モルヒネの副作用は?

Q.モルヒネの副作用は?

モルヒネ(morphine)は強力なオピオイド鎮痛薬で、がん性疼痛や重度の急性・慢性疼痛に用いられます。ただし、中枢神経系に作用するため 多くの副作用 が生じる可能性があります。主な副作用を以下にまとめます。


主な副作用

分類 具体的な症状 説明・対策
中枢神経系 眠気、めまい、意識低下 使用初期に多いが、慣れることが多い。運転や危険作業は禁止。
呼吸抑制 呼吸が浅くなる、息苦しさ 最も重篤な副作用。過量投与時に特に注意。ナロキソンで拮抗可能。
消化器系 便秘、悪心・嘔吐 便秘はほぼ必発。下剤の併用が推奨される。嘔吐は制吐薬で対処。
循環器系 血圧低下、徐脈 起立性低血圧を起こすこともある。
皮膚 かゆみ、発汗 ヒスタミン遊離作用による。抗ヒスタミン薬で緩和可。
泌尿器系 尿閉 前立腺肥大などの患者で注意。
精神症状 幻覚、不安、せん妄 高齢者や高用量時にみられることがある。
依存性 身体的・精神的依存 医療管理下で適正使用すればリスクは低いが、乱用は危険。


?? 特に注意すべき点

  • 呼吸抑制は命に関わるため、用量調整やモニタリングが重要。

  • 便秘対策として、必ず緩下剤(センノシド、酸化マグネシウムなど)を併用することが推奨される。

  • 急な中止は禁物。離脱症状(不安、発汗、震えなど)が出ることがある。


もし「がん疼痛への使用」「手術後疼痛」「慢性痛治療」など、特定の状況での副作用や注意点を知りたい場合、それに合わせて詳しく説明できます。
どのケースについて知りたいですか?




Q.便秘対策をもっと詳しく知りたい。

とても良い質問です。
モルヒネ(および他のオピオイド薬)による 便秘(オピオイド誘発性便秘:OIC, opioid-induced constipation) は、最も頻度の高い副作用のひとつです。
以下に、原因 → 予防 → 治療 の流れで詳しく説明します。


なぜモルヒネで便秘が起こるのか?

モルヒネは腸の μ(ミュー)オピオイド受容体にも作用し、

  • 腸の蠕動運動を抑制する

  • 腸液の分泌を減らす

  • 括約筋を収縮させる
    などの影響で、腸内容物の移動が遅くなり、水分が吸収されすぎて硬い便になるためです。

そのため、普通の便秘薬だけでは効果が不十分なこともあります。


便秘対策:基本方針

@ 予防は「開始時から」

オピオイドを使い始めたら、同時に下剤を開始するのが原則です。
「様子を見てから」ではなく、予防的に使うことが大切です。


A 基本的な生活習慣

項目 内容
水分摂取 1日1.5?2Lを目安に(心・腎機能に問題がない場合)
食物繊維 野菜・果物・海藻・穀類など。
ただし便秘が強い場合は繊維だけ増やすと逆効果になることも。
軽い運動 散歩や体操などで腸の動きを刺激。
排便習慣 毎日決まった時間にトイレに行く。


B 薬物療法(下剤の使い分け)

第1選択:刺激性下剤+浸潤性下剤の併用

種類 代表薬 作用機序 特徴
刺激性下剤 センノシド、ビサコジル 大腸を刺激して蠕動を促進 即効性あり。習慣化に注意。
浸潤性(塩類)下剤 酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム 腸内に水分を引き込む 体質や腎機能によって用量調整が必要。


第2選択:オピオイド受容体拮抗薬(腸選択性)

オピオイドの「腸での作用」だけをブロックする薬です。
脳への鎮痛作用は保たれます。

薬剤 商品名 特徴
ナルデメジン スインプロイクR 1日1回内服。OIC治療薬の代表。
メチルナルトレキソン レルガR 注射剤。内服困難時や重症例に使用。


これらは通常の下剤で効果が不十分な場合に追加されます。


C それでも改善しないとき

  • 用量やオピオイドの種類を見直す(例えばフェンタニルやタペンタドールでは便秘が比較的少ない)

  • 消化器内科・緩和ケアチームに相談


まとめ

対策ステップ 内容
1. 予防 オピオイド開始と同時に下剤を始める
2. 習慣改善 水分・運動・排便リズム
3. 下剤併用 刺激性+浸潤性下剤を基本に、必要なら腸選択的拮抗薬
4. 専門医相談 難治例は薬の種類や量を調整

希望があれば、
「具体的な下剤の使い方(用量・タイミング)」
「高齢者や腎機能低下時の注意点」
「がん疼痛治療中の便秘対策プラン」
など、より実践的な形でも説明できます。
どのケースについて詳しく知りたいですか?



Q.具体的な下剤の使い方について詳しく知りたい。

とても良いステップです。
モルヒネなどのオピオイドを使う際は、鎮痛薬と同時に下剤を定期処方することが基本です。
ここでは、臨床現場(緩和ケア・がん疼痛治療など)でよく用いられる「具体的な下剤の使い方」を、わかりやすく整理します。


オピオイドによる便秘への下剤の基本構成

通常は 2剤併用 が基本です:

  1. 刺激性下剤(センノシドなど)

  2. 浸潤性(塩類)下剤(酸化マグネシウムなど)

これに加えて、効果不十分なら
3. 腸管選択的オピオイド受容体拮抗薬(スインプロイクR など)
を追加します。


@ 刺激性下剤(大腸刺激タイプ)

薬剤名 一般名(商品名) 通常量(成人) 特徴と使い方
センノシド センノシド錠(プルゼニドR など) 12?24mg(1?2錠)を就寝前 大腸を刺激して蠕動促進。
翌朝に排便効果。
眠前投与が基本。
ビサコジル ラキソベロンR(液)
テレミンソフトR(坐薬)
液:10?20滴(0.5?1mL)/日
坐薬:1個/日
即効性あり。内服または坐薬。
頑固な便秘や排便促進目的で追加可。


コツ:

  • 「毎日」より「1?2日に1回」でもよい(腸の反応を見ながら)。

  • 効果が強すぎる場合は量を半分に。

  • 長期連用してもオピオイド便秘では問題ないことが多い(通常の慢性便秘と異なる)。


A 浸潤性(塩類)下剤(腸内の水分を増やすタイプ)

薬剤名 一般名(商品名) 通常量(成人) 特徴
酸化マグネシウム マグミットR、酸化マグネシウム錠 1日1?2g(分2?3) 水を腸に引き込み、便を柔らかくする。
腎機能低下患者では高マグネシウム血症に注意。
ラクツロース モニラックR シロップ 15?30mL/日 腸内で有機酸を作り、pHを下げて蠕動を促す。甘味が強い。
ポリエチレングリコール(PEG) モビコールR 1包を水に溶かして服用 比較的穏やかに作用。脱水・電解質異常が起きにくい。


コツ:

  • モルヒネ開始と同時に、酸化マグネシウムを定期的に服用。

  • 排便が2日以上ないときは、センノシドを追加・増量


?? B 効果不十分な場合の追加薬(第2段階)

?? ナルデメジン(スインプロイクR)

  • 用量:0.2 mg 1日1回(朝食前または就寝前)

  • 特徴:腸管のオピオイド受容体を拮抗し、便秘を改善。

  • 注意点:腹痛・下痢が出やすいが、通常は軽度。

  • 鎮痛効果は保たれる(脳内にはほとんど移行しない)。

?? メチルナルトレキソン(レルガR)

  • 用量:体重別に皮下注射(緩和ケア領域などで使用)。

  • 特徴:内服困難・重症例に用いる。


実際の組み合わせ例(緩和ケアでの定番)

状況 下剤処方例
モルヒネ開始時(予防) 酸化マグネシウム 1g/日(分2)+ センノシド 12mg 就寝前
2日以上排便なし センノシド 24mg に増量 または ラキソベロン 10滴追加
それでも出ない スインプロイクR 0.2mg 追加
硬便で排便困難 グリセリン浣腸 1回(頓用)を指示

注意点

  • 腎機能低下(eGFR < 30) → 酸化マグネシウムは減量または中止。

  • 腹痛・下痢が強い場合 → 刺激性下剤を減量または休薬。

  • 定期的に効果確認 → 2?3日に1回の排便が目標。


まとめ

ステップ 内容
1?? 予防的に酸化マグネシウム+センノシド開始
2?? 排便がない場合はセンノシドを増量またはラキソベロン追加
3?? 効果が乏しい場合はスインプロイクR追加
4?? 腎機能や腹部症状を見ながら調整



Q.酸化マグネシウムは毎日飲んでも大丈夫ですか?

とても良い質問です。
酸化マグネシウム(MgO) は、モルヒネなどのオピオイドによる便秘対策でよく使われる「塩類下剤」です。
結論から言うと、多くの人は毎日飲んでも大丈夫ですが、いくつかの**注意点(特に腎機能)**があります。


? 毎日服用してもよい理由

  • 酸化マグネシウムは**刺激性下剤ではなく、「水分を腸に引き込むタイプ」**の下剤です。

  • 腸を無理に動かすタイプではないため、習慣性・依存性はありません。

  • そのため、長期・毎日服用しても基本的に問題ありません。

→ 実際に、がん疼痛治療や慢性疼痛でオピオイドを長期服用している方では、
 酸化マグネシウムを毎日定期服用するのが標準的です。


?? 注意が必要な場合

@ 腎機能が低下している場合

酸化マグネシウムは腸で吸収されにくい薬ですが、
少量が体内に吸収されて腎臓から排泄されます。
腎機能が悪いと体内にマグネシウムが溜まり、
**高マグネシウム血症(高Mg血症)**を起こすことがあります。

? 主な症状

  • 倦怠感、吐き気

  • 筋力低下

  • 脈が遅くなる(徐脈)

  • 意識がぼんやりする(重症例)

? 対応

  • 腎機能が低下している人(eGFR < 45 目安)は、減量または他の下剤に変更

  • 定期的に**血中マグネシウム値や腎機能(Cr, eGFR)**をチェック。


A 下痢が続く場合

  • 効果が強すぎる場合は用量を減らす。

  • 1回あたりの量を少なくして**分けて服用(例:朝・夕)**するのも有効。

  • 他の下剤(刺激性など)と併用している場合は、そちらの調整も必要。


一般的な使い方の目安

状況 服用量の目安(成人) 備考
便秘予防 1日 500?1000mg(分2?3) モルヒネ開始時から予防的に使用
便秘が強い 1日 1500mgまで 効果に応じて調整。下痢が出たら減量。
腎機能低下 1日 250?500mgまで、または他剤に変更 定期的に血液検査が必要

服用タイミング:

  • 食後または就寝前(胃への刺激を避けるため)

  • 水分と一緒に飲むと効果的


まとめ

ポイント 内容
? 毎日服用してOK 習慣性がないため長期使用可能
?? 腎機能が悪いと注意 高マグネシウム血症のリスクあり
水分をしっかり取る 効果を高め、副作用を防ぐ
効果を見ながら量を調整 下痢が出たら減量・中止も検討