エ・アロール :渡辺淳一

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この本のタイトル「エ・アロール」は、フランス語で「それがどうしたの?」という意味
だそうである。これはかつてのフランスのミッテラン大統領が、妻以外の女性との間に子
供がいたことが発覚したときに、問い詰めた新聞記者たちに向かってつぶやいた言葉との
ことだ。ある調査によると、世界で一番セックス回数が多い、つまりアレの一番お盛んな
国はフランスとのことであるが、このフランス大統領事件もそのことを物語っているよう
な気がする。ちなみにこの調査結果では、日本は最後進国であったような気がする。
この小説は、筆者が考えた、理想とする東京銀座に建設された高齢者施設を舞台に展開さ
れる高齢者たちの物語である。この物語を通して、日本の高齢者は世間体など気にせずに
もっと自由に最後の人生を謳歌すべき説いている。「高齢者にとって重要なのは、単に長
生きすることではなく、生活の質を高めることだ」と筆者は述べているが、この言葉に全
てが集約されているような気がする。
この本を読んで、人間60歳を過ぎたら自分の思うままに生きたい、そう強く感じた。

アクシデント
・この施設は、仕事や世間の枠から解放されて自由になった高齢者のかたたちが楽しく、
 気ままに生活し、人生を楽しんでいただけるように、という願いをこめてつくりました。
・なにがおきても平然として揺るがない。世間体など気にせず、思いきり高齢者が若々し
 く生きられる場所をつくりたい。
・老いて異性に接することは悪いことではない。それどころか、むしろ異性を意識してお
 洒落をし、肌を接することは健康にいいし、精神的にも若返る。
・個人の自由が守れないところでは、本当の意味での老後の楽しみなどはありえない。
・高齢者ほど都心部に住むべきで、そこなら交通の便が良くてどこにでも行きやすいし、
 近くにレストランや喫茶店も多い。さらに子供や孫たちも簡単に立ち寄ることができる。
・高齢者にとってなによりも重要なのは刺激だと考えている。ほどよい刺激は心も体も若
 返らせるが、静かな刺激のないところに住めば住むほど、体は急速に弱り、頭も働かな
 くなってくる。
・結婚という、いかにも幸せそうな、まやかしの形が嫌いだった。それより、常に自由で
 いて、自由なまま死にたい。たとえ孤独でも、死ぬときはみな孤独なのだから、それで
 いい。
・好きで好きで結婚しても、歳月とともに緊張感が薄れ、外で遊んだり、浮気をする夫た
 ちは少なくない。それも妻を嫌いというより、常に一緒にいることに飽き、やがて別の
 新鮮な女性のほうに目移りする。そんな夫にすがるより、初めから自分一人の生活を確
 立し、馴染んでおくほうが、あとで失望したり、泣くめに遭わなくてすむ。
・結婚願望のない女性が生まれた背景には、女性が経済力を見つけたことが大きく影響し
 ている、といってもいいだろう。 

プレイボーイ
・高齢者の親の再婚に反対する子どもたちの本音をきくと、自分の父や母が60や70を
 こえて、別の男性や女性と一緒になること自体に、生理的に違和感を覚えるようである。
 なかには、二人が愛し合う姿を想像するだけで気持ちが悪くなる、という子供もいる。
 こうなると理屈というより感覚の問題だけに、できるだけ当事者同士の気持ちを理解し
 てやって欲しいというよりない。
・高齢者でも、むろん性的な欲望はあるが、セックスそのものは人によってさまざまであ
 る。とくに男性の場合、勃起という過程が必要なだけに個人差も大きいと思われる。
・日本人は、性的なことになると極端に恥じて、なにか悪いことでもしているようにこそ
 こそと訴えてくるが、もっとおおらかにいったほうがいい。いくつになってもセックス
 はあることにこしたことはないし、そのときバイアグラが必要だとしても恥じることは
 ない。しかし日本の病院ではバイアグラを渡す前に、いろいろ病状について質問したり、
 検査をしすぎるようである。慎重に調べ、安全とわかったうえで渡す、といえばきこえ
 がいいが、これでは病院にバイアグラを求めてくる人が少なくなるのも無理はない。お
 かげでこの種の薬は、いまだに病院より通販のような裏ルートで売買されることが多い
 ようだが、アメリカではもっと簡単に、しかも堂々と病院で渡されている。このあたり
 は、セックスは恥ずべきことで、ひたすら隠すべきだという日本の昔からの考えかたと、
 愛し合っている以上、セックスも楽しむべきだという性への開放感がゆきわたっている
 アメリカとの違いである。
・75歳と73歳と、年齢だけをきくといかにも高齢だが、その二人が結ばれたとしても、
 なんら不思議もない。それどころか、可能な限り結ばれるにこしたことはない。二人と
 もすでに社会や企業倫理などといった窮屈な枠から自由になったのだから、思いきりそ
 の後の人生を楽しんだほうがいい。とやかくいっても、性愛は人間の輝きであり、命の
 源泉である。

プレイガール
・家族といえども家で本当の姿を見せているとはかぎらない。それどころか表面だけつく
 ろった、偽りの姿を見せている人も多いようである。それも兄弟やら姉妹ならともかく、
 父と子、母と子という関係になると、互いに、父らしく、母らしく、そして子は子らし
 くあらねばならないと思うあまり、個々の赤裸々な姿は隠している。こうした傾向は一
 般庶民の家庭より、それなりの地位や資産のある家の人たちのほうが強い。
・若者にとって大事なのは未来かもしれないが、高齢者にとって大事なのは、いまいかに
 元気で楽しいか、ということに尽きる。

ポルノグラフィ
・江戸から明治、大正のころまでの男たちの遊びかたは徹底していた。一度、遊ぶと決め
 たら金に糸目は付けず、馬鹿になりきって遊び尽くす。同様に金がないものも命を懸け
 て遊びほうける。むろん、そこではエロスも重要な位置を占めていて、気の合う女にと
 ことん入れこみ、淫靡な世界に酔いしれる。地位も名誉も良識もすべてをかなぐり捨て
 て一時の享楽に溺れ込む。男なら誰しもいっとき、そんな夢を抱くことがある。
・思いきり、好きな男に抱かれて狂いたい。昼夜をわかたず愛する男と戯れ、燃え尽きた
 いと女も夢見て熱くなる。
・夫婦だからといって本当の意味でわかっているわけではない。年齢をとればとるほど夫
 婦は一心同体という人もいるが、はたしてどうなのか。一心同体どころか二心別々で、
 たまたま惰性で一緒にいるというケースもすくなくないかもしれない。
・年齢をとればとるほど、同年代だからといって同じといえないことを痛感する。これが
 十代二十代の若者なら、みなほぼ同じ趣味や価値観をもち、やることも似ていて、十代
 の頃はとか、二十代の若者は、というように世代でまとめて論じることもできる。しか
 し三十代から四十代と年齢を重ねるとともに、考えから行動もさまざまになり、五十代
 から上になると、もはや世代でくくることは不可能になる。とくに六十代から七十代、
 さらに八十代と上がるにつれて、個人によって大きく違いがでてくる。元気で自らボラ
 ンティアに従事している人がいるかと思うと、寝たきりでほとんど動けぬ人まで千差万
 別である。要するに、高齢になればなるほど個人差がでて、いわゆる常識でははかり知
 れないことが多くなる。こうした個人差は性格から生きかた、そして性的な欲望まで、
 大きな開があるようである。
・まず七十歳以上の男女を対象にした、「性欲はありますか」という問いに対して、男性
 の35パーセントは「ある」と答え、40パーセントは「多少ある」と答えている。
 「ない」と答えているのはわずか25パーセントで、全体の7割以上が強弱はともかく、
 性欲を覚えて、女性に関心を抱いていることがわかる。
・女性の場合は性欲が「ある」と答えたのは20パーセント、「多少ある」が20パーセ
 ントで、残りの60パーセントが「ない」と答えている。あきらかに、男性と比べて女
 性のほうが性欲が弱そうだが、これは性欲に対する解釈に違いがあるようである。
・性欲の内容をはっきり性交渉と答えたのは、男性が15パーセントであるのに対して、
 女性はわずか6パーセントにすぎない。しかしもっと広く、肌の触れ合いまで含めると、
 男性で60パーセント、女性では18パーセントに達し、さらに互いへのいたわりとか 
 ントが「性欲がある」と答えていて、女性も80パーセントが「ある」と答えている。
 しかし、実際の性行為になると、男性の場合、年齢とともに減少し、60代の後半では、
 まったくない人が20パーセントであるのに、月に1,2快はあると答えた人が32パ
 ーセント、月に0回から1回が30パーセントで両方合わせて62パーセントとなって
 いる。これが70代の前半になると、ない人が45パーセントと倍近くに増え、月に1,
 2回という人も17パーセントに減少する。あらに80代前半になると、半分以上の57
 パーセントの人が、性的関係がないと答えているが、それでも月に1,2回という人が
 3.5パーセントで驚いたことに月に3回以上という人が1パーセントとなっている。
・さらに各年代の陰茎硬度の推移を見ると、60代前半では、いつも硬くなる人が18
 パーセント、しばしば硬くなるが33パーセントで、まったく硬くならないが2.3パ
 ーセントである。同じことを80代前半で見ると、まったく硬くならないが32パーセ
 ントなのに、時々硬くなるが40パーセント、そして、いつも硬くなるが、3パーセント
 となっている。
・一方、女性の性交渉の頻度は男性と相対的な関係にあるが、総じて年齢をとればとるほ
 ど男性の意欲が失われていくのに対して、女性の欲求はむしろ高まっている。少なくと
 も、高齢の女性の場合、男性が積極的に求めてきたら、受け入れる気はあるが、それに
 男性の方が応じきれていないのが実情のようである。
・さまざまな統計を見て、教えられることは、年齢をとったからといって必ずしも性欲自
 体が低下しないことである。その内容に多少の違いはあれ、男も女も9割近くの人が、
 異性との接触を求めている。高齢だから性的な欲望はないとか老人は人畜無害である、
 などと決めつけるのは間違いである。
・高齢者だから、また四肢が自由に動かないからといって、性的欲求がなくなる、と考え
 るのは誤りである。性欲は人間の脳が最後まで保ち続ける、もっとも人間的な能力で、
 これを賎しむことは人間に対する冒涜ということになりそうである。
・人は老いたくて、年をとりたくて生きているわけではない。ただ懸命に生きて、気がつ
 いたら年齢をとっていた、というだけのことである。
 
ペアリング
・一般的には、恋愛をして結婚する、その直後の新婚当時なら、家事をすること自体が楽
 しくて、仕事などと思うこともない。好きな人に美味しい食事をつくってやり、部屋を
 綺麗にし、彼の下着を洗濯することも苦痛ではなかった。だが、歳月とともにその歓び
 も徐々に薄れ、結婚して30年も40年も経てば、歓びどころか負担になってくる。と
 くに妻を年齢をとって若いときのように体が動かなくなると、なぜ自分だけがこんなこ
 とをやらなければならないのかと腹が立ち、やがて、家事を放棄して逃げ出したくなる。
・改めて思うのは「女は強い」ということである。とくに年齢をとればとるほど女は強く
 なる。当然のことならが逆の男は年齢とともに弱くなっていく。独身の人たちはもちろ
 ん、夫婦でいる場合でも、夫より妻のほうが圧倒的に強い。それも体が元気というだけ
 でなく、気性もやりことも、妻のほうがはるかに強く、しかも自己中心的である。
・改めて思うのは、日本人の男女の関係のぎこちなさである。もう少し気軽に、男女互い
 に話しかけ、馴染んだらどうかと思うが、異性と見ると途端に緊張し、必要以上に照れ
 たり、人目ばかり気にして自然に振る舞えない。手をつなぎ合ったり、外国人のように
 久しぶりであった時など軽く頬に接吻をしたり、肩や背中を叩き合えるようになったら、
 人と人との交わりかたもずいぶん変わってくるに違いない。とくに年齢をとればとるほ
 ど、その種の軽い体の触れ合いが必要で、それ互いの心を和ませ、ひいては全身の血の
 流れまでよくするはずである。言葉だけでなく、軽く体を寄せ合い触れ合う。こういう
 行為に日頃から馴れていると、老いてからも夫婦にありかたもずいぶん変わってくるの
 ではないか。
・若い頃はベットをともにしたら、すぐにセックスのことだけを考える。とくに男は、い
 だが、性的行為はなくても、妻の手を
 握って見守ってやるだけで妻が満足してくれるはずだ。確かに、夫の強引で一方的なセ
 ックスより、手と手を握り合うたしかな感触のほうが、どれほど妻を和ませ、互いの愛
 を深められるかもしれない。
・もしかすると、老いたとくのほうが性愛は多彩で、変化に富んでいるかもしれない。
・老いてからの性的欲求は男女によって、かなり違いがありそうである。高齢者の性欲に
 ついての調査によると、男女とも8割以上の人が、性欲はある、と答えているが、その
 内容をみると、男のほとんどが性的関係、いわゆるセックスをイメージしているのに、
 女性の場合は優しい愛撫とか肌の触れ合い、されには言葉で労り合うといった、セック
 ス以外のものを求めている。もちろん女性のなかにも、積極的に男性とのセックスを求
 めている人もいるが、それはあいまで一部のようである。
・これに対して、男性はたしかに性的関係をイメージしているが、その実態はかなりの違
 いがあって、すべてがセックスを求めているわけでもないようである。むろん、正常に
 関係できればそれにこしたことはないが、高齢になるとともに、行為に自信をもてなく
 なる人もいる。こういう男性たちは、セックスそのものは諦め、むしろ女性の肌に触れ
 るとか、女性の裸体を見るといった、視覚や触覚で楽しむほうへ移っていく。しかし、
 この種の行為は、いわゆるセクハラともつながるもので、それによって慌てふためく女
 性の顔を見たいとか、若い女性を困惑させたいという屈折した欲望も潜んでいるようで
 ある。
・もはや女性にもセックスにもすべて無関心という男性もいる。こちらは勃起すること自
 体が難しく、さらにその先、女性と関係してもさほど心地よいわけでもない。そんなこ
 とから、いまさら女性などを追いかけてエネルギーを費やすより、自分のやりたいこと
 をマイペースでやっていくほうがいい。こうしたセックス無関心派は女性にも結構多く、
 性欲がないと答えた人のほとんどは、このタイプのようである。考えようによっては、
 この人たちの生きかたのほうが気楽で、つまらぬロスもなさそうだ、それが馴染み過
 ぎると淡々として穏やかではなるが、ときめきや艶やかさのない日常を繰り返すことに
 なる。
・人間はかぎりなく無気力で怠慢な人になっていくが、これは異性への好奇心やセックス
 においても同様である。いまさら、好きだ嫌いだなどといって追いかけたり追われたり、
 そんなことは面倒である。異性を愛したりセックスなどしなくても、自分は自分なりに
 納得して生きている。そう考え、恋愛やセックスなどは無意味でつまらないものと決め
 つけているうちは、本当に異性などいなくても平気になり、やがてその人自身の恋愛的
 雰囲気が失せるとともに、艶めかしさも消えていく。
・とにかく年齢をとってなにも動かず、ひたすら楽に過ごしていると、心身ともに急速に
 衰えていく。年齢を取ればとるほど前向きに、かつ、自らの意思で動く癖をつけること
 がいかに大切かがよくわかる。逆に年齢をとってひたすら家に籠り、なにもしないで楽
 をしていると急速に老けて、衰えることも確かである。
・年齢をとったからといって、年金などを受け、ただ社会の世話になるだけではいけない。
 むしろ元気ないあだは積極的に扶ける側に回って、社会に貢献するべきである。こうし
 た考えは、アメリカなどでは広くゆき渡っているが、日本では高齢者が高齢者を介護す
 るなど、不自然でできるわけがないと決めつけている。しかし、せっかく元気で世間の
 ために働きたいと思っている高齢者を無駄にする手はないし、実際にやってみると、高
 齢者だから話し相手になったり気がつくことも多く、好評である。
・さまざまな人を見ていると、前向きに動くことがいかに大切かがわかってくる。逆に年
 老いて無気力になることほど危険なことはない。それは自らを甘やかし、自らの能力を
 萎えさせ、ひいては老いを加速させ、まわりの人の迷惑をかけることにもなる。
・いつも健康で若々しくいるためには、常に好奇心をもつことで、そのためには、多少、
 噂好きでもお喋りでも、お節介でもかまわない。それが、その人の生きていくエネルギ
 ーになり、前向きの石をもたらす原点になる。この点についていえば、やはり女性のほ
 うが話好きで、群れをなし、好奇心も旺盛である。女性が男性より長生きして元気な理
 由の一つは、このお喋り好きにあると思っている。
・多くの男たちは、女たちのようなくだらないことは話せないし、花好きもなれない、と
 思っているようだが、お喋りが頭を活性化させ、若返らせることは間違いない。当然の
 ことながら、喋るときには相手の存在を意識し、その上で木呂場をやりとりするのだか
 ら、なによりも対人関係に気をつかい、さまざまに頭を回転させる遊びであることは確
 かである。
・年齢をとればとるほど、頭を使ってください。人間の臓器の中で、大脳は一番強く、頑
 丈につくられています。頭はどんなにつかっても使い減りしない、いわゆるリザーブ能
 力を秘めているから、どんどん使うことです。逆に使わずにいると、脳はたちまち怠け
 て萎縮し、ボケてしまいます。 
・嫉妬したり増悪することも、年齢をとった人にはそれなりに、生きていく原動力になる
 はずである。 
・妻たちは別れるまでにはそれなりに悩み、苦しむだろうが、一旦、別れると決めたら、
 もはや迷わない。未練を残すどころか、むしろさばさばと去っていく。しかし、夫たち
 は外見に似合わず、別れ話になると意外に脆くて、毅然としていない。唯一、男も例外
 的にきっぱりと別れるときがあるが、それは妻の後任が決まっているときだけである。
 妻の後釜になる女性がいるときは毅然と別れるが、いないときにはみな別れることに戸
 惑い、二の足を踏む。その原因は、夫たちが自立していないからだと思う。家事から生
 活費まで、日常のさまざまなことを妻に任せきりで、気がつくと自分一人では生きてい
 きにくくなっている。くわえて男は孤独に弱くて、一人になると急に落ち着きがなく、
 不安になってくる。
 
ジェラシー
・高齢で仲のおお夫婦ほど、夫か妻の一方が亡くなると急速に弱ってしまう。むろん、誰
 でも身近なひとが死んだら嘆き悲しむのは当然だが、そこにも男と女の違いがあるよう
 である。夫が先になくあった場合、残された妻はもちろん悲しみ、「お父さん、お父さ
 ん」と棺にとりすがり、「一人では生きていけない」と泣きじゃくる。だかそれから半
 年経ち、一年も経つと意外に元気を取り戻し、二年も経つと、「独り身がこんなに楽だ
 ったとは知らなかったわ」などといいながら、結構、友だちと明るく過ごしている。
 亡くなった瞬間こそたっぷり悲しみはするが、それだけに立ち直りも早く、その見事さ
 に、なにか裏切らえたような気がすることもある。
・これに比べて、妻が亡くなった場合、夫は悲しみを表に出さぬよう極力おさえ、あまり
 悲しんでいないかのように見えることもある。しかし、そのあと半年経ち、一年も経つ
 と、一人だけとり残されて、寂しげな風情が目立ってくる。
・妻がいた頃は、むしろ我儘で勝手なことをしているように見えた夫でさえ、妻に先立た
 れるとにわかに元気を失い、頼りなげに見えてくる。とくに、生前、よく気がつき、夫
 を支え続けてきた妻が亡くなったときほど、夫の弱りようは顕著である。
・総じて、一見、強そうな男ほど、意外に脆いところがある。頭もシャープで、他人を攻
 撃する時には舌鋒鋭く迫っていながら、いざ受身になると極端に弱くなる。
・男はリタイアしてからでも、男同士で容易に馴染まない。ほとんどは自分の殻に閉じこ
 もり、そこから積極的に出ようとしない。とくに現役の頃、それなりの地位にあった人
 ほど過去の栄光にこだわり、近づくときにも相手の前歴を探りあい、自分の見合ってい
 る否か見定めようとする。このあたり、男はいくつになっても、縦の序列から逃れられ
 ないようである。
・これに比べると、女性は過去の地位などにこだわらず、楽しく、気が合いさえすれば、
 たちまち仲良くなっていく。とくにあの食物は美味しいとか、こうしれば美しくなれる
 など、共通の話題をもっていて、それに関わることならたちまち群がり、延々とお喋り
 を続けて盛り上がる。むろん、嫌な人や腹の立つことなどについても話し出したら止ま
 らない。この、過去の地位などにこだわらず、すべてに好奇心が旺盛で、誰とでもお喋
 りして憂さを晴らすところが、女性が男性より長生きする一つの理由である。
・人間は年齢をとればとるほど子供に戻るということである。年齢とともに、いわゆるお
 爺さんは男の子に、お婆さんは女の子に、若いときの気取りや虚飾を脱ぎ捨てて生まれ
 ながらの子供に戻っていく。ただその過程で、素直に子供になれるタイプと、なりにく
 いタイプの二つがある。
・人を愛したりセックスすることが、体にいい刺激をもたらすことは間違いない。とくに
 女性の場合は、それで美しくなることが多いから、その意味では、化粧したりエステへ
 通うことが外側からの化粧水だとしたら、愛したりセックスすることは内側からの化粧
 水、といってもいいかもしれない。高齢者になると、とくにこの内側からの化粧水が重
 要で、年齢のわりに若く見えたり老けて見える理由の一つは、このあたりにもあるのか
 もしれない。
・年齢をとってからのセックスのほうが楽しい、という意見はそれなりに説得力がある。
 実際、高齢になれば生理もなく、妊娠について心配することもない。当然のことながら、
 男性のほうも余計なものを装着する必要もなくなってくる。
 
プレイタイム
・性の悦びはすべての人に共通の願いであり、人間的なぬくもりの原点である。それだけ
 に高齢や障害者だからといって、拒否されるべきではない。
・これまで日本では、セックスは恥ずべきことで高齢者は性とは無縁の存在である、と思
 われてきた。たとえ本人がそうではないと思っていても、まわりがそうあるべきだとお
 しつける。
・オランダの考え方は、それとまったく逆で、高齢者であろうが障害者であろうが、性の
 快楽を求めるのは当然で、それが可能になるようにみなでたすけていく。こうした、性
 に対するおおらかな考えかたは日本でも広まって欲しい。
・はっきりいって男の場合は、女性のセックスの関係さえできたら、欲求のほとんどは満
 たされたと同じである。もちろん、精神的な優しさや思いやりなども必要だが、極端な
 話、性的行為ができたらそれでひとまず落着き、納得する。
・だが女性の場合は、セックスだけできたら満足という人はほとんどいない。それ以前に
 愛があり、心と心のつながりがあり、その結果としてのセックスなら受け入れる、とい
 うのが大半のようである。
・つまり簡単にいうと、男は初めにセックスありき、でいいのだが、女は初めに愛ありき、
 でなければ納得しない。要するに、男は肉体が優先し、女は精神が優先し、したがって
 女を満足させるためには、まず、女の心揺さぶり、ときめかせる精神作用が不可欠であ
 る。
・だいたい、女性に比べて男性、とくに高齢の男性は照れ屋だし、口が重い。くわえて女
 性より臆病で、なにをするにも腰が退けている。少なくとも、堂々と開き直って遊ぶ男
 はまずいない。もう定年もとうの昔に過ぎて、なにをしてもとやかくいわれることはな
 いのに、どこかでまだ世間体を気にして怯えている。
・施設でさまざまな高齢者を見ているうちに、女は強くて男は弱い生き物だと思うように
 なってきた。お婆さんは常に堂々として、迷わずやりたいことを貫くのに、お婆さんは
 絶えず体面を気にして定まらない。

ラブソティ
・いったい男性は何歳まで妊娠させる能力があるのだろうか。チャップリンは73歳、
 上原謙は71歳、蓮如上人は83歳の時に子どもをもうけている。
・日本人の一回の平均的射精量は3.5cc前後といわれていて、1cc当たりの精子の量は
 約1億前後である。受胎能力に直接関わるのは精液の量よりこの精子の濃度で、1cc中
 に5千万個以上あれば受胎するといわれている。
・学問と恋愛がなんの関係もないことは、いまに始まったことではない。いかに頭が良く
 て勉強ができたからといって、男女の機微をわかっているとはいえないし、学校などに
 はいかなくても、恋の表裏を知っている人は知っている。学校に行ったり、本を読むこ
 とで学問は学ぶことができるが、恋愛は実際に体験し、それを各々の感性で理解して積
 み上げていくものであり、学があり、教養があるからといって、恋や愛に対する感性が
 豊かだとはいいきれない。

レクイエム
・病院によっては、高齢者に何種類もの薬を大量に投与するところがあるようだが、その
 やりかたには批判的である。とくに不眠症とか高血圧とか、いわゆる慢性の疾病に延々
 と何種類もの薬を与えすぎて、かえってその副作用で悪くなり、なかには眠り続けたり
 無気力になり、ついには廃人同様になることもある。なんであれ、薬は毒の一面も持ち
 合わせている。
・総じて、女性は互いに寄り合い、それなりに仲間ができるようだが、男性はうちとける
 のが遅く、友達もできにくいようである。要するに、女は群がるのが好きなのに比べ、
 男は孤高を保つ傾向がある。
・日本の高齢者は、老後のことが気がかりでつい、使いことより残すことばかり考えてし
 まう。確かに、老後のためにある程度の蓄えは必要だが、いざ余裕ができて、そろそろ
 遊ぼうと思った途端、体がいうことをきかない、ということになりかねない。これでは、
 なんのためにお金を貯めたのかわからない。やはり、お金に多少余裕があるなら、元気
 なうちに使っておきたい。

エピローグ
・夫婦の場合ならセックスがなくても結婚という強固な形で結ばれているだけに容易に崩
 れないようだが、フリーの男の女という関係ではセックスという絆が失われると急速に
 脆くなってくる。
・女性はよく体でなく心だというが、乙男はやはり心と同様に体も重要である。たとえ精
 神的につながっていると思っても、体を許さなくなった女には愛情が持てなくなるし、
 あるところから、愛したり、尽くす気にもなれなくなる。要するに、男はそれだけ性的
 な生きものである、ということでもある。
・たとえ不倫であろうと恋をできるうちが華である。老いにとって最大の敵は孤独で、寂
 しさだけで、心も体も急速に弱り萎えていく。それだけに人間60歳をこえたら自分の
 思うままに生きるべきで、そういう生きかたをしている人ほど、若々しくて健康である。
・高齢者にとって重要なのは、単に長生きすることではなく、いわゆる生活の質を高める
 ことだ。