日本学術会議の任命拒否

Q.日本学術会議の任命拒否はどのように行われたのですか?

日本学術会議の任命拒否問題は、2020年に発生した政治的・社会的に大きな議論を呼んだ出来事です。以下にその経緯と具体的な流れを整理して説明します。


■ 背景

日本学術会議は、科学者の代表機関として1949年に設立され、内閣総理大臣の所轄下にあります。会員は約210人で、任期は6年。3年ごとに半数が改選されます。
学術会議は、新会員候補を自ら選び、内閣総理大臣に推薦し、首相がそれを「形式的に任命する」ことが通例でした。


■ 問題となった経緯(2020年)

1. 推薦と任命のプロセス

  • 2020年10月1日、日本学術会議が推薦した105人のうち、菅義偉首相(当時)が6人の任命を拒否しました。

  • これは、戦後初めて推薦された会員の任命を首相が拒否したケースです。

2. 任命を拒否された6人

  • 任命を拒否されたのは、以下のような憲法学・政治学などの社会科学系の研究者で、過去に政府の政策(安保法制、共謀罪法案など)に批判的な意見を表明していた人物が含まれていました。

3. 政府の説明

  • 菅首相や内閣官房は、「総合的、俯瞰的観点から判断した」と述べ、明確な理由を示しませんでした。

  • 「推薦に対して任命権は内閣にある」という解釈を主張しました。


■ 批判と影響

1. 学問の自由への懸念

  • 多くの学者・大学・国際学術団体が「学問の自由を脅かす」として抗議。

  • 国会でも大きな議論となり、政府の対応をめぐって批判が集中しました。

2. 憲法との関係

  • 憲法23条は「学問の自由は、これを保障する」と規定しており、政府の行為がこの条文に反する可能性があるとして問題視されました。


■ 現在の状況(2025年時点までの動向)

  • その後も政府は6人の任命を見直すことはせず、学術会議の改革を推進するという名目で、運営形態の見直しなどを進めています。

  • 一方で、学問の自由や組織の独立性を守るべきという声は根強く、引き続き議論の対象となっています。


■ まとめ

ポイント 内容
任命拒否の年 2020年10月
拒否された人数 6人(推薦105人中)
拒否の理由(政府説明) 「総合的・俯瞰的観点」
主な問題点 学問の自由・政治的介入・手続きの透明性
世論・学界の反応 強い批判と抗議が全国・国際的に発生



Q.どのような国会答弁が行われたのですか?

日本学術会議の任命拒否問題に関して、2020年の国会では菅義偉首相(当時)と野党議員との間で活発な論戦が展開されました。以下に主な答弁内容を整理してご紹介します。


菅首相の答弁内容

  • 任命権の行使について菅首相は、憲法第15条第1項を引用し、「公務員の選定は国民固有の権利」と述べ、日本学術会議の会員についても必ず推薦通りに任命する義務はないとの見解を示しました。また、この考え方は内閣法制局の了解を得た政府としての一貫した立場であると説明しました。 日本共産党+3東京新聞デジタル+3朝日新聞+3

  • 任命拒否の理由について具体的な理由については、「人事に関することで答えを差し控える」として、詳細な説明を避けました。 東京新聞デジタル+2朝日新聞+2東京新聞デジタル+2

  • 多様性の確保について任命にあたり、「民間出身者や若手が少なく、出身や大学にも偏りが見られることを踏まえ、多様性が大事だという前提に私が任命権者として判断した」と述べ、組織の多様性を重視した判断であると主張しました。 東京新聞デジタル+1朝日新聞+1

  • 事前調整の有無について当初、菅首相は「推薦前の調整が働かず、結果として任命に至らなかった者が生じた」と述べましたが、後に「意見交換が行われたものの、任命の考え方の擦り合わせまでに至らなかった」と表現を修正しました。 衆議院+2東京新聞デジタル+2朝日新聞+2


野党の追及と批判

  • 推薦通りの任命義務について立憲民主党の枝野幸男代表は、学術会議法第7条第2項に基づき、推薦に基づいて内閣総理大臣が任命することが明記されており、任命拒否は明らかに違法であると追及しました。 東京新聞デジタル+1朝日新聞+1

  • 事前調整の実態について日本共産党の宮本徹議員は、菅首相の「推薦前の調整が働かなかった」との答弁に対し、過去の学術会議会長が事前調整を否定していることを挙げ、政府の主張に疑問を呈しました。 東京新聞デジタル+2衆議院+2朝日新聞+2

  • 法解釈の変更について日本共産党の志位和夫委員長は、政府が2018年に内閣法制局の了承を得て、推薦通りの任命義務はないとの見解をまとめたことを指摘し、これは過去の国会答弁と矛盾し、違憲・違法であると批判しました。 朝日新聞+2しぃドットグランプリ+2日本共産党+2


このように、国会では任命拒否の法的根拠や手続きの正当性、学問の自由への影響など、多岐にわたる論点で激しい議論が交わされました。



Q.日本学術会議の任命拒否は違法ですか?

日本学術会議の任命拒否が「違法かどうか」という点については、法的な明確な結論は出ていません。これは司法判断(裁判)で決まるべき問題でもありますが、現時点で最高裁判所などによる判決は出ていません。ただし、法律・憲法・過去の運用に照らして疑義が多く指摘されているため、違法性が強く疑われている事案と言えます。

以下に、違法性の有無に関する主な論点を整理します。


■ 日本学術会議法の条文とその解釈

? 学術会議法第7条第2項:

「日本学術会議の会員は、同会議の推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。」

  • 過去の政府答弁(1983年 参議院文教委員会など)では、「推薦された者は形式的に任命される」との解釈が一貫して示されてきました。

  • この「形式的任命」は、学問の自由や独立性を尊重する運用として確立されていました。

これに反する形で首相が任命を拒否した点について、「違法性があるのでは」との見解が多数派です。


■ 政府側の主張(任命拒否の正当性)

  • 菅内閣は、**憲法第15条(公務員の選定・罷免は国民固有の権利)**を根拠に、「任命は総理の裁量である」と主張しました。

  • また、2018年頃から法解釈を変更していたとされ、これに基づいて「推薦=必ず任命ではない」と説明しました。

→ ただしこの法解釈の変更は国会で明示的に議論されておらず、密室での変更・解釈変更の手続きの妥当性も疑問視されています。


■ 学者・法律家の意見

  • 多くの憲法学者や法学者は、任命拒否は違法または違憲の疑いが強いとしています。

  • 特に、憲法23条の「学問の自由」と、政治権力からの独立性という点で、深刻な侵害だとする声が主流です。


■ 裁判での争い

  • 任命を拒否された6名のうち5名が国を提訴しており、現在も係争中です(2024年?)。

  • 裁判では、任命権がどこまで裁量的であるか、推薦との関係、違法性の有無などが争点になっています。


■ 結論(現時点)

論点 状況
法律上の明文化 推薦に基づく任命が原則(学術会議法)
政府の行為 任命拒否(戦後初)
過去との整合性 政策変更されたが不透明
違法性の見解 多くの法学者が「違法または違憲の可能性が高い」と指摘
裁判所の判断 現在係争中、最終判断は未到達



Q.現在進行中の裁判の内容を教えてください。

日本学術会議の任命拒否問題に関連して、現在進行中の裁判は主に以下の2件です。


1. 行政文書の不開示処分取消訴訟および国家賠償請求訴訟

  • 原告任命拒否された6名の学者を含む計169名(弁護士や法学者など)

  • 被告日本国(政府)

  • 主な請求内容

    • 任命拒否の経緯や理由を記録した行政文書の不開示処分の取消

    • 不開示による精神的損害に対する国家賠償(原告1人あたり1万円)

  • 訴訟の背景

    • 政府は、任命拒否の理由や経緯を記録した行政文書が「存在しない」として開示を拒否。

    • しかし、2023年8月、総務省の情報公開・個人情報保護審査会が、一部の文書について不開示の決定を取り消すべきとする答申を出し、これに基づき一部の内部文書が開示された。

    • 開示された文書には、2020年6月に「任命者側」(政府)から学術会議事務局に伝達されたとされる文書や、内閣府が作成したとされる資料内に「2020年9月24日 外すべき者(副長官から)」と記載され、任命拒否された6名の氏名が書かれていたことが明らかになった。 CALL4+3弁護士JP|法律事務所や弁護士の相談予約・検索+3朝日新聞+3CALL4


2. 個人情報の不開示処分取消訴訟および国家賠償請求訴訟

  • 原告任命拒否された6名の学者

  • 被告日本国(政府)

  • 主な請求内容

    • 各処分庁が原告らについて保有している個人情報の開示

    • 不開示による精神的損害に対する国家賠償(原告1人あたり100万円)

  • 訴訟の背景

    • 政府は、任命拒否の理由や経緯を記録した個人情報が「存在しない」として開示を拒否。

    • 原告側は、任命拒否の理由が明らかにされないことが、学者としての名誉や人格権を侵害していると主張。

    • また、政府の説明責任を追及し、任命拒否の根拠・理由を明らかにすることを目的としている。 弁護士JP|法律事務所や弁護士の相談予約・検索


これらの訴訟は、学問の自由や政府の説明責任、情報公開制度の在り方など、民主主義の根幹に関わる重要な問題を提起しています。




Q.菅義偉元首相は任命拒否した理由を国民に明らかにする責任があるのではないですか?

はい、菅義偉元首相には、日本学術会議の任命拒否について、国民に理由を説明する責任があると考えるのが、憲法や民主主義の原則、行政の説明責任から見て妥当です。以下、その理由を詳しく説明します。


■ 1. 憲法的視点:学問の自由と説明責任

? 憲法第23条:「学問の自由は、これを保障する」

  • 日本学術会議は、政府から独立した立場で学術の発展を担う公的機関です。

  • 任命拒否により学問の自由が制約される場合、政府にはその判断が正当だったかを説明する責任があります。

? 憲法第15条:「公務員の選定及び罷免は国民固有の権利」

  • 学術会議の会員も国民の代表によって構成される性質を持つため、その選定過程の透明性は民主主義の原則上、不可欠です。


■ 2. 学術会議法の趣旨と従来の運用

  • 日本学術会議法では、「推薦に基づき内閣総理大臣が任命する」と明記されています。

  • 戦後70年あまりの間、「推薦=自動的任命」という一貫した運用がされてきました。

  • それを覆した以上、なぜ今それを変更したのか、説明責任があるのは明白です。


■ 3. 行政の基本原則:説明責任と透明性

  • 現代行政の基本原則には、次の2つが含まれます:

原則 内容
説明責任(アカウンタビリティ) 行政権が行使された理由を、対象者および国民に明らかにする責任
透明性 行政手続きや政策決定の過程を国民に開示すること

→ 菅首相は「人事のことだから説明できない」と答弁しましたが、公務に関連する判断であれば説明責任は免れません

■ 4. 国会での説明拒否は、国民軽視と受け止められた

  • 「総合的・俯瞰的観点」という抽象的な言葉に終始し、具体的な理由を一切明かさなかったことで、国会や国民の間で強い批判を受けました。

  • 特に学術会議会員の任命は、国の学術政策の根幹にかかわる問題であるため、首相の判断には極めて高い説明義務が求められます。


■ 5. 結論:説明責任を果たしていない=政治的・倫理的問題

  • 法律的に罰せられるかどうかは別として、

    • 学問の自由を守る観点

    • 行政の透明性

    • 国民の知る権利
      を考慮すると、菅元首相が説明責任を果たしていないことは重大な政治的・倫理的問題であると、多くの専門家・学者が指摘しています。


ご参考までに:

  • 任命拒否問題は、現職総理の人事権の行使というだけでなく、「政府が学問や批判的知識人を排除する構造」があるのではないかという、根源的な疑問を国民に突きつけました。




Q.学者や法学者による具体的な批判コメントを教えてください。

日本学術会議の任命拒否問題に対し、多くの学者や法学者が憲法や法制度の観点から強い批判を表明しています。以下に、主な意見をまとめます。


■ 木村草太教授(東京都立大学・憲法学)

木村教授は、憲法23条が保障する「学問の自由」には、個人の研究の自由だけでなく、学術機関の自律性も含まれると指摘しています。その上で、日本学術会議の推薦に基づく任命を拒否することは、学術機関の自律を侵害し、学問の自由を脅かす行為であると批判しています。 朝日新聞


■ 江藤祥平准教授(上智大学・憲法学)

江藤准教授は、憲法23条が制定された背景には、明治憲法時代の滝川事件や天皇機関説事件など、国家権力による学問の自由の侵害があったと述べています。そのため、研究者の人事は大学などの自主的な判断に基づいて行われるべきであり、今回の任命拒否はその原則に反すると批判しています。 朝日新聞


■ 岡田正則教授(早稲田大学・行政法)

任命を拒否された6名のうちの1人である岡田教授は、行政法の観点から、首相や官房長官が日本学術会議法の趣旨を理解せず、法律を無視した行為を行っていると批判しています。また、任命拒否の理由を明らかにしない政府の姿勢は、法治主義に反すると述べています。 毎日新聞


■ 松宮孝明教授(立命館大学・刑法学)

松宮教授も任命を拒否された6名のうちの1人であり、今回の任命拒否は違法であると指摘しています。また、任命拒否の背景には、政権の学術軽視の姿勢があると述べ、政府の対応を批判しています。 法学館憲法研究所


■ 憲法研究者有志の声明

複数の憲法研究者が連名で声明を発表し、任命拒否は日本学術会議法の解釈を誤っており、憲法23条の趣旨を十分に踏まえていないと批判しています。また、任命拒否の理由が明らかにされていないことは、学問の自由や立憲主義を脅かすと指摘しています。 朝日新聞


これらの意見から、学者や法学者の多くが、任命拒否は学問の自由や法治主義に反する行為であり、政府の対応は不当であると考えていることがわかります。また、任命拒否の理由が明らかにされていないことや、政府の説明責任の欠如も強く批判されています。



Q.国際的な反応を教えてください。

日本学術会議の任命拒否問題に対して、国際的にも多くの批判や懸念が表明されました。以下に、主な国際的な反応をまとめます。


国際人権団体の反応

Human Rights Now(HRN)

東京を拠点とする国際人権NGO「Human Rights Now」は、2020年10月6日に声明を発表し、菅首相による6名の任命拒否は国際人権法に違反すると強く非難しました。声明では、任命拒否が日本学術会議法の政府自身の解釈に反し、学問の自由や表現の自由を侵害していると指摘しています。また、政府に対し、6名の候補者を速やかに任命し、学問の自由を尊重するよう求めています。 認定NPO法人 ヒューマンライツ・ナウ Human Rights Now


海外メディアの報道

『Nature』誌

英国の科学誌『Nature』は、2020年10月8日に社説を掲載し、任命拒否問題を取り上げました。社説では、日本政府が学術会議の推薦を拒否したことは、学問の自由を脅かす行為であり、政府と学術界の関係に悪影響を及ぼすと懸念を示しています。また、政府に対し、学術界の独立性を尊重するよう求めています。

『Mainichi Japan』英語版

『毎日新聞』の英語版は、2020年10月2日に、菅首相が6名の学者の任命を拒否したことを報じました。記事では、政府が任命拒否の理由を明らかにしていないことや、拒否された学者の中には政府の政策に批判的な意見を持つ者が含まれていることを指摘しています。


? 国際学術団体の反応

日本文化人類学会(JASCA)

日本文化人類学会は、2020年10月7日に緊急声明を発表し、6名の任命拒否は日本学術会議の存在意義を脅かすものであり、多様な学術的立場に基づく政府への提言活動に支障をきたすと懸念を示しました。また、政府に対し、任命拒否の具体的な理由を明らかにし、6名の候補者を任命するよう求めています。


まとめ

日本学術会議の任命拒否問題は、国内外で学問の自由や表現の自由、学術機関の独立性に対する懸念を引き起こしました。国際人権団体や海外メディア、学術団体からは、政府の対応に対する批判や懸念の声が上がり、政府に対して透明性のある説明や適切な対応を求める動きが広がりました。