、このAV産業によってさらに強められるかもしれない。
私が特に興味を持ったのがラブドールについてだ。昔のラブドール(ダッチワイフ)と言
えば、空気を入れて膨らませるビニール製で、まってく品質が低くオモチャというイメー
ジを持っていたが、今のラブドールはそれとは全然違うらしい。最近の高級ラブドール
人肌に近いシリコーン製で、実際の人間にそっくりだそうである。そして、この高級ラブ
ドールの品質は日本製がダントツに高いと言われているそうだ。しかし、最近は、中国が
日本に追いついてきており、さらに中国ではこのラブドールとAIを結び付けた「アンド
ロイド美少女」の研究開発が盛んにおこなわれているという。この開発が成功すれば、日
本のソフトバンクのPepperなどよりも、さらに優れた人間と会話する「アンドロイ
ド美少女ラブドール」が出現することになる。これはもはや単なるラブドールとは呼べな
いであろう。富裕層の中において、結婚できない男性や独り暮らしの老人たちに間で、癒
しを与えてくれる商品として、中国ならず日本においても爆発的なヒットとなるかもしれ
ないと私には思えたのだがどうだろうか。

はじめに
・真面目に社会のありかたを解明せんとする姿勢に立つ人ほど、あまり言及を好まないも
 うひとつの欲望がある。それはすなわちエロだ。あらゆる生物全般にとって、性(=生
 殖)は最も重要な欲求だが、人類の場合は性を通じて身体的欲求や精神面での幸福感を
 得たいという、より高次の欲求が存在している。
・世界最多の14憶人の人口と日本の25倍の国土面積を擁する中国は、政治や経済とい
 った社会構造の各方面において、良くも悪くも「大国」である。これはすなわち、中国
 はあらゆる欲望の大国であることを意味する。
・中華人民共和国はその建国以来、社会主義イデオロギーが強かった1970年代まで、
 性的に極めて清潔な国家だった。中国共産党はそれ以前の時代に存在した一夫多妻制や
 売買婚をほぼ一掃したほか、建国直後の1950年代の時点で国内から買収業をほとん
 ど撲滅し、1964年にはその結果として性病が根絶されたとする宣言まで出した。  
・教条的なイデオロギーの嵐が吹き荒れた文化大革命の時代には、性愛のすべてが「ブル
 ジョア的」として強く批判されるようになり、ポルノコンテンツどころか恋愛小説まで
 ご法度になった。
・1978年に改革開放政策が始まって以降、ここまで極端な方針は撤廃され、やがて男
 女の婚前交渉も愛人づくりも売買春も大いに復活していくことになる。とはいえ、その
 後もながらく、一般的な中国人は性に対してかなり保守的で不活発だったようだ。
・2005年に行った世界規模の性生活調査では、中国人の性生活満足度は22%にとど
 まり、対象41ヶ国中でワースト1位という結果が出ている。ちなみに、同調査で日本
 人の性生活満足度はワースト2位の24%なのだが、日本の場合は性的な保守性が理由
 ではなく、過労などの別な要因があると見たれる。
・中国のGDPが日本を抜いて世界2位になり、都市部を中心に庶民層まで生活水準が向
 上した2010年代以降は、IT技術やスマホの普及による情報収集・伝達の容易化や、
 人々のマナーや衛生観念の向上などのよって、中国人の価値観やライフスタイルは劇的
 な変化を遂げた。これは人間にとって究極のプライベートな生活領域であるセックスの
 世界も例外ではない。  
・2017年から2018年にかけて行われた調査によると、セックス頻度の平均は、な
 んと週に1.2回である。内訳は週に2回以上が最多の31%を占め、次に週に1回が
 23%、半月に1回が11%と続く。いっぽうで1ヶ月間以上も性行為がないセックス
 レス率は、未婚者も含めてわずか7%にとどまった。
・これに対して、日本の既婚20代男女のセックスレス率は19.5%と35.8%、
 30代男女の場合は25.1%と31.7%にのぼる。
・中国人の地域別のセックス頻度の分析では、大都市の北京や上海で週に1回以上セック
 スをする人は45%なのに対して、地方の中小都市の住民は57%。ほか、内陸部の住
 民は67.3%にも達する。街に娯楽が少ない地方ほど、若者の楽しみは限られるとい
 うことだろうか。  
・職業・社会的地位ごとの「1回以上」率では、企業経営者や幹部層が、それぞれ70%
 台を叩き出した。これはブルーカラーの59%や一般サラリーマンの52%、主婦の
 50%、学生の21%などを大きく上回る数字だ。中国人のセックス充実度は収入と完
 全に比例しているらしい。
・富裕層のほうが部屋やクルマを準備しやすい、不労所得で儲けており時間に余裕が生ま
 れやすい、中国では日本以上に男女関係にカネが絡みやすい、そもそもお金がある人ほ
 どカネで簡単に性を買える・・・といった、さまざまな条件に恵まれているがゆえの数
 字だと思われる。
・中国における性の悦びは、金持ちやインテリにこそ許された娯楽とも言えるのだ。対し
 て、中国では貧困層を中心に一生結婚できない男性が3千万人以上もいるとされるので、
 夜の世界も格差社会である。
・中国性学会の調査では、自身の性生活に満足していると回答した人は57%。パートナ
 ーをエクスタシーに導いて満足させる義務があると回答した男性は94%に達した。
 ただし、それを実現していると自任する男性はわずか25%。いっぽう「達したフリ」
 をおこなった経験を持つ女性は65%もいたそうだが。
・性的にアクティブになる中国人が増えたことで、近年増えているのが不倫である。中国
 の夫婦の離婚原因の50.2%は「不倫・浮気」だったという。中国人は日本人以上に、
 不倫によって家庭が崩壊しがちなのだ。都市部ほど価値観がオープンなので、普通に離
 婚する夫婦が多い。北京や上海は、中国で最も不倫が多い街だとも言えるかもしれない。
・中国の不倫夫に多い職業は、
 ・IT企業     10.6%
 ・金融業       8.2%
 ・教育業       6.5%
 ・医師        4.6%
 ・弁護士       3.8%
・中国の不倫妻に多い職業は
 ・専業主婦     18.6%
 ・教師       13.8%
 ・医師        8.6%
 ・秘書        7.2%
 ・エンジニア     6.1%
・中国では女性の社会進出が日本よりも活発であり、わざわざ専業主婦になる女性はお金
 持ち男性の妻である例が少なくない。なお、不倫をする中国人女性の動機の67%が
 「刺激を求めて」だったそうだ。
・中国で不倫に走る既婚男性の割合は13.6%で、他国平均の13.2%と大きな違い
 はないが、既婚女性の場合は4.2%と、他国平均の0.8%を大幅に上回るという。
 中国の女性が他国の女性よりも不倫に走りやすい傾向がある。
・これらの背景の一因として考えられるのが、近年は都市部で9割を超えたとされるスマ
 ホ普及率だ。中国人はもともと他者との距離が近いうえ、「現代版のアヘン中毒者」と
 揶揄されるほど依存症的にスマホにはまりこむ人が多く、暇さえあればスマホをいじり
 続ける。  
・中国共産党の一党専制体制下になる中国は、一般庶民の生活が「政治」によって大きく
 左右される国だ。そのため「性事」を語っているはずなのに実際はその背後に存在する
 「政治」を語るような例も、少なからずあるだろう。
 
拝金の性都・東莞の興亡
・2014年2月まで、東莞は「性都」や「東洋のアムステルダム」の異名を持つ、中国
 で最大級のセックスタウンとして知られていた。接待などで用いられたハイクラスの風
 俗サウナやKTV(連れ出し高給クラブ)から、地元の出稼ぎ労働者の男性を主に顧客
 とする安価な置屋にいたるまで、最盛期には現地で働くセックスワーカーの女性が30
 万人以上に達していたとも言われている。
・主な顧客は香港人で、次の台湾人と地元の中国人と続いたが、日本人客も評判が高く、
 ネットを検索すれば当時のサウナで遊んだ日本人男性たちのブログが現在でもいくつも
 引っかかる。 
・だが、2014年2月に習近平政権が大規模な摘発作戦を実施し、表立って営業する性
 風俗店はすべて壊滅。街には閑古鳥が鳴いたが、いまや中国の他都市よりも性産業が厳
 しいクリーンと都市に変わってしまった。 
・中国は1949年の中華人民共和国の建国以来、社会主義イデオロギーのもとでカネ儲
 けを「悪」とみなす風潮が根強かったが、「先に豊かになれる者から豊かになればよい」
 と主張したケ小平のもとで、1978年末から経済の開放や海外からの投資の受け入れ
 が徐々に進んだ。 
・社会主義国家である中国では、タテマエ上は売買春はご法度だ。しかし、とくに天安門
 事件後の1990年代は人民の当時が極端に緩み、民主化の要求や共産党体制への反対
 といった政治的な抵抗運動さえおこなわなければ、窃盗や少額の詐欺・売買春のような
 些細な悪事は極めていいかげんな取り締まりしかされない時代であった。
・1996年あたりは、市民が家族連れで行くような映画館や劇場でも、場内に女性がい
 て、男性がお金を払うと「手」で処理をおこなった。ほとんどのホテルでは男性が一人
 で宿泊すると間髪入れずに部屋の電話が鳴り、売春を持ちかけられた。男性が一人で街
 を歩いていればタクシーの社会での性的なサービスを持ちかける陪的小姐に遭遇し、街
 のあちこちで拉皮帯(ポン引き)や站街女(立ちんぼ)に声をかけられた。海に行けば
 一緒に泳ぐことを名目に売春を持ちかける陪泳小姐、山に登ればガイドを名目にやはり
 売春を持ちかける導遊小姐と、陸・海・空(山)のあらゆる場所で売春行為が身近だっ
 た。
・ローカル中国人向けの性産業には、ピンク床屋があった。もっとも床屋を名乗っている
 とはいえ、髪を切るサービスは提供しておらず、実質的にはただの「置屋」である。
 1回の遊び代は日本円で450円〜750円で、単純に性行為を提供するだけの極めて
 即物的な性産業施設だ。ただし、店内にいるのは10代後半〜20代前半くらいの出稼
 ぎ労働者の女性が多かったため、衛生的な問題を気にしない人であれば、香港・台湾や
 日本人の利用者もいた。
・ピンク床屋はゼロ年代半ば頃まで非常に多く、先進として知られる深川も、当時は街の
 いたるところにこの手の店があった。
・中国の地方の公安の要職につくのは、地元の有力者の息子だ。往年の性産業は間違いな
 くカネになるビジネスだったので、大抵は現地の有力者が利権に一枚噛んでいた。つま
 り、取り締まる側が性産業利権をなかば握っていたということだ。
・ゼロ年代半ば頃から、大都市である広州や深川のピンク床屋や置屋はほとんど姿を消し
 た。経済発展によって地価が上昇し、地権者たちが物件の店子として性風俗店を入居さ
 せるよりも土地を転がしたほうがカネになると判断するようになったためだ。
・2006年には、深川で大規模な取り締まりがおこなわれ、香港人11人を含む売春客
 の男性が逮捕されたほか、多数のセックスワーカーの女性を含めた関係者ら約200人
 が黄色い服を着せられて市中引き回しの刑に遭う事件も起きている。なお、中国では、
 「黄色」は、エロを意味する色である。
・東莞が中国随一の「性都」になったのは2008年以降だ。直接的な原因はリーマン・
 ショックを発端にした世界金融危機である。海外市場向けのハイテク部品の製造を主産
 業にしていた東莞の製造業は大ダメージを受け、中小企業が倒産と賃金の未払いラッシ
 ュに見舞われた。
・当時、中国人女子工員の平均月収は日本円で約5万6千円程度だ。だが、若い女性がセ
 ックスワーカーになれば同じ額を数晩で稼げる可能性がある。身体を売る行為に抵抗感
 がある人でも、売春客向けに作られたマッサージ店や、セックスワーカーの女性向けの
 美容室などに就職すれば、工場で一日中機械を組み立てているよりは楽にお金が儲かっ
 た。 
・2014年2月の大摘発の直前には、東莞で売春に従事する女性が30万人に達したと
 いう。関連産業の従事者も含めれば、人数はさらに多かったはずだ。
・KTVはサウナとは異なり、性行為それ自体よりも仲間とエッチな行為で騒ぐノリを楽
 しみたい人向きの、高級キャバクラのような施設だったのである。サービスの内容上、
 ビジネスでの接待に向いてもいた。
・中国の腐敗官僚やヤクザなど、よりヘンタイ的で荒っぽい悪ノリを好む富裕層が関わる
 場合は、KTVでもっととんでもないこともおこなわれていた。KTVにおける悪ノリ
 内容は中国国内のネット掲示板なおでもしばしば紹介されているが、若いネットユーザ
 ーには「ドン引き」する反応を示す人も少なくない。ただ、一昔前は日本のお座敷芸や
 ストリップでも、女性器に花やタバコを挿入して見せる「花電車」のようなエゲつない
 行為が存在していたので、この手の悪趣味は日本も中国も変わらないかもれない。自分
 たちが他者に「これだけヘンなことをおこなわせるだけの財力や権力を持っている」こ
 とに快楽を感じるのだろうか。
・実のところ、東莞の性産業は地下では生き残っており、現地で働く台湾人などの間では、
 「微信」(中国のチェットアプリ)を介したコールガールサービスが知られている。元
 締めの知り合いに限定して女性を派遣する方式だという。また、東莞に限らない話だが、
 「微信」の「近くにいる人」の検索機能を使えば、援助交際をおこなう女性や仲介業者
 を探すことも一応は可能である。日本でLINEが援助交際やパパ活の温床になってい
 るのと似た構図は中国にもあるわけだ。だが、「微信」のやりとりが当局に筒抜けなの
 は中国人なら誰でも知っている。「悪いことをやったら、絶対に逃げられないんですよ」
 中国は近年、国内の大量に監視カメラを備え付け、公安がそれらの情報をオンラインで
 把握、クライドに蓄積することで治安管理を強化している。
・加えて社会主義国家の中国では、民間企業から公安に対して、ホテルの宿泊登記の際に
 提出したパスポートや身分証明書の情報や、ホテル内のカメラ映像なども半自動的に提
 供されているとみられる。たとえ私有地であるホテルの廊下でも、男性客が不審な女性
 と一緒にいればバレてしまう。まさに、「絶対に逃げられない」わけだ。
・2014年2月の大摘発の後、東莞の女性たちの多くは工場労働に戻ったり地元に帰っ
 たりしたが、一部は規制が比較的ゆるいとされていた上海に逃げた。また、広東省にお
 いても、東莞以外の都市では「手」だけのサービスならばセーフという謎の共通認識が
 生まれ、そうした性風俗店はまだ存在する。ただ、広東省の社会全体として、性産業は
 「政治的にご法度」という認識が共有されるようになった。
・現在の中国、ことに東莞での夜遊びは、まずやめておいたほうがいいということだろう。
・中国の都市では以前から、党幹部の視察や旧正月・党大会といった取り締まり強化期間
 に性産業の摘発がしばしばおこなわれてきたが、これらは形式的なものにとどまり、取
 り締まり期間が終われば平時に復するのが普通だった。だが、2014年2月に東莞で
 実施された大摘発作戦は過去のようなパターンを踏まず、むしろ中国全体を覆っていた
 エロ産業のパラダイムを、「禁止」の方向に根本的に転換させる事件になった。その理
 由は、東莞の大摘発作戦の裏に習近平政権による濃厚な政治的背景があるためだ。
・東莞は習近平の政敵だった周永康の勢力圏であり、東莞の性産業の撲滅作戦は習近平が
 周永康に対して仕掛けた奪権闘争の一環だったと論じている。
・周永康は胡錦濤政権下で党中央政治局常務委員、司法、公安部門のトップを務めていた
 党の元最高幹部だ。周永康は中国各地のダーティーな公安権利や資源権利を一手に握り、
 女性好きでも有名だった。反体制系の在外華人メディアの各報道によると、周永康の愛
 人は歌手・女子アナ・女子大生など29人に及び、北京市内の6ヶ所に専用の遊び場所
 を設け、一夜だけの相手ともなれば400人以上に達したともいう。
・東莞の性産業の封じ込め、のみならず、公安系の利権だったとされる中国全土の性産業
 の封じ込めは、権力の集中を目指す習近平自身の利害に一致する方針である以上、現政
 権が存続する限りは続く。   
・ちなみに、日本と同じく中国にも姦通罪が存在しないため、一般人は不倫をしても刑法
 上の犯罪には問われない。ただし、中国共産党は党内ルールで「不正当な性関係」を禁
 止しているため、党員の不倫は処罰の対象となる。
・いい年をしてスケベなことばかり考えているおじさんは、日本にも中国にも大勢いる。
 とはいえ、中国においてここまで「チャット会話の流出」が多く、また当事者の多くが
 容赦なく実名で報道されるのは、じつは意外と笑えない事情もあったりする。つまり、
 中国は公権力に対する個人の通信の秘密がハナから保障されておらず、またメディアも
 基本的に 当局の意向に応じた報道をおこなう国だということだ。

人民解放軍に翻弄された「世界最大の売春島」
・三重県志摩市の海上にある渡鹿野島は、停泊する長距離船の乗船者向けの夜伽の島とし
 て江戸時代から知られており、戦後の高度成長期にはヤクザが仕切る売春島として名を
 馳せた。  
・中国広東省西部の海上に位置する「下川島」は、かつての三重県の渡鹿野島をしのぐ、
 アジア最大規模の売春島だった。最盛期にはひとつの島のなかに2千人以上のセックス
 ワーカーの女性がひしめき、島に来た男性たちがそんな女性たちをオール・ヌードでは
 べらせて海で泳ぐなど、外界から隔絶された島にふさわしいメチャクチャな遊びがおこ
 なわれていたとされる。下川島について、香港・台湾などのメディアにおけるあだ名は
 「荒淫島」。その地名は日本でおいてすら、一部のマニアの間では有名だった。   
・下川島の存在が中国の文献にはじめて登場したのは元王朝時代の1304年だ。明時代
 から徐々に人間が暮らし始め、大航海時代になるとポルトガル人が上陸、東隣りにある
 上川島はフランシスコ・ザビエルの終焉の地になったが、下川島はとくに歴史の表舞台
 には登場していない。
・華南のどこにでもある田舎の島の歴史が大きく変わったのは、ケ小平のもとで改革開放
 政策がスタートしてからである。島内南部にリゾート開発計画が持ち上がり、ホテルや
 別荘が建ちはじめるようになる。当時の広東省は何でもやりたい放題のアナーキーな時
 代であり、「先進地域」の民である香港人や台湾人・海外華僑らをターゲットにした賭
 博や売春で外貨を稼ぐ産業が花盛りだった。そのため、当初は島をマカオのようなカジ
 ノリゾートに変える計画も出たそうだが、さすがにそこまでやってはマズいということ
 で頓挫。結果、なし崩し的に売春産業が発達し、やがて、島には多くの置屋が開業しは
 じめる。やがて、置屋に加えて島内の大部分のホテルが施設内に若い女性を抱えるとい
 う、ものすごい島が出来上がってしまったのだった。
・東莞は香港人のスケベなおっさんたちが「開拓」した地域だが、初期の下川島を開拓し
 たのは台湾人だった。 
・当時、台湾には20以上の下川島ツアー専門の旅行会社が存在し、ツアー参加者だけで
 毎日300人以上、さらに個人旅行で真日数十人もの台湾人男性が島に上陸していた。
 島内の観光収入の7割を台湾人が占めるに至っていたともいう。一昔前に日本人男性が
 大挙してタイやフィリピンへ買春ツアーに向かっていたのと、あまり変わらない行為を
 台湾人男性もやっていたわけである。
・日本人にとってのタイやフィリピンは言葉が通じないが、台湾人なら中国大陸でも言葉
 が通じる。加えて当時の台湾人男性には、過去の歴史的な経緯もあって中国大陸の女性
 に対して独特のフェティシズムを覚える人も多かった。そのため、下川島の性産業は、
 男性が置屋にいる遊び相手の女性を1晩から数日間ブッキングして過ごせる形式のサー
 ビス(「代妻」)が主流になった。
・一昔前までの中華圏では、老人が若い娘と交わると陰陽の気が相互に補われて長寿の効
 果があるといった民間信仰が存在した。たとえば晩年の毛沢東も、回春を目的として未
 成年の生娘との性行為に励んでいたと伝えられている。
・2010年前後になると中国経済が成長したこともあって、下川島の様子はゼロ年代前
 半ほどメチャクチャではなくなり、ファミリー向けのビーチリゾートとしての開発も進
 み始めたが、それでも売春島としての顔は消えなかった。かつては台湾人の中高年男性
 だけの秘密の園だった島に、日本人の姿が目立ちはじめたのもこの頃からである。
・台山の上川島・下川島はかねてからずっと台湾と日本のセックスツーリストの天国であ
 り、毎日島にやってくる台湾や日本の旅行客は100人を下らず、フェリーから下船す
 るやすぐにグループを作ってお楽しみを探しに出かける。現地で性産業に従事する女性
 いわく「女性を目的に島に来るのは中年の台湾人男性が最も多く、それに日本人客が次
 ぎ、香港人はここしばらく減っている。ただ、いちばん好色なのは日本人客だ」という。
 言葉が通じないから、日本人客は気に入った女性がいるとすぎにたどたどしい中国語で
 買春の交渉を始めるという。
・20年近くも続く伝統産業と化していた下川島の性産業だが、2015年ごろから急速
 に衰退していき、2019年現在ではすでに壊滅に近い状態にある。島は、近隣地域の
 中国人が子連れで海水浴に訪れるような、極めて健全なファミリーリゾートへと変貌を
 遂げている。
・下川島は人民解放軍の利権の下にあったと見られる。そもそも下川島は、中華人民共和
 国の建国からしばらくは島内全域が人民解放軍の管理下に置かれていたほど、軍の影響
 が強かった島だ。もっとも、大陸国家である中国は伝統的に海軍が弱い。ことに人民解
 放軍は国共内戦の末期まで独立した海軍すら整備できなかったほど陸軍偏重が激しく、
 中国の海上軍事力はその後も今世紀を迎えるまでは非常に弱体だった。加えて中国が貧
 しかった1990年代には、深刻な資金難に悩む人民解放軍は自力更生を建前にしてさ
 まざまな副業をおこなっていた。下川島のセックスリゾート開発もまた、中国海軍が貧
 しくて組織的にも弛緩していた時代の産物だったのである。
・習近平は自身への権力集中という目的もあって、党や国家機関の統制の強化や、政敵た
 ちの資金源になり得る汚職摘発に熱心な指導者である。過去の江沢民・胡錦濤時代には
 事実上の野放し状態だった中国国内のダーティーな利権は、習近平政権時代になってか
 らどんどん潰されるようになった。
・2014年3月からは、従来の中国では聖域視されていた軍の利権構造にもメスが入り、
 前政権時代までの制服組のトップだった軍内の大物が汚職容疑で次々に失脚した。この
 失脚劇の過程では軍の将校クラスの幹部が20人以上も自殺したと伝えられている。な
 かでも海軍関係者の自殺は、高官が目立った。
・下川島の性産業が「壊滅」したのは、島の軍事的価値が向上して管理を強化する必要が
 生じたことに加え、過去にこの島を治外法権の地たらしめていた中国海軍の利権構造が、
 習近平政権下の軍隊引締め政策によって崩壊したことが、主たる理由だと考えていいだ
 ろう。  
・中国が非常にアナーキーだった20世紀末の広東省の辺境で、中国の若い女性への幻想
 を抱く台湾の寂しい中高年男性と、人民解放軍の腐敗が生み出した怪しい売春島は、この
ようにして栄え、そして滅び去ったのであった。

AIとエロの奇妙な融合
・お堅い社会主義国家のイメージがある中国だが、じつはアダルトグッズの流通・販売に
 ついては寛容である。1979年から人口爆発を抑制する目的で計画生育政策(一人っ
 子政策)が敷かれていたこともあり、計画外の妊娠を抑制するという建前のもとで、
 1990年代ごろから夫婦・独身者向けのアダルトグッズの存在が黙認されてきたから
 だ。また、出産数が制限されるなかで「家」を継ぐ男子を得るため、過去には人為的に
 「産み分け」をしたり女児を中絶する親も多かった。その結果、自然状態での人類に男
 女比率が105:100なのに対し、現在の中国ではおよそ118:100という極端
 な男女比に偏りが生じている。一生結婚できない男性は3千万人以上いるとみられ、彼
 らの欲求不満を解消する目的からも、独身男性を慰めるための器具は一種の必要悪であ
 るとみなされてきた。
・そのような中、近年の中国国内で人気を集めているのが、「ラブドール」である。シリ
 コーン製の皮膚を持つ高級ダッチワイフのことだ。ダッチワイフは主に性的欲求の解消
 を目的として使用される大型の人形のことである。利用者層に圧倒的多数は異性愛者の
 男性なので、女性の姿をかたどったモデルが多いが、なかには女性や同性愛者男性の利
 用を想定した男性型人形も存在する。欧州では19世紀末にすでに類似の人形があった
 という。
・戦後、ダッチワイフは主に欧米と日本で発達した。空気を入れて膨らませるビニール製
 のタイプから、ラテックスやソフトビニール製のタイプまで多種多様の製品が発売され
 たが、顔やボディの造形の面では、少なくとも一般社会における美的感覚では「微妙」
 に感じられるものが多かった。
・だが、1997年にアメリカの会社が、人肌に近いシリコーン製のボディを持つ「リア
 ルドール」という製品の開発に成功している。実際の人間にそっくりの高級モデル、ラ
 ブドールのはしりである。現時点では本物の人肌に最も近い感触を持つ物質だとみなさ
 れている。これがダッチワイフ業界の常識を塗り替えるイノベーションになった。
・当時、ラブドールの品質は日本製がダントツに高かったうえ、優しげでかわいらしい東
 洋系の外見が中国のマニアからも好まれていた。なお、アメリカ製のラブドールは、い
 わゆる「洋モノ」のポルノ女優のような濃い顔立ちで体格も大きいものが多く、中国で
 はあまり人気がない。
・ラブドールは、まず芯になる「骨格」を金属加工で作り、モールド(鋳型)に入れてシ
 リコーンを流し込んで作る。ドールを椅子に座らせる、直立させる、「実用」する場合
 に四つん這いやカエルポーズなどの体位を取らせるなど、さまざまなポーズをとらせる
 ことを可能にするには、骨格と関節がキモとなるのだ。
・購入目的は必ずしも性的な用途ばかりとは限らず、趣味のコスプレ撮影を目的にしてい
 る人も少なくない。中国国内の顧客の数割くらいは女性だという。「かわいいから」と、
 等身大の着せ替え人形みたいな感覚で買うという。自分とドールで同じ服を着て、ネッ
 トに自撮りをアップする女の子もいるという。
・日本にも鑑賞・撮影目的でラブドールを買う人はいるが、若い女性がそうした動機で購
 入するケースはほとんどないだろう。日本におけるラブドールは、ほぼ自国内で発達し
 た性的な文化であるだけに、かえって日陰者的なジメッとした匂いを拭いきれていない。
・中国の場合、ゼロ年代以降に「先進国」だった日本から一種の舶来文化としてラブドー
 ルを受容したことから、本国の日本ほど、ラブドールに対してドロドロした性のイメー
 ジやマニアックなイメージが持たれていないのだと思われる。そもそも、中国はオタク
 を気持ちの悪いものであると見なす往年の日本社会のテクストを継承していない。
・中国のラブドールは、日本と比べて「日陰者」的なイメージが薄く、先進的なデジタル
 文化との距離感も近い。これは、第三者からの投資を集めたり企業規模を拡大したり、
 他の隣接分野に新規事業を進出させたりしやすいことを意味している。そのため、近年
 の中国ラブドール業界で話題になっているのが、ドールに機械的な可動機能や会話機能
 を持つAIを搭載する試みだ。 
・中国語での会話が可能なAIを実装したドールや、リモコン操作で上半身の筋肉を動か
 せるドールといった、アンドロイド美少女の研究開発が日々続けられている。特にAI
 ドールは優秀で、日本のソフトバンクのPepperとほぼ遜色がないレベルでの会話
 ができて驚かされた。しかも外見は、Pepperが真っ白なハゲ坊主でやや不気味な
 無表情を浮かべているのに対して、こちらはセーラー服姿の美少女だ。
 
貴州ラブドール仙人
・中国は長年の計画生育政策(2015年まで続いた「一人っ子政策」)の影響から、家
 を継ぐ男子を得るため人為的に「産み分け」をしたり女児を中絶したりする親が多く、
 女性100人に対して男子118人という極端な男女比の偏りが生まれている。一生結
 婚できない男子が3千万人以上存在する。
・中国において男性の結婚のハードルは高い。面子が重視される中国社会では、男性側に
 対して「不動産、自家用車、一定の資産」といった経済的要素が日本以上に強く求めら
 れる。そのため、たとえ恋人ができたとしても、そこから結婚にステップアップするに
 は大きなプレッシャーがのしかかる。
・結婚できたも幸福になれる人ばかりとは限らない。中国人の結婚は、「家」で決まる。
 場合によっては当人たちの感情以上に、財産や社会的地位が近い家庭同士のM&Aのよ
 うな色彩を帯びるケースもあるのだ。互いに一日中スマホをいじっていて夫婦の会話が
 ないだけならまだマシだが、愛情がないのにカネや夫の出世にだけはうるさい奥さんと
 結婚すると、男性側は非常にストレスの多い日々が続くことになる。

LGBTの葛藤と受難
・中国においても、現地の各報道ではLGBTの人口比率は5%程度と換算されているこ
 とが多い。割合としては他国とそう変わらないのだが、なにぶん人口が多い国であるた
 め、単純計算でも中国のLGBT人口は7千万人規模になる。数の面から言うならば、
 中国は世界最大のLGBT大国だとも言えるのだ。
・中国では過去の王朝時代においても、男性同士の性行為は法律上で一応禁止されていた。
 もっとも、わざわざ明文化して禁止されているのは、実際にはそうした行為をおこなう
 人が大勢いたためだ。とくに社会が享楽的だった明代の後期は中国南部を中心に少年愛
 の風潮が盛んになった。 
・湖南省や広東省では女性の同性愛的な姉妹関係が存在した。伝統中国の社会では未婚の
 男女が交流を持つ機会が少なく、家庭以外で日常的に接する相手は同性に限定されてい
 たため、同性間で性愛を伴う愛情関係を持つこともある程度までは自然だったのである。
・こうした風潮が明確に変化するのは中華人民共和国の建国後だ。とくにイデオロギー面
 で締め付けが強まった文化大革命の時代には、大量の同性愛者が迫害を受けている。文
 革後、同性愛者を対象にした刑罰は緩められたが、中国においで同性愛は犯罪そのもの
 であった。その後も2001年まで、同性愛は「変態心理による精神疾症」の一種であ
 るとみなされ、医療的な矯正治療の対象になった。中国では2015年ごろになっても、
 電気ショックなどを通じて同性愛を「治療」する精神病院が存在していたことが確認さ
 れている。
・こうした往年の政策の背景にあったのは、社会主義国家・中国では政治や経済のみなら
 ず、国民の生殖行為も権力の指導のもとでコントロールされるべきだとする統治思想だ。
 計画生育政策についても、こうした思想が根底に存在している。いわんや子どもの出産
 に繋がらない同性愛は、生産性がない性愛のありかたであるとみなされ、当局から好感
 を持たれていないできた。 
・もっとも中国は、カナダやオーストラリアの人口を上回る規模の同性愛者人口を抱えて
 いることから、社会において同性愛者の存在感はそれなりにある。
・中国では儒教や民間信仰の影響から、男性は結婚して子孫を残すことが親に対する最大
 の孝行で、人間として果たすべき社会的義務であるとみなす考えが極めて根強い。
・実のところ、両親から結婚に対する強いプレッシャーゆえに、中国のゲイによる偽装結
 婚はかなり以前から存在してきた模様だ。しかも、自身のゲイとしての素顔を隠したま
 ま、既婚者としての体裁を整えるために異性愛者の女性を妻に選ぶ場合も少なくなかっ
 た。それによって理不尽な状況に置かれるのは、偽装結婚の相手として選ばれた女性た
 ちである。中国で同性愛者の妻となった女性たちは、「同妻」と呼ばれている。同妻は
 中国全土で約1千6百万人にのぼると推算している。ただし、夫がゲイであることに納
 得している同妻は全体の9分の1しかいないという。
・同妻に選ばれる女性は学歴や社会階層が高くない人が多いという。彼女らは夫側との経
 済格差や判断力の不足を利用され、なかば騙される形で結婚させられているのだ。
・中国におけるゲイは、こrまで共産党体制下で深刻な迫害を受けてきた歴史を持ち、ま
 た結婚・出産を非常に重要な義務であるとみなす社会の風潮のもとで、無理をして異性
 愛者を装って生きていかなくてはならないという不自由な環境を置かれ続けてきた。
   
日本人AV女優ブームの光と影
・ゼロ年代以降の中国国内で、普段の生活で日本との接触がない初対面の中国人男性と話
 をするときに、かなりの高確率で持ち出される話題がふたつある。ひとつ目は抗日戦争
 (日中戦争)の話題だ。現地のテレビでは抗日ドラマが多く放送されていることもあり、
 これは相手がとくに「反日」的な人ではなくても口にされることが多い。たとえば私た
 ちが、青森県の地名からリンゴを連想するのと似たような感覚で、一般の中国人は日本
 という国名から「戦争」を連想するのだ。
・そして、もうひとつがAV(アダルトビデオ)の話題である。日本のAVは世界的な基
 準で見ても、映像・出演者の両面でクオリティが高く、とくに日本人と外見が近く中華
 圏の男性から根強い人気である。2010年代に入り、人気AV女優の「蒼井そら」が
 中国国内でタレントとして大ブレイクした話は日本でも広く知られている。近年は彼女
 以外にも、中国国内の大規模なイベントにAV女優が呼ばれるケースが増え日本のAV
 はいっそうの市民権を獲得するようになった。
・中国人男性は本来、長身で彫が深いノーブルな美人を好む傾向が強い。事実、たとえ日
 本では人気があるAV女優でも、背が低く痩せた「ロリ系」や生活感のある「熟女系」
 は中国ではあまりウケない。   
・2010年代に入り、中国人の日本AV受容の歴史は新しい段階を迎えた。それは、中
 国人の訪日観光旅行の活発化によって、AV女優に会うことを目的として日本に旅行す
 る人が出てきたことだ。中国人による「日本買春ツアー」などもあるようだ。
・201年代の中国社会で高い人気を集めた日本人タレントがAV女優ばかりだったこと
 は、一抹のさみしさを感じさせる話である。近年の中国で、AV女優だけが日本発のタ
 レントとして突出した注目を集めているのは、かつての映画・ドラマ・音楽といった日
 本のポップカルチャーの多くが往年の勢いを失い、また業界として有効な海外展開がで
 きるような柔軟性を持たなくなったことが大きく関係している。ソフトパワーとして国
 際的な訴求力を持っている日本のコンテンツは、いまやアニメを除けばほぼAVだけに
 なってしまったのだ。
・強権的な習近平政権の成立前後から、メディアの娯楽表現に対する規制が徐々に強まり、
 2015年ごろからAV女優のテレビ出演の自粛が増え始めている。東莞や下川島の性
 産業のように党や軍の利権が関係しているわけではないとはいえ、そもそも習近平は社
 会の緩みの存在自体を嫌う傾向が強い。
  
おわりに
・中国の性にまつわる諸事情は、この10年間で大きく変わった。若者の性意識は開放的
 になり、性生活の満足度の向上やアダルトグッズ市場の急激な拡大が進んでいる。
・こうした動きの背景にあるのは、社会の「自由化」と政治の「統制化」という相反する
 方向性だ。「自由化」の背景にあるのは、中国の都市部のスマホ普及率が9割を超え、
 社会が大幅にスマート化してスピードアップしたことである。近年の中国は国民がIT
 を通じて好きな時間に好きなモノを得て、好きな仲間とつながって好きなことができる
 社会へと急速な変貌を遂げている。
・2010年にGDPが世界2位に達した中国の経済成長や社会の成熟化によって、中産
 階級以上の層の人々が多様な趣味にお金を投じられるようになったことも大きい。政治
 的なタブーに抵触するものをのぞけば、いまや日本やアメリカにあるものは中国にも必
 ず存在しており、しかるべき対価を支払えば入手できるようになっている。近年、中国
 のエロ事情が盛り上がっているのは、ITとカネによって性生活の自由が大幅に拡大し
 たことが大きな要因となっている。
・中国は1990年代以降の20年近くは、ひたすら社会がゆるみ続ける時代だった。し
 かし、そうした時代は、保守派的なイデオロギーを持つ習近平が党総書記に就任した
 2012年に終わりを告げた。習近平政権の大きな特徴は、民間での少額の賭博やメデ
 ィアの低俗な表現といった、従来は体制の脅威にならないので放置されてきた「道徳的
 ではない」行為を積極的に取り締まるようになったことである。
・だが、社会や政治がいかに変わり、中国人の夜の生活がその影響を受けてどんどん変わ
 っていこうとも、人間の営みの根本である「欲望」が存在し続けることは変わらない。
 おそらく今後も、中国全体の動きもエロ事情も、さらなる変貌を遂げていくはずだ。