不倫 :中野信子

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この本は、”不倫とはなにか”を改めて考えさせられる内容のものである。不倫とは「倫
理的・道徳的でないこと」という意味合いであると思うが、日本では、一般的には配偶
者以外との男女関係のことを意味している。つまり、一夫一婦制度の枠はらはみ出た男
女関係を倫理的でない、道徳に反する関係としているわけであるが、果たして一概にそ
う言えるのであろうか、というのが筆者の主張であろう。
まず、不倫は”倫理に反するものかどうか”という点については、動物としての人間は、
動物として本来備わってきた”子孫を残す”という本能(遺伝子)から見れば、できるだ
けたくさんの異性と”交わる”という行為は、自然なことであり、理になかった行為であ
る。それは、倫理・道徳の問題ではないのではないかとしている。
不倫は、一夫一婦制という現在の結婚制度に反するものであるが、結婚制度というもの
は、国によっても違いがあり、またその時代によっても変わってきた。いまの一夫一婦
制が定着したのもそんな昔からではない。日本においても、昔から権力のある者や財力
のある者は、複数の女性を”囲ってきた”歴史ある。それは明治維新以前はもちろんのこ
と、近代といわれる明治維新以降においても、つい最近まで続いており、社会的にも積
極的に認めるいうことはなかったかもしれないが、暗にそれを容認してきたということ
は事実だろう。
戦前の刑法には”姦通罪”というものがあり、不倫は犯罪であると明確にされていたが、
戦後の刑法ではこの”姦通罪”は削除されて現在は存在しない。つまり、刑法的には不倫
を犯罪とする法律は存在しないのである。
それにもかかわらず、最近は不倫に対する”世間の目”が年々厳しさを増しており、不倫
が発覚した政治家や芸能人などの著名人が、マスコミやネットでまるで犯罪者のように
激しいバッシングされるケースが目だっている。
本来ならば当事者同士の間の問題にもかかわらず、まったく無関係である人々が”正義
をふりかざして”激しく叩くのである。なぜそうなのか。それは”妬み”という感情から
きているという。つまり、”自分たちだけであんないい思いをして”という嫉妬心がそう
させているのだという。
つまり、不倫を激しくバッシングしている人々の心の中には、「自分もほんとうは不倫
したいけれどもいろいろな制約からできない。それなのにあの人たちは自分ができない、
あんないい思いをしている」という強い妬みの感情があるという。”不倫は悪”とする人
たちの根底には、自分も不倫をしたいという不倫願望が潜んでいるだという。そうなる
と、不倫を激しくバッシングする人々の「倫理に反している、道徳に反している」とい
う主張は、単に”妬み”であり、”正義”としての拠りどころを失ってしまう。
一方、いま、日本では少子化に歯止めがかからない状態が続いている。このまま少子化
が進めば、日本の人口は半分以下にまで減るのではという予想もされている。この少子
化の原因のひとつとして、不倫に対する激しいバッシングに見られるように、日本の現
在の結婚制度に対する厳しさが一因になっているのではないかという見方もある。日本
では、不倫や結婚を経ないで生まれた子ども(婚外子)を社会的に認めていない。
諸事情のため自分で育てることができない新生児をなんとか助けたいと、熊本の慈恵病
院で始めた”こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)”も、いろいろな反対意見が続出
して、なかなか全国的な広がりをみせないのが現状だ。
フランスでは、国として婚外子を認めることにより1.6まで下がった出生率が2.0
まで回復し、今では新生児の5割以上が婚外子だという。つまり、生まれてくる子ども
の半分以上は結婚というかたちをとっていない女性から生まれてきているということだ。
これは衝撃的な数字だ。
それに比べて日本はというと、いまだに結婚と制度にこだわり、婚外子は認めず、婚外
子は”白い目”で見られ、社会からの非難の対象にされてしまう。そのため人工妊娠中絶
数が年間18万件以上という世界的に見ても非常に高い国になってしまっている。出生
率の低迷で悩む日本は、この事実をしっかりと受け止める必要があるのではないだろう
か。
”不倫だ!”と過剰なまでに規律ばかりを振りかざし続けていると、日本という国は、人
口減少に歯止めがかからないだろう。その対策として、政府は強引に外国人労働者をた
くさん受け入れる方向に舵を切ったが、このままいくとこの国は、いつの日にかほんら
いの日本人よりも外国人のほうが多くなる日がくるまもしれない。はたしてそれが、わ
れわれ日本人にとって幸せなことなのだろうか。
日本もそろそろ、フランスをはじめとする西欧諸国のように、生まれてきた子供は、た
とえ婚外子であっても、国や社会が積極的に養育するんだという、もっと”寛容さ”のあ
る社会になっていってもいいのではないだろうかと思う。

はじめに
・不倫に対して、世間の目が年々厳しさを増しています。実際、博報堂総合研究所の調査
 (2016年)によると、「好きならば不倫関係でも仕方がないと思う」と答えた人の
 割合は約10%にすぎず、20年前の調査と比較して半減しています。ひとたび不倫が
 発覚してしまえば、マスコミやネットで容赦なくバッシングされます。本人の社会的信
 用はもとより家庭も崩壊の危機に直面します。経済的なリスクも多大です。
・しかし、これほど失うものが大きいことがわかっているはずなのに、依然として不倫は
 次から次へと発覚し、一向に減る気配がありません。いったいなぜなんでしょう?
・結論から言うと、今後の人類社会において、不倫がなくなるということはおそらくあり
 得ないだろうと考えられます。なぜなら、人類の脳の仕組みは、「一夫一婦制」には向
 いているわけではないからです。  
・不倫に走る人々を、ことさら「淫乱」とか「倫理観を持ち合わせていない」などと安直
 に断罪することは、物事の本質を見誤せる元凶にもなりえます。
・私たちの脳は、ただ遺伝子や脳内物質に操られているだけです。いくら不倫バッシング
 が強くなろうと、大切なパートナーが怒り狂おうと嘆き悲しもうと、不倫がなくなる日
 がやってくることはないでしょう。 
・そもそも哺乳類の世界では、一夫一婦型の生き物は少数派です。旧来は一夫一婦型とさ
 れてきた生き物の大半が、実はパートナー以外とも性的関係を持っていることが珍しく
 ないことがわかってきました。
・人類の歴史を見ても、一夫一婦制が法律や道徳してはともかく、実態として厳格に守ら
 れてきたことは、ほとんどないと言っていいでしょう。そればかりか、一夫多妻や乱婚
 を許容してきた社会集団のほうが、むしろ人口の維持には有利な側面もあったのです。
 このように考えてみると、不倫が発覚するたびに大騒ぎし、その当事者の全人格を否定
 するかのようなバッシングが、どこか物悲しい狂態に見えてくる気がえする 
・人類は社会的動物です。国家、家族、会社、学校やサークルといった共同体を維持する
 ことによって、人間社会は成り立っています。共同体は、その資源(リソース)を増や
 すために構成員(個人)がそれぞれ一定の協力をし、共同体からリターンを受け取るこ
 とで維持されています。
・ところが、なかには共同体のリソースを増やすための協力をせず、リターンだけを受け
 取ろうとする者もいます。自分は汗をかかずに、おいしいところだけをごっそりもらお
 うという輩です。こうした存在は「フリーライダー」と呼ばれます。
・不倫をする男女は、家庭や社会におけるフリーライダーであるとも言えます。家庭を維
 持するための労力を回避し、恋愛の「おいしいところ」だけを享受しているように、当
 事者以外からは見えるからです。不倫するカップルをフリーライダーとみなし、激しく
 攻撃を加えることが共同体の秩序を守るための「正義の行動」だと信じて、人々は不倫
 カップルを徹底的に叩きのめそうとするのです。 
・この「正義の行動」には快楽がともなうという仕組みも、脳には備え付けられています。
 人々が偏執的なまでにフリーラーダーを見つけ出そうとし、みつけるやいなや狂喜乱舞
 してバッシング祭りが始めるように見えるのは、理由のないことではないのです。冷静
 に考えれば滑稽であっても、不倫そのものと同様、不倫バッシングもまた、なくなるこ
 とはないのです。
・一夫一婦制が広く社会制度の中に組み込まれて以降、不倫が発覚した場合は「姦通罪」
 が適用され、さまざまな社会的制裁や刑罰が加えられるということがしばしばおこなわ
 れてきました。それは単に「不倫は道徳的でない」という倫理的な理由だけではなく、
 もっとドライで冷厳な生物学的メカニズムが働いていたのです。現実社会では、週刊誌
 やネットメディアが非常に優秀な「不倫検出&排除」のツールとして機能してきたと言
 えるでしょう。

人類に一夫一婦制は向いていない
・不倫が「道徳的に許されない」と考える人の割合は、パレスチナとトルコの94%を筆
 頭にヨルダン、エジプト、インドネシア、レバノンなどイスラム教圏の諸国では90%
 以上です。割合の低い順ではフランスが47%とダントツですが、次いでドイツ60%、
 インド62%、イタリアとスペインが64%と続きます。一方、日本は69%でした。
 これは国際的に見れば決して高いほうではありません。
・「貧しい国ほど不倫率が高い」という指摘もあります。「結婚もしくは同棲している人
 々」のなかで「1年以内に複数の性交渉の相手をもった人」の各国比較をすると、トッ
 プは西アフリカにあるトーゴ、以下カメルーン、コートジボワール、モザンビーク、タ
 ンザニアと続きます。逆に浮気の比率が低いのは欧米諸国で、アメリカ、フランス、イ
 タリア、スイス、オーストラリアとなっています。
・「日本人の性行動の実態」調査によると、「過去1年間に決まった交際相手(配偶者・
 恋人)以外との性的コンタクトを持った人」の割合は、男性64%、女性29%でした。
 なお男性の場合は、未婚者は76%、既婚者は57%が特定の相手意外と性的コンタク
 トを持ったと答えています。
・避妊具メーカーとして知られる相模ゴム(株)が2013年に行った調査によると、結婚
 相手あるいは交際相手がいるうち、「その相手以外にセックスをする人がいるか」とい
 う質問に対し、「いない」の回答率が全体の79%、でした。ということは残りの21%
 は「いる」ことになります。「いる」の割合は、男女別では男性27%、女性16%で
 した。世代性別では20代男性が31%ともっとも高く、女性でもっとも高いのは40
 代の19%でした。日本社会には発展途上国並みかそれ以上に不倫が横行していること
 になります。
・不倫はどれだけ少ない国でも殺人の100倍くらいはあります。つまり不倫は人類社会
 ではありふれた行為といえるでしょう。 
・2011年に関東圏で中高年を対象に行われた調査によると、「配偶者以外の異性と密
 接な付き合いがある」と答えたひとの割合が、男性では40代38%、50代32%、
 60代29%、70代32%、女性では40代15%、50代16%、60代15%、
 70代5%でした。同じ調査で、愛撫や性交をともなう関係に限った数字も出ています。
 こちらは、男性では40代29%、50代30%、60代20%、70代17%(ただ
 し性風俗の利用を含む)、女性では40代14%、50代10%、60代5%、70代
 1%でした。
・興味深いのは、00年に行われた同様の調査と比較すると、男女とも「配偶者以外の異
 性と親密な付き合いがある」と答えている人の割合が軒並み増加していることです。若
 者の草食化が指摘される一方で、既婚の中高年では異性との関係が積極的になってきて
 いるようです。
・どの調査をとってみても、日本はおそらく世界の中では不倫率が高い部類の国だろうこ
 とが予想できます。日本社会はとくに近年、不倫が発覚した著名人に対するバッシング
 が凄まじいわりには、実際には社会のそこかしこで不倫がおこなわれているという、ま
 ことに不思議な状態にあると言えます。
・人によっては、1人の人間がただ1人の特別な相手とだけ性的な絆を結ぶというかたち
 以外の婚姻の形態−一夫多妻、一婦多夫、多夫多妻など−に対して、生理的な嫌悪を抱
 くかもしれません。しかし人類の歴史を振り返れば、一夫一婦制以外の婚姻形態はけっ
 して珍しいものではありません。 
・古代社会では、男女とも複数の相手と交わることがありました。「万葉集」には恋愛と
 性愛が直結していたことがうかがわれます。もっとも、当時の結婚制度自体が現在のよ
 うなものではなかったことは差し引かなければなりませんが、人妻との恋すら、厳罰の
 対象となるものではありませんでした。今日では当然のこととされている「特定の異性
 と交際強いているときは、別の異性と交際してはいけない」という規範はなかったので
 す。
・そうした状況が大きく変化したのは、中世から近世にかけて、結婚に親(家)が関与す
 るようになって以降であると考えられます。この時代には男女ともに結婚の決定権を握
 るのは両親(とくに父親)になり、「血統、家を守る」という価値観にもとづく男性優
 位の家父長制度が成立していました。その結果、夫婦関係は互いに恋愛感情を抱き、肉
 体的な快楽を分かち合うための結びつきというより、「子孫を残し、家を残すための契
 約」に近い関係となります。人妻との姦通に対して、暴力的な制裁がなされるようにな
 ったのもこの頃のようです。
・ただし社会階層が高い権力者などの間では、後継ぎを残し、権力基盤を確固たるものに
 するため、一夫一婦制よりむしろ一夫多妻が奨励されていました。「世継ぎができなけ
 れば、夫は妻を替えてもいい」という考えがあったのです。
・その一方で、天皇家をはじめ、摂関家や将軍家、公家でも、位を承継する男子以外は独
 身のまま出家することも少なくありませんでした。また、彼らの労働力であった下人も、
 中世前期までは基本的に単身者であることを求められていました。江戸時代でも、商家
 の男性奉公人や下層民などには結婚できない独身者も多かったと見られています。
・さらに時代が下がって明治(近代)に入ると、法律上は一夫一婦制が基本なります。そ
 れでも、地位のある男性が愛人を持つことはしばしば見られました。女性側には姦通罪
 が適用されましたが、現在のように社会的制裁としての国民大多数を巻き込むような不
 倫バッシングが起こることはありませんでした。明治には江戸時代には禁止されていた
 異なる身分間での結婚についての規制が解かれ、士族と平民、日本人と外国人の結婚が
 自由になっています。 
・大正時代には親の決めた相手と結婚するのではない恋愛の自由、結婚の自由が謳われる
 ようになりました。しかし、「親の強制」とまではいかないけれど恋愛結婚ともいえな
 い「お見合い結婚」も、1920年代頃から一般的になっていきます。
・一方、近代に入ってからも、日本各地には「夜這い」の風習が残っていました。たとえ
 ば、祭りなどのある一定期間、村落全体で女性の性を開放したり、娘や後家、女中だけ
 を開放したりすることで、共同体を結合、維持させる働き、日頃につらい労働に対する
 ガス抜きや、不妊の夫をもつ家庭に労働力としての子どもをもたらす機能、を果たして
 いたと考えられています。また同時に、生物集団の存続や遺伝的多様性の保持にも大き
 く寄与していたと考えられます。
・こうして歴史を振り返ると、結婚制度とは別に、性欲を満たしたり生殖を促す仕組みが、
 かつては日本社会にも備わっていたことが窺えます。
・アメリカの人類学者は、世界に238ある人間社会のうち、単婚(一夫一婦婚)のみが
 許されている社会は、43だけだと指摘しています。
・よくよく考えれば、現在の日本をはじめとする先進国の社会制度は、本当の意味での一
 夫一婦制を前提としてはいません。現在結婚している人が別の誰かと恋愛すれば、「不
 倫」となります。しかし、伴侶を亡くしたり離婚をした場合、「時間差」があれば、再
 婚は許されています。時間差があれば他の異性と結婚することができる制度は、狭義の
 「一夫一婦」ではありません。
・再婚を社会的に許容している以上、「ひとりの相手を愛し、パートナーとして選んだら、
 終生その相手との関係性を保持し続けるべきである」という感覚を、私たちは社会倫理
 とはしていないとも言えます。
・一度パートナーを決めた後、その相手以外を愛せないタイプの生物も存在します。たと
 えば、北米に生息するプレーリーハタネズミは、「一夫一婦」を保持し続ける生物とし
 て有名です。プレーリーハタネズミは、オスとメスが結ばれると、24時間あたり15
 回から30回の頻度で交尾を繰り返し、その後も互いにぴったり寄り添い、毛繕いする
 ようになります。オスは夫婦関係ができる以前は穏やかな性質ですが、特定のメスと結
 ばれた後、そのメス以外のプレーリーハタネズミを見つけると、オス、メスを問わず激
 しく攻撃するようになります。
・彼らはいったん「つがい」ができると、終生そのパートナーと添い遂げます。人為的に
 オスとメスを引き離し、他の異性を与えても、新たなカップルはなかなかうまくいかな
 いこともわかっています。さらにはパートナーが死去した後、他の異性から求婚されて
 も、それを攻撃して退けるほどです。
・また、プレーリーハタネズミはオスは子育ても積極的に担います。子どもが生まれると、
 オスはその巣に食べ物を献身的に運びます。またメスが巣の外に出るときには、子ども
 に寄り添って毛繕いをし、守ってやるのです。
・プレーリーハタネズミのような一夫一婦型の性行動を取るのは、哺乳類では3〜5%し
 かいなにはいと言われています。かつては多くの生物が一夫一婦型だと思われた時代も
 ありましたが、研究が進むにつれ、生物の世界において一夫一婦型は多数派ではないこ
 とがわかってきました。しかも、「一匹のオスを中心に多数のメスがハーレムを形成す
 る」といった一夫多妻のケースだけでなく、いわゆる不倫、乱婚をする生物も多く存在
 します。 
・高山帯に広く分布するイワヒバリという鳥は、オスとメスが複数個体ずついる群れで生
 活し、メスがそれぞれ巣を作ります。しかし、イワヒバリのメスは群れの中のほぼすべ
 てのオスと交尾します。そのため、オスはすべてのメスの巣にエサを運ぶのです。
・オーストラリアの生息するルリオーストラリアムシクイという美しい小鳥は、非常に
 「不倫率」が高い事でも知られています。ルリオーストラリアムシクイは一夫一婦のつ
 がいを形成するものの、オスもメスも盛んに他の異性と交尾をします。そのため、なん
 と8割近くのつがいが他のオスのDNAを持つヒナを育てているのです。 
・アメリカに生息するガニソンプレーリードッグのメスは、発情中に複数のオスと交尾し
 ます。一匹のオスと1回の交尾しかしないメスより、”好色”なメスのほうが受精率が
 高くなり、結果として多くの子孫を残せるという傾向があります。
・総じて乱婚のメスのほうが、健康な子孫を多く産む傾向にあると指摘しています。人類
 に近い他の霊長類をみても、必ずしも一夫一婦背型ではなく、むしろ大部分は一夫多妻
 です。ゴリラは一夫多妻、チンパンジーやボノボ、オランウータンは乱婚です。ゴリラ
 は群れの中でオス同士が戦い、買った頭のオスが群れのメスを守ることができます。
・チンパンジーはメスが発情すれば、オスはメスと次々に交尾をし、メスも手当たり次第
 に違うオスを受け入れます。
・一方、一夫一婦型に近いと言われる霊長類テナガザルがいます。テナガザルは群れを作
 らず、単独行動でも生きて行けるため一夫一婦型が可能なのだと考えられています。
・霊長類においては同性愛もけっして珍しいものではありません。ゴリラやオナガザルの
 一種であるラングールはオス同士での交尾を好み、ニホンザルはメス同士が交尾し、ボ
 ノボじゃ雌雄を問わず同性同士で交尾することがあります。ただし同性で交尾しても異
 性愛を阻害するわけではなりません。また、メスが妊娠しても、同性との交尾をやめま
 せん。ボノボに関しては同性間・異性間とも、交尾によって仲間の絆を深めているとい
 う見方もありますが、それ以外の霊長類に関しては、たんに快楽を求めているだけだと
 いう説もあります。 
・いずれにせよ、特定のパートナー以外の性行為をすることは、生物界では普通のことで
 す。むしろ一夫一婦型のほうが珍しい変わり者と言えます。
・霊長類の乱婚の度合いは、オスの睾丸の大きさ、言い換えれば精子の生産能力と強い相
 関関係があることがわかっています。たとえばチンパンジーは、1頭のメスが7、8頭
 のオスと1日10回以上にわたって乱交することもざらにあります。するとオスは、メ
 スの体の中で他のオスの精子に勝たなくてはなりません。競争に勝つためには、大量の
 精子が必要になります。これは精子間競争と呼ばれます。
・乱交するチンパンジーの精巣は、人類の約3倍の重量があります。睾丸の重さの体重比
 もチンパンジーは0.2〜0.8%と言われていますが、人間は0.06%です。
・同じ類人猿でもゴリラの場合はメスが基本的に1頭のオスとだけ交わるため、オスのゴ
 リラは睾丸もペニスも身体と比べると非常に小さなものになっています。
・オス同士の競争は、精子の生産能力以外においてもあります。たとえばロリス類という
 霊長類は巨大なペニスを持ち、異様な形状をしていますが、それは自分より前に交尾し
 たオスの精子をメスの膣から掻き出すためだとみられています。    
・霊長類のオスのペニスの大きさは、ゴリラは3センチ、オランウータンは4センチ、チ
 ンバンジーは8センチです。対してヒトは13センチあり、他の霊長類に比べて相当大
 きいといえます。やはり人類の祖先のオスも、メスが浮気していることを前提として、
 他のオスの精液を掻き出す方向に進化してきたのではないかと考えられます。
・一夫一婦制がその生物にとって一般的な戦略となるのは、乱婚であるよりも、1対1の
 夫婦関係を保ったほうが、たくさんの子どもを残せる場合です。多くの鳥類が、実際は
 「つがい外交尾」(人間で言えば不倫)をしているにもかかわらず、一夫一婦型を採用
 しているのは、1対1の夫婦共同生活を送ったほうがヒナが死ににくく、繁殖しやすか
 ったが一婦制だったことの結果です。
・もともと人類の祖先は一夫一婦型ではなかったが、 有史以前のある時期、何らかの大
 きな出来事があり、一夫一婦型の婚姻形態をとることによって男女が長期的な協力関係
 を作る(つがいを作って共同生活する)ほうがメリットが生まれるようになった。その
 ため、人類の多くの共同体では、現在のような一夫一婦制をとるケースが増えてきた。
 そのように考えられます。 
・人類の祖先は狩猟採集生活をしていた頃は一夫多妻だったが、農耕を始めて集団定住す
 るようになった後、性感染症大流行に見舞われた。そのため、同じ相手と一生添い遂げ
 るほうが、公衆衛生的な観点から集団の維持に有利になり、一夫定着するようになった。
・温暖で食物が観点に入手できる豊かな環境では、子どもはさほどコストをかけずともあ
 る程度は子ども自身の力で生存できるため、乱婚に近い生殖スタイルの方が適応的にな
 ります。  
・女性が男性の経済力に頼らなくてもいいほど豊かな環境であれば、男女とも、ひとりの
 相手と添い遂げるよりも、もっと良い相手を求めてさっさと次に移ったほうが子孫をた
 くさん残せます。
・アマゾン奥地に住むヤノマミ族は、原始的な採集や狩猟だけで食物をまかなえる環境に
 生きているため、多夫多妻、あるいは乱婚をよしとする社会を構築しています。彼らの
 社会の伝統では、すでに妊娠している女性が複数異なる男性と性交渉を持ちます。そう
 することによって、男たちは生まれてくる子どもに「何かを与えた」とみなされ、遺伝
 的には自分の子どもではなくても、その子どもの子育てに貢献しなければならないと考
 えるようになるそうです。
・富谷地位の差が大きく、それらが子どもに受け継がれる社会では女性の貞操に厳しい傾
 向があると指摘しています。また、アマゾンの先住民の事例のように苦労せずに生きる
 糧を入手でき、資源(リソース)をため込むよりも共有するほうが重要な社会の場合に
 は、配偶者の関係性は1対1から遠ざかる(つまり、一夫一婦制ではなくなる)とも指
 摘しています。
・一方、生存そのものが過酷な貧しい環境では、両親が連携して子育てしなければいけま
 せん。片親だけで暮らしていくのが大変だとなれば、なるべく夫婦の協力関係を維持し、
 一緒に生活することを選ぶでしょう。また、子どもを放っておいたら死んでしまう状況
 なら、自分の遺伝子を残したい親たちは、必死で面倒を見ます。すると、一夫一婦制の
 方が有利になります。もっと極端に厳しい環境の場合は、人間社会ではきわめて少ない
 ですが、多夫一婦になると考えられます。リソースが乏しく、ひとりの男性では妻子を
 扶養できなくても、2人以上でならばできる場合に、多夫一婦は採られています。
・多夫一婦社会では、1人の妻を2人以上の兄弟が共有するおとがほとんどです。これは、
 兄弟ならば遺伝子を半分共有しているので、兄または弟の子であっても自分の遺伝子の
 いくらかは次世代に受け継がれるためではないかと考えられます。
・北極地方の先住民はイヌイットは、異なるコミュニティに住む家族同士が夫婦交換(共
 同婚)をすることで血縁のつながりを増やし、互恵的な関係を築くことで自身と集団の
 生存確率、また子孫を残す確率を高めています。
・一夫多妻とは、父親は子育てにかかわる時間的・情緒的コストをあまり払わず母親に任
 せる代わりに、経済的なコストは父親が全面的に負担する様式だと言えます。これは、
 片方の親だけが子どもの面倒を見ればなんとかなる水準の社会、ないしは、片方の親だ
 けが子どもの面倒を見た方がむしろ子孫が増やせる社会に適応的です。極端に豊かでも
 貧しくもないけれど、貧富の格差がある環境では採用されやすい制度です。
・歴史的には多くの社会で、男性の不貞は罪に問われず、女性の姦通は重罪とされてきま
 した。そうして女性差別は、今日では許されるものではありません。ただし、社会制度
 としての「一夫多妻婚」は、単なる浮気、不倫や婚外セックスとは、わけが違います。 
 男性にとって、むしろ厳しい条件が付きつけられるものなのです。例えばムスリムには
 一夫多妻が認められていますが、コーランには「すべての妻を公平に扱いなさい」と書
 いてあります。多くの妻の扱いに差別が生じれば嫉妬が生まれ、女同士で争い、あるい
 は夫に対して事件を起こすに決まっています。つまり、一夫多妻においては、男性は女
 性たちの嫉妬による諍いや財産をめぐる争いをマネジメントできなければなりません。
・もっとも、イスラム圏以外で一夫多妻がおこなわれている場合、大抵は「第1夫人」と
 「それ以外」を分けており、すべての妻が平等に扱われているケースは少ないようです。
 正妻と愛妾の争いは、ときに歴史を変えてしまうほどまで発展することもあります。
・実は男性にとって、一夫多妻は一夫一婦よりもはるかに面倒でストレスフルな制度なの
 です。多くの女性を心理的にも肉体的にも満足させ、些細な面倒事も嫌がらずに対応し、
 妻たちの信頼を勝ち得なければならない。そもそも多くの妻や子供を養えるだけの経済
 力がなければ、一夫多妻型の家を維持するのは不可能です。
・実際、一夫多妻が認められている地域、社会でも、複数の妻をもつ男性は10%にすぎ
 ず、その社会でもっとも豊かな階層の男性たちに限られています。また、未婚男性が妻
 を娶るよりもすでに妻がいる既婚男性が新たな妻を迎える可能性のほうが高くなる傾向
 にあります。なぜなら金銭的に余裕がない男性よりも、子どもを安心して育てられる経
 済力を蓄えている男性のほうを、女性は選ぼうとするからです。つまり、一夫多妻制の
 社会とは、一握りの「一夫多妻生活を送る男性」と、その他多くの「生涯未婚の独身男
 性」からなる「男性格差社会」なのです。   
・人類社会でも、社会全体で一夫一婦型の結婚を義務としないかぎり、一夫多妻制を認め
 ることは、経済力のない男性が遺伝子を残せないまま死んでいく可能性を高めます。男
 性にとって、非常にしんどい社会なのです。
・現在の日本社会は医療技術が発達し、医療従事者の懸命の努力もあって、乳児や母親が
 出産で死ぬ可能性は低くなりましたが、母子とも無事に出産を乗り越えられるのが一般
 的であるかのような社会通念ができあがったのは、それほど昔のおとはありません。
・このような女性側が抱える大きなリスクを考えると、豊かな男性に相応のコストを負担
 させることで、男性と女性が繁殖にかけるコストにようやくつり合いが取れる、とも考
 えられます。そのように考えるのであれば、人類にとっては一夫多妻の方が適応的であ
 り、経済原理に適っているとみることもできるのです。 
・人類は一夫一婦制だけでなく、一夫多妻や一歳多夫、共同婚といった形態を採用してき
 ました。どのような婚姻形態が最も生存に適応的であったかが問題であり、逆に言えば、
 一夫一婦制の社会はたまたまそれが適応的であったにすぎないのです。
・日本では中世以降、「家父長制的な価値観の下での一夫一婦制」が定着してきました。
 しかし戦後、憲法や民法を改正するにあたって、家父長制的な要素を排除したため、
 「男女平等にもとづく一夫一婦制」が根づいてきました。一夫一婦制に合致しない振る
 舞い、つまりは不倫は、現代日本人の心情からすると許しがたい逸脱に見えるかもしれ
 ません。しかし、人類だけでなくすべての生物の婚姻の形態が、「生存・繁殖のために
 適応的」であるかどうかの1点だけで決まってきたのです。今後、人類を取り巻く環境
 が変わるにつれて、婚姻の形態も、その社会にとって最も適応的なシステムへと変遷し
 てゆくでしょう。
・たとえば北欧諸国は、物質的にも社会制度的にも豊かな社会を実現していますが、子育
 ての労力や資金は個人が全面的に負担するものではなく、積極的に社会全体で担うよう
 な制度設計を選択しました。
・経済的、時間的リソースが潤沢である層が社会に一定以上いれば、生殖のためにい一夫
 一婦制にこだわる必要はなくなると考えられます。

不倫遺伝子
・人類が一夫一婦制を選択するようになったのは、臣下の大きな流れの中で見ると比較的
 最近のことと考えられます。また、一夫一婦制を採用したのも、農耕集団生活を営むよ
 うになった人類にとって、単にそれが生存・繁殖のために適応的だったからにすぎない
 と考えるのが自然です。
・「一夫一婦が正しい結婚」「不倫は悪」といった倫理観は、後付けで人間社会の中に生じ
 たものであり、もともと人類が持ち合わせていた観念とは言いにくいでしょう。
・じつは最新の研究によって、ある特定の遺伝子特殊な変異体を持つ人は、それを持たな
 い人に比べ、不倫率や離婚率、未婚率が高いことがわかっています。また、その遺伝子
 を持つ人は、性的な行動だけでなく一般的な行動においても違いがあり、たとえば「他
 者に対する親切な行動」の頻度が低いこともわかっています。
・2015年にオーストラリアで行われた調査では、母集団のうち、過去の1年内に特定
 のパートナー以外の相手とセックスした人は男性で9.8%、女性で6.4%いたそう
 です。そして、その人たちの遺伝子を調べると、とくに女性に「特定の遺伝子」を持つ
 割合が、母集団平均より多かったそうです。この特定の遺伝子が、どうやら不倫をつか
 さどる「不倫遺伝子」である可能性が浮上してきました。 
・不倫型と貞淑型の数の割合については研究者によって多少のバラつきはありますが、お
 おむね5:5だろうと推測されています。つまり、あなたの周囲の2人に1人は、本質
 的には一夫一婦制の結婚には向いていないのです。不倫型が現在でも相当な割合で存在
 していることを考えると、ある意味、不倫型であるほうが繁殖に有利な側面もあったの
 だろうと考えることができます。環境によっては、多くのパートナーと交尾したほうが
 遺伝子を残しやすいという事情もあったはずです。
・そうした人類の長い歴史を考えると、現在の倫理観のみで「不倫は悪」と断罪し過ぎる
 のは、あまり意味がないことだと言えます。そればかりか、先天的に色素が薄い人に向
 かって「お前の髪が茶色いのはケシカラン!黒に染めろ」と強制するようなもので、割
 合によっては差別や優生思想につながりかねません。
・私たちは、「もともと一夫一婦制の結婚に向いていないタイプが人口の半分程度いる」
 という事実を受け止めた上で、物事を考えなければならないのです。
・なぜ女性の場合は離婚率ではなく不倫率が上がるのかは、離婚に対する社会的コストの
 差によるものだと考えられます。一般的に離婚したときの経済的なダメージは女性のほ
 うが大きいため、不倫をしても(あるいはバレても)簡単に離婚には踏み切らない、あ
 るいは不倫された夫のほうが、「妻の不貞で離婚した」と言うのはバツが悪いので、や
 むなく結婚生活を続ける・・・といった要因が考えられます。 
・いわゆる「サイコパス」と呼ばれる人々は性的に奔放なことが多いのですが、これは社
 会的排除(ルールを破った人間に対する無視や差別、集団からの追放など)に対する感
 度が、一般の人より鈍いことが関係しているためだと考えられています。生まれつき
 「一夫一婦制の結婚には向かない人」がいる、というのは厳然たる科学的事実です。少
 なくとも、「夫の浮気の原因は妻の性格や振る舞いにある」などと断罪するよりはフェ
 アな見方です。ある人の振る舞いが一夫一婦制に合致するかどうかは、本人の意志や努
 力ではなく、遺伝子や脳の仕組みによって決まってくる部分も大いにあるのです。
・人類が一夫一婦制を採用するようになったのは農耕が始まり集団生活を営むようになっ
 て以降であり、人類史から考えると比較的最近のことです。また、「一夫一婦が善」
 「乱婚、不倫は悪」といった倫理観が広まるようになったのも、それ以降のことであっ
 たでしょう。現在でも一夫一婦制以外の婚姻形態を認めている社会は存在します。
・不特定多数のパートナーと性交したほうが繁殖に有利だった、あるいは数多くの異性と
 性交して子どもを残すほうが善とされていた時代もあったであろうことは、容易に想像
 がつきます。私たちが持っている不倫遺伝子は、その名残であると考えられるのです。
・一方、私たちの倫理的価値観は、宗教的観念の発達によって、わずか数百年の期間に急
 速に変化してきました。例えば17世紀にアメリカに新天地を求めたピューリタン(清
 教徒)は姦通者に鞭打ち刑を科し、死に至らしめることもありました。イスラム圏では
 一夫一婦制ではないものの、現在でも姦通者に対しては残酷な極刑が適用されています。
 しかし、いかに厳しい宗教的な戒律も、死刑という究極の刑罰さえも、不倫を完全にな
 くすことができません。   
・現在のように3食を普通に食べられるようになったのは、日本の場合でもここ数十年の
 ことです。また、高カロリーの食品が巷に溢れるようになったのは、昭和の終わり頃か
 ら平成にかけてのバブル期以降であり、わずか30数年のあいだに私たちの食卓は大き
 な変貌を遂げました。
・しかし、人間の身体機能は、飢餓状態に苛まれていた頃からそれほど変わってはいませ
 ん。食に困らなくなった現在でも、人間の脳は飢餓状態にあった頃の習性で、栄養価の
 高い食物を発見すると、なるべく食べてしまうよう指令を出します。
・一方、消火機能や循環器などは、飢餓状態時代の設計のままですから、栄養価の高いも
 のばかりを食べていると、処理能力を超えてしまいます。それが成人病を引き起こして
 いると考えられています。
・不倫遺伝子は、むしろ私たちの生存にとって必要だったからこそ、淘汰されずに現在ま
 で生き残ってきたのです。 「浮気や不倫はダメだ」「二股なんてとんでもない」と叩
 いても、叩く人自身の脳に「自分は”正義”を執行している」という快楽を呼び起こす
 以上の効果はありません。不倫をする人は絶えないのは、その人の人格やモラルが堕落
 しているからではなく、私たちが祖先から承継した遺伝子が、少しでも効率よく自分た
 ちを繁殖させようと、私たちを駆り立てているからにすぎないのです。ただ、今日的な
 倫理観からみるとアウトな性行動になってしまう、というわけです。
 
あなたの恋愛体質を診断する
・ある人間の不倫のしやすさ(あるいは、不倫のしかた、不倫に求めるもの)に影響を与
 える要因のひとつに、「愛着スタイル」と呼ばれる資質があります。人間の愛着のスタ
 イルには「安定型」「回避型(拒絶型)」「不安型」の3つがあるとされています。 
・愛着スタイルと呼ばれるものは、その人が人間関係を築いていく上でベースとなる認知
 の様式です。ごく簡単に言えば、「その人が、どんなふうにものごとを捉えているのか
 ?」のパターンです。ものの見え方や、他社とは自分にとってどういう存在なのかの価
 値観が違えば、おのずと他者に対する振る舞いは変わってきます。
・「安定型」の人は、文字通り、他者とのフランクな関係の構築が得意な傾向があります。
 一方、「回避型」の人は他者と深い関係を築くことに及び腰です。また「不安型」の人
 は他者に対する過度の期待から依存やその裏返しの失望、喪失の危機感を抱く、という
 傾向があります。
・愛着スタイルのタイプを形成する最も大きな要因は、乳幼児期の特定の人物との愛着形
 成だとされています。基本的には母子間のふれあいが重要で、母子で相互に愛情を感じ
 合うことが望ましいのですが、母は必ずしも生物学上の実母である必要がありません。
 義母や乳母、もしくは愛情を持って献身的に長時間接することができるのであれば、男
 性でもかまいません。
・生まれてから半年から1年半の間に、赤ん坊の泣き声にすぐに愛情を持って反応する母
 親の子どもは安定型の傾向を示し、母親がいなくなったときに他の子どもよりも適切な
 悲しみの表情をし、母親が帰ってきたときには笑顔を見せるという、ごく健全な反応に
 なる。これは、赤ん坊が「親がいなくなってしまったときには、適度な水準で抗議をす
 る必要があるが、親の注意を引くために過剰に泣く必要はない」ということを学習する
 ためだと言われています。危険があればすぐ母親が来てくれる、呼べばすぐに答えてく
 れることがわかっている乳児にとっては、母親が「安全基地」となるのです。だからこ
 そ、子どもはそこから離れて探検行動をとることができる。つまり、子どもが後々自立
 的な行動をとれるようになるためには、その大前提として、安心して戻ってこられる人
 間関係が重要であることが示されたのです。
・このようにした育った安定型の人は「他者は自分に良いものをもたらす可能性が高い」
 と考える傾向が高くなるので、他人と積極的に関わろうとします。約6割強の子どもが
 安定型だと考えられています。
・対して、親にかまってもらえなかった赤ん坊は「親には期待できない」ことを学習し、
 回避型や不安型(正確には子どもの場合は「両価型」と呼ばれます)になると考えられ
 ます。安全基地としての鼻緒屋があてにできない乳児の探検行動は、及び腰になる傾向
 が見られました。回避型の子どもはおとなしく、親と距離を置き、あいさつも形式的で、
 人との遊びよりもおもちゃなどにいそしむ傾向にあります。まるで母親の注目や愛情を
 あきらめているかのようです。母親を必要としないように努力することで、かまっても
 らえず失望するより、拒絶されて傷つくことがないよう、自分を守ることを学習したの
 が、回避型です。
・不安型(両価型)の子どもの場合は、心配性になり、親をコントロールしようとしたり、
 あるいは逆に拒否したりといった行動が見られます。母親がそばにいてくれるのか、い
 ても自分に対してどうふるまうのかわからないので、安心できない。そのために混乱し
 た態度を取り、周囲を振り回す、というわけです。不安型は過度の依存や、他者への高
 すぎる信頼や期待への裏返しからくる失望や拒絶をしがちな傾向にあります。
・愛着スタイルは、その人の対人関係を左右しますので、当然、恋愛や性行動も愛着スタ
 イルによって変わります。安定型は、一夫一婦型の性行動を選好すると考えられる。回
 避型にとって、基本的に人間関係はネガティブなものなので、「恋愛なんて面倒だから
 しなくていい」という人が少なくないとされています。彼らにとってセックスはさほど
 大きな快楽でもなく、安心感のよりどころでもなく、人生における出来事にひとつにす
 ぎないのです。ただし、回避型には「誰とも深い関係や本気の付き合いにはなりたくな
 いが、たくさんの人と軽い関係を持ちたい」という傾向もあります。回避型の人は、他
 者を自分のための道具として使いたいという欲求があり、征服や支配欲などの自己愛的
 な願望に突き動かされ、相手を選ばない乱交に走ることもあるようです。
・回避型の人は性行動を切り離して処理できるため、愛情がなくても性欲があればセック
 スができます。だからこそ、自分の生的な能力や魅力を誇示したい、実感したいがため
 に、愛情のない相手ともセックスすることができるわけです。回避型は男性に多いよう
 ですが、生理的な原因についてはよくわかっていません。
・不安型(両価型)の子どもは、母親がいなくなると泣くだけでなく、帰ってきても「な
 ぜ私の前からいなくなったの!?」と激しく泣きます。このタイプは大人になっても、
 誰かがそばにいてくれないと不安です。その人のことを本当に愛しているかは別として、
 そばにいてくれる人がいれば常にしがみつく、というタイプになります。
・回避型にとっては性的な結びつきはさほど重要ではないのに対して、不安型の人にとっ
 ては非常に重要な意味をもちます。性的なパートナーは自分を支えてくれる存在であり、
 性的な奉仕は自分への愛情の対価であり、セックスをしているのと自体が、その人の存
 在価値そのものであるようなケースさえあります。そのため、不安型の人がセックスに
 積極的になるのは、パートナーの愛情や献身が失われそうなときだとされています。 
・不安型は淋しさを紛らわせたり、相手の機嫌を損ねないためにセックスをします。言い
 換えれば、本当は愛していなくても、強く求められると応えてしまうことがあります。
 もし今現在のパートナーとあまりうまくいっておらず、自分が拒絶されていると感じた
 り恐怖や怒りを抱いていたりするとき、愛情を与えてくれそうな相手が見つかれば、愛
 を求めてそちらになびいてしまうことも考えられるわけです。 
・貞淑さ、誠実さに欠けるように見えるかもしれませんが、それは不安で仕方がないから
 なのです。不安型の人間は、生きていることが痛みのように感じられる、実存的な不安
 を抱えた存在とも言えます。これは付き合う相手側からすれば、ずっとしがみつかれる
 ことを許容しなければ裏切られてしまう可能性が高いですから、負担が大きいものです。
・不安型は、本人の内面的にはつらいかもしれませんが、生殖という面から見れば、悪い
 ことばかりではありません。不安型は多くの異性との関係を持つ傾向が強いため、繁殖
 に有利な面もあるのです。 
・親子関係がうまくいっていない家庭で育った女の子は初潮を迎えるのが早く、より早く
 セックスをしはじめ、しかもパートナーを慎重に選ればない傾向にあります。
・実は愛着スタイルは、一度決まったからといって、一生変わらないわけではありません。
 大人になってから安定型に近づけられる可能性もあるのです。愛着スタイルが回避型や
 不安型の人でも、周囲に安定型に人間がおり、1対1の愛着関係を長期的に築くことが
 できれば、だんだんと安定型に近づいていく傾向にあります。
・近年、日本に企業では「実力主義」「自己責任」とさかんに謳われるようになり、個人
 としてのパフォーマンス(営業の数字など)が重視されるようになりました。その弊害
 として、こうした人材を軽視する風潮が生まれています。
・しかし、個人プレイヤーとしてみた場合に優秀なタイプではなくても、安定型の人材を
 チームに入れておくことは、集団としての力を高めるうえで無視できない要素であると
 いえます。人事制度でも、そうした人材を正当に評価する仕組みを用意するべきでしょ
 う。 
・もちろん、逆のケースもあります。回避型や不安型の上司が過度の権限を持ってしまっ
 たり、まかり間違って経営権を握ってしまうと、その企業は危機に陥るかもしれません。
 社長が何にでも口を出してくるマイクロマネジメントになったり、側近の密告や愛人の
 讒言によって人事や経営上の重要な決定がなされるようになる可能性もあります。また、
 回避型や不安型の経営者は、人材の活用も下手な傾向があります。自分より優れた人を
 排除してしまうため、必然的に小粒な側近たちになり、後継者も育ちません。
・日本を代表するエクセレント・カンパニーで経営改革にも熱心だった企業が、経営者が
 交代してから急速におかしくなり、大幅な規模縮小や倒産に追い込まれたケースがいく
 つもあります。その陰には案外こうした事情が隠れているのかもしれません。
・安定型の人がもたらすメリットは、恋愛関係においても発揮されます。不安型の人が安
 定型の人と恋愛関係を築くことができれば、不安型の人の愛着スタイルが安定傾向に向
 かうことが、十分に考えられます。これは通常の恋愛や結婚だけに限りません。たとえ
 不倫であっても、不安型の人が安定型に近づくことで仕事がうまくいき、バレない限り
 においては、結婚相手との生活もむしろ安定化するでしょう。不安型の人間同士が結ば
 れて共依存になり、不安型と回避型が結ばれてお互い疲弊したりするよりも、本人たち
 にとっても周囲の人間にとっても、望ましい影響があるかもしれないのです。
・そのため、性的な関係を用いて相手に情緒的な安定を与え、仕事がうまくいくようにで
 きる能力を持った人もいるわけです。巷間、「あげまん」と呼ばれる女性がいますが、
 自身も安定型で、男性の愛着スタイルを安定型に持っていける能力を持つ女性を指して
 いると推論することもできるでしょう。
・2017年、ある女優の不倫が発覚した際、不倫相手が下着を頭に被っている写真など
 が流出して大きな話題になりました。はたから見れば奇矯な行動ですが、ふたりがリラ
 ックスしあえる関係であったことを示す重要な一枚であるともいえます。この不倫相手
 の男性は、彼女に精神的に非常に大きな安定感をもたらしていたのではないでしょうか。
 つまり、彼が彼女の「安定基地」になっていた、と考えることができます。彼女が活躍
 できていたのは、この男性の存在があってこそだったのかもしれません。 
・あるいは不倫が暴露されて信用や社会的地位を失ったにもかかわらず、「仕事のパート
 ナー」などと強弁して相も変わらず同じ不倫相手との関係を続ける例もみられます。こ
 れは、自分自身が回避型もしくは不安型であることを承知しているためではないかと考
 えられます。もし安定型のパートナーを失えば、すべての歯車が逆回転し始め、自分は
 さらに奈落の底に落ちてしまうかもしれない、そんな依存的な自分がいることを知って
 いるからこそ、傍目には支離滅裂な強弁をしてでも関係を続けてしまうのかもしれませ
 ん。 
・俗に「英雄、色を好む」などと言われます。戦に強い男性は、勝利を収めることでます
 ますテストステロン濃度を高め、結果、性欲も旺盛になるということでしょう。戦国武
 将をみても、豊臣秀吉にしろ徳川家康にしろ、好色で知られています。もっとも家康は
 多産系の女性を選び、経産婦を好んで側室にしてしたから、性欲のためというより子孫
 を多くもうけて戦略の道具とすることを考えていた可能性が高いですが。石田三成のよ
 うに生涯側室を持たず、一夫一婦を貫いたケースは少数派です。
・日本社会でも、ひとつ興味深い事象があります。近年、「熟女ブーム」と言われます。
 ”熟女タレント”がもてはやされ、若い男性が自分の母親であってもおかしくない年齢
 の女性と交際する現象も珍しくありません。  
・”熟女好き”を判定する方法があります。同じ女性の顔写真にほうれい線を加工し、ほ
 うれい線のある写真とない写真の両方、被験者に見せ、点数をつけてもらいます。する
 と、ほうれい線のある顔を好む人がいるのです。ほうれい線のある顔を好む男性は何が
 違うのか、データを取ったところ、生まれた時の母親の年齢が比較的高齢であることが
 わかってきたのです。母親が30歳を超えてから生まれた男性は、ほうれい線のある顔
 を好む、つまり、”熟女好き”の傾向があることがわかりました。これは愛着形成が行
 われる乳児期に「自分に優しく接してくれた人の顔」が、ある程度年を重ねた女性の顔
 であったため、そのような傾向になるのだと考えられています。
・現在の若い男性は、晩婚化と高齢出産が顕著になってきた1980年代以降に生まれて
 います。彼らが好む女性の傾向は、年を重ねた女性となる可能性が高いため、今後、ま
 すます晩婚化の傾向が強くなっていくかもしれません。 
・女性は排卵期になると自然に自分の性的魅力をアピールするようになることがわかって
 います。一般的には、人類は他の多くの生物とは異なり、決まった発情期がなく、排卵
 期がいつなのかが女性自身にも周囲の男性にもわからないことが特徴だとされています。 
 しかし、この実験からわかることは、排卵期の女性は無意識のうちに発情的な振る舞い
 をしているということです。
・排卵期にパートナーがいない女性は、一夜のあやまちを犯しやすく、男性はそうした女
 性に惹きつけられてしまうというのも、動物としての人間が避けがたく持っている性質
 のひとつです。なお、排卵期の女性とすでに関係を持っている男性の場合は、他の男性
 を遠ざけようと行動することも明らかになっています。 
・ある特定の相手との恋愛感情が高まっているときには、恋をしていないときには性的な
 魅力を感じるような相手(いわゆるイケメンや美女など)にもセックスアピールを感じ
 なくなることが確認されています。 
・恋愛は、パートナーとなりうる相手だけに注意を集中させ、ほかにセックスの相手を見
 つけたいという欲求を抑える効果があります。言い換えれば、恋愛感情を高めることは、
 パートナーの浮気を防止することに効果があると言えます。
・浮気のしやすさを左右するものは、個人のレベルでは。
 ・先天的な、特定の遺伝子の働き
 ・後天的にかたちづくられた、その人の愛着スタイル
 ・周期的、反応的な男女の性ホルモンの働き
 この3つがあると言えます。
   
不倫はなぜ叩かれるのか?社会的排除のしくみ
・最近の日本では、不倫は過剰なまでにメディアで取り上げられ、バッシングの対象にな
 っています。しかし冷静に考えれば、他人の不倫はあくまで「他人の恋愛」に過ぎませ
 ん。あなたは当事者ではなく、完全に部会者です。また、現在の日本では、不倫は「非
 人道的行為」であっても「犯罪」ではありません。それなのに、不倫が発覚した当事者
 は「謝罪会見」を開いてマスコミの質問攻めに遭わなければならず、プライバシーは暴
 露され、社会的地位が回復不可能なほどダメージを受けます。 
・なぜ不倫はここまで猛烈な社会的排除の対象となるのでしょうか?「倫理的でない」
 「子供の教育上よくない」そんな理由を挙げる人が多いと思われます。しかし、「では
 なぜ不倫は倫理的ではないのか?」と問われて、理路整然と説明できる人はいないでし
 ょう。 
・人間社会で一夫一婦制が主流になったのは、長い歴史の中で見れば、比較的最近のこと
 です。「一夫一婦制の結婚以外の性的関係=悪」とみなす倫理観は、いわば後付けで出
 来たものにすぎません。そうした倫理観が生まれた背景には、性病の蔓延があったとい
 う研究結果がある。 
・私たちの倫理観の皮をもう一枚めくると、不倫をしている男女に対する「抜け駆けして”
 いい思い”をするのは許せない」「あんな”いい思い”をしているのはケシカラン」と
 いう潜在的な”妬み”の感覚が姿をあらわします。 
・実際、社会的・経済的な地位が高い人の不倫や、不倫相手が美女であったり資産家であ
 ったり、不誠実な態度があきらかになったりした場合は、より過激に叩かれる傾向があ
 ります。不倫バッシングの本質は倫理観や教育ではなく、”トクしている人間”に対す
 る社会的制裁、と考えられるのです。 
・ではなぜ、不倫は妬みを買うのでしょうか?その理由は、不倫をする人間は社会集団の
 中での「フリーライダー」とみなされることが多いからです。 
・人間は社会的動物です。共同体の中において、その構成員(私たち個人)は役割を分担
 し、応分のコストの負担をし、決められたルールを守りながら生活しています。その見
 返りに、私たちは共同体からそれぞれリターンを受け取っています。それが国家や自治
 体であれば、税金を納める代わりに社会保障(医療費・年金など)やインフラ(水道・
 道路など)を利用できるし、会社であれば労働の対価として給料や福利厚生を受け取れ
 るわけです。しかし、なかにはそうしたコストの負担やルールを遵守をせず、リターン
 だけを得ようとする人もいます。それがフリーラーダーです。
・そもそもなぜ人類が共同体を作るかというと、単体で生きていくよりも、共同体を構成
 したほうが生き延びる確率が高くなり、子孫を残しやすくなるからです。メンバーがそ
 れぞれ少しずつリソースを出し合い、犠牲を払い、全体から集めたリソースを運用する
 ことで分け前にあずかる。そして全体として得をし、その利益がメンバー全員に行き渡
 るよう、共同体は運営されています。  
・しかし共同体において、フリーライダーが得をする状態を放置し抜け駆けが蔓延すると、
 真面目な人ほど損をする状態になってしまいます。「なあんだ、犠牲を払わなくても恩
 恵を受けられるのか」と錯覚する個体が増えると、結局は全体のリソースが減ってしま
 います。そればかりか、皆がタダ乗りを試みれば、制度そのものが崩壊してしまいます。
・現代の日本社会では、年金や健康保険の制度がその典型といえます。「はらい損」だと
 わかれば最後には誰も払わなくなり、結果的には共同体そのものが崩壊することになり
 かねません。  
・利己的な行動は、短期的には個人に快楽をもたらしますが、共同体の協力構造を蝕んで
 しまうため、長期的な関係が予期される環境では結局はデメリットとなります。共同体
 の構成員は、フリーライダーを放置しておくと、自分にとって将来的に大きな損害とな
 る可能性があります。そこで、共同体の崩壊を避けるためにフリーラーダーを罰して、
 「きちんとコストを払え」と強制するか、共同体から追放しなければなりません。この
 ような行動を、フリータイダーに対してする「サンクション」(制裁行動)と呼びます。
・フリーライダーに対して人々が発動するサンクションは、「自分のため」というより
 「集団を守るため」に行われるという点で、利他的な振る舞いのひとつと言えます。
・共同体を運営するには、フリーライダーを抑え、逸脱者を出さないようにしなければな
 りません。他人に思いやりのあることと、和を乱す人を叩くこととは、表裏一体である
 と言えます。その結果、共感力が人一倍強い人は、その共感力の強さゆえに、裏切られ
 たと感じる出来事があると「許せない」という思いも強くなり、容赦ないサンクション
 を行います。   
・フリーライダーに対するサンクションは、「いじめ」というかたちであらわれることも
 あります。「規律正しい人のほうが激しいいじめをする」「協調性が高い人ほどいじめ
 に走る」といったことが起こるのはそのためです。 
・また、結束が固い共同体や、メンバー同士が密接で仲が組織ほど、それにタダ乗りしよ
 うとして将来的には絆を破壊しかねないフリーライダーに対して苛烈なサンクションを
 しがちになります。 
・現代日本で不倫が過剰にバッシングされるのは、子どもを産んで育てる「生殖コスト」
 が高すぎることも背景にあると考えられます。今の日本社会では、子どもを1人産んで
 育てるということさえ、純粋に経済的にみれば相当なマイナスになってしまいます。出
 産のために仕事を辞めたり、育児休暇を取って仕事をセーブしなければならない人が大
 半です。学校に行き始めたら、塾や習い事に行かせたり、少しでもいい学齢をみにつけ
 させるため、あるいは「いじめ」に遭わないようにと、私立有名校を受験させるケース
 もあります。 
・そもそも人類のメス(女性)にとって、生殖はそれだけ大きなコストがかかり、リスク
 をはらんでいます。二足歩行のために進化した骨盤は難産をもたらし、母子ともに生命
 の危険にさらされます。 
・普通の人は子育てのコストを引き受けたうえ、恋愛し、セックスをしています。あるい
 は子どもがいない夫婦であっても、家庭を維持するための面倒ごとに引き受けるという
 コスト、あるいは子どもがいる家庭よりも多くの税金を払っているというコストを引き
 受けています。 
・しかし、不倫はそうしたコストの負担をせず、性的快楽や恋愛のスリルを享受している
 とみなされます。 だから不倫に対して、「恋愛するなら、結婚や生殖にまつわる面倒
 ごとも引き受けなさい」「セックスはするのに、家庭や子育てのコストを引き受けない
 なんて許せない」という社会的な圧力が高まり、「恋愛やセックスだけ享受するフリー
 ラーダー」としてのサンクションが加えられるのです。
・一般的に、相手が持っているものを自分も手に入れられる、自分と相手との差は大きく
 ないと感じるときほど、妬みは強くなる傾向にあります。いわゆる「シャデンフロイデ」、
 他人の不幸や失敗を知って「ざまあみろ」とうれしくなる感情は、その相手が自分と同
 等の階層(所得、外見、才能など)に所属するという類似性が前提になっています。 
・また、自分と相手との比較対象が自分にとって重要なことであるほど、やはり妬みが強
 くなります。学歴が大事だと思っている人間は、身近な人間が自分より良い学歴を持っ
 ていると妬ましく、外見が重要だと思っている人間は自分より美人の同僚を妬ましく思
 う、というわけです。 
・一方、自分とは明らかに違う世界に住んでいるセレブや著名人などに対しては、憧れの
 気持ちになります。妬み感情にならずに「あの人は特別だね」と思うようになるのです。
 しかし、スキャンダルが発覚し、「なんだ、あの人も私たちと同じだったのか」と思わ
 れるような要素があると、妬みからくる攻撃感情を誘発しやすくなります。とくに、近
 年急速に広まった各種SNSは、一般人も芸能人、著名人も同じサービスを使い、誰で
 もアカウントが登録でき、一般人でも著名人に対して気軽に直接メッセージやコメント
 を送ることができるため、勘違いを誘発させやすくしています。
・20世紀までの「TVや新聞といったマスメディアに出ているのは一部の有名人であり、
 一般人とは違い世界に生きている」という線引きがあった状態とは、まったく状況が違
 います。良くも悪くも有名人が身近な存在になった結果、妬みの対象になりやすくなっ
 てしまったのです。  
・さらにネットの発達によって、以前であれば知れなくてもよかったし、知ることもでき
 なかった「うまくやっている他人」やフリーライダーの姿が簡単に見えてしまい、その
 結果、自分の相対的な貧しさを意識しやすくなってもいるのです。
・私たちは子どもの頃から「利己的に振る舞ってはいけない」と教育されます。自分を犠
 牲とし、コミュニティ全体の利益となる行為が推奨されるのです。実はこうした利他行
 動のポイントは、単に自己犠牲を推奨しているのではない、というところにあります。
 人間集団がしているのは互恵的な利他行動であり、「お互いに助け合う」集団を築いて
 います。血縁関係にない人間に対する親切や援助は、短期的には見返りが小さいものに
 見えます。しかし、人間社会をひとつの集団として長期的に見るならば、「支払ったコ
 ストに見合うリターンとしての繁殖適応性を得ている」ということになります。
・フリーライダーは制裁・排除の対象となりますが、多少のフリーライダーが存在しても
 簡単に崩壊しないような十分なリソースがある共同体では、フリーライダー戦略が奏功
 しやすい場合もあります。例えば、個人で負担すべき子どもの養育コストが相対的に軽
 い社会では、婚外子が増えます。両親が時間的・経済的・情緒的コストを負担しなけれ
 ばならない社会と比べ、親が単独であっても社会がそのコストを肩代わりできるのであ
 れば、婚姻関係を子育てのために結ぶ必要性が薄れるからです。
・そうした社会の場合、「一夫一婦制を守らない」ことではなく、むしろ「税金を払わな
 い」「婚外子を共同で育てる社会体制に協力しない」ほうがフリーライダー扱いされる
 強い要因になります。
・一方、フリーライダーを許すと共同体が大きな危機にさらされる環境では、フリーライ
 ダーは激しく攻撃されます。そのような貧しい環境では、実際にはフリーライダーでな
 くとも、共同体の中で目立つだけでサンクションの対象になりかねないので、共同体内
 には特有の慣習が生まれることがあります。
・日本も歴史的に長い間、けっしてリソースの豊かな環境ではありませんでした。台風や
 地震など自然災害が多く、四季の変化が大きい風土の中で農耕を続けるのは、相当な困
 難を伴ったはずです。とくに稲作が広く定着した奈良時代以降、日本人は集団で協力し
 合いながら農作業を営む必要性に迫られ、強固な結束力を持つ共同体が必要になったと
 考えられます。その結果、日本人はアクティブで冒険好きな遺伝子が踏査され、共同体
 内の作業に向いた遺伝子をもつ個体が生き延びてきたのだと推測されます。
・第2次大戦後、日本は急速に豊かになりました。バブル崩壊後の約4半世紀は低迷に苦
 しんできましたが、それでも名目GDP(国内総生産)は世界第3位であり、現代日本
 は過去に比べれば、はるかに豊かになっているはずです。それにもかかわらず、日本で
 は不倫バッシングをはじめとする「フリーライダー叩き」が盛んです。これは、変化の
 ゆるやかな遺伝子が、社会変化の速さにについていけないという過度期ならではの現象
 なのかもしれません。豊かになった社会に、私たちのほうが適応できていない、という
 ことです。
・このように見てみると、私たちの脳内物質とDNAが一夫一婦制に適したものになって
 いないために「不倫がなくならない」のと同じく、「不倫に対するバッシング」もまた、
 なくなることはないでしょう。
・不倫に対して最大のブレーキになるのは、不倫をした人間に対するサンクションです。
 社会的名誉や地位、あるいは財産を失う人、あるいは共同体から排除される人が見せし
 めとなって、不倫を思いとどまらせるのです。
・パートナーに対する「責任感」や「共感」は、ブレーキにはなりえません。「責任感」
 や「共感」といった高次の脳機能を担っているのは、前頭前皮室という脳の中の比較的
 新しい部位です。前頭前皮質は性的な快楽などに関わる報酬系(脳の原始的な部分)か
 ら遠い場所にあり、また、アルコール等で麻痺しやすい部位でもあります。そのため、
 理性では「夫(妻)を裏切れない」と思っていても、酒の勢いで目先の欲望に負けてし
 まうということが容易に起こります。また、前頭前皮質を麻痺させるのはアルコールだ
 けではありません。恋愛感情の高揚(つまりドーパミンの放出)によって前頭前皮質の
 機能が抑えられることもあるのです。
・共同体から排除される恐怖は、「原始的な恐怖」とも言えます。なぜなら共同体からの
 排除は、原始社会では文字通り「死」を意味するものだからです。それゆえ、サンクシ
 ョンは不倫へのブレーキとなりうるのです。  
・もっとも、排除の恐ろしさが想像できない人、「自分はなんとかなるだろう」「自分だ
 けはバレないだろう」と思っている人には、ブレーキにはなりません。不倫はなくなら
 ないし、不倫バッシングもなくならない。私たちが人類として有性生殖を続ける限り、
 この構造は続くでしょう。
・近年の日本における不倫事件を見ていて興味深いのは、不倫が発覚した際、男性よりも
 女性のほうが叩かれがちなことです。そしてまた、不倫バッシングに熱心なのも女性の
 ほうです。男性の不倫事件は比較的早く忘れ去られ、また同性(男性)からのバッシン
 グも起きにくい。しかし、女性の不倫はより大きく取り上げられ、しかも女性からの批
 判の声が大きい印象があります。 
・妻が不倫相手の子を出産した場合、夫は自分のDNAを持たない子どもを、相当なコス
 ト(お金や時間)を割いてかなり長期間養育することになります。一方、不倫相手の子
 を出産した妻は、それが不倫の子であると露見しない限り、夫と不倫相手の両方から捨
 てられることはありません。不倫が露見して離婚されたとしても、不倫相手から養育費
 等の援助をもらう権利はあります。妻の不倫は、夫にはデメリット(負担)が大きく、
 妻にはデミリットが少ないのです。
・夫の不倫はどうでしょうか。不倫相手の女性にリソースが流れるため、本来なら妻や妻
 の子が受け取れた愛情やお金などが目減りするので、妻にとって「得られたはずのもの
 が手に入らない」という意味での機会損失は生じます。とはいえ、不倫された妻側がコ
 ストを追加で支払わされるわけではなく、「自分のDNAを持たない子を育てなければ
 ならない」という状況にまではなりません。妻の不倫が夫に与えるダメージほどの大き
 な損失にはならないのです。
・不倫が発覚した男性に対して同性からの批判が少ないのは、男性側に負担(養育費、慰
 謝料、あるいは社会的地位の低下など)が相応にかかるため、それをもってサンクショ
 ンがなされているとみなされるためだと考えられます。
・妻が妊娠中に他の女性と不倫をしていた代議士(当時)は、猛烈なバッシングを受け、
 2016年2月議員辞職に追い込まれました。代議士が任期中に不倫という”私事!で
 議員辞職したのは前代未聞のことです。この元代議士の場合、妻が妊娠中だったという
 こと以外にも、バッシングされる要素がいくつもありました。男性国会議員として初め
 て「育児休暇」を取ることを明言し、”イクメン”ぶりをアピールしていたこと、その
 数年前には有力代議士の娘と結婚・離婚し、その際も女性問題が取り沙汰されていたこ
 と、妻が切迫早産の危機に直面していたにもかかわらず自宅にグラビアモデルを招き入
 れていたこと、テレビカメラを避けるため国会内で走って逃げたことなどです。こうし
 た点がまさにフリーライダーの挙動として世間に受け止められ、サンクションを求める
 世論を盛り上げる要因になったと考えられます。
・ただ、この元代議士を「生物のオス」として考えれば、彼の行為はきわめて合理的です。
 妊娠中のメスは新たに子どもをつくれないため、オスは次のメスを探しに行く。これは
 生物の世界では一般的な振る舞いです。もっとも、人類は他の生物とは違う規範を持っ
 ているので、他の生物のオスでは一般的だからといって、この元代議士の行為を正当化
 できるものではありません。
・この件よりもさらに激しく炎上したのは、17年9月に浮上した女性代議士の不倫疑惑
 です。このときは、同じ女性からのバッシングが目立ちました。高学歴で仕事の上でも
 高いポストにつき、家庭もあるという”勝ち組感”が、とりわけ女性の妬みの心を刺激
 し、フリーラーダーの検出モジュールに引っかかってしまったのではないかと考えられ
 ます。
・出産・育児のためにキャリアを断念した主婦は「私は仕事をあきらめたのに、あの人は
 国会議員なのに不倫?」と感じるのでしょう。独身女性は「私は結婚できないのに、あ
 の人はいい思いばかりしている」という思いを抱くかもしれません。
・「保育園落ちた、日本死ね」と題したブログの記事を国会で取り上げて主婦層に寄り添
 う姿勢をみせていたことも、バッシングに拍車をかける要因になったと推測されます。
 しかも前出の元代議士の不倫が発覚した際、この女性代議士は彼の行為をテレビ番組で
 厳しく批判していたのです。
・また、この行為は「一般女性にはできない快楽」を享受しているかのように、一般女性
 の眼には映ったはずです。男性に比べて女性の不倫は相対的にデミリットが少ないから
 といって、世間の女性のほとんどが積極的に不倫できるかといえば、そんなことはあり
 ません。心のどこかで「めくるめく恋愛をもう一度してみたい」「夫とおセックスでは
 満たされない」という思いを抱いていたとしても、金銭・時間・人間関係などさまざま
 な障害があり、そう簡単には不倫できません。
・しかし、この女性代議士は不倫相手のクルマに同乗し、週4回ホテルであっていたと報
 じられてしまいました。事実関係の真偽はさておき、この報道を一般女性の目から見る
 と、いとも軽々と障害を飛び越えて不倫を楽しんでいるかのように見えたことでしょう。
 だからこそ彼女の行動は妬みを誘発し、サンクションの対象にされてしまったわけです。
・欧米のように個人主義が強い社会では、日本ほど不倫に対するサンクションは起きにく
 いと考えられます。1998年にアメリカのビル・クリントン大統領(当時)の不倫が
 発覚した際には大きなバッシングが繰り広げられましたが、より問題とされたのは不倫
 そのものより、法廷での偽証のほうでした。フランスでは81年にフランソワ・ミッテ
 ランが大統領に就任した直後、女性問題について記者から質問された際、(それが何か
 ?)と受け流したことがあまりにも有名です。  
・日本においても、時代によって全く様相が異なります。伊藤博文、井上馨、山県有朋な
 ど、維新の元勲たちの放蕩ぶりはいまだに語り継がれていますが、それがもとで失脚し
 た人物はいません。
・ネット右翼(ネトウヨ)は安倍晋三総理が大好きです。そして、アメリカのトランプ大
 統領も支持します。トランプ大統領は一貫して「アメリカ・ファースト」であり、日本
 の利益については何ら考慮しているふうには思えません。しかし、自信たっぷりにスト
 レートな物言いをするトランプ大統領の発言に、ネトウヨは喜んでいるようです。一方、
 中国や韓国のことは大嫌いです。おそらく彼らの脳内には、善玉(安倍総理、トランプ
 大統領、改憲派)といったバイアスが定着しているのだと考えられます。
・安倍総理が選挙演説をヤジられて「こんな人たち」という言い方をしたことがありまし
 たが、これも思わずウチとソトを分ける意識が出てしまったのでしょう。さきほども述
 べたように、こうした行動はオキシトシン(ホルモン)の働きが強い人たちによく見ら
 れる行動パターンです。
・ウチとソトを分け、ソトを攻撃してくれる政治家が現れると、リソースの貧しい環境に
 おかれた人ほどコロッ転ぶことが予測されます。排外主義は、集団内部の人からすれば、
 自分に利益をもたらしてくれる行動に見えます。自分の集団に利益をもたらすために外
 部を攻撃している、と見えるからです。それによってオキシトシンの働きが強まり、ま
 すます内集団バイアスと外集団同質性バイアスが強まるというサイクルが生まれます。
・たとえばトランプ大統領は、メキシコや非白人に対する発言を見ればわかるように、外
 集団に対しる威嚇を巧妙に使います。それによって自分の支持者が結束することをよく
 知っているのです。もっとも実際にはトランプ大統領本人は大資本家であり、大局的に
 は資産家に有利な政策を進めているだけのようです。 
・排外感情が盛り上げっている共同体では、フリーライダー(不倫などをする人)の存在
 が発覚した場合、過剰にそれを叩くということも予想されます。そして不倫を叩くこと
 によってストレスを解消する、という流れです。不倫をマスコミが執拗に叩くのは、そ
 れによってストレスを解消する読者のニーズがあるからです。
・これは不倫だけではありません。中国や韓国の反日活動家は、日本のことを悪く言えば
 言うほど結束が強まっているように見えます。日本のネトウヨも、在日コリアンの排斥
 を叫ぶことで、快楽を感じているようです。 

不倫をやめられないあなたへ
・子孫を残すという意味での損得については、一夫一婦でも一夫多妻でも多夫多妻、一婦
 多夫でも、その社会制度で許容されている婚姻形態を取ったほうが、誰ともパートナー
 シップを結ばないことを比べれば、当然のことながら子どもをより多く残せます。「一
 人口は食えぬが、二人口は食える」と昔は言いました。「独身でいるより世帯を持った
 ほうが経済的な負担が少なくて済む」という意味でのことわざです。しかし、現代の日
 本社会では「結婚する方がむしろコストが大きくなる」と感じている若者が増えている
 ようです。
・男性の場合、低所得者層は高所得者層に比べて結婚できない傾向にあることはよく知ら
 れています。世帯を持ったほうが経済的な負担が少なくなるのであれば、低所得者層ほ
 ど結婚率が高くなるはずですが、現実はそうはなっていません。結婚に至るまでの恋愛
 と交際、そして結婚生活にコストがかかるので結婚しない(できない)のです。
・貧富の格差がある状況では、経済力のある男性が複数の女性の生活負担を一手に引き受
 ける一夫多妻のほうが合理的な選択になってくる。 
・現代日本に高所得者層の男性に女性が集中している点を見る限り、貧富の格差が拡大し
 てきたと言えるのかもしれません。一方、女性の場合は年収が高い職業ほど未婚率も高
 い傾向にあります。これにはさまざまな理由が考えられますが、日本では職場の産休、
 育休制度が不十分なこともあり、高所得者の女性ほど、結婚によって失うものが大きい
 ことが考えられます。妊娠、出産して今現在の仕事、ないし同等の収入が得られる仕事
 に復帰できるかどうかの見通しは立ちにくいものです。ゆえに高収入の女性たちは「結
 婚するとデメリットやリスクが大きくなる」と考えるのが自然です。
・孤独な生活は、認知症になるリスクを高めてしまうこともわかっています。独身男性の
 寿命が短い理由も、パートナーがいないと食生活をはじめとする生活サイクルが不摂生
 になりやすいということよりも、もともと男性のほうが女性よりもコミュニケーション
 が苦手であり、年を取ってから新しい関係を築くことが不得手だということが、大きな
 要因だと推測されています。
・一方、女性は夫がいなくても家庭の外に人間関係をつくることが得意なため、深刻なダ
 メージを受けにくいようです。女性は夫との死別、離別から受ける影響が軽度とはいえ
 有配偶のほうが平均所妙は長く、未婚と有配偶の平均寿命の長さは約8歳ですから、や
 かり結婚生活を続けたほうが長生きするには得なようです。
・じつは、不倫している男性は早死にする傾向があります。その原因についての研究者た
 ちの見解は、「複数の異性を同時に愛するのは肉体的、精神的な負担が大きいためでは
 ないか」というものです。とくに若い女性と不倫すると、早死にの確率が増すようです。
・一方、不倫している女性の寿命が短くなるという研究は見当たりませんが、秘密の関係
 を続ける負荷は、もちろん女性側にもあるでしょう。不倫は妬みの対象になりますが、
 実際には板挟みになったり、周囲にバレないように振る舞わなければならないなど、心
 理的な負荷は大きいでしょう。もっとも、そうした困難とスリルを乗り越えて得られる
 快楽だからこそ、不倫にハマる人が多いのかもしれませんが。
・農耕が始まる前の人類にとっては、乱婚のほうが効率よく子孫を残せたかもれません。
 しかし一夫一婦制が根づいたように見える現代日本社会では、不倫する男性は寿命を縮
 め、男女とわず不倫相手とは子どもをもうけることが困難です。日本で婚外子は全体の
 2.3%しかおらず、国際的に見ても韓国(1.9%)に次いで最も低い部類に入りま
 す。また、中絶率もきわめて高いのです。
・現代社会では賢い選択とは言えないのに、不倫に走る人がこんなにも多いのは、やはり
 私たちの遺伝子と脳の仕組みが一夫一婦制向きにはできていないことの何よりの証拠で
 はないでしょうか。
・2017年に不倫が報じられた2回生代議士(当時)は、不倫相手の女性とハワイで”
 挙式”までして写真を撮ったり、その女性宅に深夜に何度も押しかけて警察沙汰になっ
 たり、別の女性代議士との”二股”まで浮上した挙げ句、その女性代議士の事務所の
 FAXから否定おコメントを報道機関に流すなど、自爆としか思えない挙動を繰り返し
 ました。結局、それが仇となって、この2回生代議士は立候補を断念、女性代議士は落
 選しています。  
・「こうした人とは違って自分は用心深いので、絶対バレない」「万が一、バレたとして
 も、自分はうまくごまかせる」と、自信を持って不倫関係を続けている人がよくいます。
 これは、危機が迫っていても「自分だけは大丈夫」と思い込んですぃまう「正常性バイ
 アス」のひとつのバリエーションと言えるかもしれません。
・正常性バイアスは人間の認知の歪みのひとつです。人間の脳は、なるべく脳にかかる負
 荷を避けたいと思っているため、少々の範囲の異常事態であれば「正常」だと認識する
 ようになっています。ちょっとした変化にもいちいち過敏に反応していたら、そのぶん
 余計にコストを浪費してしまい、脳も身体も持ちません。その点、正常性バイアスは私
 たちが日常生活を営む上で必要なものでもあります。  
・ところが、大災害の時にはこれがマイナスの作用をもたらすことがしばしばあります。
 たとえば、目の前に火災が迫ってきたり大地震が発生したりしても、「正常の範囲内」
 とみなしてしまい、逃げ遅れてしまうということがあるのです。
・現在の一夫一婦制の下では、結婚とは恋愛を前提にするものであり、愛した(=結婚し
 た)相手とセックスをし、子どもを作るのが当然であり、それ以外の恋愛も生殖の異常
 なものとされています。 
・生殖のためには、恋愛と結婚は決して必須のものではありません。恋愛も結婚もしなく
 ても、人類は子孫を残してくることができたのです。私たちは現在、「恋愛→結婚→生
 殖」の流れを当然視していますが、実は時代によって大きく変わってきています。
・古代ギリシャはホメロスの頃から一夫一婦制が基本となっていましたが、正妻の役割は
 子どもを産むことでした。夫からの離婚は簡単にでき、多くの裕福な市民が内縁の妻を
 囲って、一緒に暮らしていました。古代ローマでも、結婚は双方の合意でなされるもの
 ですらなく、妻は軽んじられ、しかし夫は奴隷の女性や少年を性的な対象として扱って
 もよかったのです。アウグストゥス帝は貴族階級における正妻の出生率低下と女奴隷か
 らの出生件数の増加、若者の遊女屋通いを問題視して、姦通を罰する法を作ったほどで
 す。
・日本を含む東洋においては、結婚は「家」同士で行われるものでした。両家の繁栄が末
 永く続くよう、男系の血統を守り、遺産を確実に相続するためになされたのです。近代
 以降も、結婚は「お見合い」が主流でした。その一方で、「夜這い」など奔放な性の風
 習もあり、恋愛と結婚と生殖のホンネとタテマエはうまく使い分けられていました。
 「蹴婚→生殖」に「恋愛」の要素が不可欠なものとして入ってきたのは、戦後のベビー
 ブーマーたちに恋愛結婚が流行しだしてからと言ってよいでしょう。
・西洋では古代から近世まで、夫婦間での恋愛感情は問題にならず、性的な快楽を追求す
 る相手だとは思われてきませんでした。
・生殖と恋愛が別箇のものであることの証左として、「生殖のための恋愛」ではないとこ
 ろにこそ恋愛の美しさの本質はある、という考えもあります。
・セックスによって嫌でも生殖(妊娠)してしまう肉体を生まれ持った女の子たちは、思
 春期の自分の肉体に戸惑いを感じ、生殖から切り離された純粋な恋愛に憧れを感じるよ
 うになる。だからこそ、美少年同士の恋愛を純粋で美しいと感じるのだ、と。
・日本社会は戦後、恋愛結婚をベースにした家族構築がモデルとされてきました。そのモ
 デルが失敗した結果、衰退に直面しているといえます。結婚しない若者が急増している
 のは、「恋愛→結婚→生殖」をあまりにも一般的な「あるべき姿」として、社会全体に
 認知させてしまったためだと考えられます。 
・とくに戦後民主主義の浸透によって伝統的な「家」が否定された結果、お見合いは「家
 制度を前提とした、家を維持するための行われるもの」であり、忌むべき戦前の遺物に
 映ったのかもしれません。
・戦後ベビーブーマーが適齢期を迎えた1960年代以降、自由恋愛やフリーセックスを
 是とする左翼的な価値観の盛り上がりもあり、「親や親戚に紹介されるのではなく、自
 由に、自発的に恋愛するのが良い」という宣伝が過剰にされ、お見合いのイメージは悪
 いものになってしまいました。
・お見合い結婚から恋愛結婚へのシフトは、団塊世代から急激に進んでいます。1949
 年には恋愛結婚は2割に過ぎなかったのが、60年代後半にはお見合い結婚の件数と等
 しくあり、今では9割近くを占めています。
・もっとも、昨今の「婚活」も、男女の出会いを仲介する存在が親や親戚、町の有力者や
 会社の上司などから業者にかわっただけで、かたちを変えたお見合いとも言えます。
・しかし、婚活市場では恋愛蹴婚を夢見る人が多すぎるために、かつてのお見合いほど高
 確率で結婚に至ることはできません。恋愛至上主義を捨て、一夫一婦制を緩めることが
 少子化対策として有効なことは、フランスにおける政策を見れば明らかでしょう。
・結婚や生殖(セックス)どころか、最近の若者は「恋愛」からも離れています。いわゆ
 る「若者の草食化」です。「2次元に生きているので、リアルな生活では恋人も子ども
 もいらない」といった人たちが、今では少なくありません。
・現在交際相手のいない20代男女のおよそ4割が「恋人が欲しくない」と答えています。
 これは30代より約8%多い結果です。また、20代男女で「恋人が欲しくない」と答
 えた人のうち、その理由として半数近くの人が「恋愛が面倒」「自分の趣味に力を入れ
 たい」と答えています。    
・1974年の調査以来、2005年まで高校生・大学生のキス経験率、性交経験率はほ
 ど右肩上げ理を続けていたのですが、2011年にはついに反転し、1993年時点の
 水準に戻りました。性交経験率は大学生男子で6割弱、女子で5割弱です。
・しかし、そうした若者たちも性的な快楽は得たいので、さまざまな解決手段をとってい
 ます。異性との交際はせずい性的行為で得られる快楽だけを増幅させる、あるいは性的
 行為の快楽を別の手段で得る・・・実物の異性を介さない性欲解決がネットの発達によ
 って比較的容易になっていることも、若者の草食化に拍車をかけているようです。こう
 した現象の背景には、愛着スタイルが回避型の若者が増えていることがあるのではない
 かと推測されます。 
・欧米では「子供の独立心を促すため」として、赤ん坊とのスキンシップは控えめにし、
 母乳ではなく人工乳で育て、泣いても放っておくことが主流だった時期がありました。
 日本でもそれに倣う風潮が見られました。しかし、乳児期に母親との愛着形成がうまく
 いかなかった子どもには健康面でもさまざまなリスクが生じてくることが明らかになっ
 てきました。母子の愛着形成には肌の触れ合い、触覚的な刺激も重要だったのです。欧
 米では母子のふれあいを見直す風潮が広まっています。
・日本において回避型の若者が増えているということは、欧米型の子育てが周回遅れで普
 及したためとも考えられます。その結果として、社会性を持たない”2次元の恋愛”に
 救いのようなものを求める若者や、社会の枠組みに収まることをよしとせず、誰とも距
 離をとった関係を築きたくて不倫に走る人が増えているかもしれません。
・少子化対策という点からしても、恋愛や結婚に頼らず生殖を増やす方法を国家レベルで
 考えていくほうが効率的です。例えばフランスでは、婚外子への差別をなくすることに
 よって出生率を高め、非常に成功していることでも知られています。すでにフランスで
 は新生児の5割以上が婚外子です。法的に婚外子を認めただけではありません。3歳に
 なるとみな保育学校に入学できる(フランスでは3歳以降は日本で言う「待機児童問題」
 が存在しない)、拒んだ雇い主には罰金が科せられる産休を男女とも法制化、妊婦は基
 本的に医療費ゼロ負担・・・といった施策を組み合わせて、産みやすく、育てやすい社
 会づくりを進めてきたからです。その結果、1994年に1.66にまで下がった出生
 率が、2010年には2.0まで回復しました。 
・婚外子の割合はフランス以外の西欧諸国でも増えており、イギリスでも5割に近づいて
 います。規律に厳しいイメージのあるドイツでさえ、すでに婚外子は3割を突破しまし
 た。ノルウェー、スウェーデンなど北欧諸国も婚外子から5割を超えています。
・これらの国に限らず、出生率が上向き、または比較的高い水準を維持している先進国の
 多くは、非嫡出子(婚外子)の比率が高いです。これは婚外子を生みやすく育てやすく
 するための政策を打ち出していることと深い関係があります。その背景には、「恋愛と
 結婚と生殖(セックス、子育て)は一体のものである」という考えを、絶対のものとは
 見なしていないことがあります。だからこそ、こうした先進国では過剰な不倫バッシン
 グも起こりません。 
・日本人の感覚からは想像できないほど、世界の国々では「女性が妊娠したら結婚するの
 が当たり前」ではありません。
・不倫は、セックスと恋愛を享受するためのものですが、日本では、そこから生殖への道
 にはつながりません。これは人々の価値観だけが変わってもどうにもなりません。たと
 え不倫相手の子どもであっても産んでいい、育てていいという社会をつくるのは、政治
 の役割です。社会と政治が協働して、恋愛、結婚、生殖のバランスを変えていくことは、
 不可能ではありません。もちろん、婚外子への財産相続をどうするかといったテクニカ
 ルな問題はいくつもありますが、フランスなどの例を見ているかぎり、社会制度の変更
 で対応できるはずです。
・一方、日本では人工妊娠中絶が年間18万件以上も発生しています。年間の出生数が約
 100万件であることを考えると、本来ならば生まれてくるはずの子どもの約2割は中
 絶によって生まれなかったという計算になります。もちろん、この割合は世界トップク
 ラスです。中絶件数はおれでもまだ減少したほうで、1990年代には年間30万件を
 突破していたほどです。
・日本で中絶件数が多い理由として、中絶に対する宗教的なタブーがないことなどが挙げ
 られていますが、やはり最大の理由は婚外子を育てにくい社会システムにあると考えら
 れます。婚外子に対する差別はそこかしこに残っており、社会的な偏見も厳しいものが
 あります。「家」を単位とした考えが残っているため、不倫に対するサンクションだけ
 でなく、生まれてきた婚外子にもサンクションがある。つまり、「家」ごとサンクショ
 ンの対象となってしまうわけです。
・そうした中、日本社会は急激な少子高齢化が加速しています。少子化対策を考えるので
 あれば、はたして不倫バッシングに明け暮れている場合なのでしょうか。むしろ婚外子
 を社会的に許容し、妊娠した女性が中絶ではなく出産・子育てを選べるような社会制度
 を充実させることを真剣に考える時期に来ていると思います。
・人間は生殖だけを目的として生きているわけではありません。パートナーシップを築く
 目的は、人それぞれ異なるでしょう。異性との関係性を「切っても切れない一心同体」
 とするのか、「限りなく友達に近い夫婦」とするのかは、それぞれの自由です。あるい
 は「1カ月に1回会えば十分だが、全く遭わないでいると調子が狂ってしまう」という
 間柄だってありうるでしょう。
・パートナーの行動に対する許容範囲も人によっては異なるし、違っていてもいいはずで
 す。「夫の不倫は許せないが、風俗だったら許せる」とか「異性と会食するのもダメ」
 とか、人によって幅があるはずです。
・不倫バッシングが盛り上げるなか、夫婦のかたちはそれぞれ違うという当たり前のこと
 が見過ごされているように感じます。自分と相手にとって満足度の高い関係性であるた
 めの条件は、人それぞれです。それは社会的通念がどうとか他人からみてどうといった
 ことではなく、当事者同士の問題であるはずです。しかし今の日本社会は、そうした当
 たり前のことが軽視されて、「一夫一婦制は絶対のもの」という前提でマスメディアや
 ネット上での不倫バッシングが激しくなってきています。 
・「結婚や生殖には恋愛が必須である」という考えから解放された、結婚や生殖に独立し
 た価値を見いだす人がいてもいいはずです。さらに多様化を推し進め、他者の振る舞い
 にも寛容になったほうが、結果として多くの人が生きやすい社会になり、また子どもの
 数も自然に増えて、結果として少子高齢化も改善されるのではないでしょうか。
・もし恋愛、結婚、生殖が三位一体なのであれば、同じ神経伝達物質が分泌されるか、あ
 るいは各物質お作用の間に何らかの関係性があるはずですが、人体はそのようにはなっ
 ていません。恋愛、結婚、生殖が絡み合うことでもたらされる矛盾は、人間だれしもが
 抱えていることです。ひとりの人間が恋人、妻/夫、生活の共同運営者、母親/父親、
 セックスパートナーという多様な側面に応えることが難しいケースは、現実的に避けが
 たくあります。 
・逆に言えば、たとえ同じ相手とであっても、恋人として接するときと妻や夫として接す
 るとき、生活を共同する経済的なパートナーとして接するとき、子どもの親として接す
 るとき、セックスの相手として接するときとでは、それぞれ基準に合わせて自分の姿を
 変えなければなりません。そこに人間の難しさがあると言っても過言ではありません。
・脳がなんとかそのつじつま合わせを可能にしたとも言えますし、そのバランス取りの苦
 しみを作り出している”犯人”が能である、とも言えます。また、不倫はそのバランス
 の難しさを補完する機能を果たしている、と考えられないこともないのです。
・不倫遺伝子を持った人が少なからず存在する以上、今後も不倫はなくなることはないで
 しょう。また、人間が向社会的な動物であるかぎり、不倫に対するサンクションがなく
 なることもないでしょう。すべての問題は、この矛盾から生まれています。こうした矛
 盾があると、人は往々にして「矛盾は解決しなければならない」と思います。しかし、
 不倫の矛盾を「解決する」とは、いったいどういうことなのでしょうか?   
・恋愛、結婚、生殖をめぐる問題は、古来より多くの人を苦しめ続けてきましたが、それ
 ゆえ多くの文化や芸術が生まれたといえます。突き詰めれば「人間であることの苦しみ
 からいかに解放されるか」にまで行き着くと言ってもいいくらいの問題です。
・不倫を撲滅するとか、逆に結婚制度をなくすといったことは、非現実的です。人間も生
 物である以上、こうした矛盾や課題がもたらす苦しみを抱えながら生きる以外にないの
 です。矛盾といかに付き合うかを考える、あるいは矛盾を矛盾として味わう態度を身に
 つけるほうが建設的です。
・恋愛、結婚、生殖をめぐっては、いくつもの評価軸や価値規範があります。人類は、そ
 の矛盾を解決せずとも生きられる仕組みを、何万年もかけて作ってきたという言い方も
 できます。そうである以上、「不倫は悪」と過剰に叩いたり「夫婦はこうあるべきだ」
 と断定的に決める必要はありません。そうしてところで、幸せをもたらすとは限りませ
 ん。・矛盾する両極を内包しながらも、智恵を働かせて生きていくのが人間ではないで
 しょうか。
・1997年に劇的な死を遂げたイギリスのダイアナ妃が生前に残した録音テープが没後
 20年の2017年にテレビ番組で公表され、大きな話題を呼びました。そのテープの
 中で、ダイアナ妃は、チャールズ皇太子から「第1王位継承者はみんな愛人を持ち、そ
 れを隠さなかった。だから愛人を持ってもよい」と開き直られたことや、「愛人を持た
 ない唯一のウェールズ公にはなりたくない」と言われたことを明かしています。
・チャールズ皇太子はダイアナ妃との結婚前から、友人の妻であるカミラ夫人と愛人関係
 になっていました。ダイアナ妃亡き後にチャールズ皇太子妃となったカミラ夫人は、そ
 の曾祖母アリス・ケップルもまた、20世紀初頭に国王を務めたエドワード7世の愛人
 だった、というオチがあります。
・当時のイギリス上流社会においては、生活に不満がある貴族夫人は社交界に出入りする
 ことによって、とりスティタスの高い男性をうまく捕まえ、愛妾となることが横行して
 いました。また、妻が実力者の愛妾になれば、夫の社会的地位の向上も見込めるとさえ
 考えられていたのです。見方によっては、じつに洗練されたスマートな不倫術といえま
 す。
・イギリスだけでなく、モナコ、デンマーク、スウェーデン、オランダなど、欧州各国の
 王室は異性関係のスキャンダルにたびたび見舞われています。それでも、王室の維持と
 いう意味においては、不倫や愛人が果てしてきた役割を無視するわけにはいきません。
・日本においても一部の論客が「皇室は側室制度を復活させるべき」という論を展開して、
 さまざまな波紋を呼んでいます。天皇家から側室がいなくなったのは大正時代であり、
 それまでは側室を持つのは当然のことでした。嵯峨天皇のように多くの側室を持ち、多
 くの子に恵まれた天皇もいました。 
・天皇は国民の象徴であり、その家族のあり方も国民の家族の象徴です。男系男子の皇統
 存続が危機に瀕しているからといって、すぐに側室制度を復活させればいいというのは、
 やや現実を無視した乱暴な議論だと思います。しかし逆に、皇室の長きにわたる歴史か
 ら学び、現在の私たち自身のあり方や振る舞いを考え直す、ということはできるはずで
 す。
・皇室が2000年以上も維持できたのは、正妻以外の男児であっても、他に該当者がい
 なければ、皇位継承者として扱ったきたからだという側面は否めないのではないでしょ
 うか。もし、現在の不倫バッシングや婚外子差別のような価値基準をあてはめたら、皇
 室の存続は不可能だったでしょう。
・私たちは過剰な不倫叩きに明け暮れるのではなく、むしろ皇室が培ってきた伝統的な価
 値観から先人たちの知恵を学び、結婚や家族のあり方を見直す時期に来ているかもしれ
 ません。
・生殖のコストがこれほど高く、しかも不倫へのバッシングも強い日本社会では、今後、
 人々が生殖そのものをしなくなるのではという危惧もあります。日本人男性の精子数は、
 フィンランド男性に比べて3分の2しかないという論文も2006年に発表されていま
 す。精子の数が減っているのは、環境や食生活の変化などさまざまな要因が考えられま
 す。生殖コストの上昇とともに、私たちの身体そのものが生殖しにくくなっていること
 は非常に興味深い現象です。
・セックスの快楽や恋愛のスリルについては、生身の異性と代替可能なものがそう遠くな
 い将来に登場するでしょう。脳科学の飛躍的進歩によって、脳内のどこをどのように刺
 激すれば具体的イメージをともなった快楽が得られるかが急速に明らかになっています。
 また人工知能の発展によって、現実に存在する美女や美男のデータが蓄積され、映画
 「マトリックス」のように、脳にプラグを差し込めば、ただちにサイバー空間上でバー
 チャルな恋愛やセックスの快楽を味わえるようになる可能性があります。