Q.日本はこのままでは国全体が介護崩壊に陥ることになりますか?
日本において、国全体が「介護崩壊」に陥る可能性は指摘されており、すでにその兆候も現れています。主な要因と現状は以下の通りです。
1. 迫りくる2025年問題と高齢化の加速
- 2025年には、第一次ベビーブーム(団塊の世代)が75歳以上の後期高齢者となり、介護サービスの需要が大幅に増加します。
- 高齢者人口は2042年にピークを迎えると予測されており、その後も高齢化率は上昇を続け、2065年には国民の約2.6人に1人が65歳以上、約4人に1人が75歳以上になると推計されています。
- 認知症高齢者も2025年には約675万人に増加すると見込まれており、より手厚い介護が必要なケースが増加します。
2. 深刻な介護人材不足
- 介護需要の増加に対して、介護人材の供給が追いついていません。2025年には約37.7万人の介護人材が不足すると推計されています。
- 介護職の賃金が全産業平均よりも低いこと、身体的・精神的負担が大きいことなどから、離職率も高く、人手不足が深刻化しています。
- 特に訪問介護では、事業所の倒産や休廃業が過去最多を記録するなど、サービス提供体制が脆弱になっています。
3. 介護費用の増大と財源の逼迫
- 要介護者の増加に伴い、介護費用は年々増加しています。介護保険制度の持続可能性が問われており、保険料や自己負担割合の引き上げが検討されています。
- 2040年には、1人の高齢者を1.8人の現役世代が支える状態になると予測されており、現役世代の負担がさらに重くなることが懸念されています。
4. 介護難民の増加と在宅介護の限界
- 必要な介護サービスを受けられない「介護難民」が増加しています。特に重度訪問介護の分野でこの問題が顕著です。
- 介護施設での入所が難しくなったり、訪問介護のサービス提供が困難になったりするケースが増え、自宅での介護を余儀なくされる家庭が増えています。
- これに伴い、「老老介護」(高齢の介護者が高齢の被介護者を介護する)や「認認介護」(認知症の介護者が認知症の被介護者を介護する)といった、介護者・被介護者双方に大きなリスクを伴う状況も増加しています。
対策と今後の展望
日本政府は、これらの問題に対応するため、以下のような対策を進めています。
- 地域包括ケアシステムの推進: 住み慣れた地域で医療・介護・生活支援を一体的に受けられる体制の構築を目指しています。
- 介護保険制度の改正: 介護報酬の引き上げや自立支援・重度化防止に向けた対応、働きやすい職場づくりなどが進められています。
- 健康寿命の延伸: 国民の健康寿命を伸ばすことで、介護期間を短縮し、介護サービスの需要を抑制する取り組みも行われています。
- 介護ロボットやICTの活用: 人手不足を補うために、介護現場での技術活用も期待されています。
しかし、これらの対策が十分に進まなければ、介護崩壊の危機はさらに深刻化する可能性があります。国全体でこの問題に取り組む必要があり、国民一人ひとりが介護問題への理解を深め、将来に備えることも重要です。
Q.
地域包括ケアシステムの推進とは具体的にどんなことを進めているのですか?
「地域包括ケアシステム」とは、高齢者が住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、**「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」**の5つの要素が一体的に提供される仕組みのことです。
具体的にどんなことを進めているか、それぞれの要素ごとに見ていきましょう。
1. 住まいと住まい方
高齢者が安心して暮らせる住環境を整備することが基本となります。
- 高齢者向け住宅の整備促進: バリアフリー住宅やサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)など、高齢者のニーズに合わせた多様な住まいの提供を支援します。
- 空き家・空き施設の活用: 地域にある空き家や空き店舗などを改修し、高齢者の共同住宅や地域交流スペースとして活用する取り組みを進めます。
- 住まいと介護サービスの連携: 住宅に訪問介護や訪問看護などが併設・連携することで、住み慣れた場所で安心して生活を継続できる環境を整備します。
2. 医療
かかりつけ医を中心とした、地域での医療提供体制を強化します。
- 在宅医療の推進: 医師や看護師が自宅を訪問して医療を提供する「訪問診療」や「訪問看護」を充実させ、病院だけでなく自宅でも質の高い医療が受けられるようにします。
- 多職種連携の強化: 医師、歯科医師、薬剤師、看護師、ケアマネジャーなど、さまざまな専門職が連携し、情報共有や合同研修を通じて、より質の高い医療・介護サービスを提供できるようにします。
- 病院と在宅の連携: 急性期の病院での治療後、スムーズに自宅や介護施設へ移行できるよう、病院と地域との連携を強化します。
3. 介護
必要な介護サービスが地域で受けられる体制を整備します。
- 質の高い介護サービスの提供: 訪問介護、通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)など、多様な介護サービスを充実させます。
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護の推進: 必要な時に必要なサービスが受けられるよう、24時間365日の訪問介護・看護サービスを提供できる事業所の拡大を図ります。
- 介護人材の確保・育成: 介護職の処遇改善、多様な人材の参入促進、研修制度の充実などにより、介護人材の確保と質の向上を進めます。
4. 予防
高齢者が要介護状態になることを予防し、健康寿命を延ばす取り組みを進めます。
- 介護予防事業の推進: 体操教室、健康相談、栄養改善指導など、地域住民が気軽に参加できる介護予防プログラムを充実させます。
- 地域での社会参加促進: 高齢者が地域活動やボランティア活動に参加する機会を増やし、社会とのつながりを維持することで、心身の健康を保ちます。
- 認知症予防・支援: 認知症サポーターの養成や「オレンジカフェ」などの交流の場を設け、認知症になっても安心して暮らせる地域づくりを進めます。
5. 生活支援
日常生活の困りごとを解決し、地域で安心して暮らせるよう支援します。
- 見守り活動の強化: 地域住民、ボランティア、民生委員などが連携して、高齢者の安否確認や異変の早期発見を行います。
- 配食サービスや買い物支援: 食事の準備が困難な高齢者や、買い物に行きにくい高齢者への支援を行います。
- 生活援助サービス: 掃除、洗濯、ゴミ出しなど、日常生活のちょっとした困りごとを支援するサービスを提供します。
- 地域住民による助け合い(互助)の促進: ご近所同士の助け合いや、NPO、ボランティア団体などによる地域に根ざした支援活動を促進します。
これらの取り組みは、単独で行われるのではなく、各市町村が中心となって、医療機関、介護サービス事業所、地域住民、ボランティア団体、NPOなどが連携し、地域の特性に合わせて進められています。最終的には、高齢者ができる限り住み慣れた地域で、尊厳を保ちながら安心して生活できる社会を目指しています。