女子高生の裏社会  :仁藤夢乃
            (「関係性の貧困」に生きる少女たち)

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最近、高齢者が「オレオレ詐欺」等により被害にあうニュースが多いが、詐欺にあうのは
高齢者ばかりではない。女子高生たちは別の方面で詐欺にあっている。相手は詐欺のプロ
だ。大人である高齢者が騙されるほどだから、まだ子どもである女子高生など騙すのは簡
単のようだ。手口が巧妙なために、自分が騙されていることを気づかないことも多いよう
だ。
これらの問題の背景あるのが「関係性の貧困」にあるような気がする。今の社会は「無縁
社会」となってしまった。地縁も血縁も社縁も機能しなくなってしまった現代社会の中で、
困ったときに相談できる人なく、自分だけの乏しい情報だけで物事に対処しなくてはなら
なくなった。他方、社会はいっそう複雑化し、詐欺の手口も巧妙化してきており、孤立化
した個人ではとても太刀打ちできない状況となってきている。騙される人がバカなのだと
簡単には片付けられない世の中になったのだということを、一人ひとりが再認識する必要
があるのようだ。

はじめに
・子ども6人に1人が貧困状態にある今の日本社会で、高校中退者数は年間約5万50千
 人、不登校者は中学校で年間約9万5千人、高校で年間約5万5千人。未成年の自殺者
 数は年間500人以上、10代の人工中絶件数は1日55件以上(年間2万件以上)、
 虐待、ネグレクト、いじめ、家族関係、友人関係、性被害、さまざまな状況が重なって、
 居場所や社会的なつながりがない高校生たちが、日々、生まれている。とりわけ、性搾
 取や違法労働に現場には、「衣食住」と「関係性」を失った少女が多く存在し、「貧困」
 状態から抜け出せなくなっている。
・今、家族や学校に何らかの問題を抱えているわけでなく、両親との仲も学校での成績も
 よく、将来の夢もあって進学を控えているような「普通」の女子高生が、「JKリフレ」
 (女子高生による個室でのマッサージ)や「JKお散歩」(女子高生と客とのデート)
 の現場に入り込んできている。
・これからますます、子どもたちの 取り巻く危険が大人の目に触れにくい時代がやって
 くるだろう。子どもを守り、社会の一員として育てていくことは私たち大人の責任だ。

レナ・17歳:「JKお散歩の日常」
・「2年前の春から半年ほどお散歩メイドを秋葉原でやっていました。観光客が多かった
 覚えがあります。そのせいか、私はお散歩を「観光案内」だと正当化していました。
 秋頃、お散歩をやめました。その数ヶ月後、私は援助交際をしました。お散歩をやって
 いたために価値観が狂っていたので、そういう世界に入ることは普通の高校生よりも簡
 単でした。」
・「援助交際をするうちに、生活、心、体、金銭感覚、学校、両親との関係、すべてが乱
 れていきました。やがて、たくさんの男性と体を重ねてきた自分に存在価値などない、
 汚い!そう思うようになりました。その想いは、いつまでたっても消えません。」
・「興味本位で始めたお散歩からこんな結果になるとは思いもしませんでした。今現在も
 やめられたわけではありません。なぜ援助交際をしているのか、それすらわかりません。
 お金の誘惑が、それとも寂しいのか。行為が終わった後の自分は抜け殻になったような
 気持ちになります。そして、いつも心がすり減ります。そんなことをして、良いことな
 んてなに一つないのに。死にたい、誰か助けてほしい。これが、私の心の奥底にある想
 いです。」   
・大勢の女子高生が、街で男性を待っている。仕事帰りの男性たちが、制服姿の女子校生
 にデートしようと堂々と声をかける。事件になるまで、メディアで取り上げられるまで、
 そんな状況が当たり前に容認されていた。
・JKお散歩やJKリフレのスカウトは、水商売や風俗店のスカウトマンがやっているこ
 とが多く、その手口は同じだ。彼らは風俗営業店に女の子を紹介するのと同じように、
 少女たちに声をかけ、店を紹介し、紹介料をもらっている。彼らはスカウトのプロだ。
 慣れた様子で女子高生に声をかけ、巧みな話術で連絡先を聞く。
・高校生はまだ子どもだ。彼女たちの多くは学校や家庭の外の大人と関わった経験が少な
 く、街で声をかけられてもすぐに信用したり、抵抗なく連絡先を教えたりする。一方、
 スカウトの大人たちは目が肥えていて、連絡先を教えてくれたり仕事を引き受けてくれ
 そうな少女を目利きできるのだ。  
・高校生を1人捕まえることができたら、そのあとは簡単だ。「友達も一緒に働けよ」と
 言えば、大抵の子は「1人は不安だから誰か誘おう」と友達を連れて来る。そこで連れ
 て来られた少女はまた友人を紹介し、という流れで、芋づる式に集まってくる。
・お散歩やリフレで働く少女たちはみな、大人が意図してやろうと思えば、簡単に心をつ
 かむことができる純粋な少女ばかり、「寒いでしょ?これ飲んで温まってね」と缶ジュ
 ースでも渡せば、誰でも「いい人」になれる。
・他の少女や店長と話をする機会があまりないと言っていたのに、彼女は店への強い所属
 意識と信頼がある。面接時から、「お散歩は健全な仕事だ」「警察に注意されても心配
 はない」と教育されているのだ。彼女の話す姿を見ていると、危険が身近にあることは
 察しているが、認めたくないという気持ちが強いようだ。
・店は少女たちを惹きつけるうたい文句や方法を知っている。どれも少女たちにとって魅
 力的な条件ばかりだ。しかし、実際には「提携している芸能事務所」が児童ポルノやア
 ダルトビデオ関係のプロダクションだったという話や、面接時にわけのわからないまま
 水着を着させられ、断れないまま写真を撮られ、それをダシに働かされた少女もいる。
・働く女子高生がどんどん増えるのにはわけがある。それが、友人紹介制度だ。友人を店
 に紹介すると、最初の1ヶ月間友人が稼いだ売り上げの10%が紹介者の少女に入る仕
 組みだ。    
・友人同士で働かせることは、他にも店にメリットがある。少女たちが友人同士で小さな
 コミュニティーをつくることで管理しやすくなり、互いが支え合い仕事をするようにな
 って離職率も下がるのだ。
・警視庁によると、JKリフレが目立ち始めたのは2012年春ごろ。秋葉原を中心に池
 袋、渋谷、新宿、吉祥寺などの繁華街に店舗が増え、都内に80店舗にものぼった。
・2012年12月、厚労省がJKリフレの営業形態を、「逆に性的な慰安、快楽を与え
 ることを目的とする業務」にあたるとの見解を示したことから警視庁は取り締まりに入
 った。 
・2013年1月、全国で初めて都内のJKリフレ店17店舗に労働基準法違反などの疑
 いで一斉捜査が入り、アルバイトとして働いていた中学3年生2人を含む15〜17歳
 の少女76人を少年育成課が保護した。
・2013年4月から、「児童買春につながる恐れがある」としてJKリフレで働く少女
 が補導の対象となった。それまでは少女たちを被害者として「保護」していたが、「補
 導」の対象としたことによって、保護者への連絡が行なわれ、補導歴が残ることになっ
 た。 
・取り締まりが強化されても店は形を変えて営業を続けるため、実態はあまり変わってい
 ない。JKお散歩、JKリフレの前身には「JK見学店」があった。少女が部屋で過ご
 す様子をガラス越しに下から覗くことができる「見学店」の摘発を受けて、「JKリフ
 レ」も登場している。それが新たに業態を変えたのが「JKお散歩」であり、少女が店
 員の監視下で働く従来の「囲われ型」から、街に出る「野放し型」になったことで、危
 険は解消されるどころか見えにくくなっているのが実情だ。

サヤ・18歳:「JKリフレ」で働く理由
・JKリフレの「リフレ」とは「リフレクソロジー」の略。パーテーションとカーテンで
 仕切られた1畳ほどの布団が敷いてあるだけのスペースで女子高生と2人きりになれる
 システムで、少女との交渉次第で性的なサービスに至ることもある。
・彼女は月に数回、1日で5万円以上稼いでおり、働くうちに「高級ブランドの服とかア
 クセサリーを買うようになって、そういうのが欲しいのでやめられなくなった」という。

リエ・16歳:買春に行き着くまで
・「もえなび!」は、「女子高生 アルバイト」で検索すると、上位に出てくる求人情報
 サイト。全国の「萌え」関連ショップが、店や働く女の子を紹介、クーポンの発行やア
 ルバイト情報、ブログなどの公開を行っている。
・JKリフレやお散歩で働く少女の多くは、家庭から排除されている。過程が貧しく経済
 的に困窮していても、誰にも頼れず苦しんでいても、虐待やネグレクトを受けていても、
 彼女たちはきれいな服でおめかしするため、「貧困」や「孤立」状態にあることには気
 づかれない。

アヤ・16歳:家庭と学校に居場所を失う
・スカウトマンは街で家出少女に声をかけている。「店の人は見れば家出の子だとわかる」
 と言うとおり、キャリアケースを引き1人で夜の街を彷徨っている少女に声をかけたり、
 ネットカフェで寝泊りしている少女を見つけて誘ったり、SNSを通じて家出を希望す
 る少女を迎えに行ったり、地方の少女に飛行機のチケットを送って呼び寄せたりもして
 いる。「うちなら寮も仕事もある」と言われ、現状から抜け出したい少女はついて行く。
・残念ながら、街やネット上で「困っている少女」に声をかけてくる大人は、そんな大人
 たちばかり。店のスタッフは「そのほうが少女のためになる」と語るが、彼らは住まい
 を提供する代わりに毎日少女を働かせ、抜け出せないように囲っていく。

表社会化する裏社会
・今、家庭や学校に何らかの問題を抱えているわけではなく、両親との仲も学校での成績
 もよく、将来の夢もあって受験を控えているような「普通の」女子高生が、リフレやお
 散歩に現場に入り込んできている。彼女たちは、両親や兄弟、教員や友人たちと良い関
 係を築いている。家では家事を手伝い、学校ではクラスの中心的存在で4年制大学への
 進学が推薦で決まっているという子や、受験勉強に備えて塾の費用を貯めるために効率
 よく働きたいという子、家計が苦しいわけではないが自分で学費を払いたいと思ってい
 て、専門学校への進学時に奨学金を借りなくて済むように貯金するために働いていると
 いう子、人と話すのが好きだからこの仕事が向いていると思って始めたという子に出会
 った。彼女たちはみな明るく純粋で、病んでいなかった。
・こうした少女たちが売春や犯罪の入り口に立っていることは衝撃的だった。少なくとも
 この10年間、「貧困層」や「不安定層」の子どもたちがそちらの世界へ引っ張られて
 いくのを社会は放置し、容認してきた。その間に、「生活安定層」の子どもたちまでも
 が入り口に立つようになったのだ。  
・店の関係者と体の関係を持ち、恋愛関係にあると思わされている少女は多い。少女をそ
 の気にさせるのも、少女たちをまとめ、手放さないための手段の1つとなっている。
・プライドの高い彼女は、お散歩の仕事を「新しい観光案内の仕事」だと誇りを持つよう
 に教育を受けていて、絶対に曲げなかった。
・裏社会の大人たちが「普通」の女子高生を取り込むことに力を入れたのではない。お散
 歩もメイド同様、一般化しているのだ。また、スマホやSNSが普及するとともに、店
 はそれらも用いて求人情報を流したり、少女たちに声をかけたりするようになった。そ
 れにより、「普通」の少女が介入するようになった。
・情報化によって敷居が低くなり、裏社会の入り口に立つ可能性が「普通」の少女まで広
 がっている。  
・ネット上では、裏社会も表社会も関係ない。彼らはSNSを通した広報で罠を広げ、少
 女がひっかかるのを待っている。1人が引っかかれば、後は紹介が紹介を呼び、結果的
 にさまざまなタイプの少女が取り込まれることになったのだ。ネットにおける公での広
 報と「普通」の少女たちの介入もあり、裏社会は表社会化している。社会はそれを容認
 している。
・子どもたちは日々たくさんの情報を目にしているが、彼女たちは情報を選択したり、判
 断したりする力がない。「JK産業」で働く少女の中には、店のホームページがあるだ
 けで「ちゃんとしたお店なんだ」と安心したという子もいる。少女が身の危険を感じて
 も、「大丈夫、安心して」と店は教える。そうなる前に、危険を伝え、判断力をつける
 教育をしなければならないが、親や周囲の大人たちですら、子どもがどんな情報にアク
 セスしているか把握するのが難しくなっているのが現代の特徴だ。大人も危険を知らな
 いゆえ、子どもたちを守り、支えることができていない。それを防ぐには、少女を取り
 巻く実態を学び、伝えていく必要がある。
・少女の行動に疑問を持つ人は多いが、それを利用する男性や店側に疑問を持つ人はほぼ
 いない。「男はそういう生き物だから」なんて通用しない話だが、そういう前提のもと
 で話をする人も少なくない。また、「そういう問題は昔からあった」「なくなる問題で
 はない」という声も聞かれるが、そう言っている間に状況は刻々と深刻化している。
・少年法では、売春や家出を繰り返し犯罪を犯すおそれのあると認められた少年少女を
 「ぐ犯少年」と言い、家庭裁判所にかけ少年院に送ることができる。
・「ぐ犯少年」に対する措置はあるのに、なぜ、買春するおそれのある男性や、少女を利
 用し違法に搾取しようとする大人たちに対してはなんの対処もないのだろうか。少年
 たちは補導され、家庭や学校に連絡が行くのと同じように、犯罪予備軍の大人たちにも
 注意と家庭や職場への連絡をしてほしいと思う。そうすれば、安易に少女を買おうとす
 る男性は減るはずだが、現状、買春や強姦などの確証がない限り男性は捕まらない。違
 法行為を求めて少女に、裏オフできる?」と声をかける男性を叱る大人はいない。犯罪
 が起きてからでは遅い。少女たちの周りには犯罪を起こしそうな、起こしている男性は
 珍しくないのだ。  
・少女たちはまだ子どもで社会を知らず、判断力もない。一方で、雇う側、買う側は大人
 だ。彼らは身の危険をわかっているからこそ、規制をくぐり抜けるようにして、少女を
 うまく利用している。「JK産業」は、そんなグレーゾーンを狙った「脱法産業」なの
 だ。
・男性が犯罪者にならないため、少女から搾取しないための教育も必要だ。「JK産業」
 が一般化した今、その構造や裏があることを知らずに「健全なお店」として利用する男
 性や少年も少なくない。そのため、知らず知らずのうちに買春者になっているというこ
 ともある。
・見知らぬ男性に声をかけられただけでも「怖い」と思う女性の気持ちや危険をすべての
 人が理解すること、なぜストーカー行為やレイプをしてはいけないかを学び、理解する
 ための教育が必要だ。
・日本では、学校教育における性教育やDV防止教育がほぼなされていない。性犯罪や少
 女への暴行事件が起きるたび、「子どもや女性一人が、辺りを注意し警戒しながら生活
 するように」と注意をうながす報道がされるが、子どもや女性側の注意だけで避けられ
 る問題ではない。
・子どもや女性が性被害や暴力に遭わないための教育、身を守る方法を教育するだけでな
 く、男性が加害者にならないための教育や、被害に気付ける人を増やすための教育をし
 なければならない。これは少女たちだけの問題ではない。大人が、男性が変わらなけれ
 ばならない。
・店の経営者や裏社会に通じる大人だけでなく、そこに付け込む「個人の男性」が増えて
 いる。彼らは自ら少女を集め、買いたい男性を募って商売をしている。少女を信頼させ
 るため、ホームページを作っている人もいる。
・裏社会の大人たちは、おいしい誘い文句で少女を惑わしているのではなく、具体的に彼
 女たちを支える仕組みを作っている。生活が困窮し、食事や住まい、託児所付きの生活
 支援をうたう風俗店で働く若年女性が増えていると近頃メディアで報道されるようにな
 ったが、女子高生にも同じことが起きている。家庭や学校に居場所やつながりを失い、
 セーフティーネットからこぼれ落ちた子どもたちが、彼女たちにとってありがたい条件
 が揃う店で働いているのだ。頼れるつながりや安心して過ごせる居場所を失ったとき、
 少女に生活の術を与えているのは、未熟さや性を売りにした仕事ばかりだ。そして、そ
 の多くが搾取的な労働である。
・帰るところがなく街をさまよっているときに、「宿と食事と仕事を与えてくれる」とい
 う人に声をかけられ、その人が悩みを聞いてくれたら、「他にも同じような状況の、同
 年代の女の子たちが楽しく働いているから安心して」と言われたら、ついて行きたくな
 るのは自然なことだろう。「今日、食べるものがない」「今日、寝るところがない」そ
 んなとき、声を上げられない少女に声をかけるのは、彼女らを利用しようとする大人た
 ちばかりだ。こうした少女たちの問題は「心の問題」「貞操観念の問題」と間違って語
 られることが多いが、実際にはより現実的な問題だ。少女たちは、もっとシビアに現実
 を見ている。
・JKリフレやお散歩、売春に流れていく少女たちの多くは「衣食住」を求めている。
 「寂しさから」「居場所を求めて」ではない。寂しさを埋めるためだけなら、少女はわ
 ざわざおじさんを相手にしない。女子高生を相手にする若い男はいくらでもいる。彼女
 たちは生活するため、お金や仕事が欲しくて男性を相手にしているのだ。
・家庭や学校に頼れず、「関係性の貧困」の中にいる彼女たちに、裏社会は「居場所」
 や「関係性」を提供する。彼らは少女たちを引き止めるため、店を彼女たちの居場所に
 していく。もちろん、少女たちは将来にわたって長く続けられる仕事ではないことを知
 っているが、働くうちに店に居心地の良さを感じ、そこでの関係や役割に精神的に依存
 する少女も多い。一見、「JK産業」が社会的擁護からもれた子どもたちのセーフティ
 ーネットになっているように見えるかもしれないが、少女たちは18歳を超えると次々
 と水商売や風俗などに斡旋され、いつの間にか抜けられなくなっている。

少女たちのその後
・2014年6月、米国務省が人身取引に関する年次報告書を発表した。この中で、
 「JKお散歩」が日本の新たな人身売買の例として示された。「日本では、未成年の少
 女たちが買春や性風俗産業に容易に取り込まれている」と現状を指摘し、「秋葉原等に
 代表されるような繁華街で、未成年の子どもたちを使った売春ビジネスが横行している」
 実態が報告された。
・また報告書は「日本政府は人身売買撲滅のための最低基準を十分に満たしていない」と
 批判し、包括的な人身売買禁止法の制定などを改めて勧告している。さらに、日本の法
 律は、売春やポルノ出演の強要、自動買春、児童ポルノ、労働搾取や強制労働を防ぐた
 めの整備が行われておらず、それらに関する摘発件数も少なく、重刑や有罪判決もまれ
 で、実に軽いと指摘されている。 
・JKリフレやお散歩で働く少女のほとんどは、自分を支援の対象だと思っていない。困
 ったいることがあっても、自分でなんとかしよう、自分でなんとかしなければならない
 と思っている。 
・やめたいと思っても、客から「やめないで」と頼まれたり、店に「君が必要」だと言わ
 れたりすると断れない少女も多く、場合によっては脅されることもある。また、他での
 関係性を持たない彼女たちにとって、今までそこで築いてきた関係や立ち位置を絶つこ
 とも容易ではない。そのため、問題なくやめられるよう店への伝え方を考えたり、関係
 者に引き止められる可能性を想定しながら見守ったりすることも必要だ。何事もなくや
 められたとしても、次の仕事を探す手助けをしたり、アルバイトの探し方や履歴書の書
 き方から教えたりしなければ、なかなか次には進めない。学習する余裕のない生活を送
 ってきたために、漢字や文章を書くことが苦手な少女もいる。そういう少女にとっては、
 履歴書を書くということ自体、ハードルが高い。
・2014年春、千代田区は「客引き禁止条例」を作り、JKお散歩の客引きもその対象
 とした。街に立つ少女は減ったが、取り締まりが厳しくなったことにより人目に付かな
 いところで働くようになった。18歳未満の少女は補導を恐れ、予約が入った時だけ客
 との待ち合わせ場所に出勤する「予約出勤」をするようになった。自宅待機型のデリバ
 リーヘルスと同じような形態になっている。いくら少女を補導しても、彼女たちを利用
 する大人がいなくならなければ状況は改善しない。  
・地縁も血縁も社縁も機能しない「無縁社会」といわれる今、子供たちはそのしわ寄せを
 受けている。雇用制度も学歴の意味も、生活のあり方も変わり、地域や家族、職場の
 「縁」に支えられていることを前提として作られた社会保障は現状に追いついていない。
 「JKリフレ」や「お散歩」は、孤立した少女に生活支援を提供している。仕事の他に
 住むところや食べるものを提供し、役割とやりがいを持たせ、学習支援まで行う店もあ
 る。買う側、雇う側のけん制とともに、少女がそこに至らないための体制づくりが必要
 だ。彼女たちに必要なのは、
  @生活が困窮していても教育を受けられる状態にすること
  A安心して過ごしたり眠ったりすることができる家
  B安定して働ける仕事
 の3つだ。それに加えて「そこに繋いてくれる大人との出会いや関係性」が、すべての
 子どもたちに必要とされている。「教育」「住まい」「仕事」「関係性」これらは誰し
 も必要なことだが、家庭や学校に居場所をなくした青少年が、経済的な営みや最低限の
 生活をしていくための保障や支援は間に合っていない。
・高校中退者への公的なサポートは皆無だ。中退希望者への進路・就労支援は眼光でも教
 員個人の裁量次第で、ほとんど行われていない。「JK産業」に中退者が数多く働いて
 いるのは、他に行き場がないからだ。
・JKリフレやお散歩で働く少女が急増した背景には、「関係性の貧困」がある。「生活
 安定層」の少女の介入がその例だろう。この本で取り上げた少女たちは、見守り、とき
 に背中を押し、ときに叱ってくれる大人とのつながりを持っていない。「JK産業」で
 働くか迷ったとき、仕事で危険を感じだときに相談したり、アドバイスをもらえたりす
 る大人がいなかったのだ。青少年一人ひとりに、向き合う大人の存在が必要だ。
・不安なときや何か困ったときに愚痴をこぼしたり相談したりできる大人、親や教員には
 言えないことを話せる大人、 「娘」や「生徒」という肩書を外した付き合いのできる
 大人との信頼関係がたった1つでもあれば、彼女たちの今はきっと違っていただろう。
・中高生は世間知らずで当たり前なのだ。世間知らずのまま裏社会へ流れ、そこで出会っ
 た大人に教育され、関係性も狭められていくケースは後を絶たない。そして、「おかし
 いな」と思うことがあっても、嘘や危険に自分では気づけず、足を洗えなくなっていく。
・誰にも頼れず自分1人でどうにかしようとした結果、「JK産業」に取り込まれていく
 ような少女は、行政や若者支援者が窓口を開いているだけでは自分からは来ないのだ。
 こうした少女たちに目を向けた支援は不足している。それを承知で、少女をグレーな世
 界に引きずりこもうとする大人たちは、お金や生活に困っていそうな少女を見つけて、
 日々声をかけ、出会って仕事を紹介している。渋谷や新宿、仙台や博多といった繁華街
 では、駅前だけで数十人のスカウトが毎日立っている。それだけの人がそこに力を入れ
 ている。 
・一方、表社会は彼女たちへの声かけをほぼまったく行っていない。社会保障や支援に繋
 がれない少女だちに必要なのは、「そこで繋いでくれる大人との出会いや関係性」であ
 る。関係性の貧困が背景にある中、つながりや判断基準を持っていない10代の少女た
 ちには特にこれが重要だ。そのためには、表社会が裏社会に負けないくらいの「スカウ
 ト」をしなければならない。行政も民間も、スカウトの育成に資源を導入するべきだ。
 貧困の連鎖は次々と起きている。国のほうから支援を必要としている人のところに声を
 かけていかなければならない。
・人とのつながりは、社会保障と同じくらいに大切だ。どんなに社会保障が充実しても、
 そこに繋がることができなければ利用されるまでには至らない。社会保障の目的は「1
 人でも生きていけるようにすること」ではない。人と人とが支え合い、知恵を出し合い
 ながら生きていくことができる社会をつくり、ほっとできる時間や笑顔になれる時間、
 気持ちに余裕をもてるような生活を誰もが送れるようになるための保障であるべきだ。

<女子高生サポートセンター>
http://www.colabo-official.net/