外山滋比古の読書量

Q.外山滋比古の読書量調査

外山滋比古の読書観とその量に関する考察

1. はじめに

外山滋比古(1923-2020)は、英文学者として著名でありながら、言語学、修辞学、教育論、思考論など多岐にわたる分野で独創的な研究と評論活動を展開した知識人です。お茶の水女子大学名誉教授を務め、その知的な洞察と平明な文章は多くの読者を魅了しました 。なかでも、1986年に刊行された『思考の整理学』は、長年にわたり読み継がれるベストセラーとして、知的生産に関心を持つ幅広い層に影響を与え続けています 。本稿では、外山滋比古が提唱した読書に関する独自の視点、彼が推奨した読書の方法、そして提供された資料から推察される彼の読書量やその傾向について考察します。彼の読書観を明らかにすることで、彼の知的活動の根幹にある思想を理解する一助とすることを目指します。

外山滋比古の思想は、時代を超えて多くの人々に支持されています。その理由は、『思考の整理学』が長年にわたり読み続けられていることからも明らかであり、彼の知的成長や読書に対する考え方が、現代においても普遍的な価値を持つことを示唆しています 。英文学、言語学、教育学といった彼の学術的な背景は、読書という行為に対する深い理解を育み、日本と西洋の読書文化を比較する視点や、独自の読書方法論の形成に影響を与えたと考えられます 。

2. 「乱読のセレンディピティ」の哲学

外山滋比古の読書観を語る上で欠かせないのが、「乱読」(randoku)という概念です。これは、目的を定めず、興味の赴くままに多様なジャンルの本を読むことを指し、彼の読書哲学の中核をなしています 。彼は、計画的で集中的な読書だけでなく、むしろ漫然と、しかし広範にわたる読書の中にこそ、「セレンディピティ」(serendipity)、つまり予期せぬ幸運な発見が生まれると主張しました 。

外山滋比古は、自身の著書『乱読のセレンディピティ』において、この思想を詳細に展開しています 。彼は、一つの専門分野に深く没頭するだけでなく、あえて専門外の領域にも足を踏み入れることで、既成概念にとらわれない自由な発想や、分野を超えた新しい視点が育まれると考えました 。資料 には、「乱読は速読である...ゆっくり読んだのではとり逃すものを、風のように速く読むものが、案外、得るところが大きい」とあり、乱読と速読を結びつけ、多くの書物に触れることの意義を強調しています。また、 では、専門外の本を読むことが新たなアイデアを生むと述べられており、知識の偏りを避けることの重要性が示唆されています。さらに、 では、読書家ではないと自認する読者が「乱読」を勧める外山滋比古の姿勢に共感を覚えたと語っており、彼の読書観が幅広い層に受け入れられていたことが窺えます。

「乱読」を重視する外山滋比古の考え方は、知識の領域は相互に深く関連しており、一見無関係に見える分野の知識や視点が、自身の専門分野における新たな思考や問題解決の糸口となる可能性を示唆しています。意図的な探求だけでなく、偶然の出会いの中にこそ、重要な発見が潜んでいるという彼の信念が表れています。

3. 「アルファー読み」と「ベーター読み」

外山滋比古は、読書を大きく二つのタイプに分類しました。「アルファー読み」(alpha reading)と「ベーター読み」(beta reading)です 。アルファー読みとは、すでに知っている内容や容易に理解できる文章を読むことで、確認や再認識を目的とした読み方です 。一方、ベーター読みは、未知の内容や難解な文章に積極的に取り組み、深く思考し、解釈を試みる読み方であり、知的な成長に不可欠であるとされました 。

資料 は、彼の著書『新版「読み」の整理学』のレビューであり、アルファー読みが既知を読むこと、ベーター読みが未知を読むことであると明確に示しています。 では、アルファー読みが既知の再認、ベーター読みが未知の理解に対応すると説明され、さらに全く新しい世界に挑む「C」という第三のレベルの読書も提示されています。 は、『読書の方法』からの引用で、意味がすぐにわからない難解な書物を何度も読み返し、思考錯誤するベーター読みの重要性を強調し、その先に「発見」の喜びがあると述べています。 は、『新版「読み」の整理学』の概要を示しており、アルファー読みとベーター読みの区別が理解の深化に繋がることを示唆しています。

外山滋比古は、アルファー読みとベーター読みを区別することで、読書体験をより意識的に捉えることを促しました。特に、未知の領域に挑むベーター読みを通じて、読者は自身の思考力や解釈力を鍛え、新たな知識や視点を獲得することができると考えたのです。また、資料 で言及されている「素読」(意味を理解せず音読すること)は、一見非効率に見えますが、言葉の音やリズムに触れることで、徐々に理解を深めるベーター読みの一種として捉えられていた可能性があります。しかし、 では、現代社会が理解しやすい(アルファー)読みを重視し、ベーター読みの困難さを避ける傾向にあることが指摘されており、深い読解力や批判的思考力の低下が懸念されています。

4. 思考のための読書、知識のための読書

外山滋比古は、読書の主要な目的は単なる知識の習得ではなく、自律的な思考力を養うことにあると強く主張しました 。資料 では、「本の知識が役立つのは30代まで。40歳を過ぎたら本に頼らず、自分で考えることが必要です」と述べ、知識偏重から脱却し、自ら思考することの重要性を強調しています。 では、「結局1冊をじっくり読んだところで、「自分の思考」を鍛える訓練にはならないからです」と述べ、熟読よりも多様な読書体験と思考の重要性を示唆しています。

外山滋比古は、「グライダー人間と飛行機人間」という比喩を用いて、この考えを鮮やかに表現しました 。グライダー人間は、本や教師といった外部の力に頼って知識を得る受動的な存在であるのに対し、飛行機人間は、自らの力で考え、主体的に知識を獲得し、問題を解決できる能動的な存在であるとしました。彼は、これからの時代には、自力で思考し行動できる飛行機人間が必要であると説きました。 で彼は、「本などいくら読んでも、すべての知識を頭の中に入れることはできない。自分の頭で物を考え出す力というのはどうしたら得られるのか」と問いかけ、真の知性は知識の量ではなく、自ら考える力にあると示唆しています。 では、「知識の量が多くなるに反比例して人間は考えなくなる」という逆説的な見解を示し、知識の過剰な蓄積が思考力を阻害する可能性を指摘しています。 では、愛読書を多く作ることを戒め、特定の書物に固執するのではなく、思考を促す読書を重視する姿勢が窺えます。 においても、知的な活動の根本は記憶による知識ではないと明言しています。

外山滋比古のこれらの主張は、単に知識を詰め込むだけでなく、読書を通じて得た情報を自らの頭で咀嚼し、独自の考えを生み出すことこそが重要であるという彼の強い信念を示しています。彼は、受動的な知識の吸収ではなく、能動的な思考の訓練としての読書を重視したのです。

5. 読書量とアプローチに関する考察

提供された資料からは、外山滋比古自身の具体的な読書量に関する直接的な記述は見当たりません。しかし、彼の提唱する読書観や方法から、ある程度の推測をすることができます。 には彼の著作と読書メーターでの読まれた回数が示されていますが、これは彼の著作の読者のエンゲージメントを示すものであり、彼の読書量を示すものではありません。

で彼は、「ある程度の知識は必要ですが、勉強しすぎるとダメになりますよ、人間も」と述べており、過度な知識偏重を戒める姿勢が窺えます。これは、単に多くの本を読むことを推奨していたわけではない可能性を示唆しています。一方、 では、彼の著書『読書の方法』に関するYouTube動画の要約として、一冊の本を深く読むよりも多くの本を読むことを推奨し、概要を把握するために読み飛ばすことも許容する考えが紹介されています。これは、彼の読書アプローチにおいて、量よりも多様な接触を重視する側面があったことを示唆しています。 では、『乱読のセレンディピティ』からの引用として、「乱読は速読である...ゆっくり読んだのではとり逃すものを、風のように速く読むものが、案外、得るところが大きいということもあろう」とあり、速読による多読の可能性を示唆しています。また、 で、自分の金で本を買い、面白くない本は途中でやめても良いという彼の主張は、彼自身が相当な量の本に触れてきた経験に基づいているとも考えられます。

これらの点から、外山滋比古は、必ずしも一冊の本を深く読み込むことだけを重視していたのではなく、むしろ多様なジャンルの本に幅広く触れる「乱読」を推奨し、その過程で思考力を養うことを重視していたと考えられます。彼の読書量は、特定の数で示されるものではなく、知的な好奇心を満たし、思考を刺激するために必要な量を、多様なアプローチで読みこなすスタイルであったと推測されます。

6. 著作に反映された読書観

外山滋比古の読書観は、彼の著作、特に『読書の方法: 未知を読む』 と『「読み」の整理学』 に顕著に表れています。『読書の方法』は、未知の書物をいかに読み解くかに焦点を当て、困難なテキストを読むことによる発見の喜びを強調しています 。また、「素読」の有効性についても言及しています。 は、『「読み」の整理学』が『読書の方法』を発展させたものであり、既知を読むアルファー読みと未知を読むベーター読みの二つの読み方を解説していると指摘しています。 は、『読書の方法』からの引用で、最初は意味が分からなくても、繰り返し読むことで理解に至る瞬間の重要性を説いています。 は、『新版「読み」の整理学』の目次を示しており、わかりやすさの信仰、アルファー読みとベーター読み、古典と外国語の役割など、多岐にわたるテーマが扱われていることがわかります。

これらの著作の存在は、外山滋比古にとって読書という行為がいかに重要なテーマであったかを物語っています。彼は、単に本を読むだけでなく、いかに読むか、そして読むことによって何を得るかを深く考察し、それを読者に伝えようとしていたのです。特に、『読書の方法: 未知を読む』というタイトルは、彼が未知の領域への探求を重視し、知的な挑戦としての読書を奨励していたことを示唆しています。また、「素読」の推奨は、言葉との多角的な接触を通じて理解を深めるという、彼の独特な読書観を反映していると言えるでしょう。

7. 結論

外山滋比古の読書観は、「乱読のセレンディピティ」に代表されるように、広範な読書体験を通して予期せぬ発見を重視するものでした。彼は、既知の情報を確認する「アルファー読み」だけでなく、未知の領域に積極的に挑む「ベーター読み」の重要性を説き、読書を通じて自律的な思考力を養うことを強調しました。提供された資料から彼の具体的な読書量を特定することはできませんでしたが、彼の提唱する読書方法や著作の内容からは、多様なジャンルの本に幅広く触れ、その過程で思考を深めることを重視する読書スタイルであったと推測されます。外山滋比古の読書に関する洞察は、現代においても、読書を通じて知的好奇心を満たし、思考力を高めたいと願う人々にとって、示唆に富むものであり続けるでしょう。

表1: 外山滋比古の主要な読書に関する著作

書籍名(日本語) 英語タイトル スニペットID 内容概要
読書の方法: 未知を読む How to Read: Reading the Unknown 未知の書物を読み解く方法、発見の喜び、素読の推奨
「読み」の整理学 The Art of Reading アルファー読みとベーター読みの概念、読書の多様な側面を考察
乱読のセレンディピティ Serendipity of Random Reading 広範な読書による予期せぬ発見の重要性を説く

表2: 「アルファー読み」と「ベーター読み」の比較

特徴 アルファー読み (Alpha Reading) ベーター読み (Beta Reading)
目的 既知の確認、容易な理解、楽しみ 未知の理解、思考力の養成、知識の拡張
対象 慣れ親しんだ内容、容易な文章 未知の内容、難解な文章
心的負荷 低い 高い
読解の深さ 浅いことが多い 深い
知的成長への貢献 限定的 大きい

例 新聞記事の見出し、趣味の雑誌、再読するお気に入りの小説 専門書、古典、外国語の文献、初めて読む分野の本