性風俗のいびつな現場  :坂爪真吾

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この本の筆者は日本の最高学府である東大卒である。東大卒のエリートが、なんでこんな
性風俗なんぞに関する本を執筆するのか。性風俗と言えば、一般社会では一番蔑まれてい
るものと言えるだろう。そんな性風俗について、筆者は大学生時代から関心を持ち、性風
俗の現場の実態を調べ歩いてきたという。そして書かれている内容も、デルヘル、ラブホ
テル、売春、本番、性器、性交、射精、などなど性風俗用語が満載だ。性風俗の現場を調
べ歩く?、なんとスケベイな東大卒だというのが私の最初の印象だった。
しかし、筆者の本を何冊かじっくりと読み込んでいくと、そこには筆者の一貫して思い入
れがあることに気づいた。それは、社会的弱者たちを、なんとか少しでも救済したいとい
う思いだ。
性風俗で働く女性たちの多くは、いろいろな事情を抱えて、性風俗界の中でなんとか生き
ている。だれしも最初から性風俗界の中にいたわけではないし、できるなら普通の一般社
会の中で、普通の人と同じような生き方をしたいのだ。しかし、いろいろな事情で、性風
俗界に落ち込み、そこから這い上がりたくても這い上がれない、性風俗界にしか居場所が
ない状況の中で生きている。
そうした女性たちは、本来ならば、行政が救いの手を差し伸べなければならないのだが、
行政はそこまで手がまわらない。見て見ぬふり、知らないふり、あるいは正論を振りかざ
して、そうなったのはそういう人たちの自己責任、あるいか社会の絶対悪と決めつけ、や
ることと言えば、できるだけ一般社会から見えないように蓋をすることぐらい、というの
が実態なのだろう。
筆者は、そんな性風俗界の実態にしっかりと目を向け、社会の絶対悪として、切り捨てる
のではなく、そういう裏社会で生きている人たちが、少しでも生きやすくできる方策はな
いのかと、真剣に考え続けている。こういう人が、少しでも増えていけば、理想的な解決
には至らないかもしれないが、現実的な救済の道が拓けていけるかもしれない。筆者のい
うように、理想を追って救済に向って一歩も前に出られないよりは、少しでも早く現実的
な救済を進めるべきだ。正論ばかり言う今の政治家や行政、そして正論で凝り固まった一
般の人たちには、まったく期待できない。筆者のような人間が、この社会において、ほん
とうに貴重な存在だ。これからのますますの活躍を期待したい。

はじめに
・現代は、言うならば「風俗が死んだ後の世界」である。店舗という「パンドラの箱」を
 開けてしまった結果、風俗は無店舗型という目に見えない。「亡霊」になり、繁華街の
 路地裏から浮遊・離散して、社会の見えない谷間や隙間に潜り込み、溶け込んでいった。
・それと同時に、店舗という箱の内側に封じ込めていた様々な「災厄」=性を売り買いす
 る当事者に降りかかるリスクやスティグマ、副作用や後遺症も、目に見えない形で一斉
 に解き放たれることになった。
 
地方都市における、ある障害者のデリヘル起業体験記
・デリヘルとは、男性客の依頼に応じて女性をホテルや自宅に派遣し、性器への挿入を伴
 わない性交類似行為(女性が全裸になって、手や口で男性を射精に導く行為」を提供す
 るサービスである。 
・デリヘル業界では特定の女性が同じエリア内にある複数の店を渡り歩いているケースが
 多く、こうした女性は業界用語で「転々虫」と呼ばれる。どの女性も入店してしばらく
 は「新人」ということで指名が増えるが、新人期間が終われば指名数は減る。新人期間
 中にリピーターとなる固定客を確保できなかった女性は、その後稼げる見込みはほとん
 どなくなってしまうので、他の店舗に移り、再び「新人」として売り出してもらう。
・デリヘルで働く女性の学歴は様々で、高校中退の女性もいれば地元の国立大学出身の女
 性もいた。「地元では働きたくない」という理由で市外から働きに来る女性もいた。デ
 リヘルを専門にしている人よりも他の仕事を持っている兼業の人が多く、比率は3対7
 程度。兼業の人は平日に休みが取れるサービス業が中心で、デルヘリで働きながら仕事
 を探し、職場が決まった段階で退職する人もいた。
・風俗の仕事が一般の人に目に見えにくいのは、兼業の人が圧倒的に多いからだ。週6回
 フルタイムで出勤する専業の女性よりも、普段は学生や会社員をしていて、週1回しか
 出勤しない女性の方が、「風俗慣れしていない素人」「レア出勤」として、男性客から
 人気が出る傾向がある。
・デリヘルで働く女性は、見た目は可愛いが、一人を好み、女友達はつくらず、遊ぶなら
 男、という風に、どこか異質な女性が多かった。
・デリヘルは、お金にこだわる人は長続きしない。そもそもデリヘルではそれほど稼げず、
 お小遣い程度にしかならないからだ。ソープ上がりの女性もデリヘルに来ることがある
 が、同じく続かない。水商売の女性はデリヘルを見下し、デリヘルはソープを、ソープ
 はデリヘルを見下す傾向がある。
・デリヘルでは男性からの依頼は、予約制ではなく原則として当日に電話で受ける形にし
 ている。メール予約は常連のみ。これは「男性の性欲は、お酒や出張の際に突然湧いて
 くるもの」であり、かつ男性客としては当日その場で直接連絡を取り合わないとキャン
 セルやすっぽかしを食らうリスクがあるためだ。ネット経由で完全予約制にすれば依頼
 の受付事務やコストは大幅に削減できるし、そもそも待機所も不要になる。事前に利用
 規約やサービスプランの説明と確認、派遣ルートや時間帯の調整なども行うこともでき
 るのでサービス中のトラブルや移動中の遅刻や事故も減らすことができる。しかし大半
 のデルヘルでは、女性を予め特定の場所に集合・待機させた上で、電話での当日受付・
 当日派遣を行うという非効率かつアナログ極まりない方法を取っている。
・デリヘルが完全予約制を取りたくても取れない背景には、男性の性的欲求が事前に「予
 約」できない突発的な代物であるという固定観念と、男性客に対する消えない疑念と不
 信があるからだ。店側としては、なるべく身元の確かな信頼できる客、きれいに遊んで
 くれる客に来てほしいが、無店舗サービスであるがゆえに、男性客の様子を事前に対面
 で確認することはできない。また風俗業界自体が社会的信頼の極めて乏しい業界である
 ため、男性側から身分証明書の提示を求めることが難しい。仮に入会時に身分証明書の
 提出を義務付ければ、多くの男性は個人情報の流出・悪用されるのを恐れて利用しなく
 なるだろう。だからといって男性側の身元確認を何も行わなければ、サービス現場で暴
 力や盗撮などのトラブルが起こるのは火を見るより明らかだ。
・こうした理由があるため、ほとんどのデリヘルでは、唯一の身元確認手段として男性客
 の電話番号確認を徹底し、非通知設定や公衆電話からの依頼、及びメールアドレスのみ
 での依頼は断っている。電話番号をそのまま会員番号にして、システムを組んで顧客管
 理している店もある。
・デリヘルが完全予約制を取らないもう一つの理由は、女性の身体的・精神的不良(生理
 や鬱)による遅刻や当日欠勤、無断欠勤が日常茶飯事のため、事前に出勤シフトを確定
 させることができないからだ。
・デリヘルの男性客の年齢は40代が一番多く、裕福な人が多い。高齢者や障害者の客も
 いる。学生は少ない。特殊な性癖を持った男性も稀におり、「コーナーさん」のあだ名
 を付けられた、なぜか部屋のオーナーでプレイをしたがる男性客もいる。
・デルヘルの派遣先はラブホテルが9割、自宅に呼ぶ人はほとんどいなかった。ビジネス
 ホテルはデリヘルが入れないところもあるので、客から依頼のあったホテルが入れるか
 どうかわからない場合、まず地元大手のデリヘルに客を装って電話して、当該ホテルの
 デリヘル利用の可否を確かめてからにしている。受付とエレベーターが離れていれば問
 題なく入れるところが多く、地元の有名ホテルもたいてい入ることができる。一方、低
 価格が売りのホテルチェーンは入れないところが多い。
・ビジネスとして考えると、無店舗型よりも店舗型の方が女性を送迎する手間とコストが
 かからないぶん、効率的に利益を出すことができる。女性の安全管理の面から見ても、
 初対面の客とホテルの密室で一対一にならざるを得ない無店舗型よりも、ドアの向こう
 に常時従業員がおり、トラブルが起こった時にすぐに駆けつけてくれる店舗型の方が圧
 倒的に安全だ。そのためデリヘルの利用が頭打ちになって経営が苦境に陥った際、より
 大きな利益を求めて違法な「偽装店店舗型」に手を出す店舗や大手チェーンは後は絶た
 ない。      
・デリヘルの8割以上は本番行為を行っているらしい。「手や口で射精させるより楽だか
 ら」という理由で追加料金なしでする女性もいる。本番が流行する理由は、売る上げを
 上げたい経営者のニーズや本番を求める男性客のニーズだけではく、時間と手間のかか
 るオーラルセックスや素股をせずに楽をして稼ぎたいという女性側のニーズもある。
・デリヘル経営にはドラマのような出来事や波乱万丈は無く、女性は今日も淡々と服を脱
 ぎ、男性客は今日も淡々と射精する。それほど不幸でもハイリスクでもないが、かとい
 って幸福でもノーリスクでもない弛緩した現実がそこにはある。
・地方都市では同じ女性が複数の店舗を渡り歩く傾向がある。人口規模の少ない地方都市
 では、地元に住んでいるデルヘリ勤務経験のある女性に一通り「渡り歩かれて」しまう
 と、その時点で新規の求人応募はほとんど来なくなってしまうのかもしれない。これは
 女性側に関しても言えることで、ある地方都市では、容姿端麗な女性がデリヘルで働き
 始めて、地元に住んでいる風俗ユーザーのほぼ全員に接客するというレベルの人気を誇
 ったものの、一人もリピーターがつかなかったため、その街での職業寿命がわずか半年
 で終わってしまったという例もある。また地元のデリヘル店で働き始めた女性が、人気
 が出すぎてしまい、街に出るたびにこれまで接客した男性客の誰かと出会うので、その
 街に住めなくなってしまったという例もある。人口の限られた地方都市でデリヘルを長
 期に続けることは、女性にとっても経営者にとっても実はかなり難しいことなのかもし
 れない。
・一般に風俗は「女性が男性に裸を売る世界」と考えられているが、これは間違いであり、
 正確には「男性(経営者)が、男性(客)に対して、女性の裸を売る世界」である。つ
 まり、売るのも買うのも男性だ。にもかかわらず、男性側にスポットライトが当たるこ
 とはほとんどない。多くの読者にとって、風俗で働く女性のインタビューやルポを読む
 ことはあっても、風俗に通う男性客やそこで働く男性のインタビューを読む機会はほと
 んどないだろう。           
・風俗の世界でも、生活保護に頼らなければ経営者の生活すら成り立たないことがあると
 いう事実、そして生活保護を受給しており障害福祉サービスの利用資格もある人が、そ
 れにもかかわらず生活のために風俗の世界に参入しなければならなかったという事実は、
 一体何を意味しているのだろうか。
 
妊婦・母乳専門店は「魔法の職場」
・出産後、しのまま母乳ママとして職場復帰する女性が多い。復帰のタイミングについて
 は、昔は「子どもが二カ月になったら」「首が座ったら」という女性が多かったが、今
 は復帰が早いという。夫の仕事が期間限定の派遣であったり、雨が降ったら中止になる
 ような不安定な現場仕事であるため、妻が産後すぐに働かなければならないケースが少
 なくない。
・出産によって受けた心身のダメージも完全に回復していない産後1~2カ月の女性が新
 生児を抱えながら、週に2、3回、わずか2~3時間程度の勤務(無料の託児所付)で、
 尽きに10万~30万円稼げる仕事は、こうした母乳風俗店以外に存在しないだろう。
・応募してくる女性には、シングルマザーをはじめ、若い時に「できちゃった結婚」をし
 た女性、彼氏と別れた後で妊娠が発覚し、貯金も無くて生活費に困ってしまった女性が
 多いという。厚生労働省の人口動態特殊統計によれば、10代で母親になる女性の8割、
 20代前半の6割が「でき婚」である。若年期での出産・育児は学業や就業の中断を伴
 うため、その後の女性のライフコースに不利に働き、貧困の再生産につながるという指
 摘がある。
・妊婦・母乳専門のようなマニアックな専門店は長く営業すると強い。同業者が少ないが
 ゆえに客離れしない。1~2年に1回程度しか使わない不定期の客も多いが、8年もや
 っていれば、そうした不定期の客だけでも全国に相当な人数がいる。
・女性たちは母乳を多く出すための工夫を日々しているという。お餅や煎餅、納豆や豆腐
 などの豆類が効果的で、レタスなどの葉菜よりも、じゃがいもやさつまいもなどの根菜
 が良い。白米も効果的だが、食べ過ぎると太るのが難点だそうだ。一方、母乳を吸われ
 過ぎると身体がより多くの母乳をつくるようになるので、搾乳しないとおっぱいがカン
 カンに張って乳腺炎になってしまう。そうなると仕事を休まなければいけないので、お
 風呂やマッサージで血行を良くするなどの予防をしている。
・男性客には、自衛隊員や警察官、レスキュー隊員や教師などの固い職業の人が多い。ほ
 とんどの男性には、皆一様に優しいという。上手な遊び方をする人はマイペースでガツ
 ガツしていない。 
・男性客は皆母乳を飲みたくて来店するのだから、抜く(=射精させる)のは、あくまで
 母乳を飲ませた後、添い寝をしながら母乳を吸わせる「添い乳」をすると、多くの男性
 は飲みながら勃起するという、そのまま抜かないで一時間飲み続けるだけの人もいれば、
 女性の身体に触らず自分でしごく人もいる。母乳を顔や身体にかけてほしいと希望する
 人もいるという。「母乳を飲みたくても妻に言えない」という子持ち既婚男性の客もい
 るという。
・妊婦目当ての男性客は、膨らんだお腹を触るだけ、写真を撮るだけの優しい人が多く、
 母体に乱暴なことをするような人はまずいないとのこと。妊婦の裸体特有に曲線美を愛
 でたい、という欲求を持つ人もいる。プレイは、男性客に膝枕をしてお腹を触らせなが
 ら、女性の手で射精に導く、という流れが多いそうだ。
・昔に比べると、今の男性客は女性そのものよりも、その女性が持っている身体的特徴
 (巨乳、パイパンなど)や社会的属性(女子高生、人妻など)といった記号のみを追い
 かけるようになっているという。     
・昔の風俗は、若い女性も人妻も、デブも細身も、みんな同じ店で働いていた。しかし今
 は店舗や業態が細分化して、デブ専門・貧乳専門、ブス専門などに分かれている。こう
 した細分化は、女性側としては働きやすくなるが、店舗側としては小規模にならざるを
 得ない。
・モグリ箱全盛期の頃は、稼いだお金をホストにつぎ込んでしまう女性が多かったが、今
 はそうした女性はいないそうだ。若い子は平気で無断欠勤するが、母親の女性は真面目
 できちんと連絡がつく。仕事に対する考え方が違う。女性は働き始めると一カ月で顔が
 変わるという。人相が悪くなるのではなく、笑顔が増えるそうだ。面接の時には生活苦
 で切羽詰った表情をしているが、お金に余裕ができて子どもと過ごす時間が増えると、
 心の余裕が生まれ微笑みも増えるという。お金に勝る精神安定剤はない。店で働く女性
 の夫婦仲は、意外にも円満だという。お金に余裕があれば、旦那の稼ぎが少なかったり、
 育児や家事に非協力的であっても、家の中ではイライラしなくて済む。
・世間の常識に照らし合わせれば、「妊娠中に夫以外の男性と性交類似行為をする」「自
 らの母乳を子ども以外の男性に与えてお金を稼ぐ」という振る舞いは非常識そのもので
 ある。しかし、新生児を抱えた産後1~2カ月の女性が、週2回、わずか2時間程度の
 勤務で月に10万~20万円稼げる仕事は今の社会には存在しない。こうした妊婦・母
 乳風俗店の存在によって救われる人や助かる生活があることは、まぎれもない事実だ。
 こうした店を否定したいのであれば、同じ条件の仕事を用意するか、未婚妊婦や若年シ
 ングルマザーへの現金給付や社会的支援を手厚くする必要があるが、いずれも短期的に
 は実現不可能だろう。
・夜の世界の経済は、昼の世界の人がたちが働こうとしない場所や時間帯に働くこと(働
 かせること)、売ろうとしないものを売ること(売らせること)、買おうとしないもの
 を買うこと(買わせること)で成り立っている側面がある。「それを売ってしまったら
 (売っていたことが知られたら)後の社会生活に悪影響が出る」「身体的・社会的に取
 り返しのつかないダメージを負うリスクがある」「将来の健康や社会的信用を目先の現
 金に換える」側面のある仕事であるからこそ、昼の世界では考えられない短時間・高時
 給でお金を稼ぐことができるのだ。
・妊婦・母乳風俗店は、産前産後という女性のライフコースにおいて最も働きにくく、稼
 ぎにくい期間を、最も働きやすい・稼げる期間に転換できる、魔法のような職場だ。普
 通の妊婦が夫以外の男性の前で裸になるからこそ、短時間で高収入を稼ぐことができる。
 普通の母親が売らない母乳を売るからこそ、17時前には夕食を取ることができる。金
 銭的・時間的に困窮している未婚妊婦やシングルマザーにとっては、「夜の世界のワーク
 ライフバランス」を実現してくれる仕事こそが、唯一の福音になり得る。
・妊婦・母乳風俗店で働ける女性は、実はごく一部の「エリート」のみである。まず大前
 提として、商品価値のある容姿が求められる。店のホームページを見ると、在籍女性は
 皆かなりの美人揃いだ。それに加えて遅刻や欠勤をしない真面目な姿勢も求められる。
・当然と言えば当然の話だが、誰でも風俗で働けるわけではない。本人の意志だけでなく
 年齢や容姿などの条件もあるため、働きたくても働けない女性も大勢存在する。つまり
 正確に言えば、妊婦・母乳風俗店は、「過去に風俗経験のある女性向けの好待遇の再就
 職先」にすぎない。かつて風俗の世界でそれなりのお金を稼ぐことのできた女性が、妊
 娠・出産で経済的に窮地に陥ったために「昔取った杵柄」を再び使わざるを得なくなっ
 たという認識が正しいだろう。
・そう考えると、真に問題化されるべきは、風俗で働く女性たちではなく、風俗で働けな
 い女性たち=面接の時点で不採用になる、あるいは面接すらたどり着けない女性たちで
 はないだろうか。   
・風俗の世界の問題点は、法律上の遵守事項(営業適正化のためのルール)と欠格事由
 (問題のある人の参入を防ぐための条件)がないことだ。クラブやキャバレー等の風俗
 営業は「許可制」であり、申請者や法人役員に欠格事由に該当する人(暴力行為の常習
 や薬物中毒、過去に違反歴がある人など)がいる場合は営業の許可が下りない。しかし
 デルヘル等の性風俗関連特殊営業は「届出制」であり、行政に届出を出せば誰でも営業
 を開始することができる。すなわち欠格事由がないため、暴力団関係者であっても、薬
 物中毒者であっても、過去に犯罪歴のある人でも、届出さえすれば風俗店の営業を開始
 できる。法律上の遵守事項もないため、衛生管理やモラルの欠けたサービスが横行して
 いる。  
・性風俗関連特殊営業に法律上の遵守事項と欠格事由が存在しない理由は、行政にとって
 風俗産業という存在自体が、「本質的にいかがわしいもの」「誰がどのように営んでも
 不健全になることをまぬがれないもの」と考えられているからだ。
・どれだけ美人であっても、男性客に一緒に時間を過ごしたいと思わせるようなサービス
 を提供できない限り、指名は取れない。裏を返せば、男性客側も「時間とサービスを買
 っている」という意識を持たない限り、風俗を健全に楽しむことはできない。しかし、
 恋愛やセックスで傷つくことを恐れる男子、無駄な労力や費用を費やしたくない男子は、
 どうしても表面的な尺度や数字の基づくコスパのみを判断基準にして女性を格付け・評
 価してしまいがちだ。
・一人の女性が相手をすることができる男性客の数は限られているので、女性に稼いでも
 らうためには単価を上げるしかない。今は年齢やルックスなど、女性が元々持っている
 素材の価値で価格が決まる側面が強いですが、それ以外の付加価値で価格を上げていく
 必要がある。もちろん、一部のデートクラブのように裏で女性に本番をさせることで価
 格を上げるというグレーな方法ではなく、風俗という枠内でサービスの質やブランド価
 格を高めることによってです。
・ただ残念ながら、多くの店ではそこまでは実現できていない。きちんとした講習や教育
 を行うことは、現在のデルヘルでは素人全盛ゆえに難しくなっている。昔は店にお客が
 ついてたのですが、今は女性個人にお客がついており、女性が他の店に移籍すると客も
 その店に移ってしまう。店の役割や教育能力が低下している。
・女性が風俗で働くことのハードルは年々下がっていますが、この世界に入ってきて何も
 得るものがないまま卒業していく、というのはもったいない。せめて、女性が少しでも
 成長できるよう、「女子力」を磨く場、働くことで何かを得られる「女性が進化する場」
 にしていきたい。そうすればお店にとってもお客にとってもメリットがある。
・業界の健全化を目指しながら客単価を上げていくためには、本番などの違法・過激なサ
 ービスに頼らず、正攻法で女性のサービスの質やブランド価値を高めていくしかない。
・風俗は一般社会とはつながりにくい存在だ。しかし、表社会とつながって、表社会の市
 場原理やユーザー目線を導入していく以外に、デフレ化で苦しんでいるこの業界が今後
 生き残っていくための道はないだろう。たとえそれに伴い副作用があったとしてもだ。
 
「風俗の墓場」激安店が成り立つカラクリ
・都心のデリヘル店は大半が自宅やネットカフェで女性を待機させているそうだ。場合に
 よっては送迎に使う車中で待機するケースもある。自店舗で待機所を設けることができ
 るのはごく一部の大手グループや資本力のある店舗に限られるという。なお、ネットガ
 フェの代金は、店持ち、折半、全額女性負担など店舗によって異なるそうだ。
・確かに待機所を設けずに繁華街のネットカフェで女性を待機させる形にすれば、家賃等
 のコストは大幅にカットできるだろう。女性がネットカフェから直接駅前やホテルに向
 かい、そこで男性客と待ち合わせる形式にすれば、デルヘル経営上のネックである派遣
 コスト(車代やガソリン代、ドライバーの人件費など)もかからない。
・しかし、これは諸刃の剣だ。女性が事務所に来なくなり、男性従業員と顔を合わせる機
 会も少なくなれば、女性の管理は事実上不可能になる。これは、男性客のクレーム対応
 や女性の教育、そして一番重要な女性の心身のケアやフォローアップといったマネジメ
 ントができなくなることを意味する。     
・風俗店に限らず、キャバクラなどの女性を扱うビジネスは経営者や店側が働く女性とし
 っかりコミュニケーションをとる必要がある。
・ビジネスを行う上で、サービスや商品の値下げは一番簡単な手だ。分かりやすく、イン
 パクトも強い。しかし最終的には必ず経営の首を絞めることになる。だからこそ経営者
 は、サービスや商品の価格を高めて価格を上げることを考えるべきである。経営者側が
 最低限の情報と正しい知識を得て、働く女性の価値を高めた上で、適正なサービスを適
 正な価格で提供する必要がある。それができない、やっていないから、男性客からクレ
 ームが発生したり、女性を使い捨てるような営業スタイルになる。サービスや商品の価
 値を高めるための営業努力、つまり経営者や女性が自分を高める努力をすることが、業
 界の健全化につながると思います。
・風俗店の経営者が開業前もしくは開業後に、経営に必要な法律やマネジメントのノウハ
 ウを学ぶための研修や講義の場はほとんど存在しない。警察も開業に際しては何も教え
 てくれない。知識や経験が全くのゼロであっても、届け出さえ出せば開業できてしまう。
 知らないうちに法律に抵触する行為をしてしまい、警察から指導を受けたときに初めて
 「そんな規則があったのか」と驚く経営者も少なくない。地方によっては、そもそも本
 番行為が違法だということすら知らずにデルヘルを営業している経営者もいるという。
・働く女性が指名数を増やしていくための知恵や工夫、テクニックの習得も、その多くは
 個人の自助努力に任されている。経営者や男性従業員のマネジメント力を高める場、女
 性の自分磨きや指名獲得スキルの向上を支援する場をつくっていくこと。一般企業と同
 レベルのマーケティングやマネジメントの技術を活用していくことが、風俗業界をビジ
 ネスとして健全化していくための重要な必要条件として今後求められていくだろう。
 ただ、それは必要条件であって十分条件ではない。風俗の世界において問題が複雑にな
 っているのは「一般企業に比べて、ビジネスの視点や知識が足りない」ことだけではな
 く、そもそも「風俗自体が純粋なビジネスではない」という点にある。法律上、性風俗
 関連特殊「営業」と定義されているため、一見すると性サービスを提供しているビジネ
 スに思えるが、話はそう単純ではない。ビジネス以外の異なる遺伝子が組み込まれてい
 ることが、問題を複雑にしている。
・待機所を設けずにネットカフェで待機させることは、女性のリスク管理の観点からは当
 然望ましくないが、それによってはじめて働くことが可能になる女性もいる。またネッ
 トカフェ待機の場合、男性客から受け取った売上のお金を女性が店側に渡す場がない。
 お金は、女性がプレイの後に事務所のポストに投函するという、どう考えても杜撰とし
 か思えない管理体制の店もあった。店によっては、スタッフから「後で回収しに来るか
 ら、財布に溜めこんでおいて」と言われることもあったそうだ。そうなると、金銭の管
 理がきない女性の場合、保管していた売上を個人的に使い込んでしまうトラブルが当然
 のようには発生する。そうなった場合、「店の落とし分がないじゃねーか。どうしてく
 れるんだ」と責めた立て、さらに長時間・長期間働かせる。つまり、意図的に女性に借
 金を背負わせ、抜け出せないようにするための罠として、ネットカフェ待機、及び売上
 の個人保管を機能しているわけだ。ここまで来ると、管理売春の域を超えて人身売買に
 近い。
・一部の店舗では生本番が常態化していた。ピル(経口避妊薬)を服用した上での生本番
 ならまだしも、激安風俗店でのピルなしでの生本番は、衛生的にも身体的にも自殺行為
 に近い。それでも生本番が常態化していた背景には、男性側だけでなく女性側の需要も
 あった。指名料が欲しい女性は生本番に手を染める。稼ぐ以前の問題で、生本番を売り
 にしないとそもそも働けないのだ。また手や口のサービスで男性客を満足させるだけの
 テクニックがない女性にとっては、はじめから生本番をさせてしまうことで、かえって
 短時間でプレイを追えることができるメリットがある。30分というサービス時間の短
 さも、生本番の蔓延に拍車をかける要因になっていた。身体面では、コンドームを着け
 て繰り返し本番行為をすると、女性器がゴムの摩擦で傷ついてしまうため、ローション
 を使用した生での挿入の方が身体に負担がかからない、という理由もある。
・生本番をやらせて妊娠した女性を、そのままさらに働かせる店もあった。中絶費用は個
 人負担だ。客観的に見れば、生本番をくり返し行わせた上に中絶費用も女性の自己負担
 という店舗は、法律的にも社会的にも完全にアウトだ。
・店によっては「店で友達をつくろうなんて思わないほうがいい」「風俗は友達をつくる
 場ではない」と注意し、女性間の交流を遮断しているところもあった。これは悪質な管
 理売春の常套手段だ。
・男性客がいないと、男性従業員から「朝まで路上でキャッチして、客を捕まえて来い」
 と命令する店もあるという。この命令には、言葉による精神的暴力や、蹴りなどの身体
 的暴力を伴う時もあったという。
・知的障害の女性が性労働の現場で働いているケースは、少数ながらも確実に存在する。
 そもそも、現在の知的障害者福祉・教育制度の原点自体が、知的障害の女性と売春の問
 題にあった。震災で親を失った知的障害の女児たちが人身売買によって売春をさせられ
 ている現状に衝撃を受け、そこから知的障害者教育・福祉制度の確立に尽力したという
 歴史的経緯がある。   
・風俗の世界では貧困に苦しんでいる男女に関しては、「風俗で働く・働かせるのではな
 く、福祉や行政につなぐべき」という主張がされがちだ。しかし、福祉や行政につなげ
 ばそれだけで彼や彼女が救われる、ということはありえない。せいぜい「つながらない
 よりはマシ」程度の変化しか起こらない場合もあるし、生活保護費や障害者基礎年金を
 お酒やギャンブルにつぎ込んでしまい、逆に状況を悪化させてしまう場合もある。
・管理売春は、一般的には「問答無用の絶対悪」とされているが、管理されてはじめて稼
 げる女性、容姿や年齢にハンディがありため過激なサービスに頼らざるを得ない女性、
 福祉や行政とつながれない、もしくは、つながっても生活の困難から抜け出せない女性
 にとっては、管理売春の場で働くことが唯一の「福音」になってしまう、というジレン
 マがある。
・軽度の知的障害者の救済施設として、婦人保護施設がある。婦人保護施設とは、売春防
 止法によって定められている、売春を行なうおそれのある要保護女子をす収容保護する
 ための施設である。都内のある婦人ほぼ施設では、利用者の約70%が、軽度の知的障
 害と精神疾病を併発しているという。
・軽度の知的障害者は、最軽度であるがゆえに、既存の障害者制度の枠組みの中では支援
 を受けることが難しい「谷間」に落ち込んでしまう。一見、誰とでも普通に会話を交わ
 し、それなりに働くこともできるため、そもそも障害者であること自体に気づかれない
 場合も多いが、実際は周囲の適切な支援が無ければ、社会生活を送ることができない。
 こうした女性を受け入れてくれる施設は、現状では婦人保護施設しかない。ただ、婦人
 保護施設は数が極めて少なく(全国に49のみ)、どこも定員割れで、その機能を十分
 に果たしているとは言い難い。
・風俗業界で働く女性、売春の世界で働く女性の総数は推計で数十万人に上るとされてい
 るが、婦人保護施設に入所しているのは、わずか500人強。しかもその半数は近くは
 DV被害者である。売春防止法で定められた「売春を行なうおそれのある女子の収容・
 保護施設」としても、管理売春まがいの激安風俗店で働く女性を捕捉し、支援・救済す
 る施設としても、残念ながら不十分だ。
・それでも、婦人保護施設に入所することができれば、悪質な風俗の世界との縁も切れる
 ので、問題は一応解決に向かうかのように思われるかもしれない。しかし話はそう簡単
 ではない。婦人保護施設を「刑務所」と呼んでいる利用者の女性も少なくないそうだ。
 施設に入ると、まず携帯を没収される。携帯が使用できる状況だと、出会い系サイトで
 知り合った男性や売掛けの回収を求めるホスト、スカウトマンから連絡が来て、再び向
 うの世界に引きずり込まれてしまうからだ。また携帯に届く「お金が儲かる」「芸能人
 に会える」といった詐欺メールを鵜呑みにして、お金を振り込んでしまうケースもある
 という。それでも携帯が無ければ、家族や友人を含め、誰とも連絡を取れなくなってし
 まう。それは依存傾向の強い女性にとっては死刑宣告に等しい。つまり施設に入所する
 ことで、これまでの生きるよりどころであった社会とのつながりを全て切断されてしま
 うわけだ。客観的に見ればまごうかたなき管理売春の世界であっても、彼女にとっては、
 子どもと生活するためのお金を稼げる大切な場所であり、愛する彼氏やお客などの他者
 や社会とつながることのできる場所だったのだ。
・激安風俗店の世界で行われていることは、どう考えても非合理である。しかし、非合理
 であるがゆえに、そこで救われる人がいる。ビジネスとして成り立つはずのない激安風
 俗店が今の社会で曲がりなりにも成り立ってしまうのは、こういうビジネス以外の側面、
 すなわち風俗の世界にかかわる当事者が抱えている差別や虐待、貧困や障害などの社会
 問題が複雑に絡み合い、それ自体が求人や集客、継続的な利用や在籍を成り立たせる屋
・歴史的に見ると、性産業の世界で働く女性の労働環境を改善しよう、差別や偏見をなく
 そう、という主張や活動は、明治期の遊廓の時代から平成のデリヘルの時代に至るまで
 連綿と存在する。実際に、そうした活動は一定の成果を上げてきた。しかし、不健全か
 つ非合理な部分が風俗の世界を支える屋台骨になっているがゆえに、建物を壊さずにそ
 れだけを抜き取ることができない。このカラクリが、風俗の世界の課題を解決すること
 =営業の健全化や労働環境の改善を考える上で立ちはだかる最大の障壁になる。
 
売春以上恋人未満の「会員制高級交際クラブ」
・会員制の高級交際クラブで出会ったカップル。二人の関係は、風俗で働く女性と男性客
 の関係でもなければ、売春における売り手と買い手の関係でもない。言うなれば、「売
 春以上、恋人未満」の個人間のセックス契約である。仕事の合間を縫ってお互いの都合
 の良い日時に食事やデートを行ない、その見返りとして、男性側が女性側に対して事前
 に契約で決められた対価を支払う。この関係は、一見すると単なる売買春に思えるかも
 しれない。しかし売春禁止法によれば、売春の定義は「対償を受け、又は受ける約束で
 不特定の相手方と性交すること」をいう。つまり、金銭や物品を介した性的関係であっ
 ても、「不特定多数」ではなく「特定少数(もしくは単数)」の相手と行なうのであれば、
 それは売春ではないのだ。経済的・精神的に自立した成人男女が、双方の合意に基づい
 て結んだ安全かつ対等な関係であるのならば反社会性もない。
・会員制の高級交際クラブは、こうした個人間契約を求める男女をマッチングしてくれる
 サービスである。登録にかかる費用は、多くの場合女性は無料、男性は数万~数十万と
 風俗に比べれば高額であるが、登録に際しては、男女共に面接や書面による審査、身分
 証明書の掲示が必要となるため、身元が確かな相手と一定の信頼関係の上で契約を結ぶ
 ことができる。
・既婚の男性は、不倫をして家庭を壊したくないとの考えがある。仕事の関係で、社内外
 に多くの女性と出会う機会がある男性で、女性に惚れっぽい性格の場合、浮気や不倫を
 してしまう恐れがある。それによって仕事や家庭に支障が出るのは避けたい。そこで、
 個人的に契約した女性と会う頻度やセックスの回数を決めて付き合うことで、他の女性
 に気が向かないようにしているという。
・一方、女性側は、仕事が本当に忙しくて、プライベートで恋愛している時間的・精神的
 余裕がない。留学費用も貯めることも必要。でも、男性との接点が全くない生活を続け
 るのも、女性としどうかなと思って、クラブに登録したという。
・風俗に通う男性客のニーズは「素人」と「本番」の二つに集約される。多くの男性客は、
 恋人気分を味わうために、なるべく素人に近い女性と挿入を伴う性行為をしたい、とい
 う欲求を多かれ少なかれ抱えながら風俗店に通うわけだ。だとすれば、はじめから交際
 クラブ等のサービスを活用して、素人の女性と個人間契約を結ぶべきだとも言える。
 ここでネックになるのは費用だ。個人間契約では、1回のセックスにつき、ホテル代・
 飲食代を含めて、数万円から十数万円単位のお金がかかる。しかし、これらは全て最低
 限必要なコストだという。
・女性の身体も本来であれば5万~10万円台で売らないと、心身の健康を維持するため
 の再生産コストや美容コストが賄えないはずです。わずか数千円~1万円台の利益では、
 美容院代にすらならないので、どう考えても「赤字」になってしまう。激安デリヘルな
 んて論外だ。つまり、女性の身体は5万円以下で売るべきではないし、買うべきでもな
 い。冗談半分ですが、法律で最低価格を5万円以上に定めれば、風俗の世界の問題は大
 半が解決すると思います。
・必要なコストを支払わない・支払いたくない男性に合わせて、店や女性の側も、健全な
 サービスの提供や安全確保のために最低限必要なコストまで削ってしまう。男性客がサ
 ービスを利用する上での必要コストをきちんと支払うようになれば、この世界の問題の
 大半は解決するかもしれない。しかし残念ながら、それはもはや実現不可能だ。デフレ
 化とデリヘリ化の進む中、電話1本ですぐに女性が自宅やホテルの部屋に「配達」され
 るシステム、わずか数千円から1万円台でその女性の全裸を鑑賞でき、場合によっては
 本番行為までできてしまうシステムが、良くも悪くも既に完成してしまっている。こう
 した世界の中で、1回のセックスにわざわざ数万~十数万円を支払って、女性と面倒な
 コミュニケーションを重ねる必要のある個人間契約を結ぶ男性は、仮にそれが真にコス
 トパフォーマンスの高い方法だとしても、あくまで少数派にとどまるだろう。
・文化としての風俗が死んだ世界では、男性が金額に囚われない「粋」な遊び方を学ぶ場
 はもはや存在しない。この不毛な世界で風俗を利用する男性は、目先の価格と記号に踊
 らされながら、ありもしない「素人」という幻影を追い続づけるしかないのかもしれな
 い。
  
「地雷専門店」という仮面
・大前提として風俗が売っているのはあくまでサービスであって、そこで働く女性に対す
 る差別や偏見、言葉の暴力を投げつける権利を売り買いする場ではない。年齢や容姿、
 性格の問題でサービスを売ることができなくなった女性が、最後に残された「女性とし
 て・人間としての尊厳」を売る=自身に対して「デブ・ブス・ババア」といった差別や
 偏見の言葉や眼差しを投げつける権利を客に対して売るのが「地雷専門店」の立ち位置
 だ。  
・もちろん、経営者や女性は「ネタでやっているんだよ」と言うだろうし、男性客も「話
 題のネタ、営業ノルマを達成できなかった社員の罰ゲームのネタとして使うんだよ」と
 言うだろう。だが、これは飲食炎で例えれば「賞味期限切れの食材を出す店」であって、
 店と客の間で合意があろうがなかろうが、社会的にも法律的にも完全にアウトだ。テレ
 ビでお笑い芸人をいじめるのとは、文脈が全く違う。
・地雷専門店は、そもそも売るべきでないものを、売るべきでない相手に撃っている時点
 で風俗店としては完全にアウトだが、一番の問題は地雷専門店そのものではなく、こう
 いった地雷専門店が生み出される社会的・法律的な土壌にある。
・現行法の枠内では、風俗のサービス内容に関して警察が取り締まることができるのは本
 番行為と未成年使用くらいである。衛生的・人道的にアウトなサービスを商品化してい
 る店舗、そして地雷専門店のように、どう考えても問題のある営業をしているような店
 舗に対しては、法律的には何も言えない。
・「社会的に排除された女性たちに雇用の場を創出している」というのは詭弁にすぎない。
 社会的に排除された女性の支援は行政や福祉の仕事であって、風俗がそれを肩代わりす
 る必要も義務もない。地雷専門店的な店舗が増えれば、風俗産業全体が誰にとっても良
 くない方向に向かうのは明白である。メディアや業界関係者は、将来的にどうなるか責
 任がとれないものを「面白いから」という理由だけで近視眼的にもてはやすことはやめ
 るべきだ。  
・食品スーパーの裏方の仕事など、衛生管理上メイクをしない仕事を続けていたために、
 そもそも化粧をする習慣自体が無い女性もいる。これまでの人生の中で、様々な理由で、
 メイクを覚える機会を含め、女性としてきれいになるタイミングや学習の機会を逃して
 しまったのだろう。30代後半を過ぎても男性経験がなく、処女のまま入店したという
 女性もいた。女性性を売る性風俗の世界で、メイクの仕方もセックスの仕方もわからな
 い女遺体では、働いてもまともに稼げるはずがない。
・売れている女性は自分に投資できる。そしてどんどん売れるようになる。売れない女性
 は自分に投資できない。そしてどんどん病んでいく。結局は、勝つべきして勝っている
 女性、元々救われている女性に指名が集中する。
・面接にやってくる女性は、「今までよく生きてきたな」と思わされるような困難を抱え
 ている女性が大半だそうだ。女性の面接の際には、抗うつ剤や精神安定剤など、現在服
 用している薬の有無や種類を必ず確認している。メンタル面に問題があることを事前に
 言ってもいてもらえば、体調不良で休む際も、その都度女性は嘘をつかなくて済む。
 店に嘘をつかなければいけない環境を作ってしまうと、その女性は辞めるしかなくなっ
 てしまう。 
・睡眠障害やうつ病、病的な低血圧や薬の副作用等で「朝起きられない」という女性は非
 常に多い。睡眠薬を含めると、働いている女性の全体の約6~7割が何らかの薬を服用
 している。店長や従業員が薬の名称や効用、副作用を知っておかないと、女性をうまく
 管理することができない。
・在籍女性には、歯のない人や肥満の人も多い。幼年期の家庭環境が悪く、怪我をしたり
 病気になったりしても病院に連れて行ってもらえなかったり、長期間偏った食生活を送
 っていたことが原因のようだ。そもそも親が病気や障害のことを認めてくれず、薬を飲
 むこと自体を否定されたケースもあるという。貧困と肥満は一見無縁に思えるが、低所
 得者層は安価で高カロリーなインスタント食品やジャンクフードを摂取する機会が増え
 るために、かえって肥満率が高くなる。肥満の女性たちは幼少期からずっと肥満で、そ
 れによるいじめや差別を受け続けてきたのだろう。
・あまりマナーの良くない客と、初対面からホテルの密室で1対1にならざるを得ない激
 安デリヘルの世界では、客からの本番要求は日常茶飯事だ。挨拶代わりに「やらせて」
 と言ってくる客も多い。中には、強い言葉で脅してくる客もいるという。安全対策とし
 て、サービス中に問題が発生した場合、女性はトイレに行くふりなどをして客から離れ
 て、すみやかに店に電話するよう指導している。電話もできない緊急事態の場合は、携
 帯を通話状態にして放置しておく。ホテルの部屋番号は分かっているので、それを合図
 にしてスタッフが部屋に乗り込んでいくことができる。ただ、実際に客と1対1になる
 現場では、遠慮や恐怖心のためになかなか電話できない女性もいるようだ。女性からの
 緊急電話を受けて、スタッフがホテルに出動する回数は、月に4、5回程度。強姦もし
 くは強姦未遂で警察沙汰になるのは、月に2、3回程度だという。
・一方、いくら女性を本番要求する客から守ろうとしても、女性側が自発的に本番をして
 しまったのでは意味がない。女性側が「本番をすれば指名が取れる」「稼げる」という
 誘惑に負けてしまう可能性もある。本番をせずに真面目に働いている女性が、男性客か
 ら「前の子は本番OKだったから、君もやらせてよ」と言われ続けてしまうと、女性の
 士気は下がるし、店の信用にも関わってくる。
・モチベーションのある女性はしっかりと働き、しっかりと稼ぐ。どれだけ店側が支援し
 ても、ダメな子はダメ。「目標を持って働きたい」「いつまでにこれだけ稼ぎたい」と
 いう女性はほとんどいないという。先行投資という考えを理解できず、短期的な視野で
 しか物事を考えられないため、3カ月スパンの話をしてもそもそも通じない女性が多い。
 逆に売れている女性を妬んで攻撃するようになる。「自分が売れない原因を外部のせい
 にするな」と繰り返し伝えても、それを理解できる女性は少ない。かといって、この仕
 事を辞めることもできない。時間もお金も管理できず、遅刻や無断欠勤を常態化してい
 る女性が、それでもクビにならずに働くことのできる仕事はこうした激安デリヘル以外
 にない。
・生活に困っているから、借金や障害があるからといって、どの女性にも平等にお客様を
 つけるわけにはいかない。頑張っている女性が我慢を強いられて、頑張っていない女性
 が稼ぐのはフェアではない。そもそも風俗の世界では、女性は従業員でも公務員でもな
 く個人事業主なので、皆が同じ報酬というのはあり得ない。
・一般に女性とスタッフとの恋愛は長続きするが、女性と男性客との恋愛の場合、すぐに
 別れて店に戻ってくることが多い。女性を支配・束縛したがる男性、そもそも自分の収
 入が少ないため女性に養ってもらおうというあくどい魂胆のある男性もいる。都合の良
 いセフレ作りを目的とした男性も混じっているはずだ。
・結局、自助努力の困難な女性が、自助努力をしないで稼げる仕組み、救われる仕組みを
 作るのは無理なのではないか。自助努力のできない女性は男性客との恋愛というハイリ
 スクなギャンブルに賭けるしかない。しかし指名が取れなければ、それずらも難しい。
 病気や障害、生育環境や経済上の問題で頑張れない=自助努力ができないゆえに地雷専
 門店にたどり着いた女性に求められるものは、結局自助努力しかないという残酷な現実
 がある。   
・「デブ・ブス・ババア」を売りにする地雷専門店は、その表面だけを見ると、極めて差
 別的・反社会的なビジネスに見える。しかしその実態は、限りなくソーシャルワークに
 近い風俗、もしくは限りなく風俗に近いソーシャルワークだった。つまり、問題を抱え
 た女性のニーズを、社会福祉制度上のフォーマルな手段で解決しようとするとソーシャ
 ルワークになり、セミフォーマル、あるいはインフォーマルな手段で解決しようとする
 と地雷専門店になる、というわけだ。
・容姿や年齢の面でハンディを抱えた女性が風俗の世界で稼ぐためには、男性性の持つ汚
 い部分=女性差別やミソジニー(女性嫌悪)、支配欲求や自己承認欲求、性感染症に対
 する無知・無理解などを逆手にとって利用するしかない。ゆえに、女性を本当に稼がせ
 ようと考えるのであれば、地雷専門店という一見差別的・反社会的な形を取らざるを得
 なくなる。親身になって女性の立場に立てば立つほど、彼女たちの複雑なニーズに応え
 れば応えるほど、女性個人を貶める形、女性個人をリスクの矢面にさらす形と取らざる
 を得なくなる。    
・複雑な社会の中で発生する複雑な問題に対しては、処方箋も複雑にならざるを得ない。
 しかし複雑になればなるほど、建前と本音を使い分けなければ分けるほど、社会的には
 理解されなくなり、誤解やバッシング、場合によっては警察の摘発を受けるリスクが増
 す。  
・風俗の世界で起こっている問題は決して特殊な問題ではなく、私たちの社会に溢れてい
 る凡庸な、だが解決困難な問題の反映にすぎない。そう考えると、風俗の世界で起こっ
 ている問題は、風俗の世界だけでは解決できない。    
・店舗型風俗の衰退と、それに伴う無店舗型化の進展によって、風俗はますます見えにく
 くなった。リスクを分散・回避したビルオーナーや経営者にとっては好都合かもしれな
 いが、過度の不可視化は、この世界で働く当事者のリスクも不可視化させてしまう。
・平成10年の風営法改正でデリヘルを認めたのは大失敗だと思っている。働く女性の環
 境も悪化した。無店舗型といっても、結局レンタルルームを丸ごと借りて営業している
 ようなところもある。だったら店舗型を認めてあげればいい。でもそれをやるには、法
 律を変える必要がある。働く女性の安全を考えると店舗型が一番だ。現行法では既存店
 舗の改築すらできない。
・テレビや新聞の報道では歌舞伎町のぼったくり事件だけが取り上げられるが、実は歌舞
 伎町と同じぐらいの数の事件が、新橋や池袋、赤羽や六本木といった都内の他の繁華街
 でも起こっているという。しかし、それらの繁華街で起こった事件はニュースにならな
 い。ニュースバリューがまったく違いからだ。
    
熟女の・熟女による・熟女のためのお店とは?
・熟女専門店も何らかの生活上の困難を抱えた中高年女性が集まってくる世界だ。当然な
 がら、肉体的な若さと美貌が売りになる風俗の世界では、中高年女性は圧倒的に不利に
 な存在である。しかし、そうした女性たちを「活用」して、女性たちの生活と安全も意
 識しながらきちんと利益を出している風俗店も存在する。
・女性は50代になると更年期の症状が出て、閉経も近づく。ほうれい線も出てきて、お
 っぱいも垂れて、妊娠線もある。女の灯がカウントダウンで消えてゆく最中に、女を求
 める。こんなことをするなんてはしたない。恥ずかしい・・と思っている普通の人妻が、
 ベッドでは獣になる。このシチュエーションが一番刺激的なので、男性はハマるんです。
・応募女性の傾向は3パターンある。
 一つ目は、若い頃からこの業界にいる経験者の女性
 二つ目は、途中から業界に入り、パートナーができた後も働き続けている女性
 三つ目は、全く業界未経験者。夫と別れてしまった、あるいは別れる準備をするため、
      離婚資金を稼ぐために入ってくる女性
 三つ目の女性が一番売れるそうだ。
・当初は50~60代の女性からの応募が多かったが、この2~3年、応募女性の半数以
 上は40代だという、既婚者は少なく、ほとんどが独身の一人暮らし。女性の応募のル
 ートはホームページや求人サイト。一方、全くの未経験の女性は紙媒体の求人誌からの
 応募が多い。他の店で待機場にいつ時にスマホで求人を見たという女性よりは、街で配
 っているティッシュや無料の求人情報誌を見て応募したという女性の方が未経験率が高
 い=売れることが多い。
・応募女性の8割以上は業界経験者で、未経験者は1割以下。人妻店の女性が稼げなくな
 って熟女店に流入してくることが多い。そうした女性は、なぜ自分が稼げないかが分か
 っておらず、自己分析や自己改善ができないことが多いそうだ。また精神安定剤や睡眠
 薬などの薬を服用している女性は、見てわかる範囲では全体の3割。半数以上の女性は
 メンタル面に何らかの問題を抱えている。
・彼女たちは今までの人生でたくさん失敗してきているので、自分のダメさ加減は本人が
 一番良くわかっている。でもそれを言いたくないし、見せたくない。この業界の女性は、
 男性スタッフを「私たちがいるから食えているくせに」と見下していますから。でも、
 その強がりの裏にはダメな自分、逃げている自分がいる。
・熟女店のヘビーユーザーは40~50代の男性。仕事と家庭はあるが年収は400万円
 前後で遊ぶ金はない。それでもどこかで自分をさらけ出したい・・と望む中年男性に場
 所と機会を提供するのが熟女天の使命だ。
・特に関東圏は18歳で地方から上京してそのまま就職した男性が多いので、人生の半分
 以上の時間、母親と接していない。下手をしたら年に一度も実家に帰らない。そうした
 男性に、ふっと母親を思い出してほしいそうだ。
・熟女好きの男性には、きれいな女性よりも大柄な女性が好きな人がいる。子どもの時は
 母が大きく見える。胸がお尻の大きい大柄な女性に抱かれることで、縮尺的にも子ども
 に戻れるのだという。
・生活保護を受給しながら働いている女性もたくさんいる。自宅にケースワーカーが来る
 日は仕事を休むそうだ。今の生活状態に慣れてしまったので、生活保護から抜け出した
 いと考えている人も少ないという。
・60代以上の指名はマニアが中心になってくるという。在籍女性の最高年齢は70歳だ
 が、その女性は使命がほとんどなく、仕事は3日に1度あるかないかだそうだ。つまり、
 実際に熟女が稼げるのは50代の短い期間だけということになる。
・どれだけ誠実に営業しても、採算度外視で女性の生活支援を行なっても、「風俗店だか
 ら」というそれだけの理由で、女性からも男性客からも、そして社会からも完全には信
 頼が得られない。「女性に対する搾取だ」「貧困ビジネスだ」とレッテルを貼られて、一
 方的に叩かれてしまう。ここが風俗店のアキレス腱だ。
・風俗はどう考えても今の社会に必要なんですよ。空いた時間に来られる。シフトも自分
 で決められる。お金も厳禁当日払いでもらえる。そんな職場はほぼないですよ。仮に風
 俗が日本から消えたとしても、死ぬほど困る男はいない。でも生活に困窮している女性
 にとっては死活問題です。
・熟女の世界にきれいごとは通用しない。様々な事情を抱えてこの業界に足を踏み入れた
 中高年女性の大半は、更年期や親との死別、心身の老いや孤独と戦いながら、この世界
 で働き続けるしかないのだ。
・生活困窮者のセーフティネットになっている事実、そして働く当事者の権利擁護の必要
 性をいくら訴えてたとしても、「女性が裸になって男性の性器を口でくわえる仕事」で
 ある風俗の社会的意義を表社会に認めさせることは不可能に近い。
・答えはただ一つしかない。福祉との連携だ。多面体の風俗の世界で起こっている目の眩
 むような複雑な現象を、メディア上でセンセーショナルに「単純化」「商品化」して消
 費することに終始するのではなく、福祉というフィルターを介して、個々の現象を丁寧
 に分析した上で「社会問題化」することができれば、そこから司法や医療といった表社
 会の人材や制度、スキルやノウハウを風俗の世界に招き入れることができるはずだ。風
 俗の世界で起こっていることが「他人事」ではなく「自分事」である、という理解が社
 会的に広まれば、それが課題解決のための突破口になり得る。
・女性が風俗の世界に入ってくる「入口」の理由は無数にあります。しかし、「出口」の
 理由、すなわち辞める際にぶつかる問題の種類は、びっくりするくらい少ない。以下の
 三つに集約されます。
 一つ目は、履歴書に職歴が書けなくなるという履歴書の空白問題。
 二つ目は、年末年始に実家に帰った時、家族や友人に何の仕事をしているのか説明でき
      ないというアリバイ問題。
 三つ目は、店を辞めたと後のホームページに掲載されている写真の取扱いに関する問題。
 
ドキュメント 待機部屋での生活相談
・私は、風俗の世界に今、一番必要なのは、道徳教育に基づいた是非論や否定論、あるい
 はフェミニズムや社会学の理論に基づく分析や批評ではなく、ソーシャルワークとの連
 携ではないだろうか、という思いを新たにした。
・風俗と福祉は対立するものとして語られがちである。各種メディアの貧困報道において
 も「福祉行政は風俗産業に敗北した」という言葉がもっともらしく流布されている。年
 長世代のソーシャルワーカーの中には、風俗産業を「女性の搾取を前提に成り立ってい
 る巨大な社会的装置」として、親の仇の如く敵視する人もいる。しかし、激安風俗店と
 ソーシャルワークとの相性は決して悪くないはずだ。応募者全採用の店であれば、求人
 広告を見てアクセスしてきた全ての女性を漏れなく捕捉することができる。これまでの
 行政の窓口や生活困窮者支援制度、そして通常の風俗店では決して捕捉できなかった女
 性を100%捕捉し、何らかのアプローチを行なうことができるわけだ。そもそも歴史
 的に見れば、ソーシャルワークの出発点自体が、既存の制度では救済できない「見えづ
 らい弱者」「分かりづらい弱者」を支援することを目的に作られた領域だったはずだ。
・複合化された困難を抱える女性は、「司法につなぐだけ」「福祉につなぐだけ」「風俗
 で働くだけ」では問題が解決しないことがほとんどだ。しかし、司法・福祉・風俗の三
 者が連携すれば、複雑に絡み合った問題の糸を解きほぐし、光明を見出すことができる
 かもしれない。
・管理売春組織やJKビジネスに対しては、それらの実態がどういうものであれ、現実的
 には「絶対悪のレッテルを貼って叩く」という硬直的なアプローチしかできない。しか
 し、風俗は少なくとも違法な存在ではない。性産業の中でソーシャルワークと連携でき
 るほぼ唯一の領域だ。風俗は社会福祉の「敵」ではなく、同じ戦場で闘っている「味方」
 なのだ。残念ながら、他者を非難したり、裁いたりする態度をとらないことを重んじる
 ソーシャルワークの世界ですら、風俗は「絶対悪」もしくは「敵」と一方的に非難され、
 裁かれ、無視され続けてきた。
・今必要なのは、正しい戦場で正しい敵と戦うことだ。つまり、風俗にレッテルを貼って
 叩くことではなく、ソーシャルワークとの連携を通じて、風俗を「社会問題としての貧
 困と闘うための、最前線の防衛拠点にして情報発信・収集基地」として活用していくこ
 と。それ以外に、風俗の世界の課題を解決する方法、そして拡大する一途貧困を迎え撃
 つ方法はない。  
 
つながる風俗
・この30年間で得られた教訓としての事実は、次の三つである。
 一つ目は、「いくら否認しても、風俗は無くならない」ということだ。これまでも、そ
      してこれからも、風俗の存在自体を認めない「風俗否定論者」はいなくなら
      ないだろう。しかし、だからといって風俗の存在がこの社会から消えること
      はない。
 二つ目は、「風俗を不可視化して黙認するのは危険」ということだ。社会の影絵のよう
      な存在である風俗の世界は、否認も撲滅もできない。そのため警察をはじめ
      とする行政は「表社会から物理的に隔離し、不可視化した上で黙認する」と
      いう姿勢を取ってきた。しかし風俗を不可視化した上で黙認するということ
      は、風俗の内側で起こっている多数の問題も不可視化された上で黙認されて
      しまうということに他ならない。事実、風俗の現場で盗撮や性暴力、ストー
      カーなどのトラブルが起こっても、警察が動いてくれないケースは少なくな
      い。コンドームを使用しない生サービスがこれだけ現場で常態化しており、
      数十万人規模の男女がHIVやB型肝炎等の危険な性感染症リスクに晒され
      てもなお、保健所は全く動かない。その意味では、風俗の存在が社会的に有
      害なのではなく、風俗の隔離・不可視化・黙認という行政の市井こそが、社
      会的に有害なのだ。
 三つ目は、「だからといって、風俗の存在を社会的・法律的に公認することはできない」
      ということだ。娯楽目的の性交類似行為をサービスとして提供する性風俗関
      連特殊営業は、法律上、どこまで行っても「青少年の健全な育成を妨げる恐
      れのある、社会通念上認められない存在」であり、保護や推奨ではなく規制
      や監視の対象でしかない。
・風俗の世界からブラックな部分を全て取り除く(健全化する)ことはできないが、かと
 いって浄化作戦で全てをホワイト一色に塗り替える(撲滅する)こともできない。だと
 すれば、目指すべきゴールは、この世界に足を踏み入れた男女が、過度のリスクや不要
 なスティグマを追わずに、入退場の自由を確保しながらそれぞれのニーズをそれなりに
 満たせるという、ミドルリスク・ミドルリターンの「居心地の良いグレーの世界」に保
 っていくことではないだろうか。
・風俗を黙認ではなく「容認」=否定や禁止、排除や黙殺をせずにいったん受け入れた上
 で、福祉や社会とつながる方法を手探りで模索していくしかない。必要なのは、健全化
 でも浄化でもない「社会化」だ。それ以外に、風俗に関わる当事者の不幸を減らすこと
 のできる選択肢、そして私たちの社会がとるべき選択肢はない。
・風俗の世界には、私たちの社会が抱えている問題が最も先鋭化された形でリアルタイム
 に反映される。妊婦やシングルマザー、障害者や中高年女性など、社会的に弱い立場に
 ある女性たちが集まる業種になればなるほど、そうした問題がもたらす不幸や悲劇は、
 彼女たちの無防備な裸体と人生に荒々しく焼き付けられる。
・風俗の世界の課題を解決するためには、夜の世界に生きる当事者たちの言葉やニーズを
 昼の世界の非当事者たちに伝わる形に翻訳して発信するスキルだけでなく、昼の世界の
 社会福祉制度、支援のスキルやノウハウを、夜の世界の当事者たちに伝わる形に加工し
 て届けるスキルを併せ持った、「夜の世界のソーシャルワーカー」が必要になる。
・警察白書によれば、2013年時点での国内の性風俗関連特殊営業の届け出数は、デリ
 ヘルだけでも約1万900件。風俗の世界で働く女性の総数は数十万人とも言われてい
 るが、そうした現状に対して「夜の世界のソーシャルワーカー」の数は圧倒的に不足し
 ている。           
・風俗だけでは生活困窮者のセーフティネットにはなり得ない。しかし生活保護をはじめ
 とした社会保障制度の現状を見れば、国や自治体による公助だけをセーフティネットと
 して頼ることにも限界があることがわかる。
・日本の母子世帯は8割が就労しているが、貧困率は5割を超えている。働けないことが
 問題なのではなく、働いても貧困から抜け出せないことが問題なのだ。にもかかわらず、
 現状の生活困窮者自立支援制度では、現金給付ではなく経済的・社会的な自立に向けた
 相談支援の提供がメインになっている。ダブルワーク、トリプルワークで子どもと過ご
 す時間を削って働いてもなお貧困から抜け出せないシングルマザーへの支援の中身が
 「さらなる就労支援」というのは、たちの悪いブラックジョークにしか思えない。こう
 した状況下で、現金日払いの風俗店が、少なくない母子世帯に「現金給付」を行う役割
 を果たしているという現実がある。
・夜の世界には「魔の一カ月」という言葉がある。日払い制のキャバクラや風俗で働いて
 いた女性が、足を洗って月給制の昼職に変わる際には、最低一カ月間を無給の状態で生
 き延びなければならない。貯金が無かったり、浪費の習慣が抜けていないために、いつ
 までたってもこの「魔の一カ月」を突破できず、結局夜の世界に戻ってくる女性も少な
 くない。           
・昼の世界の包摂を担う福祉、そして夜の世界の包摂を担う風俗は、敵同士ではない。同
 じインクルージョンという名の母から生まれ、エクスクルージョン(社会的排除)とい
 う名の共通の敵と闘っている、一卵性双生児なのだ。
・風俗には、社会とつながる勇気を。福祉には、風俗と共闘する勇気を。

あとがき
・心身の障害や病気、育児や介護などの事情で限られた時間しか働けない女性を採用して
 くれるところは、ほぼ最低賃金の職場しかない。そこでどれだけ長時間頑張って働いて
 も月収10~11万円程度にしかならないので、一向に生活は楽にならない。
・生活に困窮している人は、低所得だけではなく、精神疾患や知的・発達障害、難病や虐
 待、性的マイノリティ、家族の病気や介護など、様々な困難が複合化しているため、支
 援が難しい。しかし行政の窓口は縦割りなので、生活困窮者の抱えている複合化した困
 難に対して、個別にアプローチすることができない。その結果、支援を受けることがで
 きず制度の隙間に落ち込んでしまい、ただでさえ見えにくい貧困がますます見えにくく
 なる悪循環に陥ってしまう。こうした見えづらさより、貧困は次世帯に連鎖していく。
・貧困家庭の若者たちは結婚や出産が早く、早ければ高校在学中に妊娠・出産を経験する。
 そこから産まれた子どもはまた貧困になり、次世代への貧困の連鎖が始まってしまう。
 そう考えると、高校は貧困の連鎖を防ぐための「最後の砦」だ。高校の段階でいかに中
 退を防ぎ、地域で必要な支援につながるためにプラットフォームを作れるか、が重要に
 なる。    
・いかに貧困が「貧困」の一言で済ますことができない、複雑で複合化されたものである
 か実感しました。その上で、特に女性において、貧困と性風俗が切り離せないものであ
 るということを思いました。
・風俗と福祉の連携を目指す試みは、まだ端緒についたばかりだ。課題も山積している。
 ただ、福祉との連携によって得られるメリットは、この世界で働く当事者の福利厚生や
 権利擁護だけにはとどまらないはずだ。これまで風俗は、外部の非当事者によって一方
 的に語られ、女性に対する搾取や差別と決めつけられ、悪の象徴として裁かれる無言の
 「客体」であり続けてきた。しかし、福祉との連携を通じて、時間はかなるかもしれな
 いが、自らの言葉で「正義」=社会的存在意義を主張する「主体」へと少しずつ進化し
 ていくことができるのではないだろうか。