「男」 :柳美里


この本は柳美里の男性観・男性経験を記した自伝の書である。
自分を愛し、自分を壊し、去っていった男たちの「からだ」を思い出し、
「彼とセックスすると、自分が浄められ、生まれたばかりの瞬間に戻っていく
ような気がした」と言っている。

・目   目は男が放った怨念の矢であるかのようにときどき私を金縛りにする。
・尻   頽廃と軽薄は美しい肉体に宿る。
・唇   キスをすればするほど不安に襲われるのはなぜだろう?
・腕   腕は男のからだのなかでも、もっとも幸福なイメージが湧く場所だ。
・指   彼らの指は十歳以前の私の性器に触れたことを思えているのだろうか。
・頬   姉は猫のような仕草で伸びをしてパパの頬に頬ずりする。
・ペニス  朝いっしょにお風呂に入って、からだを隅々まで洗ってやった男がいる。
・乳首  彼とセックスすると、自分が浄よめられ、生まれたばかりの瞬間に戻って
     いくような気がする。
・脚   私は一度だけ本気で子どもを生みたいと思ったことがある。
・手   やがて、彼の手は私の手を求めて動こうとしなくなった。