高速増殖炉の冷却材の選択肢について

Q.高速増殖炉の冷却材として溶融ナトリウムが使用されますが、溶融ナトリウム以外の冷却材は考えられない  のですか?

高速増殖炉(FBR)の冷却材として溶融ナトリウムが主に使用される理由は、その特性がFBRの運転条件に非常に適しているためです。しかし、溶融ナトリウム以外の冷却材も研究されており、いくつかの代替冷却材が提案されています。それぞれの冷却材にはメリットと課題があります。

1. 溶融ナトリウムが選ばれる理由

  • 高い熱伝導率: ナトリウムは熱を効率的に伝えるため、炉心の熱を効果的に除去できます。

  • 低い中性子吸収断面積: 中性子を吸収しにくいため、増殖反応に悪影響を与えません。

  • 高い融点と低い沸点: 液体の温度範囲が広く、熱的安定性があります。

しかし、溶融ナトリウムには以下の課題もあります。

  • 化学的な反応性: 空気や水と激しく反応するため、安全性の確保が難しい。

  • 透明性の欠如: メンテナンスや内部の検査が難しい。

2. 溶融ナトリウム以外の候補

以下に、溶融ナトリウムの代替冷却材として考えられている物質と、それぞれの特徴を示します。

(1) 鉛や鉛-ビスマス合金

  • メリット:
    ・中性子吸収断面積が小さく、高速中性子炉に適している。
    ・空気や水との反応性がナトリウムより低い。
    ・放射化生成物が少ない。

  • 課題:
    高密度のため、配管や構造物に大きな負荷がかかる。
    融点が高い鉛の場合、固化を防ぐための保温が必要。

    腐食性が強いため、特殊な材料が必要。

(2) ガス冷却材(ヘリウムなどの不活性ガス)

  • メリット:
    化学的に不活性で、安全性が高い。
    配管や装置が汚染されにくい。
    高温運転が可能で、発電効率向上のポテンシャルがある。

  • 課題:
    熱伝導率が低く、冷却効率が低い。
    高圧が必要で、構造設計が複雑化する。

(3) 溶融塩(フッ化塩、塩化塩)

  • メリット:
    高い熱容量を持ち、熱除去効率が高い。
    比較的化学的安定性が高い。
    高温運転が可能。

  • 課題:
    放射線による分解や腐食が発生する可能性。
    塩が固化すると、システムが停止するリスクがある。

(4)

  • メリット:
    簡単に入手可能で、広く使われている冷却材。
    高い熱伝導率と熱容量。

  • 課題:
    中性子吸収が大きいため、高速中性子炉には不適。
    高圧が必要で、構造が複雑になる。

3. 選択肢の制約

冷却材の選択は、以下の要件を満たす必要があります。

  • 中性子特性: 高速中性子炉で効率的な燃料増殖を実現する。

  • 熱伝導性: 炉心からの熱を効果的に除去できる。

  • 安全性: 環境や運転におけるリスクを最小限に抑える。

  • 経済性: 商業運転を考慮したコスト効率。

4. まとめ

溶融ナトリウムは現在でもFBRにおける最適な冷却材として位置づけられていますが、鉛-ビスマス合金やガス冷却材、溶融塩などの代替冷却材も研究されています。それぞれ特性が異なるため、将来的には用途や設計に応じた冷却材が選択される可能性があります。



Q.「高速」増殖炉と言われますが、あえて「高速」を付けるには意味があるのですか?「高速」でない増殖炉  もあるのですか?

「高速増殖炉」と呼ばれる理由は、「高速」という言葉が炉内での中性子のエネルギー特性を表しているためです。
また、「高速」でない増殖炉、つまり「熱中性子増殖炉」も理論上は存在しますが、実用化には至っていません。その違いを以下に詳しく説明します。


1. 「高速」の意味

「高速増殖炉」の「高速」は、中性子のエネルギーが高い(高速中性子)ことを指します。具体的には、高速中性子はエネルギーが1 MeV以上の範囲にあり、以下の特性を持っています:

  • 減速されていない中性子を利用: 冷却材(ナトリウムなど)が中性子をほとんど減速しないため、高速中性子がそのまま核反応に使われます。

  • 燃料効率の向上: 高速中性子はウラン238やプルトニウム240のような非裂変性核種を効率的に核分裂させるため、燃料利用率が大幅に向上します。


2. 「高速でない増殖炉」について

「高速でない増殖炉」、つまり「熱中性子増殖炉」の概念も存在します。これには中性子を減速させ、エネルギーを低下させた「熱中性子」を利用します。一般的な軽水炉や重水炉が熱中性子炉の一種です。

  • 理論上の増殖の可能性:
    熱中性子でも燃料増殖を行うことは可能ですが、高速中性子と比べて増殖効率が低く、増殖比(新たに生み出される核燃料の量 / 消費される核燃料の量)が1を超える設計は非常に難しいです。
    熱中性子の利用では、ウラン238をプルトニウム239に変換する過程が効率的に進まないため、増殖反応を持続させることが困難です。


3. なぜ高速中性子が有利なのか

高速中性子を使うことで、以下のメリットがあります:

  • 増殖比の向上:
    高速中性子はウラン238をプルトニウム239に変換する確率が高いため、燃料増殖が効率的です。

  • 燃料の多様性:
    トリウムや劣化ウランのような核燃料資源を活用できる範囲が広がります。

  • 廃棄物の処理能力:
    高速中性子は長寿命の核廃棄物(マイナーアクチニド)の核分裂を促進するため、廃棄物量の削減にも寄与します。


4. 現実的な違い

現在、商業用に実用化されている炉のほとんどは熱中性子炉(軽水炉)です。以下は、熱中性子炉と高速増殖炉の比較です:

特徴 熱中性子炉(軽水炉など) 高速増殖炉
中性子のエネルギー 減速された熱中性子 減速されていない高速中性子
燃料利用効率 低い 高い
増殖比 通常1未満 1以上が可能
核燃料資源の利用範囲 限定的 広範
廃棄物処理性能 長寿命廃棄物が多い 長寿命廃棄物を減らせる


5. 「高速」を付ける理由

  • 他の増殖炉と区別するために、「高速」という特性を明示しています。

  • 増殖炉の中で主流となるのは高速中性子を利用する設計であるため、「高速」という言葉が強調されています。


6. 結論

「高速」を付ける理由は、中性子のエネルギーが高速であることが増殖炉の特性や性能に大きく関係しているためです。理論的には「高速でない増殖炉」も考えられますが、現時点で実現可能な増殖炉としては高速中性子を利用する設計が最も効率的で現実的な選択肢となっています。