女子大生風俗嬢 :中村淳彦

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この本は、今から6年前の2015年に出版されたものだ。本のタイトルから、ついエロ
い内容の本ではと想像してしまうのだが、とんでもない。驚愕する非常に重い内容である。
6年前といえば、まだ現在の新型コロナが出る前の話なのだが、それでも惨憺たる状況が
書かれている。はたして、これが先進国の一員と言われる国のことなのかと、疑いたくも
なる。新型コロナの前ですら、こんな状況なのだから、新型コロナ渦中にある現在は、ど
んな状況なのか、想像するだけでもこわくなる。
新型コロナの影響が出たのか、2020年の自殺者数が11年ぶりに増加に転じたようだ。
男性の自殺者数は減少傾向のままだが、女性の自殺者数は対前年比で約4.5%増加した
とのことである。
自殺者数ばかりでない。最近は、電車内や街中で、突然、まったく無関係な人を刃物で襲
というような凶悪事件も相ついて起こるようになってきた。人生に絶望してヤケになって
しまったのだろうか。
この本を読むと、これらのことが、「こんな社会では起こり得る話だ」と思えてしまう。
すべて「政治が悪い」とか「社会が悪い」とか言うつもりはないが、昨今の国会議員の
文書通信交通滞在費」問題ひとつとっても、国会議員の既得権益には呆れるばかりであ
る。「身を切る改革」などと言いながら、一般の国民には身を切らせておきながら、自分
たち国会議員の既得権益はしっかり温存している。これはでは「国会議員による国会議員
のための政治」と言われてもしかたがないだろう。
安倍政権時代、元安倍首相が「ドリルですべての岩盤規制を砕く」と声高々に表明したが、
その当の国会議員たちそのものが岩盤規制で自らの既得権益をしっかり守っているのだか
ら、もう滑稽ですらある。
国の政治がこんな状態にあるから、社会がよくなるはずがない。もちろん、そういう政治
家たちを当選させた我々国民にも、その責任に一端はあるのだろう。次の選挙では、既得
権益にしがみつく国会議員には、さっさと退場してもらうことで、国会を新陳代謝させる
ことが我々国民の責任ではないだろうか。


はじめに
・昭和の高度成長期には、女性も大企業に就職し、恋愛、結婚にいたるのが美徳とされて
 いた。学歴社会の勝ち組であり、将来中流以上の安泰が約束されていた現役女子大生が、
 リスクの高いAV女優や風俗嬢になることは稀だった。90年代後半あたりまでは、女
 性が裸になることは異端な選択であり、社会的レールから外れることを意味した。一般
 的には嘲笑や蔑視の対象であり、転落の象徴といったイメージを持たれた。女性が裸に
 なることは簡単に価値が認められるので、合理的に稼げて高収入だったとしても、その
 道を選択する女性は少なかった。多くは借金まみれだったり、男やスカウトマンに騙さ
 れているなど、ネガティヴな事情を抱えていた。最高学府で学ぶ現役女子大生になれば
 なおされで、損得勘定からしても、裸になることは”損”という判断をする女性が圧倒的
 に多かった。
・現在の現役女子大生たちが誕生した平成初期は、それまでの昭和的な価値観が崩れて、
 現在に至る個人主義が起こった時期に重なる。90年代前半には女子大生ブームがさら
 に低年齢化し、未成年である女子高生たちが自ら使用済みパンツや成長途上の肉体を高
 額で売りさばいたブルセラブーム(93〜96年)が起こっている。ブルセラショップ
 と呼ばれた中古衣料店では、女子高生や女子中学生が使い古した使用済み下着や体操服、
 制服が高額で飛ぶように売れていた。
・中古衣料の売買だけではなく、明らかな犯罪行為である未成年の売買春も問題化した。
 女子高生や女子中学生たちがテレクラなどのツールを利用して、目先の金銭のためにカ
 ラダを売る未成年売春が激増した。
・女子大生風俗嬢は昔からいたが、特に増えたのは2008年の世界不況以降だろう。あ
 の時期を境にして、風俗店の客が激減して、経営が本当に厳しくなった。求人サイトか
 らは働きたいという女の子たちがたくさんきた。もう、明らかに供給過剰になっていた。
 いまや風俗は誰でもできる職業ではなくて、希望者の半分くらいは断られている。昔と
 違って競争が起こっているから、付加価値のある有名大学の女子大生は採用されやすい。
・それと、今の女の子たちは昔みたいに遊ぶためではなくて、生活するため、学費を払う
 ために、自分の意志でカラダを売っている。
・大学や短大、高専を中途退学した人の中退理由の1位は「経済的理由」だった。学費が
 払えないで退学する学生は、退学者全体の約2割を占める。
・”女性の最後の手段”セックスを換金することは、どれだけ個人主義が進んだ中でも異端
 な職業選択である。女子大生に限らず、老若の女性が性風俗で働く、働きたいと思うキ
 ッカケは、経済的な理由にあることが一般的だ。
・経済的に充足していれば、大多数の女性はわざわざ裸になって不特定多数の男性に性的
 サービスを提供するリスクの高い仕事を始めようとは思わない。学業という本業があり、
 年々過熱する就職活動が控えている現役大学生ならばなおさらその傾向は顕著といえる。
・2006年とちょっと古い調査だが、風俗嬢になった理由として”自分の借金””こづかい・
 遊び””貯金””生活のため””他人の借金””自分の生活苦””他人の生活苦”など、経済的理由
 を挙げる女性が約86パーセントに達している。
・80年代に丸井「赤いカード」のキャッシングサービスが流行し、90年代初頭は消費
 者金融(サラ金)の急成長期だった。”借金返済”を目的とした女性たちが、続々と風俗
 の世界に足を踏み入れた。生活苦や過剰な消費によって財布はマイナスになり、借金を
 抱えて、やがて経済的に追い詰められ、悩んだあげく性風俗にたどり着くのだ。
・2010年6月、サラ金の悪徳商法が社会問題になり、貸金業法が改正されて年収の3
 文の1を超える借入ができなくなった。グレーゾーン金利が撤廃されて、未就業者であ
 る学生のサラ金債務者は減っている。経済的に破綻した女性が集まりがちな風俗業界に
 も、最近はサラ金に大きな借金を抱える風俗嬢はほとんど見えなくなった。なのにどう
 して風俗業界に現役の女子大生が増えているのか。
 
女子大生風俗嬢の履歴書
・桜井さん(21才)は中堅大学3年生。大学1年の夏休みから新宿区のデリヘルで風俗
 嬢をしている。 
・母は重度の総合失調症で、精神障害1級の認定を受けている。母親は生活全般で自立が
 困難、祖母は自立歩行ができなくなって要介護2という状態のようだった。
・桜井さんの家族は祖父母と両親、弟がいる。家族は母親の実家に居住して、三世代で住
 んでいた。父親は中小企業のサラリーマンで、母親は働いたことのない専業主婦だった。
 彼女が小学校5年生のときに大手不動産業者の提案で、土地を担保に老朽化した家を建
 て替えることになり、綺麗な二世帯住宅が完成した。そこから家族はおかしくなってい
 る。
・母親は家を建て替える前までは全然普通の人だった。のんびりした人だった。新しい家
 が建ったときに総合失調症が始まった。
・父親は自分の稼ぎでは介護や通院費用で精一杯なのと、娘の進学を支持してしまうと介
 護の責任が自分に回ってきてしまうので、学費は出してくれないという。
・桜井さんは、風俗嬢として学費を稼ぎながら大学に通い、家庭では介護に忙殺されてい
 る。とても来年就職活動をできる状態ではない。仮に就職をしたとしても、会社員と介
 護の両立はとてもできない。彼女は就職活動をしないで、大学を卒業しても風俗を継続
 することを決めている。

・渋谷のデリヘルで働く現役女子大生の山田さん(22才)は明治学院大学4年生。
・父親は53歳、母親は50歳、両親はバブル世代である。育ちのよさそうな雰囲気を醸
 しているが、家は貧しかったようだ。彼女が中学生のとき、父親が勤めていた中小の家
 電量販店の経営が傾き、リストラにあった。父親は必死に次の仕事を探すでもなく、当
 然のように無職を続けて現在に至っている。看護師免許を持つ母親が、病院や介護施設
 にパートに出て家計を支えてきた。
・山田さんは「日本学生支援機構」の第二種奨学金を、現在も毎月10万円借りている。
 毎月決まった日にちに、同機構からお金が彼女の銀行口座に振り込まれている。そのお
 金は”奨学金”と名付けられているが、返済義務のある有利子の借金である。
・日本学生支援機構の奨学金は、無利子の第一種と有利子の第二種がある。第一種奨学金
 は「特に優れた学生及び生徒で経済的理由により著しく修学困難な者に貸与」を行うと
 している。成績による選別があり、採用率は20パーセント程度である
 有利子お第二種奨学金は進学する学校の種類や通学環境に関係なく月々3万円から12
 万円の中から希望する金額を選択できる。実質的に希望する学生ならほぼ全員が該当す
 る形式となっている。
・多くの風俗経営者や現場関係者が言うように、現在は入学難易度に関係なく、あらゆる
 大学の女子大生が裸の仕事をしている。その中で特に目立つのは、青山学院や明治学院
 大学を代表とする付属校のあるキリスト教プロテスタント系大学だ。女性の比率が高く、
 裕福な家計の子供が多い。自由で華やかでゆとりのある校風で、必然的にある程度お金
 があることを前提とした環境になる。そのような中で貧しい家庭や地方出身の苦学生が、
 周りに合わせた学生生活を送るために、単価の高い水商売や性風俗の仕事に流れる。
 90年代からよく聞く、プロテスタント系大学で定番のケースである。
・風俗は今も昔も”素人”が売れる。山田さんは10代の素人で、男性経験も少ない現役女
 子大生で清潔感がある。客付はよく、夕方から終電まで出勤すれば平均して3人はお客
 がついた。風俗業界では”お茶を挽く”と呼ばれるが、出勤したのに客がつかずにゼロ円
 で帰ったことは一度もない。
・昔から中高年層を中心に、風俗で働く女性を”かわいそうな人”として同情や蔑視をする
 人は多い。そこには根深い思い込みがある。風俗で働く女性には深い理由や事情があり、
 お金のために唇を噛みしめながら性的サービスをしているのだろうと思っている節があ
 る。しかし、現実は異なる。
・足を踏み入れるきっかけは各人それぞれの経済的な理由としても、いざ裸になって風俗
 を初めてしまえば性的サービスにはすぐに慣れ、多くの男性たちに求められてチヤホヤ
 される。たくさん稼げて自身がつき、人から認められる風俗という職業はいいことだら
 け、男性たちに受け入れられるそれなりのスペックを持つ女の子のなかにはそう思う人
 も少なくない。 
・父親は働かないで遊び歩いていつも家にいなかったし、ムダにプライドが高くて、仕事
 を選んでいるから結局働くことができない。そのストレスが母親に向って、暴力を振る
 うみたいになって、やられている母親の姿を見るのが耐えられなくて、家を出よう、逃
 げようと、だいぶ前からおもっていたという。いまも母親とは仲はいいという。
 
・現役大学生で最も経済的な問題を抱えるのは、地方出身で一人暮らしをして学生生活を
 送る、”自宅外通学の私大性”である。
・首都圏の大学に通う新入生では、毎月の家庭からの仕送り額は8万8500円で過去最
 低を更新している。 
・東京の家賃はどんなに安くても4万円はするだろう。一般的な部屋を借りれば6万5千
 円くらいはする。
・人手を欲しがっている飲食店やコンビニの賃金は、都心部でもせいぜい時給900円前
 後ぐらいだ。 
・東北出身、慶応義塾大学卒で現在は大手一部上陽会社に勤める山城さん(24才)は、
 現在は入社2年目、これからの日本経済を背負っていくキャリアウーマン候補といえる。
・山城さんの実家の世帯収入は、推定で600万円。東北地方では平均以上の高い層であ
 る。父親は地元企業のサラリーマン、母親は訪問介護のパートをしていた、裕福でも貧
 しくもない一般家庭。
・親は地元の国立大学へ進学することを希望したが、上京して慶応義塾大学へ進学するこ
 とを 彼女は強く願い出て、4年間の学費を自分で払うことを条件に進学した。
・当時の毎月の生活費は合計14万5千円ほど。それに学費は月割りすると約11万円で、
 これも山城さん自身が負担していた。
・日本学生支援機構の第二種奨学金を利用するという手段も考えたが、有利子な上に、卒
 業後に全額返済義務がある。奨学金を返せない若者は増え続け、奨学金訴訟が激増して
 いるなどの現実を知って手を出さなかった。
・東北地方から眺めれば、華やかな東京は可能性の宝庫に見える。東京にさえ出れば、ど
 うにでもなると思わせるようだが、まだ何者でもなく時間的な制約のある10代の大学
 生が、簡単に稼げる仕事はない。現実を知らずに上京して、すぐに金銭的に苦しくなり、
 単価の高い水商売や性風俗が選択肢に入るのは自然の流れである。
・風俗で稼ぐと腹をくくった山城さんは、最初から最も単価の高いソープランドを選択し
 た。それも、採用されるのが難しく、仕事も厳しい吉原の高給ソープランドの門を叩い
 た。 
・山城さんは美人で胸が大きいという外見的なスペックが高く、さらに現役女子大生とい
 う付加価値があった。1日2人の接客をし、収入は平均して1日6万円、月15日の出
 勤で月90万円を稼ぎ続けた。
・偏差値70を超える超一流大学に通う女子大生でも、今まで歩んできた社会やエリート
 コースから脱落しないため、あるいは将来を有利に生きるために風俗を選択するという
 現実があった。
   
「平成型苦学生」の出現
・結局、男も女も変わらなくて、手っ取り早く稼げるのは若いカラダを使うこと。男の子
 だったら男相手の売り専か出張ホスト、それから女性向けのホストクラブだ。ただ、ホ
 ストクラブは体育会系とヤンキー系で上下関係が厳しいし、24時間体制でお客さんへ
 の対応とか営業しなければならない。
・売り専とは、男性同性愛者向けの風俗店で、いわゆる男性が男性に性的サービスをする
 男娼の仕事だ。 
・山下くん(24才)は、早稲田大学を現役合格、4年間で卒業してそのまま修士課程に
 進学している。
・東京都出身、難関として知られる都立の名門高を卒業している。高校在学中に両親が離
 婚し、二人とも家を出て行ってしまった。高校途中から年金暮らしの祖母と二人暮らし
 で、現在も同居していて、そこから大学院に通っている。
・実家からなので家賃はかからないけど、学費と生活費を合わせて最低月20万円は必要
 だった。奨学金が毎月10万円振り込まれるので、それ以外の必要なお金は試験中だろ
 うがなんだろうが、月10万円は稼がなくてはならなかった。
・学生生活に月10万円以上の稼ぎを必要とする計画には無理がある。健康を害する可能
 性がある。元も子もない状態になる前に、機器や限界を感じて合理的に稼げる方法を探
 り、水商売や風俗を選択肢とするのはある意味で当然といえる。
・新宿2丁目の売り専で男娼となったのは、大学院進学が決まり、大学卒業を控えた春休
 みだった。 
・男娼は出張ホストと売り専に分かれる。出張ホストは女性相手のケースもあって、売り
 専は男性専門だ。
・女性の場合は本番があることはマストかもしれないけど、男性はそうでもない。いろい
 ろだ。アナルセックスの需要は、意外とそんなになくて、抜ければいいとか、話ができ
 ればいいとか、食事できればいいとか、そういう需要の方が多い。だからプレイとは労
 働内容は、女性の風俗嬢より売り専の方が楽だと思う。
・性的サービスを売る風俗店で、ネックとなる法律の一つは売春防止法だ。売春防止法は
 第二条で、”売春”の定義がされている。「売春とは、対償を受け、又は受ける約束で、
 不特定多数の相手方と性交することをいう」とされる。また性交とは、「男性器を女性
 器に挿入する行為」とされる。男性器を男性のアナルに挿入する行為は売春ではなく、
 売り専や男性相手の出張ホストは売春防止法の対象外となる。
・ソープランドなどが売春防止法で滅多に摘発されないのは、”自由恋愛”という建前を貫
 き通した歴史や、赤線時代からの警察との付き合いがあるからであり、小さな世界であ
 る売り専や出張ホストが売春防止法違反をすれば、いつなにが起こるかわからない。
・現役大学生など一般人は、合法の業種でないと集まらない。ソープランドやピンクサロ
 ンは法律的にはグレーだが、現役女子大生が集まっているのは売春防止法に抵触しない
 ”デリヘル”や””ファッションヘルス”である。それらの業種に人が集まりやすいのは”ホ
 ワイトに近いグレー”だからといえる。
・山下くんは現在、修士論文を執筆中だ。売り専の男娼になったことで、時間と経済的な
 余裕ができた。大学院の費用だけではなく、普通に買物もできて、学部時代の奨学金返
 済にもお金をまわせるようになった。
・経済的に追い詰められた平成型苦学生の選択は、男も女も変わらない。彼らが持ってい
 るのは、”若い肉体”だけ。親の援助を受けられず、経済的に追い詰められれば、男子で
 すら、手っ取り早い価値である若い肉体を換金して乗り切っているのだ。
 
貧困の沖縄を行く
・私立大学に通う現役女子大生。キャバクラや風俗をやっているわけではないが、親から
 の援助はほとんどなく、奨学金を借りて学生生活を送る普通の女の子たちで、沖縄の平
 均的な私大性という。
・「彼女たちは人生詰んでいますよ」。人生が”詰んでいる”とは、八方塞がりでどうにも
 ならない状態のことだ。
・島袋さん(20才)は沖縄県那覇市出身、である。母子家庭で母親と2人で団地住い、
 母親は公共機関に非正規職員として勤めている。
・島袋さんは社会活動に前のめりになっている”意識高い系”大学生だった。社会活動する
 学生団体に所属し、福島などにボランティアに行っている。
・ボランティアや社会活動に前のめりになる若者を”意識高い系”というが、沖縄も蔓延し
 ているようだ。
・そして、”意識高い系”とは意識が高い言動をするが、「実がともなっていない」人を揶
 揄する意味でも使われている。もちろん、ボランティアや社会活動の意義や価値をまっ
 たく否定はしない。しかし、自分自身が普通に暮らせること、貧困や格差が蔓延する地
 元の沖縄に意識が向っていないことをかんがみると、厳しい言い方になるが、現実から
 目をそらして理想や空想を追う典型的な”意識高い系”学生だなと思った。
・彼女の母親は40大半ば、公共機関で時給880円の事務員をしている。月収15万円
 ほど。沖縄では中流と判断される。しかし、月収15万円では生活で精一杯であり、と
 ても娘を私立大学に行かせるお金は捻出しようがない。
・大学では、相当優等生のようだった。授業が最優先で欠かさず出席し、学生団体やボラ
 ンティア活動も忙しい。学校関連のすべてを優先して、空いている数時間をアルバイト
 している。学内の物販店で働いたり塾講師をしているが、月に稼げる金額は多くて5万
 円程度だった。奨学金8万円にアルバイトで5万円、月13万円の収入をやりくりして
 年間90万円の学費を支払っている。
・みんなとどこかに遊びに行っても、なにも買わないし、食べないし、飲まない。お金が
 払えないから。洋服とかも全部おさがりで、自分で洋服を買ったことはないという。
・一切、消費をしないことで学生生活を過ごしている。最近、なにかにお金を使ったのは
 120円のボールペンだけ。そこまで徹底しても教科書や交通費、ボランティア活動な
 どにお金がかかるのでギリギリだという。
・島袋さんが熱心に課題としている後進国の貧困より、雇用が破綻して経済的に閉塞する
 沖縄で、有利子負債を抱えながら水ばかり飲んで学生生活を送る自分自身の貧困をなん
 とかするべきと思ったが、本人にそのような自覚はまったくなかった。
・意識を高くして過酷な後進国に目を向けることで、自分自身が経済的貧困を抱えている
 現実から逃避をしているようにみえた。
 
・藤村さん(20才)は沖縄県内の私立大学に通う大学2年生。福岡県出身、那覇市内で
 一人暮らしをして学生生活を送っている。沖縄は家賃が特別安いわけではなく、毎月4
 万円を支払っている。現在、アルバイトはしていないという。
・藤村さんは第一種奨学金を毎月6万4千円、第二種奨学金を毎月12万円も借りていた。
 日本学生支援機構の返済義務のある奨学金をフルで借りていることになる。
・藤村さんは家は貧しく、両親が露婚して父がいない母子家庭だという。沖縄も離婚率が
 高くて、大学の友達で母子家庭というのは多いという。
・中学生のとき、母親は正社員として就職して生活を立て直している。2人の兄は独立し
 て、彼女は通信制の高校に、姉は琉球大学に進学した。
・大学卒業時に1千万円の借金を抱える、とはゾッとする現実だった。どういう条件で借
 りた融資なのか、将来なにをしたいのか、負債を抱えるとはどういうことなのか、その
 意味を理解していない未成年の子供に1千万円の借金を負わせるとは残酷すぎるし、常
 識を逸脱している。自分が置かれている経済状況とコストを普通に考えれば、彼女は沖
 縄に来るべきではなく、実家から通える大学に進学すべきだった。奨学金という名の借
 金が、未来があるはずの子供に取り返しのつかない無駄な消費をさせている。
・藤村さんは就職すればなんとかなると信じ込んでいるが、40代まで4万円台の返済を
 継続するのはストレスなんてものではなく、それによってこれからの人生が蝕まれる可
 能性は高い。負債を抱えていることがネックとなって結婚できない、子供を生めないと
 いうことになるかもしれない。
・奨学金というブラックホールに足を踏み入れた藤村さんは、どこかで自己破産するしか
 借金生活から抜け出す術はほぼない。自己破産しても連帯保証人である母親に返済義務
 が移る。 
・現在の大学生たちは、おそろしい爆弾を抱えていた。
・大学2年の今時点で5百万円以上を借り、卒業までに1千万円近く負債を背負うことに
 なる藤村さんは、社会の出る前にすでに自己破産相当の状態となる。絶対的に厳しい状
 況に置かれることが決定している彼女は、確かに”詰んでいる”ようだ。藤村さんは決し
 て無駄使いや散財をしたわけではなく、ただ自宅からは通えない大学に進学しただけだ。
・問題は現在進行形で莫大な借金が膨らんでいることだ。人生を左右させる大問題につい
 てはすべて先送りで、「なんとかなるはず」という曖昧な思い込みのまま現状維持をし
 ている。彼女はまだまだ負債を追うべきではない年齢相応の子供だ。自分自身になにが
 起こっているのか理解していない。
・将来返済しなければならない莫大な借金は、不安と焦りと悩みで膨大な時間を奪い、恋
 人との関係も破綻させた。百害あって一利なしとは、まさにこのことだ。
・藤村さんがDカップくらいある。しかも、可愛いタイプだった。悩みから解放されるに
 はすぐにお金を稼ぎ、直ちに借入をストップして、すでに借りている金額を減らしてい
 くしかない。もはや時給680円の仕事では、どうにもならない。もちろん本人しだい
 だが、風俗かキャバクラの仕事も視野に入れざるを得ないかもしれない。彼女は現在の
 まま学生生活を継続すれば、経済的に破綻することは間違いない。しかし、それは本人
 と親が決めた道である。
・沖縄には短期大学や看護大学を含めて、10の大学がある。学費の高い私立大学の学生
 を中心に、沖縄の大学生たちの経済的貧困はとんでもないことになっている。私立大学
 に通う大学生たちの多くは、自己破産相当の借金を背負って学生生活を送っていた。
・沖縄は離職率が高く平均賃金が安いだけでなく、離婚率も人口千人に対して2.6組と
 全都道府県で1位だ。取材した対学生たちは全員が母子家庭だったが、これは偶然では
 なく、県中部にはクラスの半分以上が片親という小学校が現れて新聞報道されている。
・平均賃金が全国最低で、母子家庭が多く、親が払えるのは高校の学費までという家庭が
 ほとんどという現実があった。そのような環境の中で進学する女子大生たちは、自己破
 産相当の借金を背負い、水だけ飲んで一切の消費をしないなど、かつての苦学生という
 レベルではない生活を強いられていた。
 
・風俗嬢の宮良さん(21才)は沖縄県内の私立大学3年生、那覇市松山を拠点とするデ
 リヘリで働いている。彼女もまた母子家庭育ちであり、那覇市中心部にある実家に母親
 と住んでいる。色白で凛とした驚くほどの美人だった。
・風俗勤めは18歳、高校のときからやっているという。週に3,4回出勤して月収25
 万〜30万円くらい。実家に住んでいるので母親に毎月7万円渡して、学費を払って普
 通に生活してちょうどなくなるくらいだという。
・学費のために無謀な借金を背負ったり、学業どころじゃない長時間労働のバイトをする
 周囲と比べ、風俗嬢である自分は恵まれている、という感覚だった。カラダを売りなが
 ら学生生活というのは悲愴感があるが、現実を理解せずに混乱する藤村さんと比べると、
 彼女はいたって冷静で余裕綽々だった。
・母親は現在42歳と若い。物心がついたときから母親は水商売やソープ、デリヘルで働
 いていた。彼女が学費を自分で払うのは高校から、それが当り前に思っていた。自分が
 風俗で稼ぎ、そのお金で大学進学することに対して、なにも疑問は抱いていない。
・中学時代は学校を頻繁に休んでいる。朝方に帰ってくる母親とは時間が合わない生活で、
 学校に行けとは言われなかった。 
・中卒で働いた。見つかった仕事はコンビニ、ホテルの清掃など、最低賃金の仕事ばかり。
 普通に働いて月収数万円ではダメだと思って、高校に進学している。
・美人で未成年となると、認められる価値は高い。男性達にはすぐに売れた。風俗嬢にな
 って初月から月20万〜30万円を稼ぐようになって、学費と生活費を自分で払うだけ
 でなく毎月7万円を家に入れるようになった。
・すでに彼女は大学4年までの学費と生活費は、風俗で稼いで確保している。水商売や風
 俗以外の普通のアルバイトをしている同級生たちは、来年、就職活動を控えて、終活の
 時、学費をどうしよう、と不安になっているという。
・沖縄の大学生たちは在学中は学費に追われ、卒業後は返済が困難な多額の借金に追われ
 る生活を強いられている。バイト漬けか奨学金という名の借金漬けかという選択で、バ
 イトを選択した場合はとても普通に学生生活を送る余裕はない。
 
・東京と神奈川、そして沖縄で現役女子大生や女子大生風俗嬢の取材をして、話に必ずと
 いっていいほど出てきたのが日本学生支援機構の”奨学金”という制度だった。
・”奨学金”とは親の世帯収入が低いという経済的事情を抱えた成績優秀な学生への給付と
 思っていたが、実態はまったく違うようだ。
・2004年、日本育英会が整理・統合されて独立行政法人・日本学生支援機構が誕生し
 ている。そこから”奨学金”は変貌した。学費の高騰と同じく、文部科学省や財務省が深
 くかかわる国の政策である。公的機関であるはずの日本学生支援機構は民間からの資金
 を導入し、奨学金制度を金融事業として展開した。年利は上限3%、奨学金とは名ばか
 りで、利子で利益をあげる金融ビジネスとなった。
・年利上限3%となれば、権港の株式会社への融資と変わらない。多くの大学生たちと連
 帯保証人となる親は、金融業者の顧客なのだ。まだ何者でもない高校卒業したばかりの
 未成年に、多額の負債を負わせるという常識を逸脱した制度が、大学進学率の上昇の波
 に乗って全国に浸透しているのだ。
・将来、なんの職業に就くかわからない高校卒業したばかりの未成年に有利子のお金を貸
 し付けるのは、どう考えても無謀だ。返済の一時猶予や返済期間延長の仕組みこそある
 が、事実上、救済制度はほとんどない。大学卒業後から始まる月々の返済には容赦がな
 く、3か月延滞したら一般の金融業者と同じく、ブラックリストと呼ばれる個人信用情
 報機関に登録される。そして、債権回収の専門会社からの取り立てが始まる。クレジッ
 トカードやサラ金と同じなのだ。
・実態は単なる学生ローンであり、”奨学金”という「支援や給付を想像させる」歴史ある
 聞こえのいい単語がビジネスに利用されている。実態と名称に乖離がある、いわゆるポ
 エムビジネスといえる。日本学生支援機構の”奨学金”は国と金融業者がタッグを組み、
 低所得世帯をターゲットにした貧困ビジネスなのだ。
・驚愕するのは、その利用者の比率の高さだ。平成24年度の調査では、全学生のうちの
 奨学金を受給する者の割合は大学昼間部で53%、大学院修士課程で61%、大学院博
 士課程で66%と過半数を大きく超えている。教育を受ける立場である大学生の過半数
 が、利子と利益とする金融業者の顧客となるとは、とんでもないことだ。大学生の半数
 以上が数百万円の負債を背負って社会にでるという現実は異常としか言いようがなく、
 歴史的にも前例のない事態だ。
・今は学生の半分以上が一般的なサラリーマンの年収以上の借金を背負っている。90年
 代後半あたりまで、奨学金の受給者は大学生全体の2割程度だったが、今は53%とな
 って少数派ではなくなってしまった。  
・高度経済成長期から学費+αが親から出ていた時代が長く続いたが、90年代後半に年
 功序列型の雇用が壊れて状況が変わってきた。あらゆる企業でリストラの嵐が吹き荒れ
 て、98念から顕著に日本全体で世帯収入の下落が始まった。それと比例するように、
 大学の学費を自分で稼ぐ学生が激増した。親から学生への周府はだんだんと減って、奨
 学金を利用しなければとても進学させられないという状況になった。
・世帯収入が下がっているのに大学にかかる費用と時間は倍増、さらに理科系は修士課程
 までの進学が一般化している。他にも薬学部やロースクールになると6〜7年間となる。
 経済的に追いつけられる理由が揃い過ぎているのだ。
・大学の学費は1970年代からずっと高騰を続けている。教育への公的予算を抑えるた
 めだ。授業料の値上げが繰り返されて、今では世界で最も高いレベルだという。
・学費の高騰は、世界的にも稀な現象だという。ヨーロッパ諸国の大学の多くは国立大学
 で、アメリカも州立大学がメインである。大学生の教育に、国が公費を投入している。
 研究費の補助や学生支援に使われる日本の高等教育予算は、対GDP比で約0.5%と
 OECD加盟国の中で最低レベルとなっている。  
・1960年代後半の国立大学の授業料は、なんと年間1万2千円だった。それが70年
 代に入ってすぐに3倍の3万6千円になり、9万6千円になると急激に上昇した。それ
 で今では年間の授業料は53万円。貨幣価値を考慮しても、現在の団塊世代以上の高齢
 者たちが学生時代だった頃とは負担の重さが違うのだ。
・中高年の世代と現在の大学生ではまったく環境が異なる。公費削減を目的として、高等
 教育費用は利用する人間が負担すべきだという”受益者負担”の考えに基づいて改悪が重
 ねられてきた。
・現在、あらゆるところで世代間格差が問題になっている。日本では年金や介護保険制度
 など社会保障を軸に、高齢者が優遇される政策が続けられているが、大学の学費に関し
 ても現在の高齢者の時代の方が圧倒的に恵まれていたという。受益者負担の考えのもと
 で公費が削減され、高騰した学費を家庭で賄えなくなり、リスクを背負って奨学金に頼
 るしかないというのが現状なのだ。
・沖縄で取材した藤村さんは、1千万円近い借金を背負うので、20年間返済とすると、
 返済額は月5万円近くになるはずだ。この経済的負担は重すぎる。結婚が困難になった
 り、女性であれば返済のために子供を産むことを諦める人も多いだろう。
・当然、奨学金を親が消費することも起こる。大学3年生、4年生になって、学生がこと
 の重大さに気づいて口座の返還を求めても親に抵抗されたりする。現在の大学生の親は
 バブル世代。本来なら親が払うことが望ましい大学の学費を、子供に借金させて払い、
 さらに子供名義の借金で得たお金を親が消費するとは絶望的な事態といえる。
・奨学金の返済は大学卒業後、就職してから半年後に開始される。返済が始まってからパ
 ニックになる。学生は自分の状況に就職して初めて気づくわけだ。社会人1年目なんて
 自分の生活だけでギリギリいっぱいなのに、そこに突然毎月3万、4万円の返済を迫ら
 れる。
・それに今の社会状況では、たとえ正社員でも、自宅外通勤で家賃負担があったら奨学金
 の返済は困難だ。もはや多くの学生は返済に無理がある。返済している場合は親が家中
 からかき集めているとか。家がサポートできない場合は延滞が発生して、すぐに首がま
 わらなくなる。条件を満たせば返済の猶予制度はあるが、借金がなくなるわけではない。
・お金は降ってわいてくるわけではない。借りたら返さなければならない。”奨学金”とい
 う負債は、当然、社会に出て自分で稼いだお金で返していかなければならない。しかし、
 現在は大学卒業後の出口も、非正規雇用やブラック企業が待ち構えている。今の大学生
 たちは高齢者優遇の国や社会、日本学生支援機構という金融業者、ブラック企業、挙句
 の果てには家庭からも搾取されてボロボロといった状態なのだ。
 
なぜ彼女たちは騙されるのか
・女衒とは「若い女性を買い付けて、女衒など性風俗関係の仕事をさせる人身売買の仲介
 業者」のことをいう。現在は女性に強制的に売春させるような時代ではないが、江戸自
 体から現在に至っても”女衒”を生業とする者は多い。
・妻や恋人を風俗で働かせるヒモは昭和時代から存在し、最近でいえば複数の恋人に水商
 売や風俗をさせて貢がせるビジュアルバンドマンあたりは女衒といえるか。そのヒモ稼
 業を事業化し、女性を風俗に紹介して利益を得るスカウトマン、そしてアダルトビデオ
 に女性を斡旋するAVプロダクションなどは”現在の女衒”といえる。
   
・東京六大学のある大学に通う梶山さん(20才)。大学2年生である。彼氏にソープ勤
 めを薦められて、授業後、2勤1休のペースで吉原のソープランドに出勤しているとい
 う。
・梶山さんは、ロリータ服に身を包んだ身長150センチに満たない小さな女の子だった。
 見た目は中学生か高校生、とても成人した女性には見えなかった。
・梶山さんは一人っ子の母子家庭で、鍵っ子だった。自宅ではいつも一人で小学生の頃は
 学童と塾、中学高校はアニメやネットで淋しさを紛らわせてきたという。
・梶山さんの出身高校を聞いて驚いたが、御三家と呼ばれる超有名女子中学、高校の卒業
 生だった。堅いお嬢様学校を卒業して、性格は内向的でオタク系、友達が少ないので情
 報がない。大学でも友達はできなかった。
・学費に年間百万円近くかかるが、奨学金には手を出さず、”母親に借りている”ことにな
 っている。自宅かから通学し、秋葉原のメイド喫茶と自宅近くのラーメン店などでアル
 バイトをして稼いだうちの月5万円を、学費の返済と生活費という名目で母親に渡して
 いた。  
・現在、勤務している店は、彼氏に紹介されている。ちなみに彼氏は中堅大学4年生だが、
 就職活動はしていない。友達数人で学生企業のようなものを立ち上げている、と彼女に
 話している。
・梶山さんは、彼氏の話になると止まらない。世間知らずの女子大生が大好きな彼氏に風
 俗に沈めらえた、という悲惨な話だったが、呆然としながらも黙って聞いていた。
・彼氏は投資関係の会社を運営しているみたいで、彼女も自分の将来のためと、彼氏の夢
 を応援するということで毎月百万円を預けることにしたという。
・あと2年間、毎月百万円を本気で彼氏に預ける気でいる。毎月百万円も預けているのに、
 彼氏の会社の名前も知らない。さらに契約書もなにもなく、百万円はATMから下ろし
 て現金で手渡しているという。明らかな詐欺だが、一片の猜疑心もなく信じ込んでいる。
  あきれてしまった。
・高給ソープランドで働いて半年、梶山さんは学生生活を二の次にして、すでに5百万円
 〜6百万円程度を稼いでいるが、自分の銀行口座には数万円程度しかない。家賃と生活
 費、実家heの仕送り以外のお金は、すべて彼氏に流れてしまっている。
   
・日本学生支援機構以外にも様々な奨学金が存在する。その制度設計は「卒業して社会に
 出る」ことが大前提になっている。給付型でも卒業できなければ借金となり、即返済を
 迫られることもある。
・誰しも最初は経済的な問題がきっかけで”風俗嬢”というアウトサイドな扉を叩く。それ
 までの人生で、風俗など想像もしなかったような真面目な女の子が”奨学金”がきっかけ
 となって突然、借金を突きつけられ、風俗嬢になるというケースは多い。何も知らない
 真面目な女の子が、それまでの価値観で無事に切り抜けられるような世界ではない。
 
・栗田さん(23才)は、スレンダーでモデルのような美人だった。店では常にナンバー
 3に入る人気風俗嬢で、1年半前からその店で働いている。
・栗田さんは元々看護学校に行っていたという。看護学校は病院の付属で、そこの奨学金
 制度を使って進学した。けれど、看護学校を途中で辞めてしまって、借りた奨学金を全
 額返さなくてはならなくなった。  
・病院に返済しなければならない140万円の返済だけでも大変だが、彼氏に金融業者に
 連れて行かされ8百万円の借金の連帯保証人になった。この1年半、毎月50万円をず
 っと返しているという。 
・彼氏の返済が滞って、連帯保証人である栗田さんが肩代わりをしているのではなかった。
 毎月、栗田さんが返済する50万円を彼氏に手渡して、借金の名義人である彼氏がその
 もらった50万円をそのまま返済しているという状況のようだった。
・人手不足が理由か、看護学校は奨学金制度が充実している。栗田さんが看護学校進学に
 あたって利用した奨学金は、病院独自の制度だった。病院が学費として毎月5万円を給
 付。生活費として毎月5万円を有利子で融資するという内容である。3年間の180万
 円の給付は資格取得後5年間病院に勤務することが条件で、クリアすれば返済義務はな
 くなる。もう一つの180万円の生活費融資は3%の年利がつき、毎月5万円+利子が
 給与から天引きされる。退職や学校を中退した場合は、残金を一括返済するという厳し
 い条件が契約書に記載されていた。
・結局、栗田さんは2年間で看護学校を中退した。実習が始まり、患者と接するようにな
 った。3か月ごとに実習先の病院が変わり、勉強だけではなく、仕事として覚えること
 が毎日山のようにあった。忙しすぎた。要領よくないのんびりした性格の栗田さんには
 許容量をオーバーする忙しさで、授業と実習、課題提出で寝る間もない生活に白旗をあ
 げた。3年生に進学しないで中退することにした。 
・140万円の借金を背負った栗田さんは一応、退学届を出す前にインターネットや求人
 誌で仕事を探した。毎月最低5万円を返済するのは、普通の仕事では無理だった。栗田
 さんは看護師を断念して、中退した翌日からなにもわからないままキャバクラ嬢になっ
 ている。
・キャバクラ嬢になって半年、早くも140万円の借金はほとんど返済した。病院の借金
 がなくなった頃、8百万円の連帯保証人をした現在の彼氏が店に現れている。
・彼氏が彼女に借金の連帯保証人になることを頼み、もっと単価のいい風俗で働くことを
 提案してきたのは、付き合い初めて1か月経った頃だった。それでその場で、いくつか
 デリヘルの求人広告を見せられて、普通に頷いて面接に行った。デリヘルって職種がな
 にをする店なのかよくわからなくて、面接に行った日からすぐに働き始めて、全身筋肉
 痛になったという。  
・彼氏に毎月50万円を渡す生活を1年半も続けている。すでに渡した金額は8百万円〜
 9百万円になる。
・栗田さんは素性のわからない彼氏に毎月50万円を渡し続けて、8百万円の借金をほぼ
 完済し、すかさず150万円を要求されて、ようやく騙されている現実に気づいたよう
 だった。 
・看護学校を退学してから、2年半。彼女は140万円の病院からの借金に追われ、男に
 騙されて風俗に転職して8百万円以上が消え、さらに150万円を一括で払えば、総額
 1100万円というとんでもない金額を支払ったことになる。
・経済的に追い詰められた男性が手を染めるのは、昔からホスト、スカウト、ネットワー
 クビジネスだった。ホストは上下関係が厳しい特殊な世界、スカウトは2005年の迷
 惑防止条例の改正により、さらに12年の改正で路上に立つことも禁止となり、これ以
 上ない規制がかかっている。 
・梶山さんも栗田さんも、彼氏だと思っていた男性に風俗で働くことを薦められている。
 路上でスカウトができなくなった代替として、女性と恋愛関係になって風俗に紹介する
 ”赤詐欺”的な手口が増えているのか。もはや、経済的困窮者が集まっている大学は危険
 な場所になっているといえる。
・女性をカネに換えることを狙う人物は、決して路上だけにいるのではない。すぐ隣りに
 存在している。

風俗はセーフティネットか
・女性の平均年収は272万円、男性の平均年収は511万円に対して半分程度しかない。
 この20年間の婚姻率は低下し離婚率は上昇。特に女性の貧困は深刻さを増している。
・卒業して就職するために数百万円単位の学費の支払いをしなければならない女子大生や、
 シングルマザーや非正規雇用など、性風俗産業が経済的貧困を抱える女性たちの事実上
 のセーフティネットとなったのは、今も昔も同じだ。しかし、風俗産業は長引く不況と
 無店舗型への移行、高齢化と少子化が原因で男性客は減っている。性風俗は男性客と女
 性の受給バランスが崩れ、その状況はだいぶ変わった。
・店舗型風俗店のプレイルームに住み込みで働く”家のない女性”たちは、本当にどこの店
 にもいた。地方から勢いで上京した、家庭や恋人のDV、精神疾患で仕事が続かないな
 どなど、様々な理由があった。店に寝泊りして客を取る”住み込み”は、決して環境はよ
 くなかったが、その道を選んだ女性たちはアルバイトやOLいる遥かに多いお金を稼ぎ、
 モラトリアムを得ていたのは確かである。 
・しかし、04の歌舞伎町から始まった歓楽街の浄化作戦、05年の風営法改正で店舗型
 風俗が徹底的に締めつけられ、デリヘルが実質合法化したことによって無店舗型・デリ
 ヘルの時代になった。歓楽街から性風俗店が消えたことで、簡単に男性客を捕まえられ
 なくなり、実質的な合法化によるデリヘルの激増と、男性客の減少で深刻なデフレが始
 まった。
・熟女風俗嬢・イトイさん(45才)は、都内有名女子大学を卒業して、順風満帆に上場
 企業の新卒入社、会社勤めがあわなくて専業風俗嬢になっている。イトイさんは地方の
 繁華街に頻繁に出稼ぎに行っている。
・”出稼ぎ”とは風俗の業界用語で、東京や大坂の大都市圏から人材不足の地方風俗に出稼
 ぎに行くこと。10〜14日程度の短期間、日数を決めて地方で働く。風俗嬢の競争は
 大都市圏の方が厳しく、地方に行けば熟女風俗嬢でも第一線で活躍できたりする。
・風俗業界には「40歳の壁」があるといわれている。40歳になると、多くの風俗嬢た
 ちの収入は激減し、生活ができなくなって行き場所を失って路頭に迷うというものだ。
・風俗店でも売れない。一般的なキャリアがないので転職できない、結婚をしたくても相
 手も出会いもない、相談相手もいない、と八方塞がりになる中年風俗嬢は確かに多い。
・もはや低価格帯で運営する下位の風俗店は、稼げるどころか、なんの社会保障もなく、
 待ち時間を含めたら最低賃金を下まわるような状態もあるのだ。
・多くの格安店で働く風俗嬢は、現実として雇用契約を結ぶ普通のアルバイトより稼げな
 い実態があった。最終手段である裸と性的サービスを売って、月収平均で15万〜20
 万円程度、10万円以下の女性もたくさん存在する、とはあまりにも厳しい現実である。
 東京でまともに一人暮らしできる金額ではなく、格安風俗店で働く多くの女性たちは、
 風俗で働きながらギリギリの生活を送っている。
・頑張って社会に出てもうまくいかない女性がほとんどという。普通の仕事と兼業してい
 る女の子も少数で、女性たちの仲ではコンビニや飲食店のアルバイトであっても”普通
 の仕事”をすることは、ステイタスとなっているという。
・格安店の店舗は社会から弾かれて行き場のない女性たちのセーフティネットになってい
 るが、その安価な価格のサービス提供では、生活保護や最低賃金程度のお金をなんとか
 稼げるというモラトリアムにしかならない。外見や性格、精神状態などの問題を抱え、
 一般的な昼の職業は当然、一般的な価格帯の性風俗店の採用も断られる彼女たちは、安
 価な価格でカラダを売り続けるしか道がないのだ。他にどこにも行き場所がない。
・障害者には”障害者雇用制度”など支援の枠があるが、格安デリヘルから抜け出せない今
 日、明日だけを乗り切るために生きる女の子たちは、一時期のモラトリアムとなるだけ
 の風俗店を超えるセーフティネットはない。本当の弱者は、最底辺風俗と呼ばれる店舗
 の片隅に蓋をされている状態なのだ。 
・配偶者や同居の交際相手からDVの認知件数は約5万9千件(14年)と前年比で19
 %増、12年間で5倍以上と激増している。生活が蝕まれるPTSDを抱えるDV被害
 者も同じ数だけ増えていることになる。
・性風俗の最底辺といえる格安デリヘル店は経済的貧困だけでなく、避けられない理由で
 精神的に深刻な問題を抱えてしまった女性たちのセーフティネットでもあった。
・女子大生の風俗参入についても同じことがいえる。”簡単に価値が認められる”仕事はそ
 の後の社会生活や結婚などに悪影響を及ぼすかもしれないが、経済的に追い詰められた
 彼女たちは、唯一の価値である若い自分のカラダを売り、学費を稼ぐしか生活を維持す
 る術がないのだから仕方がない。
・日本学生支援機構の”奨学金”という金融事業は、国の政策だ。事業を計画した官僚たち
 は、未来ある若者たちが唯一の持ち物であるカラダを換金して、やっと学生生活を送っ
 ている現実になにを思うのだろうか。
 
トップスペックの学生はAVへ
・2000年代後半以降、アダルトビデオやアダルト雑誌は深刻な不況に陥っている。簡
 単に動画が複製できるデジタル化の影響であり、ネットには無料動画が氾濫している。
 売上の下落は底が抜けた状態が続いている。
・不況に陥ったAV業界はクォリティーアップや徹底したマーケティングなど、様々な販
 売対策を施してきたが、もはや構造的な問題であり、売上は下落するばかりだった。
・AV女優には、”単体””企画単体””企画”と3段階のヒエラルキーがある。その階層によ
 って出演料や扱いはまったく異なってくる。最下層である”企画”になると、本番撮影に
 1本出演しても収入が3万円程度のケースがあるなど、AV女優は本当にお金にならな
 い仕事になっている。
・AV女優は、人材が流動しながら、全国に6千人程度いると言われている。その中で自
 分の生活費程度を稼げるのは、上位20%程度の1200人程度だろうか。名前が売れ
 て、それなりの収入があるのは上位5%ほど、300人程度しかいないかもしれない。
・1990年代まで、AV女優は一般女性たちからは”1千万円もらっても出たくない”
 ”そこまで落ちたくない!”などと言われ、世間から経済的な転落や偏見の対象になって
 いたが、00年代前半から自ら出演したいと応募する女性が激増し、誰でも就ける仕事
 ではなくなった。
・プロダクションの女性の採用率は、”単体”になると300〜500人の1人という数値
 化不可能な領域、”企画単体”は3〜5%程度、もっとも低収入の”企画”でも14%しか
 採用されない。数年前からというものは、AV女優は、選ばれた女性の就く特別な職業
 となった。
・プロダクションや風俗に応募する女性の傾向は、社会や経済の状況をそのまま反映する。
 昔は精神的な問題で一般的な社会生活を送れない女の子たちのセーフティネットとなっ
 ていたが、やがて一般的な社会生活を送れない女の子たちは追い出され、現在は普通の
 女の子たちの経済的な受け皿になっている。
・貧困家庭に育った若年層の女の子たちは、そもそもお金を稼ぐ術を知らない。社会経験
 がなく、なにか生産できる技術はない。
・整形はAV女優だけではなく、芸能人やタレントでも常識である。かつては代金をプロ
 ダクションが立て替え、その後に稼ぐ出演料と相殺するといったことも行われていたが、
 現在は”自分で自分に投資”と受益者負担になっている。
  
世代格差とブラックバイト
・都内の中堅大学社会福祉学部2年生の藤原さんは、アルバイトをしている介護施設で、
 夜勤〜日勤と働いた直後だった。まったく眠っていない状態で、誰が眺めても体調が悪
 いといった様子である。
・理由はこの2日間の過密スケジュールにあった。昨日、大学からそのまま夜18時に介
 護施設に出勤し、一人体制で夜勤をこなしている。夜勤就業後も帰ることなく、そのま
 ま日勤に就いて退社したのは翌19時間だった。眠る時間がまったくないまま25時間
 労働という凄まじい長時間労働をして、ここに至っていた。
・春から介護施設のグループホームとお泊りデイサービスの2つの夜勤を掛け持ちをして
 いるという。今、介護の世界はすごい人手不足で、いくら募集しても人がまったく来な
 い。この半年間、自由な時間どころかまともに眠る時間もない状態だという。
・大学生をしながら2つの介護施設で週4日夜勤、その生活スケジュールは凄まじい過酷
 だった。酷い日になると朝9時に登校、16時まで授業。そのままお泊りサービスに移
 動して18時に出勤、食事の片づけや服薬、着替えなど就寝介助。20時から施設には
 誰もいなくなり、一人体制で一晩過ごす。高齢者たちはそれぞれで、認知症になると深
 夜徘徊、頻尿など、全員がおとなしく眠ることはない。そして、一睡もすることなく朝
 を迎え、朝7時から朝食作り、着替えなど起床介助。朝8時に早番の日勤者が出勤して、
 申し送りして8時半〜9時に終業となる。そのまま大学に通学、授業を受けて、夕方グ
 ループホームに出勤する。そのような生活を送っている。眠る時間どころか、家に帰れ
 ないので入浴する時間もないという。若いとはいえ、無謀なスケジュールだ。
・「その夜勤は、完全な違法労働だよ」藤原さんに伝えた。明らかな労働基準違反で、彼
 女が従事しているのはブラックバイトである。労働基準法では1日の労働時間は8時間
 と定められている。彼女が雇用されているグループホームとお泊りデイサービスの夜勤
 は、18時〜翌9時までの15時間という長時間労働だ。実働8時間、休憩7時間とい
 う雇用契約を結んでいるのに、実態は一人体制で休憩のない労働を強いられている。
・この夜勤の長時間労働は介護報酬が少なく、人件費が圧迫している介護業界の常套手段
 となっている。現在、介護や福祉の世界ではこのような違法長時間労働がまかり通り、
 行政も実態を把握しながら見て見ぬふりをしている。
・24時間営業を支えるのは、介護職たちのサービス残業だ。法律に無知な職員に休憩な
 しの労働やサービス残業、36協定という労使協定を結ばせて労働基準法で定められて
 いる時間を大きく上まわる労働をさせている。”お泊りデイサービス”は労働基準法違反
 を筆頭に、老人福祉法違反など脱法だらけであり、長時間労働で疲弊した職員が虐待事
 件を起こす、営利優先の法人が不正受給する、狭い機能訓練室に宿泊老人を雑魚寝で押
 し込むなど、問題が噴出している。
・「一人体制の夜勤で6時間休憩ってなっているに、一切休めない」「労働基準監督署に
 相談に行ったら、経営者に恫喝された」「36協定ってなんですか?」などなど、無茶
 苦茶な話ばかりである。公的事業なのに違法まみれ、という驚愕の実態である。
・介護職の方々の特徴的なのは、最大限の法律知識が与えられていないことと、労働組合
 も相談先もないことだという。みんな違法という自覚のないまま黙々と脱法労働をして
 いる。 
・グループホームやお泊りデイサービスで常態化しているワンオペの一人体制の夜勤は、
 もう明確な労働基準法違反だ。一人しかいなければ、休憩なんてとれない。一晩中まっ
 たく休むことなく、もちろん仮眠なんてできない。多くの夜勤シフトは19時出勤〜翌
 9時か10時までという時間帯だが、休憩を6時間とか7時間とか名目上だけとること
 にしている。実際は14時間働いているのに、給与は8時間ぶんしか払わない。ひどい
 話だ。この違法労働は全国的に常態化しているという。
・極端に進行する少子高齢化で、残酷なまでに明らかになった世代間格差が集約された、
 手厚い年金、高度医療、生活保護、民間が参入して”利用者は神様”的なサービス業とな
 った介護保険など、高齢者優遇の政策が継続されている。その中で学費は高騰を続け、
 日本学生支援機構が設立されて奨学金が金融事業化している。
・高齢者たちが悠々自適な生活を送る中で、若者たちは学費を工面するためにアルバイト
 漬けになって過労死水準の生活を強いられたり、風俗嬢となってカラダを売るなど、極
 限まで追い詰められている。  
・公的事業にもかかわらずブラック労働が常態化すれば、現在の国が定めた介護報酬では
 二人体制にする人件費が捻出しようがないことが理由だ。長年”介護職の低賃金”は叫ば
 れ、国会や様々な機関で議論が繰り返されている中で、介護施設の運営の基幹となる介
 護報酬は2015年4月に大幅削減された。国は介護労働者の賃金を、さらに下落させ
 る方向に舵を切っている。介護にかかわる限り、永遠に”生かさず殺さず”という貧困生
 活から抜けられないことが決定したのだ。
・ブラックバイトとは違法労働であるだけでなく、学生が学生らしい生活を送れなくなる
 アルバイトのことを指している。ブラックバイトが多いのは飲食や小売り、介護などの
 労働集約型事業で、かつては正社員がやっていた責任が思い仕事を非正規雇用や大学生
 が負わされていることが、そもそもの原因だ。職場に過剰に組み込まれていることで、
 学生生活や就職活動に弊害をきたしている。
・学生たちのアルバイトが明確にブラックになったのは、5年くらい前からだという。職
 種はすでにブラックが多い産業として指摘されている飲食店や塾、介護だけではなく、
 アパレル、コンビニ、ホテルなどにも広がっている。
・経済的に問題を抱えている学生たちは、学生が本業だといっても働かなくてはならない。
 現在、ブラック企業が溢れている。ブラック企業にとって労働者は部品であり、駒であ
 る。会社の利益になることであれば、個人の人生など簡単に潰しにかかってくる。その
 ような社会の中で旗らかなければならない以上、自分の身は自分で守るしかない。
・ブラック企業は個人の良心と簡単に飲み込んでくる。最低限の法律知識を身につけて、
 将来ある学生である自覚と”自分にとって、なにが一番得なのか?”という自分自身の考
 えを持つことは絶対に必要だ。
・消費税アップ、介護保険の報酬削減、保育の産業化、年金の減額、医療費の負担増など、
 社会保障の動きを見ていると、すでに国にはお金がない。新自由主義の先駆けとなった
 介護業界を筆頭に、お金がない社会保障分野はブラック労働がまかり通り、高い離婚率
 が継続している。介護職潰しは十数年に及んで常態化して、致命的ともいえる人手不足
 に陥っている。
・団塊世代が後期高齢者となる2025年問題は、行政主導では乗り切れないと2000
 年に介護保険が施行されている。民間企業に介護の業務委託が始まった。介護や福祉は、
 人材がすべてだ。しかし、株式会社が参入したことで建物先行で施設が建ちまくりブラ
 ック労働が吹き荒れ、人材の供給が追いつかずに深刻な人材不足となっている。志願者
 全員を採用しても追いつかなくなり、2009年には失業者を介護職に続々と送り込む、
 国の雇用政策が発動された。その結果、現在の介護現場は失業者の受け皿や生活保護の
 代替となった。荒れ果てた救いのない状態であり、とても若者が夢を持って足を踏み入
 れるような状態ではなくなっている。
・もう”人の役に立ちたい”という純粋で無知な若者を、国を挙げて搾取するしか切り抜け
 る道がないのだ。福祉大学や専門学校を卒業した若者が入職しても、使い潰すだけの状
 況が続いている。他に行き場所がある若者たちは、離職して逃げていく。そんなことが
 延々と繰り返されている。 
・なぜか福祉系には家庭が貧困だったり、片親などで苦労して育った学生が多い。しかも
 国家資格が取得できる社会福祉士養成課程があるのは新設大学が多く、学費も高い。数
 百万円の奨学金を背負って無理して進学した福祉系大学生たちは、おそらくはほとんど
 が投資したお金を取り戻すことはできない。”人の役に立ちたい”という純粋な心が、
 さらに深刻に貧困を遺伝させてしまっている。
  
おわりに
・90年代以降の”失われた20年”を席捲した新自由主義の傷跡は凄まじかった。同一企
 業で定年まで雇用される日本型雇用の崩壊から始まった親の世帯収入減と、高度教育予
 算の削減による学費高騰が発端となって、日本育英会が姿を変えた日本学生支援機構に
 よる”奨学金”という貧困ビジネスが大流行していた。
・政策として事実上「推薦」したことにより、若者が借金をして大学進学することが一般
 化して、学生という生業は二の次でアルバイト漬けになる、高単価な夜の世界や性風俗
 で働く、膨らむ借金と返済への不安で悩み続けるなど、かつての大学生には考えられな
 い事態が状態化していた。さらに安い労働力が欲しいブラック企業が大学生の貧困につ
 け込み、違法労働を強いて酷使するなど、負の連鎖が広がり続けている。
・貧しいということはおそろしく、負の連鎖はそれだけでは終わらない。どこの世界でも
 貧しい者は持っている者から奪おうとする。学生の過半数が”奨学金”という自己破産相
 当の借金を背負う大学や専門学校は、もはや経済的貧困を抱える社会的弱者の集まりで
 あり、結果として犯罪的な奪い合いが始まるのは当然のことなのだ。
・貧しいことは男子学生も女子学生も変わらない。女子学生が”簡単に価値が認められる肉
 体”を持っているが、なにも持たない男子学生に”奨学金”のような残酷な制度を浸透させ
 れば、犯罪的な利益追求が勃発するのはいわば当然である。もはや大学は、なにが起こ
 るかわからない危険な場所になっているといえる。
・文部科学省や財務省が政策として取り入れた”奨学金”制度は、続々と女子大生を性風俗
 業界に送り、男子学生たちを犯罪行為に走らせ、ブラック企業を増長させて、最高学府
 である大学の治安を悪化させるという、とんでもない副作用を巻き起こしてしまった。
・若者たちに伝えたいのは、大学進学を選択する前に”金銭的”な事象を特化して、自分自
 身を徹底的に客観視しながらどの道を選択するのが最も”得”なのかを調査し、情報を集
 めて熟考して欲しいということだ。
・有利子の借金をして、人材育成の場である大学や専門学校に進学することは”投資”であ
 る。金融機関から融資を受けて設備投資して、利益を産みだす企業活動となにも変わら
 ない。4年間の時間とお金をかけて大学で学ぶことで、卒業後10年程度の期間で、
 400万〜800万円という付加価値を生み出せるのか、というシビアな計算が必要だ。
・大企業の総合職に新卒で入社したり、大卒枠の公務員になるなどの結果が出れば、十分
 に投資する価値がある。逆にベンチャー企業や中小企業に就職する程度では、投資した
 金額は戻ってこない可能性が高い。資格でいえば医者や弁護士、司法書士あたりは別格
 として、大学進学が条件にある社会福祉士あたりを取得しても、極めて高い確率で大き
 なマイナスとなる可能性がある。したがって親の世帯収入が低く、投資の回収に不安の
 ある若者は、勇気を持って「通学制の大学に進学しない」という選択をすることだ。
・日本の会社の9割以上は中小企業であり、中小企業への就職は大卒が絶対条件ではない。
 規模は小さくでも堅実な経営を続け、世界的な製品やサービスを生み出す会社も少なく
 ない。日本型雇用が壊れ、これからはさらに雇用は流動的になることが予想できる。非
 正規だろうがパートだろうが、向いている仕事を継続していれば必然的に技術やキャリ
 アがつき、いずれ突破口がひらけてくる。中学や高校では「夢」など実態のない甘言を
 教えられたかもしれないが、どこの角度から眺めても人間は平等ではない。将来的な選
 択が制限される借金を回避しながら、逆転する策を練るべきなのだ。お金はないけど勉
 強したい者は、通学過程の1割程度の学費で済む通信制で十分ではないか。