性と国家 :北原みのり佐藤優

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本のタイトルから興味を持ち読んでみた。北原氏と佐藤氏の対談をまとめた内容で、主に
慰安婦」問題が取り上げられたものとなっている。そのため、なかなか複雑な内容とな
っており、理解できない部分も多かった。特に北原さんの発言は、今まであまり触れたこ
とのない視点で語られていることが多く、自分の視野や考えの浅さを痛感させられた。
今までの歴史においても、性と国家というのは、密接な関係があり、国家は、国民の統治
のために人間の性をうまく利用してきた、とのことだ。その最たるものは「慰安婦」だろ
う。
戦争の遂行のために、戦地での兵士たちの士気や規律を保つためなどのために女性の性を
利用してきた。これは昔の戦争に限らず、近代の戦争においても、表には出ないが、陰で
こっそり行われてきたというのはなぎれもない事実だろう。
戦地においては、人間は正常心を保つのが難しい。たとえ国家のためにという大義名分が
あったとしても、人と人が殺し合うというこは異常なことなのだ。そしてこの異常さが人
間を人間ではなくさせる。人間をケダモノにさせる。ケダモノにならないと人は殺せない
のだ。そしてそのケダモノさが人を殺すだけでなく女性に対しても異常な性欲として向け
られる。
兵士が戦地で一般市民の女性を凌辱するという事件が第二次世界大戦やその後の戦争にお
いても見られてのも、このためだとか考えられる。戦場において兵士の規律を保つは難し
いのだ。このため、兵士たちのガス抜きに「慰安」として陰で国家が女性を与えるのだ。
こうした国家によるガス抜きとしての性の利用は戦時のときだけではない。現代社会にお
いても、密かに行われていると言える。その代表と言えるのが「ソープランド」ではない
か。表向き法律で売春を禁じてきながら、陰ではこっそり性風俗店の監視の手を緩めてガ
ス抜きを図っている。こればかりではない。日本ではその他、多種多様の性風俗が栄えて
いる。
今、YouTube などにおいても、ロリコン・コンテンツが大流行だ。まだあどけさの残る未
成年の少女たちが、まるで衣服を着ていないに等しいような水着や下着姿で出演する動画
などが投稿されている。着ているから「アダルトビデオ」ではないとされ、法の目をかい
くぐっているが、明らかに成人向けコンテンツだ。逆に着ていて見えるか見えないかギリ
ギリのところなので、よけいにエロっぽく見え、ロリコン主義者でなくても性欲を刺激さ
せられる。
こういうコンテンツが、まったく規制もされずに野放し状態なのは世界広しといえども、
日本だけではないだろうか。このような内容のビデオは、米国などでは「児童ポルノ」と
して完全にアウトだと言われる。まさに性風俗天国日本なのだ。これも、考えて見れば、
一般国民が政治問題に目覚めないように、ガス抜きとして当局が許容しているのではない
のかとも思えてしまう。我々一般国民は国家から巧妙に飼いならされているのだ。
いずれにしても、我々男性にとっては、耳の痛い?内容だ。
朴槿恵政権下で合意した日韓の慰安婦問題も、朴槿恵大統領の弾劾による罷免で、白紙に
戻されるのではないかという状況になってきている。もっとも、いまのような傲慢な安倍
政権下での「合意」は、真摯な謝罪というのにはほど遠く、韓国側にとっては「屈辱的な
合意」だったのではないだろうか。おそらく、今のような傲慢な安倍政権下においては、
韓国からの真の合意が得られるのは無理なのではないだろうかと私には思える。


はじめに
・私は政争(鈴木宗男疑惑)に泣きこまれて、2002年に当時勤務していた外務省外交
 史料館で逮捕され、512日間、小菅の東京拘置所で独房生活を過ごした。日本政府が、
 鈴木氏、東郷和彦氏や私が、橋本龍太郎、小渕恵三、森善朗の三首相とともに進めてき
 た現実的な北方領土交渉を、いとも簡単に捨て去るのを獄中から観察して、「二度と国
 家の仕事には関与しない」と決めた。 
・安倍政権が行っている北方領土交渉は、当時、鈴木氏が取っていたスタンスのコピーだ。
 それならば、なぜ鈴木氏や私が国賊であると叩かれ、逮捕されなくてはならなかったの
 か。納得できない。
・私は差別が構造化されている場合、差別している側は、そのことに気づかないのが通例
 と強調している。  
 
この国の性癖
・日本男性がアジアへ買春ツアーに出かける「キーセン観光」を告発したのは70年代で
 すけど、私が10代の頃だって、東南アジア行きの飛行機は男性客ばかりだったし、男
 が女を「買う」ということが日常的に行われていました。89年に女子高生がコンクリ
 ートに詰められて殺された事件
が発覚し、その数ヶ月後には宮崎勤の幼児殺害事件があ
 り、91年に元日本軍「慰安婦」の金学順さんが当事者として初めて声をあげた。この
 国で女として生きていく困難を突きつけられる性の事件に、直面せざるを得なかった。
・フェミニストの視点を守りながら、性の被害者としてだけではない女の「性」を語りた
 い、性を安心して語る場所がほしい、女の性欲を肯定するような仕事をしたいという思
 いがあったんです。女が女の欲望を否定せずに楽しめる場所で、フェミニズムを考えて
 みたいと。 
・たとえばキリスト教では性に関する罪は大きくて、セックス自体は罪ではないけど、女
 性を人格として見ないでモノとして見るのは、非常に大きな罪です。 
・圧倒的に、女性の方が男より精神が強靭だと知りました。それから、逮捕されたことで、
 国家というものが男権的でとても暴力的なものだということを再認識したんです。
・性と権力、性と暴力が結びつくと、やはりこの国の男性は昂奮するのねって、再認識し
 ました。  
・フェミニストって政治的に正しいことを言う人たちではなく、この社会で、性の問題を
 真正面から告発し闘う人だと思っていたんです。でも、いざ、日本の性の泥沼のような
 スポットに私が落ちてしまったとき、普段アカデミズムの中でフェミの看板をあげてい
 る人たちほど、政治的に正しい言説にこだわって、ずれた反応をしましたね。そして普
 段、会社や社会でマイノリティとして厳しい闘いをしている人ほど、適確に私を助けて
 くれた。 
・外務省勤務でも国家公務員でもなくて、社会の側にいる立場のオジサンたちが、簡単に
 国益と自分を重ねてしまっている。そういう男の人、多いですよね。あの人たちは何な
 んだろう?
・国からすると、そういう人は役には立ちますね。決して、尊敬はしないけど。社会の延
 長線に国家があるんじゃないってことをわかっていないんですね。
・私は「性悪説」を非常に強く信じていますから。人間そのものの野蛮さを徹底的に制御
 するシステムをつくらないといけないと思っています。たとえば、いま問題になってい
 て、ようやく新聞でも報道され始めましたけど、アダルトビデオの世界なんかは、女性
 が搾取されるかなりひどい状況になっていますよね。表面上は合法でソフトな形にみせ
 て、演技だから売春ではないとされて、著作権はすべて事務所に帰属しているとか。
・この国では、合法的にクリーンに性的搾取や暴力が行われていて、さらには、ネットは
 もちろん、コンビニや電車の吊り広告に日常的に溢れているポルノ情報ひとつとってみ
 ても、エロの表象の仕方に対して社会全体のハードルが低い。アダルトビデオ業界なり、
 風俗業界なりに売り手としても買い手としても、ポンと入っていける社会装置があるん
 です。人間の野蛮さを制御するシステムどころか、獣化させるシステムを生み出してし
 まっています。   
・若い人たちが性へのハードルが低くなっている原因のひとつとして、援助交際を自己決
 定としてもてはやした、90年代の宮台真司さんのような言論人、有識者の罪は大きい
 と思います。
・「性の自己決定」という言葉は、そもそも、売る売らないという文脈で語られるもので
 はなく、女性にとって重要な性的自立、性的自由を考える言葉として、フェミニストた
 ちが使った言葉です。
・「売春する女性と一般女性を同列には考えない」という司法やメディアの偏見に対し、
 女性にとっての性的な自由は、たとえそれが売春の場であっても守られるべきだ、と手
 探りで闘いを始めた。売春する女性の性的自由が損なわれるのであれば、それは売春し
 ない女性にとって、どういう意味を持つものなのか、そのことを真摯に考える運動でし
 た。
・確かに売春の善悪を問うていくのではなく、自己決定の枠組みで売春を語ることの乱暴
 さが問題です。日本軍「慰安婦」にも自由意志で行った人がいたことを、日本軍や日本
 政府の免責のように語る人が途絶えないことに、問題の根深さがあります。「慰安婦」
 たちにも、日常的に小さな自己決定はあったでしょうし、仕事の内容を知って参加した
 女性もいたでしょう。そうであったとしても、そもそも日本の軍と政府が、女性に対し
 て暴力を振るい続けたことが日本軍「慰安婦」問題の本質なのに。
・そもそも、植民地支配下の圧倒的な権力関係の下で、殴って連行する必要なんてないん
 です。自己決定権で捉えるやり方は、あまりに痛みがない暴力論です。
・AV業界っていうのは、警察庁や経産省ともパイプがある巨大な集団です。つまり、
 AV産業は決してダークな違法性の高い産業ではなく、組織化されていて、高学歴の人
 たちが大勢いる、年間に1万8千本ものビデオを生産している一大産業なんです。
・AVの仕事をしているからこそ、「経産省とパイプがある」とか国家寄り、日本寄りの
 発言をしたがる。男の性を癒すためになくてはならない職業だと、国家を持ち出して語
 りたがる。
・周縁であるがゆえに、中心に過剰同化する。しかし中心は利用できると思っても、過剰
 同化する人を決して大切にはしない。
・海外のグッズ業界は医療や美容業界と繋がり、性を健康や生活の質を向上するものとし
 て捉えなおす動きが主流になっていて、ポルノや風俗業界とはまったく違う業界という
 意識があります。日本では、性というだけで全部一緒くたに、男性の性欲を満たす一大
 「射精産業」になってしまった。
・その射精産業で一番盛り上がっているのが、ロリコン・コンテンツです。ビデオ業界で
 は「着衣させているから、アダルトビデオではありません」とエクスキューズしながら、
 子どもがシャワーを浴びたり、バナナを食べさせられているビデオが作られています。
 それらが成人向けコンテンツともされず、まったく違法でもない社会状況がつくられて
 いる。
・ロリコン趣味の男性が少数派の一部の男性ではなくて、ロリコン表現がひとつの性愛の
 形として一般的に受け入れられていて、しかもアダルト産業の中では巨大な利益を生む
 コンテンツになっているんです。ロリコン・コンテンツがこれだけ商売になっていて、
 しかも「表現の自由」として社会が支えている空気ってなんなんでしょう。
・日本は海外からみると、エロにとても寛容な国という印象があるみたいです。ふつうに
 日本は「ポルノカントリー」って言われていますよ。確かに、男の性にとても寛容で、
 公使区別なく男のための性情報が溢れている。日本は「少女性愛あるき」で、いま、た
 がが外れた状況になっているように思います。
・橋下徹さんが大阪市長のとき、不倫相手にコスプレをさせていたと報道されていました
 けど、制服のコスプレが政治家としてアウトにならない社会って何なの?って思います。
 その同じ男性が、「慰安婦制度が必要だったことは誰でもわかる」公で言えてしまう。
 橋下さんは私と同性代なのですが、競争社会のなかで弱いものは置いて自分だけ先に行
 けて、自己責任だ自己決定だということを心から信じていて、女性差別を隠そうともし
 ない、受験戦争と管理教育が広く行き届いた最初の世代なんです。この世代の男性が、
 これからもっと決定権を持つ立場になっていくのだと思うと、恐ろしい。
・今の男性たちは、どこかで自分は女のために損しているって被害者意識も強い。むしろ
 昔の家父長制的な責任感があったほうが被害者意識がなくていいんじゃないかとすら思
 うくらいに、3〜40代の男性たちが、「女の人が強くなったから男がダメになった」
 とか「女が自分のポジションを奪った」と声をあげている。まるでアメリカで、アフリ
 カアメリカンに自分たちの仕事が奪われたと言っているホワイトと同じような感じで、
 マイノリティである女性が自分たちの利権を食うという憎しみを向けられているような
 感じがします。 
・戦時中、男が戦地で「慰安婦」を与えられている一方、家に残された妻たちは警察や隣
 近所から浮気をしていないか徹底的に見張られていたそうです。慰安婦のシステムは、
 日本軍による強姦事件が多発したため、強姦を防ぎ、性病から兵士を守り、軍の士気を
 高めるためにつくられましたが、本国でも女たちの性が日常的に監視されていた。国家
 にとって性とは、人間管理するのに最も重要なファクターなのだと気づかされます。
・アダルトビデオなんかも含めて、性産業の異常は発達。精液を放出するという意味での
 性産業がものすごく細分化されて、いろんな嗜好に添って細分化して発展させられてる。
 それぞれのニーズに応じた女性を見つけられるという、新自由主義的な方向。男の性欲
 を放出することができるというシステムが商業として整って、しかも急速に廉価に、コ
 ストがかからなくなってきている。
・風俗の現場は一般社会とのつながりが、やはり切れていく職場でもあるんです。経営者
 は女性同士をつながらせないし、女性同士も職場での連帯を深めていく方向にはいかな
 い。また、性を売る女性たちに対する社会的偏見やスティグマのなかで、彼女たちが受
 ける肉体的暴力、精神的暴力はほとんど社会問題にされません。日々暴力にさらされて
 いくなかで、自尊感情が損なわれていく。そうすると一旦切れてしまった社会との接点
 を見出すのは本当に難しくて、業界から抜け出せなくなるようなループにはまってしま
 う女性は少なくないんです。それに、どんなに気持ち悪くても、キツい仕事でも、わず
 かな時間目をつむっていれば、コンビニでアルバイトするよりはいいお金が手に入るの
 だからと、一度やめてもまた戻ってしまう女性は多い。
・イギリスやロシアでは、売春というのは本当にイリーガルな世界で、闇で商売をしてい
 るから、日本においては警察が全部管理している風俗産業みたいなものはない。ロシア
 では性にあまり金銭が絡まないんです。旧ソ連に行って驚いたのは、夜の10時くらい
 にモスクワの公園でセックスをしている人たちがごく普通にいた。並木道のベンチに座
 った普通のお爺さんお婆さんが、アルバイトでアパートの鍵を貸し出している。カップ
 ルがラブホテル代わりに使うからです。普通の夫婦だって、二ヶ月間の夏休暇では別々
 に休みを取って、ひとりずつ保養所に行って思い切り充電してくる。リアルな性がすご
 く近いんです。そういうのは国ごとの文化ですよね。
・日本の場合、戦後に廃止された公娼制度が薄く広く拡散した感じがします。公娼制度が
 なくなって、警察による管理売春になっただけじゃないですか。女性の状況のひどさは
 あまり変わらない。
・日本って自浄作用がないのだなぁ、と性売買の歴史を見ると思います。公娼制度の成り
 立ちや、国際関係史からみた日本の公娼制度の特殊性は、娼妓の自由意志の体を取りな
 がら実際は、国家が公認する人身売買システムだったんですね。外圧があるから体面を
 整えるような法律はつくっていくけれど、結局は公娼制度自体は1946年のGHQの
 要求によってなくなった。また前借金で女性を縛ることも、56年の売春防止法制定ま
 で続いていた。
・性風俗は国家公認の制度ではないにしても、業者は警察に営業届けを出すことが義務づ
 けられている。日本の性売買の歴史は、かつてないほどの規模になり、かつてないほど
 の多くの女性がこの産業に関わるようになっている。街をる歩けば風俗業への勧誘がす
 ぐに目に入るような環境で、女子高校生を売りにする「違法でない」風俗の多様化など、
 若い女性が性売買に関わるケースが増えています。子どもや女性の貧困も深刻化してい
 て、すぐに現金を手に入れられる性風俗産業に飛び込むことも珍しいことではない。揺
 らぐことのない日本の売春文化が、くるところまできてしまったな、とも思います。
・玉砕を求められるような済州島や沖縄で、爆音が鳴り響くなかにも日本軍の「慰安所」
 はあり、戦争中でも花街と言われる場所は最後まで営業し続けたんですね。戦争中、日
 本軍は沖縄全土に短期間で慰安所を作っていくわけです。少なくとも146ヶ所の慰安
 所が確認されています。1944年10月10日の米軍の空襲以降、辻遊郭の女性たち
 も「慰安婦」にされ、朝鮮の女性を軍の輸送船で運び入れ、小さな島にまで慰安所をつ
 くっていった。
・この日本軍「慰安婦」問題が特に、なぜ日本の男の人たちにとっては未だに触れてほし
 くないような、腫れ物になっているのかということです。男のメンタリティとしてわか
 りにくいんですよ。だって、戦中に女性をそのように扱ったことをすごく恥だって考え
 てるようなところがある一方で、こんなにも現代が売春社会ってのはとても矛盾しませ
 んか?なんで普通に謝れないのか、なんで「女性の自由意志だ」「強制ではない仕事だ」
 という免罪符を欲しがるのか。
・話題になっていた永青文庫「春画展」に行ってみて驚いたのが、日露戦争のときに兵士
 に配られたという、豆判の春画です。誰が配ったのかという主語はない。もし政府だっ
 たら、「お国のために死ね」と言いながらポルノを配る発想は、決して過去のものでは
 なく、今の日本にも通じるものだと思うんですね。

戦争と性
・ベトナム戦争時、ベトナムから帰ってきた海兵隊員のために、アメリカ軍は沖縄に風俗
 施設をつくったんです。女性たちは、その施設で一日40人を相手にすることもあった。
 そしてその施設外でのレイプはなくならなかった。ベトナムで戦ってきた男たちが、人
 を殺し、殺される体験をしてきた軍人たちがどのような振る舞いをしたか沖縄の人たち
 は見ているわけです。
・日本全土の0.6パーセントの沖縄の土地に、基地が集中している。2013年までは、
 日本全体の73.8パーセントだったのに、その後少し増えています。それは2014
 年に神奈川の相模総合補給廠が返還されたからです。沖縄における米軍の基地負担は本
 土に比して過去三年でも増えている。基地の比率が高ければ、犯罪の比率も高くなる。
・1951年のサンフランシスコ平和条約調印時には日本の9割の米軍基地は本土にあっ
 たにもかかわらず、いまは沖縄に74.5パーセントの基地が集中している。そんな不
 公平な状況がどうして固定されているのか、それは不公平なままでいいからということ
 でしょう、それは差別でしかない。
・今、現に生きている「慰安婦」たちが説いているのは歴史問題じゃないんですよ。今こ
 こでの日本人の姿勢を問われているわけだし、今ここでの日本の男の姿勢も問われてい
 るわけだし、程度の違いはあれど、韓国の男の姿勢も問われている。すべて共時的にね。
・挺対協の運動をみてみると、徹底的に被害者の女性の声を聞き、彼女たちの尊厳を取り
 戻すための運動を命がけでやっているのが伝わります。戦時の性暴力に対し、被害者の
 女性が声をあげ国家を訴えていくなんで、人類史上初の大革命です。物語を自分たちで
 つくっていったんです。また、この運動の過程で、被害女性たちが米軍「慰安婦」や性
 暴力被害者や、様々な苦しみに耐えている人たちと出会い、被害女性たち自身が今度は、
 性暴力被害者を支援する側の回るといったことも起きてくるんです。そういう運動に対
 し、ナショナリズムに拘泥しているとか、日本人「慰安婦」問題が置き去りにされてい
 るとか、自由意志で行った慰安婦もいたとか、そのような批判は意味を持たないですよ。
・ここ何年か、元日本軍「慰安婦」の支援者の方々と語り合う機会を得て、日本軍「慰安
 婦」を「問題」にして声をあげてきた運動の意味を考えさせられてきました。その運動
 は、もちろん支援者だけで行ってきたものではありません。当事者自身が、声をあげ闘
 う過程で、女性人権運動家になっていった四半世紀だったと思います。彼女たちが求め
 てきたのは、一貫して、加害者の真摯な謝罪と、賠償。そして絶対に今後繰り返さない
 という日本社会での教育です。
・「河野談話」を否定するような発言を、安倍さんは繰り返ししてきた。そして、「慰安
 婦」の記述は教科書から消えて、忘れる方向に向かっている。いかにもアメリカから圧
 力を受けたので、形式的に手を打って、もう二度と韓国に「慰安婦」問題を言わせない、
 というような傲慢な「合意」にみえます。
・日本人はなぜすぐに謝るのか。それはほんとうは悪いと思っておらず、誤れば許しても
 らえると甘えているからだ。でも、日本人は朝鮮人に対しては謝らない。沖縄人にも謝
 らない。アイヌ人にも謝らない。日本人が「日本人はすぐ謝る」と思っていても、他か
 ら見るとその謝罪は、「すぐに水に流してほしいと思ってるな」としか感じないレベル
 ですね。
・キリスト教文化圏では「水に流す」という発想は絶対にあり得なくて、「忘れないし、
 許さない」か、「忘れないけれども、許してやる」か、どっちかです。忘れないけど許
 すということを、日本軍「慰安婦」の被害者は求めてきたと思うんです。
・ましてや「少女像をどかしてね」など、被害者側にも要求を突きつける。日韓合意と称
 して安倍政権がやったのはいったい何なんだと思いますか?
・あれは時間稼ぎ。韓国は大統領の任期が五年で、保守政権と左翼政権が一定の期間で入
 れ替わる。いまの朴槿恵の保守政権の次に左翼政権になったら、今回の合意はすべて反
 古となって歴史認識はやり直しになる。それを日本政府はもちろんわかっているんだけ
 ど、安倍政権としては朴槿恵政権の間にとりあえずのものを取らないといけない。その
 ための道具としての日韓合意で、賞味期限は次の大統領まで。
・国家というものは本質的に暴力性をもっていて、その暴力性は男権的なものと結びつい
 ていますから、国家が人権問題に共感している姿勢をとっているときは、ダブルスタン
 ダードなんですよ。   
・慰安婦の中には日本軍の男性を好きになった女性もいるし、結婚した女性もいるし、と
 てもいい将校がいて彼が来るのを楽しみにしていたという女性もいる。でもその将校が
 本当にいい将校だったかどうかはまったくわからなくて、その元日本軍「慰安婦」の女
 性が、彼はとてもいい将校だったと思わなければやってられなかったんだということで
 はないか。彼女たちの証言には、そういう物語の要素がとても多いと思う。
・ソビエト時代にソ連に行ったときに私が驚いたのは、社会主義体制であるにもかかわら
 ず、とにかく日常生活で女性の負担が多いことと、女が男を殴ること。そして、よく離
 婚する。ソ連の男女は、だいたい三回は離婚するのが普通でした。現在のロシアも大き
 な変化はありません。
・日本が植民地支配をはじめたときに、まず朝鮮半島に輸出したのが、神社と遊郭ですね。
 ヨーロッパ並みの近代国家を目指す過程で、前近代的な遊郭をそのまま国家戦略として
 利用し、運営していた。
・売春防止法にいちばん反対したのは警察なんですよね。秩序が乱れるという理由です。
 あと日本の男性の文化人たちが、これで日本の文化が壊れると大反対しています。 
・日本のセックスワークの運動やポルノの状況はまったく改善されず、90年代から何も
 問題が解決しないまま、女性の自己決定ということだけが謳われていたんです。その自
 己決定も、売るか売らないか、という意味においての自己決定。

性の売買を強いる国、ニッポン
・1970年代の朴正煕時代に、外貨を稼ぐための国策として女性たちが韓国政府によっ
 て在韓米軍の「慰安婦」として集められた。彼女たちは「愛国者」と呼ばれ、徹底的な
 性病管理のもと、多大な借金を背負わされて身動きできない状況で、働いていました。
 性病検査の結果をいつも持ち歩いていなくてはいけなくて、それを持たずに外出すると、
 収容施設に連行されて、強制的にペニシリンを大量投与されるんですね。なかには、ペ
 ニシリンショックでなくなった女性もいました。性病検査はもちろん、女性のためでは
 なく米軍人のため。
・米軍「慰安婦」と日本軍「慰安婦」とのつながり、日本人男性が大挙して訪れたキーセ
 ン観光、現代の韓国の性売買の現状について考えさせられました。改めて驚いたのは、
 韓国では、性売買の現場で使われている言葉って、ほとんど日本語なんですね。特殊観
 光とか、前金とか。「イアンフ」もそのまま使われていますものね。
・セックスワークという言葉が出てきたときは、衝撃だったんですよね。性売買に従事す
 る女性を犯罪者として取り締まるのではなく、労働として認めることで彼女たちの人権
 を守り、さらに女性だけに押し付けられる性のスティグマやダブルスタンダードを脱構
 築していけるという理論でした。しかし、「セックスワーク」という言葉を権力の持つ
 側が自己決定のひとつとして語ると、別の意味を持つと思います。
・セックスワーク論は、現場の女性たちの人権を守れ、という一点でその通りだと私も思
 うのですが、それがちょうど日本人に輸入された頃に援助交際が大きな社会問題となっ
 ていたことも重なって、売る売らないは私が決めるんだという「自己決定」の問題が前
 面に出てしまったと思います。   
・自己決定の問題ばかりが取りざたされることで置き去りにされているのは、男性の性欲
 の問題であったり、これほどシステム化され、合法化され、巨大化されている性売買シ
 ステムを維持する社会に対する批判の視点なんだと思います。
・国際人権NGOが2016年、各国に対して性売買の非犯罪化を勧告しました。「危害、
 搾取、強要などからセックスワーカーを守る対策をとる」「合意に基づくセックスワー
 クの非犯罪化」などの対策が打ち出されました。性売買従事者の人権を擁護する視点か
 らいえば、当然のことだと思いますが、日本の男性たちが「国際人権NGOも売春を合
 法化しろと言っているぞ!」と威張ったように言うのに辟易しています。
・オランダは2000年に性売買を合法化しています。女性の事故決定権と性的自由の文
 脈で、セックスワーク論の人たちからオランダが肯定的に語られることが多いのですが、
 オランダはアムステルダムは別として、大変な階級社会で保守的だと聞きました。マリ
 ファナも性売買も、合法ではあるが、そういう所に関わる人に対する眼差しはかなり侮
 蔑的なものがあるようです。 
・オランダの自由な売春地区とされている「飾り窓」には何度か行ったことがありますけ
 ど、自由な明るい感じとは、まったく受け止められなかったですね。閉ざされたゲット
 ーのようでした。そのときに「見えない世界」として隔離されているように感じました。
・形は違うけど、アダルトビデオや性風俗の世界も、ネットワークビジネスと構造が似て
 いると思ったんです。最終的にはカルト化して、もう自分の責任たと追い込まれ、いる
 場所も光景も変わらないまま、どんどん孤独になっていっちゃう感じ。「ネットワーク
 ビジネス」という視点は、性売買のシステムを説明しるのに的確ですね。もちろん、性
 売買に関わる人には、それぞれの段階で自己決定があり、自分の意志で努力をしていこ
 うともする。そうか、そういう自己決定を巧妙に利用することも含めて、システムとし
 ては人を食い物にするネットワークビジネスだ。
・「性」のことって、なんとなく反権力だったり、自由の象徴みたいに語る人がいるけど、
 日本の性売買は、どっぷり体制側。そういうシステムが当たり前のようにある社会で、
 男性たちもシステムの依存症になっているんじゃないでしょうか。これがなければ俺た
 ちの人生も仕事も社会も回らないんだと、性売買システムや、自分の性欲そのものに依
 存しているのでは。
・札幌に用事があって、夜のすすきのを歩いていたら、吸い込まれるように一人でホテル
 に入っていく女の人を何人も見るわけです。デルヘルですよね。空港の本屋によく立ち
 寄りますが、必ずと言っていいほど、エロ本とかポルノ小説が置いてある。あと地方の
 風俗ガイドがあることも。男の人にとって旅とセックスってセットになっているのかな、
 と思うほど気楽に買う。むしろ買わなきゃ損だくらいに思っているのかな。買う・買わ
 ないということがこれほど日常化されていたら、私なんかはそれは自分とは違う世界の
 話だとは到底思えないんですよ。
・ブルセラや援助交際なんかの現象が起きる前は、性の売買は主にヤクザの世界にありま
 したよね。管理売春や、ブルーフィルムの時代。暴力性と強く結びついている世界だと
 いうことが誰にでもわかるから、女性が入っていくにはそうとうハードルが高かったと
 思うんです。
・バブル期を経て、貨幣に換算できるものは何でもよくなったんでしょう。肩もみもセッ
 クスも、同じサービスという語られ方がなされるようになったってことですよね。身体
 を商品化していくことに、抵抗感がなくなっているし。
・団塊世代の人や、その世代に影響を受けた下の世代にとって、「性」というのは反権力
 の象徴だったり、自由の証なのだろうな、と思うんです。性を語るだけで逸脱できると
 いうような。性をどれだけ革新的に語るか、最先端で語るかということに言論人が血眼
 になっていたのが90年代かもしれない。だから性売買やポルノに対して批判する少数
 派フェミは、「道徳的で野暮」みたいに嘲笑されてきた。そのような語りの結果のツケ
 を今、若い女性たちが命がけで払わされてるように思うんです。
・キリスト教の人間は、「語らない」という形で肯定的に愛を受け止めてきた。だから、
 愛し合っている人間同士でどんなプレイをしても何をやってもいいが、それはふたりの
 間のことで、外に出す話ではないと。プロテスタンティズムの場合はもちろん避妊もオ
 ーケーだし、快楽としての性に関してはいくら追求してエンジョイしても構わない。そ
 こに禁止規定はない。 
・カトリックはすごく縛りが強いですよ。避妊を原則として認めないし、生殖と離れたと
 ころの性を禁欲的に認めない。これに対して、ロシア正教は生についてかなりオープン
 です。 
・キリスト教から出てくる新宗教の一部には、セックスによって人を清めるという考え方
 があります。それは逆に、精液のなかに現在が入っているという理解があるから。教祖
 の精液をとることによって清められると。ときどきセックスカルト教が出てくるのはそ
 ういうことなんですね。気持ち悪いおじさんと皆がセックスしている宗教が出てきます
 よね。
・いま、若い男の子は風俗に行かないとか性欲がないと言われているけど、実際に働いて
 いる女性に話を聞いたら、客には20代の男性が多いと言うんです。安いし、当たり前の
 ようにデルヘルを呼ぶことが身についていると。男の子が女の子を商品として見るシス
 テムが、罪悪感なく蔓延している。理由は特になく、男だから、とか、売っているから、
 とかその程度の理由でしょ。
・今の風俗やアダルトビデオは、いわゆる「慰安所」システムの進化形なんだね。風俗は  
 宿舎を保全する必要も、健康診断する必要もない。加齢していくことによって客をとれ
 なくなるけど、そういう人をどうするかという問題も考慮されない。アダルトビデオだ
 ったら、一回つくってしまえば、特にダウンロードシステムなら企業に経費もかからな
 い。でもそのシステムの中に入ったら、女性は完全に人間を潰されてしまうから、入口
 に近づかないようにするにはどうするかということですよ。
・男が見たいようにしか表現されていないから、女性にはアダルトビデオの実態がどうい
 うものか想像できない。そして、男の性欲は絶対肯定されていく。
・キリスト教も性欲は認めていますが、女性をいやらしい目で見るのは姦淫したのと同じ
 だという教えは、裏返すと「男は皆、いやらしい目で見ているから気をつけたほうがい
 いよ」と女性に教えているわけですよね。「男が姦淫するようないやらしい目で見てい
 るから、注意しなさい」と。  
・若い世代、特に高校生から大学に入りたてくらいでも、情報を収集する能力や理解力は
 大人とあまり変わらないいんですよね。ただし洞察力や判断力がないし、あるいは小学
 校から悪事に関する教育をしないから、世の中には悪があるということを知らない。
・アダルトビデオ会社は、必ず警察出身者を顧問につけるから、警察とも相談して大丈夫
 という話にしてしまう。名のあるアダルトビデオ女優たちも「ちゃんと契約交わしてい
 ますよ」と発言していて、そういう流れのなかで「被害を受けていると言っているのは
 一部の女の人たちの話で、むしろ被害者ビジネスです。被害を受けることによって彼女
 は有名になるでしょ」という発言もふつーに出てきてしまう。
・セックスワークを肯定する言説のひとつに、風俗の現場で実際に男性が何をしているか
 というと、射精しているわけじゃyないんですよ、というものがあります。性風俗は男
 が暴力的に性欲を発散させる場ではなく、女の人と話し合ったり、黙って抱き合ったり
 し、男という鎧を一時脱げる癒しの場でもあるのだと。同じ言説は、日本軍「慰安婦」
 が語られる際もよく出てきました。「慰安所」でも、兵士が明日死ぬかもしれないとい
 う日に「セックスではなく抱き合って、そういう優しい時間を過ごしたことがありまし
 た」という話が珍しくない。エロス的な優しい関係がそこにある、ということが兵士の
 視点で文学的に語られる。そりゃ、人間同士なんだから、そのような時間はあるでしょ
 う。そしてそういう時間があるからこそ、やっていけるんでしょう、という思いもある。
 でも、「慰安婦」でも、今の風俗でも文学的なエロティックな語りが、性売買の現場を
 ファンタジー化しちゃっていて、現実の厳しさを語る言葉の方をむしろ嘘だとして、個
 人的で主観的な感覚として取るに足らないことのように扱われているおかしさがあるん
 です。
・性売買はビジネスとして成立させられることが異常だと思っています。ペットショップ
 ビジネスと通じるものがあって、人権無視しないとできない。生殖に関係することであ
 り、個人を危険にさらすことであり、病気のリスクも高い。とてもじゃないけど、いく
 ら働きたいという人がいても経営者としてはやれない。
・働いている女性も後悔する瞬間があっても、続けていくうちに物語が再生産されていっ
 て「ここで頑張るんだ」となりますよね。そして周囲にバレちゃったら、「ここで頑張
 るしかないんだ。ここで一番になるんだ。頑張れば頑張るほど褒めてもらえるんだ」と
 なる。 

おわりに
・女の運動の歴史は、無視と嘲笑との闘いの歴史だ。それが性にまつわることであればあ
 るほど、その闘いは過酷だ。男たちは対等な議論の俎上に、女の声を乗せなかった。女
 が性について声をあげるのは、単純に公権力と闘うことではない。男たちが自然と考え
 ているもの、文化と信じているもの、歴史と考えているものを、女側から語りなおすこ
 と。そして、その語りを封じる手段は、男たちの嘲笑であり無視だった。
・韓国を訪れたとき、米軍「慰安婦」と呼ばれた女性たちの墓を参った。小さな丘の茂み
 のなかに、小さく盛られた土の山が、無数にあった。暴力、殺人、薬、自死、強制され
 る性病検査などで命を落とす女性は少なくなかった。死後、仲間の女性たちが棺をかつ
 ぎ、街を一周し、仲間が眠る山に連れていった。不思議なことに、米軍基地のゲート前
 を通るとき、棺がずしりと重く、動かなくなったという。元米軍「慰安婦」の女性から
 そのお話を聞いたとき、棺を持つ女たちの手の感触を、私は知ったように思った。いわ
 ずもがな、米軍「慰安婦」は、日本軍「慰安婦」のコピペである。男の性欲は国家制度
 にいtも簡単に呑まれ、女たちの身体は最大限に活用されていく。それは決して過去の
 物語ではなくて、今の日本につながる現実だ。