飽食時代の性 :田原総一朗

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この本が出版されたのは、いまから26年前の1984年(昭和59年)である。この年
に初めて日経平均株価が1万円を越えたとのことでこの年の2年後に、日本はあのバブル
期(1986年~1991年)に突入していく。この本が出た頃もすでにバブルの芽が出
始めていたようだ。人々は既に飽食時代を迎えていたのである。
それまでは人々は戦後の貧しさからの脱出のために、脇目も振らずに一所懸命働いていた。
そして、その努力の甲斐あって、衣食住足りたとき、人間はどうなるのか。そんな時代の
人々の異常ぶりを取材してまとめたのがこの本である。そこには、性に溺れ、性に狂い、
人間の本質とはなにか。男と女の本質とは何かを垣間見ることができる。
この飽食時代を経て、バブル崩壊を経た26年後の現代社会はどう変容したのか。当時の
異常さは一見浄化されたようにも見えるが、水面下に潜って見えないようになっただけな
のかもしれないし、また現代では当たり前になり異常は異常ではなくなってしまっている
だけかもしれない。
それにしても、あのお堅い田原総一郎がこのような内容の本を書いていた時代もあったと
は驚きであった。

飽食時代の性
・現在、平均的な人類一人が消費しているエネルギーを、生物のからだの基礎代謝に換算
 すると、体重約30トンの動物になるという。この30トンというのは、意味深長で、
 地球上に生息した最大の動物と言われる恐竜の体重が、だいたい30トンくらいなんで
 す。恐竜は身体が大きくなりすぎたために、白亜紀末に絶滅したということで、となる
 と、30トンというのは、地球上に生息し得るマキシマムだということになります。が、
 人類は、いまやそれを越えようとしている。
・人間は自然との決別を、いやおうなく本気に考えざるを得ない時期にきているのかもし
 れません。地球上に生息し得る限界体重になってしまって、われら人類、いったい、こ
 の先どうすれば、いいのか。
・夫と子供たちを送り出した後で、4人の愛人たちのマンションを歴訪してセックスを満
 喫し、帰宅してから翌朝までは、みごとな良妻賢母に徹している37歳の女性。家庭教
 師よりも拘束時間が短くて収入が良いというだけの理由で愛人バンクに登録している女
 子大生。少女ヌードを見ながらでないと性交できない35歳の精神科医。ちなみに彼の
 妻も精神科医で妻のほうが、友人の精神科医に夫の治療を頼んだのである。
・どのセックス・カウンセラーの診療所でも圧倒的に多い、いわゆる「ピーターパン症候
 群」の若い夫たち。彼らの多くは夫婦のセックスがうまくいかないと、なんと母親に付
 き添われて来ているのである。 
・性行動の主たる目的が子孫を増やすことにあるとすれば、快楽を追求する浮気妻やホモ
 セクシャル、インポテンツは、恐竜の体重に達した人類がこれ以上繁殖するのを防ごう
 とする、懸命な人口調整作業とも受け取れるし、絶滅を回避するための方策を必死に模
 索しているのではないかとも思われる。
・「メルヘン症候群」とは現実への興味を失ってメルヘンの世界を志向する若者たち。成
 長拒否のピーターパン主義と深く繋がりながら、いま、じわじわと広がりつつあるそう
 だ。
・攻撃、競争とセックスには密接な関係があるようで、たとえばオスが絶対的支配を持っ
 ているライオンでも動物園で飼育すると、オスがメスの尻に敷かれるという例が生じる
 ということだ。飽食状態にすると、とくにオスのセックスに対する活力、積極性が失わ
 れるのだという。とにかく動物を動物園で飼育すると、つまり文明の影響下におくと、
 どんどん人間的なセックスになってくる。過密状態になると、ホモセクシャルも出てく
 るし、ロリコンもでる。メスをめぐる闘いに負けたオスが子供のメスを相手に交尾をす
 るわけです。
・人間は、自分自身を文化で飼いならす、つまり自分自身を家畜化することによって、他
 の生物とは異なる社会的な存在になったのだというのである。自己家畜化。何とも刺激
 的な、想像力をかきたてる言葉だ。自己家畜化に成功したからこそ、驚異的な機械文明、
 都市文明を創出することができ、それこそ30トンの恐竜以上にエネルギーを食べる人
 類が40億人も生息し得るようになったのだろう。おそらくは一夫一婦制をつくり上げ、
 あるいは逆にセックスの快楽の部分を肥大させて確固たるセックス産業を出現させたの
 も、自己家畜化の産物にちがいない。だが、その自己家畜化がいわば大きく軌道から外
 れはじめたのではないかと思えてきた。夫と何人もの愛人たちに、まんべんなく、懸命
 に尽くしてまわる猛烈ハタラキ・セックスおばさんたち。恋人と愛人バンクを両立させ、
 「学生生活を一番大事にしたい」とひたむきな目でいう女子大生。誰もが、自分の生き
 方を、一所懸命に、真剣に考えながら、それでいてひたすら崩壊へ向かって突っ走って
 いるようだ。
・胃潰瘍や十二指腸潰瘍、あるいは頭痛、鬱病などといった病状で私のところにやってく
 る患者の20パーセント以上が、実は性生活に何か問題があって、それが起因になって
 いる。

藤村美葉の場合
・サルの社会でボスになれず、メスからも相手にされないダメはオスザルが、よく、メス
 の赤ん坊を盗んで、その赤ん坊を育てて交尾するなんてことがある。ところが動物園な
 ど狭い場所だと、他のサルたちに邪魔されて二匹だけで生活できる空間がつくれない。
 そうすると嬰児殺しをやってしまう。
 
蝕まれるコンピュータ・エンジニアの性
・家に帰るのが嫌で、いつまでも入院を希望する。あるいは病気を治したがらない連中。
 こうした患者たちのほとんどが、仮面鬱病で、現在、病院にやってくる患者のなんと
 25パーセントが、この仮面鬱病だということだ。従来の鬱病の範疇には入らない。そ
 の意味では本当の鬱病ではないウソの鬱病。しあし、もちろん患者たちは、ウソをつい
 ているのではなく、本当に苦しんでいる。だるい、疲れる、やる気が起きない。そして
 不眠症で、インポテンツ。本当の鬱病はインポテンツにはならない。
・仮面鬱病の最初の病状は、朝、新聞を読むのが億劫になる、面倒くさくなって、多いな
 字たけを読んでポンと置いてしまう。そこで私たちは「朝刊症候群」と呼んでいる。そ
 れから食べ物の好みがなくなってしまう。うまいも不味いもなく、ただ食べている。こ
 うなると危ない。そして、さらに悪化すると、人と関わること、話すことが極端に億劫
 になり、もちろんセックスもできなくなって、だからこそ、妻が、一所懸命にもりたて
 ようとすればするほど、煩わしくなって、たとえば病院へ逃亡をはかるというのである。
・家から逃亡をはかる男たちの妻は、いずれも積極型、世話やき型の「賢婦」が多いそう
 だ。 
・人生なんか、どう生きたって大した違いはないのだから、図々しくいい加減に生きたほ
 うがいい。
・高度成長の時期までは、私たち日本人の目標は明快だった。戦後の焼野原からの復興。
 とにかく外国なみに、人なみの生活ができるようになるために懸命に働く。つまり、
 「より豊かな生活」が、本音の、唯一のスローガンで、その大目標に向かってひたすら
 突進し続けた。だが、高度成長が終わり、国際経済摩擦などが激化するなかで、大目標
 は消え、新たな目標がつかめないままに、仕事は確実に厳しく、複雑になっている。仮
 面鬱病は、どうやらそんな複雑怪奇な現代を象徴する病気のようだ。

ピーターパン・セックス症候群
・戦後、われわれの親たちの世代、そしてわれわれにとっても、貧しさこそが最大の問題
 で、貧しさあらの脱出こそが最大の課題だったが、いまや豊かさこそが最大の問題にな
 りはじめたようだ。この数年大きな社会問題になっている校内暴力や家庭内暴力などは、
 豊かさを求めることにしか意味を見つけられない親や教師たちの世代と、豊かさの追求
 に全然意味が感じられない世代とのギャップが原因になっているように思われるし、最
 近とみに増えている中年以上の夫婦の離婚も、貧しさからの脱出という、夫と妻の共通
 の目標が失われたことが大きな原因になっているようだ。
・「貴族病」は、過保護で何の不自由もなく育てられた人間に多い病状で、通常の人間は、
 欲しくても手に入らない、やりたくてもできないという障壁が数多くあって、そうした
 障壁を突破するためにエネルギーを掻き立てして成長するのだが、障壁というものがな
 くて育ったためにエネルギーの発散の仕方がわからず、いわば最も手近なところで暴発
 させてしまうのだというのである。
・校内暴力や家庭内暴力も、じつはこうした暴発だと考える方が妥当で、一般に言われて
 いるようにフラストレーションが溜まったために爆発するのではなく、逆にノーフラス
 トレーションの人間たちが、エネルギーの発散方法が分からずに手近なところで無理や
 り爆発させている、いわば自損行為だということだった。 
・少なくともセックスに関する部分では、知識、技術、主導権のいずれをとってみても、
 男と女の関係は逆転しているようで、男女雇用機会均等法案に男たちが難色をしめして
 いるのは、このうえ職場まで女に脅かされてはかなわないという、はかない抵抗ではな
 いかという気さえする。性的に、「開発された」若い女性たちに、未開発で無知な男た
 ちが翻弄される、あるいは、夫のあまりの未熟さ、だらしなさに、妻が愛想をつかして
 捨て去る。というケースがあまりにも多いからだ。
・性革命、この言葉が一般化したのはアメリカでは60年代の中頃で、完全な自由、完全
 な自己実現を求める大きなうねりが、セックスの開放を、伝統的価値を破壊するシンボ
 ル的存在にまで押し上げたのである。ところが、性革命の時代は終わったのだという。
 なぜなのか。それに、熱い燃えたぎる時代が終わった、ということは、過度的な混乱は
 ありながら、やがて伝統的な落ち着きを取り戻すということなのか、それとも衰退に向
 かうということなのか。あるいは、これまでにはない新しい形が生まれようとしている
 のだろうか。
・若い世代の男たちには、女性と全面的に深い関わりを持つことを嫌がる傾向が強く、何
 人もの女性と部分的な関わり方をしているという例も少なくないようだ。妻としての女、
 セックス相手としての女、それも激しいセックス用とファッショナブルなセックス用と
 を使い分ける。そしてお喋りの相手としての女。おそらくは女性の方からも同じことが
 言えるはずで、だから、彼らの行動は、一見、極めてエネルギッシュで無秩序、破壊的
 に見えるのだが、実際はむしろ逆なのだ。全面的に深く関わるというのは、当然ながら、
 お互いの良い部分、嫌な部分のすべてにぶつかり、抱え込むことで、少なからぬ葛藤も
 経なければならず、かなりのエネルギーが必要だが、部分的に軽く付き合う場合には、
 嫌な部分は見なくてよく、エネルギーもさほど必要ではない。
・昔は、生活も苦しかったし、とくに嫁さんの場合には、掃除、洗濯、服や靴下の繕いと、
 やらなきゃならない仕事が、山ほどあって、亭主との関わりがどうの、なんて考えてい
 る余裕がなかった。言ってみれば、そうした仕事自体が夫との関わりだった。だけど、
 幸か不幸か、いまはそんなものは、機械とファーストフード、コインランドリーで間に
 合ってしまう。だから、夫と妻の関わりとは何か、何をなすべきか、といちからやらな
 きゃならない。これは難儀な仕事です。
・これまでは男と女が結婚し、一緒に住むのは生活の糧の獲得と家事と、お互いの役割、
 必要性が明確だったが、その部分では必ずしも協力を必要としなくなり、特に主婦が家
 事から解放されたために、男と女の関係が俄然肥大化し、性格の不一致がクローズアッ
 プされるようになったのだろう。   
・日本人の性生活が豊かになり、たとえば男と女が裸になってオーラル・セックスなどを
 するようになったのは、高度成長で住宅事情がよくなったこと、特に風呂と暖房が完備
 したことと密接に関係があるというのである。その意味では、性(セックス)は時代、
 社会のきわめてシャープな鏡のようなもので、逆に性のありようを見ていると時代、社
 会のありよう、ひずみ、問題などがよくわかるという。

飽食の性を科学する
・現代の「性」の実態をつかもうと、200人以上の人々に面接取材を行ったら、仮面
 鬱病、貴族病、メルヘン症候群、あるいはモーレツ・サラリーマンの陰画のような「一
 所懸命浮気妻」など、私の想像をはるかに超えた凄まじいケースにあまりにも多く出く
 わし、あらためて考え込んでしまった。
・ある学者は、セックスを本来の生殖から大きくはみ出させてしまったのは、人間の忌ま
 わしい文明公害だ、と決めつけた。一部の政治家たちが、少女雑誌やポルノ映画などの
 規制を強化せよ、と声高に叫んでいるが、彼らも、性が生殖からはみ出すのは、由々し
 きことだ、という認識の持ち主なのだろう。じつは私自身、生殖目的以外のセックスは、
 それこそ人類が見つけた文明の所産だとばかりおもっていたのだが、あらためて取材し
 てみると、それが大きな誤りだったことを知らされた。
・サルの世界、とくにピグミー・チンパンジーの世界では、セックスは生殖以外にも、集
 団を維持するための、さまざまな重要な役割を果たしているということだった。一般
 に動物のメスは、発情期以外には絶対に性行為をしないけど、ピグミー・チンパンジー
 はいつでも頻繁に行います。その点では人間そっくりだ。ピグミー・チンパンジーには、
 あきらかに生殖以外の、たとえば快楽のためのセックスが存在するわけだ。
・ピグミー・チンパンジーの世界ではセックスが重要な役割を持ってくるのですよ。緊張
 感が高まったとき、あるいはイザコザ、トラブルが起きたときなど、全部セクシャルな
 行為で解決してしまうのです。もっとも、完全に性行為をするということはなく、両方
 が寄ってきてお尻を付き合わせ、ちょっと接触をして離れるなんてことが多いようです。 
・ピグミー・チンパンジーの社会では、セックスが、生殖、つまり子孫を増やすという未
 来戦略にあると同時に、コミュニケーションの方法、トラブルの処理など現在の社会維
 持のための重要な戦略になっている。 
・セックスという有効な方法があるせいか、ピグミー・チンパンジーの社会では、お互い
 が殺し合い、傷つけあうなどという事件はとほんど皆無に近いということである。だが、
 セックスに生殖以外の役割を持たせているのはピグミー・チンパンジーだけではない。
 オランウータンの世界ではオスがつっ立ってメスにペニスを手で撫でさせたり、引っぱ
 ったりさせる、つまり手によるセクシャル・サービスが珍しくないそうだ。
・日本ザルのボスは、数多くのメスをまわりにしたがえて、ハーレムを形成はしているの
 だが、じつはそれらのメス群とは、ある意味で規律のある、というか、かなりストイッ
 クな関係を維持しているようだ。ある交尾期に、特定のメスと頻繁に交尾する。そして
 交尾期が終わる。すると、次の交尾期が来ても、もうそのメスとは交尾しない。そして
 今度は別のメスと交尾する。しかし交尾器が終わると、やはり再び交尾はしない。だか
 ら、交尾期にボスザルのまわりにはたくさんのメスザルがいるのですが、そのメスザル
 たちのほとんどは非性的な関係で、ちょうど江戸時代の大奥みたいな状態なのです。
・チンパンジーの社会では、メスはわりと誰とでも交尾するんです。メスが誰とでも交尾
 するのは、つまり妊娠しない期間なのです。妊娠する期間は、順位の高いきまったオス
 とだけちゃんとする。逆に言うと、妊娠しない期間は、順位の高いオスはメスに見向き
 のせず、メスが誰とやろうと平気なんです。だからこの期間に、順位の低いオスとか若
 いオス、ときには、幼いオスまでが、いわばまんべんなく交尾できるわけです。どうや
 らこの妊娠期間外の自由なセックスは、劣位のサルたちの欲求不満を解消すると同時に、
 若いサルの性教育の役割を果たしているようだ。
・緊張緩和、トラブル処理、もちろん快楽もあり、コミュニケーション手段もあり、さら
 には性教育と、サルたちのセックスは、単なる生殖の手段ではなく、われわれ人間顔負
 けの豊かな世界を形づくっているらしいことがわかる。メスがオスから食物などをもら
 うためにセックス・サービスをする、つまり売春に類する行為も見られるそうだし、ア
 ナル・セックスや、口をつかってのセックスもあるということだ。人間がやっているこ
 とは、ほとんどサルの世界でもやっている、人間だけのセックスだ、なんて考えるのは、
 無知ゆえの傲慢さである。
・もっとも、動物たちも動物園に入ると強姦をはじめるそうだし、ロリコン、嬰児殺しな
 ども行うようになるというのだ。つまり動物園に入れられるとそれぞれの動物の性のあ
 りかた、ルールが大きく狂ったり壊れたりしてしまうというのである。
・人間のセックスが動物のそれと異なる最大の点は、人間の場合、大脳の働きがセックス
 の重要な要素になっていることだ。現実のセックスよりイメージのなかのセックスへ、
 傾斜を強めているケースが驚くほど多かったことを、あらためて思い出した。これは、
 イメージ・セックスを、現実逃避だとかひ弱なセックスとしてとらえていたのだが、よ
 り大脳の「参加」が強化された、つまりそれだけ進化したセックスということになるの
 かもしれない。 
・動物園に入れられると、動物たちの性が狂ってしまうといったが、人間は大脳が関与す
 ることで、さらに「狂い」が加速してしまっているのではないだろうか。動物園動物の
 先は、家畜化ということになる。たしかに人間にはその側面がある。人間は大脳の働き
 でその状況を主体的に捉えなおし、あるいは作りなおして、それを自分の中に組み込む
 ということができる。私はそれを自己家畜化と呼んでいるが、単なる家畜化と自己家畜
 化とは、天と地ほども違う。そのいずれの生き方ができるか、その意味ではいま、正念
 場にあると言えるのではないか。
・ライオン、孔雀など、動物の場合はほとんど例外なく、オスのほうが派手で目出すよう
 にできているが、そのなかで人間だけは、逆に女性のほうがきれいに着飾る。これはど
 ういうことなのか。動物の多くが嗅覚に頼って行動しているのに対して、人間は数少な
 い視覚動物で、そこに人間の特異性を解明するカギが潜んでいるはずだ。
・人間の嗅覚は、イヌの10万分の1程度。その代わり、視覚が非常に発達していて、た
 とえば、色が識別できるのは霊長類と人間だけのようだ。2本足で立ち、樹上生活をす
 るようになったため嗅覚が衰えて視覚が発達した。サルのメスは発情期になると、尻が
 赤くはれあがる、という現象も、サルは視覚動物になったために、視覚によるセックス・
 アピールをするようになったというのである。ところが、われわれ人間はサルのような
 後背位ではく、対面位で性行為を行うために、もっとも目につく乳房が膨らんだのだと。
 つまり、女性の乳房が膨らむのは、サルの尻が赤くはれあがるのと、同じセックス・ア
 ピールだというのだ。
・チンパンジーは、もちろんメスだけで子育てをしているのですが、人間は子育てにオス
 を引き込んだ。つまり、メスとオス、女と男で、協同して子育てをしている。男が外で
 働いてお金を稼ぐのも子育ての一環で、これこそが、私たち人間の最大の生殖戦略です。
 男を子育てに引き込んだために、人間の女は子育てから半ば解放され、だからその期間
 もセックスがきでるようになった。というよりも、人間の女には発情期というものがな
 く、いや、そうではなくて、じつは、いつも年中発情期なんです。他の動物のメスたち
 は、すべて一定の発情期があって、発情期以外のセックスがほとんどないのに対して、
 人間の女性は性周期に関係なくいつでもセックスができる。その意味では、動物たちか
 らみれば、人間はとてつもないセックスのお化けだと言えるだろう。
・人間のメスはオスを子育てに引き込んだ。しかし、そのためにはオスを引き込み、引き
 つけておく強力な武器が要る。吸引力がいる。だからこそ、あらゆる動物のなかで、人
 間の女は例外的に化粧をし、着飾ったりして、懸命に自分を美しく、魅力的に見せよう
 と、それこそ涙ぐましい努力をしているのです。だからメスの性的魅力、セックス・ア
 ピールの象徴として乳房が膨らんでいるし、オスに対するいわばサービスとして、性周
 期に関係なく、いつでもセックスに応じられる態勢になっているわけです。その意味で
 は、人間の女はあらゆる動物のなかで一番美しい、魅力的な存在だと言えるのではない
 でしょうか。
・乳房を大きく膨らませ、剛毛を落としてなめらかな肌を露出させるという生殖戦略によ
 って、人類は凄まじい繁殖ぶりを示した。だが、乳房となめらかな肌は、たんに人類を
 量的に増やすことに貢献しただけではなさそうだ。脱毛してなめらかな肌を露出させた
 ことが、言葉の発達を促し、つまり人類の文明に少なからぬ影響を与えた。乳房が膨ら
 み対面位でセックスをするようになったことが、よく指摘されるように、愛のささやき、
 言葉によるコミュニケーションの発達を促したのだろう。
・最近、自閉症児が深刻な社会問題になっているが、自閉症児は、知的水準の高い過保護
 の家庭に多いそうで、親たちが子供を危険な目にあわせまいとするあまり、子供から危
 険要素を全部取り除いてしまうのが原因だというのである。そのために子どもたちは熱
 い、痛い、冷たいなどの皮膚感覚が体験できず、実感がつかめなくて言葉との遊離をお
 こしてしまうのだというわけだ。ところがいま、都会では冷暖房完備で、都会の人間た
 ちの皮膚感覚がどんどんダメになってきて、そのことがセックスもダメにし言葉のリア
 リティを失わせつつあるのではいか。
・女性たちの多くは、しだいに、男を引きつけておくことに熱心ではなくなってきてい
 るようだ。性周期に関係なくいつでも発情できる強力な武器を駆使することが億劫がり
 はじめているようだ。その結果、と言えるだろう、凄まじい繁殖の決め手だった「男女
 協同の子育て」という基本のかたちが徐々に揺らぎはじめているようである。
・これまで、人間を含め、あらゆる動物、生きとし生けるものは、種の利益、種の繁殖こ
 そが最優先して、個体の生命はそのために捧げられる。つまり、個体というものは、種
 の存続のためにあるので、言ってみれば将棋の歩みたいなものだったというのが定説の
 ようになっているが、それは大きな誤りだ。
・個体の徹底的なエゴイズムの追求こそが自然の姿で、それが結果として種の利益、つま
 り全体の利益、繁栄をもたらすのだ、ということになると、これはそれこそコペルニク
 ス的転回、革命的な出来事で、哲学や自然科学だけではなく社会科学まで大きく変わら
 ざるを得なくなるだろう。 
・個体のエゴイズムの究極は、自分自身の遺伝子を最大限に残すことだと言われています。
 ということは、なによりも自分自身の生命を保持することであり、それ以上に自分の子
 供をできるかぎりたくさんつくって残すことで、そのために様々に努力し、闘い、ある
 いは利用しあうわけです。
・オスとメスとが、仲良く飛んでいる光景を、夫婦うるわしき愛の光景、なんて説明して
 いるが、実際はとんでもない話で、要するにオスはメスが浮気して、他のオスの子供を
 産まないように徹底的に監視し、ガードしているのです。げんに、メスの交尾器のとこ
 とろゴチャゴチャやって他のオスの精子を全部取り出してしまい、それから、自分の精
 子をメスの体内に入れるなんてことがよくあります。油断もスキもないわけだ。
・オスとメスの騙し合い、あるいは、熾烈な争い。これがむしろ自然界の当たり前のかた
 ちで、種の利益、種の保存が第一ならばこんな馬鹿なことは絶対にしないでしょう。ラ
 イオンやある種のサルたちの世界では、オスが新しいメスと交尾するときには、そのメ
 スと他のメスとの間にできた子供たちをみな殺しにしてしまう。 種の保存こそが第一
 というのが自然界の法則だとするならば、こんな子殺しは存在しないはずだし、他のメ
 スの子供を生ませないように貞操帯をはめたり、あるいはライバルのオスに貞操帯をは
 めるなどというおかしな行動はとらないはずで、「撤退したエゴイズムの追求こそが自
 然のかたち」という説のほうが確かに説得力がありそうだ。「うるわしい愛情とか、愛
 の絆なんていうけれど、オスとメス、男と女というのは、つまりは、自分の遺伝子を最
 大限残すというエゴイズム追求のために利用し合っているのだ。
・私たち人間がよほどのことがないかぎり、盗みや殺人といった反社会的行為をしないの
 も、倫理や道徳観念からではなく、他人のモノを盗めば逆に盗まれる、殺せば、殺され
 ると、つまり反社会的行為を働くと、結局損だと判断してエゴイズムゆえにやらないの
 だ。 
・自然の動物たちの世界では、一匹のオス、あるいはひと組のオスとメスが育てられる子
 供の数は、彼女たちがかき集めることができる食物などの総量で決まります。その範囲
 を越えた子供は絶対に育てられない。人間の場合も昔は、これと同じことが言えたはず
 で、その時代には、男と女がそれぞれ自分の遺伝子を残すために協力し合う、いや利用
 し合うことが必要だった。ところが、時代が豊かになり、しかも社会福祉なんておかし
 な制度が完備すると、自分の遺伝子を残すために、必ずしも夫と妻が協力し合う必要が
 なくなってしまう。極端に言えば、生みっぱなしで放置しておいても、国家がそれぞれ
 の個体の遺伝子を維持してくれます。となると、当然、遺伝子のエゴイズムは、夫婦を
 結びつける絆にはならなくなり、「愛」なんて頼りないものにすがらなくてはならなく
 なってしまう。 
・性欲と食欲の司令回路は、クロスしている部分もあるということで、となると、つまり
 脳のメカニズムから見ても、性欲と食欲とは極めて密接な関わりをもっている可能性が
 ある。
・男にとっては、セックスというのは、攻撃性と深く関係していて、これがないとダメな
 ようです。ところが過保護に育てられ、欲しいものは何でも与えられる、いわゆるマザ
 コン。それが性情報の氾濫、これなんか、逆にコンプレックスを刺戟してマイナスの影
 響を与えているのじゃやないか。

中高年の性的冒険
・私が、会った中高年の男性の大半は、多い少ないの差こそあれ、妻以外の女性との体験
 を持っていた。むろん、妻以外の女性との体験を現在も持続しているケースも少なくな
 かった。だが、その誰もが、会社=仕事、家庭=妻と、情事とのバランスを懸命にとり
 つづけ、情事によって家庭や仕事が壊れないように、それぞれに高い堤防を張りめぐら
 していた。
・セックス・マッサージ、女装クラブ、あるいは「メルヘンの部屋」を持つことによって、
 なんとか心身のバランスを保っている中高年ビジネスマンたちも、愛人バンクではじめ
 て生きる喜びを見つけたダメ中年も、いずれも家庭=妻に極秘で、それぞれ懸命に内と
 外とを使いわけていた。
・同窓会の会場で、ほとんど例外なく50歳の男たち、女たちが16~17歳の高校生あ
 るいは20~21歳の大学生に戻る。30代の頃は、男たちは無理やり肩をいからせて、
 それぞれの企業や役所、学校を背負って立っているかのように突っ張り、女たちは、そ
 れぞれの表現で夫を自慢し合ったものだった。40代になると、男たちは寡黙になった。
 競争が本当に熾烈になって関係ない人間たちに突っ張ってなど見せる余裕がなくなった
 のだろう。当然、出席率が極端に悪くなった。そして女たちの話題はもっぱら子供のこ
 と、つまり子供の自慢話だった。ところが、50歳近くになると、出席率は俄然高くな
 って、男たちは仕事の話もしなくなり、女たちの口からも夫や子供の話はまるで聞かれ
 なくなる。そして、まるでタイムトンネルをくぐったように、あっさりと元の高校生や
 大学生になる。問題はその後だ。かつての初恋同士、あるいはボーイフレンドとガール
 フレンドなどのカップルが復活する例が少なくないらしいのだ。30年前には全くふれ
 あいがなかったのに突然燃え上がったというケースも結構あるようだ。

あとがき
・電気洗濯機、掃除機、あるいはファーストフードなど「文明の利器」の普及によって、
 時間的にも肉体・精神的にも、余裕、暇ができたのだ。となれば、当然生きる意味を考
 そして、こうした試行錯誤の中で必然
 的に「自立」を目指すことになる。それに、離婚がどんどん増えていること、それも中
 年上の夫婦に、妻側からの離婚が急増していることは、一般的には家庭崩壊、つまり憂
 いべき事柄だとされているようだが、女側からすれば、相性の合わない男との生活を我
 慢するのではなく、新たなるチャンスをつかむ自由が増大したことになるわけだ。
・わたしたち男。とくに中高年。まるで働く機械。だが、働く機械の内実は、半身は会社
 あるいは仕事に帰属し、残る半身は家庭に帰属している・逆に言えば、会社と家庭に全
 身まるごと委ねているからこそ、働く機械でいられるのだろう。だが、会社、家庭の両
 者共に揺らぎはじめた。とくに家庭。いわば共生のような関係にあった妻が独立しはじ
 めた。困惑し佇むわれた男、とくに中高年、われらの自立こそが緊要事であり、その意
 味で、いわゆる正念場に立たされているわけだ。